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現代韓国の自画像

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Academic year: 2022

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  この作家を日本に紹介しなくてはと思った。チョン・ソンテはなによりも韓国とは何かを突き詰めようとしている作家だ。韓国ドラマや映画、音楽を通じたドラマチックな韓国ではなく、素顔の韓国はどんな姿をしているのか?  どこからどこまでが韓国社会と呼べるものなのか?  シンプルな一筆書きの輪郭線を描き出せるものではない。そもそも何重にも重なり、交わり、途切れながら、描くしかないのがその国の輪郭なのではないだろうか。

  その輪郭の中も決して均一なわけではない。出稼ぎを終えて帰国する労働者や結婚移住してきた外国人女性、北朝鮮を離れて韓国での定住過程にいる人々。境界線を越えてきた/越えてゆく彼らに対して韓国の人たちはどのような眼差しを向け、どのように接しているのか。「私たち」と「他者」という二項対立に収まらない複雑な関係の揺れをチョン・ソンテは描いている。

  本短編集に収録された十二編の作品を通じて、私たちは普遍的なものと、日本とはまったく異なる韓国らしさに出会うだろう。たとえば老いや両親との死別、故郷を思う 気持ちは国が変わっても誰もが持つ普遍的なもののはずだ。とはいえ、分断によって二度と戻れない故郷への思いを私は想像できるだろうか。「望郷の家」には偶然にも故郷の土地を再び踏んだ日のことを、生涯の思い出として生きる老人の話が登場する。しかし、かけがえのない思い出すら口に出せない、反共産主義を掲げる軍事独裁政権が韓国では長く続いた。   そして、現在の韓国はその独裁政権から市民の手で民主主義を勝ち取ったわけだが、その過程では多くの血が流れた。一九八〇年に民主化を求めた市民が軍隊によって制圧された光州事件の悲劇は、映画や小説で知った人もいると思う。「白菊を抱いて」は事件の七年後、まだ事件を口にできない時代を背景に、「消された風景」では光州事件がタブーではなくなった現代を舞台に、いつまでも消えない記憶として光州事件を描いている。日本と韓国の分かちがたい歴史もまた、人々の記憶に残っている。三十年前、五十年前、八十年前の韓国と日本の歴史はまったく違うのだ。  『

二度の自画像』という表題作はない。チョン・ソンテの作家生活を振り返ってつけたという。なお、この作品は大学院在学中に東京外国語大学出版会の公募企画を通して出版された。新入生の皆さんには、大学での学びの延長線上ではこんなこともできるのだと伝えたい。

きら・かなえ

法政大学講師 韓国文学

出 版 会 新 刊ト ピ ッ ク ス

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吉良

佳奈江

『二度の自画像』

チョン・ソンテ【著】 吉良佳奈江【訳】

2021 年 4 月刊

  人々が生きる世界にはさまざまな境界が存在する。「移動する人々」と関係する物理的な境界としては、主に、山、川、海など自然が作り出す境界、行政区分の境界、国家の領域を定める境界―国境―がある。国民国家成立以来、国境は、「移動する人々」―移民・難民―という事象を捉える場合、もっとも重要な境界の一つとなっている。しかし、国境は、歴史的に見ると、帝国支配、植民地支配、戦争の帰結などにより移動を繰り返す流動的なものであり、それがまた「移動する人々」に大きな影響を与えた。それでは、人々がこれらの境界をこえて移動する/移動を強いられる原因と背景はなんだろうか。本書はこの問いに歴史的に答えてくれるものである。

  本書はドイツの移民史研究の第一人者クラウス・J・バーデが主幹の『百科事典 ヨーロッパの移民――一七世紀から現代まで』(二〇〇七年)からドイツ・オーストリア・スイスの移民の歴史を抄訳した(一部南ティロールを含む)。なぜとりわけこの三国なのか。それは、これらの国々では、中欧という地理的条件により東西双方から の政治的、社会的な影響を受けた人の移動があったことに加え、近代国家形成過程や政治体制の違いにより、それぞれ特徴をもった人の移動の歴史が見られるからである。  現在、この三国では移民や外国人の割合が比較的高い。この三国にとって、移民の統合や外国人労働者の問題は、重要な政治課題であり、社会問題でもある。さらに、二〇一五年の「欧州難民危機」は大量の難民受け入れという難題を各国に突きつけた。これらの問題に対する各国の対応を理解するためには、本書の示す「移動する人々」の歴史を参照することが不可欠である。  本書は百科事典という性質上、記述はそれほど詳しくない。それを補うべく、簡単な中欧の歴史と訳者解説のほか、原著にはない地図(一部カラー)や日本語の参考文献の一覧を付けた。また、少しではあるが映画も紹介した。近年、移民や難民を扱う映画の制作が盛んである。特に、ドイツでは、トルコ移民の二世・三世監督による「ドイツ=トルコ映画」というジャンルが確立し、その作品のいくつかは映画賞を受賞し ている。本書は、それを含め、日本語で鑑賞可能な最近の移民・難民を題材にした映画も紹介している。

あきやま・ようこ

同志社大学グローバル地域文化学部准教授  スイス近現代史

」の

穐山

洋子

『移民のヨーロッパ史  ドイツ・オーストリア・スイス』

クラウス・J・バーデ【編】

増谷 英樹 穐山 洋子 東風谷 太一【監訳】

前田 直子 藤井 欣子 鈴木 珠美【訳】

2021 年 9 月刊 新刊トピックス

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