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林業技術論の再構築に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 生 井 郁 郎

学 位 論 文 題 名

林業技術論の再構築に関する研究 学位論文内容の要旨

  技術論の意義と林業技術論の課題

  技術論という研究領域は生産カの科学(広義の経済学)の一部門に位置づけられ、生産カの 構造や技術の発展を規定する社会経済的条件とともに、技術の発展法則をも網羅した研究が進 められている。ところで、技術という用語は生活一般から科学、生産技術などを含めて広く用 いられ,技術論でも様々な捉え方がなされている。こうした動向を反映して、林業・林学の技 術論議や従来の技術論の対象・方法は多彩であり,科学研究や技術の研究開発、科学的知識の 普及、機械化の推進など多方面に及んでいる。しかし、これらの林業技術論は生産カの構造を 解明するうえで多くの課題を残している。このようなことから、技術観を確立して森林・林業 論の内容を豊富にするためにも、多面的機能を具備した健全な森林を造成する理論的根拠を提 示するためにも、技術論の再構築が不可欠である。

  林業技術論再構築の方法

  本研究は、次の手順に沿って林業技術の構造を解明し、具体的な技術分析の方法論を確立す べく構想した。まず、林業生産の対象となる森林をどう捉えるかについて、森林生態学の研究 成果に依拠しながら、人間労働の参加という視点のもとに検討する。次に、生産力概念の理論 的検討を行うとともに、生産カにおける技術の位置づけと技術の規定を確定する。さらに、労 働過程における土地の役割と機能について検討し、土地が一般的対象、一般的労働手段から直 接的労働手段に転化する道筋を示す。そして、森林は林地と林木が一体で土地であることを論 拠に、林業技術の特質を明らかにする。これらの基礎的検討を踏まえて、林業技術の社会科学 的研究がいかに取り組まれ、どのような技術論が構築されているかを明らかにし、多くの所説 を総括したうえで技術分析の方法論を提示する。

  技術および林業技術に関する基礎的理論の検討

  最初に、森林の捉え方について、特にその物質運動という観点から検討を加えた。その結果、

森林は環境との統一と矛盾において発展する樹木の総体であり、人間労働の能動性との関連に おいて、林産物の獲得ならびに大気、土壌、河川、耕地等への積極的影響の保障に方向づけら れるべき存在であることを明らかにした。このような視点から森林の機能や特徴を浮き彫りす ることは、森林それ自体の環境資源としての位置づけをも可能にし、人間の森林への関与の限 界を明らかにし得るとともに、限度を越える干渉による森林の荒廃およびその復旧的措置、森 林の諸機能の一層の発揮のための治山事業などの技術的・経済的位置づけを可能にする。

  次に、生産カのなかへの技術の位置づけについて、技術は労働手段をもって行う労働過程に 見出され、それは労働における合目的性と成果が対象化された物的存在という意味で客観的に 存在し、その限りで生産カを構成する重要な要素であるとした。さらに林業技術論展開の予備 的考察として、農業における耕地を事例に、土地が固有の意味の労働手段すなわち脈管系の容 器的労働手段として捉えられることを明らかにした。ここでは特に、耕地が作物という労働対

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象への労働の投入を実現させる条件を形づくり、その生物化学的運動の進行をしやすい状況を 用 意 す る と ぃ う 意 味で 、脈 管系 の労 働手 段= 容器 とし て捉 えら れる根 拠を 示し た。

  技術の特質を見極めるには、筋骨系労働手段の第ー義性を認めたうえで、生産諸部門を特徴 づける労働手段の特殊性を確認することが重要である。こうして、林業における特殊な労働手 段である森林と人間の関わり合いを発展史的に捉え、一般的対象である原始林が固有の労働手 段 で あ る 労 働 容 器 に 転 化 す る 過 程 を 手 順 を 尽 く し て 明 ら か に し た 。   森林が労働容器として捉えられるようになると、この段階の伐出工程は、育林によって再生 産を裏付けられた一定量の木材を労働容器から搬出する労働過程に該当し、育林工程は、労働 容器の保守とともに、苗木などの原料を搬入する労働過程であると位置づけられる。森林なる 労働容器の作動に関わって、これを支える間接的労働手段である林道・作業道などの搬出、搬 入の施設の位置づけも併せて行った。

  林業技術論の再構築と技術分析の方法論の提示

  技術および林業技術の基礎概念を根底において、従来の林業技術論を再構築しさらに内容を 豊 富 に す る た め 、 主 要 な 論 稿 を 検 討 し 問 題 点 と 課 題 を 明 ら か に し た 。   第1は、技術を客観的に捉える観点を貫き、技術の本体とその周辺に位置する諸々の技術的 活動、事象との区別と関連を明確にしたことである。研究開発と技術、技能と技術、科学と技 術等の関連、位置規定の明確化などが具体例である。

  第2は、森林を直接的労働手段の脈管系の労働容器とする位置づけによって、従来の林業技 術論を補完・補充したことである。林業生産の自然的性格という基準や、常識論から導いた技 術論・産業論の一面性や、皆伐ーー斉造林を典型にする林業論などを正したことが主要な内容 である。

  第3は、森林の構成部分を直接的労働手段、間接的労働手段、一般的労働手段などの基本種 別ごとに区分し、その役割と機能を明確にしたことである。これによって、育林と伐出を有機 的工程と無機的工程というように相反する別系統の技術とみる見解、林道と森林造成を同一レ ベルの生産基盤整備投資として括る見方など、技術構成や特定の工程の位置づけに関する混乱 を整序することができた。併せて、森林の荒廃といわれる局面についても、労働手段の作動と いう観点から論拠を明確にすることができた。すなわち、天然林の超過伐採や大面積皆伐作業 などに起因する森林荒廃は、森林の労働手段としての作動を不能にするまでの生産力破壊を指 し、生産活動の停滞に基づく森林の劣化などは、労働手段の単なる自然物への後退であると位 置づけられる。これらの論理は、林業生産の在り方の基本方向を指し示すとともに、環境資源 としての森林の在り方にも示唆を与えると考えられる。

  第4は、社会的・共同的労働に根ざす指揮・管理の労働はあらゆる経済的社会構成体に不可 欠な生産的労働であるという論拠に基づき、管理技術と生産技術の位置づけを明確にしたこと である。これに基づき、森林経理学の再編論議や林業経営学の形成論議の評価を行った。

  第5は、林業技術分析の方法論を提示したことである。従来の林業技術論では、技術の構成 やその分析の方法に関して、森林経理学の概念である作業法をもって充てるか、あるいは農法 概念から作業法を類推的に把握する手続きをとり、もって林業技術の体系であると捉えるのが 通例であった。このような所説に対し、労働過程において技術の運動を具体的に捉える場合、

生産カの諸要素の結合様式としての、経済学的概念である生産様式を媒介しない限り、林業技 術の把握は十全たり得ないことを示した。

  当面の対応として、技術研究の成果が十分でない林業・林学においては、農業における生産 様式論に裏打ちされた農法論をーつの規範として、実体としての作業法論を急いで構築するこ とが技術論研究深化の方向であるとした。

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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査

副 査 副 査 副 査

教授 教授 教授 助教授

和    孝 雄 石 井    寛 神沼公三郎 小 鹿 勝 利

学 位 論 文 題 名

林 業 技 術 論 の 再 構 築 に 関 す る 研 究

  本 論 文 は 序 章 、 終 章 を 合 わ せ12章 か ら な る 引 用 文 献165を 含 む 総 頁 数506の 和 文 論 文 で 、他 に 参 考 論文17編が 添 え られ て い る。

  技術 論 と い う研 究 領 域は生 産カの科 学(広 義の経済 学)の 一部門に 位置づ けられ、 生産カ の 構 造や 技 術 の 発展 を 規定 する社会 経済的 条件とと もに、 技術の発 展法則を も網羅 した研究 が 進 めら れ て い る。 林 業・ 林学の分 野にお いても科 学研究 や技術の 研究開発 、機械 化の推進 な ど に関 連 し て 、多 彩 かっ 多方面に わたる 技術論議 が行わ れてきた 。しかし 、これ らの林業 技 術 論は 生 産 カ の構 造 を解 明するう えで多 くの課題 を残し ており、 また多面 的機能 を具備し た 健 全な 森 林 を 造成 す る理 論的根拠 も十分 に提示さ れてい るとはい えない現 状にあ る。本論 文 は 、30年 に わた る 研 究を も と に、 今 日 必要 と さ れて い る 森林 ・ 林 業 論を 構 築する ため、

林 業 技術 の 構 造 を解 明 し、 具体的な 技術分 析の方法 論を確 立すべく 構想した もので ある。そ の 内 容は 以 下 の よう に 要 約さ れ る 。

  まず 、 森 林 生態 学 の 研究成 果や、生 産力概 念の理論 的検討 をもとに 、森林 は環境と の統一 と 矛 盾に お い て 発展 す る樹 木の総体 であり 、人間労 働の能 動性との 関連にお いて、 林産物の 獲 得 なら び に 大 気、 土 壌、 河川、耕 地等へ の積極的 影響の 保障に方 向づけら れるべ き存在で あ る こと を 明 ら かに し た。 次に労働 過程に おける森 林の役 割と機能 について 検討し 、農業に お け る耕 地 を 事 例に 、 森林 が一般的 対象、 一般的労 働手段 から直接 的労働手 段(脈 管系の労 働 手 段= 労 働 容 器) に 転化 する道筋 を示し 、特殊な 労働手 段である 森林と人 間の関 わり合い を 発 展史 的 に 捉 える と とも に、林業 技術の 特質が容 器的労 働手段に 求められ ること を明らか に し た。 そ し て 、森 林 が労 働容器と して捉 えられる 段階の 伐出工程 は、育林 によっ て再生産 を 裏 付け ら れ た 一定 量 の木 材を労働 容器か ら搬出す る労働 過程とし て、また 育林工 程は、労 働 容 器の 保 守 と とも に 、苗 木などの 原料を 搬入する 労働過 程として 位置づけ られる ことを論 証 し 、こ れ ら の こと を 論拠 に人間の 森林へ の関与の 限界、 あるいは 森林の諸 機能を 一層発揮

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さ せ る た め の 作 動 な ど に つ い て の 技 術 的 ・ 経 済 的 位 置 づ け を 明 確 に し て い る 。   次いで、これらの林業技術に関する基礎概念を根底において、従来の、主として高度経済 成長期以降の主要な論稿を検討し、林業技術論を再構築するための論理と課題を明らかにし た。

  その要点の第1は、技術を客観的に捉える観点を貫き、技術の本体とその周辺に位置する 諸 々 の 技 術 的 活 動 、 事 象 と の 区 別 と 関 連 を 明 確 に し た こ と で あ る 。   第2は、森林を直接的労働手段(脈管系の労働手段=労働容器)とする位置づけによって、

従来の林業技術論を補完・補充したことである。

  第3は、森林の構成部分を直接的労働手段、間接的労働手段、一般的労働手段などの基本 種別ごとに区分し、その役割と機能を明確にしたことである。これによって、育林と伐出を 有機的工程と無機的工程というように相反する別系統の技術とみる見解、林道と森林造成を 同一レベルの生産基盤整備投資として括る見方など、技術構成や特定の工程の位置づけなど についての混乱を整序している。併せて、森林の荒廃といわれる局面についても、労働手段 の作動という観点から論拠を明確にした。すなわち、天然林の超過伐採や大面積皆伐作業な どに起因する森林荒廃は、森林の労働手段としての作動を不能にするまでの生産力破壊を指 し、生産活動の停滞に基づく森林の劣化などは、労働手段の単なる自然物への後退であると 位置づけている。これらの論理は、林業生産の在り方の基本方向を指し示すとともに、環境 資源としての森林の在り方にも示唆を与えると考えられる。

  第4は、社会的・共同的労働に根ざす指揮・管理の労働はあらゆる経済的社会構成体に不 可欠な生産的労働であるという論拠に基づき、管理技術と生産技術の位置づけを明確にした ことである。

  第5は、林業技術分析の方法論を提示したことである。すなわち、当面の対応として、技 術研究の成果が十分でない林業・林学においては、農業における生産様式論に裏打ちされた 農法論をーっの規範として、実体としての作業法諭を急いで構築することが技術論研究深化 の方向であるとした。

  以上のように、本論文は、これまで林業・林学領域において展開されてきた林業技術論を 再構築し、今後の森林・林業のあるべき方向を描き出すことを意図したものであるが、森林 という物質の運動に即して森林それ自体の諸機能を浮き彫りにすることによって、林業生産 のみならず自然保護のあり方や環境政策等の立案に対しても示唆を与えるところ大きいもの があり、その研究成果は高く評価される。

  よって審査員一同は、生井郁郎が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有すると認め た。

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参照

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