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九州大学学術情報リポジトリ

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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

シンカテキ ケイサン シュホウ オ モチイタ チョウ カク ショウガイ ホショウ ニ カンスル ケンキュウ

大崎, 美穂

同志社大学工学部情報システムデザイン学科 : 専任講師 : 知能情報学, 感性情報学・ソフトコンピュー ティング, メディア情報学・データベース

https://doi.org/10.11501/3148623

出版情報:Kyushu Institute of Design, 1998, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

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氏名・本籍(国籍) 大崎美穂 (兵庫県) 学位の種類 博士(工学)

学位記番号 甲第35号

学位授与の日付 平成11年3月18日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当

学位論文題目 進化的計算手法を用いた聴覚障害補償に関する研究 審査委員会 幹事 教授 津村尚志

      委員 教授 岩宮眞一郎       委員 教授 高木英行

論文内容の要旨

 本研究は、Soft Computing 技術を聴覚障害補償に応用して従来の問題を解決するとと もに、新しい聴覚特性・聴覚障害補償の研究アプローチを提案することを目的としている。

さらに最終目標として、本研究で示す方法論が、人間を対象問題とする知識・感性情報処 理分野に広く展開されることも目指している。本研究ではこの目的に向けて、(1)人間とコ ンピュータの対話的操作における操作者の疲労軽減、(2)聴覚障害者の聴こえに基づく補聴 器のパラメータ最適化システムの構築、(3)トップダウン的な解析アプローチによる聴覚障 害補償の知見獲得、という3つの手続きを行なった。

 知識・感性情報処理研究では、人間から得た多くのデータを総合し、その情報処理や認 知のメカニズムをモデル化する、ボトムアップ的なアプローチが主流であった。しかし、

複雑で個人差や時間変動を伴う人間のメカニズムを完全にモデル化することは、原理的に 不可能である。そこで Soft Computing 分野において、人間の情報処理や認知の特性をブ ラックボックスにしたまま、人間が与える評価情報のみでシステム最適化を行なう、対話 型EC(Interactive Evolutionary Computation)が提案された。しかし、対話型ECには 繰り返し評価による操作者の疲労という大きな問題がある。これは対話型 EC に限らず、

人間とコンピュータの対話的操作を必要とする分野に共通の問題である。そこで本研究で は、(1)ヒューマンインタフェイス改善によって対話型EC操作者の疲労軽減を試みた。

 高齢化社会を迎えた現在、高齢者の社会活動を支援する福祉研究への注目が集まってい る。特に聴覚障害補償の分野では、ディジタル補聴器が開発され、入力音声に対して様々 な信号処理を行えるようになった。しかし、補聴器使用者が十分満足できる聴こえを実現 するのは、現在でも困難である。我々は、聴覚特性を個々に測定・総合することで聴こえ を推定する従来のボトムアップ的なアプローチでは、聴覚障害補償における多くの問題を 根本的には解決できないと考えた。そこで本研究では、(2)対話型 EC を補聴器で用いられ る信号処理パラメータ最適化に応用して、聴覚特性の事前測定が不要な自動フィッティン グシステム(IECフィッティングシステム)の実現を試みた。

 IEC フィッティングシステムは、知覚・認知レベル、および感性レベルを総合した最終

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的な聴覚障害者の聴こえを反映して、聴覚障害補償処理のパラメータを最適化する。した がって、IEC フィッティングシステムで設定されたパラメータを解析すれば、聴覚障害者 の聴こえに関する新しい知見を獲得できると考えられる。さらに、このようなトップダウ ン的な解析アプローチは、聴覚特性・聴覚障害補償の研究だけでなく、人間の情報処理や 認知のメカニズムを対象問題とする分野に広く展開できるだろう。そこで本研究では、

(3)IEC フィッティングシステムに基づくトップダウン的な聴覚特性の解析アプローチを提

案し、聴覚障害補償の知見を得る具体的な方法論を示すことを試みた。

 (1)対話型 EC 操作者の疲労軽減については、提示インタフェース、および入カインタフ ェースの改善手法を提案し、シミュレーションと心理実験を通して総合的な有効性検証を 行った。提示インタフェース改善では、人間が解候補に与える評価値を予測しその順序で 解候補を提示する手法を提案し、インタフェース改善への知見を得た。入カインタフェー ス改善では、人間が離散的な評価値を入力できる手法を提案し、有意な疲労軽減効果を示 した。

 (2)IEC フィッティングシステムの実現については、新しい聴覚障害補償処理としてラウ ドネス空間構成法を提案した。そして、インタフェース改善研究で得られた成果に基づき IEC フィッティングシステムを実際に構築して、その有効性を検証した。模擬難聴処理を 施した健聴者と聴覚障害者に対して、提案システムの操作、および評価実験を行った結果、

従来法よりも高い音声明瞭度と大幅な音質向上が見られた。さらに音声だけでなく、従来 ほとんど研究がなされていない音楽聴取にも提案システムを応用し、有意な音質の向上効 果を示した。

 (3)トップダウン的な解析アプローチの提案と聴覚障害補償に関する知見獲得については、

ラウドネス関数に関する知見、およびパラメータ設定の対象音依存性に関する知見を得る 方法論を示した。まず、提案システムで得られるラウドネス空間からラウドネス関数を抽 出する手法を提案し、抽出されたラウドネス関数と従来法によるラウドネス関数の違いに 関する知見を得た。次に、音声の場合、音楽の場合、音声と音楽を比較した場合のそれぞ れで解析実験を行い、提案システムで得られるパラメータ設定の対象音依存性に関する知 見を得た。さらに、ラウドネス空間、もしくはラウドネス関数の形状の差異を、誤差によ って定量的に表す方法を検討した。

 本研究は、Soft Computing 技術を聴覚特性・聴覚障害補償研究に応用した複合研究で ある。人間とコンピュータの対話的操作における疲労軽減および Soft Computing 技術の 聴覚特性・聴覚障害補償研究への本格的な応用は従来ほとんど行われていないため、本研

究が Soft Computing 技術の応用展開に貢献できると考えられる。また、本研究で提案し

た lEC フィッティングシステムと聴覚特性・聴覚障害補償研究の新しいアプローチは、従 来の研究アプローチの根本的な問題を解決するとともに、両アプローチによる多面的な研 究展開を可能にするであろう。さらに本研究から得られる成果は、Soft Computing技術、

聴覚特性・聴覚障害補償研究にとどまらず、人間を扱う知識・感性情報処理分野に広く応

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用できると期待される。

論文審査の結果の要旨

 知識・感性情報処理の研究分野では、人間から得た多くのデータを総合し、その情報処 理や認知のメカニズムを検討するパラダイムとしてボトムアップ的なアプローチが主流で あった。特に、聴覚研究や聴覚障害補償の分野では、従来のボトムアップ的なアプローチ だけでは基本的に解決できない問題が多い。その根本的な問題は、音の聞こえは聞く本人 ににしか分からないということである。一方、ソフトコンピューティングの分野において、

人間とコンピュータとが対話的にシステムを最適化する技術として対話型進化計算(IEC)

が提案されている。この技術によって、システム出力に対する操作者の評価、評価結果に 対応するシステム出力という繰り返しによって、最終的には操作者の好みのシステムの最 適設定が可能となる。

 本論文では、このIEC 技術を用いて聴覚研究や聴覚障害補償における新しいトップダウ ン的アプローチを提案し、具体的には被験者として健聴者と聴覚障害者を使って、(1)IEC 操作者の疲労軽減、(2)聴覚障害者の聞こえに基づく補聴器フィッティングシステムの構築、

(3)最適化されたシステムの設定パラメータ解析による聴覚障害補償に関する知見獲得、に ついて検討している。

 第1章は序論であり、研究の背景、目的、目的実現への方法について説明している。

 第2章では、この研究で用いるIEC技術に関する説明を行っている。

 第3章では、従来の聴覚特性・聴覚障害補償に関する説明を行っている。

 第 4−5 章では、IEC をより実用レベルにするため、ヒューマンインタフェースの改善 方法を提案し、操作者の疲労軽減を試みている。第 4 章では評価値の入力インタフェース の改善、第 5 章では解候補の提示インタフェース改善を行い、シミュレーションと主観評 価実験でその有効性を示した。

 第 6章では、新しい補聴器のフィッティングに向けて 2つの提案を行なっている。第 1 に lEC を組み込んだ IEC フィッティングシステムを提案し、第 2 に新しい聴覚障害補償 の方法としてラウドネス空間構成法を提案している。

 第 7 章では、第 4−6 章の提案と得られた成果に基づいて、IEC フィッティングシステ ムを設計し実際に構築した。

 第 8−9章では、健聴者と聴覚障害者を用いて、音声聴取における IEC フィッティング システムの有効性を検証している。提案システムで処理した音声の音質の主観評価実験と 明瞭度試験を行った結果、音質、明瞭度の両方を有意に向上させることが示された。

 第 10 章では、今までほとんど研究がなされていない、音楽聴取の補償に用いた場合に ついても、IEC フィッティングシステムの有効性を検証している。音声と同様の手順で、

主観評価実験を行った結果、音楽でも音質の有意な向上が示された。

 第 11 章では、IEC フィッティングシステムに基づくトップダウン的な解析アプローチ

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の提案として、聴覚障害補償に関する知見獲得とその方法論を示している。具体的には、

ラウドネス関数に関する知見獲得、パラメータ設定の対象音依存性に関する知見獲得、知 見に対する定量的な測度の検討を行っている。

 第12章は結論であり、そこでは、本論文をまとめるとともに、今後の展開として、IEC フィッティングシステムの改善、提案アプローチの知識・感性情報処理分野への展開、な どについて検討している。

 以上、本論文は、IEC 技術を聴覚特性や聴覚障害補償の分野に応用して、従来の手法で は不可能な知見を得ることの出来た学際的研究であり、また、本研究で提案したアプロー チは知識・感性情報処理の分野まで展開可能であり、その学術的意義は高く、補聴器フィ ッティング技術の進展に与えたインパクトは極めて大きいと考える。

 よって、本論文は博士(工学)の学位論文に値するものと、本委員会は認めた。

最終試験の結果の要旨

 最終試験を兼ねた公開発表会が、学内の聴覚、ソフトコンピューティング関係研究室、

学外からは医学耳鼻咽喉科学、企業の補聴器部門や補聴器メーカーその他の研究者の参加 の下に開催された。

 著者の発表に対して、実験で用いた聴覚障害者の聴力や受聴条件などに関する具体的な 実験条件、高齢聴覚障害者の場合の対話やシステム操作上の困難に対する対処法、本実験 で用いた比較的少数の聴覚障害者から得られた結果の一般性、受聴の際の外部騒音環境が 変わった場合の本システムの融通性・汎用性、補聴器フィッティングを行うときの被検者 の疲労軽減に対するシステムの有効性、本システムの実用化での問題点、その他について 活発な質疑が行われた。いずれも著者から納得のいく説明がなされ、これらの質疑を通し て、医学系や企業の研究者からのコメントは好意的であった。

 公開発表会終了後、審査委員会委員合議の結果、試験は合格と決定した。

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