奈良盆地のポーリング試料中の大阪層群について
松岡数充
(昭和58年4月25日受理)
Notes on the core samples of the Osaka Group recovered from the Nara Basin
Kazumi MATSUOKA
Abstract
Since last twenty years, we have clarified the stratigraphy, paleontology and neo‑
tectnics of the Osaka Group in the Saho and Nishinara Hills and the eastern part of the Nara Basin. On the contrary, there is little information about correlative strata
deposited in the Nara Basin.
Several core samples were recovered from these strata at the middle‑western area of this basin by Kinki‑Noseikyoku. Such plant micro fossils as dinoflagellate cysts, Chloro‑
phyceae, spores, pollen and acritarchs were obtained from these materials. Based on stratigraphical and paleontological evidences obtained from the core samples, the follo‑
wings are newly added.
i) The occurrence of marine dinoflagellate cysts indicates that the strata mainly com‑
posed of sand and mud intercalate three marine beds at least.
ii) Such characteristic dinoflagellate cyst assemblage as abundance of Polysphaeridium zoharyi (ROSSIGNOL) and presence of Hystrichokolpoma rigaudiae DEFLANDRE & COOKSON suggests that the lower marine bed (‑75.0〜80.5m) is assigned to Ma‑1 Bed distributed
on the Saho‑Nishinara Hills.
iii) The middle and upper marine beds (‑42.3〜45.2m and ‑25.0〜28.3m respectively) are tentatively correlative with Ma‑2 and Ma‑3 Beds of the Osaka Group.
iv) The lower part of these strata (from ‑75.0 to ‑188m) is probably assigned to the lower parts of the Osaka Group.
1.はじめに
奈良盆地と京都盆地を境する佐保丘陵・西奈良丘陵には,大阪層群及びそれを不整合で覆う 新期堆積物が分布する.この地域の大阪層群は,佐保累層(糸魚川・坂本・粉川, 1953)や西 大寺累層・富雄累層(中川, 1967)と呼ばれ,層序学的研究をはじめ,古生物学的研究(粉川,
*長崎大学教養部地学教室
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1954;西川1968;野口(鴫倉編), 1971;嶋倉1971;Matsuoka, 1976;Minaki,Matsuoka
& Kokawa, 1981)が行われ,最近ではネオテクトニクスの観点からも研究が進められてい る(佐野, 1980M.S.).
大阪層群は,これまで海成粘土層と火山灰層を有力な鍵層として,各分布域で詳細な層序が 組み立てられ,また各堆積盆地間の対比も行われてきた.そして,それらの成果に基づいて堆 積盆地の発生,発展,消滅など,すなわち構造史的研究が推進されてきた.
奈良盆地の大阪層群については,その周辺丘陵に露出する地層を基に,層序が組み立てられ てきたが,盆地低部の地表下に分布するであろう大阪層群に関してはほとんど資料がない状態 にある.これまでも盆地低部で100mを越すボーリングが行なわれているが,その試料に層序 学的あるいは古生物学的検討が加えられる槻会はほとんどなかった(例えば経済企画庁, 19 73).この度,近畿農政局によって川西村吐田で行われたボーリング調査は,深さ188mに及 んだが,基盤岩に到達していない.地層は砂層を主とし,随所にシルト層・粘土層をはさんで いる半固結堆積物で,岩相その他から大阪層群とされた(近畿農政局, 1977).このコア‑か
ら採取された試料について,花粉・胞子や渦鞭毛藻などの微化石分析を行った結果,少くとも 3枚の海成粘土層の存在が明らかになった.本報告では,微化石群集の特徴に基づいて,丘陵 の大阪層群中の海成層との対比について議論する.
京都大学理学部石田志朗助教授は,柱状試料から分析用試料を分取され,筆者に供与された.
また奈良教育大学西田史朗教授は,奈良盆地及び丘陵の地質について議論いただいた.近幾農 政局からは試料を提供していただいた.記して謝意を表する.
2.佐保丘陵・西奈良丘陵の大阪層群に含まれる海成層
粉川(1954)は,佐保丘陵の大阪層群に,海岸性植物化石が多産することを報告し,この地 層群が海浜性の堆積物であると推察した.一方,西奈良丘陵では,中川(1967)が確実な2枚 の海成層の存在を報告した.彼は,この地域の大阪層群を下位の富雄累層と上位の西大寺累層 に区分した後, 2枚の海成層を西大寺累層のものとし,下位の海成層はピンクtuffとの層序関 係から,模式地の第一海成粘土層(Ma‑1)と対比され得るが,上位の海成層は,模式地のい
ずれの海成層に対比され得るのかを確定するのは困難であるとした. Matsuoka (1976)は, 酉奈良丘陵東部・平城ニュータウン地域に分布する第一海成粘土層の植物性徴化石群集につい て研究し,この海成層を花粉化石群集の特徴から,模式地のMa‑1に対比するのが妥当であ ること,さらに渦鞭毛藻群集は, Hemicystodinium zoharyi (Rossignol)が優占することで 特徴づけられると報告した.
第二海成粘土層について,中川(横山編, 1978)は, Ma‑2に対比することが困難である とし,地形・層相などの資料に基づいて,この海成層をMa‑に対比可能である点を示唆し た.そしてそれをもとに,奈良盆地ではMa‑2層準には砂・礫・淡水成粘土が堆積し, Ma‑3 層準以上は地層が欠除していると考えた.佐野(1980, M.S.)も構造地質学的観点から,節 二海成粘土層は,大阪層群上部に属する可能性を示したMINAKI, MATSUOKA & KOKAWA
(1981)は,植物化石群集の特微から,この海成層はメタセコイヤ植物群消滅以降の地層であ ると推定した.
以上の資料を総合すると,奈良盆地及びその周辺にはMa‑1層の形成をもたらした海侵が
及んだ後,かなりの時間間隙(少なくともMa‑2‑Ma‑3層の形成に要する時間)を経て,
第二海成粘土層が形成されたと考えられていることになる.
3.試料と分析方法
ボーリングは,奈良盆地中央部の川西村吐田で行われた.この付近では,南西流する佐保川,
いかるが
北西流する初瀬川及び寺川が合流して大和川になり,完新統の斑鳩層及び更新統の山の辺層が, 比較的厚く堆積していると推定される(松岡・西乱1980).柱状試料は,上部の約10mを除 き,固結の進んだ砂・シルト・粘土
の不規則な互層から構成され,稀に 火山灰を挟んでいる.微化石分析に は,次の9試料が供された(第2図).
深度岩相
‑ 5.05‑ 5.10m軟質灰色砂質 粘土
‑ 6‑06‑ 6.70^軟質茶褐色泥
‑ 27‑70‑ 27.90m暗青灰色粘土
‑ 43.33‑ 44.60w暗灰色粘土
‑ 76.00‑ 76.20m暗青灰色粘土
‑ 84.73‑84.86m青灰色シルト吐 質粘土
‑113.1 ‑113.20m暗茶褐色粘土 (植物質)
‑114.00‑114.10m青灰色シルト 質津占土
‑176.51‑176.80m青灰色粘土 分析方法の概要は次の通りであ
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下
第1図柱状試料採集地点
この図は国土地理院発行25000分の1 「大和郡山図幅」
る.適量の試料をIO^KOH溶液にの一部である。
一昼夜浸して泥化した後,混酸処理・フッ化水素酸処理・アセトリシス処理を行い,サフラニ ンで染色し,グリセリンゼリーで封入した.
すべての試料から,花粉・胞子が検出された.渦鞭毛藻やその他の藻類もいくつかの試料か ら検出された.花粉ダイヤグラムを表わすについては,樹木花粉(AP)について約200個体 と,それらを同定する問に出現した非樹木花粉(NAP)の個体とを合せて基数とし,百分率 を求めた.なお草本花粉の極めて多い試料,例えば6.60‑6.70mや‑ !.73‑84.86mの試料 では, APは200個以下であった.最上部の‑5.05‑5‑10mの試料には, AP, NAP, FS (シダ類胞子)ともに極めて少量しか含まれておらず,花粉ダイヤグラムを得るには到らなか
Eia
4.植物性徴化石群集について i) ‑5.05‑5.10mの試料
植物の表皮などの破片が多く, AP‑NAPは極めて少ない. Plnus, Sciadopitys, Quercus (Cyclobalanopsis)が少量産した.
ii) ‑6.1 '6.70サwの試料
AP・NAP・FSはほぼ同率で産している. Gramineae, Cyperaceaeなど水湿地性草本
植物が優占する. Abies, Pinus (Diploxylonを主とする), Alnus, Ulmus‑Zelkovaがこれに
次ぎCeltis‑Aphanantheも産する.
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iii) ‑27.70‑27.90wの試料
Haploxylonを含むPinusが極めて多産し,全体の80%近くを占める.ついでAbies, Cypera‑
ceaeが多い.低率ではあるが, Picea, Tsuga, Sciadopitys, Juglans‑Pterocarya, Alnus, Fagus, Carpinus, Ulmus‑Zelkova, Tiliaなども産する.渦鞭毛藻が全花粉・胞子に対して数%の頻 度で産するSpiniferites mirabils (Rossignol)とTuberculodinium vancampoae (Rossignol) が主であるが,他にOperculodinium israelianum (Rossignol) , Lingulodinium machaerophorum (Deflandre & Cookson), Spinifentes
spp. indet.が産している.
iv) ‑43.33‑43.60mの試料
‑27.70‑‑27.90mの試料と同様 Haploxylonを含んだPmusが優勢で, 仝花粉の90%近くを占める.その他 Abies, Alnusが産する.なお低率で はあるが, Tsuga,T‑C‑T*,Carpmus, Fagus, Quercus, Ulmus ‑ Zelkovaの 他Liguidambarも産している.渦鞭 毛藻は,全花粉・胞子量の1%以下 であるが検出されたSpimfentes
mirabilis (Rossignol) , S. bulloideus
(Deflandre & Cookson)など看 主としている.
V) ‑76.00‑76.20mの試料 Pinus, Ulmus‑Zelkovaが多産する 他, Quercus, Liquidambar, Abies, AlnusなどのAP, Artemisia, Cypera‑
ceae, GramineaeなどのNAPが 産する.低率ではあるが, Tsuga,
Sciadopitys, T‑C‑T, Corylus,Fagus,
Lagerstroemiaが検出された.渦鞭 毛藻は多産し,全花粉・胞子量の10 数%に達する.中でもPolysphaen‑
dium zoharyi (Rossignol)が優占
L Operculodwium israelianum (Rossignol) , Spiniferites mirabilis (Rossignol), S. bulloideus (De‑
FLANDRE & COOKSON)がこれに次 ぐHystrichokolpoma rigaudiae Deflandre & Cooksonは低率で 産している.録音類のPediastrum simplex (Meyen),アクリタ‑チの
Sample
. 5.05‑5.10m 6.60‑6.70m
27.70‑27.90m
43.33‑43.60m
76.00‑76.20m
A 84.73‑84.86m
113.00‑113.20m I 114.00‑114.10m
176.51‑176.80m
第2図柱状EEl及び微化石分析用試料の採取深度を 示す。柱状図は近畿農政局(1977)の資料を簡 略化したものである。
* Taxaceae‑Taxodiaceae‑Cupressaceae
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5 . 0 5 ‑ 5 . O m
6 .6 0 ‑ 6 .7 0 m
2 7 . 7 0 ‑ 2 7 .9 0 m
4 3 .3 3 ‑ 5 3 . 6 0 m
7 6 . 0 0 ‑ 7 6 . 2 0 1 ¶
8 4 . 7 3 ‑ 8 4 .8 6 m
1 1 3 . 0 0 ‑ 3 . 2 0 m
日 4 . 0 0 一日 4 . ー0 m
ー7 6 . 5 ト 1 7 6 . 8 0 m
‑A ‑ X
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●
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●
●
栄 i I ● 10% Less than l%
第3図花粉ダイヤグラム. Sampleは深度で表わされているo
28
第1表
Dinoflagellate cyst Spiniferttes bulloidesus
松岡数充
検出された渦鞭毛藻のシスト
27.70‑27.90*汀43.33‑43.60rn 76.00‑76.20m
Spiniferites mirabihs Spmiferites spp. indet.
Operculodinium i sraeei anum Lingulodinium machaerophorum
Tuberculodini um vancampoae
+ + + + 0
‑ +
十 + +
Polysphaeridium zoharyt * Hystrichokolpoma rigaudiae*
* :この種が日本周辺域に生息しないことを示す。
+ + +
+
9 + +
Cymahosphaera sp.なども検出された.
vi) ‑84.73‑84.86wの試料
Abiesが優占L Pinus, Piceaが次ぐ. NAPではCyperaceae, Typhaなどの水湿地性植 物が多産している.緑藻類Zygnemataceaeの休眠胞子も検出された.
vii) ‑113.0‑113.20mの試料
植物破片を多量に含む泥炭質の試料. Alnusが約65%を占め,やや大型のTaxodiaceae, Abies, Tsuga, Picea, Ilexがこれに次ぐ. Quercus, Ulmus‑Zelkova, Ligustrumも産する.
NAPではCyperaceaeがやや多い.
viii) ‑114.OM14.10mの試料
花粉群集組成は, ‑113.0‑113‑20mの試料のそれに類似するAlnusが優占L Pinus, Abies,T‑C‑Tが多い. Taxodiaceaeは結径がやや大きくNAPは極めて低率である.
ix) ‑176.51‑176.80mの試料
Pmusが多産し, Ulmus‑Zelkovaも多い. Abies, Picea, Tsuga, Sciadopitys, T‑C‑T, Quercus, Fagusがこれらに次ぐ.低率ながら, Juglans‑Pterocarya, Alnus, Loniceraの他Liquidambar が産するNAPは少い. LanxもしくはPseudotsuga類似の花粉も認められたが,同定が 不確実なため,ダイヤグラムには表示しなかった.
5.考察
分析された試料は,層序的にも不連続でかつ数も少い.しかしその中の花粉群集組成及び渦 鞭毛藻群集組成は,このコアー中の海成層と他地域の海成層を対比するための情報を,少なか
らず提供している.
i) 3枚の海成層の対比について
‑76.00‑76.20mの試料に産した渦鞭毛藻群集は, Polysphaeridium zoharyi (Rossignol)*
が優占することとHystrichokolpoma rigaudiae Deflandre & Cooksonが伴われることで示 されるように,特徴的である.この群集組成は,佐保・西奈艮丘陵に分布する第‑海成粘土層 の渦鞭毛藻群集組成(Matsuoka, 1976)と一致する.また花粉群集でも, Ulmus‑Zelkovaが 多産し, Fagus, Quercusが伴われ, LiquidambarやLagersiroemiaを混える点は,荊述の 第一海成粘土層のそれとはぼ一致する.さらに花粉群集については,臼井(1970)により示さ れた千里山地域の大阪層群下部におけるD帯‑Quercus, Fagusが安定して産し, Liquidambar やLagerstroemiaが随伴し,とくにMa‑ 1層ではUlmus‑ZelkovaやCf. Zelkovaカ増加し優
* Matsuoka (1976)は,本種をHemicystodinium zoharyi (Rossignol)として記載したが,その後
BuJAk et al. (1980)によってPolysphaeridium属に改属された.
占する‑の特徴にはぼ一致する.したがって,本試料を含む‑75.0‑80.5mの海成層は,佐保
・西奈良丘陵における第一海成粘土層と同一層準であると考えられ,さらに模式地における Ma‑1層に対比され得る.
‑43.33‑43.60mの試料には,特徴になり得る渦鞭毛藻は含まれていない.花粉群集は, Haploxylonを含むPinusの際立った多産と,落葉広葉樹種の低率な産出で特徴づけられる, 西奈良丘陵の第二海成粘土層には, Fagus, Pinusの豊産と落葉型・常緑型を含むQuercus及び Ulmus+Zelkovaの多産で特徴づけられる花粉群集が知られている(MINAKI, MATSUOKA &
Kokawa, 1981).この花粉群集は,本試料のものと大きく異なる.一方,千里山地域のMa‑2 層ではPinusが優占し, Fagus, Quercus, Ulmus‑Zelkovaが伴われる群集がある(田井, 1970).また枚方丘陵やOD‑1コアのMa‑2層では, Finnsが優占し,他の広葉樹種の産出 が低率になる群集も知られている(田井, 1964, 1966) ,堺港のボーリングコア中のMa‑2 層の花粉群集はT‑C‑T, Fagus, Quercus, Alnus, UImus+Zelkova, Pinusが多産L Picea を混え(那須, 1970) ,上述のMa‑2層の群集とやや異なった様相を示している.奈良盆地 の試料はPinusが優占する点及び出現した広葉樹種のタクサからみれば,千里山地域や OD‑1コアのMa‑2層の花粉群集に類似する.本試料を含む‑42.3‑45.2mの海成粘土層は, 層序関係も考慮に入れると,西奈良丘陵の第二海成粘土層よりもMa‑2層に対比されると考
えられる.
‑27.70‑27.90mの海成層の渦鞭藻群集にはSpiniferites spp.の他,暖海内湾性の Tuberculodinium vancampoae (Rossignol)が含まれている.本種の出現は,一つの特徴となり 得るが,西奈良丘陵の第二海成粘土層には知られていない.しかし,今のところ他地域の海成 層中の渦鞭毛藻群集は明らかになっていないので,この化石を用いて対比を行うことができな
い. Ma‑2層準以降Haploxylonを含むPmusが優占する花粉群集は,千里山地域のMa‑ 3 層をはじめ,いくつかの海成層に知られている(田井, 1966). OD‑1コアのMa‑3層では Pinusが優占するもHaploxylonを含む報告はない(田井, 1970).深草地域や枚方丘陵の Ma‑3層(田井, 1963, 1964)や堺港のMa‑3層(那須, 1970)ではPinusの他にT‑C‑T, Fagus, Quercusが多産している.奈良盆地試料の花粉群集は,少くとも西奈良丘陵の第二海 成粘土層のそれと異なるとはいえるが,他地域でのいずれの海成層と対比できるかはいえない.
やや類似した花粉群集が,千里山地域のMa‑3層中に認められることを指摘しておく.
植物性微化石分析の結果から75.0‑80.5mの海成層は, Ma‑1層に対比することがで きるが,他の2枚の海成層については,西奈良丘陵に分布する第二海成粘土層と異るといえる 以外, Ma‑2層やMa‑3層と対比し得る積極的根拠に乏しい.しかし柱状図によると,この 層準に礫層は発達しておらず,砂・シルト・粘土の互層から成り,整合であるらしいこと,普 た‑ )‑26.20mに淡紫灰色の火山灰層が挟まれており,これがアズキ火山灰層である可 能性も指摘されている(近畿農政局, 1977)ことから, ‑25.0‑28.3mの海成層はMa‑3層 に対比される可能性がある.本報では,これら3枚の海成層を,下櫨よりそれぞれ, Ma‑1層, Ma‑2層, Ma‑3層に対比しておく.
ii) Ma‑1層より下位の試料について
‑ :.73‑84.86m, ‑113.00‑113.20m, ‑114.00‑114.10m,及び‑176.51‑176.80mの 試料がこれにあたる.これらにはLiqwdambarが少量産する以外,いわゆるNyssa‑Carya‑
Liquidambar花粉群を構成するタクサは認められないNyssa‑ Carya‑Liquidambar花粉群
集は,中〜後期中新世の室生層群や鮮新世の古琵琶湖層群最下部にのみ知られている(嶋倉,
1963, 1964),したがって,この試料は,上述の地層群よりも新しくなる.花粉群集からみる
30
松岡数充
と,最下位の‑176.51‑176.80mの試料には, Ulmus‑Zelkova, Pinusが豊産し, Liquidam‑
barが混在する事から,田井(1970)の花粉帯のうちB帯に相当すると考えられる.この上位 の試料には,特微となるべきタクサや群集組成が認められず,田井(1970)のいずれの花粉帯 に対応させ得るかが不明である.しかし,層序関係から,少くとも大阪層群の最下部から下部 の一部に対応することは確実である.
iii) ‑6.60‑6.70wの試料について
本試料は,これ以探の試料にくらべると格段に軟らかいこと,炭化が進まない木片を含むこ と,またNAPのArtemisia, Cramineae, Cyperacaeと単条溝型胞子の多産から,大阪層群 より新しい堆積物である.奈良盆地表層部の堆積物の花粉・胞子群集としては,これまで更新 世後期の山の辺層と完新世後期の現場層のものが知られている(松岡・西田, 1980).前者は Pinus {Haploxylon型が主体) , Picea, Tsuga, Betula, Quercus, Alnusの豊産で,後者は CyclobalanopsisとPinusの豊産で特徴づけられる.これらには本試料のようにPinus (Diplo‑
xylon型) , Ulmus‑Zelkova, Celtis‑Aphanantheが優占する群集は知られていない.松岡・
西田(1980)によると,このボーリングが行われた地域は,盆地内でもとりわけ完新銃が厚く 発達すると推定されており,この試料は深度と花粉群集からみると完新統下部である可能性が ある.
6.まとめ
i)奈良盆地の地下には,完新統,更新統及び大阪層群相当層が存在する.後者には,少くと も3枚の海成層(‑25.0‑28.3m, ‑42‑3‑45.2m, ‑75.0‑80.5mの深度に発達)が存在する.
ii)渦鞭毛藻群集及び花粉群集の特徴から, ‑75.0‑80.5wの海成層は,佐保丘陵・西奈良丘 陵に分布する第‑海成粘土層に,さらに模式地のMa‑1層に対比される.
iii) ‑42.3‑45.2mと‑25.0‑28.3mの海成層は,花粉群集の性質から,酉奈良丘陵の第二海 成粘土層に対比することはできない.下位の海成層の層序関係と‑25‑0‑28‑3mの海成層中に 挟まれるアズキ火山灰と思われる火山灰層の存在から,これらの海成層を, Ma‑2層とMa‑3 層に対比しておく.なおこれらの試料中の花粉群集も,この対比に矛盾するものでない.
iv) ‑75.0‑80.5m以深の試料は,大阪層群最下部から下部に対応する.
v) ‑6.1 '6.70mの試料は,完新統下部の可能性がある.
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