博 士 ( 獣 医 学 ) 田 崎 隆 史
学位論文 題名
イヌ Cytochrome P450 2D15 の分子 生 物学的手 法を用い た機能解析
学位論文内容の要旨
本 研究では、 肝臓での薬物代謝において重要なCYP2D分子種に着目し、実験動物と して 重要である にもかかわらず、情報の少ないイヌCYP2D分子種の機能解析を目的と した 。ま ず、 イヌCYP2D分子 種cDNAを 単離 し、 塩基 配 列、 アミノ酸配列を完全に決 定し た。 他動 物種 のCYP2D分 子種 と比 較し たと ころ60%以 上の相同性があり、また 保存 配列 も確 認さ れた 。 した がっ て、 単離 したcDNAはCYP2D分子種であると同定さ れ、CYP2D15と命名された。また、ウシや霊長類(ヒト、サル)のCYP2D分子種とは約 75%の相同性、齧歯類(モルモット、ラッ卜、マウス)とは70%以下の相同性で、動物 種 間 で ば ら っ き が あ り 、 薬 物 代 謝 活 性 に も 違 い が あ る こ と が 予 想 さ れ た 。 そ こで 、イ ヌCYP2D15 cDNAからバキュロ ウイルス発現系を用いて発現蛋白を作成 した 。発現蛋白 は、イヌCYP2D15に特異的な ぺプチド抗体を用いたWestern blot解析 によ って、イヌ 肝ミクロソーム中のCYP2D15と同一であることが示唆された。また、
スペクトル解析による定量で、薬物代謝 を測定するために十分な量のP450が発現され てい ることがわ かった。次にCYP2D分子種の 典型的な基質である、ブ二卜口口ールと イ ミ プラ ミン を用 いて 、発 現CYP2D15の薬 物代 謝活 性を 測 定し た。CYP2DJ5発現 蛋 白は 高いブニト 口口ール4位水酸化およびイ ミプラミン2位水酸化活性を 持ち、CYP2D 分 子 種と して ラッ 卜や ヒト のCYP2D分 子種 と同 じ性 質を 示 した が、 イヌCYP2D15は イミ プラミンN脱メチル化活性もよく触媒す る点で、ユニークな基質特異性を有して いた 。キ ニン によ る代 謝 阻害 実験 によ り、 イヌ 肝ミ クロ ソーム中で、 イヌCYP2D15 がブ ニト 口口 一ル およ び イミ プラミンの水 酸化活性の主酵素であることが示唆され た 。 また 、イ ミプ ラミ ンN脱 メチ ル化 活性 も部 分的 に肝 ミ ク口 ソー ム中 でCYP2D15 が関与していることが考えられた。
ヒ ト、ラット のCYP2D分子種は、肝ミク□ ソーム中の含有量が少ないことが知られ てい るが 、Sakamotoら は 、イ ヌCYP2D15は 含有 量が 多 い分 子種であると報告した。
そ こ で、 作成 したCYP2D15発 現蛋 白を 用い て、 イヌ 肝ミ ク 口ソ ーム 中のCYP2D15の 含有量を検討したが、非常に少ないこと が推察された。
次に、CYP2D】5発現蛋白を用いてイヌ 、ラット、ヒトの間で種差が存在することが 知られているプ口プラノ口一ル(PL)代謝 、デブリソキン代謝を調べた。これまで報告 されているように、イヌ肝ミクロソーム では、PL4位水酸化(4‑OH)、5位水酸化(5‑OH) ー936―
に関して、ヒト肝ミク口ソームとは逆の立体選択性を示した。また、ラット肝ミク口 ソームにおいて主要な代謝物である7位水酸化体は全くみられなかった。このような イヌ肝ミクロソームのユニークなPLの部位および立体選択性は、C`YP2D15発現蛋白 でも同様にみられた。また、CYP2D15に特異的なぺプチド抗体によって、イヌ肝ミク ロソームの4―、5―OH活性は強く阻害された。したがって、イヌ肝ミク口ソームによ るブ口ブラノロール4‑. 5‑OHの部位および立体選択性には、イヌCYP2D15が大きく 関わっていることが示された。また、CYP2D15発現蛋白は高いPLN脱イソプ口ピル 化(DIP)活性を持っが、CYP2Dl5特異的なべブチド抗体によって、イヌ肝ミクロソー ムでのPL DIP活性は阻害されなかった。したがって、イヌ肝ミク口ソームによるPL DIPは,他の分子種によって触媒されていると考えられた。
デブリソキンはヒトCYP2D6の遺伝的多形性を示す代表的な基質であるが、イヌ肝 ミク□ソームでは低基質濃度でデブリソキン4位水酸化活性は検出されなかった。
CYP2D15発現蛋白でもデブリソキン4位水酸化活性は、顕著に低かった。高基質濃度 においても、CYP2D15発現蛋白はイヌ肝ミク口ソームに比べてそれほど高い活性を示 さなかった。したがって、イヌ肝ミク口ソームの低デブリソキン4位水酸化活性は、
イヌCYP2D15のデブリソキン4位水酸化活性が顕著に低いためであることが示され た。
最後に、生体内物質としてテストステ口ンの代謝をラットCYP2DI、CYP2D2、ヒト CYP2D6、イヌCYP2D15で測定した。その結果、それぞれの分子種は異なる代謝部位 特異性を示した。ヒトCYP2 D6はテス卜ステ口ンの6p位水酸化および17位酸化、イ ヌCYP2D15は17位酸化のみで顕著な活性を示した。一方イヌCYP2D15同様、高いブ ニト口口ール4位水酸化活性を持つラット(ニYP2D2は全ての部位でほとんど活性がみ られなかった。しかし、ブニト口口ール4位水酸化活性を持たないラットCYP2D1は、
7a位水酸化において顕著な活性を示した。
以上のことから、イヌCYP2D15の発現蛋白を用いることによって、イヌCYP2D15の 基本的な性質が本研究で明らかになった。本研究の知見は、CYP2D分子種に関する動 物種差を考える上で有効な指標を与えるであろう。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
藤田 中里 渡邊 升田
正一 幸和 智正 真木彦
学 位 論 文 題 名
イ ヌ Cytochrome P450 2D15 の 分 子 生物学的手法を用いた機能解析
ヒ ト薬物代 謝酵素P450の一分子 種、cytochrome P450 2D (CYP2D)は多く の医薬 品の代謝に関与し ている。医薬品を創製するためには、動物からヒトヘの外挿を考慮しなければならないが、実験動物と し て重要な イヌのCYP2Dに関 する情 報は少な い。そこ で、田 崎君はイ ヌCYP2D分子種の 機能解析を目 的 と し た。 ま ず 、イヌCYP2D分子 種cDNAを単 離し、塩 基配列、 アミノ 酸配列を 完全に 決定した 。他 のCYP2D分子 種との 相同性は 、動物 種間でば らっきが あり、 薬物代謝活性にも違いがあることが予想 された。
次 にイヌCYP2D15 cDNAからパ キュロウ イルス発 現系を 用いて発 現蛋白 を作成し 、この発現蛋白を 使 って様々 な薬物 代謝活性 を調べた 。CYP2D15発現蛋 白は高い ブニト口 口ール4位水 酸化およびイミ プ ラ ミ ン2位 水 酸化 活 性 を持 ち 、CYP2D分 子 種 と して ラ ッ トや ヒ ト のCYP2D分子 種と同 じ性質を 示 し たが、イ ヌCYP2D15はイミプ ラミンN脱メ チル化活 性もよ く触媒す る点で 、ユニー クな基質特異性 を有していた。
次 に、CYP2D15発現蛋 白を用い てイヌ 、ラット 、ヒト の間で種差が存在することが知られているプ ロ プラノ口 ール(PL)代謝、デブリソキン代謝を調べた。これまで報告されているようIこ、イヌ肝ミク ロ ソームで は、PL4位水酸 化(4‑OH)、5位水酸化(5−OH)に関して、ヒト肝ミク口ソームとは逆の立体 選 択性を示 した。 また、ラ ット肝ミ クロソ ームにお いて主 要な代謝物である7位水酸化体は全くみら れ な か った 。 こ のような イヌ肝 ミク口ソ ームの ユニーク なPLの部 位および 立体選択 性は、CYP2D15 発 現 蛋 白で も 同 様にみら れた。CYP2D15に特 異的な べプチド 抗体に よって、 イヌ肝 ミクロソ ームの 4―、5―OH活性 は強く 阻害され た。したがって、イヌ肝ミクロソームによるPL4‑、5‑OHの部位および 立 体 選 択性 に は 、イヌCYP2D15が大 きく関わ ってい ることが 示され た。デブ リソキ ンはヒトCYP2D6 の 遺伝的多 形性を 示す代表 的な基質 である が、イヌ 肝ミク 口ソームでは低基質濃度でデプリソキン4
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位水 酸化 活性 は検 出さ れな かっ た。CYP2D15発現蛋白でもデブリソ キン4位水酸化活性は、顕著 に低 かっ た。し たがって、イヌ肝ミクロソームでデブリソキン4位水酸化活性が低いのは、この反応 にお けるCYP2D15の触媒活 性が顕著に低いためであることが示された。
以 上のよ うに、田崎君は、バキュ口ウイルス発現系によるイヌCYP2D15の発現蛋白を用いるこ とに よっ て、 イヌCYP2D15の 基本 的な 性質を本研究で明らかにした。本 研究の知見は、今後C ̄YP2D分子 種に関する動物種差を考える上で有用となると考えられる。よって、審査員一同は田崎君が博士(獣医 学)の学位を受けるのに十分な資格を有するもの と判断した。
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