博 士 ( 工 学 ) 吉 本 直 人
学 位 論 文 題 名
半導体光スイッチの偏波無依存化ならびに スポットサイズ変換機能集積化に関する研究
学位論文内容の要旨
近年 、イ ンターネッ トの爆発的普及による通信 トラヒックの増大が顕著とな り、ネットワー ク の大 容量 化・高速化 が緊急の課題となっている 。この要請に応えるため、光 ファイバ通信技 術 とそ の波 長多重技術 によって、伝送路のスルー プットは数十テラビット/秒 レベルまで飛躍 的 に増 大し た。その一 方、ボトルネックとなって いる交換(スイッチング)の スループットも 大 幅に 増大 させる必要 性が高まってきた。そこで 、伝送路のみならずスイッチ ングヘも光技術 を 拡張 しよ うという試 みが精力的に行われている 。様々な光スイッチング素子 の中でも、半導 体 光ス イッ チは高速性 や集積化による大規模化・ 機能拡張性に優れているため 、スループット の 増大 化に 適している 。しかし、半導体光スイッ チを適用する上で解決しなけ れぱならない大 きな課題 がニっある。一つ目の課題は、半導体光スイッチの特性カミ入射光の偏波によって大き く 変化 して しまう点で ある。光スイッチは光ファ イバ伝送路問に配置されるた め、光スイッチ に 入射 する 光の偏波状 態は不規則に変化し一定で はなぃ。したがって、光スイ ッチの特性を安 定 化さ せ、 これを実用 化するためには、光スイッ チング特性の入射光の偏波状 態による依存性 を 解消 する ことが不可 欠である。もうーつの課題 は、光半導体スイッチ素子は 光ファイバに比 べそのスポ ットサイズが小さいため、こ れらを接続した時に大きな結合損失が生.じてしまう点 で ある 。さ らに不都合 なことには、光スイッチは 入出カポートが多数存在する ため、光ファイ バ を光 スイ ッチに接続 する時の光軸調整が困難で あり、軸ずれに対する許容度 も小さいため、
作 製歩 留ま りが極めて 低くなるこという製造上の 大きな課題もある。したがっ て、半導体光ス イ ッチ の作 製歩留まり を向上させ、工業的に成功 させるためには、半導体光ス イッチ素子のス ポ ット サイ ズを拡大す ることによって、光ファイ バとのスポットサイズ不整合 を低減し、結合 効率の改善 と実装歩留まりの向上を図る ことが極めて重要である。
本研 究は 、上記ニつ の課題を解決することを目 的とした。まず、高速性に優 れた電界効果型 光 ス イ ッ チ と 、 波 長 多 重技 術に 適し かつ 規 模や 機能 の拡 張 性に も優 れて いる 半 導体 増幅 器 (SOA)ゲー ト型 光ス イッ チ を取 り上 げ、 これ ら の偏 波依 存性 の 低減 化を 行っ た。 電 界効果型 光 ス イ ッ チ で は 、 量 子 閉 じ 込 め シ ュ タ ル ク 効果(.QCSE)に よる 屈折 率 変化 (△n) の偏 波 無 依存 化と 同時に導波 路構造による導波損失の偏 波無依存化も考慮する必要が ある。まず、'Q CSEに よ る △nや 吸 収 係 数 変 化 ( △n) と そ の 偏 波 依 存 性 は 多 重 量 子 井 戸cMow)構 造 に 大 きく 依存 して い るた め、 これ ら のMow構造 の 組成 や膜 厚依 存 性を 詳細 に検 討し た 。その結 果 に基 づき 、△nの 増大 の みな らず 、従 来議 論 され なか った △8の抑制をも含 めた実用的な光 ス イ ッ チ の 設 計 指 針 を 示し た。 △nの偏 波無 依存 化 は、 従来 用い られ て きたMQW構造 に伸 張 歪 みを 導入 する方法と 異なり、無歪み構造でもデ ィチューニング(△え)量と 量子井戸層厚を
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適切に選択することにより実現が可能であることを見出した。この方法によって、歪みによる 結晶成長層の臨界膜厚などの制約をうけることなく素子設計が可能となり、素子設計の自由度 を拡張することが可能となった。光導波路構造の偏波無依存化には、偏波依存性の小さいハイ メサ構造を採用し、かつ光分岐回路に偏波依存性の小さな多モード干渉計(MMI)を採用し た 。 このMow構造と 光導波 路構造を 用いて 、Mach―Zehnder干渉(MZI) 型2x2光スイッ チを作製し、電界効果型光スイッチとしては初めて駆動電圧の偏波無依存動作とともに導波路 損失においても偏波無依存化が実現された。また、△aも偏波によらず十分に抑制され、実用 上の 問題点を 解決した。さらに、上記偏波無依存MZI型2x2光スイッチを用いて、大きな 光入力強度耐性を有する光ゲート素子としての応用を提案し、波長多重技術へ有用であること を示した。次に、SOA型ゲートスイッチにおける利得の偏波無依存化は、バルク活性層の断 面サイズを方形に制御することによって、光閉C込め係数の偏波依存性を解消する方法を採用 した。この方法は、格子整合系バルク活性層を用いるため結晶成長の制御は容易である代わり に、サプミクロン精度のプロセス加工技術がポイントとなる。本研究では、近年飛躍的進捗を 遂げたサブミクロン精度の微細ストライプ形成技術と埋め込み成長技術を駆使し、SOA型光 ゲートスイッチの偏波無依存化を実現した。作製技術の精度・歩留まりについても議論し、本 スイッチの大規模集積化の可能性を明らかにした。
次に、光スイッチの光結合特性改善および光ファイバ実装を簡易化するために、光スイッチ 素子にスポットサイズ変換機能を集積化する方法について検討を行った。まず、半導体光導波 路に「仮想ファイバ」の概念を導入した。すなわち、コアとクラッド層の屈折率差(△N)が 光ファイバとほば同様となる半導体層を選択することによって、スポットサイズを光ファイバ 程度に拡大させるものである。InP/lnAIAsの多層膜を用いて△Nを制御した半導体拡大スポッ トサイズ光導波路を製作し、光ファイバとの結合効率が従来に比ベ大幅に改善されることを示 した。次に、半導体素子のスポットサイズを拡大するため、この半導体拡大スポットサイズ光 導波路とテーパ構造を集積することによって、半導体素子のスポットサイズを変換する機能を 有する光導波路(SSC)を作製した。これによって、半導体素子の小さなスポットサイズを 光ファイバと同程度に拡大させ、光ファイバとの結合特性を改善できることを明らかにした。
次に、光スイッチヘの集積に適したスポットサイズ変換構造の検討を行い、「リッジ装荷型」
と「埋め込みバットジョイント(BJ)型」を提案し、それぞれの特徴について議論した。素 子構造およぴ作製プロセスとの親和性を考慮して、電界効果型光スイッチにはりッジ装荷型S SC、SOAゲー ト 型 光ス イ ッ チに は 埋 め込 みBJ型SSCを集積 し、結合 特性の 改善を確 認 した。またこれによって、光ファイバとの光軸調整が容易となり、作製歩留まりの向上が期待 できるようになった。さらに、光学レンズを用いず、半導体素子と光ファイバを直接接続する 簡便な光フんイバ実装構造を採用することが可能となり、大幅な工程短縮およびコスト削減の 効果が期待できることを示した。最後に、上述した偏波無依存化技術およびスポットサイズ変 換 技 術 を 用 い たSSC集積SOAゲ ー ト 型光 ス イ ッチ を 作 製 した 。SOA部 の 利得 とSSC部 の結合損失との偏波依存性のノくランスをとることにより、偏波無依存化に対する作製寸法誤差 許容量の緩和を実現し、多チャンネル化・大規模集積化の可能性を示した。また、本素子と石 英系光導波路(PLC)とのハイブリッド集積によって、光波ネットワーク用の高機能光波回 路や大規模空間光スイッチへの展開が可能であることを示した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
半導体光スイッチの偏波無依存化ならびに スポットサイズ変換機能集積化に関する研究
近年、インターネットの爆発的普及による通信トラヒックの増大が顕著となり、ネットワーク の大容量化・高速化が緊急の課題となっている。この要請に応えるため、光ファイパ通信技術と その波長多重技術によって、伝送路のスループットは数十テラピット/秒レベルまで飛躍的に増 大した。その一方、ポトルネックとなっている交換(スイッチング)のスループットも大幅に増 大させる必要性が高まってきた。そこで、伝送路のみならずスイッチングヘも光技術を拡張しよ うという試みが精力的に行われている。様々な光スイッチング素子の中でも、半導体光スイッチ は高速性や集積化による大規模化・機能拡張性に優れているため、スループットの増大化に適し ている。しかし、半導体光スイッチを適用する上で解決しなければならない大きな課題がニっあ る。一つ目の課題は、半導体光スイッチの特性が入射光の偏波によって大きく変化してしまう点 である。光スイッチは光ファイパ伝送路間に配置されるため、光スイッチに入射する光の偏波状 態は不規則に変化し一定ではない。したがって、光スイッチの特性を安定化させ、これを実用化 するためには、光スイッチング特性の入射光の偏波状態による依存性を解消することが不可欠で ある。もうーつの課題は、光半導体スイッチ素子は光ファイパに比ぺそのスポットサイズが小さ いため、これらを接続した時に大きな結合損失が生じてしまう点である。さらに不都合なことに は、光スイッチは入出カポートが多数存在するため、光ファイパを光スイッチに接続する時の光 軸調整が困難であり、軸ずれに対する許容度も小さいため、作製歩留まりが極めて低くなるとい う製造上の大きな課題もある。したがって、半導体光スイッチの作製歩留まりを向上させ、工業 的に成功させるためには、半導体光スイッチ素子のスポットサイズを拡大することによって、光 ファイパとのスポッ卜サイズ不整合を低減し、結合効率の改善と実装歩留まりの向上を図ること が極めて重要である。
本研究は、上記二つの課題を解決することを目的とした。まず、高速性に優れた電界効果型光 スイッチと、波長多重技術に適しかつ規模や機能の拡張性にも優れている半導体増幅器(SOA) ゲート型光スイッチを取り上げ、これらの偏波依存性の低減化を行った。電界効果型光スイッチ では、量子閉 じ込めシュタルク効果(QCSE)による屈折率変化(△n)の偏波無依存化と同 時に導波路構 造による導波損失の偏波無依存化も考慮する必要がある。まず、QCSEによる△
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夫 一
人 学
幾 幸
瑛
宗 笠
島 宮
末 武
三 大
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
nや吸収 係数変 化(△a)と その偏波 依存性は 多重量 子井戸(MQW)構造に大きく依存してい る ため、これらのMQW構造の組成や膜厚依存性を詳細に検討した。その結果に基づき、△nの 増大のみならず、従来議論されなかった△aの抑制をも含めた実用的な光スイッチの設計指針を 示 した。△nの偏波無依存化は、従来用いられてきたMQW構造に伸張歪みを導入する方法と異 なり、無歪み構造でもディチューニング(△入)量と量子井戸層厚を適切に選択することにより 実現が可能であることを見出した。この方法によって、歪みによる結晶成長層の臨界膜厚などの 制約をうけることなく素子設計が可能となり、素子設計の自由度を拡張することが可能となった。
光導波路構造の偏波無依存化には、偏波依存性の小さいハイメサ構造を採用し、かつ光分岐回路 に 偏波依 存性の小 さな多モ ード干 渉計(MMI) を採用し た。このMQW構 造と光導 波路構造を 用 いて、Mach−Zehnder干渉(MZI)型2x2光 スイッチ を作製し、電界効果型光スイッチとし ては初めて駆動電圧の偏波無依存動作とともに導波路損失においても偏波無依存化が実現された。
また、△aも偏波によらず十分に抑制され、実用上の問題点を解決した。さらに、上記偏波無依 存MZI型2x2光ス イッチを 用いて 、大きな 光入力 強度耐性を有する光ゲート素子としての応 用を提案し、波長多重技術へ有用であることを示した。次に、SOA型ゲートスイッチにおける 利得の偏波無依存化は、バルク活性層の断面サイ・ズを方形に制御することによって、光閉じ込め 係数の偏波依存性を解消する方法を採用した。この方法は、格子整合系パルク活性眉を用いるた め結晶成長の制御は容易である代わりに、サプミクロン精度のプロセス加工技術がポイントとな る。本研究では、近年飛躍的進捗を遂げたサプミクロン精度の微細ストライプ形成技術と埋め込 み成長技術を駆使し、SOA型光ゲートスイッチの偏波無依存化を実現した。作製技術の精度・
歩 留 ま り に つ い て も 議 論 し 、 本 ス イ ッ チ の 大規 模 集 積 化の 可 能 性を 明 ら かに し た 。 次に、光スイッチの光結合特性改善および光ファイバ実装を簡易化するために、光スイッチ素 子にスポットサイズ変換機能を集積化する方法について検討を行った。まず、半導体光導波路に 「仮想ファイバ」の概念を導入した。すなわち、コアとクラッド層の屈折率差(△N)が光ファ イバとほば同様となる半導体層を選択することによって、スポットサイズを光ファイバ程度に拡 大させるものである。InP./InAlAsの多層膜を用いて△Nを制御した半導体拡大スポットサイズ光 導波路を製作し、光ファイバとの結合効率が従来に比べ大幅に改善されることを示した。次に、
半導体素子のスポットサイズを拡大するため、この半導体拡大スポットサイズ光導波路とテーパ 構造を集積することによって、半導体素子のスポットサイズを変換する機能を有する光導波路(S SC)を作製した。これによって、半導体素子の小さなスポットサイズを光ファイパと同程度に 拡大させ、光ファイバとの結合特性を改善できることを明らかにした。次に、光スイッチへの集 積に適したスポットサイズ変換構造の検討を行い、「リッジ装荷型」と「埋め込みバットジョイ ント(BJ)型」を提案し、それぞれの特徴について議論した。素子構造および作製プロセスと の 親和性 を考慮し て、電界 効果型 光スイッ チには りッジ装荷型SSC、SOAゲート型光スイッ チ には埋 め込みBJ型SSCを 集積し、結合特性の改善を確認した。またこれによって、光ファ イバとの光軸調整が容易となり、作製歩留まりの向上が期待できるようになった。さらに、光学 レンズを用いず、半導体素子と光ファイバを直接接続する簡便な光ファイバ実装構造を採用する ことが可能となり、大幅な工程短縮およびコスト削減の効果が期待できることを示した。最後に、
上 述した 偏波無依 存化技術 および スポット サイズ 変換技術を用いたSSC集積SOAゲート型光 ス イッチ を作製し た。SOA部の利 得とSSC部の結 合損失との偏波依存性のバランスをとるこ とにより、偏波無依存化に対する作製寸法誤差許容量の緩和を実現し、多チャンネル化・大規模 集積化の可能性を示した。また、本素子と石英系光導波路(PLC)とのハイブリッド集積によ って、光波ネットワーク用の高機能光波回路や大規模空間光スイッチヘの展開が可能であること
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を示した。
これを要するに、著者は光フんイバー通信とその波長多重化に重要な半導体光スイッチの基幹 的な課題を解決し,情報通信の高速化における基盤技術を築くなど,光エレクトロニクスの分野 に貢献するところ大なるものがある。よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与され る資格あるものと認める。
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