福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009)
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大豆煮汁の乳酸菌によるγ-アミノ酪酸の生産
古田 正範*1 黒田 理恵子*1 塚谷 忠之*1 樋口 智子*1 廣藤 祐史*1 宮川 浩*2 牟田 誠一*2 州崎 収*2
The Production of γ-Aamino butyric Acid by Lactic Acid Bacteria in Soybean Broth
Masanori Furuta
,Rieko Kuroda
,Tadayuki Tsukatani
,Tomoko Higuchi
,Yushi Hirofuji Hiroshi Miyagawa
,Seiiti Muta and Osamu Suzaki
味噌製造の蒸煮工程で副産され廃棄されている大豆煮汁の有効な利用方法を検討した。当研究所で保有している 乳酸菌 1500 株の中から GABA を効率良く生産する乳酸菌を選定し,大豆煮汁にこの乳酸菌を添加し,乳酸発酵によ り 36mg/100ml の GABA を生産した。更に大豆煮汁にグルタミン酸を添加(0.05〜0.1%(w/v)で試験)することによ り,多くの GABA が生産された(46〜79mg/100ml)。機能性試験においては,高い ACE 阻害活性と DPPH ラジカル消 去能があり,α-グルコシダーゼ阻害活性やα-アミラーゼ阻害活性の機能性も有することが分かった。GABA を含 む乳酸発酵液を添加して,パンを試作することにより,食品素材として利用することを試みた。
1 はじめに
味噌製造の蒸煮工程で副産され,排水処理装置によ り処理,廃棄されている大豆煮汁について,機能性検 索,乳酸菌による GABA(γ-アミノ酪酸:血圧降下を はじめ,様々な健康効果をもたらすことが確認されて いる)の生成を行い,食品素材として利用法を検討し た。大豆煮汁の成分分析,機能性( in vitro )検索を 行うとともに,当所で有する約 1500 株乳酸菌ライブ ラリーより GABA を高率に生成する乳酸菌を選定し,
乳酸発酵により GABA を生成付加した大豆煮汁を調製 し食品素材として利用を試みた。
2 研究,実験方法 2-1 供試大豆煮汁
試験に供した大豆煮汁は,水を加え一晩浸漬後,排 水,再び水を加え(大豆 1600kg に対し凡そ水 2.5m
3),
内部圧 1kg で泡が吹くまで蒸煮加熱後排水された煮汁 である。
2-2
GABA 生産乳酸菌
当所で有する乳酸菌株の中より GABA 高生産菌株と して既知の NBRC12005 株を対照に,高生産株のスクリ ーニングを行った。GABA は酵素法により 96 穴マイク ロプレートを用いた塚谷らの測定法により行った。
2-3 大豆煮汁から乳酸発酵による GABA 生成試験
味噌製造工場現地での GABA 生成試験を 3 回行った。
選定した GABA 高生産乳酸菌株 3 株(59-2,59-23,
95-2)の各スターターを 1%(v/v)量添加,約 5 日間 室内に放置し乳酸発酵した。2 回目の試験ではグルタ ミン酸を 0.05%(w/v),3 回目は 0.1%(w/v)量添加 し同様に試験を行った。サンプリングし pH,ブリッ クス,菌数,有機酸,GABA を測定した。
2-4 機能性試験(
in vitro
) 2-4-1 DPPH ラジカル捕捉能対 照 と し て 抗 酸 化 性 が 高 い と 思 わ れ る カ テ キ ン
( Catechin hydrate minimum) M.W.( 290.27+18n):
12.5〜400μmol 濃度溶液のラジカル消去能を測定し 検量線よりカテキン相当量を推定した。
2-4-2 ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害活性
ACE 阻害活性は Lieberman 変法によって測定した。
阻害率(%)=
(Control O.D.-Sample O.D.)/Control O.D.×100 なお,以下の検討したすべての活性について,阻害率 はこの式に準じて求めた。
2-4-3 α-アミラーゼ阻害活性
豚膵臓由来α-アミラーゼを酵素として,p-Nitroph enyl-α-D-maltopentaoside を基質として用い,リン 酸緩衝液(pH7)中で反応させた。37℃ 60min 反応後 の生成物を 405nm の吸光で測定した。
*1 生物食品研究所
*2 ニビシ醤油株式会社古賀工場
福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009)
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2-4-4 α-グルコシダーゼ阻害活性
基質はp-Nitrophenyl-α-D-glucopyranosideを用い,
α-アミラーゼと同様に阻害活性を求めた。
2-5 食品素材への利用の検討
GABAを含有した大豆煮汁を使用しパンを試作し,発 酵及び焼き上げによるGABAの損失について検討した。
パン1個(約42g)当たり,(a)パン酵母0.48g添加発 酵,焼き上げ(b)パン酵母添加無し,焼き上げ(c)
パン酵母添加無し,練ったまま焼き上げせずの3種類 サン プ ルを 調 製し 焼 き上 げ 及び パ ン酵 母 発酵 に よる GABAの損失量を検討した。
3 結果と考察
3-1 供試大豆煮汁成分
分析の結果,水分 96.5,たんぱく質 0.9,脂質 0.0 1 以下,灰分 0.4,炭水化物 2.2,L-グルタミン酸 8mg /100ml であつた。
3-2 GABA生産乳酸菌
GABA 高生産菌株をスクリーニングし起源が食品由 来の菌株で,発酵液の官能試験でも良好に思われた 5 9-2,59-23,95-2 の 3 株を選定した。
乳酸菌の生物学的同定の結果,59-2 乳酸菌:Lacto coccus lactis ssp. Lactis,59-23 乳酸菌:Leucono stoc 属(Leuc. paramesenteroides / Leuc.mesenteroi desssp.mesenteroides DNA-DNA ホモロジーによる確 認が必要),95-2 乳酸菌:Lactococcus lactis ssp.
Lactis と分類された。
3-3 大豆煮汁から乳酸発酵によるGABA生成
GABA測定の結果,大豆浸漬により生成したと考えら れるGABAが煮汁に17〜19mg/100mlのGABAが含まれてい た。更に乳酸発酵によりL-グルタミン酸がGABAへ変換 された。発酵5日後のGABA生成量はグルタミン酸無添 加の煮汁では36mg/100ml,一方,グルタミン酸0.05%
(w/v)添加で最大46mg/100ml,0.1%(w/v)の添加で最 大79mg/100mlであった。グルタミン酸からGABAへの変 換率は乳酸菌59-2で87〜90%(w/v),59-23で84〜85%
(w/v),95-2で78〜84%(w/v)と計算された。
3-4 機能性試験結果(
in vitro
) 3-4-1 DPPHラジカル捕捉能初発煮汁のDPPH消去能測定値は52%で0.39mMカテキ ン濃度溶液相当と推測され抗酸化性を有することがわ かった。また5日経過後発酵煮汁のDPPH消去能測定値
は平均57%で0.43mMカテキン濃度の溶液相当のDPPHラ ジカル補足能と推測され,発酵による有為差は認めら れなかったが,発酵後も高い抗酸化性を維持している ことがわかった。
3-4-2 ACE阻害活性
100 倍希釈した場合でも,大豆煮汁には 80%程度の 阻害活性が認められ,強い阻害効果を有していること が示唆され,また,発酵処理した場合も阻害効果の著 しい低下は認められなく,大豆煮汁および発酵液サン プルについて,血圧上昇を抑制する効果が期待された。
3-4-3 α-アミラーゼ,α-グルコシダーゼ阻害活性
α-アミラーゼ,α-グルコシダーゼともに阻害活性 が確認され,乳酸発酵後も阻害活性の減少は見られな かった。血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待され,
その有効性については,さらに検討が必要である。
3-5 食品素材への利用の検討
GABAを生成させた大豆煮汁の応用例としてパンを 試作した。大豆煮汁にグルタミン酸を0.1%(w/v)の添 加した試験では最大79mg/100mlのGABAが生成され,パ ン 1 個 に 添 加 す る 乳 酸 菌 発 酵 煮 汁 が 15ml と す る と 11.8mgのGABAが含まれ,パン酵母発酵と焼き上げによ る損失を40%としてもパン2個を食すれば14mgのGABAを 摂取出来ると計算された。
4 まとめ
GABAは血圧が高めの人(軽症高血圧や正常高値の人が 毎日10mgの飲食を継続すれば血圧降下の効用があると 言われている(特定保健用食品PR等)。大豆煮汁から は選定した乳酸菌株の使用により36mg/100mlのGABAを 生成でき,グルタミン酸の添加で更に多くのGABAを生 成(46〜79mg/100ml)できた。また煮汁そのものに大 豆 浸 漬 に よ り 生 成 し た と 考 え ら れ る GABA が 17 〜 19mg/100ml含まれていた。更に大豆煮汁に高いACE阻 害活性,DPPHラジカル消去能があり,α-グルコシダ ーゼやα-アミラーゼ阻害活性の機能性もあること,
乳酸発酵後もその機能を有していること等を明らかに した。
5 掲載論文