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様式第1号

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海岸林再生の必携についての素材整理

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~ 目 次 ~

はじめに ... P3 Ⅰ 海岸林再生の技術的な知識 1 海岸林の生育環境の特徴と生育基盤の整備 ... P4 2 植栽の目的と植樹樹種 ... P6 3 苗木の種類と植栽方法 ... P8 Ⅱ 海岸林の自然を学ぶ 1 海岸林の植物たち ... P16 2 海岸林の動物たち ... P17 3 植栽したらモニタリングに挑戦 ... P17 4 モニタリングの種類と実践 ... P18 Ⅲ 海岸林再生活動組織の活性化に向けて 1 海岸林再生事業を行う組織づくり ... P22 2 海岸林再生活動組織のPDCAサイクル ... P23 3 海岸林再生組織づくりの事例〔1〕~庄内海岸砂防林における多様な協働の仕組み~ ... P26 4 海岸林再生組織づくりの事例〔2〕~宮城県が取り組む協働による海岸林再生事業~ ... P30 Ⅳ 地域や多様な主体の協働・連携と活動計画づくり 1 地域のニーズに合った事業計画のつくり方 ... P31 2 活動計画のつくり方 ... P34 Ⅴ 海岸林再生イベントの実施例 1 植樹前の啓発活動 ... P37 2 植樹をして、地域産業に触れる体験 ... P38 3 お土産づくり ネイチャークラフト活動 ... P37 4 その他の海岸林再生プログラム事例 ... P41 5 自分たちの手で育てる海岸防災林 ... P42

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~ は じ め に ~

民間参加による海岸林の再生活動が広く展開されるようになり、企業、団体、個人など様々 な方々が海岸に出向き汗を流しながら植樹や下刈りなどの保育に励んでいます。参加されて いる方々は、森林造成の経験の豊かな方がいる一方で、森林に係る作業が初めての方なども いますが、それぞれに自然豊かな緑の風景が海岸に戻る姿を思い描いていることと思います。 今回のように大規模な植栽基盤盛土工事個所に森林再生する試みは、林業の分野では初め ての経験であると言え、技術的にもこれまでの経験では想定できなかった事象も多く発生し ており、行政機関もある意味試行錯誤であると言えます。 実際に現場に足を運ぶと色々な技術的課題を目にすることも多くあります。例えば生産基 盤土質の良否の差異が大きくその状態に応じた植栽方法の対応が適切になされていない個 所、広葉樹の樹種の選定の難しさ(植栽結果からみて枯損等の割合が高い樹種があると思わ れる)、施肥の効果やその必要性の検証を要する箇所、夏場に近い時期に植樹したがその対策 が不十分のため松の枯損が多く発生したと思われる個所、排水溝を設置してあったが局所的 にぬかるんでいてマツの枯損が多く見られた個所、クズが法面から植栽地に多数侵入してい る個所、深植え等によると思われる根の発育不良の個所などです。 こうした事象の原因は定かでないが、海岸林再生活動に係わる参加者が遭遇するおそれの ある課題でもあります。 ある植栽個所では、土質が悪いことから、客土した上にマウンドを付けその盛り土が流失 しないようにマルチの措置をした植栽個所は、松が元気にすくすく伸びていた。この努力と 苦労には頭が下がる思いでありましたが、ここまでのきめ細かい対応を広く民間参加の方々 に求めることは厳しいものがあると感じられました。 また、活動団体の方々から話を聞く機会もありますが、多くの団体は海岸林の再生活動の 資金確保や組織の高齢化持続性などに悩みを抱えています。 更に楽しく、学びながら、次世代を担う子供たちや被災地に方々の参加も得ながら息の長い 活動を進めていくために、どのような方法があるかについても関心を持っている活動団体も 多くありました。 こうしたことに少しでも役にたつテキストができないか、それが未完成なものでも皆様の ご指摘など受けてブラシュアップしていけばいいのではとの想いで、これまで作成した資料、 知見を活用して宮城県森林インストラクター協会に「海岸林再生の必携についての素材整理」 をお願いしました。この未完成テキストは、今後更に現場の写真の充実や現場の検証推進、 皆様のご指導、協力を得つつ内容の整序や扱う範囲を拡大し、より使いやすい実用的なもの にしていければと思っています。忌憚ない建設的な意見を寄せていただけるようお願いしま す。 平成28年3月 公益社団法人国土緑化推進機構

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4 東日本大震災の大津波により、140kmを超える海岸林が大きな被害を受けました。 海岸防災林は、飛砂や潮風から農地や住宅を守り、人々の生活や生産の場を作るために欠 かせない大切な林です。 できるだけ早期に復旧させるため、みんなでできることをやっていきましょう。

1 海岸林の生育環境の特徴と生育基盤の整備

(1)海岸林造成地の自然環境 現在、津波や潮風から国土を守るために大堤防の整備が進んでおり、海からの強い潮風が直接 吹きつけることは少なくなってきていますが、大津波の被害を受けた地域では、相変わらず強い 風が吹いています。特に、宮城県の中南部では、冬場に「蔵王下ろし」と呼ばれる蔵王連峰から の冷たい風が吹きつけます。 また、風で舞い上がった飛砂が飛ばされてくるほか、高潮の際には塩分を含んだ水しぶきが風 に流されてきます。 このような過酷な生育環境の下で海岸林を育てていくわけですから、植栽をする前に、まず樹 木が育つための生育基盤を整備することが重要です。 海岸林造成地で舞い上がる砂 海からの強い潮風に曲がるクロマツ (2)海岸林植栽のための環境整備 大津波の被害に遭ったクロマツ林を調査したところ、周囲よりも土地が高くて地下水位が低く、 直根をしっかり伸ばすことができていたクロマツ林は、生き残ったものも多かったです。 逆に地下水位が高い場所では、水はけの悪さを嫌うクロマツは直根を十分に伸ばすことができ ず、多くのクロマツが根ごと津波に流されてしまいました。 そこで、現在行われている生育基盤整備の方法は、地位水から2.1m以上盛土をし、場所に よってはさらに素掘溝を掘って排水を促す設計になっています。 また、東西に防風柵を張り巡らせ、場所によってはさらに南北に静砂垣を設置して風害や寒害 を減らす工夫が施されています。

海岸林再生の技術的な基礎知識

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5 土地が高い場所のクロマツは比較的生き残った 盛土工事の様子 基礎工事完成 設置された防風柵 排水のための素堀溝 (3)表面化してきた生育基盤の問題点 広大な面積の盛土を行うためには大量の山砂が必要になるため、各地からさまざまな種類の土 が運ばれており、場所によって土質が異なってしまっています。また、当初は施工方法も統一さ れていなかったため、良質の山砂が運ばれたにも関わらず重機等で被圧されることがあり、土壌 硬度や排水性に問題が生じる場所が出てきています。 これらの問題はクロマツの成長不良に繋がる危険があり、また、植栽にかかる負担も大きくな ることから、改善を指摘する声が上がりました。 重機の轍が残り、排水が極めて悪い場所 礫混入率が高く、固くて植栽が困難

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6 これまで経験の少ないタイプの基盤整備工事を短期間で広範囲に実施しているため、いろいろ な問題が生じる可能性はあります。現在、国や各機関は排水性の改善について調査を開始し、改 善を試みています。 土壌硬度や排水の問題以外にも、栄養分の欠如から初期の生長不良を起こす心配があることな どが指摘されています。 大切なのは、基盤が粗悪で植栽する苗木の生育に支障が出る危険性がある場合には、そのまま 植えるのではなく、できる限りの改善を施す努力をすることだと思います。 また、枯死しなければ、土壌の経年変化によって基盤環境が改善される可能性も残っています。

2 植栽の目的と植栽樹種

(1)植栽の目的 海岸防災林の造成を目指しているわけですから、十分な樹高を持ち、飛砂、潮風、寒風、病害 虫等に耐えうる森林をできるだけ早く育て、防災機能を発揮させることが植栽の目的です。 海岸林はこのような役割だけでなく、魚つき、航行目標、景観保持、保健休養、レクリエーシ ョンや多様な生物を育む場等、たくさんの役割を担うようになります。 植栽した木がすべて育つのではなく、除伐をしたり、自然に淘汰されたりしていく中で、生き 残った木と、自然に侵入し海岸林の一員として育った木や草本が混交して強い多機能な海岸林を 造っていくのです。 (2)植栽の樹種 クロマツ 1-(1)で述べたように、海岸防災林は厳しい環境に適応していかなければならないので、植 栽できる樹種も限られてきます。 また、潮風や飛砂の影響を受けるので、海からの距離により生育できる樹種が異なります。 これまでのところ、クロマツが最も海岸防災林に適した樹種だと考えられています。クロマ 海岸林の役割

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7 ツは、劣悪な環境に強く順調に生育し、高木になることで高い防災機能を発揮します。 また、本来直根性なので、盛土して植栽すれば、津波への耐性も期待できます。全国的に、海 岸防災林にはクロマツが植栽されていることが多いですが、その理由は、いろいろな木を植えて も結果的にクロマツだけが生き残ってきたことと、クロマツに関しては植栽技術がひととおり確 立されてきたことによるものです。 一方で、クロマツの植栽についても大きな問題があります。それは、マツノザイセンチュウに よる「松枯れ」への対策が必要なことです。そこで、現在はマツノザイセンチュウに抵抗力を持 つと考えられている「抵抗性クロマツ」を栽培し、植栽しています。 (3)植栽の樹種 広葉樹 クロマツ中心に造成された海岸防災林にも、いずれはさまざまな広葉樹が入り込み、クロマツ とともに海岸防災林を形成していくことになります。実際に、大津波で失われる前の海岸防災林 には、たくさんの種類の広葉樹が生育していました。海岸林で広葉樹が育たないというわけでは ありません。 しかし、広葉樹を植栽する場合には、植栽場所と植栽環境に応じた樹種の選定と、植栽方法に さまざまな工夫が必要になり、対策を怠ると、枯損のリスクが大きくなります。 広葉樹を植栽する際の問題点は、海岸での植栽実績が少なく、植栽技術が確立されていないこ とと、苗木の価格、客土や土壌改良による植栽基盤づくり、支柱やマルチング資材等が必要な場 合が多く、材料費などからコスト高になる可能性があることです。 現在、企業・団体向けの海岸防災林再生事業においては、林野庁も宮城県も海岸部は抵抗性ク ロマツ(抵抗性アカマツ)を植えることとしています。内陸部ではこれらに加えコナラ、ヤマザ クラ、ケヤキ等広葉樹も認めている場所もありますが、広葉樹を植栽する場合には、樹種や植栽 方法をよく考えることと、植栽後の生育状況をしっかり観察していくことが大切です。 (4)植栽樹木の紹介

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3 苗木の種類と植栽方法

(1)苗木の種類 ①コンテナ苗 細長い栽培容器で育成し、培地内に伸長した根系によって培地を拘束してものです。小型軽量 であることから育成、貯蔵・運搬、植栽能率が良く、他の培地付き苗に比べて根系の変形が少な いという2つの利点があります。 現在抵抗性クロマツで主流となっているマルチキャビティコンテナ苗は、根巻き防止のリブと、 空気根切の方式によって活着の良さと直根の生長スピードの速さが期待されています。 ②はだか苗 露地(畑)で生産した苗木です。根に土がついていない状態でも苗木の品質に影響がなく、露 地栽培の過程でたっぷり養分を苗木の中に蓄えているので、植えてからの生育がとても良く、適 期に植えれば活着率が高いのが特徴です。 根がむき出しの状態であるため、根を乾燥させないようにして植栽することが大切です。 (2)植栽の時期 苗の生長が止まり寒さが厳しい真冬と、真夏は避けて下さい。 マツ苗の場合、最適期は4月、5月、広葉樹の場合はできれば葉が開く前の3月半ば~4月が 適期で、10月半ば~11月頃の秋植えも可能ではあります。しかし、秋植えの場合は、苗木が 休眠期に入り、根が落ち着かないまま強風害や寒害などの危険が大きい冬場に入るので、春植え

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9 よりも枯損のリスクは高まると考えられます。 コンテナ苗の場合は、6月や、秋植えも可能であるようです。 ベストな植栽時期は、樹種、樹高や場所や植栽基盤の環境で異なってくるので、苗木屋さんに 相談することをお勧めします。 【マルチキャビティコンテナ苗の植栽後の根の状況】 ※マルチキャビティコンテナで育成させると、ポット苗で発生しやすい根巻き現象を抑制することが可 能で、植栽後の健全な生長が期待されています。 マルチキャビティコンテナ苗 圃場の状況 植栽後の 根の生長 コンテナ苗 2年間 ポット苗

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10 (3)植栽方法 (抵抗性クロマツ コンテナ苗) 【植樹資材】 被覆材(麻製被覆材) 防風板 バーク堆肥 土の乾燥・飛砂・流出を防ぎます。麻を使用 した被覆材は市販されています。 間伐材使用の衝立 風の強い方向に設置 初期生長を良くするために使用 植栽基盤に予め混ぜ込む 固形肥料 苗木保水材(吸水性ポリマー) 植栽位置目印 初期生長を良くするために使用 粒の大きな肥料が使いやすい。 乾燥が続く海岸植栽地では特に大切で す。活着率で高い効果を発揮しています。 石灰、割り箸、竹などが 使用されています。 その他、支柱を立てると、強風対策になるほか、維持管理の草刈作業の際、苗木を誤伐する危 険が少なくなります。 【植栽の手順(抵抗性クロマツコンテナ苗)】 植栽の方法の例について説明します。あくまで一例ですので、植栽する環境や活動予算に応じ てアレンジして下さい。 ① 植栽位置のマーキング作業1 苗木の配置は、まっすぐ並べる方式と千鳥植え(互い違 いに植える方法)がありますが、植栽後の下刈り等の維持 管理のことを考えると、まっすぐ並べるほうがお勧めで す。スケールや印を付けた水糸等をまっすぐ張って、目印 をつけていきましょう。 標準本数の0.1haあたり500本植栽だと、約1. 4m間隔で植栽することになります。 まっすぐ正確に位置出しをする

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11 ②植栽位置のマーキング作業2 植栽位置のマーキングについては、支柱の場合には予め 立てておくことができますが、支柱を立てない場合には、 割り箸や石灰で印を付ける方法があります。 複数の樹種を植栽する場合、樹種ごとに割り箸を色わけ しておくと便利です。 ③植栽穴掘り作業 植栽穴を掘る道具は、唐鍬・スコップ・植栽器などがあ ります。土が固い場合は、そのまま植えると活着や生育が 悪くなる恐れがあるので、唐鍬などでよく耕しましょう。 植栽器は手間が省けて便利ですが、土が締め固まってい る場所で使うと、植穴の周囲の土をさらに固くしてしま い、苗木の根張りが悪くなる危険があります。 ④苗木を苗木保水材に浸す 大きなバケツなどに予め必要な量の苗木保水材を作っ ておき、根を浸します。海岸林植栽の場合にははっきりと 効果が期待できる大切な工程です。 苗木の形状に関わらず、雨の少ない時期には特に大切な 作業です。 ⑤苗木を植える1 土をよく耕したら、苗木の鉢の大きさよりも少し深い穴 を掘って、苗木を入れます。苗鉢の表面と地表はほぼ同じ 高さにしますが、表土の飛散や流出を考慮して、苗鉢が2 ~3cm土に埋まるようにします。 せ すべての植栽位置に目印をつける 土壌環境に合わせて道具を選ぶ 根鉢を苗木保水材に浸す 高さに気をつけて、しっかり植えつける

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12 ⑥苗木を植える2 苗鉢が周囲の土とよく密着するように、しっかりと押し固 めて隙間を完全に無くします。苗を引っ張っても、簡単に は抜けないようにしっかりと植え付けてください。 【補足事項1】裸苗を植える場合 裸苗を植える場合も、基本は同じです。 ○根を乾燥させないようにする。 ○根が傷ついたり、地表に出たりしないように丁寧に植える。 ○しっかりと踏み固める といった点を注意しましょう。 裸苗は根の扱いに特に注意しましょう。 裸苗の場合は、しっかりと踏み固めます。 【補足事項2】肥料を入れる場合 植栽木から20cmくらい離れた箇所3箇所を選び、その位置が正三角形になるように穴を決め少 し掘ります。 手でしっかりと押し固める

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13 固形肥料を3か所の穴に入れて、埋め戻します。

(4)植栽時の留意点

1-(3)で述べたように、植栽する環境や植栽基盤は一定ではありません。また、広葉樹を植栽 する場合には、樹種に応じた植栽基盤を造る必要があります。特に気をつけたい点について記載し ます。 ①極端に排水が悪い 素掘溝が入っている場合でも、排水が悪いことがあります。雨後などに現地を確認し、排水が悪 い場所があれば、素掘溝を増やす必要があります。 また、植栽基盤をマウンド状にし、初期生長時の根の位置を高くしてしまう方法もあります。 マウンドは排水が悪い場所で効果を発揮しますが、風や雨によってマウンドの土が削られ、根鉢 が出てしまうので、被覆材(マルチ)を施す必要があります。マルチは麻製のもののほか、被災し たマツをチップ状にしたものなども有効活用されています。 素掘溝+マウンドの植栽基盤 マウンド植栽にはマルチが欠かせない ②植栽基盤が固い 盛土地はさまざまな原因で被圧されることがあり、スコップが立たないほど固い場所もあります。 このまま植栽器などを使って植栽すると、根張りが悪く生育不良を起こす危険性も指摘されている ことから、植栽前に畑を耕すように土壌を柔らかくし、さらにバーク堆肥や腐葉土やピートモス等 の土壌改良剤を混ぜ込んで再硬質化を防ぐ必要があります。 ③極端に風が強い 静砂垣が設置されておらず、また周囲に残存した林がない場所などでは、所によってはとても強

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14 い風が地面上を吹き抜ける場合があります。 特に防風柵から離れた中心部では、寒風害や幹曲がりを起こすだけでなく、飛砂によって樹皮が 削り取られて枯損する被害まで報告されています。 風を弱める方法はさまざまですが、1本ごとに防風用の衝立を設置している団体もあります。コ ストと手間がかかりますが、設置場所のマツは比較的まっすぐ伸びているので、効果はあるようで す。飛砂被害の防止としては、被災マツをチップ状にしたものをマルチ材として敷き詰める方法が 良く行われていますが、コストや手間が少ない割に、効果が出ている場所もあります。 オリジナリティのあるよしず型衝立 被災マツをチップ状にしたものを活用 ④栄養分の欠如 順調な初期生長を促すためには、養分要求の少ないクロマツでも施肥の必要があります。施肥の 方法としては、植栽基盤にバーク堆肥等を混ぜ込む方法と、植栽後に苗木の周囲に「まるやま1号」 等の固形肥料を埋め込む方法と、苗木保水材に液体肥料を混ぜ込む方法があります。 なお、養分要求度の高い広葉樹植栽の場合は、植栽基盤にバーク堆肥等の土壌改良剤を多めに混 ぜ込んだ上に、肥料切れを起こさないように当分の間追施を続ける必要があります。 (5)植栽後の維持管理について 海岸防災林の再生は、植栽をもって終わりではありません。健全な森林になって機能を発揮する ようになるまで、植栽木の生長に合わせた適切で長期的な維持管理が必要です。 ①下刈り作業 大抵の植樹地では、植樹1年目から雑草が生えてきて、下刈りの活動に追われています。 特に、2年目以降は、アカザ・ヨモギ・オオマツヨイグサ等の大型雑草やニセアカシア・アカ メガシワ・ノイバラ等の侵入樹木に被圧されるとともに、クズ・フジ・ヘクソカズラ・スイカズ ラ等のつる性植物に巻き付かれ、生育不良や、幹曲がりや幹折れを起こす危険性が大きくなりま す。5年目くらいまでは年に2回~3回下刈りが必要な場合が多く、生長状態によっては、6年 目以降も年1回の下刈りを行う必要があります。 下刈り作業を怠ると、雑草はどんどん栄養を蓄え、年々勢力を拡大します。 雑草の繁殖は、自分たちの植樹地の問題だけでなく、隣接地や海岸防災林全体に迷惑をかける ことになります。植栽したからには責任をもって、苗木が大きくなるまで丁寧な下刈り作業を続 けましょう。

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15 ボランティア団体による下刈り作業 頭数がいると、草とり作業も可能 下刈りを怠って雑草に埋まってしまった植樹地 植栽地隣接地で勢力を拡大するニセアカシア ②施肥作業 初期生長を促し、早く根を張らせて頑強な苗を育てていくためには、1回か2回の追肥を行うこ とが望ましいです。特に広葉樹の場合には、数年間は必ず実施する必要があります。 ③本数調整 密度管理 植栽した苗木をすべて育てるわけではありません。最終的に大径木を中心とした理想的な防災林 を造るためには、もやしのようなひょろひょろした樹形にならないように本数調整が必要です。 自然淘汰に任せて放置しても、何らかの林ができるかもしれません。しかし、不健全な林になっ て防災機能を発揮できない可能性があります。本数調整の方法については、生長度合い、樹種、植 栽密度などによって異なるので一概には言えませんが、減らすべき時にしっかり伐採して減らして いくことが大切です。 ④落ち葉かき 純粋なマツ林として育てていくためには、むしろ土壌が富栄養化することは望ましくなく、植栽 木がある程度成長し枯れ葉を落とすようになってからは、1~2回の落ち葉かき作業を行うことが 有効です。 マツと共生しマツの生長を助けるキノコたち(外生菌根菌)も、地表の落ち葉堆積層が厚くなる と、勢いが無くなります。 マツと共生するショウロ、シモコシ、ハツタケ、アミタケ、ヌメリイグチ、チチアワタケ等のキ ノコ(外生菌根菌)が多く発生する環境になればベストな状態と言えます。マツと共生するキノコ は食用にされるものが多いのですが、乱獲するとダメージが大きいので、キノコたちも保護してい くことが大切です。

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1 海岸林の植物たち

海岸で見られる植物は、塩分・強光・乾燥・強風・土壌移動等の海岸特有の厳しい環境に適応し た種と言えます。海岸でしか観察できない植物種が多く、以下のような希少植物も観察できます。

海岸林の自然を学ぶ

主要な希少植物

シロヨモギ オミナエシ オカヒジキ ハマボウフウ ハママツナ ハマナス ハマサジ センダイハギ (写真提供 平吹喜彦)

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2 海岸林の動物たち

海岸林ではタヌキ、キツネ、コウモリ類など里山でもみられる哺乳類が生息していました。鳥類 では溜池や用水路、運河に飛来するガン・カモ類、サギ類等の多くの水鳥が見られ、ハヤブサやミ サゴ、トビ等の猛禽類や小型ものから大型のものまで多くの鳥類は海岸林を営巣地にしていました。 動物や鳥は海岸林に植物の種を運び、その排泄物や死骸は土壌を豊かにします。海岸林を復活させ ることは、これらの生き物たちに棲み処を提供し、生態系を豊かなものにし、生物多様性を高める ことにつながります。 宮城県の東松島市や岩沼市などの海岸では、生き残ったマツにミサゴが営巣する姿を多く見かけ るようになりました。海岸防災林の植樹活動においても、これらの大切な動物たちに十分に配慮し た活動を行っていくことが大切です。

3 植栽したらモニタリングに挑戦

海岸は乾燥しやすく砂や土壌が移動しやすいため、植物の生育にとって厳しい環境にあります。 かつての海岸林も長い時間をかけて失敗を繰り返しながら造成されてきた歴史があります。今回、 新たに植林された樹木も、この厳しい環境と盛り土という新しい土壌の上でどのように育ってゆく のかを見守っていく必要があります。同時に海岸林が復活する過程で、もともと生育していた生き 物たちの復活も確かめる必要があります。植樹と同時に、植栽木や動植物のモニタリングを行うこ とは、海岸の厳しい環境で森林を再生させ生態系を復元させる技術を発展させることができます。 【モニタリングの目的】 海岸林のモニタリングは、以下の点を明らかにすることを目的とします。 (1)植栽した樹木が枯死する割合と成長速度を測り、森林の回復状況を知る (2)新しく生えてくる希少な植物や動物の生育を記録し、生態系の回復状況を知る 【ボランティア団体が行うモニタリング事例】 (1)在来植物の調査 特に希少植物、絶滅危惧種等の回復調査 (2)外来種侵入の調査 (3)植栽木の成長を阻害する植物(雑草等)の調査 (4)枯損木の原因の調査 (5)成長記録(樹高・幹の太さ・根の伸長度合い等) (6)病害虫被害 苗木の生育状況調査 植物の侵入調査 枯損木の原因調査

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4 モニタリングの種類と実践

(1)調査の準備 以下の調査用具を準備します。 ① 野帳(記録用紙) ② 地図(植栽地の場所がわかるもの) ③ GPS(できれば) ④ 巻尺(30m以上)、最低1本、できれば3本 ⑤ 折れ尺、あるいは スチールメジャー 数個 ⑥ ノギス(樹木が2m以上に成長した場合) ⑦ 樹高測定用ポール(樹木が2m以上に成長した場合) ⑧ 筆記用具 ⑨ 図鑑など(動植物の名前がわかるもの) (2)調査地の選定と設定 ここでは植栽した場所にモニタリングを行う調査プロット(調査地)を設定します。モニタリン グを行う場所は一度設定したら原則として同じ場所を毎年同じ方法でモニタリングします。 ①モニタリング調査地の選定 <調査地を選ぶ> 一つの調査プロットは、各植栽区画に1か所ずつ、4m×20mくらいの場所を必要とします。 格子状に植えられた樹木を利用して調査地を作るので、そのくらいの広さで、植林地の中で最も典 型的な場所を選んで下さい。全体がほぼ同じような状況なら、中心に近い場所を選びましょう。 <調査プロットに名前を付ける> まず、調査プロットに名前を付けましょう。他の調査地と重複しないユニークな名前がいいです。 場所だけでなく、植えた団体や植えられた年などがわかる名前もいいです。たとえば、「名取プロッ ト2014-1」とか、「荒浜プロット-松を植える会-3」というような名前でもいいです。 <場所を地図に記す> 調査地を地図上に記録しましょう。国土地理院の25,000分の1の地形図や、森林管理署の 森林施業計画図で正確な場所を地図に印をつけ、調査地の名前を書き込みます。もし、GPSがあ れば、GPSで測定した座標も記録しておきましょう。 ②調査地の設定 海岸林の植栽では、標準で1.4m×1.4mの格子状に樹木が植えられています。1.8m× 1.8mの場合や、その他の間隔で植栽される場合もありますが、ここでは1.4m×1.4m格 子で植えられている場合を中心に説明し、そのほかの場合を補足的に説明します。 <1.4mあるいは1.8mの格子で植栽されている場合> 1.4mの格子で樹木が植栽されている場合には、図1のように調査地を設定します。それぞれ の格子点にある樹木に番号をつけて成長を測定し、植生はそれぞれの1.3格子のコドラートで行 います。2番の樹木と32番の樹木の位置に杭を打ち、再び調査に来た時の目印にします。GPS

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19 がある場合には、この2点で座標を測定します。 調査の際には、巻尺3本を並行にひき、プロットの境界が分かるようにすると分かりやすいです。 巻尺が1本しかない場合には、中心線のみ巻尺を引きましょう。 1.8m格子の場合も、1.8mの格子を単位として、同じように設定してください。 (図1)1.4m×1.4mの格子で植栽されている場合の調査プロット。各格子の交点で樹木が植栽されている。 そのうちの20マス分を調査プロットとする。赤丸は、調査対象となる樹木、赤い番号は調査対象となる樹木の番号。 各1.4m 四方を一つのコドラートとして10個(色のついた部分)で植生を調査する。各コドラートにA1~B 10と名前をつけて区別する。 (3)植栽木の枯死状況と成長のモニタリング ①植栽木の枯死状況 まず、それぞれの番号の樹木が生きているか枯死しているかを確認します。枯死している場合に は、その旨を記述します。 生きている場合には、葉が変色していないかどうか、幹が折れていないか、動物に食べられたり していないかを観察して、コメントを記録します。 植栽木が枯死した場合には、補植(新しい樹木を植えなおす)する場合があります。そのような 場合には補植木であることが分かるようにコメントを記録します。 ②樹高の測定 樹木が生きている場合にはその高さと太さ(高さが2mを超えている場合)を測定します。高さ は折れ尺、スチールメジャーなどを用いて、地際から生きている最も高い位置までを測定します。 2m以上に成長した場合には、樹高を測定するためのポールを用いると便利です。 斜めになった樹木の高さは、メジャーを垂直に立てて、地際からもっとも高い部分までを測定し ます。測定は、センチメートルを単位として測定してください。ミリメートルの単位まで測定する 必要はありません。樹高が2mを超えたら、センチメートルの単位で測定するのは難しくなるので、 5cmくらいを単位として測定してかまいません。 先が枯れた樹木の場合は、生きている部分で最も高いところまで、折れた樹木も生きている部分 で最も高いところまでを測定します。斜めになったもの、先枯れしたもの、折れたものは、その旨 をコメントとして、野帳に記録します(図3)。 【図1】

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20 【図3】苗木の状態に応じた樹高の測定方法 それぞれの状況に応じて、生きている部分で最も高い所から地際まで(矢印)を測定する。 ③太さの測定 樹高が2mを超えた場合には、その幹の太さを地際から1.3mの高さでノギスを使って測定し ます。太さはミリメートルの単位で、直交する2方向で測定します。 【図4】幹の太さの測り方。地上1.3mの部分で幹の太さを測定する(左図)。幹はノギスを 用いて、直交する2方向でミリメートルの単位まで測定する(右図)。 (4)植生の変化 植林された海岸林には、植えた樹木以外にも樹木が生えてきます。また、さまざまな草本植物も 生えてきます。こうした植物は、海岸林が再生するとともに生物多様性の復活する様子を示すもの として、同時にモニタリングします。この測定は、それぞれのコドラートごとに行います。 ①侵入した樹木 マツなどの植林した樹木以外の種類が生育しており、その高さが30cmを超えた場合には、(3) で説明した方法と同じ方法で、その高さと太さ(樹高が2mを超えた場合)を測定します。 ②希少な草本植物 草本植物でも、海岸地域に特有の希少な植物が生育している場合があります。できれば、表に挙 げた、絶滅危惧種だけでも、コドラート内で見られるかどうかを調査し、それぞれの種ごと、コド ラートごとに高さを記録してください。

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21 表 1.海岸林にみられる可能性のある希少な植物。 科名 種名 ナデシコ ハマナデシコ アカザ ハマアカザ オカヒジキ マツナ ハママツナ ケシ キケマン バラ ハマナス マメ オオタンキリマメ センダイハギ モチノキ モチノキ グミ マルバグミ オオナワシログミ セリ ハマボウフウ マルバトウキ イソマツ ハマサジ ムラサキ スナビキソウ シソ ナミキソウ オミナエシ オミナエシ キク カワラヨモギ シロヨモギ オナモミ ユリ ヒメイズイ イネ キタメヒシバ ネズミノオ カヤツリグサ ノゲヌカスゲ マメスゲ イガガヤツリ ラン ギンラン ヨウシュンラン キンラン ササバギンラン クゲヌマラン ハマカキラン ジガバチソウ マイサギソウ ヒトツボクロ

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1 海岸林再生事業を行う組織づくり

海岸林再生事業に限ったことではありませんが、活動を行う組織を作るために検討しなければな らない課題が7つあります。ここでは海岸林再生活動を例に、具体的な課題について述べます。 どこで活動するか(Where) できるだけ活動しやすい条件が整った場所を探しましょう。参加者が集まりやす く、苗木が育ちやすい環境で、地域の方々の協力が得られそうな場所が理想です が、現実は厳しいものがあります。もちろん、自分たちがやりたい活動が可能か どうか事前に確認しましょう。 なぜ活動するのか(Why) 海岸防災林の再生に自分たちも協力していこうという目的は当然ですが、仲間を つくる、健康になる、子どもたちの自然体験につなげる、将来地域から愛される レクリエーションフィールドを造る等、多面的に目的を設定しましょう。 どのような活動を行い、どのような海岸林を目指すか(What) 海岸林造成の沿革や先人たちの想い(歴史性)、育んできた郷土の生活(文化性)、 機能・役割(利便性)、クロマツ海岸林の意義(必然性)、再生を契機に新たに付 加したい価値(潜在性)など、目指したい海岸林の姿を考えます。 いつから、どれくらいの期間活動し、どうつなげるか(When) 当面5年間(短期)、10年間程度(中期)といった時間尺を想定して、目標年次 を段階的に考えます。自分たちでできることと、未来を担う方々に引き継がなけ ればならないことを事前に考えておきましょう。なお、10年を超える長期の活 動期間を想定する場合には、公募先の国・県などと相談して下さい。 誰がどのような役割を果たしていくか(Who) 森林所有者、行政機関、地域住民、教育・研究機関、支援財団、企業、活動グル ープ(NPO)など、活動に関わっていく方々をリストアップし、各主体の役割 を明らかにします。みんながWinWinになれる実施体制を目指しましょう。 どのような手段で活動していくか(How) 植栽活動計画、植栽した木の保育計画、植栽地を活用したイベント実施等の事業 計画をつくります。無理がなく、できるだけ大勢の方々が力を発揮し楽しめる計 画をつくりましょう。地域の方々の要望も取り入れるように心がけましょう。 どんな経費が見込まれ、どのように資金を集めるか(How much) 植栽準備費、植栽費、イベント経費、維持管理費などがかかってきます。自前で できることと、外注が必要なことをわけて試算しましょう。海岸林植樹活動には いくつかの助成システムがあるので、助成財団等に相談してみましょう。 これらの課題についてよく考え、組織の活動目的や活動内容を決めていくことになります。特に大 切なことは、地域や社会のニーズをよく把握することと、無理のない事業計画をつくることです。

海岸林再生活動組織の活性化に向けて

課題1 課 題 2 3 課 題 3 3 課 題 4 3 課 題 5 3 課 題 6 3 課 題 7 3

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2 海岸林再生活動組織のPDCAサイクル

組織は、 というPDCAのサイクルを年々繰り 返しながら、「ヒト」「カネ」「モノ」の 組織の3つの活動要素の視点から活動 内容を検討し、問題点や課題を克服して いくことで、組織の活動水準を高めてい くことができます。ここからは①~④に ついて3つの活動要素の視点から考え ていきます。 「 ヒ ト 」 の 視 点 (1)組織をつくる(Plan) 海岸林に興味・関心を持つ有志を集めていきます。海岸林には所有者や利用者、管理者など 関わっている組織や人々も多いので、広い範囲に呼びかけを行うことが重要です。メンバーを 集めることが、組織活動の出発点となります。 (2)組織を動かす(Do) 自分たちだけで活動することは不可能なので、連携・協働を積極的に行うことで、マンパワー を得ていきます。また、その力を活かすためには、事業の進捗状況に適したメンバーの組織化 や、関係者との密接な連絡・調整が欠かせません。 (3)組織の運営を確認する(Check) 見直すポイントは、の4つです。 ①メンバーのコミュニケーション。 会員同士の情報交流は積極的に、効果的に行われているかどうかです。行われている会議の 方法や時間に問題がないかどうかや、インターネット活用も視野に入れた情報共有や交流を 考えていかなければいけません。 ②外に開かれた組織かどうか。 組織の活動の実態や、活動の目標を達成するための取り組み(事業報告)、組織の安定度(事 業収支)は支援者などに十分に伝わっているのか。伝える方法を含めた見直しが必要です。 ③他の組織との連携はどうか。 他の組織との連携によって、活動の質の向上や、幅を広げることに繋がります。そういった 組織との連携は十分に取れているか。または今の事業に適切な組織は得られているのかを確 組織との連携は十分に取れているか。または今の事業に適切な組織は得られているのかを確 認します。 (4)活動参加者のモチベーション。 年が経つにつれて、参加者の熱意や持続力が弱まってきます。モチベーションや海岸林への 関心を維持できるような活動の工夫を、参加者の声を参考にしながら行います。 ①組織をつくる(Plan) ②組織を動かす(Do) ③組織の運営を確認する(Check) ④組織を見直す(Act)

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24 ④活動参加者のモチベーション。 年が経つにつれて、参加者の熱意や持続力が弱まってきます。モチベーションや海岸林への 関心を維持できるような活動の工夫を、参加者の声を参考にしながら行います。 (4)組織を見直す(Act) ボランティア組織のほとんどに共通してくる悩みが、メンバーの高齢化と新規メンバーの獲 得です。解決策としては主に次の3つが挙げられます。 1つ目は、ボランティアセンターなどを活用し、またはイベントや講座の実施等により人材 の確保や他団体との連携を図り、活動の充実、組織力強化などにつなげることです。 2つ目は、メンバーの知識や技術を高め、「質」を向上させることで人材の育成を行ってい くという方法です。 3つめは、社会のニーズを的確に捉え、社会の関心が高い事項を積極的に活動に取り入れる ことで賛同者を増やしていくことです。 3つを同時進行で行うように心がけ、人材やスキルを豊富にして、長期にわたって活動でき る組織を育てていきましょう。 「 モ ノ 」 の 視 点 (1)組織をつくる(Plan) 組織の活動や目標の指針となるのが「海岸林再生計画」です。 「現状調査」「概況」「環境」「利用」の4つの観点を元に喪失した海岸林の問題点を出して いき、課題と照らし合わせることで、作成していきます。 この「海岸林再生計画」が、組織が主体的に担う部分である「事業計画」につながります。 事業計画の中では、植栽や保育活動だけではなく、観光の振興や子ども達の健全育成を図る 活動といった、組織の活動を目に見えるモノやサービスにして社会に提供していく方策につ いても考えていかなければいけません。 (2)組織を動かす(Do) モノの視点での「Do」で大事なことは「植栽」「保育」「推進事業」の3つです。 ○植栽 重要な点は、植栽基盤のチェックから始まる植栽計画です。調査した結果をもとに、最善の 植栽方法を考えましょう。 ○保育 植栽1年目から必要になる下刈り活動のほか、植栽木の成長に応じて、つる切りや枝打ち、 除伐、本数調整伐が必要となります。 ○推進事業 海岸林の重要性を伝える活動が、これからの再生活動を続けていくために必要になってきま す。そのために海岸林を整備し続けてきた先人たちの技術や想いなどを伝える場をつくった り、子ども達に学校の学習の中で学ぶための機会を設けたりすることが重要です。 国土緑化推進機構で作成した「東北海岸林ものがたり」を学習教材として利用すると良いと 思います。

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25 (3)組織の運営を確認する(Check) 活動をする上で「植栽木の状況」と「情報」を常に確認しておきましょう。 海岸の厳しい環境では、植栽木にいつ何が起きるか分かりません。定期的なチェックと定期 的な生育確認を行い、状況に応じた保育活動を続けていきましょう。 「情報」の面では、活動参加者の募集、寄付を呼び掛けるなど、広報の目的や対象は常に異 なります。情報を伝えたい人達に必要な情報が届いているかを確認し、情報発信の仕方を常 に研究していきましょう。また情報発信だけではなく、協働・連携を上手に行っていくため には、外からの情報を受信する体制が整っているのかも確認することも大切です。 (4)組織を見直す(Act) モノにかかわる改善点としては、海岸林再生と推進事業、この2つの中長期計画をつくるこ とが大切です。 海岸林再生についていえば、短期計画を見直しながらの活動になりますが、その中で「5年 以内」、「10年以内」、「10年以降」というような時間尺に分けて、具体的な取り組みの内 容とスケジュールを示しておくことで、短期計画の修正に見通しを持つことができます。 また、ニセアカシアなどの広葉樹がマツの植樹地に侵入して、マツ林を衰退させないために も早期の対策を行っていきましょう。他にも、マツ材線虫病によるマツ枯れへの備えについ ては、発生したらすぐに対策ができるように、定期的なチェック体制が重要です。 推進事業については、海岸林再生活動が本格化してきたことで様々な団体や企業が海岸林再 生に関わるようになってきました。また行政や研究機関などでは海岸林再生についての研究 も進んでいます。海岸林に関わっているさまざまな主体との情報交流は、推進体制を見直す あるいは活動をより良いものにしていく上で不可欠となっています。ワークショップや交流 会などを積極的に行い、推進体制の在り方を考えていくのも大切なことです。 「 カ ネ 」 の 視 点 (1)組織をつくる(Plan) カネの面からの組織づくりの出発点は「事業予算」です。事業予算は事業計画を行う裏付け となります。収入(経常収益)と支出(経常費用)からなる予算書を作成しましょう。モノ の視点にもつながるが、メンバーからの会費や助成金だけではなく、事業収益による財源の 確保を行えるようにしたいところです。 (2)組織を動かす(Do) 末永い活動の継続のためには、会費・寄付・事業収入のバランスができるだけ偏らないよう にすることが大切です。 戦略的に寄付金を集める際には、寄付集めを一過性に終わらせないためのフォローが必要で す。成果やアンケート等の報告をしっかりと行い、満足してもらうことで繰り返し寄付をして もらえるように働きかけを行っていきましょう。

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26 (3)組織の運営を確認する(Check) 事業年度が終わった段階で、活動計算書を作成し、組織の収支を確認します。単年度では 、 当期経常増減額をプラスに、中長期的にも、次期繰越財産額を大きく減らさずにプラスで維 持することが組織の安定運営を可能にします。 (4)組織を見直す(Act) お金の管理を適切に行うために、行政やNPOセンター等が実施する法人会計講座の受講 や、会計ソフトを活用することがおすすめです。 助成事業、収益事業では、収支報告と報告書作成など一定の報告義務が課せられているので、 事務力のある人材の育成と、無理なく事務が行える体制づくりを行うことが大切です。

3 海岸林再生組織づくりの事例〔1〕

~庄内海岸砂防林における多様な協働の仕組み~

<出羽庄内公益の森づくりを考える会>

ここでは、ひとつの大きな目的に向かって多様な主体が協働する事例として、「出羽庄内公益の森 づくりを考える会」さんが発足した背景や経緯から成果までを紹介いたします。 (1)庄内海岸防災林の沿革 中世頃までは、庄内の海岸は広葉樹の森が海岸線を覆っていました。戦国時代や江戸時代に初期 にかけて戦乱や年貢の塩を作る薪や木材用に森の木は繰り返し乱伐されました。やがて広葉樹の森 は消滅し、浜や砂丘からの強風は飛砂を伴い家や田畑、河口も埋まってしまいました。 砂でせき止められた川は氾濫を繰り返し、「飛砂」と「洪水」の二重苦に悩む時代を迎えました。 砂丘にもう一度森を取り戻すべく植林が約300年前頃から始まりました。様々な樹種を植え、 試行錯誤の結果、海岸の厳しい環境に耐える「クロマツ」を見出し、江戸時代中期頃から本格的に 植林を進めました。 当時の庄内藩は「植付役」を置くとともに、何人かの先覚者が援助し植林を推し進めました。長 年の努力が実り、次第に松林が形成されていきました。 第二次世界大戦時には、燃料の収奪や開墾、松根油の採取のためマツが伐られ、再び砂防林の荒 廃が進み、飛砂の猛威に苦しめられました。戦後、砂丘地の最前線は国有地となり、国による大規 模な植林事業が進められた結果、江戸時代から続いてきた植林事業は昭和40年代にようやく完成 しました。 月日が過ぎ、「飛砂」と「洪水」の苦しみも忘れ去られ、港湾事業や宅地造成に伴う砂採取のため 大量の松林が伐採されもしました。昭和50年代中頃になるとマツノザイセンチュウの被害が拡大 し、松林の荒廃に拍車をかけました。さらに、平成10年11月に庄内地方では一晩に40cmほ どの大雪に見舞われ、大量のマツの幹や枝が折れました。このことが、多くの住民が庄内海岸砂防 防災林の重要性に目を向けるきっかけとなり、庄内海岸砂防防災林の保全活動が始まりました。

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27 (2)出羽庄内公益の森づくりを考える会のあらまし 出羽庄内公益の森づくりを考える会は、山形県森林整備課の呼びかけにより、2市1町の関係す る行政、教育、森林ボランティア、林業関係の組織で構成され、平成14年に発足しました。考え る会の目的は、同じ立場で意見と情報を交換し、庄内砂防林の保全を考える場とすることにありま す。これまで12年間にわたる活動を通して、参加組織が増え、松原再生計画をつくり、庄内砂防 林に向けられる開発のインパクト、砂丘の砂採取などの問題を抱え、解決の糸口を見出しつつ、考 える会の中で粘り強く議論を戦わせながら保全に向けて着実な歩みを続けています。 ①設立の背景 平成10年から遊佐町・酒田市の小学校では枝打ちなどの森林整備活動が始まります。この年、 小学校では総合的な学習の時間が創られました。平成13年、酒田市にわが国では初めて公益学を 教える東北公益文化大学が創立しました。庄内では、公益の象徴がクロマツ林です。この年は、日 本海岸林学会が発足し、山形大学農学部に事務局を置き、中島勇喜先生が初代会長に就任しました。 また松原友好市町交流会議(松原サミット)が酒田市で開催されるなど、平成13年は、海岸林の 活動が大きなうねりへ育つ契機の年といえます。 ②構成と役割 考える会は、行政機関(8)、教育機関(12)、森林ボランティア団体(5)、林業関係団体(2) の合計27組織で構成されます。当初の構成メンバーに、小学校6校、鶴岡市から西郷砂防林維持 管理協議会などが加わりました。 運営は、会則にもとづき、「歴史的遺産である庄内砂丘の海岸林を関係団体等が連携し、一体的か つ健全に保全して未来に引き継ぐための方策について、話し合うことを目的とします。 この目的を達成するために次のことを行います。 ○関係団体が実施している活動の情報交換、連絡調整 ○海岸林保全の方策についての意見交換 ○「出羽庄内公益の森整備事業」の事業計画についての検討 意見交換等の会議は、年3回開催を原則としています。 会則の第9条は発言の自由を定め、「会議ではその所属に捉われず、平等を原則として自由公正に 発言ができる。」として、参加団体は皆対等の立場で意見を述べることを大切にしています。 協議内容に応じた専門部会を設けることにしており、現在、松原再生計画推進部会が設置されて います。考える会は、平成18・19年度に(財)日本緑化センターの「日本の松原再生事業」に 応募し、「庄内海岸松原再生計画」を作成しました。 この時は、ゾーニング部会、環境教育部会、保全活動部会の3部会を設置し、再生計画の内容の 検討とあわせて、「庄内海岸林施業管理指針」、「庄内海岸ボランティアの手引き」など、再生計画の 実施に必要となる資料をまとめました。 庄内支庁では、平成14年度より出羽庄内公益の森事業を始めました。事業内容は、①考える会 の事務局運営、②ボランティアリーダーの研修、③森づくりフォーラム開催、➃学習林整備です。 学習林は、小学校から歩いて行ける私有林の所有者と協定し、子どもたちが活動するものです。 3年間で6校(十坂、西遊佐、西郷、稲川、黒森、西荒瀬)に設置され終了しました。

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28 ③活動の成果 これら構成団体の連携により、たくさんの成果がありました。特に際立ったものとして、 ・海岸林の価値への理解、保全意識の醸成 ・松くい虫対策、木質バイオマスの推進、海岸林資源有効利用 ・環境教育の広がり ・森林ボランティアの広がりと定着 などの成果が実感できました。 地域レベルでの大きな問題に立ち向かっていくためには、多様な主体が協働し、それぞれ得意な 分野で役割を果たしていくことが大切です。 「考える会」の構成団体は、それぞれが独自に庄内砂防林の保全に関わる活動を展開しています。 さらに、各団体の活動に、他の団体のメンバーが積極的に関与し、相互に協力し合っています。 このような相互の連携がスムーズに進む要因として、考える会の連絡調整が十分に機能している と言えます。 再生計画を作成した19年の体制では、考える会の会員を中心に計画を実施し、会員の相互の連 携を強化していくとともに、地域の一般企業や一般団体、住民等への情報提供や働きかけを積極的 に行い、庄内海岸砂防林の保全活動への新たな参加を促進するというものでした。 計画の作成にあたっては、①NPOと地域住民をひとつに、②計画づくりの裏方にいた大学など の研究者、総合学習を進める小中学生など教育機関を1つ、そして③行政機関と④森林所有者(森 林組合)の合わせて4つの主体を明確にしました。 そして、森林整備を主体的に担う人材としてボランティアリーダーの役割を特に重視し、4つの 主体の関わり・関係を強化するようにしています。 このように、主体を明確にすること、新たな会員を獲得すること、活動を牽引し持続させるボラ ンティアリーダーの育成を重要な戦略としたことなどが、大きな成果をあげている要因だと思われ ます。時代や環境の変化とともに再生計画を見直していくことの大切さが分かる事例です。 (3)「出羽庄内公益の森づくりを考える会」構成メンバーの活動事例 続いて、構成メンバーの活動事例について紹介します。 【事例団体】万里の松原に親しむ会 ①設立の経緯 平成13年に発足しました。平成3~4年頃、林内の散策路に花木類を植栽が行われましたが、 これが伸び放題となり手入れが必要となったため、自治会など地元の人たちが手入れを行い始めま した。しかし、10年ほど過ぎると、世代交代もあって活動参加も少なく手入れ不足となり、散歩 も大変な状態となりました。そこで、有志20名程が集まり道具を持ち寄り、剪定や草刈りなどの 整備を行い始めたことが設立のきっかけです。組織を作り、継続して春から秋に2~3回程度の活 動が始まりました。 作業の都度、森林管理署に入林届を出すのが面倒なので、年間事業計画を提出することで了解を

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29 得ました。経験や知識を出し合い、「楽しく、生きがい、継続」をキーワードに活動を進めています。 会則による会の目的は、「里の松原の松陵地区をエリアに文化的遺産でもあるクロマツを中心とし た美林を守り、保安林としての機能保全をはかると共に、市民の憩いの場としての森林空間の整備 をはかること」です。 所在地は山形県酒田市で、会長は三沢英一さんです。 ②会員数 平成24年度、個人会員84名、団体会員14団体。団体は自治会、コミュニティ振興会、小中 高校、社会福祉法人、林業関係の中小企業などです。 ③会費 1,000円/個人、10,000円/団体です。 ④主な活動 平成24年度は、 ○県のみどり環境公募事業等の実施 ○広報紙「まつぱ(年2回)」「短信まつぱ(毎月1回)」を会員、関係機関へ配布 ○森林整備の知識、経験豊かな林業関係企業会員との連携を大切にしている ○第9回森の音楽祭を開催。酒田一中、社会福祉法人かたばみ荘他の協力で、屋外演奏会を行う。 ○研修会「安全な刈り払い作業のために」「庄内砂丘と海岸林」 ○国有林の仙台地区海岸防災林(仙台市荒浜工区内)の再生に向けた活動の協定書を仙台森林管 理署と結び、平成25年4月、現地(11a)にクロマツ苗木を500本植える。 ○作成資料 ・パンフレット「先人の遺業を次世代へ遊んで学ぶ 万里の松原」 ・冊子「万里の松原人(まつばらびと)」(平成19年) 「子どもと大人“松林協働”10年の歩み」(平成22年) ⑤「考える会」での役割 主に、他の組織の活動場所等に出かけていく実働部隊の役割を持っています。 ⑥再生計画をつくった意義 再生計画とは何なのか、会員の方々から疑問の声がありました。どういう砂防林であってほしい のか、常に提言し必要な改訂をしていくことが大切だと思います。必ずしも行政が認知したものと は限りません。 「考える会」は連絡・調整する機関です。再生計画は良いものですが、魂を入れるのは人の問題 で、各会のリーダーの人たちの努力と周りの人たちの理解を深めていくことと、目的意識をしっか りと持って行くことが大事だと思います。森林計画の作成に当たっては、市町村にもっと再生計画 を意識して改訂すべきことに取り組んでほしいと考えています。 ⑦問題点 新規会員の獲得が急務です。現会員の方々に周りの人を誘ってもらう一本釣りの方法で少しずつ 会員を増やしていますが、退会もあるのでなかなか増えません。そうはいいながら、大きくし過ぎ ても組織を管理する能力が伴わなければならないので、毎月の会報は配布網を使い直接手渡したり

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30 するなどして、顔の見えるつながりをつくることに心がけています。あとは、資金面も問題です。 ⑧「考える会」の課題 構成メンバーがこれでいいのかという課題があります。会議への参加も少なくなっています。地 域のボランティアが学校の面倒を見るなどといった意識が必要です。いつまでも県が活動の面倒を 見続けることは困難と思えます。 メンバーにボランティア団体、一般の森林ボランティア団体が増えることで活性化します。県の 交付金事業をやる団体は沢山あるので、海岸林に限定せず門戸を拡げることを考えています。県・ 市とも森林関係職員がどんどん減っているのが現況です。

4 海岸林再生組織づくりの事例〔2〕

~宮城県が取り組む協働による海岸林再生事業~

<みやぎ海岸林再生みんなの森林づくり活動>

宮城県は、平成18年度から企業の森制度を導入し、「わたしたちの森づくり事業」と「みやぎの 里山林協働再生支援事業」という2つの事業によって、30を越える企業や団体と協定を締結し、 森林の整備や森林レクリエーションの普及を行ってきた実績があります。 平成26年度からは、企業の森制度の海岸林再生版とも言える「みやぎ海岸林再生みんなの森林 づくり活動」事業による公募を開始し、これまでに18件の協定を締結し名取市、岩沼市、亘理町、 山元町で協働による海岸防災林再生活動に取り組んできています。 主に、県・市町村と活動する企業や団体が三者協定を締結し、企業や団体が決められた条件のも とに責任を持って植樹活動や育林活動を行っていくシステムですが、活発な活動が展開できている 主な要因は、バックアップ体制ができていることです。 公益社団法人宮城県緑化推進委員会は、なかなか自前で協定を締結し活動することができない団 体や企業に対し、土地を細分化して小規模な活動を共催の形で行うことにより、より気軽に参加で きる形を提供しています。また、緑化促進事業により、予算的な補助も行っています。 一般向けとしては、大勢の方が気軽に参加できる植樹イベントを行い、海岸林再生に関わる機会 を提供するとともに、意識の高揚にも取り組んでいます。 また、特定非営利活動法人宮城県森林インストラクター協会は、計画づくりからイベント運営ま で、活動をトータル的にコーディネートすることと、多彩な活動メニューを提案することにより、 事業活性化の一翼を担っています。 仙台地区海岸防災林再生に向けた活動 泉小5年生の継続的な学習

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1 地域のニーズに合った事業計画のつくり方

実際の事業計画づくりに入ります。海岸防災林の再生という大きな目的に向かう上で、多様な主 体と協働していく必要があることはもちろん、まずは地域が望み、地域から歓迎される活動を行う ことが肝心です。特に地域との協働について考えてみましょう。 (1)地域から見た海岸防災林再生の目的 海岸防災林は国土と合わせて住民の生命や財産を守るための森林ですが、最も恩恵を受けるのは 地域住民ということになります。また、昔から燃料を採ったり、キノコを収穫したりと、地域の方々 の生活やレクリエーションの場でもあったわけです。 このため、地域の方々が海岸防災林再生に協力するのは「当然」と思われがちですが、東日本大 震災で被災した地域は、いまだ生活再建の目処が立っていない方も多く、不自由な生活を強いられ ている方がたくさんいます。 このような現状を理解し、地域の方々のニーズをよく把握した上で活動への参加を呼びかけるこ とが大切です。 (2)地域と協働するために大切なこと ①市町村別の計画を把握する 海岸防災林の再生事業のほとんどは国の力で進められていますが、市町村では、海岸防災林を含 めた街づくりの構想を持っています。 特に、歴史文化自然資源の復元方針や、防災・減災、緑地公園の建設整備計画、地場産品の産出 や集積の場づくりなど、これからの街づくりに海岸防災林は直接間接的にさまざまな形で関わって きます。 活動する地域の復興計画や地理的社会的特性等についてよく調査し、理解した上で海岸防災林再 生活動の計画づくりを行っていくことが大切です。 ②地域産業や観光の振興 海岸防災林再生活動の目的は、植栽と育林によってできるだけ速く防災機能を持った海岸林を再 生することです。 しかし、団体や企業が行う海岸防災林再生活動の場合には、植栽活動を通じて海岸林再生に対す る機運を高め啓発するとともに、地域の震災復興や産業・観光の活性に寄与することも大切な目的 であると思います。 そのためには、まず活動する地域の産業や観光をよく把握し、その活性化のために少しでも役立 つ活動を考えてみることも大切です。 せっかく活動するのですから、できれば地元の役場や地域の方々に協力を依頼し、地域の名産品 や特色を体験してみてはいかがでしょうか。

地域や多様な主体の協働・連携と活動計画づくり

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32 ③地域への提案 海岸防災林再生はとても息の長い事業で、地域の方々の協力が欠かせません。 海岸防災林再生活動が、地域にさまざまな恩恵をもたらすことが理解されれば、地域の方々も協 力してくれるでしょう。例えば次のような提案をしてみてはいかがでしょうか。 ・海岸林活動は、新たなコミュニティ形成の場に繋がる。 ・多様な主体が協働したくさんの人が来ることで、地域活性化に繋がる。 ・地域の子どもたちの生命と財産を守るだけでなく、環境教育や自然体験の場にもなる。 ・海岸林だけでなくさまざまな生き物をモニタリングすることにより、懐かしい生き物が復活し、 子どもたちの未来に残すことができる。 ・産業や観光とタイアップしたイベントを実施することにより、地域の産業や観光をPRする良 い機会が創出できる。 地域の中から、海岸防災林の保育活動の中心メンバーになってくれる方が出てこれば大成功です。 活動資材や食料を地域から購入する、地域から会員を募る、地域の会合などに積極的に参加する などして、地域とつながる努力をしてみましょう。 (3)生物多様性と生態系サービスの復元 環境を守る活動 Ⅱ章で示したような希少な動植物の回復は、地域の自然環境保護や観光にとっても貴重な資源に なります。また、森づくりを志す会員だけでなく、自然保護や自然生態系に関心の高い会員も活動 に取り込むことにつながります。 植栽地の下層植生、周辺の植生、発生するキノコ、訪れる野鳥、昆虫や甲殻類など、定期的なモ ニタリングを計画してみましょう。 「海岸防災林生き物リスト」や「海岸防災林林床植物図鑑」などを団体で作ってみてはいかがで しょうか。地域の関心が高まり、新しい協力者を呼び込む良いきっかけにできると思います。 また、定期的なゴミ清掃活動なども、地域の方々の関心を引き、たくさんの方が活動に参加する きっかけにできるのでは思います。 (4)その他の協働 ①小中学校との連携 海岸林の再生には長い年月を要します。未来に向けた長期の活動の基盤を作るには、学校との連 携が大切です。 児童生徒の活動プログラムや教師向けの手引き、安全管理から植栽技術、維持管理技術、モニタ リング手法等、学校向けの指導マニュアルがあれば、学校との連携を進めることができます。 宮城県の海岸林再生活動では、既に東松島市、亘理町、山元町などで海岸林植樹活動に学校が参 加しています。植栽の体験だけでなく、防災・減災や、自然環境等様々な学習の場として、海岸林 が持つ可能性を引き出してみましょう。

参照

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