マンガン系酸化物粉末を用いた 新規ガラスの研磨材料の研究開発
岐阜工業高等専門学校 機械工学科 ・ 講師
島本 ( 田中 ) 公美子
2020 年 1 月 27 日(月) 15:30 ~ 16:10 住友会館(泉ガーデンタワー 42 階)
第 37 回無機材料に関する最近の研究成果発表会
-材料研究に新しい風を-
1.背景 -従来材: CeO 2 -
現在,ガラスの研磨材には希土類(レアアース)の一つで軽希土類に分類 されるセリウム(
Ce
)の酸化物である酸化セリウム(CeO
2)が用いられている.ガラス研磨材の代替材料の研究開発として,
2009
年7
月から2013
年3
月まで 立命館大学 谷 康弘 教授らの研究グループが研磨パッドや研磨砥粒等に ついて検討が行われた.この研究では,研磨パッドに焦点をあてており,研磨砥粒はジルコニア(
ZrO
2)による評価を行っているが、他の研磨材料の 性能評価には余地がある.Fig.1
セリウムの価格の推移 我が国ではレアアース鉱石・原料は生産されず,すべて輸入に頼っている.しかしながら,近年,
外国からの酸化セリウムの輸入量が,平成
18
年 をピークに年々減少し,価格も高騰している.2
Ref. 財務省貿易統計, セリウムの価格の推移.
1.背景 -ガラス研磨材の種類・性質-
Table 1 ガラス研磨材の性質
名称 化学式 結晶系 色 モース硬さ 比重 融点(℃) 適用 アルミナ(α 晶) α -Al2O3 六方 白~褐 9.2~9.6 3.94 2,040 ラッピング
ポリッシング アルミナ(γ 晶) γ -Al2O3 等軸 白 8 3.4 2,040 ポリッシング 炭化ケイ素 SiC 六方 緑,黒 9.5~9.75 2.7 (2,000) ラッピング 炭化ホウ素 B4C 六方 黒 9以上 2.5~2.7 2,350 ラッピング ダイヤモンド C 等軸 白 10 3.4~3.5 (3,600) ラッピング ポリッシング ベンガラ Fe2O3 六方
等軸 赤褐 6 5.2 1,550 ポリッシング
酸化クロム Cr2O3 六方 緑 6~7 5.2 1,990 ポリッシング 酸化セリウム CeO2 等軸 淡黄 6 7.3 1,950 ポリッシング 酸化ジルコニウム ZrO2 単斜 白 6~6.5 5.7 2,700 ポリッシング 二酸化チタン TiO2 正方 白 5.5~6 3.8 1,855 ポリッシング 酸化ケイ素 SiO2 六方 白 7 2.64 1,610 ポリッシング 酸化マグネシウム MgO 等軸 白 6.5 3.2~3.7 2,800 ポリッシング
Ref. 「はじめての研磨加工」,安永暢男,25 March (2010).
3
1.背景 -予備調査-
ガラスの研磨において,硬い物質が必ずしも研磨能力が高いとは言えない.それは 主に化学・機械研磨(Mechanochemical Polishing)作用が生じているからである.
Fig.2
研磨能力と単独粒の強度の関係転位密度 横弾性係数 ポアソン比
4
2.目的
新しいガラスの研磨材料として選定した Mn
2O
3の 研磨の有効性を実験的検討により明らかにすると ともに,従来材である CeO
2との比較を行うことを 目的とした.
5
3.実験方法 -試料 , 手順-
Fig.3
試料粉末のSEM
写真(左:CeO
2,
右:Mn
2O
3)研磨量の向上を図るため,Mn2O3の粒径依存性,研磨荷重依存性,研磨速度依存性の 実験を行った.ガラスの研磨メーカーでは最近は研磨材料(CeO2)の濃度を水に対して 10wt%に変更したとのことであったため,それに合わせて添加量を変更して実験を行い、
CeO2とMn2O3の相対比較を行った.
試料: 酸化セリウム(CeO2)粉末,三二酸化マンガン(Mn2O3)粉末
溶媒: 蒸留水 (濃度: 蒸留水-10wt%研磨材,蒸留水-20wt%研磨材)
先行研究: 研磨液をガラスに塗布した後,研磨パッドで挟み往復スライダー型摩擦試験機 を用いて摺動試験を行った.試料の評価は,厚さ,摩擦係数測定,表面粗さ測定,SEM 観察により行った.先行研究で得られた結果をもとに,実際にガラスの研磨工場で用いられ ている研磨装置(DSM9B-5L/P-V(SPEEDFAM製))での実機試験を行った.
6
3.実験方法 -実験装置-
Fig. 5
冶具(
正面) Fig. 6
冶具(
底面) Fig. 4
ガラス板(
26 mm
×26 mm
×3 mm
)7
Fig. 7
回転式研磨盤 ラボ試験にて使用3.実験方法 -実験装置-
加圧方向
回転方向
回転方向 ディスク基盤
下ラップ 上ラップ
加圧方向
回転方向
回転方向 ディスク基盤
下ラップ 上ラップ
Fig. 8
粉末粉砕機Fig. 9
粒度分布測定機Fig. 10
ガラス研磨機DSM9B-5L/P-V
(SPEEDFAM製)
セイシン企業
Ref. 「はじめての研磨加工」,安永暢男,
8
25 March (2010).
実機試験にて使用
4.実験結果 - Mn 2 O 3 の粒度分布-
Fig. 11
入手したMn
2O
3粉末の粒度分布積分分布 頻度分布
粒径
モード径(最頻径): 6.0 mm メディアン径(中央径): 6.7mm
Mn
2O
3の入手先:Materion Advanced Chemicals
社製(米国)9
4.実験結果
研磨時間を 30 分とした場合の透明度の比較
研磨前のすりガラスの状態に比べ,
CeO
2およびMn
2O
3は透明度が向上.研磨量(厚さ)は,
CeO
2:20 μm,Mn
2O
3:3 μmで,表面粗さはほぼ同等.Fig. 12 Comparison of transparency for glasses after glass polish experiment.
Mn
2O
3は30
分の研磨量が3 μmと少なかったが,少ない研磨量で鏡面化できる ことから,仕上げ研磨加工に応用できる可能性が高いことが明らかとなった.10
4.実験結果
Mn 2 O 3 粉末の分級前後の SEM 観察
Fig. 13 Mn
2O
3粉末の分級前後のSEM
写真11
4.実験結果
Mn 2 O 3 の研磨量の向上を目指した実機試験
Mn
2O
3はCeO
2に比べて 半分程度の研磨量と なった.我が国はマンガン団塊が あることから,今後
Mn
2O
3 の生産量が向上すれば 安価になることを見越し,研磨材濃度を上げて 実験を行うことにした.
Fig. 14 Particle size dependence of Mn
2O
3.
• Mn
2O
3粉末の平均粒径を1.8 μm
,2.6 μm
,4.1 μm
と 変化させたものを作製•
研磨材濃度: 水道水-10wt%
研磨材12
4.実験結果
Mn 2 O 3 の研磨量の向上を目指したラボ試験
8 mm
向上回転速度を速くすると ともに,研磨量が低下 する傾向にあった.
これは荷重と遠心力の 間に働く合力が関係し,
試料表面の一点一点に かかる力が変化したこと に起因する.
Fig. 15 Polishing load dependence and polishing speed dependence of Mn2O3.
研磨条件(荷重,回転速度)を変更し,研磨量の向上を目指した.
研磨材濃度:
水道水-10wt%CeO2 水道水-20wt%Mn2O3 研磨材濃度を上げる ことで,研磨量はCeO2 を上回る結果となった.
研磨荷重の増加に伴い 研磨量が向上
13
4.実験結果
研磨条件を変更した場合の透明度の比較
CeO2,(10 wt%, 500 g 荷重, 150 rpm, 120 分)
Fig. 16 Comparison of transparency for glasses after glass polish experiment.
今後は,Mn2O3粉末の更なる研磨量の向上に向けて,実験条件の検討を行うと ともに,産業界では精度の高い研磨を短時間で行うことが望まれるため,
研磨時間を短縮する技術についても検討する.
Mn2O3(20 wt%, 2.5 kg 荷重, 150 rpm, 120 分)
すりガラス
Mn
2O
3粉末の最大のメリットは,少ない研磨量においても鏡面になることで あるが,研磨濃度を上げ,研磨荷重を増加させて研磨量を向上させた場合 においても,その性能は劣らない.14
5.まとめ
新しいガラスの研磨材料として選定した三二酸化マンガン(Mn2O3)の 有効性を実験的検討により明らかにし,従来のガラスの研磨材料である 酸化セリウム(CeO2)と比較した結果,以下のことが明らかとなった.
1) Mn2O3粉末の研磨材料としての有効性を確認した.
2) 従来CeO2の研磨で行われる研磨条件下では,CeO2の方が20
m
mと 高い研磨量を示し,Mn2O3は3m
mであった.3) 研磨量の粒径依存性を調べた結果,研磨材の粒径が細かいほど 粒子の数が多くなり,わずかに研磨量が増加した.
4) Mn2O3粉末は,荷重の増加に伴い研磨量が向上し,荷重依存性が 認められた.研磨量の研磨速度(研磨時間)依存性を調べた結果,
研磨速度の上昇(研磨時間の短縮)に伴い研磨量は低下した.
5) 研磨後のガラスの観察を行った結果,Mn2O3は研磨量が少ない場合 においても,CeO2の透明度や表面粗さとほぼ変わらず,
最終仕上げの鏡面研磨に適することが明らかとなった.