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博士(歯学)松樹隆光 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(歯学)松樹隆光 学位論文題名

咀嚼筋に対するスプリント装着の効果に関する      筋電図学的研究

学位論文内容の要旨

[目的]

  顎関節症患者に対するスプリント療法は保存的療法として広く用いられている.ス プリントに期待される効果のーっに最大咬みしめ時の筋活動量の抑制効果があり,そ の作用機序を解明する目的で数多くの筋電図学的研究が行われてきた.しかし,その 大部分はスプリント装着時と非装着時の違いを短期的にみたものであり,継続使用に 関するものは僅かである.しかも,それらの研究では,疼痛の変化,咬合接触歯数の 変化など最大咬合カに影響を及ぼすであろう因子についての検討が十分でないなど 何らかの課題を残しており,スプリントの継続使用による最大咬みしめ時筋活動量の 抑制効果の有無は十分に解明されてはいない.

  そこで,顎関節症患者におけるスプリントの継続使用が咀嚼筋活動に与える影響と その要因を明らかにするために,研究1では電極貼付位置の再現性に工夫を加えて最 大咬みしめ時の筋活動量と疼痛および咬合接触歯数の経時的変化を検討し,研究2で は筋活動量の変化と各種因子との関連性について多変量解析を用いて検討した.

[研究1] 1.方法

  被験者は,初期の理学療法,薬物療法が奏功しなかった顎関節症患者,男性3名,

女性21名,計24名で,5名は義歯装着者である.

  上顎型スタビリゼーションスプリントを間接法により作製し,就寝時は必ず使用し て も らっ た .ス プ リン ト の挙 上 量は 切 歯部 に おい て 平均3.O mmで あ った .   筋電図の測定は両側咬筋中央,両側側頭筋前部から表面双極誘導で導出し,測定日 間の電極貼付位置の再現性を図るため,電極位置規定用のジグを準備した.測定1回 目はスプリント使用開始日に,測定2回目はスプリント継続使用の途中で行い,測定 時期はスプリント使用開始後平均38.7土14.6日後であった.それぞれの測定日に咬 頭嵌合位およびスプリント装着状態で3秒間の最大随意咬みしめを3回ずつ計6回測 定した.筋電図の分析は,最大咬みしめ時において最も活動量が大きい波形部分を2 秒間積分し,被験者ごとに咬頭嵌合位,スプリント装着時,それぞれ3回ずっの積分

(2)

値の平均を算出した,

  ま た, 疼痛 に関 するvisual analogue scale(以 下VASと略 す) ,開 口量およぴ咬 合接触歯数も測定した.

  統 計解 析は ウィ ルコ クソ ンの 符号付 順位 検定を用い,危険率5%で有意差の検定を 行った,

2.結果

1)スプリント装着時の側頭筋の筋電図積分値は咬頭嵌合位に比べ有意な減少を示し,

減 少 量 は1回 目 測 定 時 , 右 側29% , 左 側27% ,2回目 測定 時, 右側18% ,左側16% であ った .一 方, 咬筋 では1回目 測定 時,2回目 測定 時と もス プリ ント 装着時の有意 な減少傾向は認められなかった.

2) 測定日 間の 比較 では ,咬 頭嵌 合位 にお いて,両側咬筋,左側側頭筋で使用開始日 より2回目 測定 日の方が有意に減少していた.減少量は咬筋で,右側17%,左側9%,

側頭 筋で 右側11% ,左 側12%で あった .一 方, スプ リン ト装 着時 にお いては,両側 咬 筋 , 側 頭 筋 と もに 測 定 日 問 の 筋 電 図 積 分 値 の 間に 有意 差は 認め られ なかっ た.

3) VAS,開口量およぴ咬合接触歯数は,単独で筋活動量の変化を説明できるような変 化を示さなかった.

[研究2]

1)方法

  研 究1に お いて 明ら かと なっ た咬 頭嵌 合位に おけ る筋 電図 積分 値の 経時 的減 少に 関 し て , 各 種 要 因 と の 関 連 性 を 重 回 帰 分 析 ステ ッ プ ワ イ ズ 法 に よ り 検 討 し た ,   被 験者 は, 初期 の理 学療法 ,薬 物療法が奏功しなかった顎関節症患者,男性3名,

女性22名 ,計25名 で, 義歯装 着者 は対 象か ら除 外し た. スプ リント使用開始日とス プリ ント 使用 開始 後平 均37.8土10|5日後 の2回 ,咬 頭嵌 合位 での最大咬みしめ時筋 電図積分値を研究1と同様の手法で測定した.

  両 側の咬筋,側頭筋,患側の咬筋,側頭筋における咬頭嵌合位の筋電図積分値の経 時的 変化量を従属変数に設定し,独立変数として年齢,スプリントの挙上量,使用期 間,VASに おけ る咬 合痛 ,開 口時 痛の変化量,上顎臼歯咬合接触歯数の変化量,スプ リント使用開始時の筋症状,クリックの有無を設定した.

2)結果

  両 側咬筋,側頭筋ともに,関連ありとして選択された独立変数は,開口時痛,挙上 量, 使用期間であった.患側咬筋,側頭筋において,選択された独立変数は,咬筋で は , 使 用 期 間, 挙 上 量 , 開 口 時 痛 で , 側 頭筋 では ,開 口時 痛, 挙上 量で あっ た.

  筋 電図積分値の経時的変化量はこれらの要因によって有意に説明され,スプリント の挙上量が大きいこと,使用期間が長いことが,咬頭嵌合位での筋活動量を減少させ,

疼痛の改善度は筋活動量を増加させることが示された.

(3)

[考察]

  研究1から,スプリントの装着は咬筋に対する側頭筋活動量の劣勢化効果を有し,

その効果はスプリントを継続使用した後も持続することが示された.この効果には,

スプリント装着で前歯部の歯根膜圧受容器からの感覚入カが増加し装着時の前歯部,

臼歯部の歯根膜感覚入カの比率が変化したことによるカの合カの前後的な比率の変 化や咬合挙上に伴う咬合カのベクトル変化による咬筋,側頭筋の協調性の変化などが 関与している可能性が考えられた.

  また,研究1でスプリント非装着時の咬頭嵌合位において経時的な筋活動量の減少 傾向が認められたが,VAS,開口量および咬合接触歯数はそれぞれ単独では筋活動量 の変化を説明できなかった.しかし,研究2では多変量解析を導入したことにより,

咬合挙上と使用期間は減少因子,疼痛の改善度は増加因子として働くことが明らかと なった.このように増加と減少の相反する複数の要因が重複して筋活動量の経時的変 化に影響を及ばしていた点が,過去の研究において咬頭嵌合位の筋活動量の変化のパ ターンが一定ではなく,これまで単独因子での比較研究では筋活動量の経時的変化を 引き起こす要因を明確化できなかった理由と考えられる.

  咬頭嵌合位における経時的な筋活動量の減少要因である咬合挙上の作用機序とし ては,一般的に筋肉が最も張カを発揮できる長さは静止長付近とされていることから,

スプリントの使用により咬合の挙上が継続され,筋の静止長が変化し咬頭嵌合位では 張カが発揮しづらくなった可能性が考えられる.

  この咬合挙上の継続による咬筋,側頭筋の咬頭嵌合位における筋活動量の減少は,

スプリント非装着時においても関節への緩圧,筋の過緊張の緩和の効果をもたらし得 ることを示している.しかし,一方で咬合カが低下し,咀嚼能率の低下や咬合カを十 分に発揮できない感覚の発現にっながる危険性も示している.したがって,スプリン ト療法は関節への緩圧,筋の過緊張の緩和の観点からは有益であるが,必要以上に使 用 期 間 が 長 期 化 し な ぃ よ う 注 意 す べ き で あ る こ と が 示 唆 さ れ た .

[結論]

1.スプリントの装着は咬筋に対する側頭筋活動量の劣勢化効果を有し,その効果は ス プ リ ン ト を 継 続 使 用 し た 後 も 持 続 す る こ と が 明 ら か と な っ た . 2.咬筋,側頭筋における咬頭嵌合位での筋電図積分値の経時的変化は,複数の因子 の混在により変動することが示された,咬合挙上と使用期間は減少因子,疼痛の改善 度は増加因子として働くことが明らかとなった.

3.スプリント使用による咬合挙上の継続は,スプリント装着時だけでなくスプリン ト非装着時の最大咬みしめ時筋活動量にも影響を及ばし,関節への緩圧,筋の過緊張 の緩和の効果をもたらし得ることが示された.

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 教 授 助教授

井上農夫男 赤 池    忠 北 川 善 政 山 口 泰 彦

学 位 論 文 題 名

咀 嚼 筋 に 対 す る ス プ リ ン ト 装 着の 効 果 に 関す る      筋 電 図 学 的 研 究

  審 査 は , 審 査 担 当 者 全 員 の 出 席 の 下 に 行 わ れ た . 最 初 に 申 請 者 よ り 提 出 論 文 の 概 要 が 説 明 さ れ た . 論 文 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る .

  顎 関 節 症 患 者 に お け る ス プ リ ン ト の 継 続 使 用 が 咀 嚼 筋 活 動 に 与 え る 影 響 と そ の 要 因 を 明 ら か に す る た め に , 最 大 咬 み し め 時 の 筋 活 動 量 と 疼 痛 お よ び 咬 合 接 触 歯 数 の 経 時 的 変 化 を 検 討 し , さ ら に 筋 活 動 量 の 変 化 に 影 響 を 及 ぽ す 可 能 性 の あ る 各 種 因 子 と の 関 連 性 に つ い て 多 変 量 解 析 を 用 い て 検 討 し た .

  研 究1で は , 初 期 の 理 学 療 法 , 薬 物 療 法 が 奏 功 し な か っ た 顎 関 節 症 患 者24名 を 対 象 と し た . ス プ リ ン ト は 上 顎 型 ス タ ピ リ ゼ ー シ ョ ン ス プ リ ン ト で 挙 上 量 は 切 歯 部 に お い て 平 均3.0 mmで あ っ た . 筋 電 図 の 測 定 は 咬 筋 中 央 , 側 頭 筋 前 部 か ら 表 面 双 極 誘 導 で 導 出 し , 測 定 日 間 の 電 極 貼 付 位 置 の 再 現 性 を 図 る た め , 電 極 位 置 規 定 用 の ジ グ を 準 備 し た . 測 定1回 目 は ス プ リ ン ト 使 用 開 始 日 に , 測 定2回 目 は ス プ リ ン ト 継 続 使 用 の 途 中 で 行 い , 測 定 時 期 は ス プ リ ン ト 使 用 開 始 後 平 均38.714.6日 後 で あ っ た . そ れ ぞ れ の 測 定 日 に 咬 頭 嵌 合 位 お よ び ス プ リ ン ト 装 着 状 態 で 最 大 随 意 咬 み し め を 測 定 し た . そ の 結 果 ,1) ス プ リ ン ト 装 着 時 の 側 頭 筋 の 筋 電 図 積 分 値 は 咬 頭 嵌 合 位 に 比 ベ 有 意 な 減 少 を 示 し た . 一 方 , 咬 筋 で は1回 目 測 定 時 ,2回 目 測 定 時 と も ス プ リ ン ト 装 着 時 の 有 意 な 減 少 傾 向 は 認 め ら れ な か っ た . 2) 測 定 日 間 の 比 較 で は , 咬 頭 嵌 合 位 に お い て , 咬 筋 , 側 頭 筋 で 使 用 開 始 日 よ り2回 目 測 定 日 の 方 が 有 意 に 減 少 し て い た . 一 方 , ス プ リ ン ト 装 着 時 に お い て は , 咬 筋 , 側 頭 筋 と も に 測 定 日 間 の 筋 電 図 積 分 値 の 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た .

  研 究2で は , 初 期 の 理 学 療 法 , 薬 物 療 法 が 奏 功 し な か っ た 顎 関 節 症 患 者25名 を 対 象 と し た . ス プ リ ン ト 使 用 開 始 日 と ス プ ル ン ト 使 用 開 始 後 平 均37.8+10.5日 後 の2 回 , 咬 頭 嵌 合 位 で の 最 大 咬 み し め 時 筋 電 図 積 分 値 を 研 究1と 同 様 の 手 法 で 測 定 し た .

(5)

咬 頭 嵌合 位 の 筋電 図 積分 値 の経時的 変化量を 従属変数 に設定し ,独立変数 として年 齢 , スプ リ ン トの 挙 上量 , 使 用期 間 ,VASに お ける 咬 合 痛,開口 時痛の変化 量,上 顎 臼 歯咬 合 接 触歯 数 の変 化 量,スプ リント使 用開始時 の筋症状 ,クリック の有無を 設 定して重回 帰分析ス テップヮ イズ法に より解析 した.

  その 結 果 ,両 側 咬 筋, 側頭 筋ともに ,関連あ りとして 選択され た独立変数 は,開 口 時 痛, 挙 上 量, 使 用期 間 であった ,患側咬 筋,側頭 筋におい て,選択さ れた独立 変 数 は, 咬 筋 では , 使用 期 間,挙上 量,開口 時痛で, 側頭筋で は,開口時 痛,挙上 量 であった. 筋電図積 分値の経 時的変化 量はこれ らの要因によって有意に説明され,

ス プ リン ト の 挙上 量 が大 き いこと, 使用期間 が長いこ とが,咬 頭嵌合位で の筋活動 量 を 減 少 さ せ , 疼 痛 の 改 善 度 は 筋 活 動 量 を 増 加 さ せ る こ と が 示 さ れ た .   以 上,本研究 から,

1. スプリント の装着は 咬筋に対する側頭筋活動量の劣勢化効果を有し,

ス プ リ ン ト を 継 続 使 用 し た 後 も 持 続 す る こ と が 明 ら か と な っ た . 2. 咬筋,側頭 筋におけ る咬頭嵌合位での筋電図積分値の経時的変化は,

の 混在により 変動する ことが示 され,咬 合挙上と 使用期間は減少因子,

度 は増加因子 として働 くことが 明らかと なった・

そ の効果は

複 数の 因子 疼 痛の 改善

3.ス プリント使 用による 咬合挙上 の継続は ,スプリ ント装着 時だけでなくスプリン ト 非装 着 時 の最 大 咬みしめ 時筋活動量 にも影響 を及ぽし ,関節へ の緩圧, 筋の過緊 張の 緩和の効果 をもたら し得るこ とが示さ れた.

  以 上 の 論文 の 概要 の 説 明の 後 ,申 請者に 対し提出 論文とそ れに関連 した学科目 に つ いて 口 頭試 問 が 行わ れ た .各 審 査員よ り,電極 の貼付法 と位置の 再現性,測 定時 の 筋疲 労 の影 響 , 筋電 位 の 記録 法 と処理 法,患側 と健側の データの 差異,義歯 装着 者の場 合の筋活 動,咬合 カと筋電図 積分値と の関係, 筋線維組成と筋活動量の関係,

咬 筋と 側 頭筋 の 筋 活動 量 比 の変 化 のメカ ニズム, スプリン トの臨床 的意義など ,本 研 究の 背 景, 方 法 ,結 果 , 考察 お よび関 連の研究 について 質問がな されたが, いず れに対 しても明 確で的確 な回答が得 られた,

  本 研 究 で多 変 量解 析 の 手法 を 用い ,スプ リントの 継続使用 は増加と 減少の相反 す る 複数 の 要因 が 重 複し て 筋 活動 量 に影響 を及ばし ていた点 を明らか にしたこと は,

過 去の 研 究に お い てス プ リ ント 使 用者の 咬頭嵌合 位の筋活 動量の経 時的変化の バタ ー ンが 一 定で は な く, 筋 活 動量 の 経時的 変化を引 き起こす 要因を明 確化できな かっ た とい う 問題 点 に ーつ の 答 えを 出 すもの である. また,本 研究で得 られたスプ リン ト の挙 上 量の 影 響 に関 す る 結果 は ,今後 のスプリ ントの臨 床におい て寄与する とこ ろ が大 き い新 た な 知見 で あ る. そ のため ,本研究 の新規性 と今後の 顎関節症の 研究 や治療 の発展へ 及ばす影 響カは高い ものと評 価された .

  以 上 よ り, 本 研究 の 業 績は 歯 学領 域に寄 与すると ころ大で あり,博 士(歯学) の 学位に ふさわし いものと 審査員一同 から認め られた.

参照

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