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韓国における現代法の諸問題

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韓国における現代法の諸問題

一日韓比較法学シンポジウムの韓国側報告一

解説       実施された。

茨城大学人文学部法学教室と大韓民国忠北大学

校法科大学との間で,研究交流を目的とする「第 シンポジウム「日韓比較法学」

1回日韓比較法学シンポジウム」が1992年1月23

日人文学部大会議室で開催された。忠北大学校は, 報告:金允求教授「韓国における 茨城大学が前年5月8日に「学術・文化交流協定」 家族の変化と家族法」

を結んだ姉妹校である。 高橋寿一助教授「日本の土地法」

今回,忠北大学校法科大学との研究交流を開催 呉世卓教授「韓国の文化財保護法」

するきっかけになったのは,法学教室所属の田村 深谷信夫助教授「日本の労働法」

が1991年5月末に同大学校の主催のシンポジウム ・1月23日 (木) 午後13時〜16時 に参加した際に,同法科大学の金学長はじめ今回 ・茨城大学人文学部大会議室(2階)

来日したスタッフらと懇談する機会をもち,その

なかで日韓両国の法制度・法学の比較研究をすす    韓国側の2名の教授の略歴および主要業績はつ める交流プランがもちあがったことにある。その   ぎのとおりである。

後連絡を密にとって漸くこの度,関係者の協力も    金允求;清州大学校法学科卒業,中央大学校 得て開催にこぎつけることができた。       大学院修了・法学博士

今回の法学シンポジウムへの忠北大学校の参加        現在忠北大学校法科大学教授・学長 研究者はつぎの方々である。       韓国法学教授会常任理事

法科大学長      韓国財産法学会理事

法学博士 金 允 求 Kim Yoon−Ku      忠清北道地方労働委員会公益委員 教授(民法学)    主業績:民事不法理論の研究一韓国民法第 前法科大学長      750条の構造分折一

法学博士 呉 世 卓 Oh Se−Tak       財産法における信義則の機能分析 教 授(行政法)        不法行為法における違法性概念 法学博士 李 永 鎮 Lee Young−Jin      韓国民法第390条の要件事実と証明

教 授(国際法)         責任

法学博士 盧 乗 昊 Roh Byoung−Ho         事実婚保護の現状と準婚理論の再検 教 授(社会法)        討

李永鎮教授の代表的業績は『宇宙空間の平和的   呉世卓;ソウル大学校法科大学卒業,檀国大 利用のための法的規制に関する研究』,盧乗昊教        学校大学院修了・法学博士

授の代表的業績は『企業結合及び経済力集中の規        忠清北道法務担当官 制に関する研究』である。両教授からは,将来を        忠北大学校法科大学長

嘱望されている気鋭の若手研究者という印象をう        現在,忠北大学校法科大学公法学科 けた。       教授

さて,第1回研究交流会は以下のような要領で         日本公法学会会員

(2)

主業績:文化財保護法研究      茨城大学内の学術団体である政経学会とタイァッ 文化財享有権に関する研究       プしていま問題になっている「従軍慰安婦問題と 日本の文化財保護i運動        国家賠償責任」というような時事問題でシンポジ 韓国文化財保護法制研究       ウムを設営したならばもっと盛り上がったものと 伊場遺跡訴訟の争点        考える。どちらの方がよかったのかは今のところ 呉世卓教授は数年前,東京大学法学部で客員教   断定できない。

授として研究・教育に従事されるほどに日本語は   最後に,今回の忠北大学校4教授の滞在日程を 堪能で,今回も双方のために通訳を引き受けてい  記しておく。それによって,浜田学長はじめ本学 ただいた。      の多数の方々にいかにご協力ご援助いただいたか

肝心のシンポジウムは参加者が少なかったこと  が明らかになると考えるからである。

で忠北大学校の先生方には気勢を削かれたのでは    1月22日 夕成田着,水戸市内宿泊先に直行。

ないかといまも危惧しているところである。年度   1月23日 午前,学長・人文学部長表敬訪問,

末試験を控えて先生方も休講にできず,また,学        午後,茨城大学人文学部大会議室に 生も試験準備で,今回のシンポジウムに参加する        てシンポジウム「日韓比較法学」

余裕がなかったのであろう。開催時期の選定に考        同夜,歓迎パーティー

慮の余地があったように思われる。         1月24日 県内名所案内,法学教室主催懇親会 しかし,シンポジウムの中身(報告と質疑応答)   1月25日 上京(26日まで東京滞在)

は非常に興味ある題材を反映して面白くかつ有意   シンポジウム後の歓迎パーティーは学長はじめ 義であった。とりわけ,金教授の「韓国における  東人文学部長・保坂学生部長・今林工学部長・及 家族の変化と家族法」というテーマで言及された   川茨城大日韓交流委員長および法学系スタッフ,

「同姓同本不婚姻制度」については,それにより  それに学生もまじえて盛大に,かつ和気あいあい 届け出をしない事実婚の多発状況の紹介とあわさっ  と催すことができた。

て,議論が大変盛り上がった。       また,1月24日には,雪景色をみながら,大学 また,呉教授の報告も文化財保護法に関する日  の小型バスで西山荘・袋田の滝・楷楽園・芸術館 韓比較をメインに,それぞれの長所短所を鋭く指   と巡り、夕方5時半からは水戸市内で法学教室ス 摘して,参加者に文化財保護法という新しい法領   タッフと懇親会・シンポ反省会。この席上で,シ 域への関心を引き起こした。       ンポジウム・水戸市・大学・名所見物などについ 本誌には,紙数の都合上,上記の金教授と呉教   て感想話が出され,また,従軍慰安婦問題につい 授の報告のみを全文掲載することにした。韓国に  ても率直な意見交換がもたれて,本当に打ち解け おいて今日議論の的になっている家族法上の重要   ることができた。

な問題と文化財保護法に現われている文化観・民   第2回は韓国で開催することになるが,双方の 族史観をも掘り下げた両教授の報告は,間違いな  条件が成熟するのを待つということで毎年開催は

く大方の興味をつよく引くものと考える。     ひとまず保留になった。しかし,今後,継続して 今後に残された課題として特記してみると,今  研究交流を多様な形で追求していく点では合意に 回,法学分野の特定領域(特定の研究専攻分野)   達し将来に期待を託することとなった。

にテーマをしぼる形でシンポジウムのテーマ設定       (文責 田村武夫)

をしたのが出席者の少なさの要因であったと思う。

(3)

〔報告要旨〕

報告題目:韓国における家族の変化と家族法

報告者:金・ 允   求

(KIM YOON−KU)

(韓国忠北大学校法科大学教授)

体的な生活を弱化させ,家族間の葛藤と対立をう 1 はじめに

ながし,家族解体の原因をもたらすのではないか 現在,韓国では,1990年1月に,家族法をおお   との憂慮の念である。

はばに改正し,改正家族法が1991年ユ月から施行    韓国における従来の家族法の改正をめぐって展 されている。韓国における家族法の改正は,男系   開された議論と改正家族法に対する肯定的または 血統の継承と家父長イデオロギーを弱化させるか  否定的な評価に照らし,次のような基本的な疑問 わりに,個人の尊厳と自由・平等の原理をひろく  が提起され検討されなければならない。(i)第 受容することによって家族の時代的変容に副応し  1は,家族は変化したのか。その原因は何で,ど ようとすることに焦点をあわせてすすめられた。   のように変化してきたのか。また,家族の変化に

改正前の家族法は,その基調が家父長的家族制   したがい,家族構成員の意識も変化したのか。そ 度の維持にあった。しかし,それは,土地経済体   して,家族の変化と家族法の改正は相互にどのよ 制下での労働力確保のため必然的に結合された大   うな影響をおよぼしてきたのかという点である。

家族を前提としたものであって,現代の小家族中   (ii)第2に、家族法の役割,すなわち,その機 心の家族現象に適していないこと,また大家族の  能は何かという点である。家族法は,法の領域に 倫理秩序のため家父の権威とそれに対する家族構   属しているが,その社会の最小単位である家族関 成員の服従を理念化するという点で,権威主義で  係を規律するのであるから社会全体におよぼす影 あり,従的思考の基礎になること,特に,中国の  響が多大であり,行為規範としての機能が強い法 宗法制の影響を受けた男系血統中心の制度はそれ  でもある。家族法の機能に対する把握は,家族法 自体が男尊女卑思想を内包しており,家系の血統  がになう自らの限界を認識させることによってそ を継承するため個人の自由・独立が認められなかっ  れに対する過剰期待と過少評価から解放されるこ たこと等から改正の必要性が主張された。     とが望ましい。

改正家族法は,家父長制の基盤である戸主制を    この報告は,現在,韓国が経験している家族の 修正して戸主権を弱化させ,戸主の継承について  変化と家族法の相関関係に対する基本的な議論を その放棄を認め,親族関係,結婚,離婚,相続等   通じて家族法の実態を把握し,その本来の機能と で両性の平等を宣言することによって家族の変化  限界を認識することを目的とする。

に副応する一方,家族間の関係では個人の尊厳と

自由・平等を法的にバックアップした。       H 家族法の役割 しかし,こういった肯定的な側面は,反面で次

のごとき否定的な要素を伴う可能性を予測させる。  1.離婚問題と家族法の役割

すなわち,改正法が志向する個人の尊厳と両性の   家族とか社会の変化を考える前に,次のごとき 平等の理念は,個人主義を助長させ,家族の共同  問に答える必要がある。すなわち,法は社会の変

(4)

化を単に反映するのか,それとも社会的発展を誘   に対して不利な待遇(離婚後の生活に対する保障 導し,または変化をはばむ役割まで担当するのか。  を受ける権利を認めない等)をすることによって そして,個人は,社会秩序のために,ある程度ま  離婚率を減少させることができるという意味と同 でその熱望を犠牲にしなければならないのかとい  一に理解してはならない。

うことである。このような基本的な問に対しては,   そういう意味で,韓国の家族法が,破綻を来し

(i)離婚率の増加に対する離婚法の変化,(ii)   た夫婦関係において離婚後の社会・経済的弱者に 伝統的家族制度の変化に伴う家族法の変化を検討   慰謝料以外に財産分轄請求権を新設したことは することが,その答となろう。      (この条文の新設によって離婚率が高くなるおそ 現在,離婚率の増加は,全世界の深刻な社会問   れがあるとの批判論があるけれども)高く評価さ 題となっている。従って西欧諸国においても,離   れている。財産分轄請求権は,破綻が既定事実と 婚に対して離婚法はどのような態度を取るべきか  なった夫婦が彼等が共同の努力によって得た婚姻 について見解がわかれている。離婚に対して極め  中取得財産を分配することができるということに て厳格な制限的な態度を取ることを要求する見解   よって, 元来,彼のものは彼に 返還する過程

(William Scottの見解),制限的な離婚法は,離   として認識されたものとして,社会の基本的な常 婚の増加を統制する適切な手段ではないとみて寧  識に基礎づけられた法の啓導と把握されている。

ろ離婚前の相談サービスが拡大されなければなら   家族法の役割を離婚問題に焦点をおいてみるな ないと主張する見解(Max Reinsteinの見解),   らば,何よりも重要なのは,それが特定階層に対 破綻主義離婚法を批判しながら有責者の離婚を許   する抑圧という権威主義的な方法によってではな さない保守的な立場とともに法の社会的啓導役割   く家族の紐帯を持続させようとする啓導的な役割 を強調する見解(Jan Goreckiの見解),あるい   と父母の責任を強調することによって離婚をふせ は離婚法は,社会の変化を反映するとともに子供   ぎながらも,すでに破綻した夫婦関係については のいる家族の離婚行為に対する拘束力を通じて行   社会・経済的な弱者に対する配慮が必要であり,

為誘導的な役割を強調しながら離婚法の役割を破   何よりも彼等の子供に対する父母の責任を遂行す 綻した家庭の子供のための手段と見なければなら  るように導く手段となるようにしなければならな

ないとする見解(John Eckelearの見解)などが   い,ということである。

ある。      大家族制度においては,夫婦が離婚しても子供 要するに,西欧諸国における19世紀以後の離婚   の養育はそれほど難しいことではなかつたが,核 法の発展過程を回顧してみる時,法がになう啓導   家族が解体する場合には子供の問題が深刻になり,

的な役割を遂行するよりは,離婚率が増加するに  将来,社会の深刻な問題となることは確かである。

つれて現れる不便を除くこと,例えば,複雑な離    従って,ヨーロッパ諸国が経験した前轍を韓国 婚手続きをたやすくする等の単純な方法と離婚後   の社会がそのまま踏まないようにするには法が離 の子供の保護方策を病理的に治癒するのに及及と  婚する夫婦の子供に対する保護i方策を講究して,

した感がある。その結果,家族法は,婚姻破綻と    家族のための家族政策 (Haensch Dietlichの 離婚率の増加を適切に防ぎ得ないまま,子供を持  見解は,この場合に参考にすることができる。)

つ女性,子供を持っていない女性,経済的に独立   がたてられ,法と緊密な関係を維持しなければな した女性の変化に対しても適切に対応できなかっ  らない。

たとの批判はさけられなかったのである。

しかし,このような法の啓導的役割に対する強   2 一般人の役割と家族法の役割

調が韓国において家族法が堅持してきた伝統社会    韓国社会において,家族は,産業化が進行する の保守的な立場,例えば,離婚しようとする女性   につれ伝統的な大家族から核家族へと変化し,女

(5)

金允求:韓国における家族の変化と家族法      47

性達の意識水準の向上とともに価値的側面で夫婦  する家督権,家内財産を管理する家産権と祭祀権 平等の思想が拡大し,家長権の弱化を招来する原  を意味し,家長の権利であるとともに義務を伴う 因になったとみることができる。しかし,このよ  ものである。これを法的な制度として表象したの うな全ての変化にも拘らず,個人の価値観や意識   が戸主制度であって,戸主の承継が一般的に男子 は伝統的な 家 の承継意識,男系血統中心思想,  によりなされることから徹底的に男系血統の継承 親家に対する従属意識等がつよく残って現代的価   と維持を目的とするのである。

値観の葛藤の原因となり,家庭内での夫婦間,父    家父長権としての戸主権は,改正前の家族法に 母と子供間,姑婦問の対立の原因として登場する   おいても有名無実な規定であったが,改正法では ことになった。      もっと空虚な規定に弱化されている。しかし,そ 一般に,核家族は 夫婦と結婚していない子供   れがになう権利の強弱に拘らず,戸主制度が示す によって構成される生活単位 と定義される。韓   意味は男系血統の優待と女系に対する軽視である。

国の場合,産業化の過程で伝統的大家族は,益々  それ自体,男女差別であり,人間の尊厳性を害す,

分裂し,現代の核家族として発展してきたのであっ  ることである。また,同姓同本不婚制も父系の姓 て,このような現代型家族は,夫婦,親族関係で  氏だけを基準として禁婚の範囲を定めるという点 多くの変化をみせているが,直系家族内での精神   で極めて男系血統中心であり,自由・平等の理念 的な面では依然として伝統的な血統中心の家父長   に背馳する。

的な家族思想を脱していない。従って,現代韓国   法は,家族の変化を反映する役割とこれを啓導 の家族法は,伝統と現代(=平等)の葛藤,共存,  する役割を一緒に遂行しなければならない,とい 矛盾に対して対応できない状態にある。      うことを踏まえて,男女差別的,非民主的な家父 さて,伝統的な家父長的家族制度を一番よく保   長的制度は国民の意識の数的な表現である統計と 持していたのが正に改正前の家族法であった。そ  は関係なしに,家族法を廃止することによって自

して,改正家族法が全般的には,男女平等の方向   由・平等な民主的な家族政策を遂行する基盤をつ での改革を断行したにも拘らず,依然として家父   くらなければならないと考える。ただし,そのな 長的な戸主制度と同姓同本不婚制度を保存してい  かに含まれていた伝統的な孝の観念とか家族の共 るところから改正法の立場も相変わらず伝統の固  同体的な生活を強調する美徳は習慣の形で保存さ 守という基本的な立場をとつているとみられる。  せなければならない。

しかし,万一国民の意識が伝統的な家父長的思

考と家父長的な家族法を支持するのならば,家族       皿 家族の変化の様相法はこれを尊重しなければならないのか(ある調

査によれば,戸主制度について60%以上がこれを   1.核家族化現象

支持するとし,同姓同本不婚制は70%程度がこれ   韓国の家族は産業化過程で大家族が分裂し,核 を支持している),それとも,その啓導的役割を  家族化現象が早く進行するなど,家族構造に大き 遂行して国民の意識を平等な方向に誘導するのが  な変化があった。その変化は,核家族型家口の比 いいのか。このような問題提起は,家族法改正の  率が増大し,直系型家口は減少する一方,独身家 内容が国民の意識より前進し過ぎるといつた批判  口の比率が増大したと要約することができる。

に対する解答になろう。       韓国において核家族が発生した原因を類型別に まず,家父長制的な大家族制度がになう意味を  分類すると,(i)大家族制度で父母が死亡する 考えてみると,それは家長権と男系血統の継承と  ことによって自然的核家族になる場合,(ii)次 表現することができる。家父長権は,家長権と父  男以下の男子が婚姻によって分家家族になる場合,

権を含むのであって,家族の代表権,家族員に対   (iii)職場がある所へ地理的に移動することによっ

(6)

て核家族となる場合,(iv)父母が何らかの理由

       IV 家族の変化と家族法で長男を分家させた場合等に分けることができる。

60年代以後に現れた核家族化の大部分は就業分家    一結びに代えて一

類型だといわれている。そのような核家族化を促   韓国における家族の変化中いくつかの特徴をあ 進する要因は産業化に伴う労働者の増加であり,  げてみると,それはまず核家族の展開が急速に進 今後は,労働者階級の低賃金政策と住宅問題が原  行していること,離婚率は1960年代以後,引き続 因で核家族の分家が促進されることが予測される。  き増加しており,将来はもっと増加するだろうこ 結論的には,核家族が広く拡散されたという現   と,親族関係の接触は近親中心的であり父系,母 実は韓国の家族法がこれ以上大家族制を前提とし  系,夫系,妻系等両家を中心として変化するであ た戸主制度を維持させる根拠にはならないのであっ  ろうことと要約することができた。

て,これからは核家族に適った価値観自由・平   では,このような家族の変化についての現象と 等・相互間の愛情に基づく家族観が確立されなけ   それによって発生する問題に照らして,家族法は ればならない必要性があることを意味する。    どのような方向に改正するのがいいのかを検討す る必要がある。すなわち,家族の変化と思考の変 2 離婚の増加       遷と世論の転換が弁証法的に進行する時点におい 婚姻を家族周期の出発点となす核家族は夫婦間   て,私共は家族法が家族の外的な変化と,依然と の愛情がその家族の安定を左右する変数といえる。  して変化することがない思考の不変性に対してど 従って,夫婦間の愛情が冷えると破綻につながり  のように対応しなければならないのかを吟味する 易い。しかし,離婚率が増加する原因を家族構成  必要がある。これに対しては,あるいは家族が変 の変化,特に核家族現象だけに求めることはでき  化したから家族法も変化しなければならない,従っ ない。女性の意識変化,経済的能力,少ない子女   て改正家族法の態度は妥当であるとする主張と,

数などの要因が離婚率の増加をもたらす間接的な  あるいは国民の一般的思考は変わりなく家父長制 要因となりうるからである。      的であるから家族法もそれで妥当であり,改正家 韓国における離婚率は,1965年以後,漸増し,  族法の態度はこのような思考に比べて前進してい 1975年以後には顕著な上昇を示した。1980年代で  るとの批判が存在する。

は12双に1双当たりで離婚したといわれ,20年の   こういう時点で,家族法の役割は果たして何で 間に離婚率は2倍以上にも増加した。1988年まで  あるのか,その機能の実相は何であるのかという に,韓国の離婚率は1,000双当たり,1.05双で,   基本的な疑問から出発して家族法が家族の変化に 日本(1.39双),アメリカ合衆国(4.96双)より  どのように対応し得るのか,家族の変化がおこす は低いが,中国(0.48双),シンガポール(0.93  順機能と逆機能に関する巨視的な考察を試図して 双)に比べて高比率を示している。        みるのが本報告の目的であった。

結論的には,このような離婚趨勢は離婚率の増    そして,家族法の役割と固有の機能を総合的に 加が一時的な現象ではなく社会的趨勢であるとい   判断した後,改正家族法の態度を考察した結果,

うことを顕している。離婚率の増加に対して,家  次のような結論を導き出すことができる。

族法は家族の共同体的生活を定立する価値観を確   第1に,韓国の改正家族法は,大家族制度を前 立し,離婚後の子女に対する問題を考慮するとと  提とした戸主制度,同姓同本不婚を存置させたた

もに新しい時代に適った家族政策を樹立しなけれ  め核家族化現象が普遍化してきた家族の変化に適 ばならないと考える。       切に対応し得なかった一面がある。法の啓導的役

割を考慮するとき,これら家父長制的で非民主主 義的な制度は廃止され社会の構成員の意識を民主

(7)

金允求:韓国における家族の変化と家族法      49

的方向に啓導させる役割を遂行しなければならな  しての機能を考慮して再検討しなければならない。

い。       終わりに,夫婦の離婚はおのずから未成年子女 第2に,意識面では,依然として家父長的な思   の保護iに欠け,問題児発生の原因となるので,家 考が支配的であるとすれば(国民意識調査等に照  族法は,離婚が決定された後の子女保護方策を講 らして),戸主制とか同姓同本不婚制以外の規定   究する必要に迫られる。子供がいる夫婦の離婚は が男女平等に改正されたことは国民の意識に比べ   より厳格により慎重に許容することによって父母 て進取的であるとみられる一面もある。法の啓導  としての責任を強調し,また離婚後の子女につい 的役割に照らしてみれば,改正法の態度は妥当で   ての保護方策としては国家の後見的な制度を充実 あるが,他方,このような問題は法の裁判規範と  させ,家族法を補完する必要がある思われる。

(8)

一埋蔵文化財の保護を中心として一

報告者:呉   世   卓

(OH SE−TAK)

(韓国忠北大学校法科大学教授)

安定のゆえ,文化財保存に対する法制は定めえな

1 韓国文化財保護法制の沿革      いまま戦前の保存令が続けて効力を持つ状態が続

60年代の日本の国土開発に伴う遺跡破壊は文化   きました。そのため,法的規制がゆるんで,50年 財保護iの問題を提起しましたが,70年代における  代の後半までも重要文化財の殿損と海外流出はや 韓国の事情も同様です。しかしながら,法律的な   まなかつたのであります。

側面でこれを研究している学者の数は極く少ない   かくの如き状況下で迎えた60年代のはじめ,国 というのが現状であります。      民の和合とか,国民精神の高揚といった第3共和

さて,韓国の文化財保護法は,1962年1月10日   国の政策と相まって,新しい文化財保護法制定の に制定されました。日本の文化財保護法に遅れる   必要に迫られる一方,日本統治時代の法令を一挙 こと12年であります。その文化財保護法で,1933  に廃止する立法方針をきっかけとして制定された 年,日本統治時代でありますが,その時に制定さ  のが,この文化財保護法であります。その章立て・

れた朝鮮宝物古跡名勝天然記念物保存令は,これ   内容は日本の文化財保護法とほぼ同じであります。

を廃止するとなっております。ですから,1962年  制定以後,ll回にわたって改正が行われ,特に までは総督府時代の政令が継続して効果を保って   1970年には,動産文化財の登録規定,無形文化財 きました。結果,終戦までの12年間と,そして文   技芸保有者の認定制度,そして,73年には保護i区 化財保護i法が制定された年までの17年間,合わせ  域内での土地に対する収用と使用に関しては土地

て29年間もその法令が効果を持続したわけであり  収用法を準用するという規定,土木工事などによ ます。さらに遡って,同保存令施行規則によって  る発掘に対する規制などが設けられました。その みますと,それ以前,1916年に,古跡及び遺物保   後,1980年11月,韓国の第五共和国憲法が成立す 存規則というのが総督府令で施行されました。そ  るにあたり,総合的国民意識を踏まえ,いわゆる れが韓国での初めての近代的な文化財に関する保  文化条項なるものを設け,「国家は,伝統文化の 護法であるとされています。これは日本での近代  継承,発展と民族文化の暢達に努力しなければな 的な文化財保護法として制定された古社寺保護法   らない」と規定することによって文化財保護法に に遅れること20年,古跡名勝天然記念保存法の成   対する国家指標をさだかにしたのであります。

立3年前であります。

終戦の結果,1948年,独立して政府が成立しま      H 埋蔵文化財の保護

したが,国家体制を確立する暇もなく韓国動乱が

起こり,1953年,休戦協定は,成立したけれども,   韓国の文化財保護法第1条の目的規定は,日本 焼土からの国家再建にせまられる一方,政治的不   の文化財保護法のそれとほとんど同じでありま

(9)

52      茨城大学政経学会誌 第60号

す( )。しかし,この条文に対する解釈については,  文化財保護法57条並びに57条の2は,届出制を採っ 日韓両国の学者の間で相当の隔たりがあるようで  ています。この規定については,1975年法改正の す。韓国では伝統文化における誇りを保存するこ  時,全国都道府県教育委員長協議会や研究団体・

とに重点をおいておりますが,日本の学者達は,  文化財保護団体で許可制を強く要望しましたが,

戦前の皇国史観に対する反発のようなのがあって,  遺跡の範囲を明確にすることが困難であるとして 正しい歴史を保存するという点に重点がおかれて  斥けられたことは周知の通りです。

いるような気がします。韓国では,全制度を通じ   韓国での,包蔵地の発掘は,その目的が研究で て,文化財保護行政の権限は,中央の文化部長官   あれ,研究以外であれ,みな長官の許可を受けな が掌握しております(実質的には,文化財管理局   ければならないと規定され,保護の面ではまこと 長)。文化財の種別としては,有形文化財,無形   に強力でありますが,他方,肝心の包蔵地調査が 文化財,記念物ならびに民族資料の4種に分けて  むずかしいことから,日本に比べて徹底しており おり,伝統的建造物群の規定はありませんが,別   ません。そのため,包蔵されていると認定するこ 途に伝統建造物保存法が1984年に制定されており  とができるのか否かに関して議論の余地が残るわ ます。       けであります。70年代の末に,文化遺跡総合調査

無形文化財を含めて,自然的名勝や天然記念物   が行われました。その結果,1万ユ670件といった までをいっしょに規定しているとか,土地に包蔵  遺跡に対する資料が集成されたのであります。し されている文化財を埋蔵文化財として独立の章を  かし,また,その遺跡の重要度というのがはっき 設けているなど日本法と類似しております。制定   りされおらず,またそれに基づく分布地図がまと 当時の法は,埋蔵文化財の発見申告と発掘の許可   まっておらないので,国民周知のためにも積極的 だけを規定したのでありましたが,その後,国土  な広報が必要ではないかと思われております(もっ 開発に伴う文化財保護の緊急性が痛感され,73年   とも,ソウル付近については昨年立派に作成され の改正で建設工事などにより発掘規制が新設され  発刊されております)。また,文化部長官は,必 ました。       要と認める場合には,いつでも埋蔵文化財が包蔵 埋蔵文化財の保護制度は,いくつかの点で日本  されていると認定される土地を発掘することがで のと異なった特殊な性格を持っております。まず,  きます。そして,土地の所有者,管理者または占 文化部長官の諮問に応じて文化財の保存,管理な   有者はこれを拒否,妨害または忌避することがで らびに活用に関する事項を審査するために文化財   きないと規定されております。なお,国の機関が 委員会をおくことになっておりますが,その事務  行う大規模開発に伴う発掘も,法の建前では文化

はただ一定事項を審議するにとどまりますω。そ  部長官の許可を受けなければならないというわけ の審議は,文化財保護行政における処分の有効要  でありますが,各中央部省においては,慣例的に 件ではないのであります。       事前業務協議で解決することになっておりますも つぎに,埋蔵文化財という概念が成立したのは,  のの,しばしば開発と保存で部省間の衝突が起こ 保護法のなかに遺跡の保護制度をもりこむためで   り権限争いの原因となるのであります。こういつ はありましたが,それにもまして,韓国では従来   た場合には,日本と同じように,行政当局の政策 盗掘の横行や発掘品の流出がはげしかったことか  方向が解決の鍵となりましょう。

らその規制の面を強化するためにも,埋蔵文化財   勿論,建設工事のため已むを得ず発掘する必要 なる法概念を1つの章として設けざるをえなかっ  がある場合には文化部長官の許可を受けて発掘す たのであります。さらにもう1つの特殊性として  ることができるという規定は,国土開発により無 は,あらゆる発掘を許可制として強力に規制する  分別な埋蔵文化財の破壊に対する予防として大い

という44条の規定です(3)。これに比べて,日本の   に役立っております。特に,已むを得ずと規定す

(10)

ることによって,できれば,包蔵地を破壊するよ  盛り上がっていますが,韓国では,こういった動 うな工事はつつしむべきであるとの法解釈が可能  きは未だありません。こういう現状を踏まえて考 であるし,已むを得ない場合においても,埋蔵物  えれば,韓国での埋蔵文化財の実質的な保護は,

の発掘を慎重にしようとする,そういう法精神が  適切な法の規制と政府の行政運営のあり方にかかっ うかがわれると思います。      ていると言えるのです。しかしながら,元来,韓 そういう一方,ここにも問題は残されています。  国の国民性が伝統を重んじ,歴史と文化を誇りと 何が巳むを得ずなのか,その基準がとてもあいま  致しております。それに加えて,80年代に入って

いであるし,それに乗じて官僚により独断がない  国民の所得が大分高まるにつれ,文化に対する関 とは言えないからであります。ともあれ,その立  心も相当昂って来ました。1980年,第5共和国憲 法精神を尊重するならば埋蔵文化財の濫掘や破壊  法が成立するにあたり,その第8条として,文化 を避けることができるだろうと思われます。その  条項なるものが新設されました。この条項は,現 意味で,文化部長官のすぐれた法運営と,彼の諮  在の第六共和国憲法第9条と同じ内容ですが(5),

問に応じる文化財委員会の合理的運営が期待され  文化の発展を促進し歴史的芸術的遺産を保護する ているしだいであります。そういった法運営のよ  というように規定しているイタリア憲法第9条の い例として大学博物館の役割があります。韓国で  内容とも同じ趣旨であります。この規定は,プロ は,関係法によって総合大学には必要的機関とし  グラム的規定であるとはいうものの,文化財保護 て博物館の設置が義務化され,国家より遺跡の発  に対する基本法での直接的根拠になるものと理解 掘を委託されることが少なくないのです。     することによって,今後,韓国の文化財保護につ しかしながら,現在,韓国は大変きつい状況に  いては,前向きに発展することと私は思っており あります,住民自治の道は開けているものの,ま  ます。

だまだ南北統一の課題とか,国際収支での赤字を

抱えている状態です。将来,経済成長とか社会安   (注)

定につれ,遠からず所謂地方の時代とか文化の時   (1)[韓国文化財保護法]

代が到来することでありましょうが,現今は,開    第1条 この法は,文化財を保存し,これを活用す 発に伴う環境問題がまだまだきつい課題として残    ることによって,国民の文化的向上を図るとともに

されているのです。       人類文化の発展に寄与することを目的とする。

[日本文化財保護法]

第1条 この法律は,文化財を保存し,且つ,その

皿 文化財保護運動と文化財享有権       活用を図り,もって国民の文化的向上に資するとと

韓国においては,法第7次改正で文化財保護団    もに,世界文化の進歩に貢献することを目的とする。

体の支援育成を規定しました。しかし,学術団体   (2)日本では,第84条で文化財審議会がおかれ,第84 による文化財保護iの働きはありますけれども,経    条の2に「文部大臣は,次に掲げる事項については,

済的・社会的理由などによって,いまだ文化財保    あらかじめ,審議会に諮問しなければならない。」

護に対する民間組織的な盛りあがりは熟しており    との必要的審議事項の規定がある。

ません。また,文化財を享有する権利といつた意   (3)[韓国文化財保護法]

識もまだ定着していません。      第44条(発掘の制限) ①貝塚,古墳その他埋蔵文 日本においては,15年もの間争われて1989年6    化財が包蔵されていると認められる土地及び海底は 月に最高裁で棄却された伊場遺跡訴訟ωのおかげ    これを発掘することができない。ただし,次の各号 で文化財保護団体の活躍とか文化財を享有する国    の1に該当する場合には大統領令の定めるところに 民の権利,ひいては文化財の実態に対する研究が    より文化部長官の許可を受けたときは例外とする。

(11)

54      茨城大学政経学会誌 第60号

1.研究の目的で発掘する場合      限りではない。

2.建設工事のため巳むを得ず発掘する必要がある    ②略

場合       第57条の2(土木工事等のための発掘に関する 3.略 一      届出及び指示)

[日本文化財保護法]      ①土木工事その他埋蔵文化財の調査以外の目的℃

第57条(調査のための発掘に関する届出,指示及び     貝つか,古墳その他埋蔵文化財を包蔵する土地と 命令)      して周知されている土地を発掘しようとする場合

①土地に埋蔵されている文化財(以下「埋蔵文化     には,前条第1項の規定を準用する。

財」という。)について,その調査のため土地を   (4>最高裁平成1年6月20日判決(判例時報1334号 発掘しようとする者は,文部省令の定める事項を    201頁,判例タイムズ715号84頁)

記載した書面をもって,発掘に着手しようとする    (5)[韓国第六共和国憲法]

日の30日前までに文化庁長官に届け出なければな     第9条 国家は伝統文化の継承・発展と民族文化の らない。ただし,文部省令の定める場合は,この    暢達に努力しなければならない。

参照

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