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地方自治体における外国籍住民政策

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(1)

著者 三宅 聖子

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 3

ページ 293‑314

発行年 2002‑02‑28

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004744

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地方自治体における外国籍住民政策

三 宅  聖 子

あらまし

 バブル経済期以降の外国人労働者の大量入国 からすでに 15 年以上が経過し、現在では外国籍 の住民は日常的に地域社会に居住している。そ して現在、社会の少子高齢化により、外国人労働 者の計画的受け入れが議論され始めている。し かし、外国人が地域社会に日常的に居住してい るという事実は、現在の日本において、外国人が 外国籍住民として地域社会に認知され、人権が 保障された、差別や偏見を受けない生活を送っ ていることを意味してはいない。

 従来、日本における「外国人問題」は、資格外 就労や超過滞在といった、法違反の問題として 捉えられ、議論されてきた。しかし「外国人問題」

とは本来、現在の日本において、適正な法手続き により入国し、合法的な在留資格と在留期間を 保持しながら居住している外国人が、地域にお いて外国籍住民として、国際的人権保障の基準 で人権が保障された生活が営めているか、とい う問題である。本稿は、従来の議論の中で最も本 質的でありながら欠落していたこの問題につい て論じる。

 まず、現在の国際社会における外国人の人権 保障の論理とメカニズムについて考察したうえ で、国と地方自治体の政策について現状を分析 し、課題を抽出したうえで、日本に居住している 外国人の人権が国際的人権保障の基準で保障さ れているか検証する。そして現在の政策の不在 を指摘し、その必要性を論じたうえで、地域にお いて外国人の人権を今後どのように保障してい くか、今後の政策の方向性を提示する。

1.はじめに

 世界的な経済・文化・社会的交流の増大、いわ ゆるグローバル化は、労働者や難民という形で の大規模な人口移動を引き起こし、今や人口の 数パーセントから十数パーセントの外国人人口 を抱えるに至っている国も珍しくない。

 これらの外国人の中には、単なる一時的な滞 在者としてではなく、外国籍住民として社会の 恒久的な構成員としての生活を営んでいる者も 多い。つまり、これらの国々は今後、自国の国民 と無視できない人口割合を占める外国人からな る、多民族社会を運営していかなければならな い。このことは、19 世紀から国際社会を形成し てきた国民国家体制を変質させ、今後の国際社 会のあり方を大きく変えようとしている。

 日本における外国人受け入れの歴史は、明治 時代の「お雇い外国人」から始まり、決して浅く はないが、その受け入れは常に限定的・管理主義 的であり、出入国管理行政での管理が可能な規 模であった。その範囲においては、外国人の人権 保障について問題が指摘されることはあっても、

社会問題化することはなかった。

 しかし、バブル経済に伴う 1980 年代中期以降 のニューカマーズ(new comers)1と呼ばれる外 国人の流入は、かつて日本が経験したことのな い大量かつ急激なものであった。それからすで に 15年以上が経過し、1984年末は 84万人であっ た外国人登録者数は、1999 年末には 155 万人と なっている2。そして、その中のかなりの外国人 が、すでに「外国籍住民」として日本での「定住」

への道を歩んでいる。

    1  1980年代中期以降、主にアジア・南米から新規入国した外国人を意味する。これに対し、いわゆる在日韓国・朝鮮・台湾人はオー

ルドカマーズ(old comers)と呼ばれる。

  2  平成 12 年5月法務省入国管理局「外国人登録者統計」による(法務省ホームページより)

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 1980 年代中期から現在に至るまでの、彼らの 日本への定住化の過程を概観してみると、大き く三つの時期に分けて考えることができる。

 第一期は、1980 年代中期から、1990 年6月の 改正「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管 法」という。)施行までである。この時期は、主 に大都市と地方工業都市への、若い単身の短期 労働者の入国が中心であった。地域社会では、彼 らの大量かつ急激な流入に伴う問題の噴出と混 乱への対応に追われた(住宅問題、ゴミ出しルー ルの問題など)。こうした状況の下、国民の関心 も高まる中で、「外国人労働者の受け入れ是非」

をめぐる政策論争が、冷静な事実認識に基づか ないままジャーナリスティックに展開された結 果、1989 年 10 月に入管法が改正され、1990 年6 月に施行される。この入管法改正により、「定住 者」及び「日本人の配偶者等」という在留資格の 新設、「技能実習制度」の創設が行われ、入管法 上はあいまいな形で、しかし実質的な単純労働 者の受け入れが開始される。

 第二期は、1990 年6月の改正入管法の施行か ら、1990 年代中期までである。改正入管法の施 行に連動して、厚生省によって社会保障制度に おいて外国人に対する適用制限が行なわれるよ うになり、社会保障制度から実質的に外国人を 排除する運用がされるようになる。一方、1991年 を頂点とするバブル経済の崩壊を契機として、

外国人労働者は地方へ分散し始める。また、滞在 の長期化による実質的な定住が始まり、滞在形 態も単身者型から(日本人との婚姻も含めた)家 族居住型への移行が進んだ。それに伴い、次第に

「生活者」あるいは「居住者」としての側面が色 濃くなり、生活全般の諸問題が噴出してきた。社 会保障や子どもの保育・教育の問題はその典型 例である。

 第三期は、1990 年代中期以降である。いわゆ る在日韓国・朝鮮・台湾人に対する地方参政権や 公務員任用の問題が浮上するとともに、定住化 傾向を強めるニューカマーズを含めて、地域社 会における外国籍住民の「参加」問題や「共生」

のあり方が、地方自治体レベルにおいて大きな

課題となりつつある。つまり、日本人と外国籍住 民が、社会生活や文化生活を含めて共生する地 域社会をどう構築するかが、課題となってきて いるのである。

 この 15 年間の最大の変化は、外国人が地方へ 分散し、定住化が拡大したことにより、職場、学 校、地域、家庭での身近な体験を通じて様々な外 国人がいることを、日本人が具体的に知るよう になったことである。すでに地域社会では、地域 によってそこへ至る過程に違いはあっても、そ れぞれの出身国の歴史的、社会的、政治的背景に 裏付けられた多様な文化、行動形式、考え方、価 値観を持った人々との共生が始まっている。今 や、外国籍の住民が地域社会に存在することは 日常的な風景となっており、マスメディアで ジャーナリスティックに取り上げられることも 少なくなった。そのため、一般には「外国人問題」

は沈静化したという、皮相な認識が定着しつつ あるように思われる。しかし、それは外国人が、

外国籍住民として地域社会に認知され、人権が 保障された、差別や偏見を受けない生活を送っ ていると理解してよいのだろうか。日常化する ことにより、むしろ問題が埋没し、置き去りにさ れているのではないだろうか。

 従来、「外国人問題」は、資格外就労や超過滞 在という、法違反の問題のみがクローズアップ され、出入国管理行政における管理の強化とい う形で対応されてきた。しかし本稿では、あえて この問題には触れない。現在の日本における「外 国人問題」で最も重要なのは、適正な法手続きに より入国し、合法的な在留資格と在留期間を保 持して居住している外国人が、外国籍住民とし て人権が保障された生活を営めているのかとい う問題だからである。だが、この点から「外国人 問題」が論じられることはほとんどなかった。本 稿では、「外国人問題」の、最も本質的でありな がら欠落していた部分について、ニューカマー ズのうち合法的に滞在している外国人を中心に 論じてみたい3

  3  現在まで、日本国憲法下で外国人の人権や政策を論じるときに、その主要な対象と考えられてきたのは在日韓国・朝鮮・台湾人 であり、この領域の問題の具体例としては、彼らに対する差別が常に引き合いに出されてきた。彼らは外国人登録法上の登録者 数でも大きな割合を占めており、また日本に居住するに至った理由や原因も特殊である。法的、社会的な差別の歴史や、日本政 府の朝鮮半島政策などが絡んで問題を複雑にしているが、在日韓国・朝鮮・台湾人などの問題は、基本的に日本の戦後処理問題 であり、日本が現在直面している外国人問題とは次元の違う問題である。

(4)

2.国際的人権保障の展開 2.1 国際的人権保障の展開 

 グローバル化がもたらした国家の多民族化は、

19世紀から国際社会を構成してきた単位である、

「国民国家4」という枠組みの前提を大きく崩し、

変質させつつある。一方、これまで個人の自由と 対立するものと考えられてきた国家は、国内に おいては福祉や財産の保護、国外においては生 命の安全や身分保障など、権利の保障装置とし てその機能が必要とされ、個人の国家依存が強 まっている。

 従来の国民国家においては、「国籍」によって 領域内に居住する個人を「国民」と「外国人」と に区分し、国家はもっぱら「国民」の権利保障を その責務としていた。しかし、多民族化した国家 では、従来の国籍を基準とした国民と外国人の 二元主義的枠組みで国家を運営していくことが 困難になりつつある。そのため、領域内に居住す る全ての個人、すなわち居住国の国籍を持たな い外国人の権利をも保障する、概念とメカニズ ムの構築が必要とされてきているのである。

 そこで国際社会は、生存権・社会保障権に限っ て言えば、より普遍的な「人権」を根拠として、

個人の権利保障をしようとしている。現在の国 際的人権保障の流れは、人権(ここでは生存権・

社会保障権)を人類の普遍的価値とし、国際社会 の共通基盤として国家の主権を超えて保障し、

その保障を確保する国際的メカニズムを構築し ようとしているのである。その基本となる包括 的概念が「内外人平等待遇の原則」であり、この 原則は、個人を「国籍」や「国民」という概念か ら切り離し、国家に対してその領域内に居住す る外国人を含めた全ての個人に、平等に生存権・

社会保障権を保障することを要求する。

 この内外人平等待遇の原則は、生存権の人類 普遍性を根拠に、1948年の「世界人権宣言5」や1951 年の「難民の地位に関する条約(難民規約)6」、 1966 年の「経済的、社会的及び文化的権利に関 する国際規約(国際人権規約社会権規約)7」、「市 民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人 権規約自由権規約)8」といった国連による国際 規範の設定活動において提唱されるようになっ た。

 一方、これらの国連の活動とは別に、この原則 の実質的な定着には ILO が大きな役割を果たし てきた。ILO は 1919 年の設立当初より、「国籍を 持つ、持たないというそれだけの差異しかない 人間間の待遇の平等化9」を狙いとする内外人平 等待遇の原則を中心に、外国人労働者の人権保 護のための国際規範の確立を図り、そのために 多くの条約や勧告を採択していった。その中で も重要なのが、1962 年に採択された「社会保障 における内外人平等待遇に関する条約(第118号 条約)10」であり、これが現在における内外人平 等待遇の原則についてのILO基準となっている。

 このように、国連とILOによる条約や勧告の採 択の形を通して、国際的に「内外人平等待遇の原 則」が打ち出され、現在ではこの原則は、これら の条約を批准すると否とを問わず、各国の遵守 すべき国際規範となっている。現在では国家は、

国籍の有無ではなく居住の事実により、その領 域内に居住する個人の人権を保障する義務を 負っているのである。

2.2 日本における外国人の法的地位  では、その国際規範たる「内外人平等待遇の原 則」は、日本においてはどのように実現されてい るのであろうか。

  4  同質的な一つの民族が独自の主権国家を持っている場合、それを「国民国家」と呼ぶ。 [梶田 96] p.347

  5 「国民的若しくは社会的出身…によるいかなる差別もなしに」(第2条1項)「すべての人は社会の一員として、社会保障を受け る権利を有し」(第 22 条)

  6 「合法的にその領域内に滞在する難民に対し、公的扶助及び公的援助に関し、自国民と同一の待遇を与える」(第 23 条)「合法的 にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項(労働法制及び社会保障(筆者))に関し、自国民に与えると同一の待遇を与える」

(第 24 条)

  7 「国民的若しくは社会的出身…によるいかなる差別もなしに」(第2条2項)

  8 「国民的若しくは社会的出身…によるいかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な保護をすべての者に保障する」(第 26 条)

  9  ILO,op.cit., Equality of Treatment(social security) ,p.66

10  日本は未批准。

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 まず法理論からみると、日本国憲法において は、外国人には原則的に基本的人権の享有主体 性を認めつつも権利の性質によっては除外する

「権利性質説」が、現在の通説11及び判例12となっ ている。それにより、憲法 25 条で保障されてい る生存権については国民固有の権利であり、外 国人には認められないとする。つまり日本にお いては、1981 年の難民条約加入をきっかけに社 会保障関係法令から国籍条項が撤廃されたが、

それらの法令は外国人の権利として保障された 上で適用されるのではなく、あくまでも立法政 策上適用されるにすぎないということになる。

日本では、いまだに外国人の生存権・社会保障権 の享有主体性を肯定する法理論は構築されてお らず、法律学はその他の基本的人権の保障につ いても、立法・司法・行政に対して具体的な判断 基準を提示できていない13。国際規範として内外 人平等待遇の原則が定着する一方で、日本国内 における憲法上の生存権・社会保障権の外国人 の享有主体性についての理解は、いまだに全く 正反対の方向を向いているのである。

 日本における外国人政策の大きな特徴は、外 国人に対するさまざまな法律の適用や運用にお ける在留資格主義、入管法と外国人登録法に よって性格や出自の異なる多様な外国人を一元 的に管理している管理主義にあり、それを判例 も追認している。判例は、生存権以外の基本的人 権の保障についても、その保障の実際は入管法 に基づく法務大臣の裁量によって認められる

「在留資格」を前提とするとしているのである14

国境で外国人の出入国を管理することは、国家 の主権として認められていることであるが、日 本は諸外国と較べても、出入国管理における国 家の裁量的決定権の範囲が広い。そして、そこに は行政の恣意性が介在し、在留資格の認定に際 しては、日本への貢献度がその尺度となっている。

 1990 年に施行された改正入管法では、在留資 格の種類や範囲の全般的な見直しと整備が行な われたが、事実上の単純労働者受け入れのため に新設された在留資格である「日本人の配偶者 等15」及び「定住者16」、風俗産業への従事者が大 多数である「興行17」という在留資格は、法の建 て前では就労資格ではない。彼らは、あくまでも

「暫定的な滞在者」であって、たとえ生活実態が 労働者であり、定住化しようとも、その基本的な 位置付けは原則として変更されない。ここに、在 留資格と生活実態のずれが生じる大きな原因が ある。また、日本において外国人に許可される在 留期間は、「永住者」を別として最長 3 年18、一般 的には3カ月、6カ月または1年ときわめて短 い。そして、その更新手続きも繁雑であり、更新 が認められないことも多い19。こうした、在留資 格と生活実態のずれ、諸外国に比べると極端に 短い在留期間とその更新の困難さ20も、外国人の 法的地位を不安定なものとし、彼らの権利保障 の大きな阻害要因となっている。

 このように日本においては、外国人の生存権・

社会保障権の享有主体性を肯定する法理論の不 在と、排他的で管理主義的な出入国管理行政が、

外国人の法的地位をきわめて不安定なものとし、

11 [宮沢 59] p.235 以下、[芦部 84] p.6 以下

12  マクリーン事件判決「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き、在留外国人にも等しく及ぶ」(最 大判昭 53.10. 4民集 32 巻7号 p.1223)

13  [畑・水上 99] p.213

14  前掲判決「外国人の在留許可は国の裁量に委ねられ、…したがって外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国 人在留制度の枠内で与えられているものと解するのが相当であって、在留の許可を拘束するまでの保障…は与えられていない」

15 「日本人の配偶者…又は日本人の子として出生した者」(入管法別表第二)。南米出身の日系2 世は、この在留資格により入国する。

滞在中の活動に制限はないため、実質的には、単純労働者が多い。

16 「法務大臣が特別な理由を考慮し、一定の在留期間を指定して居住を認める者」(入管法別表第二)。3世以降の日系人はこの在 留資格で入国する。「日本人の配偶者等」と同じく滞在中の活動に制限はない。

17 「興行」による入国者は、「本人の芸術性の発揮が大きな要素」であり、労働者ではないというのが労働省の解釈である。

18 「外交、公用及び永住者の在留資格以外の在留資格に伴う在留期間は三年を超えることができない」(入管法第2条2項)

19  在留期間の更新許可申請には、多くの書類の提出が求められ、更新が許可されるまでに3〜6カ月を要するのが一般的である。ま た、不許可となる場合も多い。許可申請中は、パスポートに申請中である旨のスタンプが押され、申請中に在留期間が切れても 超過滞在として法違反には問われないが、実際に許可されるまでの間は、合法的滞在でも非合法でもない、不安定な状態におか れているのが実態である。

20  ドイツでは1990年の外国人法の改正により、滞在期間5年で無期限の滞在許可を、8年で滞在権(事実上の追放措置を受けない)

を付与しており、長期滞在外国人の法的地位を安定化させている。フランスも3年以上合法的に滞在した外国人には 10 年の居住 者証(ほぼ自動的に更新可、労働許可証と一本化)を付与している。

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安定した生活と人権の保障を阻害している。こ のような状況を許容している原因は、法律学が 従来の国民国家体制意識から意識転換しておら ず、きわめて保守的な解釈のまま新たな法理論 の構築を怠ってきたこと、そのことに便乗して 行政も適切な対応をしてこなかったこと、そし て「人権」より「国益」を優先させる日本独特の

「公共の福祉」概念の存在21である。

 しかし、生存権および社会保障権の享有主体性 が外国人においては認められないとする学説や判例 があり、外国人の処遇は立法政策の範囲内という通 説が日本において国内的に支持されるとしても、国 際的人権保障の論理(本章第1節参照)では、現在 では国家は、ひとたび入国した外国人に対して、人 権を保障する義務を負っているのである。

2.3 地方自治体における外国人の人権 保障の状況

 このように日本においては、外国人の法的地位 がきわめて不安定であるが、外国人が実際に外国 籍住民として居住し、日常生活における行政サー ビスの実質的な供給主体となる、地方自治体にお ける外国人の人権保障の状況はどうであろうか。

 地方自治法上、外国籍住民は地方自治体の住 民として、さまざまな行政サービスの対象とし て位置付けられるべき存在であり、地方自治体 は国と同様に、外国籍住民の生存権・社会保障権 の保障責任主体である22。しかし、実際に地方自

治体が外国籍住民の人権保障政策を展開しよう とする場合、国との関係が問題になってくる。

 日本では明治時代から強力な中央集権型行政 システムが継続してきた。機関委任事務制度を 中心に23、国と地方自治体の関係が上下・主従と いう形に構築され、その結果、地方自治体は、機 関委任事務においてのみではなく、その業務全 般において広く国の関与を許容するようになっ た。法制度上ばかりではなく、実態上も意識上 も、国の下部機関と化したのである。

 本来、地方自治体は機関委任事務をも含む業 務全般について、自らの判断と責任において執 行する義務がある24。しかし、法的拘束力はない 国の監督や通達が実質的に法律以上の影響力を 持つ、いわゆる「通達行政」と言われる国との関 係の下で、地方自治体の現場においては、国の下 部機関として、これらの国の監督や通達に忠実 に事務が行われているのが現実である。

 このことは、外国籍住民の生存権・社会保障権 の保障に関連する事務においても例外ではない25。 外国籍住民の生存権・社会保障権を実際に保障 する社会保障制度の運用については、厚生省よ り通達が多く出されており、これらの通達の内 容は、排他的かつ管理主義的な出入国管理行政 に連動している(第3章第1節参照)。しかし地 方自治体の現場では、やはりこれらの国の監督 や通達に忠実に事務が行われており、主体的に 外国籍住民の生存権・社会保障権を保障しよう という意識は薄い26

 このような状況の中で、1999 年7月「地方分

21  日本の「公共の福祉」概念は、国際的人権保障の本旨に反するものとして、かねてから国際社会は、より詳細で限定的な制限の 論拠を求めている。 [江橋00] p.73

22 「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民」(地方自治法第 10 条1項)であり、「住 民は、法律の定めるところによりその属する普通地方公共団体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を分任する義 務を負う」(同法第 10 条2項)とともに、地方自治体は「住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する」(同法第2条3項 1 号)義務がある。

23  この制度は、1879 年の市制・町村制施行から、2000 年4月の改正地方自治法施行により廃止されるまで続いた、国政事務の処理 形式である。従来、地方自治体の事務は、大きくは自治事務と機関委任事務に分けられ、自治事務はさらに公共事務・団体委任 事務・行政事務に分けられていた(旧地方自治法第2条2項)。機関委任事務は法制度上は国の事務とされ、地方自治体は、その 執行にあたっては法制度上、事務を委任した国の下部機関とされ、国の包括的指揮監督権の下にあった(同法第 148 条及び第 150 条並びに別表三及び四)。機関委任事務の割合は、市町村で経常業務の約4割、都道府県では8割に達していたと言われる [兼子 97] p.249。

24 「普通地方公共団体の執行機関は…法令、規則その他の規程に基く当該普通地方公共団体及び国…の事務を、自らの判断と責任 において誠実に管理し及び執行する義務を負う」(地方自治法第 138 条2項)

25  社会保険関連事務、国民年金事務、外国人登録事務は機関委任事務であり、国民健康保険事務、生活保護の決定・実施事務は団 体委任事務であった。団体委任事務は、委任者の監督権を認めていない。 [原田 95] p.90

26  中央集権型行政システムが続いてきたのは、国が機関委任事務制度により地方自治体を拘束してきたことだけが要因ではない。 方自治体のほうも行政の根拠や判断基準を国に依存し、地方自治体相互で横並びの行政を実施してきた結果でもある。特に生存 権・社会保障権については、憲法 25 条を根拠としていることから国の責任が強調され、地方自治体は自らも実施責任主体である との自覚がきわめて弱かった。 [大谷97] p.33-37

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権の推進を図るための関係法律の整備等に関す る法律」(以下、「地方分権一括法」という。)が 成立し、2000 年4月から施行された。これによ り機関委任事務制度が廃止され、その多くが地 方自治体の自治事務もしくは法定受託事務とな り27、この制度を中心に上下・主従関係にあった 国と地方自治体の関係が、法制度上は対等・協力 の関係に変わることになった。また、国の地方自 治体に関与するルールが明確化され28、今までの ような恣意的な規制や包括的な監督権は認めら れなくなった。従前の国の監督や通達も、その根 拠を失ったのである。

 地方自治体は法定受託事務の受託を拒否する ことはできないが、法定受託事務の委託・受託関 係には機関委任事務制度とは違って契約的要素 が含まれており29、国と地方自治体の関係が従来 の上下・主従関係から脱する可能性を内包して いる。しかし地方分権一括法施行後も、従前の国 の通達から離れて独自の法解釈に基づき施策を 展開しようとしている地方自治体はなく、現在 のところ、機関委任事務の法定受託事務化は、機 関委任事務制度の修正段階にとどまっている。

 社会保険関連事務が国の直接執行事務となり、

地方自治体における事務の多くが法定受託事務 となったことから、地方自治体における外国籍 住民の人権保障は、今後も国との関係が問題と なってくるであろう。地方自治体が法制度上の みではなく、実態上も意識上も、自らの責任と判 断において外国籍住民の人権を保障していくこ とができるかどうかは、今回の地方分権一括法 施行により、国と新たな関係を構築することが できるかどうかにかかっていると言えるであろ う。

3.日本における外国人の人権保障の現状 と課題

3.1 国における外国人政策の現状と課題

(1) 基本政策  ① 基本政策の現状

 日本は現在でも、定住難民を除いて基本 的に永住や定住を目的とした外国人の入国 を認めておらず、「国益」を基準とした限定 的かつ排他的受け入れを基本としている。

 1980 年代の社会保障関係法令における国 籍条項の撤廃も、インドシナ難民問題に対 する国際圧力による 1981 年の難民条約への 加入を契機としたものであり、国の外国人 政策が転換されたものではない。1990 年の 改正入管法施行による実質的な単純労働者 の受け入れ開始についても、あくまで「暫定 的な滞在者」の入国という建て前を堅持し つつ、産業界からの労働力需要を充足する という「なし崩し」的なもので、政策として 受け入れ方針が明確に打ち出されたもので はない。

 そのため、外国人労働者が地方自治体に おいて「外国籍住民」として定住化しつつあ る現実についても、国の政策上は、彼らは

「存在しているはずがない」建て前のままで あり、日本において現状と将来を見据えた 総合的な基本政策は、いまだ存在しない。

 ② 基本政策の課題

 外国人労働者の問題は、「労働力の導入」

という、もっぱら経済問題との関係で対応 されてきた。その結果、労働力需給調整機能 という、「国益」を基本とした出入国や国籍 の管理が中心となり、「居住者」としての外 国人に対する生活上の配慮がほとんど考慮 されていない。本来、いかなる形であれ外国 人の入国を認めるならば、同時に日本にお ける生活の保障も視野に入れていなければ ならない。しかし実際は、日本人に合わせて 作られた制度を、いかに外国人に制限的に 運用するかに腐心しているのである。

27  従来の機関委任事務は、国の直接執行事務、もしくは地方自治体の自治事務・法定受託事務に区分された。法定受託事務とは、本 来的には国の事務であるが、利便性・効率性から地方自治体が処理する事務である(地方自治法第2条9号及び 10 号並びに別表 第二及び第三)。外国籍住民の生存権・社会保障権の保障に関連する事務のうち、社会保険関連事務は国の直接執行事務に(脚注 69 参照)、国民年金の窓口事務と外国人登録事務は法定受託事務となった。また生活保護については、生活保護の決定・実施事務 は法定受託事務に、相談・助言事務は自治事務となった。

28  法定主義、一般法主義、書面主義など。

29  [芝池 97] p.40

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(2) 出入国管理政策  ① 出入国管理政策の現状

 日本の外国人政策の大きな特徴は、国内 に居住する外国人に対するさまざまな政策 や制度の運用が入管法上の「在留資格」制度 に大きく依拠していること、入管法と外国 人登録法によって外国人を一元的に管理し ていることである。

 その在留資格の認定に際しての行政の裁 量権は非常に幅広く30、その恣意的、管理主 義的運用が国の外国人政策、また外国人の 人権保障に大きな影響を与えている。事実 上の単純労働者受け入れのために新設した

「日本人の配偶者等」・「定住者」・「興行」と いった在留資格による入国者を、あくまで も労働者として認めないなど、出入国管理 行政における在留資格による管理の厳しさ が、彼らを社会的弱者へ追いやり、資格外就 労や法違反、人権侵害の要因となっている のである31

 ② 出入国管理政策の課題

 日本において外国人の人権侵害は、出入 国管理行政を中心とする行政により、構造 的に作られていると言える。何よりも、出入 国管理政策上、「存在しているはずがない」

はずの外国人労働者が大量に入国し、外国 籍住民として定住化しているという現実は、

現在の出入国管理行政が破綻していること を意味している。

(3) 社会保障政策  ① 社会保障政策の現状

 1981 年の難民条約への加入は、社会保障 関係法令から国籍条項の撤廃を促し、日本

における外国人の生存権・社会保障権の保 障を大きく進展させた。これにより社会保 障制度は外国人にも適用されるようになり、

日本における内外人平等待遇の原則は、法 律上は大きく前進した。しかし、その後の外 国人労働者の大量流入に対する日本の対応 はきわめて消極的なものであり、外国人の 人権保障上、欠かすことの出来ない社会保 障制度の運用はむしろ後退している。

 改正入管法が 1990 年6月に施行される と、それに連動する形で 1990 年6月に厚生 省は、「外国人労働者の受け入れ問題につい ては、外国人労働者の生活の保護・安定と、

受け入れに伴う種々の社会的コストとの両 面に留意しながら、慎重に検討する必要が ある32」という基本的立場を示したうえで、

社会保障制度に口頭指示や通達で適用制限 を設け、その結果、法とその運用との間には 大きなギャップが生じるようになる。

 まず生活保護制度において、1990 年 10 月 に「非定住外国人の緊急医療に生活保護を 適用しないことを求める」旨の口頭指示33が あり、続いて健康保険制度において 1992 年 3月に、「健康保険は適法に就労する外国人 に限定34」し、「国民健康保険は外国人登録 があり、かつ1年以上の滞在、または滞在が 見込まれる者に限定35」する厚生省通達が出 された。この口頭指示と通達により、「留学」

や「研修」など、就労を認められない在留資 格で入国した1年未満の短期的滞在者は、

合法的在留資格と在留期間を持つにもかか わらず、入国時より社会保障制度から排除 されるようになったのである。出入国管理 行政の裁量によって決定された「在留資格」

30  出入国許可、在留資格、在留期間は法務大臣(実際は入国管理官)の裁量で決定される。また、在留資格についても、例えば「定 住者」については「法務大臣が特別な理由を考慮し、一定の在留期間を指定して居住を認める者」(入管法別表第二)となってお り、在留資格の性格付けすら法務大臣の裁量に委ねられている。

31  たとえば「興行」という在留資格は、事実上は風俗産業への従事者が大多数であり、外国人労働者の中で大きな比重を占めるに もかかわらず、「本人の芸術性の発揮が大きな要素」であり労働者ではないという労働省の「解釈」により、労働者として当然保 障されるべき権利が保障されないばかりか、社会保険に加入できない。また、入管法上「興行」の在留期間は1年未満に限られ るため、国民健康保険にも加入できず、緊急医療において生活保護の対象にもならない。その他、留学生のアルバイト時間の制 限や、「家族滞在」という在留資格での入国者には就労が一切認められないことなど、外国人及びその家族の日本での安定した生 活を考慮しているとはとても考えられない。

32  1990 年6月厚生省報告「外国人労働者問題と厚生行政の課題」による。

33  平成2年 10 月 25 日厚生省全国生活保護指導職員ブロック会議における口頭指示。

34  平成4年3月 31 日付保険発 38 号通達

35  平成4年3月 31 日付保険発 41 号通達

(9)

を基準として制度が運用がされることは、

法が適用を認める社会保障制度が、まず出 入国管理行政において、次に厚生行政にお いて、幾重にも制限的に運用されているこ とを意味する。

 一方、就労可能な在留資格で居住してい る外国人労働者においても、皆保険制度を 基本とする日本の社会保障制度が外国人の ニーズに適合していないこと36、保険料が高 額であることから、外国人自身が加入に消 極的である場合が多い。また、各保険の事業 主負担分を避けて積極的に加入を勧めない 雇用者が多いことなどから、健康保険・年金 への外国人の加入率は低い。

 ② 社会保障政策の課題

 国際的人権保障の基準から見れば、最も 基本的な人権である生存権を保障するはず の健康保険制度と生活保護制度において、

外国人を排除する運用がなされるように なったのは、国際的人権保障の流れに逆行 するものであり、外国人の人権保障の後退 と言わざるを得ない37。特に緊急医療の保障 は、焦眉の課題である38

 社会保障制度において外国人に対する適 用制限が設けられた理由には、「社会的コス ト39」、すなわち財政問題が大きく影響して

いる。国民健康保険における適用制限も、現 在の危機的な国民健康保険の財政に配慮し たものと、容易に想像される。しかし、外国 人の人権保障と社会保障制度の財政問題は、

別に議論され解決を図られるべき問題であ り、管轄官庁からの通達等により外国人に 対して適用制限がなされ、財政問題のしわ 寄せが結果的に外国人の人権を侵害してい ることは論外である。

(4) 労働政策  ① 労働政策の現状

 労働関係法令においては、法律上の国籍 条項はなく適用制限もないが40、現実には、

救済機関が少ないこと、外国人労働者本人 や雇用者への啓発不足、短い在留期間など が、外国人の労働者としての権利行使を事 実上不可能としている。

 外国人労働者が就労する職場は、零細な いわゆる3K職場が多いこと、「人材派遣会 社」と呼ばれる仲介業者が本人と雇用者の 間に介在すること41などから、法違反や労災 などの広範な人権侵害が従来から指摘され ていたが、入管法改正による「不法就労助長 罪42」の新設や、労働省による労働基準局や 職業安定局への通報義務遵守の通達43, 44によ

36  皆保険制度をとっている日本では、被雇用者は、雇用保険・健康保険・厚生年金の同時加入が基本となっている。このセット加 入方式は日本人にとっては便利ではあるが、ドイツ以外とは年金の資格期間の通算協定を結んでいない現状(脚注66 参照)では、

ほとんどの外国人は厚生年金が「掛け捨て」となり、加入するメリットはほとんどない(不幸にして障害基礎年金や遺族年金の 支給対象となる場合のみ)。また、本国の社会保障制度と二重加入になる場合もある。したがって、社会保険に加入せず、あえて 国民健康保険に加入している被雇用者が多い。また、雇用者も各保険の事業主負担が軽減されるため、国民健康保険加入を勧め ている場合があり、雇用者・被雇用者双方の利害が一致して、未加入もしくは国民健康保険加入となっている場合が少なくない。

37  しかし日本政府は、対外的には法律上の国籍要件の撤廃により、「国内在留の外国人には原則として日本人と同様に社会保障制度 を適用しており、生活保護についても予算措置によって日本人と同様の保護を実施している」(1990年厚生省前掲報告)と主張し、 本の社会保障制度においては、内外人平等待遇の原則が保障されているとしている。

38  諸外国においては、様々な制度上の違いはあるにせよ、少なくとも緊急医療については、在留資格の有無と種類に関わらず保障 する傾向にある。アメリカのメディケイド、イギリスのNHS、オランダ・フランスの社会扶助制度、ドイツの公的社会保険制 度など。 [高藤95] p.38

39  労働省は、外国人労働者が5〜 10 年定住し、家族が増えた場合、所得税や住民税など政府や地方自治体の収入となる「社会的便 益」に比べ、住宅、医療、教育などにかかる「社会的費用」はその 4.7 倍になると試算している。つまり、外国人労働者の定住の 動きが広がれば、社会的コストもかさんでいく、というのが労働省の分析である。(2000 年9月 30 日付朝日新聞夕刊より引用)

40  ただし、雇用保険法は、資格外就労者には適用されない(平成2年3月7日付雇保発 2 号通達)。また、職業安定法も資格外就労 者は適用されないため(平成元年7月 25 日付職発 389 号通達)、職業安定所における職業紹介を受けることができない。

41  外国人労働者と雇用者が雇用契約を直接交わしている例はむしろ少ない。仲介業者が業務を受注し、そこで外国人労働者が就労 するという、業務の請け負い形式が一般的である。これらの業者の多くは人材派遣の認可を受けていない。(2000 年9月 30 日付 朝日新聞夕刊より引用)この形式は、各種保険の事業主負担を避けられること、解雇による労働力の調節がしやすいことなど、

もっぱら雇用者にメリットがある。逆に外国人労働者にとっては、不安定な雇用、仲介業者による賃金のピンハネや不払いなど、

人権侵害の温床となっている。

42 「次の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。 一  事業活動に関し、外国人に不法就労活動 をさせた者、 二  外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者 、 三  業として、外国人に不法就労活動を させる行為又は前号の行為に関しあっせんした者」(入管法第 73 条2項)

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り、労働現場での法違反はより悪質化、巧妙 化、潜在化する傾向にある。

 ② 労働政策の課題

 労働現場での外国人労働者に対する人権 侵害の激しさは、マスメディアの報道など で知られるが、労働行政は、現実には外国人 労働者の法律上の権利行使が困難であるこ とに安住し、基本的に無視・放任主義を取っ てきた。そして、結果的に法違反を黙認して きたことは、労働者保護という労働行政の 目的そのものを自己否定しているに等しい。

3.2 地方自治体における外国人政策

 地方自治体における外国籍住民の生存権・社 会保障権の保障に関連する事務は、外国籍住民 の日常生活で必要な行政サービスの中で大きな 割合を占めている。しかし、地方自治体の現場に おいては、いまだに従前の国の通達に忠実に事 務が行われており、地方自治体は、これらの事務 については、現在でも国の下部機関としての実 態から脱することができていない(第2章第3 節参照)。

 一方、外国籍住民の生存権・社会保障権の保障 に関連する事務以外の分野においては、外国人 への施策に関する限り、地方自治体の強い問題 意識とイニシアティブが常に国を突き上げ、対 応を引き出してきた。特に緊急医療問題45や地域 社会への参加問題46への対応などで、先進的な地 方自治体の施策が果たしてきた役割は大きい。

 さらに現在では、神奈川県や川崎市などでは、

外国籍住民との共生社会を構築するための長期 的・包括的政策の策定に着手している。新たな位 置付けで、改めて外国籍市民の施策への参加シ ステムが構築され47、実際にそこでの提言や報告 が政策に反映されようとしているのである。

 しかし、地方自治体における外国籍住民の居

住状況には大きな地域的偏在が見られる。東京 圏や大阪圏とその周辺地域には外国籍住民が集 中しているが、概して大阪圏を中心とした西日 本には在日韓国・朝鮮・台湾人が多く、中部・東 海以東にはニューカマーズが多い。その地域特 性が地方自治体の施策に影響し、ニューカマー ズへの施策は、中部・東海以東の地方自治体にお いて先進的に行われてきた。

 その後のバブル崩壊により外国籍住民の地方 への分散が始まり、「外国籍住民政策」は地方自 治体の共通課題となっていくことになる。しか しその対応は、居住する外国籍住民の地域特性 と地方自治体の姿勢によって濃淡が大きく、そ れによって施策のレベルにも大きなばらつきが 見られる。すでに「共生」や「参加」のあり方を、

制度的改変を含めて実施している先進的な地方 自治体もあれば、外国籍住民の急増により、あわ てて先進的な地方自治体の施策を断片的に取り 入れてはいるが、中長期的政策までには至って いない地方自治体もある。そして、対岸の火事と していまだに傍観している地方自治体も多い。

 しかし、先進的な地方自治体の施策が国を突 き上げ、不十分とはいえ一定の対応を引き出し てきたことは、「外国人問題」の大きな特徴であ ると言えよう。

4.地方自治体における外国人政策の現状 と課題  

4.1 訪問調査実施概要 (1) 調査目的

 外国籍住民の日常生活における必要な行政 サービスの主たる供給主体は、当然のことなが ら地方自治体である。そこで、行政サービスの供 給者と需要者の双方を調査し、現在の地方自治 体における外国籍住民施策の現状と課題を抽出

43 「国又は地方公共団体の職員は、その職務を遂行するに当って…外国人を知ったときは、その旨を通報しなければならない」(入 管法第 62 条2項)

44  昭和 63 年1月 26 日付基発 50 号及び職発 31 号通達

45  1992 年東京都「行旅病人及行旅死亡人取扱法」復活適用開始。1993 年群馬県「外国人未払い医療費緊急対策事業」開始。1994 年 兵庫県、1995 年神奈川県、1996 年千葉県、埼玉県、東京都で独自の費用負担制度開始。ここに及んで厚生省が 1996 年度より外国 人医療費未収金補助事業を発足させた(脚注 62 及び 65 参照)

46  1992 年大阪府「在日外国人問題有識者会議」、埼玉県「国際化アドバイザー会議」、1994 年大阪市「外国籍住民施策有識者会議」

など。そして現在、永住外国人地方選挙権付与法案が国会で継続審議中である。

47  1997 年神奈川県「外国籍県民かながわ会議」、1996 年川崎市「外国人市民代表者会議」発足。

(11)

することを目的として、訪問調査を実施した。

(2) 訪問調査先選択理由

 行政サービスの供給主体として、滋賀県栗太 郡栗東町、滋賀県守山市の2自治体を、行政サー ビスの需要主体である外国籍住民の代弁者とし て、NGO48の「京都YWCA A . P . T( Asian People Together の略。)」(以下A.P.Tという。) を訪問調査先として選んだ。

 滋賀県は県内に企業工場が多数存在すること から、県全体として、ここ 10 年ほど外国人労働 者が急増している49。しかし増加傾向にあるの は、当然のことながら企業工場周辺の自治体で あり、主に栗東町、水口町、甲西町などである50。 その他の自治体における外国籍住民の居住状況 は、大きな変化はみられないか、もしくは漸増傾 向にとどまっている51。栗東町は急増傾向の自治 体であるが、その西に隣接する守山市は漸増傾 向である。相互に隣接していながら、外国籍住民 の居住状況が対照的な自治体52の施策を比較し、

地方自治体の外国籍住民政策の現状と課題を浮 き彫りする目的で、両自治体を訪問調査先とし て選択した。

 また、行政サービスの需要者は、本来は外国籍 住民個人であるが、ほとんどが企業就職者でコン タクトが困難であること、また彼らの代弁者とし て適当な民間支援組織が滋賀県内に見当たらな かったこと、活動の中心が京都であるとはいえ隣 接している滋賀県も活動の範囲としていることか ら、訪問調査先としてA . P . Tを選択した。

(3) 調査方法

 栗東町と守山市においては各所管課ごとに担 当者から、A . P . Tにおいては相談担当ボラン ティアから、面接の形でヒアリング調査を行っ た。

(4) 調査時期  2000 年 9 月。

4.2 滋賀県栗東町における外国人政策の 現状と特徴

(1) 訪問調査結果

 ① 居住する外国籍住民の地域特性

 1990 年頃からブラジル、ペルー国籍の外 国籍住民の転入が急増しており53、現在では 人口の約2%を占めている54。ほとんどが企 業就職者であり、当初は単身者が多かった が、現在は家族での居住がほとんどである。

家族は、国際結婚による日本人との混合世 帯もあるが、外国籍住民のみで構成される 世帯が多い。雇用企業が社宅を用意してい るケースが多いため、居住地域は特定地域 に集中する傾向にある。

 ② 外国籍住民施策の基本方針

 特に行政としての基本方針は策定してい ないが、従来の海外との交流を主とする「国 際交流」ではなく、栗東町に居住する外国籍 住民と日本人住民の間の「国際交流」を目的 として、1999 年度に町が任意団体の国際交 流協会を設立した。町の企画調整課内に事 務局を設置し、職員1名が出向している。 

 ③ 外国籍住民行政への参加システム  外国籍住民の民意反映のための審議会等 はない。その他の委員会の委員委嘱などは、

言語面がネックとなり、現在のところ実績 はない。

 ④ 相談窓口の設置

 1999 年度より国際交流協会が生活相談を 週1回行っている。相談員は、国際交流協会 に登録している会員による契約ボランティ ア(守秘義務等は契約内容に明記)であり、

ポルトガル語とスペイン語の隔週開催と なっている。相談希望者が多いため、充実の 必要性を感じている。相談内容は、教育、住 宅、児童手当などが多い。相談内容により他 機関へ連携するケースがあるが、相手機関 の言語面での対応能力がネックとなる場合

48  Non-governmental organization の略。非政府・非営利組織のこと。

49  文末参考資料1参照。

50  滋賀県総務部国際課資料による。

51  同上。

52  文末参考資料2参照。

53  文末参考資料2及び3参照。

54  滋賀県総務部国際課資料より筆者算出(ただし、外国人登録人口は 1999 年 12 月 31 日現在、総人口は 2000 年1月1日現在の統 計資料による)。なお、平成 11 年の全国平均は約 1.2%(平成 12 年5月法務省入国管理局「外国人登録者統計」による。法務省 ホームページより)

(12)

が少なくない。

 ⑤ 広報・広聴(特に情報提供)体制  転入手続き時に、希望者に「生活ガイド ブック(滋賀県作成版)」を配布している。ま た、生活相談の内容を参考に、必要に応じて 外国語版案内を作成したり、所管課が独自 に案内を作成(ゴミの出し方など)している が、配布方法は窓口配布のみである。広報紙 の外国語版は作成していない。広聴に関し ては、生活全般についてのニーズアセスメ ント55などを行う予定はない。

 ⑥ 外部ネットワークとの連携

 生活相談の内容によっては、関係機関に 連絡をして対応を依頼する場合もあるが、

日常的なネットワークとはなっていない。

栗東町内や周辺のボランティア団体等の有 無や活動状況の詳細などの把握はしていない。

 ⑦ 社会保障制度の適用状況   ・ 国民健康保険

 2000 年4月1日現在、外国籍住民全体の 53.8%が加入しており、南米出身の日系外国 籍住民は、約 750 名のうち約 350 名(46.7%)

が加入している。加入にあたっては厚生省 通達に従い制度を適用しており、加入でき ない場合は申請を断っているが、件数は少 ない。社会保険適用該当と推測される申請 もあるが、加入を認めざるを得ないケース がほとんどである。国民健康保険税の未納 も多いが、外国人登録の転出入・出国の処理 が住民基本台帳と異なることが、滞納整理 に支障をきたしている。所管課としては、社 会保険適用該当者についての雇用者への指 導、未納税の滞納整理のため、外国人登録法 の取り扱いの改善の必要性を感じている。

 窓口対応では、言語の問題が大きい。日本 語の話せる付き添い、国際交流協会の契約 ボランティア、外国語版パンフレット(国民 健康保険中央会作成版)で何とか対応して いる状況である。

  ・ 生活保護

 現在3世帯が受給しており、内訳は日本 人との混合世帯1世帯、外国籍住民のみの 世帯2世帯となっている。うち1世帯は、日 本語での対応が困難なため、国際交流協会 と連携しながら対応している。3世帯とも 厚生省の口頭指示基準に該当しており、今 後も厚生省口頭指示基準どおりに運用する 予定である。緊急医療についての相談実績 はない。

 ⑧ 教育

 現在8小学校、3中学校にブラジル国籍 26 名、ペルー国籍 18 名、合計 44 名が在籍し ている。栗東町の独自施策としては、日本語 指導員として臨時職員(ポルトガル語・スペ イン語対応可)を1名雇用している。また、

滋賀県より2名56、文部省より1名の非常勤 講師の過配措置があり、これらのスタッフ で日本語及び学力、生活を個別指導してい る。教材は手作りである57。配布プリント等 は毎年使い回せるため、これまで作った外 国語版の蓄積などで、状況はずいぶん改善 されつつある。PTAとの意志疎通や学校 行事への理解、参加がなかなか困難である。

母国語教育は行っていない。

 外国籍児童の居住地域に偏りがあり、学 校によって認識や対応に差があるため、学 校長で構成する外国人指導連絡協議会を年 3回開催し、栗東町としての受け入れ方針 の統一を図っている。また、教員の意識改革 のための研修も実施している。

 現在のスタッフ数での対応は限界であり、

一方児童数は増加傾向にあるため、スタッ フの充実が切実な問題であるが、適切な人 材の確保と予算がネックとなっている。現 在は、熱心な教員やスタッフの個人的・ボラ ンティア的努力で何とか対応しているのが 実情である。

 ⑨ 住宅

 公営住宅の入居応募要件に国籍要件はな い。入居希望者は増加傾向にあるが、特に優

55  需要調査のこと。本稿では、「行政サービスに対する需要調査」の意味で使用する。

56  滋賀県が 1993 年度より行っている「外国人子女に対する日本語指導に係る措置」によるもの。5名以上外国籍子女が在籍する学 校に対しては1週5時間、2名以上5名未満の学校に対しては1週4時間の非常勤講師を過配する。2000 年度対象校数は小学校 47 校、中学校 22 校。ただし、過配非常勤講師の採用資格が教員免許取得者ということで、外国語能力については不問であるため、

外国語指導には対応できない。(2000.10.23 滋賀県教育委員会教職員課による)

57  現在、文部省が外国籍児童のために作成している教材は、「にほんごを学ぼう(全3巻)」という、日本語習得教材のみである。

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先枠などを設定する必要は感じていない。

現在の入居数は、351 戸中3戸である。生活 習慣の違いによるトラブルや苦情(ゴミ出 しルール、夜中に騒ぐ等)があるが、住宅所 管課の技術職員が対応している。

 民間住宅についての相談窓口はなく、外 国籍住民の住居についての実態調査や、民 間住宅市場の調査は行っていない。

(2) 施策の特徴

 各所管課ともに現場レベルでの問題は認識し ているが、それが政策レベルの問題意識には繋 がっていない。また、いわゆるタテ割り行政のた め、ヨコでの問題意識の共有がなく、ボトムアッ プ式での問題の総合化、政策化へと結び付いて いない。

 現場レベルで共通していたのは言語面での対 応の問題であり、この点では国際交流協会の存 在が大きい。しかし、契約ボランティアによる対 応であることに問題がないか、検討を要するの ではないか。

 外国籍住民と一般住民の交流会の開催、外国 籍住民対象の日本語教室の開設、日本人住民対 象のポルトガル語・スペイン語教室の開催など、

国際交流協会を中心として、外国籍住民が住民 として一定の位置付けがされつつあると思われ るが、行政が生活をサポートする意識にまでは なっていない。しかし、外国籍住民の増加傾向が 続くことは各所管課とも認識しており、将来的 に国際交流協会を中心として、総合的な政策に 結び付く可能性はあるのではないか。

4.3 滋賀県守山市における外国人政策の 現状と特徴

(1) 訪問調査結果

 ① 居住する外国籍住民の地域特性

 外国籍住民数に大きな変化はないが、ブ ラジル、ペルー、フィリピン国籍の居住者が 漸増しており58、現在人口の約1%を占めて いる59。住民数に大きな変化はなくとも、転 出入による居住世帯の入れ替わりがある。

家族での居住が多く、居住地域も特定地域 に偏っている。家族のうち、祖父母、夫、妻 などに日本語を理解する構成員がいる世帯 が多いので、行政として言語面での苦労は あまりない。

 ② 外国籍住民施策の基本方針

 特に行政としての基本方針は策定してい ない。現在のところ、外国籍住民の位置付け は、従来の海外との交流型「国際交流」の一 環、一変形である。

 ③ 外国籍住民の行政への参加システム  外国籍住民の民意を汲み上げる、審議会 やシステムはない。

 ④ 相談窓口の設置

 滋賀県国際交流協会の指導により、2000 年度より開設した。月2回、予約制である。

訪問調査日現在、相談実績がないが、広報不 足のためとのことである。

 ⑤ 広報・広聴(特に情報提供)体制  転入者のうち希望者に「生活ガイドブッ ク(滋賀県作成版)」を配布している。広報 紙の外国語版は作成しておらず、広聴に関 しても、何らかのニーズアセスメントなど を行う予定はない。

 ⑥ 外部ネットワークとの連携

 現在までに他機関との連携が必要となっ た事例はほとんどない。守山市内や周辺の ボランティア団体等の有無や活動状況につ いては把握していない。

 ⑦ 社会保障制度の適用状況

 国民健康保険における外国籍住民の加入 率などの統計は作成していないが、増加傾 向にある。加入資格については、厚生省通達 に従い制度を適用している。雇用者への指 導などは特にしていないが、本来社会保険 適用該当と思われる申請は少ない。本人の 国民健康保険税を雇用者が負担して、国民 健康保険に加入しているケースはある。国 民健康保険税の未納はほとんどない。

 加入申請は、転入手続き時に外国人登録 担当が受け付けるので、所管課が直接、外国 籍住民と応対することは少ないが、日本語 の話せる付き添いがいる場合が多く、外国

58  文末参考資料2及び4参照。

59  脚注 54 参照。

参照

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