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年休権の不行使をめぐる法的問題

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年休権の不行使をめぐる法的問題

法経論集第75・76号

はじめに

年休権の不行使をめぐる法的問題

 こんにち︑わが国において︑余暇の活用は︑豊かさの尺度という意味からも︑積極的な社会的評価がなされて

いることはいうまでもない︒また︑学校の週休二日制の導入に象徴されるように︑わが国社会は︑現在総じて個

人に対して﹁時間﹂を還元する方向に進みつつあるといってよい︒にもかかわらず︑わが国労働者の実感として

みるとき︑余暇の充実は︑いまだ絵空事だというのが現実であろう︒このことは︑労働者にとって︑余暇が労働

と対置する関係を有しているからに他ならない︒すなわち︑労働者の労働時間が長時問であればあるほど︑余暇

に費消される時間は減少することになり︑このような関係でとらえるとき長時間労働という実態が解消したとの

評価は現在なお下されておらず︑労働者にとって余暇に充てる時間は未だ不十分であるといわざるをえない︒

 このような現実に鑑みるとき︑労働者にとって︑年次有給休暇︵以下︑年休という︶の取得は︑大きな意義を

有する︒すなわち︑余暇の活用という点からは︑まとまった単位の可処分聴間が必要であるが︑年休の取得は︑ ヱ

(2)

藪瓜醸珊

労働者にこれを付与するものである︒こうした意味において︑年休には多大な役割が期待され︑法定年休に関し

て︑昭和六二年以降︑最低法定付与日数の六日から一〇日への引上げ︑計画年休制度およびパートタイマーに対

する比例付与制度の導入︑さらに︑成立要件の継続勤務時間の短縮といった措置がとられてきたのである︒しか

しながら︑こうした環境整備にもかかわらず︑年休は現在なお完全消化されず︑労働者に余暇を堪能させるよう

な取得状況ではない︒それどころか︑長期の不況を背景として年休の消化蒙下がっているとの調査報告も豪・

こうした年休の取得状況に照らすとき︑労働省の﹁ゆとり休暇推進要綱﹂も指摘するように︑まとまった日数の.

連続した休暇の確保︑個人の希望を生かした休暇の普及を推進していくことが︑労働者の余暇を充実していくた

      ︵2︶めにも重要である︒

 そのためにも︑年休権の行使を妨げる要因について検討しながら︑年休の確実な拡大をめざす必要があり︑そ

のような視点から年休の法的評価をあらためて行うことが要求されているものといえるが︑本稿では︑このうち

年休権の不行使をめぐる法的問題について考察をすることにしな幌︒

2

 一年休の繰越

   ω 繰越︸に関する見解

年休が当該年度内に完全に消化されないで残っている場合︑それを次年度以降に持ち越すことが法的に認めら        ︵4︶ れるかどうかが︑年休の繰越と呼ばれる聞題である︒わが国においては︑前述したとおり︑年休の消化率が低い

という現実があることから︑繰越が実際に有する意義も大きいと言わざるをえないが︑労基法上の規定がないこ

とから︑学説は分れている︒

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年休権の不行使をめぐる法的問題

 繰越を否定する見解として︑まず︑年休の付与が︑労働力保護の必要性の考慮にもとつくものである以上︑各       ハ5︶ 年度についてのみ休暇請求権の存在理由があるとする︑年休制度の趣旨や目的から否定するものがある︒つまり︑

年休の制度趣旨から考えれば︑ある年度の休暇の縮小については翌年度以降実質的に補填できる性質のものとは

い匙年穣を休縫の種と髪るζ各年度ごと採息することを楚するもの凝理蟹立つものであ

る︒つぎに︑有給休暇の就労義務免除は︑当該年度の労働日に限られ︑その年度内に時季招定がなされて消化さ       ︵8︶ れないと︑特定すべきものとしての労働日はなくなり︑年休権は履行不能によって消滅するという説がある︒さ

らに︑年休は法定要件を充した次の年度に行使されるべきものであり︑労働者が年度内に年休をとらなかった場       ︵9︶ 合には︑休暇権の﹁事実上﹂の放棄として休暇請求権が消滅するとの見解もある︒

 これらの繰越否定説では︑年休権は当該年度終了とともに消滅し︑宋消化年休分も消滅することになる︒そこ

で︑年休権が消滅したとき︑労基法三九条違反が成立するかどうかについて︑使用者に年休付与義務を認めてこ

れ盗是す謝と・労讐には年休をとるべき法的義務がないことから使用者に労羨三九条違反は成立しない

とす翫課がある︒なお︑これら繰越否定説は︑法定年休としての繰越を認めない立場であり︑法定外年休として

       ︵12︶の繰越を否定するものでない︒

 他方︑繰越を肯定する説は多数説を形成するが︑その根拠については分れている︒まず︑わが国の年休消化率        ︵13︶ の低さから︑繰越を認めないとかえって労働者が保護されない結果となることを根拠とする説がある︒つぎに︑

これに加えて︑長期的な視点に立つ年休制度として︑労働者が自己の生活計画のなかで二︑三年間に休暇をとる       ︵14︶ 期間を配分することを認めても︑年休調度の趣旨に反しないことを指摘する説がある︒また︑労基法は︑年休制

度を年次ごとに絶対的なもの︵労働者に押しつけるということで︶とはしておらず︑労働者の意思による利用選

法経論集第75・76号

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説 論

択の余地を残していることを理窪あげる説が舞さらに・繧否定説は・奨の労働力の生覆との関連に

おいて休暇の利男法を制限しようとする見解であるとして反対する説鶴蓼このほか・年休および休暇請求

の具体的権利は年度毎に生ずるが︑それは繰越されもせず︑また年度をすぎて直ちに消滅もせず・当該年度につ

いては振替の余地のあるかぎり︑二年の消滅時効にかかるまで存し︑﹁振替﹂の余地のないかぎり︑次年度に二年

の消滅蒔効﹂にかかるまでその日数のみ︑労基法上の年休としてではなく﹁繰越﹂されて消滅しないとす翻

や︑年休は﹁請求﹂を前提として付与されるべきものであるから︑消滅時効にかかるポでは・いつでも請求でミ

前年度に行使しうる休暇をその翌年度において請求することも︑年休請求権の正常な行使方法と解すべきで︑繰

越の概念自体粛いるまでもないとす軸なども・箒的に藻越墓説の鑛に入れてよいだろう・

 年休の繰越に関する行政解釈の立場は︑法文上年休は当該発生年度中に限られると読まなければならない積極

的根拠はな−︑当該年度に行使されなかった権利は次隻に緩されるとの轟壼ホして・繰整是説に立つ︵昭

22︒12・15基発五〇一号︶︒

 以上のような繰越肯定説がいう年休の繰越は︑法定年休として繰越されることを意味し︑就業規則等の繰越規

定も確認罐の意味しか有さず︑逆に繰馨認めないb・の就業規則等の規定の存在は労基法違反であると轟す

るものである︒

 つぎに︑年休の繰越に関する判例は僅かしかないが︑国鉄浜松機関区事件︵静岡地判昭48・3・23労民集二四

巻一.二号︶は︑﹁年次有給休暇請求権に消滅時効の規定の適用があるというためには︑その前提として年次有給

休暇請求権のいわゆる繰越しが認められなければならないが︑年次有給休暇請求権の繰越しは・これを認めるこ

とができないといわざるをえない︒すなわち︑年次有給休暇の制度は︑当該年度において法定の日数を有給で現

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年休権の不行使をめぐる法的問題

実に休むことを保障するものであって︑その制度本来の趣旨からは︑毎年法定の臼数を現実に休ませることが要

請され︑たんに抽象的な年次有給休暇請求権を与え︑その繰越しないし蓄積を認めるだけでは足りないものとい

うべきである︒﹂

 ﹁けだし︑繰越しというものを認める以上︑そこに抽象的な年次有給休暇請求権というものを想定せざるをえ

ず︑しかもその繰越しも認めるわけであるから︑当該年度においては現実に有給で休ませることをしなくても労

働基準法違反にならないと解すべきことになるからである︒そしてこの立場をおしすすめると︑抽象的な年次有

給休暇請求権を附与し︑その繰越しないし蓄積を認めさえすれば︑現実に有給で休ませることをいっさいしなく

ても同法第三九条の違反にはならず︑したがって同法第=九条の罰則の適用もないということにならざるをえ

ないが︑その不当なことは何人の目にも明らかであろう︒この場合︑あるいは労働者側からの繰越しのみを認め

てよいではないかという議論があるかもしれない︒しかし労働基準法は労働条件の最低限度の基準を設定するも

のであって︑労働者側のイニシアティヴによるものであっても右最低基準を下廻る結果となることを許容するも

のではないというべきであるから︑労働者の側からする繰越しもこれを認めることはできないといわなければな

らない︒けだし︑労働者の側からする繰越しであってもこれを認めることは︑逆にいえば当該年度においては法

定の日数の有給休暇をとらないことを容認することになるわけで︑当該年度に関するかぎり労働基準法の定める

最低基準を下廻ることを容認する結果となるからである︒

 これを要するに︑労働基準法上の年次有給休暇の制度は具体的な当該年度において法定の日数を有給で現実に

休むことを保障する制度であって︑それ以上に出るものでもなく︑またそれ以下にとどまるものでもないという

べきである︒したがって︑年次有給休暇請求権の繰越しは︑労働基準法上の年次有給休暇制度に関するかぎり︑

法経諭集第75・76弩

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説 弧

爵購

これを認めることができないといわざるをえない︒

 そうすると︑労働基準・法上の年次有給休暇については時効ということを考える余地はなく︑同法第一一五条の

規定が適用されることはないというべきである︒﹂との判断を示しており︑年休繰越否定説の立場にたつことを

明らかにした︒

 また︑労働者が前年度の繰越日数分を含む年休を請求したにもかかわらず︑使用者がこれを拒否して賃金カッ

トをおこなったために︑労働者が右カット分の賃金とそれと同額の付加金の支払いを請求した事案である︑京プ

ロ事件︵京都地判昭61・2・13労判四八二号七四頁︶も︑労基法は﹁当然には有給休暇の繰越し行使を認めてい

ないものと解するを相当とする﹂との立場から︑繰越日数分の付加金の支払いについてこれを命ずることはでき

ないとの判断を下している︒       ︐

 前述してきたとおり︑当該年度の未消化年休の繰越に対する見解が分れているが︑繰越肯定説の立場を支持し

たい︒その根拠としては︑現実の年休未消化の実態に即して考えると︑繰越によりなお年休日数を確保しうるこ

と︑とくに労基法上年休は当該発生年度中に限られると読むべき積極的根拠がないこと︑現在の法定年休日数や

サヴァティカル休暇が法定されていない等の現実を考えれば︑繰越を認めてまとまった年休として行使するよう

労働者の選択に委ねて配分をすることは︑﹁はじめに﹂で指摘したように余暇の活用という観点から肯定されるこ

       ︵21︶

と等をあげることができよう︒

   ω繰越と時効

 つぎに︑繰越肯定説に立つ場合︑年休を行使しなければいつまでも繰越しうるかという問題が生じ臥縄・多く

は︑労基法一一五条により二年間の消滅時効にかかるとする︒年休権が請求権に当たらないことが最高裁の判例

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年休権の不行使をめぐる法的問題

の立場である︵林野庁白石営林署事件11最2小判昭48・3・2民集二七巻二号一九一頁︑国鉄郡山工場事件ー最

2小判昭48・3・2民集二七巻二号一=○頁︶ことから︑労基法=五条の﹁この法律の規定による⁝・:その他

の請求権﹂に該当するかどうか問われるが︑これを﹁この法律によって労働者が請求し得る権利﹂という程度の        く23︶ 意味に解すれば︑労基法一一五条の適用を認め二年間の消滅時効にかかるものといえる︒このように︑時効によ

る消滅を認めると︑時効の中断を認めざるをえず︑時効の中断によって年休権が消滅しないことを認めざるをえ       ︵24︶       ︵25︶ ないことになるのではないかとの批判があり︑これに対して︑二年間を除斥期間と解する学説も登場した︒

 これについて考えれば︑民法の規定に従い時効の中断を認める立場を肯定すべきであろう︒ただし︑民法一四

七条が規定する時効の中断事由のうち︑年休で問題となりうるのは︑請求と承認であり︑前者によって時効が中

断されるのは︑裁判上の請求に限られ︑年休が労働者の適法な時季指定があれば当然に成立する性格から︑訴訟       ︵26︶ において未行使年休を請求することはきわめて稀有であり︑請求による中断は考えられない︒後者の承認は︑時

効の利益を受ける者が︑時効によって権利を失う者に対して︑その権利の存在することを知っている旨を表示す

ることであるが︑労働者が年休の時季指定をして︑それを年休であることを確認すれば︑それが承認にあたる︒

これは︑﹁勤怠簿︑年次有給休暇の取得簿に年次有給休暇の取得日数を記載している程度のことは承認したことに

はならないと解される﹂︵昭24・9・21基収三〇〇〇号︶が︑労働者から未行使年休日数について問い合わされ︑       ︵27︶ 残余年休日数を使用者が確認して回答すれば︑承認と認められよう︒使用者の時季変更権行使については︑将来        ︵28︶      ︵29︶ の他の時期にしてほしいという意思表示を含むことから︑当該対象日数につき時効中断が認められる︒このよう

に解すると︑時効の申断が無限に繰り返す可能性もあるが︑年休の法的性格に関する今日の通説的理解や使用者       ︵30︶ は労働者に対して年休を積極付与すべきであるとする立場にたてぼ︑年休に関して時効の中断によって労働者が

法経論集第75・76暑

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鯨ム limi

過大な利益を受けると解することはできず︑使用者にとってやむを得ないことといわねばならない︒

   ㈹繰越と充当

 年休が繰越された場合︑繰越された年休と当該年度の年休のいずれが先に消化されるかという問題が生じる・

労基上明文の規定もないことから︑就業規則等の明文の規定や当事者の合意があればそれに従うが︑ない場合に

ついては︑弁済の充当についての規定を類推適用し︑第一に︑民法四八八条一項によって使用者が指定でき︑そ

れがないときは民法四八九条二号によって︑当該年度分が充当されたものと解する見解が有力で臥翻・しかし鶴

がら︑この問題については︑時季指定権の行使の順序として理解すべき性格であり︑民法の弁済の充当をとる必

然性は存在せず︑繰越分と当年分のうちいずれを先に時季指定権を行使するかは労働者の自由にゆだねられるが・

特段の事情のない限り︑労働者は繰越分から時季指定をしていくものと推定すべきものとい惹罷︒  ︑

8

 二 年休の放棄・買上げ

 年休日数の一部または全部を︑労働者があらかじめ放棄することを内容とする労働契約は︑ILO五二号条約

四条においても無効とされているが︑労基法三九条違反として無効とすべきことは当然である︒

 さらに︑労働者が年休日数の一部または全部を行使しない場合に︑使用者がその日数に応じて一定の対価を支

払うことが現篶行われており︑これを年休の塁げ藍麗・問題となる買上げ方法としては・年休の講化日

数に応じて︑一定の対価を支払うという買上げの予約を︑合意もしくは就業規則等によってあらかじめ定めてお

き︑年休の未消化があった場合︑事後に対価を支払う形態がある︒

 こうした年休の買上げに関して︑行政解釈は﹁年次有給休暇の買上げの予約をし︑これに基づいて法第三十九

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年休権の不行使をめぐる法的闘題

条の規定により譜求し得る年次有給休暇の日数を減じないし請求された日数を与えないことは︑法第三十九条の

違反である︒﹂︵昭30・11.30基収四七一八号︶と述べる︒右行政解釈の理解は︑年休を取得しなかった場合に一定

の対価を与える旨の契約を締結しただけでは︑労基法三九条違反として処罰されるものではないが︑労働者が年

休を請求した場合︑年休を買上げているとして実際これを付与しないとき︑労基法三九条違反として処罰の対象

         ︵34︶

になるというものである︒この行政解釈は︑したがって年休の買上げ予約の私法上の効果について述べるもので

はない︒  年休の買上げ予約の私法上の効果については︑年休を現実に取得するかどうかは労働者の自由であり︑不行使

の年休に対して使用者が一定の対価を支払う旨の契約それ自体は︑労基法違反とはならず有効であると考える立

場もありうるが︑年休の本質が所定労働日の労働義務を消滅させるものであり︑労基法三九条も有給休畷を﹁与       ︵35︶ えなければならない﹂と規定していることからすれば︑このような年休買上げの予約自体が年休権の行使を事実

上阻止する性格を帯有しており︑その冒的の点で法の趣旨に反して無効であるといわざるをえ焦磁・

 右の点について︑判例も︑日本シェーリング事件︵大阪地判昭56・3・30労判三六一号一八頁︶において︑﹁右

年次有給休暇は︑単に使用者からの恩恵として与えられるものではなく︑年次有給休暇の権利は︑労基法三九条

一、

フ要件が充足されることによって︑法律上当然に労働者に生ずる権利であって︵最高裁判所昭和四八年

三月二日民集二七巻一一号一九一頁︶︑右年次有給休暇日に就労したときは一定の金銭等を支給する旨のいわゆる年

次有給休暇の買上げ契約や︑その他右年次有給休暇を放棄する旨の契約は︑労基法三九条一︑二項に違反して無

効であると解すべきであるし︑また︑年次有給休暇を取得した場合には︑その日数に応じて相当多額の収入減少

を伴うことが予め定められている契約は︑年次有給休暇の買上げと同様の効果があるから︑労基法三九条一︑二

法経言禽集第75。76号

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転ム轟織

項に違反するか或いは民法九〇条の公序良俗に違反するものとして無効と解すべきであるし︑さらに︑年次有給

休暇臼を取得せずに稼動した場合には︑特別の賞与を支払う旨の契約も︑労働者において年次有給休暇を取るこ

とを差控える傾向を招くことになり︑間接的に年次有給休暇の取得を抑制することになるから︑労基法三九条一︑

二項に違反することを免がれないと解すべきである﹂との判断を示しており︑年休買上げ予約の私法上の効果に

ついて無効とする立場が確立しているといってよい︒

 当該年度の未消化年休に対して︑その都度金銭支給をすることについて︑買上げの問題ではなく︑このような       ︵37︶ 措置まで違法とする特別の根拠は存しないとする立場もあるが︑年休の本質からいって望象しいことではなく︑

これが慣行化し黙示の合意を形成するような場合には当然無効というべく︑また︑それに至らないような場合に

も︑翌年度以降の労働者の年休取得日数を事実上減ずる効果をもたらすことからいって︑無効とすべきものと考

える︒  また︑繰越し年休日数の未消化分の消滅時効にかかったものについて︑事後に対価を支払うことは認められる

であろうか︒これについては︑その翌年以降の年休取得の抑制効果を有するという性格がないわけでもないが︑

当該年休日数について年休権は消滅しており︑これをあらためて評価することについては︑法定外年休として労       ︵38︾ 使の取決めにゆだねられるものと考えられるところから︑無効とはいえないであろう︒

 つぎに︑年休宋消化日数に応じた一定の対価につき︑賞与や精皆勤手当の出勤率算定にあたり︑年休の行使に       ︵39︶ よる不出勤を欠勤扱いとすることも︑広義には﹁買上げ﹂の概念に含康れる︒労基法が︑年休取得日につき一定

額の賃金の支払を義務づけている趣旨は︑賞与や精皆勤手当など年休取得日に属する期間に対応する賃金につい        ︵︽o︶ ても︑年休取得日を出勤日と同様に取り扱わなければならないという要請をも有するものであり︑濠た︑年休権

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保障の意味において︑使用者の不利益取扱の措置が年休取得に対して抑制をする性質をもつことから︑これが禁

         ︵41︶

止されているものであり︑労基法附則一三四条においてこの点を確認をしていることからいっても︑右のような

﹁買上げ﹂も無効であるといわざるをえない︒

 なお︑法定外年休について︑上述してきたような放棄契約を結ぶことや﹁買上げ﹂をすることは︑その成立要

件・法的効果等が当事者間の取決めに委ねられることからいって︑無効とはいえない︒

法経言禽集第75●76・辱}

年休権の不行使をめぐる法的問題

 三 雇用関係の終了と年休

 年休権を有した労働者が︑その全部または一部を消化しない間に︑退職や解雇によって雇用関係を終了する場

合︑当該年休がどのように取扱われるか問題となる︒この点について︑ILO=三一号条約=条は︑雇用終了        ︵42︶ 時に未消化の休暇日数は補償又はそれに相当する休暇権を受けるものと述べている︒わが国労基法は︑このよう

な規定をしていないことから︑見解は分れる︒行政解釈では︑解雇予告をした場合の年休権について予告期問内

に行使しなければ消滅するとしており︵昭23・4・26基発六五一号︶︑この立場は︑雇用関係消滅時まで年休を消        ︵43︶ 化しない限り残った年休権は当然消滅するというものである︒判例は︑聖心女子学院事件︵神戸地判昭29・3・

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J民集五巻六号七八二頁︶が︑﹁原告等はその職務たるクリーニングが多忙なため︑休日を休むときは︑残務が

山積するので︑時には任意に日曜日までも労鋤していた状態であったので︑原告等は前記退職に至るまで友人の

結婚式列席という必要やむをえない場合の外は被告学校に対し有給休暇を請求せずに労働し︑被告学校からこれ

に対し通常の賃金が支給せられていたことが認められる︒そうすると︑原告等のそれまでに行使されなかった休

暇請求権は遅くとも右退職と共に消滅したものというべく︑原告等にはもはや有給休暇の存在を主張する権利は

u

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憂A肖紺

ない﹂との判断を示しており︑やはり年休権は消滅するとの立場をとるものである︒

 学説では︑労働関係が終了した場合は︑年休が労働関係の存在を前提とすることから︑残余の年休権は消滅す

        ︵44︶

ると解するものもあるが︑このような不行使に対してなお権利として法的評価をしようとするものが多い︒たと

えば︑年休権は雇用関係の消滅と同時に消滅するが︑雇用関係存続中に年休を行使しなかったことについて︑使

用者の責に帰すべき藷による場合に嫁年休手当請求禦存続すると解乳辮年休を行使しないことが﹁雇

用労働力の節約による労働強化に起因すると認められる事情のある場合﹂には︑労基法二六条を根拠として︑年

休請求禦雇用関係解消讐金請求権として残ると監講・退職と慧の場合を区分して・予告手当を支払って

なされた解雇美災事変等のために事業の継続が不可能となった場合に年休手当請求権を認めると解す軸・使

用者の時季変更権の行使の結果︑雇用関係終了前にさらに年休権を行使することが不可能になった場合︑使用者

の行為に起因性をみとめ︑その日数分については年休手当請求権があるとす軸などである・

 この点については︑退職︑解雇いずれの場合も︑労働者は事前に残余休暇日数分を在籍日に含ませしめること

を基本に考えるべきであり︑残余休暇日数に対する時季変更権行使は事実上なしえないから︑その全部または一

部を承認しない場合には︑年休手当による清算という方法しかありえず︑その限りで︑不行使分について年休手

当講求権が生ずると解すべきであろう︒したがって︑上述のような意味において労働者が請求しない場合には︑

事後に年休手当を請求することはできないと蟹ざるをえ識・

 定年退職あるいは退職の予告がなされ︑雇用契約終了の時点が事前に明らかである場合︑使用者が︑終了日ま

での月数に応じ休暇日数を按分付与することが認められるかについては︑そのような明文規定がある場合でも︑

労基法三九条が年休権の行使年度に対して制約を何ら課していない以上︑無効で臥翻︒

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駕休権の不行使をめぐる法的問題

︵1︶労務行政研究所﹁労働時間・休日・休暇に関する実態調査﹂によれば︑全従業員の平均年休取得率は︑平

  成四年六二・三%︑平成五年六一・八%︑平成六年六〇・八%と下がってきている︵労政時報三一三九号︑

  三一八九号︑三二三四号︶◎

  なお︑調査対象の多い労働省の賃金労働時間制度等総合調査︵平成六年度の調査は︑本社規模三〇人以

  上で五三〇〇社︿回答率九四・○%﹀である︶によれば︑その数値は︑次表のとおり︑さらに低くなって

  いる︵賃金・労務通信一九九五年=月五日号︶︒

       取       ゜数

       馴      叢   

  

@騨

       次化       瓜ー        鷹       歯

       潴       ①②筋        表        ㈲

付与日数 取得日数

取得(消化)率

日 臼 %

90年(平2)

15.5 8.2 52.9

93年(平5)

16.3 9.1 56.1

94年(平6)

16.9 9.1 53.9

1,000人以上 18.6 10.6 56.8

100〜999人

16.2 8.3 51.1

300〜999人

16.6 8.6 51.9

100〜299人

15.8 8.0 50.4

30〜99人

14.7 7.7 51.9

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潮罐

︵2︶平成七年七月二七日付労発一九六号・基発四△二号﹁﹃ゆとり休暇推進要綱﹄の周知徹底について﹂︒

︵3︶年休権の行使に関する法的問題点については︑拙稿﹁年休権の行使をめぐる法的問題﹂法経研究四四巻四

  号︵︸九九六年︶一六五頁において︑検討を加えた︒

︵4︶地方公務員にも労基法三九条が適用され︑繰越制度が採用されており︑多様な制度として運用されている

  実態がある︒この点については︑小原昇﹃地方公務員の勤務時間・休日・休暇第6次改訂版﹄学陽書房一゜

  九九四年︑三六八頁以下参照︒

︵5︶吾妻光俊﹃新訂労働法概論﹄青林書院新社一九六七年︑四四四頁︒

︵6︶吾妻光俊編﹃註解労働基準法﹄﹇蓼沼謙一執筆﹈青林書院新社一九六〇年︑四九九頁︒

︵7︶安屋和人﹁年次有給休暇﹂﹃労働法大系五巻隠有斐閣一九六三年︑一=頁︒

︵8︶有泉亨﹃労働基準法﹄有斐閣一九六八年︑三五九頁︑山口浩︸郎﹁年次有給休暇をめぐる法律問題﹂上智

  法学論集二五巻二・三号︵一九八二年︶七二頁︒

︵9︶秋田成就﹃労働法実務大系12休憩・休日・休暇﹄総合労働研究所一九七二年︑二二八頁︒

︵10︶有泉亨前掲書三六〇頁︒

︿11︶秋田成就前掲書二一一八頁︒

︵12︶山口浩一郎前掲論文七二頁は︑﹁前年に不行使で消滅した休暇日数を︑翌年法定外休暇として与える旨の

  創設的規定﹂として把える︒

︵13︶松岡三郎﹃条解労働基準法ω﹄弘文堂一九五〇年︑五一一頁︒

︵14︶沼田稲次郎﹃労働法論ω﹄法律文化社一九六〇年︑三七三頁︒

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(15)

年休権の不行使をめぐる法的問題

︵15︶石井照久﹃新版労働法﹄弘文堂 九七一年︑︸九三頁︒

︵16︶後藤清﹁年次有給休暇請求権の問題点﹂ジュリスト一四八号︵一九五八年︶八頁︒

︵17︶宮島尚史﹁年次有給休暇﹂学習院大学法学部研究年報七号︵一九七一年︶一〇九頁︒

︵18︶水野勝﹁年次有給休暇請求権の再検討﹂労働法律旬報六四九号︵一九六七年︶二八頁︒

︵19︶労働省労働基準局編﹃全訂新版労働基準法上﹄労務行政研究所一九九四年︑五一二頁︒

︵20︶行政解釈によれば︑﹁できるだけ年度内に年次有給休暇をとらせる趣旨の規定を設けることは差支えない﹂

   ︵昭23・5・5基発六八六号︶とする︒

︵21︶したがって︑法定年休日数の拡大や消化率をあげるような環境整備が行われれば︑完全消化を促すという

  意味において繰越否定説の妥当する現実基盤も生れよう︒東京大学労働法研究会﹃注釈労働時間法﹄有斐

  閣一九九〇年︿以下︑﹃注釈﹄として引用﹀︑六九八頁も︑日本の年休のとり方が理想型に近づいていけば︑

  繰越肯定説から繰越否定説へと推移することを指摘する︒

︵22︶繰越否定説では︑年休権はその年度で消滅するので︑時効を適用する余地もないとする︒法定外年休とし

  て繰越について就業規則等の規定がないときには︑通常の債権として一〇年の消滅時効にかかるとする

   ︵秋田成就前掲書二二九頁︶︒

︵23︶労働省労働基準局前掲書五一三頁︒

︵24︶有泉亨前掲書三五九頁︒

︵25︶石井照久前掲書一九三頁︒しかし︑労基法一一五条は﹁時効によって消滅する﹂との文雷を使用しており︑

  年休権だけ除斥期間と解しうるとする立論には無理があろう︵山口浩一郎前掲論文七一頁︶︒

法経論集第75・76号

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(16)

説 ua

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︵26︶昭23・4︒28基収一四九七号︑昭23・5・5基発六八六号︒

︵27︶ ﹃注釈﹄七〇〇頁︒

︵28︶後藤清前掲論文九頁︒

︵29︶ ﹃注釈﹄七〇〇頁︒

︵30︶前掲平7・7・飾労発一九六号・基発四八三号等︒       馳

︵31︶松岡三郎前掲書五⁝三頁︑労働省労働基準局前掲書五︸二頁︑山ロ浩一郎前掲論文七二頁等︒山本吉人﹃労

  働時間の実務と法理﹄総合労働研究所一九八二年︑二八四頁は︑繰越すという事態は使用者側の事情で生

  じたものが主であることから︑民法の準用を否定し︑繰越分から取得する方が妥当であるとする・

︵32︶菅野和夫﹃労働法第四版﹄弘文堂一九九五年︑二七九頁︒

︵33︶年休の買上げを実施している企業の割合は︑調査によれば︑五・八%と僅かであり︑そのほとんど多くの

  例が﹁退職時のみ﹂の買上げである︵労政時報三二三四号︶︒

︵34︶香川孝三﹁年次有給休暇の買上げ﹂﹃別冊ジュリスト・改正労働基準実例百選﹄有斐閣一九八八年・=

  九頁︒

︵35︶野沢浩﹃労働時間と法﹄日本評論社一九八七年︑二一一〇頁は︑労基法三九条の文意につき︑他の一般的禁

  止規範と比べて︑より強く使用者の自発的行為を期待するものとの使用者の配慮義務を強調する︒

︵36︶秋田成就前掲書二二四頁︑﹃注釈﹄七〇八頁等通説︒

︵37︶山口浩一郎前掲論文七一頁︒

︵38︶年休権保障の趣旨にたって考えると︑このような消滅時効にかかった年休についても︑対価の支払いでは

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(17)

年休権の不行使をめぐる法的問題

  なく︑法定外年休として積立・保存することが望ましい︒積立・保存を実施している企業は︑調査によれ

  ば︑五二・○%と比較的定着をしている︵労政時報三二三四号︶︒

︵39︶秋田成就前掲書二二四頁︒

︵40︶菅野和夫前掲書二七九頁︒

︵41︶この点では︑当該措置が事実上年休を抑止する効果をもつ場合でなければ無効とならないとする判例︵沼

      ゆ   ゆ       の   の   ゆ   津交通事件ー最2小判5・6・25労判六三六号=頁︶や︑﹁精皆勤手当や賞与の減額等の程度によって

  は︑公序良俗に反するものとして民事上無効と解される場合もあると考えられるという見地に立って︑不

  利益な取扱いに対する是正指導を行ってきたところである﹂との考えを表明する行政解釈︵昭63・1・1

  基発一号︶の立場は︑年休権保障の趣旨が徹底化されていないものといえる︒

︵42︶ドイッ連邦休暇法七条四項も︑労働関係終了の場合にかぎって買取りを認める︒

︵43︶労働省労働基準局前掲書五一一頁︒

︵44︶安屋和入前掲論文一=頁︒

︵45︶吾妻光俊編前掲書﹇蓼沼謙一執筆﹈五=頁︑この説であげる﹁使用者の責に帰すべき事由﹂はこの場合

  その範囲が不明確であるといわざるをえない︒

︵46︶後藤清前掲論文九頁︑この説の根拠とする労基法二六条の適用は解釈論として無理があろう︒

︵47>窟り泉古了晶剛掲 書三六一頁︒

︵48︶山口浩一郎前掲論文七五頁︒

︵49︶有泉亨︒青木宗也・金子征史編﹃別冊法学セミナー・基本法コンメンタール労働基準法﹇第三版﹈﹄﹇秋田

法経論集第75。76弩◆

Z7

(18)

説 論

︵50︶

成就執筆﹈日本評論社一九九〇年︑ニニ九頁︒

沖縄米軍基地事件11福岡高那覇支判昭53・12・19労民集二九巻五11六号九三七頁︑駐留軍相模原補給廠事

件ー東京高判昭54・6・20労民集三〇巻三号七=一頁は︑いずれも付与年休臼数が法定水準以上で︑月割

按分が本条に定める所定日数を上回っていれば︑そのような就業規則等の規定も無効といえないが︑明文

の規定がない以上そのような措置はとれないとして︑按分付与を認めなかった用

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参照