博 士 ( 理 学 ) 櫻 井 学 位 論 文 題 名
ヒトレトロウイルス増殖後期過程の 分 子 生 物 学 的 機 能 解 析
.学位論文内容の要旨
陽
本論文ではヒトレト口ウイルスの生活環の解析を目的として増殖過程後期における重要な 二段階を解析する実験を行った。前半章(2から4章)ではウイルスRNAの核外輸送に着目し、
HIV→l(Human ImmunodeficiencyVirustype1)の輸送制御夕ンパクRevがマウス細胞中で 起こる活性阻害を中心に解析した。また後半章(5章と6章)ではウイルスが宿主細胞から出芽 する機構に着目しHrlV―1(humanT―cellleukemiavirustype1)のGag夕ンバクが出芽す るために必須な因子に関しての解析を行った。
第二章 ではHIV−1のウイルスRNA輸 送因子であるRevがマウス細 胞中で十分な活性を有 さ ない こと を示 し た。RevのRNA輸送 活性 はL929細胞、A9細胞もしくはNIH3T3細胞とい った複数のマウス細胞において、HeLa細胞と比較して明確に低かった。この活性の低さはRev の宿主因 子であるhCRMlを共発現させることで回復が見られた。従ってマウス細胞中でRev の活性が低い原因はCRM1にあると考察された。
第 三章 で はま ずmCRMlの単 離を 行っ た 。mCRMlはrCRMlと アミ ノ酸 レベ ルでは二力所 しか 違わ な い1072ア ミノ酸のタンパクであった。作成したmCRMl発現プラスミドをL929 細胞に発現させたところ、Revの機能は回復しなかった。従って、マウス細胞でRevの機能が 低下している最大の原因はmCRMlがRevの機能を支持できないことにあることが示された。
一 方 で 、mCRMlは ヒト 細胞 中で はhCRMlと 同等 のRev機 能 支持 能を 示し た。 これ はNES 含有 夕ン パ クを 競合 的に 拮抗 阻害 するTAgRexM64やCRM1の特異的阻害剤LMBを用いた実 験で同様の結果が示された。更に、LMB非感受性のCRM1発現プラスミドを作成し、このCRM1 を用いて同様の実験を行ったが、やはりmCRMlはヒト細胞中で十分な活性を示した。このこ とか らmCRMlが ヒト 細胞 とマ ウス 細胞 で のRev支 持能カが違うことはCRM1以外の別因子 の存在を示唆する結果となった。
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第四章ではmCRMlがヒト細胞とマウス細胞で活性の異なる原因を検討した。まずrI丶vo̲
hybrid assayでヒト細胞中とマウス細胞中でRev―CRM1の結合能に影響があるかどうかを検 証した。しかし、ヒト細胞中とマウス細胞中のRevーCRM1の結合能には大きな差は見られな かった。次にヒト―マウス融合細胞中でmCRMlが活性を持っかどうかを検討した。その結果、
融 合 細 胞中で はmCRMlは 活性を 示すこと が出来 なかった 。従ってmCRMlが ヒトとマ ウス 細 胞でRev支持能 が異な る原因は 、マウス 細胞中にmCRMlの阻害的制御因子が存在する事 が示唆された。
第五 章ではHTLv―1の 粒子出 芽がPPPY配列 依存的 であるこ とを示 した。HnV―1のGag 上に存在するPf)PY配列に点変異を入れたり、配列自体を削除したりするとHrLV―1の出芽 は抑制された。一方で、m、IV―1のGagはHW−1の出芽に関与しているFr AP配列も有して いるが、この阿|AP配列に点変異を入れても配列を削除してもHnV一1の出芽には顕著な影 響 を与えな かった 。これら のこと は電子顕微鏡による粒子の観察によっても確認した。
第六章ではHTLV―1の出芽における宿主因子の検討を行った。Nedd4の過剰発現はHTLV−1 の出 芽を促進 したが 、同種のE3であるBUL1やKIAA1301は出芽に顕著な影響を与えること が 出 来なかっ た。ま たNedd4のWWドメイ ンだけを 発現さ せること でHTLV−1の出芽 を押 さえ ることが 出来た ことから 、HTLVー1出芽に おける 宿主因子 はNedd4もしくはNedd4と 非常 に近似し たE3であ ることが 示唆さ れた。またTsgl01の過剰発現やVps4の活性変異体 の発 現によりHTLV−1の出芽が 抑制さ れること から、HTLV―1の 出芽にもMVB経路が関与 していることが示唆された。
以上本研究では前半章においてHIV―1のRNA輸送に関して種特異性に関連する新たな所見 を明らかにした。また後半章ではHTLV―1の出芽における宿主因子とその機構に関与する有 用な所見を明らかにした。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 ・名
ヒトレトロウイルス増殖後期過程の 分 子 生 物 学 的 機 能 解 析
本論文ではヒトレ卜口ウイルスの生活環の解析を目的として増殖過程後期における重要な 二段階を解析する実験を行っ、た。前半章(2から4章)ではウイルスRNAの核外輸送に着目 し、HエV―l(Hurnan Immunodeficiency Virus type1)の輸送制御夕ンバクRevがマウス 細胞中で起こる活性阻害を中心に解析した。また後半章(5章と6章)ではウイルスが宿主細 胞から出芽する機構に着目しHTLV―l(human T‑cell leukemia virus type1)のGag夕ン パクが出芽するために必須な因子に関しての解析を行った。
第 二章で はHIV―1のウ イルスRNA輸送因子であるRevがマウス細胞中で十分な活性を 有 さ な い こ と を 示 した 。RevのRNA輸 送 活 性 はL929細 胞 、A9細 胞 も し く はNIH3T3細 胞といった複数のマウス細胞において、HeLa細胞と比較して明確に低かった。この活性の 低さ はRevの 宿主因 子で あるhCRMlを共発現させることで回復が見られた。従ってマウ ス細胞中でRevの活性が低い原因はCRM1にあると考察された。
第 三 章 で は ま ずmCRMlの 単 離 を 行 っ た 。mCRMlはrCRMlと ア ミ ノ 酸 レ ベ ル で はニ カ所しか違わない1072アミノ酸のタンパクであった。作成したmCRM1発現プラスミドを L929細胞に発現させたところ、Revの機能は回復しなかった。従って、マウス細胞でRev の機 能が低 下し てい る最 大の原 因はmCRMlがRevの機能を支持できないことにあること が 示 さ れ た 。 一 方 で、mCRMlは ヒ ト 細 胞 中で はhCRMlと同 等のRev機能支 持能 を示 し た 。 こ れ はNES含 有夕 ン パ ク を 競 合 的 に 拮 抗 阻 害す るTAgRexM64やCRM1の特 異的 阻 害 剤LMBを用 いた 実験 で同様 の結 果が 示され た。 更に 、LMB非 感受 性のCRM1発 現プ ラ スミ ドを作 成し 、こ のCRM1を用 いて 同様 の実験 を行 った が、 やはりmCRMlはヒト細胞 中で 十分な 活性 を示 した 。この ことからmCRMlがヒト細胞とマウス細胞でのRev支持能 カ が 違 う こ と は CRM1以 外 の 別 因 子 の 存 在 を 示 唆 す る 結 果 と な っ た 。
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則 彌
三
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畠 谷
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授 授
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教 教
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主 副
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第 四章 で はmCRMlが ヒ ト 細 胞 と マウ ス 細 胞 で 活性 の異 なる原 因を 検討 した 。まず Two‑hybrid assayでヒト細胞中とマウス細胞中でRev―CRM1の結合能に影響があるかど うかを検証した。しかし、ヒト細胞中とマウス細胞中のRev一CRM1の結合能には大きぬ差 は見られなかった。次にヒトーマウス融合細胞中でmCRMlが活性を持っかどうかを検討し た。 その結 果、 融合 細胞 中ではmCRMlは活性を示すことが出来なかった。従ってmCRMl がヒ トとマ ウス 細胞 でRev支 持能 が異なる原因は、マウス細胞中にmCRMlの阻害的制御 因子が存在する事が示唆された。
第 五章ではHTLVー1の粒子出芽がPPPY配列依存的であることを示した。HTLV−1のGag 上に 存在するPPPY配列に点変異を入れたり、配列自体を削除したりするとHTLV−1の出 芽 は 抑制 さ れ た 。一 方で、HTLV−1のGagはHIV―1の 出芽 に関与 して いるPTAP配列も 有し ているが、このPTAP配列に点変異を入れても配列を削除してもHTLV−1の出芽には 顕著な影響を与えなかった。これらのことは電子顕微鏡による粒子の観察によっても確認し た。
第 六章 で はHTLVー1の 出芽 におけ る宿 主因 子の 検討を 行っ た。Nedd4の 過剰 発現は HTLV―1の 出 芽 を 促 進 し た が 、 同 種のE3で あ るBUL1やKIAA1301は出 芽に 顕著 な影響 を 与 え る こ と が 出 来 な か っ た 。 ま たNedd4のWWド ヌ イ ン だ け を 発 現 させ る こ と で HTLV−1の 出 芽 を押 さえ るこ とが出 来た こと から 、HTLV−1出芽 にお ける 宿主 因子は Nedd4も し く はNedd4と非常 に近 似し たE3で ある こと が示 唆され た。 またTsgl01の過 剰発 現やVps4の活性変異体の発現によりHTLV―1の出芽が抑制されることから、HTLV− 1の出芽にもMVB経路が関与していることが示唆された。
以 上本研究では前半章においてHIV―1のRNA輸送に関して種特異性に関連する新たな 所見を明らかにした。また後半章ではHTLV―1の出芽における宿主因子とその機構に関与 する有用な所見を明らかにした。
これを要するに、著者は、レト口ウイルスの生活環の後期過程においての新知見を得たも のであり、レトロウイルスの分子機構の解明並びに新たなるウイルス治療法に対して貢献す ること大なるものがある。
よって、著者は北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。