学 位 論 文
韓国人日本語学習者における 日本語漢字単語の処理過程
- 漢 字 と 語 彙 の 習 熟 度 , 学 習 環 境 の 違 い に 着 目 し て -
広 島 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 文 化 教 育 開 発 専 攻 ( 日 本 語 教 育 学 分 野 )
D096796 松 島 弘 枝
i
目 次
表 一 覧 ··· ⅶ 図 一 覧 ··· ⅸ
第 1 章 問 題 と 目 的 ··· 1
第 1 節 は じ め に ··· 2
第 2 節 先 行 研 究 の 概 観 ··· 2
1. 単 語 認 知 の 研 究 ··· 2
2. バ イ リ ン ガ ル の 単 語 処 理 モ デ ル ··· 3
3. 中 国 語 系 日 本 語 学 習 者 を 対 象 と し た 研 究 ··· 5
4. 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 を 対 象 と し た 研 究 ···12
第 3 節 本 研 究 の 目 的 ···17
第 3 節 本 研 究 の 目 的 17 第 2 章 韓 日 の 漢 字 の 形 態 ・ 音 韻 類 似 性 調 査 ···23
第 1 節 1 字 漢 字 の 調 査 ···24
1. 形 態 類 似 性 調 査 ···24
(1)目 的 ···24
(2)調 査 参 加 者 ···24
(3)材 料 ···24
(4)手 続 き ···25
2. 音 韻 類 似 性 調 査 ···25
(1)目 的 ···25
(2)調 査 参 加 者 ···26
(3)材 料 ···26
(4)手 続 き ···26
3. 形 態 ・ 音 韻 類 似 性 調 査 の 結 果 ···27
第 2 節 2 字 漢 字 単 語 の 調 査 ···28
1. 形 態 類 似 性 調 査 ···28
(1)目 的 ···28
ii
(2)調 査 参 加 者 ···28
(3)材 料 ···28
(4)手 続 き ···29
2. 音 韻 類 似 性 調 査 ···29
(1)目 的 ···29
(2)調 査 参 加 者 ···29
(3)材 料 ···30
(4)手 続 き ···30
3. 形 態 ・ 音 韻 類 似 性 調 査 の 結 果 ···31
第 3 章 日 本 語 1 字 漢 字 の 視 覚 的 認 知 に お け る 韓 国 語 と 日 本 語 の 形 態 ・ 音 韻 類 似 性 の 効 果 ···33
第 1 節 実 験 1,2 の 概 観 ···34
第 2 節 韓 国 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 1) ···35
1. 日 本 語 1 字 漢 字 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 1a) ···35
(1)目 的 ···35
(2)方 法 ···35
(3)結 果 と 考 察 ···38
2. 日 本 語 1 字 漢 字 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 1b) ···42
(1)目 的 ···42
(2)方 法 ···42
(3)結 果 と 考 察 ···45
第 3 節 日 本 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 2) ···48
1. 日 本 語 1 字 漢 字 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 2a) ···48
(1)目 的 ···48
iii
(2)方 法 ···48
(3)結 果 と 考 察 ···49
2. 日 本 語 1 字 漢 字 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 2b) ···51
(1)目 的 ···51
(2)方 法 ···52
(3)結 果 と 考 察 ···52
第 4 節 実 験 1,2 の 総 合 考 察 ···54
第 4 章 日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 視 覚 的 認 知 に お け る 韓 国 語 と 日 本 語 の 形 態 ・ 音 韻 類 似 性 の 効 果 ···56
第 1 節 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 3,4) ···57
1. 実 験 3,4 の 概 観 ···57
2. 韓 国 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 3)···58
(1)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 3a) ···58
(2)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 3b) ···65
3. 日 本 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 4)···71
(1)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 4a) ···71
(2)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 4b) ···74
第 2 節 語 彙 判 断 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 5,6) ···77
1. 実 験 5,6 の 概 観 ···77
2. 韓 国 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 語 彙 判 断 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 5)···79
iv
(1)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果
( 実 験 5a) ···79
(2)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 5b) ···84
3. 日 本 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 語 彙 判 断 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 6)···88
(1)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 形 態 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 6a) ···88
(2)日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 に 及 ぼ す 音 韻 類 似 性 の 効 果 ( 実 験 6b) ···91
第 3 節 実 験 3~6 の 総 合 考 察 ···94
第 5 章 日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 視 覚 的 認 知 に お け る 単 語 タ イ プ ( 同 根 語 と 非 同 根 語 ) の 効 果 ···96
第 1 節 実 験 7~10の 概 観 ···97
第 2 節 韓 国 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 7) ···99
1. 目 的 ···99
2. 方 法 ···99
(1)実 験 参 加 者 ···99
(2)実 験 計 画 ···99
(3)材 料 ···99
(4)装 置 ··· 101
(5)手 続 き ··· 101
3. 結 果 と 考 察 ··· 101
第 3 節 日 本 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 読 み 上 げ 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 8) ··· 105
1. 目 的 ··· 105
2. 方 法 ··· 106
(1)実 験 参 加 者 ··· 106
v
(2)実 験 計 画 ··· 106
(3)材 料 ··· 106
(4)装 置 ··· 106
(5)手 続 き ··· 106
3. 結 果 と 考 察 ··· 106
第 4 節 韓 国 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 語 彙 判 断 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 9) ··· 109
1. 目 的 ··· 109
2. 方 法 ··· 109
(1)実 験 参 加 者 ··· 109
(2)実 験 計 画 ··· 110
(3)材 料 ··· 110
(4)装 置 ··· 110
(5)手 続 き ··· 110
3. 結 果 と 考 察 ··· 110
第 5 節 日 本 在 住 の 学 習 者 を 対 象 と し た 語 彙 判 断 課 題 に よ る 検 討 ( 実 験 10) ··· 113
1. 目 的 ··· 113
2. 方 法 ··· 114
(1)実 験 参 加 者 ··· 114
(2)実 験 計 画 ··· 114
(3)材 料 ··· 114
(4)装 置 ··· 114
(5)手 続 き ··· 114
3. 結 果 と 考 察 ··· 114
第 6 節 実 験 7~10の 総 合 考 察 ··· 117
第 6 章 総 合 考 察 ··· 119
第 1 節 実 験 結 果 の ま と め ··· 120
第 2 節 本 研 究 の 意 義 と 発 展 課 題 ··· 125
vi
引 用 文 献 ··· 127 資 料 ··· 134 謝 辞
vii
表 一 覧
表 1 本 研 究 に お け る 実 験 的 検 討 の 全 容 ···19 表 2 実 験 1a で 使 用 さ れ た 2 群 の 1 字 漢 字 の 統 制 に 関 す る 情 報 ···37 表 3 実 験 1a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···40 表 4 実 験 1a の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···41 表 5 実 験 1b で 使 用 さ れ た 2 群 の 1 字 漢 字 の 統 制 に 関 す る 情 報 ···44 表 6 実 験 1b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···46 表 7 実 験 1b の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···47 表 8 実 験 2a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···50 表 9 実 験 2b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···53 表 10 実 験 3a で 使 用 さ れ た 2 群 の 2 字 漢 字 単 語 の 統 制 に 関 す る 情 報 ··60 表 11 実 験 3aの 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···63 表 12 実 験 3a の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···64 表 13 実 験 3b で 使 用 さ れ た 2 群 の 2 字 漢 字 単 語 の 統 制 に 関 す る 情 報 ··67 表 14 実 験 3b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···69 表 15 実 験 3b の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···70 表 16 実 験 4a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···73 表 17 実 験 4b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···76 表 18 実 験 5a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···82 表 19 実 験 5a の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···83
viii
表 20 実 験 5b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···86 表 21 実 験 5b の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ···87 表 22 実 験 6a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···90 表 23 実 験 6b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ···93 表 24 実 験 7 で 使 用 さ れ た 2 群 の 2 字 漢 字 単 語 の 統 制 に 関 す る 情 報 ·· 101 表 25 実 験 7 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ··· 103 表 26 実 験 7 の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ··· 104 表 27 実 験 8 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ··· 108 表 28 実 験 9 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ··· 112 表 29 実 験 9 の 各 条 件 に お け る 誤 答 率 ( % ) お よ び 標 準 偏 差 ··· 113 表 30 実 験 10 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 (ms) お よ び
標 準 偏 差 ··· 116 表 31 実 験 1~10 の 正 反 応 時 間 の 結 果 ··· 120
ix
図 一 覧
図 1 Kroll & Stewart(1994) に よ る 改 訂 階 層 モ デ ル ··· 5
図 2 中 国 語 系 中 級 学 習 者 の 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 ··· 11
図 3 韓 国 人 学 習 者 の 漢 字 に 関 す る 仮 説 的 心 内 辞 書 モ デ ル ···20
図 4 実 験 1a の 1 試 行 の 流 れ ···38
図 5 実 験 1a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···40
図 6 実 験 1b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···46
図 7 実 験 2a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···50
図 8 実 験 2b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···53
図 9 実 験 3a の 1 試 行 の 流 れ ···62
図 10 実 験 3a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···63
図 11 実 験 3b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···69
図 12 実 験 4a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···73
図 13 実 験 4b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···76
図 14 実 験 5a の Yes 試 行 と No 試 行 の 流 れ ···81
図 15 実 験 5a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···82
図 16 実 験 5b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···86
図 17 実 験 6a の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···90
図 18 実 験 6b の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ···93
図 19 実 験 7 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ··· 103
図 20 実 験 8 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ··· 108
図 21 実 験 9 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ··· 112
図 22 実 験 10 の 各 条 件 に お け る 平 均 正 反 応 時 間 お よ び 標 準 偏 差 ··· 116
図 23 韓 国 人 学 習 者 の 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 モ デ ル ··· 123
1
第 1 章
問 題 と 目 的
2
第 1 節 は じ め に
韓 国 語 を 母 語 (native language: first language と ほ ぼ 同 義 と し , 以 下 , L1) と す る 日 本 語 学 習 者 ( 以 下 , 韓 国 人 学 習 者 ) が 日 本 語 漢 字 を 視 覚 的 に 捉 え , そ の 形 態 ・ 音 韻 ・ 意 味 を 処 理 す る 際 ,L1 の 漢 字 知 識 は ど の よ う に 影 響 す る の で あ ろ う か 。海 保(2002)は ,中 国 語 を L1 と す る 中 国 ・ 台 湾 ・ 香 港 の 日 本 語 学 習 者( 以 下 ,中 国 語 系 学 習 者 )と 共 に 韓 国 人 学 習 者 を 漢 字 圏 学 習 者 と 位 置 付 け て い る 。し か し ,現 在 の 韓 国 で は 日 常 生 活 に お い て 漢 字 は ほ と ん ど 使 用 さ れ て い な い ( 李 ,2005; 宋 ,2004; 曹 ,1994)。 そ の た め , 日 本 語 漢 字 の 処 理 に お い て ,中 国 語 系 学 習 者 と は 異 な る 部 分 が あ る と 推 測 さ れ る 。し か し ,オ ン ラ イ ン 法(on-line method)を 用 い て 日 本 語 漢 字 の 処 理 に 及 ぼ す L1 の 漢 字 知 識 の 影 響 を 検 討 し た 研 究 の 多 く は ,中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 と し た も の で あ り ,韓 国 人 学 習 者 を 対 象 と し た 日 本 語 漢 字 の 処 理 に つ い て は 明 ら か に さ れ て い な い 点 が 多 い 。本 研 究 で は ,中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 に 行 わ れ た 先 行 研 究 に 倣 っ て オ ン ラ イ ン 法 を 用 い た 実 験 を 行 い ,韓 国 人 学 習 者 の 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 を 検 討 す る 。そ の 結 果 と 先 行 研 究 で 示 さ れ た 中 国 語 系 学 習 者 の 処 理 過 程 と の 対 照 か ら ,韓 国 人 学 習 者 が 日 本 語 漢 字 単 語 を 学 習 す る 際 ,中 国 語 系 学 習 者 と ど の 点 で 違 い が あ り ,何 に 留 意 す べ き か が 明 ら か に で き る で あ ろ う 。
第 2 節 先 行 研 究 の 概 観
1. 単 語 認 知 の 研 究
単 語 認 知 (word recognition)研 究 と は , 呈 示 さ れ た 視 覚 パ タ ー ン あ る い は 聴 覚 パ タ ー ン を 手 が か り と し て ,心 内 辞 書(mental lexicon)に 蓄 積 さ れ て い る 語 彙 情 報( 形 態 ,音 韻 ,意 味 な ど の 情 報 )が ど の よ う に 検 索 さ れ ,作 動 記 憶 (working memory) に 呼 び 出 さ れ て 利 用 さ れ る か を 解 明 し よ う と す る 研 究 分 野 で あ る ( 池 村 ,2003)。 語 彙 情 報 の う ち , 形 態 と 音 韻 に 関 す る 情 報 は 語 彙 表 象 (lexical representation) と し て 心 内 辞 書 に 内 在 ( 表 象 化 ) し て お り ,意 味 に 関 す る 情 報 は 概 念 表 象(conceptual representation)と し
3
て 心 内 辞 書 に 内 在( 表 象 化 )し て い る 。こ れ ら は 相 互 に つ な が っ て お り ,ネ ッ ト ワ ー ク 構 造 に な っ て い る と 仮 定 さ れ て い る 。そ し て ,呈 示 さ れ た 単 語 が 活 性 化 す る と ,そ れ が ネ ッ ト ワ ー ク を 通 し て 他 の 単 語 に も 伝 わ る と い う 活 性 伝 播 (spreading activation) と 呼 ば れ る 現 象 が 生 じ , 単 語 の 処 理 過 程 に お い て 干 渉 効 果 や 促 進 効 果 を も た ら す と さ れ て い る( 松 見・邱・桑 原 ,2006)。
そ の た め ,単 語 の 処 理 に お け る 抑 制 や 促 進 の 効 果 は ,ネ ッ ト ワ ー ク 内 の 単 語 間 関 係 ( 形 態 ・ 音 韻 ・ 意 味 な ど の 類 似 性 ) の 強 弱 に よ っ て 説 明 で き る 。
単 語 認 知 に 関 す る 実 験 の 方 法 は 大 き く 分 け て オ ン ラ イ ン 法 と オ フ ラ イ ン 法(off-line method)の 2 種 類 が あ る 。オ ン ラ イ ン 法 と は ,実 験 参 加 者 の 心 内 で 進 行 中 の 処 理 状 況 を 直 接 的 に 反 映 す る ( と 考 え ら れ る ) 反 応 測 度
(response measure) を 持 つ 実 験 手 法 で あ る 。 そ の 反 応 測 度 は , 主 と し て 読 み 上 げ 課 題 (naming task), 語 彙 判 断 課 題 (lexical decision task) な ど で の 反 応 時 間 (reaction time) で あ る ( 阿 部 ・ 桃 内 ・ 金 子 ・ 李 ,1994)。
読 み 上 げ 課 題 は ,視 覚 呈 示 さ れ た 単 語 を で き る だ け 速 く 正 確 に 読 む 課 題 で あ り , 視 覚 呈 示 開 始 か ら 読 み 始 め る ま で の 時 間 ( 音 読 潜 時; naming latency)
が 測 定 さ れ る 。語 彙 判 断 課 題 は ,呈 示 さ れ た 単 語 が 実 際 に 存 在 す る 単 語 で あ る か 否 か を で き る だ け 速 く 正 確 に 判 断 す る 課 題 で あ り ,呈 示 開 始 か ら 実 在 す る 単 語 か 否 か の 判 断 キ ー を 押 す ま で の 時 間 が 測 定 さ れ る 。読 み 上 げ 課 題 と 語 彙 判 断 課 題 は ,単 語 認 知 の 研 究 に お い て 最 も よ く 使 わ れ る 課 題 で あ る が ,得 ら れ る 結 果 に は ,そ れ ぞ れ の 課 題 の 影 響 を 受 け る こ と が わ か っ て い る(e.g., De Groot, Borgwaldt, Bos, & Van den Eijnden, 2002; Dijkstra, 2005 ; Neely, 1991)。読 み 上 げ 課 題 は ,音 声 出 力 が 要 求 さ れ る 課 題 で あ る た め ,音 韻 処 理 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。一 方 ,語 彙 判 断 課 題 は ,必 ず し も 音 韻 処 理 を 必 要 と し な い 課 題 で あ る た め ,視 覚 呈 示 の 場 合 は ,形 態 処 理 と 意 味 処 理 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。
2. バ イ リ ン ガ ル の 単 語 処 理 モ デ ル
バ イ リ ン ガ ル の 認 知 研 究 は ,1950年 代 以 降 に 始 ま り ,1980 年 代 に 入 っ て か ら は ,オ ン ラ イ ン 法 を 用 い た 実 験 に よ っ て バ イ リ ン ガ ル の 単 語 処 理 過 程 が 検 討 さ れ る よ う に な っ た ( 石 王 ,1999)。 バ イ リ ン ガ ル の 記 憶 表 象
4
(representation of word -memory)に つ い て の 研 究 は ,Kolers(1963)が , 分 離 モ デ ル ( 記 憶 表 象 が 言 語 ご と に 独 立 し て い る と 仮 定 す る モ デ ル; separate model)と 共 有 モ デ ル( 記 憶 表 象 が 2 つ の 言 語 で 共 有 さ れ て い る と 仮 定 す る モ デ ル; shared model) を 提 唱 し た こ と か ら 本 格 的 に 始 ま り , 単 語 処 理 モ デ ル に 関 す る 研 究 は ,Potter, So, Von Eckardt, & Feldman(1984)
に よ る 単 語 連 結 仮 説 (word association hypothesis) と 概 念 媒 介 仮 説
(concept mediation hypothesis) の 検 証 実 験 か ら 本 格 的 に 始 ま っ た と さ れ る ( 松 見, 1994, 2001)。 記 憶 表 象 が 分 離 し て い る か 共 有 し て い る か に つ い て は , 明 確 な 結 論 に は 至 ら な か っ た が ,1980 年 代 に 入 り , 共 有 説 の 流 れ を 汲 む 語 彙 表 象 と 概 念 表 象 に 関 す る 理 論 (theory of lexical and conceptual representation; Potter et al.,1984) が 構 築 さ れ た 。 こ の 理 論 で は ,2 つ の 言 語 間 の 単 語 翻 訳 に 関 し て ,当 初 2 つ の 仮 説( 単 語 連 結 仮 説 と 概 念 媒 介 仮 説 ) が 設 定 さ れ た 。単 語 連 結 仮 説 と は ,L1 と 第 二 言 語(second language: 以 下 , L2) の 単 語 同 士 が 直 接 結 び つ い て お り ,L2 の 単 語 が 概 念 表 象 に ア ク セ ス す る に は ,L1 を 介 在 さ せ な け れ ば な ら な い と い う 仮 説 で あ る 。 概 念 媒 介 仮 説 と は ,2 つ の 言 語 の 単 語 同 士 は 直 接 結 び つ い て お ら ず ,概 念 を 通 し て 連 結 し て い る と い う 仮 説 で あ る 。Potter et al.(1984) の 検 証 実 験 で は , 概 念 媒 介 仮 説 が 支 持 さ れ た 。 し か し , そ の 後 の 研 究 で は ,L2 の 習 熟 度 が 低 い 場 合 は 単 語 連 結 仮 説 が 支 持 さ れ ,習 熟 度 が 高 い 場 合 は 概 念 媒 介 仮 説 が 支 持 さ れ て い る (e.g., 川 上, 1994; Chen & Ho, 1986; Chen & Leung, 1989)。 こ れ ら の 研 究 を 受 け ,Kroll & Stewart(1994) は , 単 語 連 結 仮 説 と 概 念 媒 介 仮 説 を 合 わ せ た よ り 精 緻 な 心 内 辞 書 モ デ ル で あ る 改 訂 階 層 モ デ ル (revised hierarchical model) を 構 築 し た ( 図 1 を 参 照 )。 こ の モ デ ル に は , 次 の よ う な 特 徴 が あ る 。
1. L2 語 彙 表 象 は L1 語 彙 表 象 よ り も 小 さ い 。
2. 直 接 的 な 語 彙 連 結 は ,L2か ら L1 の ほ う が ,L1 か ら L2 よ り も 強 い 。 3. 語 彙 表 象 と 概 念 表 象 の 連 結 は 双 方 向 で ,L1 語 彙 表 象 と 概 念 表 象 の 連
結 の ほ う が ,L2 語 彙 表 象 と 概 念 表 象 の 連 結 よ り も 強 い 。
4. L2 語 彙 表 象 と 概 念 表 象 の 連 結 は ,L2 の 習 熟 度 が 高 く な る に つ れ て 形 成 さ れ る 。
5
第一言語
(表象) 第二言語
(表象)
概 念
(表 象)
語彙連結
概念連結 概念連結
強 い 連 結 を 表 す 弱 い 連 結 を 表 す
図 1 Kroll & Stewart(1994) に よ る 改 訂 階 層 モ デ ル
( 松 見 ,2001 を も と に 筆 者 が 作 成 )
改 訂 階 層 モ デ ル で は ,L2 の 習 熟 度 が 高 い 学 習 者 で も 翻 訳 の 不 均 衡 現 象 が み ら れ る こ と を 処 理 経 路 の 違 い で 説 明 し て い る 。 ま た ,L2 の 習 熟 度 が 高 く な り , 翻 訳 の 処 理 過 程 が 単 語 連 結 か ら 概 念 媒 介 へ と 発 達 的 に 移 行 し て も , L1 と L2 の 語 彙 表 象 ど う し の 連 結 は 消 え る こ と な く , 状 況 に 応 じ て 機 能 し 続 け る と 考 え ら れ て い る 。
3. 中 国 語 系 日 本 語 学 習 者 を 対 象 と し た 研 究
中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 に ,オ ン ラ イ ン 法 を 用 い て 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 の 検 討 を 試 み た 先 駆 的 な 研 究 と し て ,茅 本(1996)が あ る 。茅 本(1996)
は ,日 本 の 大 学 院 に 在 学 中 で あ る 大 陸 出 身 の 上 級 学 習 者 を 対 象 に ,視 覚 呈 示 さ れ た 日 本 語 1 字 漢 字 の 中 国 語 と 日 本 語 に よ る 読 み 上 げ 課 題 を 用 い た 実 験
6
を 行 っ た 。 こ の 実 験 で は , 漢 字 の 中 国 語 と 日 本 語 ( 以 下 , 中 日 ) の 形 態1と 音 韻 の 類 似 性 が 操 作 さ れ た 。実 験 の 結 果 ,形 態 類 似 性 の 効 果 は ,日 本 語 の 読 み 上 げ で は み ら れ な か っ た が , 中 国 語 の 読 み 上 げ で は 促 進 効 果 が み ら れ た 。 音 韻 類 似 性 の 促 進 効 果 は ,中 日 双 方 の 読 み 上 げ で み ら れ た 。日 本 語 で の 読 み 上 げ で 形 態 類 似 性 の 効 果 が み ら れ ず ,中 国 語 の 読 み 上 げ で 促 進 効 果 が み ら れ た こ と に つ い て , 茅 本 (1996) は , 学 習 者 が 呈 示 さ れ た 日 本 語 漢 字 を 中 国 語 で 読 み 上 げ る こ と に 慣 れ て い な い た め ,日 本 語 音 が 想 起 さ れ ,中 国 語 音 で の 反 応 が 遅 く な っ た と 考 察 し て い る 。ま た ,日 本 語 で の 読 み 上 げ に つ い て は , 中 日 の 形 態 が 違 っ て も , 漢 字 間 の リ ン ク が 強 く 張 ら れ ,L1 の 音 韻 情 報 が 活 性 化 す る た め ,中 日 の 音 韻 類 似 性 が 高 い 漢 字 の 検 索 が 速 い と 考 察 さ れ て い る 。 日 本 語 の 読 み 上 げ に お い て , 形 態 類 似 性 の 効 果 が み ら れ な か っ た こ と か ら , 漢 字 間 の 形 態 の リ ン ク は 強 固 で ,中 日 異 形 の 漢 字 で あ っ て も 同 一 の 漢 字 で あ る と の 認 識 が 速 い こ と が 示 唆 さ れ た 。
茅 本 (1996) で は , 茅 本 (1995) の 異 形 度2と い う , 漢 字 の 構 造 上 の 物 理 的 な 違 い を 基 準 に し て 形 態 類 似 性 が 操 作 さ れ て い る 。そ の た め ,心 理 的 な 印 象 評 定 の 違 い に 着 目 し て 漢 字 の 形 態 類 似 性 を 操 作 し た 実 験 と は 結 果 が 異 な る 可 能 性 が あ る 。
こ れ を 確 か め る た め に , 松 島 ・ 費 (2011) は , 日 本 の 大 学 に 在 籍 す る 大 陸 出 身 の 学 習 者 を 対 象 に , 異 形 度 の 0 か ら 4 の 5 群 の 1 字 漢 字 を 材 料 と し て ,中 国 語 に よ る 読 み 上 げ 課 題 を 用 い た 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,読 み 上 げ の 反 応 時 間 に お い て 異 形 度 3 と 異 形 度 0, 1, 2 の 間 に は 有 意 な 差 が み ら れ , 異 形 度 4 と 異 形 度 0, 1, 2 の 間 に も 有 意 な 差 が み ら れ た が , 異 形 度 0, 1, 2 の 間 と 異 形 度 3, 4 の 間 に は 有 意 な 差 は み ら れ な か っ た 。こ の こ と か ら ,松 島 ・ 費 (2011) は , 異 形 度 3, 4 の 漢 字 は , 中 日 の 2 言 語 間 で 形 態 表 象 が 独 立 し て 構 築 さ れ て い る 可 能 性 を 示 唆 し た 。
以 上 の こ と か ら ,大 陸 出 身 の 学 習 者 で は ,茅 本(1995)の 異 形 度 0,1,2
1 茅 本 (1996) で 要 因 と し て 操 作 さ れ た 「 形 態 」 と は , 漢 字 の 字 体 の こ と で あ る 。
2 茅 本 (1995) で は , 中 日 の 漢 字 の 字 体 の 差 異 を 以 下 の よ う に 分 類 さ れ い る 。 異 形 度 0: 全 く 同 じ
異 形 度 1: 点 や 線 の は ね な ど が 微 妙 に 違 っ て い る 異 形 度 2: 構 成 要 素 の 小 さ い 部 分 が 違 っ て い る
異 形 度 3: へ ん と つ く り の 両 方 ,ま た は 大 き い 部 分 が 違 っ て い る か ,構 成 要 素 が 一 部 欠 落 し て い る
異 形 度 4: 構 成 要 素 全 体 が 全 く 別 の も の に な っ て い る
7
の よ う な ,中 日 の 字 体 の 差 が 小 さ い 場 合 は ,そ の 違 い が 漢 字 の 認 識 に 影 響 を 与 え る こ と は な い と い え る 。 こ れ は , 海 保 (2002) が 指 摘 す る よ う に , 中 日 の 字 体 に つ い て は ,細 部 が 異 な っ て い て も 示 唆 的 特 徴 と 鋳 型 が 保 存 さ れ て い る も の が 多 い の で ,漢 字 形 の パ タ ー ン 認 識 の 上 で 困 難 さ が 伴 わ な い か ら で あ ろ う 。
さ ら に 茅 本 (2002) で は , 日 本 の 大 学 院 に 在 学 中 で あ る 大 陸 出 身 の 上 級 学 習 者 を 対 象 と し て ,2 字 漢 字 単 語 を 材 料 に 日 本 語 に よ る 読 み 上 げ 課 題 と , 中 国 語 ま た は 日 本 語 に よ る 語 彙 判 断 課 題 を 用 い た 実 験 が 行 わ れ た 。こ の 実 験 で は , 中 日 の 形 態3・ 音 韻 類 似 性 に 加 え て 意 味 の 差 異 が 操 作 さ れ た 。 実 験 の 結 果 ,意 味 に つ い て は ,両 課 題 の 実 験 と も 促 進 効 果 が み ら れ ,形 態 類 似 性 に つ い て は ,両 課 題 の 実 験 と も 促 進 傾 向 が み ら れ た 。し か し ,音 韻 類 似 性 に つ い て は ,読 み 上 げ 課 題 で は 促 進 効 果 が み ら れ た が ,語 彙 判 断 課 題 で は 効 果 が み ら れ ず ,課 題 に よ っ て 結 果 が 異 な る こ と が 示 さ れ た 。こ の 実 験 で 示 さ れ た 形 態 類 似 性 の 結 果 は , 茅 本 (1996) の 1 字 漢 字 の 結 果 と 異 な っ て い る が , そ れ に つ い て は 考 察 さ れ て い な い 。
日 本 語 L1 話 者 を 対 象 と し た 研 究 で は あ る が ,Kess & Miyamoto(1999) は ,2 字 の 漢 字 単 語 は , 漢 字 1 字 ず つ で は な く ,2 字 で 1 つ の ユ ニ ッ ト と し て 認 知 さ れ , 保 持 さ れ て い る と 述 べ て い る 。 ま た , 廣 瀬 (1994) の 日 本 語 L1 話 者 を 対 象 と し た 研 究 で も ,2 字 漢 字 単 語 の 第 1 文 字 が 共 通 す る 単 語 群 と 1 字 漢 字 は ,同 じ 漢 字 で あ っ て も 別 に 記 憶 さ れ て い る こ と を 示 唆 し て い る 。 茅 本(2002)は ,2 字 漢 字 単 語 を 構 成 す る 前 漢 字・後 漢 字 そ れ ぞ れ の 異 形 度 の 合 計 で 形 態 類 似 性 を 2 群 に 分 け て い る 。 上 記 の 2 字 漢 字 単 語 と 1 字 漢 字 の 違 い が 中 国 語 系 学 習 者 に も 当 て は ま る と 考 え ら れ る の で ,1 字 ず つ の 異 形 度 の 合 計 を 2 字 漢 字 単 語 の 異 形 度 と し て い る4 茅 本 (2002) の 形 態 類 似 性 の 結 果 に つ い て は , 疑 問 が 残 る 。
Nakayama(2002) も 中 日 の 字 体 の 違 い を 要 因 と し て 実 験 を 行 っ て い る 。 Nakayama(2002) は , 日 本 の 大 学 に 在 籍 し て い る 上 級 学 習 者 を 対 象 に ,
3 茅 本 (1966) と 同 様 に ,「 形 態 」 は 漢 字 の 字 体 の こ と で あ る 。
4 茅 本 (2004) で は , 茅 本 (1995) の 異 形 度 の 基 準 で 教 育 漢 字 1006字 に つ い て 中 日 の 字 体 の 差 異 が 数 値 化 さ れ て い る 。 茅 本 (2002) で 形 態 類 似 性 が 低 い 単 語 と し て 選 定 さ れ た
「 移 動 (移 动)」 を 例 に す る と ,「 移 」 は 異 形 度 0,「 動 」 は 異 形 度 3で ,「 移 動 」 の 異 形 度 は 3で あ る 。
8
字 体 が 一 致 す る 同 根 語 (identical-cognate)5 と , 字 体 が 類 似 す る6 同 根 語
(similar-cognate),そ し て 字 体 の 一 致・類 似 が な い 非 同 根 語(non-cognate)
を 材 料 と し て , プ ラ イ ミ ン グ 法 (priming paradigm) に よ る 単 語 完 成 課 題 と 中 国 語 に よ る 語 彙 判 断 課 題 と を 用 い た 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,単 語 完 成 課 題 の 単 語 完 成 率 に お い て ,字 体 が 一 致 す る 同 根 語 に 促 進 効 果 が み ら れ た の に 対 し , 字 体 が 類 似 す る 同 根 語 は 同 様 の 傾 向 を 示 し た が 有 意 で は な か っ た 。 語 彙 判 断 課 題 に お い て は , 字 体 が 一 致 す る 同 根 語 の 反 応 時 間 が 有 意 に 短 く , 字 体 が 類 似 す る 同 根 語 と 非 同 根 語 の 間 で 反 応 時 間 に 有 意 差 は み ら れ な か っ た 。 た だ し , 字 体 が 類 似 す る 同 根 語 の 誤 答 率 が 有 意 に 低 く , ト レ ー ド オ フ
(trade-off) 現 象 が み ら れ た こ と か ら , 字 体 が 類 似 す る 同 根 語 に つ い て は , 語 彙 表 象 の 関 係 は 明 確 に で き な か っ た 。
以 上 の 結 果 か ら ,大 陸 出 身 の 学 習 者 の 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 に お け る 中 日 の 形 態 類 似 性 に つ い て は ,反 応 時 間 に お い て 効 果 が み ら れ る 可 能 性 が 考 え ら れ る が ,Nakayama(2002)の 結 果 か ら は 確 証 は 得 ら れ な い 。た だ し ,中 国 語 系 学 習 者 が 日 本 語 漢 字 を 処 理 す る 際 に ,L1 で あ る 中 国 語 が 影 響 す る こ と は 確 認 さ れ た 。そ の 影 響 を 処 理 経 路 に 焦 点 を あ て て 調 べ た 研 究 が ,邱(2002a) で あ る 。
邱(2002a)は , 台 湾 在 住 の 中 級 と 上 級 の 学 習 者 を 対 象 に 同 根 語 と 非 同 根 語 の 処 理 経 路 を 検 討 し た 。実 験 で は ,中 日 2 言 語 間 の 同 根 語 ,非 同 根 語 で あ る 日 本 語 の 2 字 漢 字 単 語 を タ ー ゲ ッ ト 語 と し ,そ の タ ー ゲ ッ ト 語 の 同 音 異 義 語 ・ 非 同 音 異 義 語 に あ た る 単 語 の 形 態 類 似 性7が 操 作 さ れ , 意 味 判 断 課 題 が 用 い ら れ た 。 そ の 結 果 , 同 根 語 で は , 形 態 類 似 性 の 抑 制 効 果 が み ら れ た が , 音 韻 条 件( 同 音 異 義 語・非 同 音 異 義 語 )は 有 意 で は な か っ た 。非 同 根 語 で は , 形 態 類 似 性 あ り の 条 件 で は ,音 韻 条 件 が 抑 制 に 働 き ,形 態 類 似 性 な し の 条 件 で は ,音 韻 条 件 が 促 進 に 働 い た 。ま た ,同 音 異 義 語 条 件 で は ,形 態 類 似 性 の
5 同 根 語 と は , 言 語 学 的 に 同 一 語 族 の 言 語 間 で 使 用 さ れ る , 形 態 ・ 音 韻 ・ 意 味 が 類 似 す る 単 語 の こ と で あ る 。 中 国 語 と 日 本 語 は 同 族 言 語 で は な い の で , 厳 密 に は 同 根 語 は 存 在 し な い 。 し か し , 両 言 語 に は 形 態 が 類 似 し , 意 味 が ほ ぼ 同 じ と い う 単 語 が 多 数 存 在 す る こ と か ら , 近 年 の 研 究 で は そ の よ う な 特 徴 を 持 つ 単 語 は 同 根 語 と し て 扱 わ れ て い る (e.g., 邱, 2002a,2003,2012; 蔡 ・ 松 見, 2009)。
6 Nakayama(2002) で は , 字 体 の 類 似 性 に 関 す る 基 準 は 示 さ れ て い な い 。
7 邱 (2002a) は , 正 答 の 単 語 を 基 準 と し て , タ ー ゲ ッ ト 語 の 1字 に 同 じ 漢 字 が 使 用 さ れ て い る 場 合 は 形 態 類 似 性 あ り , 使 用 さ れ て い な い 場 合 は 形 態 類 似 性 な し と し て い る 。
9
抑 制 効 果 が み ら れ た が , 非 同 音 異 義 語 条 件 で は , 有 意 差 は み ら れ な か っ た 。 以 上 の 結 果 か ら ,同 根 語 は 形 態 情 報 か ら 中 国 語 の 音 韻 情 報 を 媒 介 し て 意 味 ア ク セ ス さ れ る の に 対 し ,非 同 根 語 は 日 本 語 の 音 韻 情 報 を 媒 介 し て 意 味 ア ク セ ス さ れ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
さ ら に 邱(2003)で は ,日 本 語 の 漢 字 単 語 の 音 韻 処 理 に 及 ぼ す L1 の 影 響 を 調 べ る た め に ,習 熟 度 と 単 語 タ イ プ( 同 根 語 ,音 読 み の 非 同 根 語 ,訓 読 み の 非 同 根 語 ), お よ び 単 語 の 習 得 年 齢 を 要 因 に , 読 み 上 げ 課 題 を 用 い た 実 験 が 行 わ れ た 。そ の 結 果 ,音 読 み の 非 同 根 語 ,同 根 語 ,訓 読 み の 非 同 根 語 の 順 に 日 本 語 音 の 処 理 に 熟 練 し て い く こ と が 明 ら か に な っ た 。ま た ,日 本 語 音 の 処 理 経 験 が 増 え る に つ れ ,漢 字 単 語 の 形 態 と 音 韻 の 連 結 が 強 化 さ れ ,単 語 タ イ プ の 効 果 が 解 消 さ れ る 傾 向 が あ る こ と も 示 さ れ た 。
以 上 に あ げ た 先 行 研 究 の 多 く は ,特 定 の 心 内 辞 書 モ デ ル を 枠 組 み と し た も の で は な い が , 近 年 は ,Kroll & Stewart(1994) が 提 唱 し た 改 訂 階 層 モ デ ル を 枠 組 み と し て 心 内 辞 書 の 解 明 が 試 み ら れ て い る 。
蔡 ・ 松 見 (2009) は , 上 級 学 習 者 を 対 象 に , 中 国 語 と 日 本 語 の 同 根 語 と 非 同 根 語 を 用 い て 言 語 間 プ ラ イ ミ ン グ 法 ( cross-language priming paradigm) に よ る 語 彙 判 断 課 題 を 用 い た 実 験 を 行 っ た 。 こ の 実 験 で は , 同 根 語 ま た は 非 同 根 語 で あ る 中 国 語 単 語 が プ ラ イ ム 語 と し て 先 行 呈 示 さ れ ,タ ー ゲ ッ ト 語 と し て プ ラ イ ム 単 語 と の 意 味 的 関 連 性 の 有 無 を 操 作 し た 日 本 語 単 語 が 後 続 呈 示 さ れ た 。そ の 結 果 ,プ ラ イ ム 単 語 が 非 同 根 語 の 時 に 意 味 的 関 連 性 の あ る タ ー ゲ ッ ト 単 語 の 処 理 が 促 進 さ れ ,概 念 表 象 の 媒 介 に よ っ て 日 本 語 単 語 の 処 理 が 行 わ れ る こ と が 示 さ れ た 。一 方 ,プ ラ イ ム 単 語 が 同 根 語 の 時 に 意 味 的 関 連 性 の あ る タ ー ゲ ッ ト 単 語 の 処 理 が 長 く ,2 言 語 の 語 彙 表 象 の 同 時 活 性 化 に よ る 影 響 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。以 上 の こ と か ら ,非 同 根 語 は 2 言 語 間 で 語 彙 表 象 が 分 離・独 立 し て い る の に 対 し ,同 根 語 は 言 語 表 象 が 共 有 さ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 費 ・ 松 見 (2011) で は , 上 級 学 習 者 を 対 象 に ,形 態 だ け で な く 音 韻 の 類 似 性 も 操 作 さ れ ,聴 覚 呈 示 に よ る 言 語 間 プ ラ イ ミ ン グ 法 に よ る 語 彙 判 断 課 題 を 用 い た 実 験 が 行 わ れ た 。そ の 結 果 ,音 韻 類 似 性 の 高 低 に か か わ ら ず 2 言 語 間 で 音 韻 表 象 (phonological representation) が 分 離 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
10
蔡 ・ 費 ・ 松 見 (2011) と 松 見 ・ 費 ・ 蔡 (2012) は , 共 に 同 じ 課 題 を 用 い て 実 験 を 行 い ,日 本 語 の 習 熟 度 の 違 い に よ っ て ,学 習 者 の 心 内 辞 書 の 表 象 間 の 連 結 関 係 が 変 わ る こ と を 示 し た 。 こ れ ら の 実 験 で は , 形 態 類 似 性8と 音 韻 類 似 性 を 操 作 し た 2 字 漢 字 単 語 を 材 料 に ,語 彙 判 断 課 題 と 読 み 上 げ 課 題 が 採 用 さ れ て い る 。
蔡 他 (2011) で は , 中 国 在 住 の 上 級 学 習 者 を 対 象 に 実 験 が 行 わ れ た 。 そ の 結 果 ,語 彙 判 断 課 題 で は ,形 態 類 似 性 の 促 進 効 果 と 音 韻 類 似 性 の 促 進 傾 向 が み ら れ た 。読 み 上 げ 課 題 で は ,形 態 類 似 性 と 音 韻 類 似 性 の 交 互 作 用 が 有 意 で あ り ,形 態 類 似 性 の 高 低 に か か わ ら ず 音 韻 類 似 性 の 促 進 効 果 が 出 現 し た が , 形 態 類 似 性 の 効 果 に つ い て は , 音 韻 類 似 性 が 高 い 場 合 に 抑 制 効 果 が み ら れ , 音 韻 類 似 性 が 低 い 場 合 は 促 進 ま た は 抑 制 の 効 果 は み ら れ な か っ た 。こ れ ら の 結 果 か ら ,音 韻 類 似 性 が 高 い 漢 字 単 語 ほ ど ,中 日 の 音 韻 表 象 間 の 連 結 強 度 が 強 い( 表 象 間 の 距 離 が 近 い )こ と が 示 さ れ た 。ま た ,読 み 上 げ 課 題 に お い て , 音 韻 類 似 性 が 高 い 場 合 に 形 態 類 似 性 の 抑 制 効 果 が み ら れ た の は ,日 本 語 の 形 態 表 象 (graphic representation) と 中 国 語 の 音 韻 表 象 の 連 結 が 強 い こ と か ら ,中 国 語 の 音 韻 に よ る 抑 制 が 生 じ た こ と に よ る と 考 え ら れ る 。こ れ は ,台 湾 人 学 習 者 を 対 象 に 意 味 判 断 課 題 を 用 い た 邱(2002a)の 見 解 と も 一 致 す る 。 松 見 他 (2012) で は , 中 国 在 住 の 中 級 学 習 者 を 対 象 に 実 験 が 行 わ れ た 。 そ の 結 果 ,語 彙 判 断 課 題 に お い て も 読 み 上 げ 課 題 に お い て も 音 韻 類 似 性 の 促 進 効 果 だ け が み ら れ ,形 態 類 似 性 の 主 効 果 と 形 態 類 似 性 と 音 韻 類 似 性 の 交 互 作 用 は 有 意 で は な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 を 蔡 他 (2011) の 上 級 学 習 者 と 比 較 す る こ と に よ り , 中 級 の 学 習 者 の 特 徴 と し て , 次 の 3 点 を 挙 げ て い る 。
1. 形 態 類 似 性 の 高 低 に か か わ ら ず( 中 国 語 の 形 態 表 象 と の 共 有・非 共 有 に か か わ ら ず ), 日 本 語 の 漢 字 単 語 の 形 態 表 象 が 中 国 語 の 音 韻 表 象 と の 間 で 強 い 連 結 を 形 成 し て い る
2. 中 日 で 共 有 さ れ て い る 形 態 表 象 と 概 念 表 象 と の 連 結 が 上 級 学 習 者 ほ ど 強 く な い た め ,形 態 類 似 性 の 高 い 漢 字 単 語 で も 形 態 表 象 か ら 直 接 概 念 表 象 へ 意 味 ア ク セ ス さ れ る 可 能 性 が 低 い
3. 上 級 学 習 者 に 存 在 す る よ う な ,中 日 で 共 有 さ れ て い る 形 態 表 象 と( 音
8 蔡 他 (2011), 松 見 他 (2012) で は , 形 態 類 似 性 の 高 低 に つ い て , 中 日 の 翻 訳 同 義 語 で 同 じ 漢 字 が 使 用 さ れ て い る か 否 か で 分 け ら れ て い る 。
11
韻 類 似 性 が 高 い 単 語 の )日 本 語 の 音 韻 表 象 と の 強 い 連 結 が 成 立 し て い な い
松 見 他 (2012) は , こ れ ら の 結 果 を も と に , 中 級 学 習 者 の 心 内 辞 書 モ デ ル を 考 案 し た ( 図 2 を 参 照 )。 こ の モ デ ル で は , 実 線 は 強 い 連 結 を 表 し , 点 線 は 弱 い 連 結 を 表 し て い る 。
L1語彙表象 L2語彙表象
概念表象
形態表象 形態表象
音韻表象 音韻表象
強 い 連 結 を 表 す 弱 い 連 結 を 表 す
図 2 中 国 語 系 中 級 学 習 者 の 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程
( 松 見 他 ,2012 を も と に 筆 者 が 作 成 )
長 野 ・ 松 見 (2013) は , 日 本 在 住 の 上 級 学 習 者 を 対 象 に , 蔡 他 (2011),
松 見 他 (2012) に 準 じ た 実 験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , 語 彙 判 断 課 題 で は , 形 態 類 似 性9の 主 効 果 と 形 態 類 似 性 と 音 韻 類 似 性 の 交 互 作 用 は 有 意 で は な く , 音 韻 類 似 性 の 促 進 効 果 だ け が み ら れ た 。長 野・松 見(2013)は ,蔡 他(2011)
9 蔡 他 (2011), 松 見 他 (2012) と 同 様 に , 形 態 類 似 性 の 高 低 に つ い て , 中 日 の 翻 訳 同 義 語 で 同 じ 漢 字 が 使 用 さ れ て い る か 否 か で 分 け ら れ て い る 。
12
で み ら れ た 形 態 類 似 性 の 促 進 効 果 が み ら れ な か っ た こ と か ら ,日 本 在 住 の 上 級 学 習 者 の 場 合 は ,形 態 類 似 性 が 低 い 日 本 語 単 語 の 形 態 表 象 の 形 成 度10が 形 態 類 似 性 の 高 い 日 本 語 単 語 の 形 態 表 象 と 同 程 度 に 高 く な っ て い る と 考 察 し て い る 。他 方 ,読 み 上 げ 課 題 で は ,形 態 類 似 性 が 高 い 場 合 は 音 韻 類 似 性 の 促 進 傾 向 が み ら れ ,形 態 類 似 性 が 低 い 場 合 は 音 韻 類 似 性 の 促 進 効 果 が み ら れ た 。 ま た ,音 韻 類 似 性 が 高 い 場 合 は ,形 態 類 似 性 の 効 果 が み ら れ ず ,音 韻 類 似 性 の 低 い 場 合 は , 形 態 類 似 性 の 促 進 効 果 が み ら れ た 。 蔡 他 (2011) で は , 音 韻 類 似 性 が 高 い 場 合 に 形 態 類 似 性 の 抑 制 効 果 が み ら れ ,音 韻 類 似 性 が 低 い 場 合 に 形 態 類 似 性 の 効 果 が み ら れ な か っ た こ と か ら ,長 野・松 見(2013)は , 日 本 在 住 の 上 級 学 習 者 に お い て ,形 態 類 似 性 の 高 い 単 語 の 読 み 上 げ が 速 く な っ た と 考 察 し て い る 。こ の よ う に ,学 習 環 境 の 違 い に よ っ て も 日 本 語 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 が 変 容 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。
こ れ ら の 他 に も , 聴 覚 呈 示 に よ る 語 彙 判 断 課 題 を 用 い た 実 験 ( 費 ,2013;
費 ・ 松 見, 2012) や , 視 覚 ・ 聴 覚 の 呈 示 モ ダ リ テ ィ を 操 作 し た 実 験 ( 邱 , 2012), さ ら に , 制 約 性 を 操 作 し , 文 の 呈 示 が 伴 う 場 合 の 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 を 検 討 し た 研 究 ( 蔡, 2009,2011; 費 ・ 松 見 ,2013) が あ り , 中 国 語 系 学 習 者 が 日 本 語 漢 字 単 語 を 処 理 す る 際 の L1の 影 響 が 解 明 さ れ つ つ あ る 。
4. 韓 国 人 日 本 語 学 習 者 を 対 象 と し た 研 究
韓 国 人 学 習 者 を 対 象 に オ ン ラ イ ン 法 を 用 い た 実 験 は ,中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 と し た 実 験 に 比 べ て 少 な い 。こ こ で は ,中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 と し た 先 行 研 究 と 比 較 す る 際 に 必 要 と な る ,韓 国 語 の 漢 字 お よ び 漢 語 に つ い て の 特 徴 と 使 用 状 況 を 最 初 に 述 べ ,次 に ,韓 国 人 学 習 者 を 対 象 に 行 わ れ た 研 究 を 概 観 す る 。
韓 国 語 に は , 多 く の 漢 語 が あ る 。 中 村 (1968) の 辞 典 (소 사 전) の 見 出 し 語 を 対 象 と し た 調 査 で は ,韓 国 語 に 占 め る 漢 語 の 割 合 は ,固 有 語 の 割 合 と ほ ぼ 同 率 で は あ る が , 最 も 多 い こ と が 示 さ れ て い る 。 ま た ,한 국 민 족 문 화
10 長 野 ・ 松 見 (2013) で は , 表 象 の 形 成 度 に つ い て 次 の よ う に 述 べ ら れ て い る 。
表 象 の 形 成 度 が 高 い 場 合 は , 活 性 化 の 閾 値 が 低 く , 活 性 化 が 生 じ や す い 。 一 方 , 形 成 度 が 低 い 場 合 は , 活 性 化 の 閾 値 が 高 く , 活 性 化 が 生 じ に く い 。 ま た , 表 象 間 の 連 結 が 強 化 さ れ る に は ,そ の 土 台 と な る 2つ の 表 象 の 形 成 度 が あ る 程 度 高 く な る こ と が 必 要 で あ る 。 し た が っ て ,形 態 表 象 や 音 韻 表 象 の 形 成 度 の 向 上 は ,他 の 表 象 と の 連 結 強 化 の た め の 前 提 条 件 に な る と 考 え ら れ る 。
13
대 백 과 사 전 편 찬 부(1991) で は , 辞 典 (큰 사 전) の 見 出 し 語 の 過 半 数 が 漢 語 で あ り , 教 科 書 や 一 般 刊 行 物 を 対 象 に 行 っ た 使 用 頻 度 の 調 査 に お い て ,5 万 6096 項 目 の う ち 3 万 9563 項 目 が 漢 語 で あ る と 記 述 さ れ て い る 。 そ の た め ,韓 国 語 を 使 っ て 抽 象 的 世 界 ,学 問 的 世 界 等 の 事 象 を 扱 お う と す れ ば 漢 語 に 依 ら な け れ ば 何 も で き な い( 伊 藤, 2007)ほ ど ,韓 国 語 に と っ て 漢 語 は 重 要 な 位 置 を 占 め て い る 。基 礎 語 彙 に つ い て ,漢 語 の 比 重 は 日 本 語 よ り も 韓 国 語 の 方 が か な り 大 き い こ と も 指 摘 さ れ て い る ( 梅 田 ,1977; 門 脇, 1982)。
金 (1994) の 調 査 で は , 日 本 の 『 読 売 新 聞 』 と 韓 国 の 『 中 央 日 報 』 で 共 通 に 報 道 さ れ た 記 事 の 比 較 か ら ,日 本 語 よ り も 韓 国 語 の 方 が 漢 語 の 使 用 率 が 高 い こ と が 明 ら か に さ れ て い る11。
ま た ,韓 国 語 と 日 本 語( 以 下 ,韓 日 )で 共 通 す る 漢 字 語 彙 も 多 い 。李(1984)
は ,『 日 本 語 教 育 基 本 語 彙 七 種 比 較 対 象 表 』 に あ る 韓 日 同 形12の 漢 字 表 記 語 の 数 を 調 査 し た 。 そ の 結 果 , 全 体 (6073 語 ) の 43.39% が 韓 日 同 形 語 で あ り ,さ ら に ,そ の 中 に あ る 漢 語(2604 語 )の 94.08%が 韓 国 語 と 同 形 あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。こ の よ う に ,韓 日 で 共 通 す る 漢 語 は 多 く ,そ の 一 致 率 は , 中 日 よ り も 韓 日 の 方 が 高 い と 述 べ ら れ て い る ( 塩 田, 1999; 志 部, 1989;
張, 2000)。
単 漢 字 に つ い て も , 韓 日 の 共 通 点 は 多 い 。 兒 島 (2007) で は , 韓 国 の 漢 文 教 育 用 基 礎 漢 字13(1800字 )の う ち 1600 字 が 日 本 の 常 用 漢 字 に 含 ま れ て い る こ と が 示 さ れ て い る 。音 に つ い て も ,現 代 北 京 音 よ り も 韓 国 語 漢 字 音 の 方 が 日 本 語 の 音 読 み に 似 て い る ( 油 谷, 2005) こ と が 指 摘 さ れ て お り , 禹
(1995)は ,韓 日 の 漢 字 音 の 音 韻 変 化 と 対 応 規 則 が 分 か れ ば ,常 用 漢 字(1945 字 ) の う ち ,1094 字 の 音 読 み が 可 能 に な る と 述 べ て い る 。 漢 字 の 字 体 に つ い て は ,韓 国 で は 正 字 体14が 用 い ら れ て お り ,日 本 で 用 い ら れ る 略 字 は 原 則 と し て 使 わ れ な い( 志 部, 1989)た め ,韓 国 の 漢 文 教 育 用 基 礎 漢 字 に 含 ま れ る 日 本 の 常 用 漢 字 と 共 通 の 1600 字 の う ち ,453 字 は 韓 日 で 字 体 が 異 な っ て
1 1 た だ し ,95個 の 漢 語 の う ち , 漢 字 で 表 記 さ れ た も の は 8個 で あ っ た 。
1 2 李 (1984) の 調 査 で は ,「 組 合 」「 赤 字 」 の よ う に , 韓 国 語 に 入 っ て 音 読 さ れ , 漢 語 と し て 認 識 さ れ る 語 や 「 女 」「 薬 」 の よ う に , 漢 字 で 表 記 し た 場 合 , 韓 国 語 と 同 じ に な る 語 も 同 形 語 と さ れ て い る 。
1 3 中 学 校 ・ 高 等 学 校 の 「 漢 文 」 科 目 で 扱 わ れ る 1800字 の こ と で あ る 。
14 兒 島 (2007) は , 必 ず し も 正 字 体 ( 康 煕 字 典 体 ) と 韓 国 語 漢 字 の す べ て の 字 体 が 一 致 し て い る わ け で は な い と 指 摘 し て い る 。
14 い る ( 兒 島, 2007)。
以 上 の よ う に ,字 体 に つ い て は 学 習 の 必 要 性 が あ る が ,漢 字 や 漢 字 語 彙 に つ い て , 中 日 以 上 に 韓 日 の 共 通 性 が 高 い こ と が 分 か る 。 曹 (1994) は , 韓 国 人 学 習 者 に つ い て ,「 世 界 の ど こ の 学 習 者 よ り も 日 本 語 を 習 う と き に , 断 然 恵 ま れ て い る (p.62)」 と 述 べ て い る が , 安 (2001) の 韓 国 人 学 習 者 と 中 国 語 系 学 習 者 を 対 象 と し た 漢 語 に つ い て の 意 識 調 査 で は ,「L1 の 漢 語 と 日 本 語 の 漢 語 は 類 似 点 が 多 い か ら 学 習 し や す い 」 と い う 質 問 項 目 で ,「 は い 」 と 回 答 し た 韓 国 人 学 習 者 は , 初 級 ・ 中 級 で 半 分 以 下 で あ っ た 。 こ れ に つ い て , 安 (2001) は , 韓 国 語 に お い て 漢 字 が 一 般 に 使 わ れ て い な い た め , 漢 字 学 習 が 負 担 に な り ,韓 日 の 漢 語 の 類 似 点 の 多 さ が 直 接 漢 語 学 習 の 容 易 さ に 結 び つ き に く い こ と が 原 因 で あ る と 指 摘 し て い る 。
生 越 (2005) に よ る と , 韓 国 の 文 字 政 策 お よ び 漢 字 教 育 は 次 の よ う に 変 遷 し た と 述 べ ら れ て い る 。韓 国 で は 1945年 か ら ハ ン グ ル だ け で 文 章 を 書 く べ き だ と す る ハ ン グ ル 専 用 論 と 漢 字 と ハ ン グ ル を 混 ぜ て 文 章 を 書 く べ き だ と す る 国 漢 混 用 論 が 対 立 し ,政 府 の 政 策 も 双 方 の 意 見 の 間 で 揺 れ 続 け ,何 度 も 文 字 政 策 の 変 更 が 行 わ れ た 。 こ の 中 で , 最 も 大 き な 政 策 変 更 は ,1970 年 の ハ ン グ ル 専 用 の 実 施 で あ り ,そ れ ま で 教 科 書 は ハ ン グ ル と 漢 字 が 混 ぜ 書 き さ れ て い た の に 対 し , こ れ 以 降 は ハ ン グ ル の み で 書 か れ る よ う に な っ た15。 同 時 に , 漢 字 教 育 は ,1972 年 以 降 中 学 校 ・ 高 等 学 校 の 「 漢 文 」 科 目 で 行 わ れ る よ う に な り ,漢 字 教 育 は 日 常 生 活 の た め と い う よ り ,教 養 と し て の 色 彩 が 強 く な っ た 。
上 記 の よ う な 変 遷 の 結 果 ,韓 国 人 の 日 常 生 活 に お け る 漢 字 の 使 用 率 は 急 激 に 低 下 し ,漢 字 能 力 も 低 下 し た( 李 ,2005; 宋 ,2004; 曹 ,1994)。こ の よ う な 状 況 か ら ,韓 国 人 学 習 者 は ,中 国 語 系 学 習 者 と 同 列 に は で き ず ,近 年 で は ,中 国 語 系 学 習 者 と 区 別 し て ,韓 国 人 学 習 者 は「 漢 字 文 化 圏 」あ る い は「 準 漢 字 圏 」 の 学 習 者 と し て 扱 わ れ は じ め て い る ( 加 納 ,2011)。
で は ,「 準 漢 字 圏 」 と は , ど の よ う な 位 置 づ け に な る の で あ ろ う か 。 姜 (2011) は , 日 本 人 と , 韓 国 の 大 学 に 在 学 中 の 中 級 ・ 上 級 の 韓 国 人 学 習 者 を 対 象 に ,日 本 語 の 2 字 漢 字 単 語 の 画 数 を 操 作 し ,語 彙 判 断 課 題 を 用 い
15 後 に 括 弧 し て 漢 字 が 併 記 さ れ る よ う に な っ た ( 生 越 ,2005)。
15
た 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,日 本 人 で は 画 数 の 多 寡 が 反 応 時 間 に 影 響 を 与 え な か っ た の に 対 し ,韓 国 人 学 習 者 で は ,中 級・上 級 の 学 習 者 と も ,画 数 の 少 な い 単 語 よ り 画 数 の 多 い 単 語 の 方 が 反 応 時 間 が 長 く ,英 語 を L1 と す る 学 習 者 と 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た と 述 べ て い る 。
Mori(1998)は ,英 語・中 国 語・韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 を 対 象 に 擬 似 漢 字 語 を 用 い た 実 験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , 英 語 を L1 と す る 学 習 者 は , 音 韻 符 号 化 が 可 能 な 擬 似 漢 字 語 の 方 が そ う で な い 擬 似 漢 字 語 よ り も 再 生 成 績 が 高 い の に 対 し , 中 国 語 ・ 韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 は , 音 韻 符 号 化 が 可 能 か 否 か に よ っ て 再 生 成 績 に ほ と ん ど 影 響 し な い こ と を 示 し た 。
石 田(1986)は ,英 語 ・ 中 国 語 ・ 韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 の 日 本 語 学 力 を 分 析 し ,英 語 を L1と す る 学 習 者 は 漢 字 の 読 み 書 き が 聴 解 力 と は 独 立 し て い る の に 対 し , 中 国 語 ・ 韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 は 両 者 に 密 接 な 関 係 が あ る こ と を 示 し た 。 ま た , 漢 字 の 書 き 方 テ ス ト に お い て , 中 国 語 ・ 韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 は 自 国 語 の 漢 字 の 同 音 語 を 入 れ る こ と が 多 い こ と ,さ ら に , 韓 国 語 を L1 と す る 学 習 者 の 漢 字 の 書 き 方 テ ス ト の 上 位 群 の 結 果 は ,中 国 語 を L1 と す る 学 習 者 と ほ と ん ど 差 が み ら れ な い が ,下 位 群 で は か な り の 差 が あ る こ と を 示 し た 。
加 納 (2000) で は , 漢 字 の 宿 題 と テ ス ト の 結 果 が 分 析 さ れ , 韓 国 人 学 習 者 は 読 み の 不 正 確 さ に 関 し て は 中 国 語 系 学 習 者 と 共 通 し て い る が ,書 き の 弱 さ に つ い て は 非 漢 字 圏 学 習 者 と 共 通 す る こ と が 明 ら か に さ れ た 。ま た ,反 義 語 を 問 う 問 題 と 文 中 の 漢 字 語 の 用 法 を 問 う 問 題 に 関 し て は ,非 漢 字 圏 学 習 者 と 明 ら か に 異 な る 傾 向 を 示 す こ と も 明 ら か に さ れ た 。
伊 藤 ・ 和 田 (2004) は , 韓 国 人 学 習 者 と 中 国 人 学 習 者 を 対 象 に 自 由 再 生 法 を 用 い て 漢 字 の 記 憶 検 索 過 程 を 検 討 し た 。そ の 結 果 ,両 学 習 者 と も 初 級 の 段 階 で 既 に 意 味 的 検 索 が 中 心 的 に 行 わ れ る だ け の 漢 字 の 形 態 - 概 念 間 の 結 び 付 き が 確 定 さ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。ま た ,日 本 語 の 漢 字 の 習 得 が 進 む に つ れ て ,中 国 人 学 習 者 は 意 味 手 が か り の 利 用 が 多 く な る が ,韓 国 人 学 習 者 の 意 味 手 が か り の 利 用 割 合 は 変 わ ら な い こ と が 示 さ れ た 。
小 森 (2005) は , 中 国 語 系 学 習 者 と 韓 国 人 学 習 者 を 対 象 に 読 解 と 聴 解 に お け る 単 語 認 知 と 文 章 の 内 容 理 解 を 測 定 す る 実 験 を 行 っ た 。そ の 結 果 ,中 国
16
語 系 学 習 者 は ,単 語 認 知 過 程 に お い て ,意 味 表 象( 概 念 表 象 )へ の ア ク セ ス は 視 覚 入 力 の 方 が 聴 覚 入 力 よ り 優 勢 で あ り ,単 語 認 知 処 理 が 視 覚 に 依 存 し て い る が ,韓 国 人 学 習 者 は ,意 味 表 象( 概 念 表 象 )の ア ク セ ス は ,視 覚 入 力 よ り 聴 覚 入 力 の 方 が 促 進 さ れ や す い 可 能 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
以 上 の こ と か ら ,漢 字 の 処 理 に お い て ,韓 国 人 学 習 者 は ,非 漢 字 圏 学 習 者 よ り は 中 国 語 系 学 習 者 に 近 い が ,中 国 語 系 学 習 者 と 異 な る 部 分 が あ る こ と が 推 測 で き る 。 韓 国 人 学 習 者 と 中 国 語 系 学 習 者 の 違 い は , 日 本 語 学 習 以 前 の L1 の 漢 字 知 識 に よ る 。 中 国 語 系 学 習 者 は 日 本 語 を 学 習 す る 前 か ら L1 と し て の 漢 字 知 識 を 豊 富 に 持 っ て い る が ,韓 国 人 学 習 者 は 日 本 語 学 習 初 期 の 段 階 で は L1 の 漢 字 知 識 は 少 な い16。 し か し , 日 本 語 の 習 熟 度 が 上 が る と 漢 字 知 識 が 多 く な り ,L1 の 漢 字 知 識 も 増 え る 可 能 性 が あ る 。
邱 (2002b) は , 日 本 の 大 学 ・ 大 学 院 に 在 学 中 の 韓 国 人 学 習 者 と 非 漢 字 圏 学 習 者 お よ び 日 本 人 を 対 象 に , 邱(2002a)と 同 様 の 手 法 を 用 い て 実 験 を 行 っ た17。 そ の 結 果 , 韓 国 人 学 習 者 で は , 同 音 か 非 同 音 か に か か わ ら ず , 形 態 が 類 似 し て い る 場 合 の 反 応 時 間 が 長 い こ と が 示 さ れ た 。 邱 (2002b) は , 上 級 レ ベ ル の 韓 国 人 学 習 者 は 日 本 語 の 音 韻 表 象 を 媒 介 し て 意 味 ア ク セ ス す る 可 能 性 が 低 く ,台 湾 人 学 習 者 の 結 果 と 類 似 し て い る こ と を 指 摘 し て い る 。こ の 結 果 の 解 釈 に , 鄭 (2010) の 調 査 が 参 考 に な る 。 鄭 (2010) は , 韓 日 同 形 2 字 漢 字 単 語 の 韓 国 語 読 み の 調 査 結 果 か ら ,日 本 語 学 習 開 始 の 時 点 で 韓 国 人 学 習 者 が 読 め る 漢 字 の 数 は L1 で さ え 非 常 に 少 な い が ,日 本 語 の レ ベ ル が 上 が る に つ れ ,そ の 日 本 語 レ ベ ル で 要 求 さ れ る 漢 字 力 に 合 わ せ て L1 の 漢 字 能 力 も 向 上 す る と 述 べ て い る 。つ ま り ,日 本 語 の 学 習 を 通 し て ,韓 日 で 共 通 す る 漢 字 語 彙 か ら 韓 日 の 漢 字 の 対 応 に 気 づ く よ う に な り ,日 本 語 の 漢 字 と 語 彙 の 知 識 だ け で な く ,L1 の 漢 字 知 識 も 豊 富 に な る 。 よ っ て , 日 本 語 の 漢 字 と 語 彙 の 知 識 が 十 分 に 高 ま っ た 場 合 ,日 本 語 漢 字 が 呈 示 さ れ る と L1 で あ る 韓 国 語 の 語 彙 表 象 が 活 性 化 し ,中 国 語 系 学 習 者 と 類 似 し た 処 理 を 行 う よ う に な る と 推 測 で き る 。こ の 推 測 に 基 づ く と ,韓 国 人 学 習 者 の 日 本 語 漢 字 の 処 理 過 程 は ,韓 日 の 形 態・音 韻 の 類 似 性 だ け で な く ,日 本 語 の 漢 字 と 語 彙 の 知 識
16 た だ し , 漢 字 が 書 け な い , 漢 字 を 見 て も 韓 国 語 の 読 み が 分 か ら な い 学 習 者 で あ っ て も , 象 形 文 字 や 部 首 の 知 識 を 有 し て い る 者 が 多 い ( 石 井, 2011)。
1 7 分 析 対 象 と な っ た 材 料 は ,す べ て 日 本 語 に も 韓 国 語 に も 存 在 す る ,「 同 根 語 」で あ っ た 。
17 に よ っ て 大 き く 変 わ る と 考 え ら れ る 。
さ ら に ,韓 国 人 学 習 者 の 日 本 語 の 学 習 開 始 段 階 の 漢 字 知 識 の 乏 し さ か ら み て ,韓 日 の 字 体 の 差 異 に つ い て も 影 響 が 生 じ る と 考 え ら れ る 。中 国 人 学 習 者 の 場 合 ,中 日 の 形 態 の 差 異 が 小 さ く ,示 唆 的 特 徴 と 鋳 型 が 保 存 さ れ て い る 漢 字 に つ い て は 読 み 上 げ 反 応 時 間 に 差 が み ら れ な い ( 松 島 ・ 費 ,2011)。 し か し ,韓 国 人 学 習 者 の 場 合 は ,上 級 に な っ て も 漢 字 の 画 数 の 多 寡 に よ っ て 語 彙 判 断 課 題 の 反 応 時 間 が 変 わ る こ と が 示 さ れ て い る ( 姜 ,2011) た め , 示 唆 的 特 徴 と 鋳 型 が 保 存 さ れ て い る 漢 字 に つ い て も ,韓 日 で 画 数 が 大 き く 違 う 漢 字 に つ い て は 瞬 時 に 同 一 の 漢 字 で あ る と 判 断 で き ず ,日 本 語 漢 字 の 処 理 に お い て 反 応 時 間 に 促 進 あ る い は 抑 制 の 効 果 が み ら れ る 可 能 性 が あ る 。
第 3 節 本 研 究 の 目 的
中 国 語 系 学 習 者 の 心 内 辞 書 の 表 象 関 係 は 明 ら か に さ れ つ つ あ る が ,韓 国 人 学 習 者 に つ い て は 心 内 辞 書 の 基 本 的 な 表 象 関 係 が 明 ら か に さ れ て い な い 。本 研 究 で は ,そ の 表 象 関 係 を 解 明 す る こ と を 目 的 に ,日 本 語 の 1 字 漢 字 お よ び 2 字 漢 字 単 語 を 材 料 に オ ン ラ イ ン 法 を 用 い た 実 験 を 行 う 。具 体 的 に は ,中 国 語 系 学 習 者 の 処 理 過 程 を 扱 っ た 先 行 研 究 を ふ ま え ,韓 日 の 形 態・音 韻 類 似 性 を 操 作 し ,読 み 上 げ 課 題 と 語 彙 判 断 課 題 を 用 い る 。 た だ し ,1 字 漢 字 に つ い て は ,語 彙 判 断 課 題 を 用 い た 実 験 が で き な い た め ,茅 本(1996)と 同 様 に , 読 み 上 げ 課 題 の み を 用 い る 。
日 本 語 の 漢 字 語 彙 の 多 く は 1 字 漢 字 で は な く 2 字 漢 字 単 語 で あ り ,中 国 語 系 学 習 者 の 研 究 も ,2 字 漢 字 単 語 を 材 料 と す る も の が 多 い 。し た が っ て ,韓 国 人 学 習 者 に お け る 日 本 語 漢 字 の 心 内 辞 書 の 構 築 を 検 討 す る た め に は ,主 と し て 2 字 漢 字 単 語 を 材 料 と し た 実 験 を 行 う 必 要 が あ る 。た だ し ,1 字 漢 字 は 2 字 漢 字 単 語 よ り も , 熟 語 間 の 連 想 関 係 ( 形 態 ・ 音 韻 表 象 内 で の 連 合 関 係 ) に よ る 影 響 を 軽 減 で き る た め ,1 字 漢 字 を 扱 う こ と は ,韓 日 2 言 語 間 で 形 態・
音 韻 情 報 の 類 似 性 に よ る 影 響 を 検 討 す る 際 に ,有 益 な 示 唆 を 与 え る で あ ろ う 。 そ こ で 本 研 究 で は ,ま ず 1 字 漢 字 の 実 験 を 行 い ,そ の 上 で 2 字 漢 字 の 実 験 を 行 う 。最 終 的 に は ,韓 国 人 学 習 者 に お け る 日 本 語 2 字 漢 字 単 語 の 処 理 過 程 を ,