鋼 の 疲 労 課 程 に お け る 組 合 せ 応 力 の 影 響 * ( 第 1 報 )
関川三男 芳賀武
1 . 緒
口金属の疲労過程中の組織変化および クラックの進展過程等については多 くの理論1)2)や実 験結果
3 )
〜5)の報告がなされてお り,また組合せ応力における疲労破壊過程についてもかな り 報告されている.本研究は
0 . 3 %C
鋼材を使用 し,回転曲げ疲労実験をおこない,あ らか じめS‑N
曲線を作 成 し,鋼材の疲労限界を求め,低および高応力振「h疲労に対 し,疲労破壊以前に疲労実駅を 中断 し,引張実験および衝撃実験をお こない,その機械的性質の値と電子顕微鏡観察を対比 させ,校株的性質である引張強さ,降伏点,破断強さおよび衝撃値 との関係を調べ,疲労現 象か ら破壊‑の機構を推察す るとともに組合せ応力下の影響を調べた結果を報告す る.2 . 試料および実験方法 2 ‑1
試 料試料の化学成分を
Tabl e
lに示す.これをFig.1
に示す形状と寸法に機械加工 し,その 後9 3 0o C
で1
時間真空焼鈍をおこ.ない,その後エメリー研摩紙および酸化クp‑ムで表面仕 上げをほどこし,硝酸アル コールおよびピタ1)ソ酸 アル コールで腐食 した.その時の粒度は8
番であった.Ta bl e1 Che mi c a l Co mp os i t i on
Fi g.1 Sha
I治 a n dSi z eo faSp e c l me n
* 日本機械学会北陸信越支部,長野地方講済会において発表
‑ 機械工学科教授 料* 機械工学科助手 原稿受付 昭和
5 0
年9
月30
日2 8
長野工業 高等 専門学校紀要 ・第6
号2‑2
実 験 方 法疲労実験は小野式回転曲げ疲労試験機を使用 し, あ らか じめ
S‑N
曲線を作成 し,疲労限 界を求め,低および高応力振巾疲労をおこない,疲労実験を途中で中断 し,引張実験および 衝撃実験をおこなった.なお,引張試験機は リー レークイブの
50
t万能試験機を使用 し,衝撃実験はシャル ピー衝 撃試験機を使用 した.破断面の観察は2
段 レプリカ法により,破断面の外周部 と内部とに分 け電子顕微鏡観察をおこなった.衝撃突放はFi g.2
に示す ように,表面 より3m
m の深 さ の ノッチを入れ衝撃をおこなった.3 .
実 験 結 果0.3% C
鋼材の疲労実験, 引張突放および衝撃実験の主な機枕 的性質の値を恥 bl e2
に示す.疲労実験は低応力振巾( q 幸25 .5 kg/mm
2とす る)および高応力振巾( q 幸30 kg/mm
之とする)の2
種煩について実験をおこなった.繰返 し数はN‑2×1 0
1,N‑
2× 1 0 5
およびN‑1× 1 0 6
で中断 し,それぞれ実験をお こなった。Ta bl e2
は疲労実験および疲労実験の程度に応 じて実験をおこな い,その後引張実験および衝撃実験をおこなったものである.Fi g.3
は疲労実験か ら求めたS‑N
曲線で,疲労限界はq幸
25 kg/mm
2である.Ta bl e2
の疲労実験,引張実験および衝撃実 験 の機械的性質の値を疲労程度に応 じでグラフ化 したものがFi g.
4
およびFi g.
Sに示す.Fi g.4
は疲労実験後, 引張実験をおこなった結果である.♂
"Fi g. 2 Fo r m andDi m・
ens i onso fI mpa c t Tes t
は引張強さ
, α
,ほ破断強 さおよびqy
は降伏点の値とす る.高応力振巾 q幸30 kg/mm
2,N‑2×1 0
4で疲疲労実験後.引張突放をおこなったとき,quおよび
6
,は低応力振巾q 幸25.5kg/mm
之の実験に比べて著Tab l e2 Me c hani c alPr o p er t yo fTe s tMat e r i al Te ns i on
St r e ngt h
o..:
kg / mm 2
Rupt ur e St r el l gt h q,:kg/mm 2
2 3. 1 6 1 5 8 . 4 5
2xlO5 1
3 1 . 3 2
1×1 0 61 3 2. 4 3 6 0 . 8 8 1 49 . 9 4
8 r
2 5 . 3 211 × 1 0
62. 8 2 0
鋼 の疲労過 程におけ る組合せ応 力の影響(筋 1報)
S‑N CURVE
S で ヒ LD ^ 三 s s a J l S
1♂
1 ♂ 1 ♂ 1 J l ♂
Numberofcyc一e N
Fi g. 3
S‑NCu r v eo fFa t i gu eTe s t
しく減少す る.
また低応力振巾q
幸2 5 . 5kg /mm 2 ,N‑2× 1 0 5
お よびN‑1× 1 0 6
で疲労実験をおこない,その後引 張実験をおこなった場合,繰返 し数の増加とともにqu
,O,およびqyの値はすべて上昇 した.Fi g. 5
は疲労実験後,衝撃実験をお こなった結果 である.衝撃値をFi g.4
と同様に横軸に繰返 し数N
をとり,縦軸に衝撃値UE
をとったものである.その結果衝撃実験 のみおこなった場合に比べて,高 応力振巾
q 幸3 0 kg / mm 2 ,N‑2×1 0
4では衝撃値は 極端に低下す る.( ZE uJybq) s s と IS a ),SUP) i 60 50
L . 0 3 0
02 \ こ 二 二 二 二 三 ‑ ̲ 。 1 0 W 劫 ≡ a J 2 ̲ ̲ . 0 3 , 0 . , % ' 冶 喝
r
・・一一一三 一釦
2 9
0 1 0z
lげ1
げ Numberofcycle NFJ ' g. 4 Re l a t i o nbt we e nTe n s
ileSt r e n g t hsa n dNu m t xro fCy c l e s
9 5 (音
さ当le^P
au
JtNumberofcycle N
Fi g. 5 Re l a t i onb e t we e nI mpa c t Va lu e sa n dNu mb e ro fCy c l e s
また低応力振巾
q 幸2 5 kgmm 2 ,N‑2× 105
では衝撃実験のみおこなった値に比べ て, ほ とんど変化は見 られず,低応力振巾α 幸2 5 . 5 kg/ mm 2 ,〟‑1× 1 0 6
に繰返 し数を増加す ると 衝撃値は急激に減少す る.播
t ur eSu r f a c e s
つぎに電子銃徴鏡観察の結果を
Pi 1 0t O .1‑Pho t o .4
に示す.主な 破面観察はFi g.6
に示す2
つの部分に分け,観察をおこなった.な おA
部およびB
部の境界は中心 より直径4mm
の円周上の部分である.Pho t 0.
1のA
部は延性による破壊の様相を現わ し,等軸Di mp l e
が 現われ,B
部はせん断による破壊と延性による破壊が組合さった軸長Fi g. 6 A an d
BDi mp l e
が観察され る・Si d e so fFr a c・ pho t 0.2
は衝撃実験のみお こなった破断面の電子顕微鏡観察である.Pho t o .2( a )
はA
部でぜい性破壊を示す典型的なへ き開破面が観察 さ れる.またへき開破壊が進行す る際,き裂が伝はす るにつれて合流する大 きなき裂の様相, すなわちr i ve rpa t t e
m も観察される.Pho t 0 .3
は疲労実験( q 幸2 5 . 5 kg /mm 2 ,N‑
1× 106)
秩,引張実験をおこなった電子顕微 鏡観察である.Pho t o.3( a )
はA
点で疲労のために生 じたSt r i a t i on
が観察され,引張実験に よるDi mp l e
も観察される.Phot o .3( b)B
部で疲労特有のSt r i a t i o n
が生 じている. この 結果,疲労によるクラックの進行は試験片の表面の部分か ら生 C,*JLl部に向って進行 して いることが分かる. しか し低応力振巾疲労のため完全に中心部まで達 していなものと考え ら長野 工 滋
l
・:6‑T・Lfir"】Jfu=校紀 柴・ 節 6
rjPh o t o.1 Cl l an g e so fEl e c L r on・ mi c r o g r a p
hlPr o du c e db yTe r ] s i onTe s t( ×1 9 5 0)
Ph o t o.2 Cha n g e so fEl e c t r o J 1 ‑ m ic r o g r a pht ' r o d u c e dbyI mp a c tTe s t( x1 9 5 0)
鋼 の疲 労過 G!に おけ る組 合せ応 力の膨懲 (節1蛾)
Phot o.4 Char ] ge so f
Electron‑mictographProducedbyれ, この ことは
Fi g.4
の敵枕的性質 の値 と対応 し て考 えてみ るとFi g. 4
の機械的性質 の値は上昇 して い る. またPhot o.3( a)
す なわちA
部にDi l l l pl e
が 観察 され ることに よ り完全に疲 労 の進行がお こなわ れ ていない ことが推察 され る.Phot 0.4
は疲労実験( q 幸2 5.5kg/mm 2
,N‑1×106)
倭 ,衝撃実験 をお こな った電子顕微鏡観察であ る.Phot o.4( a)
はA
部で疲労に よ りクラ ックが進 行 し, St r i at i on
と介在物が破面 をひ っか くために 発/Lす るTi r ct r a ck
も観察 され る.Phot o.4( b ) はB
部で粒 界ぜい性 破壊 お よびぜ い性破壊を'‑J<す‑き閲破壊が観察 され る.
「 」 」 。 /
̲
‑ く 二 ̲ d E 」 ̲ ̲ て 二 . ̲ 1 /
F
a t i g u e a l l d I m p a c t T e s t ( × 1 9 5 0 )
31
( N=l xl O6 ) ( N=2xl ♂)
( D) ( C)
Fi g.7 Char ) ge so fMa c r o・ s t ruc L ur e PT O du c e d by Fr s ct u re
( AlTen s i on
(B)Hi ghSt r e P s Ampl i L u d eFat i gu e ‑Ten s l Ol l ( C1( D) Low St r 甲SAmpl i t ude
FaL i gu e ‑Te ns i on
これ らの主 な巨視的破壊形状をFi g. 7
に'示す.Fi g. 7( A)
は 単純 ,jI張突放 の破断形状であ る. この場乱 r
l心 部 の平坦部は延性破壊 の様相 を示 し,Pl l Ot
0.
1のA
部に相当す る.Fi g.
7(B)は高応力振巾疲 労後,引張実験をお こな っ た ときの破断形状であ る.表面に近 い部分にぜ い性破壊の状態が観察 され,中心部にわずか に延性 に よるDi mp l e
が観察 され,疲労実験 のみで破壊 した ものに比べ て中心部に平坦 な部 分がな く,すべ てぜ い性 破壊の様相 を示 してい る. またFi g ・7
(C)お よび( D)
は低応力振 巾疲 労後,引版実験 のときの破断形状であ る.Fi g ・7
(C)はN‑2× 1
05 ,Fi g ・7( D)
はN‑
1×1 0 6
であ る.(C)と(D)を比較す ると,表面 に近 い部分のぜ い性破壊 の割合は (D)>
(C) で,繰返 し数Ⅳの上昇に したがい増
加 してい る.4 . 考 察
Fi g.3
より疲 労限界は8
種類 の応力について疲労実験 をお こな った結果,約2 5kg/m r T
12
と 成 りやや小 さめであ る.Fi g.4
よ りr知 己ノ)振 巾疲労 後の引張実験 について,・J搬 慮 さと破断 戯 さが単軸 引張 りよ り老 しく小 さく,特 に破断強 さは約1 /2
であ る. これは疲労に よってす べ りお よびすべ り帯が急激に進行 し,そ の後血 c r o‑c r a c k
が発生 し, さらにma c r o‑ cr ack
と3 2
長野工業高等専門学校紀要 ・第6
号なる現象が低応力振 巾疲労に比べて速 く進行するために,低繰返 し数Ⅳにおいて
c r ac kが発
生 し, この原田によってSt r i a t i on
が進行 し,Fi g.4
の繰返 し数N‑2×1 0
4において,す でにmi c r o ぺr aC k
が進行 しているために引張強 さと破断強 さが減少す るものと考えられ る.したがって
N‑2×1 0
4では降伏点は確認で きなか った.また低応力振巾疲労の場合は繰返 し数が増加す るとともに降伏強 さ,引張強 さおよび破断強 さのすべてが増加 している.掛 こ 降伏強 さの増加においては,試験片の表面に近い部分は疲労中に転位が増殖 され,増殖があ る部分に固着す るために力学的に応力集中がその場所にお こり, この応力集中が大き くな り 試験片が硬化す るために疲労後の引張強 さ,破断強 さも上昇す るものと考え られ る.顕微鏡 観察においてほ破断面のPhot 0.3
の( A)
部は引張 りによるDi mpl eが, ( B)
部は疲労に よ るSt r i a t i onお よび t i r とt r a c k
が観察 された.Fi g.5
より高応力振巾疲労後の衝撃値は極端 に小 さい,低応力振 巾疲労後の衝撃値 も減少 し,特に繰返 し数Ⅳ‑1× 1 0 6
では約1/3
に減少 している.この理由として考え られることは繰返 し数が増加す るとすべ りが発生 し,すべ り 帯が発生 し,表面にi n t r us i onや e xt r us i on
が形成 され,その後m i c r oヾr a c k
となるため, この進行過程によって衝撃値が変化す るので,この結果か らN ‑1× 106
ではすでにm i c E O I c r a c k
やc r a c k
が発生 しているため衝撃値は小さ く,N‑2× 105
ではまだm i c r o ‑ c r a c k
やc r a c k
が発生せず, この繰返 し数ではすべ りなどの発生段階 と考え られ るため衝撃値が変化しないものと思われ る.
5 . 結 論
疲労過程後の組合せ応力下の影響について研究 した結果,たとえば低応力振巾疲労突放に おいて,繰返 し数Ⅳが増加す ると
St r i a t i on
が発生す ることお よび衝撃値が低下するとい う 事実 より,実際使用 されている鋼材な どの回転物体には このような状態で使用 されている場 合が しば しばあ り,衝撃値の低下は危険であるので注意すべ きである.また引張実験およびね じり実験などの残留応力をあ らか じめ与えた後の疲労実験をおこな い,その組合せ応力下の影響を調べることに より破壊現象をさらに具体的に推察することが で きるものと思われ る.