特 集 呼吸器
ARDS (acute respiratory distress syndrome)
昭和大学医学部内科学講座(呼吸器アレルギー内科学部門)
田中 明彦
発 見
ARDS (acute respiratory distress syndrome) は 敗血症や外傷など何らかの基礎疾患および刺激に よって二次的に引き起こされる疾患である.その診 断は病理学的診断に基づくのではなく,臨床所見に よって決定される.1967 年,Ashbaugh らは,外傷,
脂肪塞栓,急性膵炎,肺炎,誤嚥など様々な原因に より急性呼吸不全が引き起こされた 12 名の症例を報 告し,複数の原因から同様の現象が出現することを 証明した.その臨床像と病理所見が新生児呼吸促迫 症 候 群(RDS:Respiratory distress syndrome) と 類似していたため ARDS (adult respiratory distress syndrome)と命名した1).つまり,当時 Ashbaugh らが命名した ARDS の A は adult で,現在の acute とは異なっていた.Ashbaugh らが示した ARDS の特徴は現在の診断基準とほぼ同じである.
診 断
ARDS の診断基準は 1994 年,米国の呼吸器学会 と欧州の呼吸器学会の共同で正式に制定された
(AECC 基準)2).表 1 に示される 1 から 4 のすべて を満たすものを ARDS とした.つまり, 急性で ,
呼吸不全(低酸素血症)があり , 両側肺に陰影 があり , 心不全でない 疾患が ARDS と定めら れた.その 18 年後の 2011 年秋,ベルリンで開催さ れた欧州集中治療医学会で新たな定義の素案が示さ れ,2012 年に JAMA 誌に新たな ARDS の基準と してベルリン定義(Berlin definition)が掲載され た3)(表 2).ベルリン定義は AECC 基準と比較し根 本的なところは同じであるが,実臨床を反映して一 部変更された.ベルリン定義のポイントを以下に述 べる.1)経過の急性発症が 1 週間以内と具体化さ れた.2)低酸素血症のレベルに従った呼称が変更
され,酸素化の測定の際の呼吸管理状態を統一化し た.酸素化障害に関しては AECC 基準もベルリン 定 義 も PaO2/FiO2(P/F) を 指 標 に し て い る.
AECC 基 準 で は PaO2/FiO2≦ 300 mmHg を ALI,
PaO2/FiO2≦ 200 mmHg を ARDS と し て い た が,
ベルリン基準では PaO2/FiO2 201 〜 300 mmHg を 軽 症 ARDS,PaO2/FiO2 101 〜 200 mmHg を 中 等 症 ARDS,PaO2/FiO2 100 mmHg 以下を重症 ARDS とした.つまり従来の ALI がベルリン定義の軽症 ARDS と な り, 診 断 名 が ARDS で 統 一 さ れ た.
ARDS の患者には人工呼吸器が装着され陽圧呼吸 管理がなされただけで酸素化が著しく改善する患者 が存在する.したがって,ベルリン定義では PaO2/ FiO2を測定する際は,軽症 ARDS と中等症 ARDS では PEEP (positive end expiratory pressure)もし くは CPAP(continuous positive airway pressure)
≧ 5 cmH2O, 重 症 ARDS で は PEEP (or CPAP)
≧ 10 cmH2O で呼吸管理した状態で酸素化を評価す るように基準が設けられた.3)両側肺の陰影に関 して浸潤影の記載が消失した.また,胸部 CT が補 助診断として位置づけられた.4)肺水腫に関して は,AECC 基準では肺動脈楔入圧≦ 18 mmHg また は理学的に左房圧上昇の所見がないとされていた が,心不全患者に ARDS が発症することや,ARDS の輸液管理における右心カテーテルの有用性につい て否定的な報告4)もあるため,ベルリン定義では心 不全や輸液過剰だけでは病態を説明できない呼吸不 全とされた.
実臨床おいて,ベルリン定義を満たすか否かを判 定することは容易である.ARDS を最終的に診断 する際に最も重要な点は,類似疾患(鑑別疾患)の 除外である.例えば,薬剤性肺炎や急性好酸球性肺 炎,ニューモシスチス肺炎などは,原則的に急性 で,両側肺のびまん性浸潤影を呈し,呼吸不全を伴
い,心不全でない疾患であるため ARDS と鑑別が 困難なケースが生じる.このような ARDS の類似 性疾患を除外することが,ARDS の診断には極め て重要であり,患者の治療方針および予後に多大な 影響を与える.
ベルリン定義で ARDS と診断された 356 例の剖検 肺の病理像を検討した報告では,ARDS の典型的な 病 理 像 で あ る び ま ん 性 肺 胞 領 域 障 害(diffuse alveolar damage:DAD)を呈する症例は重症でも 56%,中等症で 40%,軽症例に至っては 12%に過ぎ ないことが示された5).同報告では,ARDS の診断 基準を満たしながら DAD が存在しなかった患者の 病理所見では,肺炎が最多で約半数を占めていた.
病態と病理組織像
ARDS は臨床所見によって診断される疾患であ るため,多彩な病理組織像を有する.その中で最も 典型的所見が DAD であるが,DAD は傷害発生の 経過によって滲出期(exudative phase),増殖期
(proliferative phase), 繊 維 化 期(fibrotic phase)
に分類される(表 3).これらはそれぞれ,急性期,
亜急性期,慢性期とも呼ばれる.肺胞上皮や血管内 皮の傷害の発生から早期に,炎症細胞の肺胞腔内へ の浸潤,透過性亢進による浮腫,硝子膜の形成を特
徴とする所見を認める(滲出期).滲出期に続いて,
繊維芽細胞の増生,Ⅱ型肺胞上皮細胞の過形成像が 出現する.繊維芽細胞の増生は間質内から出現し,
肺胞腔内へ拡がっていく(増殖期).傷害発生から 約 10 日間が経過すると,膠原繊維の沈着による肺 構造のリモデリングが進行し不可逆性の変化を生じ ていく(繊維化期).増殖期と繊維化期はいずれも 繊維芽細胞の増生が主体となる変化であるため,最 近の考え方ではそれらに明確な境界性を引く必要が ないとも考えられている.DAD の特徴の一つは時 間的・空間的不均一性である.すなわち,ARDS を 起こした肺では同一症例であっても領域ごとに異な る病理組織学的所見を示す.なお,DAD は ARDS に特異的なものでなく,急性間質性肺炎や急性増悪 を起こした特発性肺線維症でも認められる.
ARDS において最も重要な役割を果たしている と考えられている炎症細胞は好中球と肺胞マクロ ファージである.肺胞上皮や血管内皮の傷害発生当 初に,活性化した好中球は毛細血管を含む末梢血管 から血管内皮,細胞外基質,基底膜,気道上皮と いった障害(バリア)を通過して肺胞腔へ浸潤する.
浸潤の過程において IL-1 や TNF-αといったサイト カインや IL-8 などのケモカイン,そして好中球エ ラスターゼをはじめとするプロテアーゼを産生して
表 1 AECC で決められた ARDS の診断基準(文献 2 より引用)
ALI
(acute lung injury)
ARDS
(acute respiratory distress syndrome)
経過 急性発症
酸素化 PaO2/FiO2≦ 300 mmHg PaO2/FiO2≦ 200 mmHg
胸部画像 胸部 X 線で両肺野の浸潤影
肺水腫 肺動脈楔入圧≦ 18 mmHg または理学的に左房圧上昇の所見がない
表 2 ベルリン定義による ARDS の診断基準(文献 3 より引用)
軽症 ARDS 中等症 ARDS 重症 ARDS
経過 既知の危険因子の侵襲もしくは呼吸症状の増悪または新たな出現から 1 週間以内 酸素化 PaO2/FiO2:201 〜 300 mmHg
(PEEP ≧ 5 cmH2O) PaO2/FiO2:101 〜 200 mmHg
(PEEP ≧ 5 cmH2O) PaO2/FiO2:≦ 100
(PEEP ≧ 10 cmH2O)
胸部画像 両側肺の陰影(胸水や無気肺,結節だけでは説明つかないもの)
肺水腫 心不全や輸液過多で説明のつかない呼吸不全
ARDS の病態形成に深く関与する.肺胞マクロ ファージは ARDS の原因となる基礎疾患もしくは 活性化好中球によって活性化され,IL-1 や IL-6 な どのサイトカインを産生し好中球同様,ARDS の 病態形成に関与する.
原因と疫学
ARDS の基礎疾患は直接損傷と間接損傷の 2 つ に大別される(表 4).直接損傷の中で比較的頻度 の高いものは肺炎と誤嚥であり,間接損傷の中で比 較的頻度の高いものは敗血症と外傷・熱傷である.
実臨床において,ARDS は急性でかつ緊急性の高 い疾患であるため,順序立てて検査を行い診断して いくことがしばしば困難である.したがって,原因 となりうる基礎疾患を念頭に置き,素早く鑑別し,
最短で基礎疾患と ARDS の診断を行うことが大切 である.また,基礎疾患を直接損傷と間接損傷に分
けることは,細胞レベルでの発症機序を理解するう えでも重要である.
わが国おける ARDS の疫学に関しては,急性呼 吸不全実態調査委員会の調査によると,ICU 入室 患者の 1.8%であった6).概算すると ICU に収容さ れる ARDS 患者は人口 10 万人あたり年 1.7 人とさ れる.また,千葉県において実施された織田らの調 査によると ARDS は人口 10 万人あたり年 6.1 人で あった7).前者で頻度が低かった理由としては,対 象が ICU への入退出患者に限定されていたことが 大きいと考えられる.米国での統計では,人口 10 万人あたり年 50 〜 80 人程度の発症頻度とされてお り8),公表された人数だけを見るとわが国の ARDS 患者数は米国と比較して少ない.人種的に日本人は ARDS が少ない可能性も指摘されているが,ARDS に関する疫学調査は,対象となる母集団,診断の正 確性によってその結果が著しく変わってくるため,
表 3 ARDS の病理組織学的所見 病理組織学的所見 滲出期 exudative phase
(傷害後 1 週間以内)
・特徴は硝子膜形成 (hyaline membrane)の形成
・間質および肺胞腔内の炎症細胞浸潤や浮腫,さまざまな程度の 出血が加わる
・毛細血管腔内には微小血栓が形成される 増殖期 proliferative phase
(傷害後 3 日後から)
・Ⅱ型肺胞上皮細胞の過形成像
・線維芽細胞の増生が肺胞腔内および間質に起こってくる 繊維化期 fibrotic phase
(傷害後 10 日〜 30 日後)
・線維芽細胞の増生や膠原繊維の沈着
・完全な肺構築の改変
表 4 ARDS のおもな基礎疾患
直接的肺傷害 間接的肺傷害
比較的頻度の高い原因 比較的頻度の高い原因
・肺炎 ・敗血症
・胃内容物の吸引(誤嚥) ・外傷 ・高度の熱傷 比較的頻度の低い疾患
・脂肪塞栓 比較的頻度の低い疾患
・再灌流傷害(肺移植後など) ・冠動脈バイパス手術
・溺水 ・人工心肺後
・煙や有毒ガスの吸入 ・急性膵炎
・放射線肺傷害 ・薬物中毒(パラコート中毒など)
・肺挫傷 ・輸血関連急性肺傷害(TRARI)
単純にわが国で ARDS 患者の発生頻度が低いとは 断定できない.
米国の ARDS に関する他施設共同大規模臨床研 究である ARDSNet による歴代無作為化比較試験の 結果によると,ARDS の死亡率は年々減少傾向に あり,近年では発症 60 日以内の死亡率は約 20%で あることが示唆されている8)(図 1).ただし,無作 為化比較試験に登録された患者群は研究選考基準に 従った比較的均一な患者群であるため,これらの データが一般臨床における死亡率を直接反映してい るかどうかは不明である.ARDS を発症した症例 では,人工呼吸器を装着しない場合は,ARDS が 直接的な死亡原因となることが多いが,人工呼吸器 を装着した場合の死亡原因は ARDS 以外の疾患,
例えば敗血症や多臓器不全であることが多い.
ARDS の予後予測因子としては,CT 画像における 牽引性気管支拡張像が有用である9).その他では,
KL-6 や PaCO2のレベルが高いことも予後と関連す ることが示されている10).
治療(薬物療法)
ARDS に対する治療の原則は,ARDS の原因と なっている基礎疾患に対する治療である.特に,実 地臨床において ARDS の原因として最も多いもの は敗血症であるため,感染症の管理は重要である.
ARDS 自身に対する薬物療法に関しては,様々な 薬剤の臨床治験が実施されてきたが,世界的に実施 された大規模な臨床試験で有効性が実証され,その 再現性が確認された薬剤は今のところ存在しない.
つまり,ARDS に対する標準的薬物療法は存在し ない.ただし,ステロイドと蛋白分解酵素阻害剤に 関しては,その有効性を示唆する報告が散見される ため,ARDS の診療の際には,その使用を考慮し なければならない.
ステロイドの ARDS に対する効果に関しては 様々な報告があるが,その多くの研究において,短 期効果はあるが長期の予後改善効果がないことが示 されている.ARDSNet で実施された 91 名のプラ セボ群と 89 名のメチルプレドニゾロン(mPSL)
群の二重盲検比較試験の結果によると,mPSL は介 入後 28 日間における人工呼吸器使用期間と ICU の 滞在期間を短縮させたが,長期的な予後改善効果は なかった11).また,Meduri らは mPSL が人工呼吸
器使用期間と ICU の滞在期間を短縮させ,ICU で の死亡率も減少させることを報告した.最近,8 つ のランダム化比較試験と 10 のコホート試験がそれ ぞれメタ解析され報告された12).その結果,ランダ ム化試験のメタ解析では,ステロイドは ICU での 死亡率を低下させたが,入院後 60 日間の死亡率に は影響を与えなかった.一方,コホート試験のメタ 解析では,ステロイドは ICU での死亡率も入院後 60 日間の死亡率にも影響を与えなかった.ただし,
ARDS の基礎疾患別解析では,敗血症の ARDS に 関しては影響を与えなかったが,コホート試験のメ タ解析の結果,ステロイドはインフルエンザ関連の ARDS に対しては死亡率を悪化させた(表 5).以 上より,ステロイドには短期効果は期待できるが,
長期的に死亡率を低下させるほどのエビデンスは現 在のところ得られていない.
好中球エラスターゼはおもに好中球の顆粒内に含 まれるセリンプロテアーゼの一種で,抗細菌活性や 炎症を惹起するなど様々な生理活性を持つ.好中球 エラスターゼの過剰産生は血管内皮の基底膜の破壊 に関与し ARDS の病態形成に関与する.好中球エ ラスターゼ阻害剤であるシベレスタットが ARDS 患者の酸素化を改善し,人工呼吸器使用期間および IUC の滞在期間を短縮させることがわが国から報 告され,2002 年から全身性炎症反応症候群(SIRS)
に伴う急性肺障害の治療オプションとして加わっ た.しかしその後,492 名の人工呼吸器使用患者を 対象に欧米で実施された STRIVE 試験では,好中
図 1 ARDSNet による歴代無作為化比較試験における 60 日以内の死亡率(文献 9 より引用)
球エラスターゼ阻害剤は人工呼吸器使用期間および 28 日間の死亡率を短縮させなかった13).その後も,
8 つの臨床研究のメタ解析でも,有効性が確認され ず好中球エラスターゼ阻害剤は世界的市場に出回る ことはなかった14).
ARDS に対してはこれまでのところ確固たるエ ビデンスを有する薬剤はないが,現在,スタチン,
サルブタモール(吸入),オメガ 3 脂肪酸,ヘパリ ン,アスピリン,サーファクタントなど様々な薬剤 の効果が期待されており臨床研究が行われている.
また,今後は分子標的薬などの出現も期待される.
一方,現状では,ARDS は診断基準の特質上その 診断基準を満たしても,前述したように実際の診断 はニューモシスチス肺炎や間質性肺炎(特に NSIP)
などステロイドが著効を示す疾患が含まれる.した がって,ARDS の診断基準を満たす患者に対しては,
ステロイドの使用を積極的に考慮すべきである.ス テロイドを使用した場合は,その効果とその後の検 査結果を総合判断し,その使用期間を注意深く検討 することが大切である.
治療(非薬物療法)
ARDS に対する非薬物療法には,呼吸管理,循 環管理,(非薬物療法による)感染症対策,栄養管 理,体位ドレナージなどが含まれる.呼吸管理の原 則は肺保護換気戦略(lung protective strategy)で ある.肺保護換気戦略は ARDS に関する人工呼吸
管理法において唯一エビデンスをもつ管理法で,肺 胞過伸展(over-distention)の防止,肺胞虚脱再開 通(collapse and reopening)の防止,高濃度酸素 暴露からの回避の 3 本の柱で形成される.Amato らは従来の基準であった 12 ml/kg の換気と従来は 低用量と考えられていた 6 ml/kg の換気で ARDS 患者の予後を比較したところ,6 ml/kg の患者群の 予後が良好であったことを報告した15).その後,
ARDSNet にて同様の調査研究が行われ,6 ml/kg 換気群では 12 ml/kg の換気群と比較し院内死亡率 は減少し,人工呼吸補助管理の離脱率は上昇し,人 工 呼 吸 器 使 用 期 間 は 短 縮 す る こ と を 報 告 し た
(ARMA 試験)16)(表 6).同調査では両群に圧外傷 の比率に差はなかったため,6 ml/kg の低用量換気 の方が優れていた理由は圧外傷が少ないこと以外に 肺胞過伸展の防止が関与していると考えられた.肺 胞虚脱再開通の防止には PEEP が有効である.わ が国と比較し欧米では high PEEP が使用される傾 向があるが,high PEEP 群(平均 13.2 cmH2O)と low PEEP 群(平均 8.3 cmH2O)で ARDS 患者の死 亡率の比較を行った ALVEOLI 試験では 2 群間に 有意差を認めなかった17).他の追従する研究でも同 様の結果が出ており,ARDS 患者に対する PEEP は酸素化を見ながら 5 〜 15 cmH2O で調節していく のが望ましいと考えられる.虚脱した肺胞を再開通 し 含 気 を 取 り 戻 す 方 法 と し て 肺 胞 開 存 手 技
(Recruitment Manoeuver)があるが,その方法は
表 5 基礎疾患別 ARDS に対するステロイドの効果(文献 13 より引用,一部改変)
ARDS の原因 調査研究数 患者数 リスク比
全症例
ランダム化試験 3 370 0.88(0.65 〜 1.18)
コホート試験 4 238 1.12(0.78 〜 1.60)
インフルエンザ関連
コホート試験 3 283 2.45(1.40 〜 4.27)**
敗血症関連
ランダム化試験 2 201 0.50(0.12 〜 2.02)
コホート試験 2 208 1.04(0.58 〜 1.85)
手術関連
コホート試験 1 20 0.10(0.01 〜 0.63)*
*P-value < 0.05 **P- value < 0.005
複数あり,その有効性に関してもまだ十分なエビデ ン ス が 集 積 し て い る と は 言 え な い. 以 上 よ り,
ARDS 患者に対する人工呼吸器の原則は,過度な 吸気圧(特にピーク圧)を防ぐために圧換気モード で設定し,ピーク圧は 30 cmH2O 以下を目標とし,
適切な PEEP を設定する.低酸素血症が著しいと きは酸素化の目標をあまり上げ過ぎず,高濃度酸素
(特に FiO2 70%以上)投与期間を最短にするよう に調節することが大切である.
ARDS では高頻度で心不全を合併するため軽度の ストレスでも心不全が増悪する可能性がある.ま た,多臓器不全の一つとして腎障害も高頻度に合併 するため尿量が一定しないことが多く,尿量の頻回 な確認とそれに応じた輸液管理が必要である.それ らを考慮した循環管理は ARDS の治療において非 常に重要である.(非薬物療法による)感染症対策 としては人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防がある.
具体的にはカフ圧の適正化,カフ上部分泌物の吸 引,人工呼吸器回路の清掃などが重要である.ま た,ARDS 患者ではもともと両側肺に浸潤影が存在 するため VAP の存在に気付かないことが多いので,
その点を認識し VAP 予防を行う.ARDS に対する 栄養管理に関しては,循環動態の安定している患者 に対しては早期からの経腸栄養が推奨される18).過 去の報告によると,経腸栄養の早期からの投与開始 によって新たな感染症発生の予防が期待できる.し かし,多くの報告では,早期から経腸栄養を開始す る群と遅れて開始する群とで死亡率に有意差を認め ていない.循環動態の不安定な ARDS 患者に対し ては,早期からの経腸栄養の利点を証明した報告は なく,現時点では循環動態が安定するまで開始を保 留することが推奨されている.ARDS 患者に対す る定期的な体位変換は必須である.定期的に側臥位
にすることによって無気肺の出現を予防することが 可能となり,腹臥位への体位変換は生命予後改善効 果も証明されている19).
お わ り に
新たな診断基準(ベルリン定義)が導入された ARDS であるが,実臨床においては診断に苦慮す ることがしばしばあり,有効性の高い薬剤も存在し ない.したがって,現時点では,原疾患を正しく診 断し,ARDS とその鑑別疾患を十分に考慮し病態 の把握に努め,それらをもとに治療方針を組み立て ていくことが重要である.また,今後は ARDS の 診断および病勢マーカーとして有効なバイオマー カーの発見とその臨床応用が期待される.同時に,
ARDS に対する有効な治療薬の開発も期待される が,そのためには ARDS のさらなる病態解明が必 要である.
文 献
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変数 低用量換気群
(6 ml/kg) 従来法による換気群
(12 ml/kg) P 値
院内死亡率(%) 31 39.8 0.007
28 日までの補助換気離脱率(%) 65.7 55.0 < 0.001
人工呼吸を要しなかった日数(日,1 〜 28 日) 12±11 10±11 0.007
気圧性外傷率(日,1 〜 28 日) 10 11 0.43
肺以外の臓器不全または全身障害がなかった日数(日,1 〜 28 日) 15±11 12±11 0.006
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