博 士 ( 理 学 ) 中 村 吉 輝
学 位論 文 題 名
Kinetics of Chain Collapse and Chain Aggregation of Poly(methyl methacrylate) in Dilute Solutions
( 希 薄溶 液 中に おけるポ リメタク リル酸メ チル鎖の収 縮過程と 凝集過程 )
学位論文内容の要旨
高 分子希薄 溶液をe‐ 温度以下 に急冷す ると、高分子鎖はセグメント密度の 高 いグ ロビュー ルに収縮 すると同 時に、高分 子鎖と高 分子鎖の 凝集によ り溶 液 の相 分離も進 行する。 このため 、高分子鎖 のコイル ‐グロビ ュール転 移を 高 分子 鎖の凝集 過程と分 離して測 定すること はできな かった。 また、相 分離 温 度よ りずっと 低い温度 に急冷し た時の溶液 の相分離 は非常に 速いので 、そ の 相分 離過程は これまで 観測され ることはな かった。 しかし、1995年以降、
酢 酸イ ソアミル の単一溶 媒や参ブ タノール十 水(2.5 vol%)の 混合溶媒 を用 い る と 、 ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル(PMMA)の 希 薄 溶 液 の 相 分 離 は 非 常 に ゆ っ く り 進 行 す る こ とが 明 らか に な った 。 この 性 質 を利 用 して 、PMMA‑酢 酸 イソ アミルの 溶液に対 して、コ イル.グロ ビュール 転移曲線 が静的光 散乱 に よ り 決 定 さ れ 、 さ ら にPMMA鎖 の 収 縮 過 程 とPMMA鎖 の 凝 集 過 程 が 数 百 分か ら数千分 にわたり 光散乱に より高い精 度で測定 された。 得られた 転移 曲 線 はBirshtein‑Pryamitsyn(1991) の 理 論 式 ぜ ―aーC( 町3―1) = B(1―e/T)m1′2で解析された。ここで、aは高分子鎖の膨張係数、B、Cはそ れ ぞ れ 二体 、 三体 相 互 作用 に 関 する 定 数、mは 高 分 子の 分 子量 、Oはフロ ー リ ー のe‐ 温 度 で あ る 。PMMA鎖 の 収 縮過 程 は時 間 の べき 乗 則 で表 わ され 、 単 一 の 過程 で 収縮 す る こと が 明 らか に され た (1999)。PMMA鎖の凝集 はク ラ スタ ーの形成 過程とし て測定さ れた。光散 乱より得 られたク ラスター の平 均の分子量〈M〉ッと平均二乗半径〈R >:の成長は時間の指数関数で表わされて、
i個 と j個 の 高 分 子 か ら な る ク ラ ス タ ー 間 の 衝 突 係 数 がi十jで あ る Smoluchowsbの 凝 集の 式 で解 析 され た(1999,2001) 。この解析 から、PMMA 鎖 の 凝 集は 反 応律 速 に 支配 さ れ てい る こと が 示 され た 。以 上 の実験結 果は PMMA・ 酢 酸 イソ ア ミル の 系 に特 有 な現 象 な のか 、 そ れと も 高分子 溶液に広 く 適 用 で き る の か を 明 ら か に す る こ と を 本 研 究 の 主 な 目的 と して 、PMMA 溶液に対して静的光散乱実験を行なった。
溶媒として、酢酸イソアミルとは対照的に、おブタノール十水(2.5vol%)
の 混合溶媒 を用いた 。試料と して、分 子量がmx10・6=1.57、2.84、4.0、 12.2のPMMAを 用いた。 溶液の濃 度c(10ー4g/cm3) がほぼ0.6か ら6.0の間 に あ る4種 類 の 希 薄 溶 液を 調 製 して 、 種 々の 温 度で 測 定 を行 な った 。 そ れ ぞ れの 温度では 、最初に 高分子鎖 が収縮し、 その後に 高分子鎖 の凝集が 観測 された。
溶 液 をe・ 温 度(41.5℃ ) か ら 様 々 な 温 度 に 急 冷 し 、 温 度 平 衡 に 達 す る30 分 後 か ら 測 定 を 開 始 し て 長 時 間 に わ た り 測 定 を 続 け た 。 光 散 乱 デ ー タ は ジ ム プ ロ ッ ト を 用 い て 解 析 し 、 高 分 子 鎖 の 分 子 量mと 平 均 二 乗 回 転 半 径<S2>を 時 間 の 関 数 と し て 決 定 し た 。 分 子 量 がmx 10・6〓1.57、2.84で は 急 冷 後 急 速 に 高 分 子 鎖 は 収 縮 し て 、30分 後 に は 膨 張 係 数 ♂ ( : くS2>/<S2>0)は 平 衡 値 に 達 し た 。 こ の 値 は 上 のBirshte泣 等 の 理 論 式 と 一 致 し た 。 分 子 量 がm 4.Ox 10゜ で は 高 分 子 が 収 縮 し て ピ が 平 衡 値 に 達 す る ま で 数 百 分 、m 1.22x10 で は 数 千 分 か ら 数 万 分 を 要 し た 。mx10一6:4.O、12.2のPMMA鎖 の 収 縮 過程 は分 子量 、 急冷 温度 に依 らず 、時間tの拡張指数関数を−−(え 十(1−(やJ eXp卜くtノてつ゜]で表わされた。ここで、て 、D、ぞcoは定数で実験データから決 定 さ れ た 。Dは 温 度 、 分 子 量 に 依 存 し てO.1〜O.4の 値 に な っ た 。上 式は 初期 条 件 ピ =1、t〓0を 満 た し て お り 、PMMA鎖 の 収 縮 は 単 一 過 程 で 進 行 す る こ と が わ か づ た 。 ま た 、 ぞooは 十 分 時 間 が 経 っ た 時 の 平 衡 値 で 、Birshte血 等 の 理 論 式 と 二 致 し た 。 酢 酸 イ ソ ア ミ ル 中 で のPMMA鎖 の 収 縮 過 程 も 解 析 の結果、同様に拡張指数関数(D〜0.2)で表された。
次 に 、PMMA鎖 の 凝 集 過 程 の 測 定 を し た 。 PMMA鎖 の 凝 集 過 程 の み を 適 当 な 時 間 範 囲 で 測 定 す る た め に 、 分 子 量 がm 1.57x10° のPMMAを 用 いた。濃度が4種類の希薄溶液(c(10・4醫/弧°)〓1.4〜5.7)を調製した。そ れら の溶 液をe‐温 度か ら25.0、30.0、33.0℃に それ ぞれ 急冷し 、温度平衡に 達 す る30分 後 か ら 測 定 を 開 始 し 、PMMAク ラ ス タ ー の 分 子 量 が 約2x10° に な る ま で 測 定 を 続 け た 。 こ の 測 定 に は 数 百 分 か ら 数 千 分 を 要 し た 。 光 散 乱 デ← タは ギニ エ プロ ット で解 析し て、 クラ スタ ーの くM冫 ッと くR2冫エを時間tの 関数 とし て決 定 した 。くM冫 ッと くR2冫エをくM冫ッ〜em、くR2〉エ〜eHtの関係式 を 用 い て 解 析 し た 。25℃ と30℃ で は 初 期 過 程 の み こ の 関 係 式 で 表 わ さ れ た 。 こ の と き 、G、Hは と も に 濃 度cに 比 例 し 、 そ れ ら の 値 は25℃ よ り30℃ の 方が 大き かっ た 。33℃で は全 測定 の時間 範囲で、くM〉ッと〈R2〉エ は共にこの指 数 関 数 で 表 わ さ れ た 。 さ ら に 、33℃ で の ク ラ ス タ ー 形 成 過 程 は25、30℃ よ り も 速 い こ と が わ か っ た 。 くM〉 ッ の 指 数 関 数 的 な 増 大 は 、M皿 江A‐ 酢酸 イソ ア ミ ル の 系 と 同 様 に 、Smoluchowsbの 凝 集 方 程 式 で 解 析 で き て 、PMMA 鎖 の 凝 集 は 拡 散 律 速 凝 集 で は な く 、 反 応 律 速 凝 集 で あ る こ と が 判 明 し た 。 最 後 に 、 上 で 用 い た 混 合 溶 媒 中 に 含 ま れ る 少 量 の 水 の 存 在 がPMMA鎖 の 収 縮 過 程 に 及 ば す 影 響 を 調 べ る た め に 、 あ ブ タ ノ ー ル 単 一 溶 媒 中 で のPMMA 鎖 の 収 縮 過 程 を 静 的 光 散 乱 に よ り 測 定 し た 。 分 子 量 がm二 ニ1.22x10 の PMMA試 料 を 用 い て 、4種 類 の 濃 度 の 希 薄 溶 液 を 調 製 し た 。 こ の 系 で は 混 合 溶 媒 を 用 い た 系 と 比 べ る と 相 分 離 速 度 が 非 常 に 速 か っ た 。 し か し、O・ 温度
(66.0℃ ) か ら49.5℃ ま で の 温 度 範 囲 に 急 冷 し て も 、 そ の 後3時 間 は 相 分 離 の 影 響 な し に 単 一 高 分 子 鎖 の 広 が り を 決 定 で き た 。 そ の 結 果 、 急 冷 後90 分 以 内 に ぞ が 平 衡 値 に 達 す る こ と が 判 明 し た 。 こ の 系 に お け るPMMA鎖 の 収 縮 は 混 合 溶 媒 を 用 い た 系 に 比 べ て 非 常 に 速 い 。 し か し 、 収 縮 速 度 が 非 常 に 異 な る に も 関 わ ら ず 、 平 衡 値 で の ぜ の 挙 動 は 混 合 溶 媒 を 用 い た 系 で の ぞ の 挙 動 と ‐ 致 し 、BirshteiIl等 の 理 論 式 で 表 さ れ た 。 即 ち 、 混 合 溶 媒 中 に お け る2.5vol% の 水 の 存 在 は 、PMMA鎖 の 収 縮 速 度 に は 決 定 的 な 影 響 を 及 ぼ す が 、 コ イ ル ー グ ロ ビ ュ ー ル 転 移 曲 線 に は ほ と ん ど 影 響 し な い 。
学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
中田 山岸 佐々木 渡邉
允夫 晧彦 直樹 信久
学位論文題名
Kinetics of Chain Collapse and Chain Aggregation of Poly(methyl methacrylate) in Dilute Solutions
( 希 薄 溶 液 中 に お け る ポ リ メ タ ク リ ル 酸 メ チ ル 鎖 の 収 縮 過 程 と 凝 集 過 程 )
高 分子希薄 溶液をO一温度から急冷すると、高分子鎖はコイル状態からグロビュール状 態へ と転移 すると同 時に、 高分子鎖 と高分 子鎖の凝集により溶液の相分離も進行する。
この ため、 高分子鎖 のコイ ルーグロ ビュー ル転移と高分子鎖の凝集過程とを分離して測 定す ること は非常に 難しか った。ま た、相 分離が急速に進行することも測定を困難にし た。 しかし 、最近、 酢酸イソアミルの単一溶媒やt.ブチルアルコール+水(2.5 vol%)
の 混 合 溶 媒 を 用 い る と 、 ボ1Jメ タ ク リ ル 酸メ チ ル(PMMA)の 希 薄溶 液 の 相分 離 は 非 常 に ゆっ く り 進 行す る こ とが 明 ら かに な っ た。 こ の 性質 を 利 用し て、PMMA―酢酸イ ソ ア ミル の 溶 液 に対 し て 、静 的 光 散乱 測 定 によ ル コ イル ー グ ロビ ュー ル転移曲 線、
PMMA鎖 の収縮過 程、PMMA鎖 の凝集過 程が明 らかにさ れた。
本研 究 は 、この 実験結果 はPMMAー酢 酸イソア ミルの 系に特有 な現象 なのか、 それと も高 分子溶 液に広く 適用で きる普遍 的な現 象なのかを明らかにすることを目的とした。
その ために 、酢酸イ ソアミルとは性質が全く異なる溶媒として、t.ブチルアルコール+
水(2.5 vol%) の混合溶 媒を用 いて、PMMA溶 液に対 して静的 光散乱 実験を行 なった 。 試 料 と し て 、 分 子 量 がmx 10‑6〓1.57,2.84,4.0,12.2のPMMAを 用い た 。 濃度 c(g/cm3)が ほぼ0.6x10‑4から6.0x10・4の 間にある4種類 の希薄 溶液を調 製して 、種々 の温 度で測 定を行な った。 それそれ の温度 では、最初に高分子鎖が収縮し、その後に高 分子 鎖の凝 集が観測 された 。
溶液 をO一温 度(41.5 aC)から様々 な温度に 急冷し 、その後 の散乱 光強度を 長時間 に わ た り 測 定 し て 、PMMA鎖 の 平 均 二乗 回 転 半径 くS2>を 時 間の 関 数 とし て 決 定し た 。 分 子 量mが1.57xl06と2.84xl06のPMMAで は 急 冷 後 急 速 に 高 分 子 鎖 は 収 縮 し て 、 30分 後 に は 膨 張 係 数 ギ ( = くS2>/くS2>。 ) は 平 衡 値 に 達 し た 。 ギ の 挙 動 は Birshtein‑Pryamitsynの 理 論 式 と 一 致 し た 。 分 子 量 が4.0xl06のPMMAで は 高分 子 鎖 が 収縮 し て辞 が平衡値 に達す るまでに 数百分、 分子量 が1.22xl07では 数干分か ら数
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万分を要した。これらのPMMA鎖の収縮過程を:を(t)は分子量、急冷温度に依らず、
時間tの拡張指数関数で表わされた。得られたを:イ(t)の式は初期条件甜=1、t=0 を 満 た し て お り 、PMMA鎖 の 収 縮 は 単 一 過 程 で 進 行 す る こ と が わ か っ た 。 次に、PMMA鎖の凝集過程の測定をした。適当な時間範囲で測定ができるように、
分 子量 が1.57xl06のPMMAを 用 い、濃度c(g/cm3) が1.4x10‑4〜5.7x10‑4の範 囲 の4種類の希薄溶液を調製した。それらの溶液をe一温度から25.0、30.0、33.0 aCにそ れそれ急冷し、その後の散乱光強度の測定を、PMMAクラスターの分子量が約2xl08 になるまで続けた。この測定には数百分から数干分を要した。光散乱データはギニエプ ロットで解析して、クラスターの平均重量分子量くM>wとz‐平均二乗半径くR2>エを時 間tの関数として決定した。クラスターのサイズは指数関数的に生長すると仮定して、
くM>w〜eGt、くR2>エ〜eHtの関係式を用いて解析した。25 0Cと30 0Cでは初期過程の みこの関係式で表わされた。このとき、G、Hはともに濃度cに比例した。33 aCでは全 測定の時間範囲で、くM>wとくR2>エは共にこの指数関数で表わされた。くM>wの指数関 数的な 増大を、Smoluchowskiの凝集方程式と比較して、PMMA鎖の凝集は拡散律遠 凝集ではなく、反応律速凝集であることを明らかにした。
最後に、上で用いた混合溶媒中に含まれる少量の水の存在がPMMA鎖の収縮過程に 及ぼす影響を調べるために、t‐プチルアルコール単一溶媒中でのPMMA鎖の収縮過程 を分子量が1.22xl07の試料を用いて測定した。この系では相分離速度が非常に速かっ たが、e―温度(66.0 aC)から49.5 aCまでの温度範囲に急冷した場合、その後3時間は 相分離の影響なしにギを決定できた。その結果、急冷後90分以内にギが平衡値に達す ることを明らかにした。しかし、収縮速度が非常に速いにも関わらず、ギの平衡値の挙 動は混合溶媒中でのギの挙動と一致し、Birshtein‑Pryamitsynの理論式で表された。
以上の実験とデータの解析より、t.ブチルアルコール十水(2.5vol%)の混合溶媒中 でのPMMA鎖 のコイル ・グロビュール転移、収縮過程、PMMA鎖同士の凝集過程は、
酢酸イソアミル中のPMMA鎖の挙動と本質的に同じであることを明らかにし、高分子 溶液に普遍的な現象であると推定した。この結論は、生体高分子を含む線状高分子鎖の 形態変化、クラスタ一凝集過程に関して新しい知見を提供している。よって審査員一同 は申請 者が博士 (理学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認める。
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