博 士 ( 薬 学 ) 今 村 泰 弘
学 位 論 文 題 名
Expression and Function of the Eukaryotic Nuclear Oncogene N‑myc
(真核細胞の核内癌遺伝子 N ―rnyc の 発現調節と機能に関する研究)
学位論文内容の要旨
真核 細胞における癌遺伝子産物には,細胞膜(src,ras,rosなど),細胞質(mos,rafな ど),核内(m.yc,fos,jun,p53txど)に存在するもので大きく分類される。mycファミリー にはc,N,L ‑mycなどがあり構造上 非常によく似ており,第一 ,第二,第三工クソンのう ち第二 ,第三工クソンが蛋白質をコ ードしている。mycファミリ ーの1っであるc‑mycの発 現は殆 どすべての癌細胞並びに正常細胞で認められるのに対し,N→mycは神経芽細胞,網膜 芽腫細胞などの癌細胞,更に正常細胞では未分化神経細胞,発生初期の細胞で認められることか ら細胞或いは組織特異的発現があると示唆されている。また,myc蛋白質の機能は細胞増殖や 分化,更にアポトーシスに関与しているものと考えられており,特に細胞周期,DNA複製や転 写における制御を担っているものと示唆されている。
c―mycにっ いて はc―myc蛋 白質 を含 む複 合体 がcーmyc遺 伝子 の 第一 工クソン上流約 2 kbp領 域に結合すること,しかも そこにはDNA複製開始部位並 びに転写調節シグナルェン ハンサ ーが存在することを明らかに した。工ンハンサーの一例 として,heterogeneousな DNA型 腫瘍 ウイ ルスSV40の エン ハン サ ーの 代わ りにc‑myc蛋 白質 複 合体 結合必須領域21 bpがSV40のDNA複 製 並 び に 転 写 を 促 進 す る こ と に っ い て も 明 ら か に し た 。 一方 ,N―myc遺 伝子 に関しては その発現はN―myc蛋白質によ ってautosuppressするこ とが明らかとなり更にその機能部位を同定したが,N―myc遺伝子の詳細′よ構造と機能に関し ては殆ど明らかにされていない。そこでマウスN ‑ myc遺伝子の第一工クソン上流域における 転 写制 御 にっ いて 検討 した 。Nーmyc遺 伝子 の第 一工クソン上 流EcoRI ‑Xh01,第一工ク ソンの 一部とその上流XhoI ‑PstI, 更に第一工クソンと第一イ ント口ンを含むPstI ‑Pst I領域の 下流にバクテリア由来のCAT (chloramphenicol acetyltransferase)遺伝子を連結
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し たDNAを ,N‑mycを 殆 ど 発 現 し て い な いHeLa或 い は 大 過 剰 発 現 し て い るIMR32両 細 胞 にそ れ ぞ れ 導 入しCATア ッセ イ を 行 な った (native express10nJ。 そ の 結 果 , 勵OI―Psと I領 域 に お いて 転 写 活 性 が認 め ら れ た こと か ら 転 写 調節 領 域 の存 在性が 明ら かとな り,ま た HeLaよ り もIMR32で 高 い 結 果と な っ た 。 更 に, こ の 領 域 にっ い てXhoI site( ―980)か ら 860,‑ 797, ―578,‑ 279まで 消失し たミュ 一夕ン ト或 いはPstI sit.e(十108)から ―226 379, −468,‑ 548ま で消 失 し た ミ ュ ータ ン ト に っ いて そ れぞ れ同 様に両 細胞でCATア ッセイ を行 なった 。い ずれの 場合に おいて も転 写活性 の傾向 は両細 胞にお いて ほとんど変化はなかった が, ―860‑−797領 域がIMR32で 高い結 果とな った 。
上 述 のEcoRI ‑XhoI,XhoIーPstI,PstI ‑PstI領 域 の み の 機 能 を 調 べ る た め にhet‑
erogeneous SV40プ 口 モ 一 夕 一 とCAT遺 伝 子 の 存 在 す る プ ラ ス ミ ドpSVPCATに 連 結 し , HeLa或 い はIMR32細 胞 でCATア ッ セ イ を 行 な っ た 。 そ の 結 果 , 同 様 にXh01‑PstI領 域 で 転 写 活 性 が 認め ら れHeLaよ り もIMR32で高 い こ と が 明 らか と な っ た 。ま た , こ の テス ト ク ロ ー ン に はputativeN一m.ycプ 口 モー 夕 一 か 含 ま れて い る た めSlマ ッ ピ ン グ法 で 解 析 し たと こ ろ , 両細 胞 で 大 部 分がSV40プロモ 一夕 一に依 存して いるこ とが 確認さ れた。 上述の ディレ ー シ ョ ン ミ ュ ー タ ン に っ い て同 様 にS V40プ ロ モー 夕 一 存 在 下でCATア ッセ イ を 両 細 胞で 行 つ た 。XhoI siteか ら の 場 合 , 転 写 活 性 の 傾 向 は 両 細 胞 間 で 殆 ど 変 化 は み ら れ な か ヮ た 。 PstI siteか ら の 場 合 ,HeLaで は殆 ど 転 写 活 性が 認 め ら れ な かっ た の に 対 し,IMR32で は 広 範 囲 に わた っ て 認 め られ た 。特 に‑ 980――860領 域は‑ 860 ‑ PstI領域 に対し てエン ハン サー と し て 機能 し た 。 こ のこ と か ら ,cell type preferentialな 発 現 が ある こと が示唆 された 。 Nーmyc遺 伝 子 の 発 現 (native expression) は , ―860― ―797領 域 に お いてIMR32で 転 写 活 性 が 高い 結 果 と な った た め , こ の領 域 に 結 合 す る核 内 蛋 白 質 の認 識 する 配列 をDNaseIフ ッ ト プ リ ン テ イ ング 法 で 決 定 した 。HeLa或 い はIMR32の 核 抽出 物 を 用 い たと こ ろ , 両 細胞 で 共 通 に プ 口テ ク ト さ れ た配 列 (N 21box)に はSacH制 限 酵 素 認識 配 列 を 含ん でい た。更 に,N21 boxを 化 学合 成 し こ れ をー797 ‑PstI領域 の オ リ ジ ナル の 位 置 で ある ―797に連 結 しHeLa或 い はIMR32でCATア .yセ イ を 行 な っ た 。N21bOxは ―797 ‑ PstI領 域 に 対し て 両 細 胞 で 転写 活 性 が 認 め ら れ た 。 更 に ,N 21boxの 機 能 を 詳 細 に 調 べ る ため 位 置 と 方 向性 に っ い てHeLa, IMR32,mouse fibroblastL,rat gliomaC6,mouse embryonal carcinomaF9,hu‑
man retinoblastoma Rb24KY,mouse neuroblastoma N18TG2p 26細 胞 に っ い て 同 様 に CATア ッ セ イ で 検 討 し た 。 そ の 結 果 ,IMR32で はN21boxが オ リジ ナ ル の 位 置で あ る ―797に 順方 向に存 在す る時の み機能 したの に対 し,そ の他の 細胞で は順, 逆方 向どちらも認められた。
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また,N21boxのputativeN‑ myc promoterに対する 影響を調べるためにプ口モー ターのみ とCAT遺伝子が存在する プラスミドにN21boxを連結し,位置と方向性にっいて同様に上述の 細胞 でCATア ッセ イを 行なっ た。その結果,IMR32以外で はN21boxがプ口モー夕一上流 に 存在すれば方向性に関 係なく転写活性が認められた 。以上のことから,N21boxはN―mycが 大過剰発現しているIMR32と発現レベルの低い或い.は殆ど発現していないIMR32以外の細胞で 転写制御が異なることが明らかとなった。
核 内DNA結 合蛋 白質 の 存在 性を 調べ る ため に:二本鎖N21boxをプ口一ブとしてHeLa或 いはIMR32細胞核抽出物 と反応させてゲルシフト競 合実験で調べた。DNA塩基配列特異的に 結合する蛋白質は両細胞で少なくとも2種類存在することが明らかとなった。更に一本鎖プラス N21boxにっいても同様 に行なったところ,塩基配列 特異的に結合する蛋白質は少なくとも HeLaで2種類,IMR32で1種類存在することが明らかとなった。
N21boxに特異的に結 合する核内蛋白質の分子量を 決定するためにUVク口スリンキング競 合実験を行なった。二 本鎖N 21boxに特異的に結合する核内蛋白質は,HeLa,IMR32細胞でl OOkDaと42kDaで ある ことが明 らかとなった。また,一本 鎖プラスN21boxにおいてHeLaで は42kDaと37kDaが,IMR32では42kDaであることが示唆された。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 有 賀 寛 芳 副 査 教 授 大 塚 栄 子 副 査 教 授 横 沢 英 良 副査 助教授 近藤博之
本学位論文申請者は過去6年 間に渡り,細胞癌遺伝子N ‑mycの発現調節機構を解析し,今 回それをまとめ,学位論文として提出した。
N一myc遺伝子はmycファミリ ーに属する癌遺伝子であり,神経系で発現するといった特徴 を 持 つ。 同じm.ycフ ァミ リーのーっであるcーmyc遺伝子はNーmycと異なり,殆 ど全ての 細 胞で発現するといった特徴を有し,その発現様式は詳細に解析されてきた。Nーmycに関し ては上述の神経系発現といった特徴は多く報告されてきたが,その分子的基盤は殆ど解明されて
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い なかっ た。
本 論 文の 第 一 章 で は まず , 本 来 のN―mycプ口 モ ー タ ー によ る 転 写 調 節 領域の 同定を 詳細に 行 った。 転写 調節領 域に関 しては プ口モ 一夕 ーのみ が明か にされ てい るだけ であったが,申請者 は まず転 写開 始部位 上流約1000塩基 対にエ ンハン サー を同定 し,次 に各種 欠損変 異株を作製する こ と で ―860― −797領 域 に 転写 工ンハ ンサー を同 定した 。この エンハ ンサ ーは神 経芽腫 細胞IM 32細 胞に よりそ の発現 特異性 を示 した。
第 二 章に お い て は 発 現調 節 領域 をSV40プ口 モー ター存 在下で 検討し ,上 述の領 域の上 流ー98 O一860に エ ン ハ ン サ ー を 認 め た。N―mycプ ロ モ ー ター 依 存 の 場 合 はエ ン ハ ン サ ―活 性 に は 方 向 性 ( 順 方向 ) を 要 求 した が,SV40プ口 モータ ー依 存性発 現には 方向性 に無関 係な 典型的 な エ ンハン サー 活性を 示し, 興味あ る点で ある 。また 異なっ たプ口 モー タ一存 在下で異なった領域 が エ ン ハ ン サ ー 活 性 を 示 す こ と は 転 写 制 御 機 構 を 考 え る 上 で 興 味 深 い 。 第 三 章に お い て は 第 一章 で 同定 したN− m.yc依存 性の本 来のプ 口モ 一夕― での発 現制御 を更 に 詳 細 に 解 析 し た 。 発 現 に はDNA配 列 に 結 合 す る タ ン パ ク 質 の存 在 が 重 要 であ る 。 そ こ で DnaseIフ ッ ト プ リン テ イ ン グ 法で タ ン パ ク 質結 合 領 域 を‑ 860〜−797領 域内の21塩基対 に同 定 した。 この21塩基対 (N21box)fまこれ だけで −860〜―797領 域のエ ンハン サ一活性を相補し,
活 性 は 非 神 経系 と 神 経 系 細胞 で は 異 な って い た 。 即ち ,神 経系のIMR32細 胞では 順方 向でか つ
―797から プ 口 モ 一 夕ー ま で の 配 列 が必 要 で あ っ たが ,非神 経系 のHeLa細 胞では 方向性 に関係 な く , か つN21boxを 間 の 配 列 非 存 在 下 で 直接Nーmycプ 口 モ 一 夕ー に 連 結 し ても 作 用 し た 。 こ の こ と は 神経 系 細 胞 で の発 現 はN 21boxとプ 口 モ 一夕 ーまで の配列 の両 方が重 要であ ること を 意味し てい る。
次 に 申請 者 は こ のN 21boxに 結 合 す るタ ン パ ク 質 を解 析 し た 。 ま ず二 本 鎖N21boxに は塩 基 配 列 特 異 的DNA結 合 タ ン パ ク 質 が 存 在 す る こ と を 示 し た 。 次 にN21boxプ ラ ス 鎖 にも 同 様 に 塩 基 配 列 特 異 的DNA結 合 タ ン パ ク 質 を 同 定 し , そ の 分 子 量 がHeLa,IMR32細胞 と も42,100 kDaで あ り ,HeLa細 胞 に は 更 に37kDaタ ン パ ク質 が 存 在 し , 上述 の 点 や 様 式の 違 い は こ れら の タ ン パク 質の違 いに依 存する こと を示唆 したー また7種類 の細胞 株を 使用し てこう した塩 基配 列 特異的 夕ン パク質 を解析 した。
こ う し た タ ン パ ク 質 のDNA結 合 性 とN21boxの エ ン ハ ン サ ー とし て の 活 性 は明 確 な 相 関 性 が あ り ,Nー myc遺 伝 子 の 発 現 制 御 に 関 し て 新 た な 知 見 を 提 出 し て い る 。 す でに これら の成果 は国際 的科 学雑誌に掲載または印刷中であり,すでに高い評価を得ている。
以 上 のよ う に , 本 論 文はN ‑myc発現 に関し て多く の新し い知見 を含 んでお り,博 士(薬 学)
の 学位を 与え るにふ さわし いもの と判断 した 。 ‑ 339―