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未遂犯の本質に関する一考察 : 英米刑法および刑 法哲学における議論からの示唆

著者 山田 慧

雑誌名 同志社法學

巻 68

号 5

ページ 1699‑1927

発行年 2016‑11‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016899

(2)

    同志社法学 六八巻五号二二九一六九九

――英米刑法および刑法哲学における議論からの示唆――

             

                                                                                                                               

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    同志社法学 六八巻五号二三〇一七〇〇

はじめに

  日本において、構成要件的結果を生じさせなくても処罰される未遂犯に関する諸問題は、かつて、刑法理論における古典学派と近代学派の対立と結びつけられ、未遂犯の処罰を基礎づけるのは﹁行為の危険性﹂なのか、﹁行為者の危険性﹂なのかという対立図式のもとで議論された。もっとも、﹁何人も思想のゆえに処罰されることはない﹂との観点から、近代学派が衰退し、主観主義刑法理論が影を潜めると、客観主義刑法理論に基づき、未遂犯の処罰根拠を﹁行為の危険性﹂という客観的違法性に求めること自体にほとんど争いは見られなくなった。しかし、このような客観主義の通説化も未遂犯論の止揚にはつながらず、刑法は何を保護するためにあるのかという刑法の目的ないし違法論に関する対立の台頭にともない、その対立が一番顕在化するのが未遂犯論であるとされるようになった。すなわち、﹁行為の危険性﹂における﹁危険性﹂の内実をめぐり、刑法の目的を社会倫理の維持に求める行為無価値論の立場からは、行為自体が有する﹁行為の属性としての危険﹂を重視すべきであると主張されてきたのに対し 1

、刑法の目的を法益保護に求める結果無価値論の立場からは、行為がもたらす法益侵害の危険性という﹁結果としての危険﹂を重視すべきであると主張されてきたのである 2

  このように未遂犯は、刑法理論をめぐる学派の対立や違法論の対立と結びつけて論じられ、そうした根源的な問題を解決するための﹁一つの登り口 3

﹂と位置づけられたのである。そして、学派の対立が終決してから今日に至るまでにおいては、各々の違法論の立場を前提に、適切な処罰範囲を確定する判断基準の設定作業こそが重要であると捉えられてきた 4

。しかし、未遂犯において妥当な解決が導けるからといって、その前提となった違法論が他の領域全般にも妥当するとは限らないであろう。また、それぞれの違法論の立場を前提にして主張される様々な判断基準に対しても、見逃せ

(4)

    同志社法学 六八巻五号二三一一七〇一 ない問題点が指摘されている。たとえば、不能犯の成否の判断基準において、主に行為無価値論者によって支持される具体的危険説は、一般人が認識しえた事情を危険判断の基礎に加えるが、行為無価値の立場が重視する規範違反性という観点からは、一般人の視点を加えるべき必然性はなく 5

、他方で、主に結果無価値論者から支持される客観的危険説は、事後的に見れば法益侵害の客観的な危険性が存在しない未遂犯につき、いかに可罰的な未遂犯と不可罰である不能犯を区別するのかという難題を抱えることとなるのである。また、実行の着手時期の判断につき、行為者の主観を何らかの形で考慮すべきであるとする見解が、行為無価値と結果無価値を問わず、支配的な地位を占めつつあるが 6

、未遂犯の処罰根拠を客観的な危険性に求めながら、その未遂犯の成立時期に関して、行為者の主観を考慮することは整合的でありうるのかとの問題もあろう 7

。違法論における行為無価値論と結果無価値論の対立は、容易に克服しうるものではなく、未遂犯の成否に関する具体的な解釈問題につき、﹁その基準は、行為無価値論(または結果無価値論)を前提にする以上、妥当でない﹂といった批判は、反論が難しいものであると同時に、議論を進展させることを妨げるものであると言えよう。こうした長く続く日本の未遂犯論の閉そく状況を打破し、新たな段階へと踏み出すのに、今、必要なのは、違法論からの演繹には依拠しない、﹁未遂犯の本質﹂を前提にした分析ではないだろうか。

  こうした分析を行うにあたって有益と思われるのが、英米における未遂犯論である。後に詳述するように、英米刑法では、未遂犯の処罰根拠を、一次的に行為者の主観面に求める考え方が伝統的に支配的な地位を占めてきた。そして、そのような危険な行為者の矯正や犯罪の予防につなげるべきとの問題意識が示されている 8

。特に、アメリカ合衆国の諸州の刑法典の編纂に多大な影響を与えたと言われているアメリカ模範刑法典においては、犯罪の遂行に向けられた行為を実行する者は、他の機会にも同じ行為をする傾向にあることを示すのであって、そのような﹁個人に内在する特別な危険性﹂を矯正すべきであるとの理念のもとで、未遂犯処罰規定が置かれたのである 9

。こうした、犯罪を実行しようと

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    同志社法学 六八巻五号二三二一七〇二

する行為者の主観面への着目は、未遂犯の成否の判断につき、犯罪を遂行する意図という主観的要件(メンズ・レア)を重視し、不能犯は原則として可罰的であるとの考えを支配的なものにしている。

  もっとも、そのような英米においても、判例が、客観的な要素を全く考慮せずに未遂犯の成否に関する判断を下してきたわけではない。特にアメリカ合衆国では、模範刑法典が、前述のような未遂犯に関する﹁主観主義(

su bje ct iv ism

)﹂に傾倒した姿勢を示した一方で、各州の裁判所や連邦裁判所の判断には、イギリスの裁判所よりも明確に、客観的要素を重視する旨を標榜するものも見られる。このように、﹁主観主義﹂を軸足に据えつつ、客観的な視点も加味する英米の判例や、そのような判例の姿勢に対する批判は、あくまで客観的な違法性に焦点を当て続けてきた結果、議論の硬直化を招いた日本の未遂犯論にとって参考になるものと思われる。また、イギリスでは、二〇〇七年および二〇〇九年に、法律委員会(

L aw C om m iss io n

)が、未遂犯の成立範囲に関する明確かつ妥当な基準を提示するべく、現行の未遂犯処罰規定 ₁₀

の改正に向けた提案を行った ₁₁

。さらに、未遂犯の成立に﹁意図﹂が必要であるとの原則は、犯罪成立要件における被害者の不同意などの﹁行為状況﹂の要素にはあてはまらないというのが判例・通説であったが、近時、行為状況の要素に対しても意図を必要とすべきであると判示したと解される判例が注目を集めている ₁₂

。加えて、刑法哲学の領域において、未遂犯を、その処罰根拠に立ち返ったうえで分析しようとする新たな見解が提示され、その是非をめぐり英米を中心として国際的に活発な議論が展開されている。その見解は、特定の刑罰論に依拠することなく、未遂犯を、犯罪を遂行する﹁試み﹂として捉え、﹁試み﹂という行為に対する哲学的な分析を交えながら、未遂犯の本質を探り、具体的な解釈問題の解決を図ろうとするものであるが ₁₃

、そこには、本稿の問題意識からも、示唆に富む点が多く含まれているように思われる。

  このように、英米刑法における未遂犯論は、日本の未遂犯論を進展させるために、それ自体、少なくとも参照される

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    同志社法学 六八巻五号二三三一七〇三 べきものと思われると同時に、﹁未遂犯の本質﹂を探るにあたり、見逃せない動きがその内部および周辺においても見られるのである。そこで、本稿では、まず、英米刑法における未遂犯の成否に関する判例・立法の動向を概観する。そのうえで、さらに、英米を中心として展開されている、刑法哲学に基づいた未遂犯に関する議論を整理し、そこでは、未遂犯の本質を追究するにあたり、いかなるアプローチがなされてきたのかを確認する。以上を踏まえ、英米における未遂犯論が、いかなる問題状況にあるのかを確認したうえで、近年に見られる未遂犯の本質を提示することを試みた新たな見解が、いかなる意義を有しているのかを検討したい。最後に、英米を中心に展開されている議論が、違法論の対立を軸に拮抗した状態にある日本の未遂犯論にいかなる示唆を与えうるものであるかを示し、﹁未遂犯の本質﹂を見出すための手掛かりを得たうえで、これからのあるべき未遂犯論の展望を試みたい ₁₄

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(7)

    同志社法学 六八巻五号二三四一七〇四

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7) )﹂ t ; GL. R. 821, at p.849. Warilliams, Criminal Law: The General Part2d ed.,1961, av. H41, “See, Francis B. SayreCriminal Attempts”19288)  p.632; D. Stuart, “The Actus Reus in Attempts” 1970 Crim. L. R. 505, at p.511; J. Horder, “Harmless Wrongdoing and the Anticipatory Perspective on Criminalisation”, inSeeking Security Pre-Empting the Commission of Criminal HarmsG. R. Sullivan and I. Dennis ed.,2012, at pp.84-85. 

.t p, a48519, 1t arP, 29teitust Inaw LanicermA.Model Penal Code and Commentaries9) 

10Crimal Attempts Act1981in) 

31.09208 11n, . Nission, , Law Como. omioissmom CawLm Cawer, Consultation Pap No.18307; L20Conspiracy and AttemptsConspiracy and Attempts) 

12R. v. Pace.34. . Rppr. A C11420, 6. rim CACWE142018) 

13G. Yaffe, Attempts In the Philosophy of Action and the Criminal Law2010.)  稿 14) 

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    同志社法学 六八巻五号二三五一七〇五

第一章  イギリスにおける未遂犯論   イギリス(イングランドおよびウェールズ)では、後述するように、未遂犯の処罰につき、行為者の意図という主観面が重視されてきた。そこから、しばしば、イギリスでは﹁主観主義﹂に基づいた未遂犯処罰が伝統的に維持されてきたと評価される。もっとも、コモン・ロー上の犯罪として未遂犯を処罰していた時代から、一九八一年刑事未遂法(

C rim in al A tte m pt s A ct 19 81

)のもとでの制定法上の犯罪として未遂犯を処罰している現在に至るまでの、イギリスにおける判例の展開を見てみると、もっぱら、行為者の主観のみが重視されてきたわけではないことが分かる。むしろ、判例は、後述のように、一定の客観的事実にも着目したうえで、未遂犯の成立範囲を限定しようとする姿勢を示してきたのであり、そうした判例に対し、主観主義に基づく批判が加えられることによって、イギリスにおける未遂犯論は展開されてきたように思われる。日本における客観主義未遂犯論を、改めて﹁客観的に﹂検証し直すためにも、このようなイギリスにおける未遂犯論の展開を概観しておくことは有益であろう。また、イギリスにおける未遂犯処罰の実態を把握する際には、比較的最近に、イギリス法律委員会が示した、一九八一年刑事未遂法の改正に向けた提言を確認しておく必要があろう。さらに、近年になって英米を中心に再燃している、未遂犯の本質をめぐる議論は、判例や立法に示されてきた、従来の客観的または主観的な視点を疑問視することによって展開されている。これらの点に照らしても、イギリスにおける未遂犯処罰の歴史的経緯や現状を理解しておくことは、日本においても妥当する未遂犯の本質を見出

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    同志社法学 六八巻五号二三六一七〇六

すために不可欠である。

  そこで本章では、まず一九八一年刑事未遂法が制定されるまでの、イギリスにおける未遂犯論の史的展開をあとづけたうえで、同法の規定内容と同法のもとでの未遂犯処罰の動向を確認し、イギリスにおける未遂犯処罰の実態を把握したい 1

      第一節  史的展開

  一  一九世紀以前のイギリスと近代的未遂犯論の形成   ⑴  初期イギリス法   一九世紀以前のイギリス法には、既遂結果が生じなくとも処罰するという一般的な未遂犯の概念はなく、未遂犯に関する一般的な理論が論じられることもなかったと言われている 2

。もっとも、特定の場合において、既遂に至らない行為に対する責任が認められる場合はあった。たとえば、反逆罪の規定では、国王等の殺害を計画することが処罰の対象とされていたし、身体的接触を伴わない暴行の着手(

as sa ult

)の罪なども観念されていた 3

。また、謀殺罪の未遂に対して、既遂に至っていた場合と同等の極刑を科した事例が存在したとも言われている 4

。このように、未遂犯を既遂犯と同等の重罪として実質的に処罰していた実態を、﹁意思は行為とみなす(

V olu nt as re pu ta bit ur p ro fa ct

)﹂という一般的な理論のもとで説明しようとする動きもあった 5

。しかし、そのような説明においても、犯罪意思は﹁意図の実行へと向かう明白な行為﹂によって示される必要があるとされていたことに加え 6

、実際にそのような一般的な理論に基づいて処罰されていたことが、明白に証明されたわけではなかった 7

  そして、未遂形態の行為に対し、特定の状況において限定的に処罰がなされる実態のまま、未遂犯の一般的概念が打

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    同志社法学 六八巻五号二三七一七〇七 ち立てられない状況が続いたのである。もっとも、法制度が成熟していくにつれて、そのような限定的な対応に対して、いかなる一般的な理論づけが可能であるかに関心が向けられていくこととなった 8

  ⑵  一般的な未遂概念の萌芽(一六世紀頃~一八世紀前半)   未遂犯という一般的な概念の起源は、一六世紀中頃には、刑事裁判につき、コモン・ロー裁判所では処理しきれない事案に対応し、コモン・ロー裁判所の硬直化を是正する機能を確立していた星室裁判所(

C ou rt of S ta r C ha m be r

)にあると一般に考えられている 9

。同裁判所は、当時の治安の悪化に照らして、処罰を前倒しすることで王国を保護してきた反逆罪のように、一般公衆の利益も同様に保護されるべきであるとし、今日の暴行にあたる行為をはじめ、身体的危害を加える旨の脅迫行為や、決闘を申込む行為などを、ときに﹁未遂(

at te m pt

)﹂という用語を使って有罪とした ₁₀

。このような星室裁判所の姿勢は、既遂に至らない、より程度の小さい侵害も抑止すべきであるとの認識を促進し、同裁判所のもとで、後の未遂犯論の確立において重要な判断が蓄積されたのである ₁₁

。また、ある決闘罪の事例において同裁判所は、﹁決闘は、その悪質性が明白であり、その予防のための賢明な方策は、あらゆる、その予備的行為を処罰することで、その実行の芽を摘むことである﹂とし、さらに、﹁当該犯罪が極刑に値する場合、または、重罪である場合はいつでも、それが実現されなかったとしても、当該犯罪に至る傾向のある⋮行為は、当裁判所で、軽罪として可罰的である。したがって、毒を盛ったが、その効果がなかった場合、殺人のために待ち伏せをしたが、その効果がなかった場合などは、当裁判所で重軽罪(

hig h m isd em ea no r

)とみなされる﹂と述べた ₁₂

。ここからは、未遂犯処罰における、明確な﹁犯罪予防﹂の観点が見て取れる。もっとも、星室裁判所は、この一例を除いて、未遂犯処罰に関する一般原則には言及しておらず、右の判示により、一般的な未遂概念が確立されるには至らなかった。

  その後、一六四一年に星室裁判所が廃止されると、再び初期コモン・ローの考え方を踏襲する判例が見られるように

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    同志社法学 六八巻五号二三八一七〇八

なり、特に、未遂形態の行為を、暴行罪や偽証を教唆する罪といった実質犯罪(

su bs ta nt iv e cr im e

)として処罰する傾向が強まったと言われている ₁₃

。したがって、一般的な未遂概念が確立されるまでには、なお長い年月を必要としたのである。

  ⑶  近代的未遂犯論の確立(一八世紀後半~)   一七八四年のスコフィールド・ケース ₁₄

において、被告人は、自己所有の建物を放火する意図で、可燃物質の間に置かれたろうそくに火をつけたが、建物に燃え移らなかったという事案につき、放火罪の未遂で起訴された。放火罪の未遂は、暴行罪や偽証を教唆する罪のように、それ自体を実質犯罪として処理することが困難であったことから、﹁未遂犯﹂の成立の可否が正面から問われることとなった。裁判所は、﹁意図が、それ自体無害である行為を犯罪とする﹂のであって、﹁それ自体犯罪である、行為の完成は、犯罪を構成するために必須のものではない﹂と主観主義に立脚した判断を示した。また、自己所有の建物の放火は軽罪とされていたが、無害な行為が、意図によって犯罪となるというのは、その意図されたものが重罪であれ軽罪であれ変わらないとし、当該被告人を放火罪の未遂で有罪としたのである。本判決は、続く一八〇一年のヒギンズ・ケース高等法院王座部判決 ₁₅

でも踏襲され、重罪および軽罪の未遂は、それ自体軽罪であると判示された。

  イギリスにおいては、一九世紀に入ってようやく、犯罪を遂行する意図が未遂犯の処罰を根拠づけ、また、重罪であっても、その未遂犯は軽罪として処罰されるという、未遂犯処罰の一般的な原則が確立されたのである ₁₆

  二  一九世紀以降の未遂犯論   ⑴  メンズ・レア   前述のように、スコフィールド・ケース判決を端緒に未遂犯処罰の一般原則が確立され、イギリスでは、行為者の﹁意図﹂というメンズ・レア(主観的要件)に重きを置く思考のもとで、一九世紀以降、未遂犯論

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    同志社法学 六八巻五号二三九一七〇九 が展開されていくこととなった。未遂犯の成立には﹁意図﹂というメンズ・レアが必要であるという原則の意義が改めて問われた事案として、一九五一年のワイブロー・ケース控訴院判決 ₁₇

がある。本件では、被告人が、自ら製作した電気装置を使用して、入浴中の妻を感電させたという事例において、謀殺罪の未遂が成立するかが争われた。同裁判所は、謀殺罪の既遂においては﹁重傷害を負わせる意図﹂で足りるものの、謀殺罪の未遂の場合には、﹁殺人の意図﹂が犯罪の第一次的な構成要素であると判示した ₁₈

。このように、未遂犯の成立には、あくまで﹁当該犯罪を遂行する意図﹂が必要とされたことから、一般に、非意図的な故殺罪の未遂や、過失犯の未遂などは成立しないと考えられた ₁₉

  しかし、未遂犯の成立に、一律に﹁意図﹂を必要とする判例の姿勢を疑問視する主張も見られた ₂₀

。そこでは、結果が生じるか否かは偶然の問題であるから、意図に満たないメンズ・レアでも成立するとされる既遂犯処罰が必要かつ有効な政策的手段であるなら、同等の政策が未遂の事例に適用されない理由はないと指摘された。もっとも、犯罪が実現される危険性を認識しつつあえてその危険を冒そうとする﹁無謀(

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)﹂が既遂犯のメンズ・レアとされている場合にとどまらず、既遂犯の成立に過失で足りる場合や、メンズ・レアが要件とされない場合(厳格責任犯罪)においても、未遂犯のメンズ・レアを既遂犯のメンズ・レアと同視することに関しては、帰責範囲が過度に広がることから、一定の留保を付すべきであるとの見解もあった ₂₁

  ⑵  未遂犯の成立時期   未遂犯を処罰するうえで、行為者の﹁意図﹂が重視されたとはいえ、もっぱら行為者のメンズ・レアのみを根拠として、未遂犯が処罰されたわけではなかった。未遂犯もコモン・ロー上の犯罪である以上、その成立にはアクトス・レウスが必要とされ ₂₂

、﹁意図﹂により犯罪とされる﹁行為﹂が必要とされたからである。

   ⒜ グ留ルトン・ケース刑事保ー問題付託裁判所判決 ₂₃   「   遂関に期時立成の犯針未る針指ういと」性接す指を近示したリーディングケイースが、一八五五年の・

である。本件の概要は、貧困者に対して配布された券と引き換えに食

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    同志社法学 六八巻五号二四〇一七一〇

料を配給し、配給された食料に相当する金額が配給者に支払われるという制度のもとで、配給者としての任に就く契約を結んでいた被告人が、配給すべき分量よりも少ない分量の食料しか配給していないにもかかわらず、正規の分量の食料を配給したように装い、回収した券を契約元に返送したが、代金が支払われるまでにその計画が発覚したというものであった。同裁判所は、虚偽の言説による金銭の詐取の罪の未遂が成立するか否かにつき、犯罪の遂行に向けられたあらゆる行為が未遂犯のアクトス・レウスとなるわけではなく、﹁犯罪の遂行と直接に結び付く(

im m ed ia te ly c on ne ct ed

w ith

)行為﹂が未遂犯のアクトス・レウスを構成すると判示し、本件において﹁被告人の行為は、金銭の支払いに向けられた、被告人が実行すべき最後の行為であり、それゆえ未遂と考えるべきである﹂と結論づけた ₂₄

。本判決以降、行為が未遂犯のアクトス・レウスとみなされるには、既遂犯の遂行との﹁近接性﹂を満たす必要があると考えられるようになった ₂₅

   ⒝ 遂犯け向に行遂の遂最既、に立成の犯た終未とたえし釈解もの行もるす求要を為 ₂₆   「   イスーケ・ントルグー﹁事容内的体具の」性接刑留近の接性﹂近認定から、、そ保は決判所判裁託付題問の

。しかし、続く同年のロバート・ケース刑事留保問題付託裁判所判決 ₂₇

は、ペルードルの五〇セント硬貨を偽造する意図をもって、イギリスにおいて当該貨幣の鋳型を手に入れた行為につき、イーグルトン・ケース刑事留保問題付託裁判所判決を引用しながら、当該行為を外国貨幣の偽造という犯罪の遂行に十分近接したものであるとし、同罪の未遂が成立すると判示した。本判決は、﹁近接性﹂を満たすためには、必ずしも既遂犯の遂行に向けた最終行為が必要とされるわけではないことを示したのである ₂₈

  さらに後の判例では、﹁近接性﹂の基準を、﹁妨害されなければ犯罪の事実的遂行を構成するであろう諸行為の一部を形成する行為﹂として具体化しようとするものが見られた ₂₉

。さらに、一九六八年のデイヴィ対リー・ケース高等法院女王座部判決 ₃₀

は、被告人らが、建造物侵入および窃盗の目的をもって、針金切りなどの道具により囲いのフェンスを切断

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