博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 鈴 木 ( 田 畑 ) あ ず さ
学位論文題名
Physiological and Morphological Responses of ろをあり励 er7na7zii to Environmental Stress
(環 境ス トレ スに 対するダケカンバの生理的・形態的応答)
学位論文内容の要旨
植物 の光 合成 能カは光・温度・水分などの環境条件により変化する。低温や乾燥など のストレスによる光合成速度の低下は,光阻害を引き起こし植物の光合成饑能にダメー ジ を与 える 。乾 燥ストレス下の植物体内では,光阻害防御のために過剰光エネルギー消 去機障がより活発に働くと予想される。
ダケ カン バは ,北緯34度付近から62度付近にかけて広く分布する遷移初期種の高木で あ る。 中で もロ シアのカムチャツカ半島の北緯58度以南では,ほば全域に渡って極めて 良 く発 達し たダ ケカンバ林が認められる。カムチャツカ半島のような北方寒冷圏におい て ダケ カン バ林 が発達するためには,低温や生育期間が短いといった高山帯や冷涼な地 域 の気 候特 色に 対して,低温域での高い光合成活陸などの生理的特性だけでなく,高い root/shoot比な どの形態的特陸も重要であると考えられる。カンノ瀕の開葉様式は,春 葉 と夏 葉の ニ種 類の葉を展開する順次展開型であり,ダケカンバと同じカバノキ属のミ ズ メで は, 春葉 と夏葉で異なるフェノロジーと光合成能カを持っと報告されている。よ っ てダ ケカ ンバ は春葉の展開後,生育環境が生理的に不適となった場合,生長を一方的 に 阻害 され るの ではなく,生長を阻害されなぃような何らかの方法を用い,特に春葉と 夏 葉の 特陸 の違 いを利用して環境に適応し,生育しているのではないかと考えられる。
そ こで ,寒 冷圏 に生育するダケカンバがどのように環境に適応し,生存・生長している のかを解明することを目的として以下の研究を行った。
まず 野外 にお いて,植物が異なる資源(水・栄養・光など)利用様式を示すと考えら れ るい くっ かの 環境において,ダケカンバの光合成能カや光ストレス応答などの生理的 応答にも差異があるのかを調べた。上層木であるダケカンバの資漸I亅用には,林床のサ サ との 競争 の影 響があると考えられる。北海道北部のダケカンバ林には,林床のササを 人 工的 に除 去し た区(除去区)と除去しなかった区(ササ区)が設置されており,この プロット内の17年生ダケカンバを研究対象とした。
2002年7月か ら10月ま での4ケ月 問月 に一 度, 当年 枝の下 から 数え て4番目の葉(第4 葉)と先端で十分に成熟している葉(最上f立展開葉)を葉位拐fJに採集し,最大光合成速 度 や 光 阻 害 の 指 標 とな る光 化学 系nの最大 量子 収率(Fv/Fm) ,光 を捕 集す る色 素で あ
るクロロフイル含有量,過剰光エネルギーを熟として消去するキサントフイルサイクル の構成二色素舗量,活性酸素消去系酵素活性の測定を行った。その結果,ダケカンバの 最大光合成速度,蒸散速度,気孔コンダクタンス,v/Fmには,ササの有無による違い が見られなかった。クロロフイル含有量,過剰光エネルギー消去系の色素量や酵素活陸 は,除去区で大きかった。これらの結果から,ササの存在はダケカンバの光合成系に影 響を与えず,光阻害を引き起こさをいことや,むしろササの除去によルダケカンバの色 素含有量や酵素活陸は増大することがわかった。
次に,ビニノレハウス内で生育させた4年生のダケカンバ苗木を用いて,春葉と夏葉の 特陸の違いに着目し,乾燥条件下におけるダケカンバの光合成,過剰光エネルギー消去 反応等と個体の生長に関する研究を行った。また,前年の乾燥処理効果がその年の過剰 光 エ ネ ル ギ ー 消 去 反 応 と 生 長 に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か を 調 査 し た 。 2004年5月から9月まで,ダケカンバの苗木を一週間に2ー3度灌水を行う灌水処理個体 (I)と二週間 に一度灌水 を行う乾燥処理個体(D)の二種類のグループに分けて生育さ せた。さらに2005年5月から10月まで,前年度の乾燥および灌水処理個体に対し二年連 続 乾燥(DD),前年乾燥・当年灌水(Dエ),ニ年連続灌水(II)そして前年灌水・当年 乾燥(ID)の計4種類の処理を行い生育させた。一ケ月に約6回程度のサンプリング及ぴ 測定を,採集可能な葉がなくなるまで行った。2005年の測定結果では,初めて乾燥を経 験 するダケカ ンバ苗木(ID)の 相対成長速 度(RGR),夏 葉の葉寿命,春葉の最大光合 成速度,蒸散速度,気孔コンダクタンスが,二年連続潅水したダケカンバ(II)に比べ て低下した。しかし,エDとIIでは春葉の葉寿命,夏葉の最大光合成速度に差はなかった。
ま た二年連続乾燥処理のダケカンバ(DD)とIIにも,RGR,春葉の葉寿命,最大光合成 速度,蒸散速度,気孔コンダクタンスに差はなかった。SRL(比根長)は,DDがIIより も大きくなった。過剰光エネルギー消去反応は乾燥処理による影響を受けなかった。こ れらの結果から,前年に乾燥処理を受けたダケカンバ苗木は,根の形態を変化させるこ とや乾燥に馴化した葉の光合成速度等を低下させないことによりRGRを維持しているこ とが明らかになった。一方,初めて経験する乾燥処理に対して,春葉は光合成速度を低 下させるが葉寿命には影響がなく,夏葉は葉寿命を低下させるが光合成速度には影響が な い とい う よう に , 春葉 と 夏葉 で 乾燥 に 対す る 応答 が 異な る こと が 示さ れ た。
よって低温・乾燥を気候特色とする北方林の構成樹種であるダケカンバは,光ストレ スからのダメージを防ぐために,カロチノイド量や活陸酸素消去系の酵素活陸を増加さ せるのでは橙く,根を形態的に変化させたり春葉・夏葉といった異なる´陸質の葉を発達 させたりしていることが明らかにぬった。その結果,北方林でのダケカンバの生存と生 長が可能になっていると考えられる。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査 副 査 副 査
教授 教授 准教授 助教 教授 教授
原 登 志彦 甲山 隆 司 隅田 明 洋 小野 清 美
小池 孝 良 (大 学 院農 学研究院 ) 田 中 歩 ( 低 温 科 学 研 究 所 )
学位論文題名
Physiological and lN/Iorphological Responses of Betula er7nanii to Environmental Stress
(環境 ストレス に対する ダケカンバ の生理的 ・形態的応答)
ダケ カ ンパ は 、 環オ ホ ーツ ク地 域の北方 林植生の 主要な樹 種のーつ である。年 平 均 降 水 量 が1500mm前 後 の 北 海 道 や400mm前 後 と乾 燥 し たカ ム チャ ツ カ まで 、 寒 冷 圏の環境に適応して広く分布してしゝる。申請者は、これまで、ダケカンパを対象に、
寒冷 圏の環境 ストレスに 対する生 理的応答 と形態的 応答を野外調査と栽培実験により 研究 してきた 。
野外 調 査で は 、 林床 の ササ が上 層のダケ カンバの 資源利用 に影響を 及ぽすと予 想 さ れ る北 海 道北 部 の17年 生お よび28年生のダ ケカンバ 林に林床 のササを 除去した調 査区 を設定し 、ダケカン バの形態 的応答、 光合成能 カや光ストレスに対する生理的応 答に どのよう なササの影 響がある のかを調 べた。そ の結果、ササの存在はダケカンパ の葉 面積を大 きくし、当 年枝当た りの葉数 を多くす るといった形態的な影響を与える が 、 光合 成 系に は 影 響を 与 えず 光阻害を 引き起こ さないこ とが明ら かになった 。.
栽培 実 験で は 、2年 連続 し て土壌 水分条件 を制御す る実験を 行い、そ れらが4年生 のダ ケカンバ 苗木の個体 生長、光 合成能力 、環境ス トレス応答、形態的変化に及ぼす 影 響を調べ た。前年に 十分灌水 し当年に 乾燥処理 を与えた 個体では 、2年連続し て十 分に 灌水した 個体に比ベ 、当年の 春葉の光 合成速度 が低下し、個体生長(相対生長速 度RGR)も著 し く 低下 し た 。し か しな が ち 、2年連 続 して 乾 燥処 理を与え た個体は、
2年 連続して 十分に灌水 した個体 と同程度 の光合成 速度およ び個体生 長を示した 。こ れは 、ダケカ ンバ個体は 前年の乾 燥に応答 し、当年 にはより細く長い根を伸ばすこと (SRLの 増 加 )に よ り 当年 の 乾燥 に 対 して 吸 水効 率 を 上げ た 結果 で あ る、 と い うこ
とが明ら かとなっ た。当年に 初めて乾 燥を経験 した個体 は、十分 に灌水し た個体に比 ベ、春葉 は光合成 速度を、夏 葉は葉寿 命を低下 させる、 また、夏 葉は光合 成速度を、
春葉は葉 寿命を同 程度に維持 する、と いったよ うに春葉 と夏葉で は初めて の乾燥に対 し 異 な る 応 答 を 示 し た が 、 最 終 的 に は 個 体 生 長 は 大 幅 に 低 下 し た 。 こ れ まで に 行わ れ た 樹木の乾 燥ストレス 応答に関 する栽培 実験の多 くは、1年 (当 年) の みの 結 果 であ る のに対 し、申請者 は、2年連 続して土 壌水分条 件を制御 すると しゝう、 野外の樹 木が経験する状況により近い設定で栽培実験を行った。また、これま での乾燥 ストレス 応答に関す る研究で は、葉の 光合成や 環境スト レス防御 機構など個 葉のレベ ルでの生 理学的な研究が多かったが、申請者は、これら生理学的解析に加え、
個 体 全 体 の レ ベ ル で の 生 長 速 度(RGR)も あわ せ て解 析 し た。 以 上2点は 本 研 究の 独 創的な点として評価できる。
本 研 究か ら 、低 温 ・ 乾燥 を 気候 特 色 とす る 北方 林 に生育す るダケカ ンバは、 環境 ストレス 応答関係 の酵素活性 や色素量 を変化さ せるとい った生理 的応答よ りも、主に 根の形態 を変化さ せることに より長期 間の乾燥 ストレス に対して 順化し、 北方林で生 存・生長 している ことが明ら かになっ た。この ような本 研究の成 果は、寒 冷圏の森林 の生存・ 再生・維 持機構の解 明にっな がること が期待さ れる。さ らに、北 方林を形成 する主要 樹木が今 後の気候変 化により 引き起こ される環 境ストレ スにどの ように応答 してゆくのかを解明することも期待される。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であり,大 学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(地球環境科学)の学位 を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。