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天理よろづ相談所学術発表会 2014 Tenri Medical Bulletin 2015;18(2):70-74 DOI: /tenrikiyo 乳癌における FISH 法を用いた HER2 遺伝子増幅の検出 奥村敦子 1 *, 中川美穂 1, 林田雅彦 1, 安田

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* 連絡先 : 奥村敦子 〒 632-8552 天理市三島町 200 天理よろづ相談所 医学研究所 e-mail: [email protected]

天理よろづ相談所 学術発表会 2014

乳癌における FISH 法を用いた

HER2

遺伝子増幅の検出

奥村敦子

1

*, 中川美穂

1

, 林田雅彦

1

, 安田正利

2

, 本庄 原

3 受付2015/7/31, 受理 2015/9/1, online 公開 2015/12/25 目的: 当施設では,約 10 年前から,コンパニオン診断として FISH 法を用いた乳癌 HER2 検査を実施している.今回, 過去 3 年間の実績を紹介し,本法の問題点を考察した.

対象および方法: 2011 年から 3 年間に乳癌と診断され,IHC 法による HER2 検査を実施した 521 例のうち, IHC ス コア 2+ で FISH 法を追加実施した 91 例を対象とした.プローブは PathVysion HER-2 DNA Probe Kit を用い,癌細 胞 20 個以上について HER2 および CEP17 シグナル数をカウントし,HER2/CEP17 比< 2.0 を陰性,HER2/CEP17 比≧ 2.0 を陽性と判定した.

結果および考察: FISH 法による HER2 検査結果は,陽性 14 例 (15%),陰性 77 例 (85%) であった.陽性群では, HER2 シグナル数が平均 6.5 個(2 ~ 30 個),CEP17 シグナル数が平均 2.0 個(1 ~ 5 個),陰性群では,HER2 シ グナル数が平均 3.2 個(1 ~ 14 個),CEP17 シグナル数が平均 2.8 個 (1 ~ 9 個 ) であった.陰性群における HER2 遺伝子増加の多くは,17 番染色体の polysomy に伴うものであった.多くの症例では,陽性・陰性の判定は容易 であったが,HER2/CEP17 比がカットオフ値に近い症例のなかには,判定結果の信頼性が低いと考えられる症例が あった.FISH 法による HER2 検査は,ホルマリン固定薄切標本を用いるため,個々の癌細胞のシグナル数を正確 にカウントすることがしばしば困難である.より正確な判定のためには,ホルマリン固定薄切標本の性状を理解し, 癌領域全体を観察することが重要と考えられた.

キーワード: 乳癌,HER2遺伝子増幅,IHC 法,FISH 法,ホルマリン固定薄切標本

1天理よろづ相談所 医学研究所

2天理よろづ相談所病院 臨床検査部

3天理よろづ相談所病院 病理診断部

緒言

 HER2(human epidermal growth factor receptor 2) は,細胞表面に存在する受容体型チロシンキナー ゼの一つである.HER2 は正常細胞にも僅かに存 在するが,過剰発現や活性化は細胞増殖や癌化に 関わっている.乳癌では,約2 割の症例に HER2 の過剰発現が認められ,その原因の約9 割は,17 番染色体上に位置するHER2 遺伝子の増幅に起因 するとされている.HER2 過剰発現と HER2 遺伝子 増幅は,2001 年に承認された分子標的治療薬であ るトラスツズマブ(HER2 抗体)の適応を決定す る上での判断基準となっている.適正な治療を実 施するためには,HER2 過剰発現・HER2 遺伝子増 幅の有無を正確に判定することが重要である. HER2 過剰発現の判定には,HER2 蛋白の染色 パターンと強度をスコア化して過剰発現を評価す る免疫組織化学染色 (immunohistochemistry; IHC) 法が,HER2 遺伝子増幅の判定には,HER2 遺伝 子を蛍光シグナルとして可視化して遺伝子増幅 を判定する蛍光in situ ハイブリダイゼーション

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れる.わが国では,トラスツズマブ病理部会によっ てHER2 検査フローチャートが提唱されている. すなわち,まず汎用性の高いIHC 法によってスコ ア0 ~ 3+ に分類し,判定保留領域のスコア 2+ に 対してFISH 法を追加して陽性と陰性に分類する手 順である.当施設においても,コンパニオン診断 としてFISH 法を導入した約 10 年前から,スコア 2+ の症例に限って,FISH 法による HER2 検査を 実施している. IHC 法が半定量的な方法であるのに対して, FISH 法は遺伝子数をカウントする方法であるた め,客観的で再現性の高い正確な手法であるとさ れているが,実際には様々な問題点を有している. 今回,当施設における過去3 年間の実績を踏まえ て,FISH 法による HER2 検査の問題点を考察した. 対象  2011 年 1 月から 2013 年 12 月までに乳癌と診断 さ れ,IHC 法 に よ る HER2 検 査 を 実 施 し た 症 例 は521 例であった.そのうち,IHC スコア 2+ で, FISH 法を実施した 91 例を対象とした.性別は, 女性89 例,男性 2 例,年齢は 30 歳から 87 歳(平 均57.6 歳)であった.なお,FISH 法導入時の IHC 法とFISH 法の比較検討において,IHC スコア 2+ を 除 く と, 両 法 の 一 致 率 が96%(70 例中 68 例) と高かったことを踏まえ,不一致例を多く認めた IHC スコア 2+ の症例に限って FISH 法を実施した. 方法  FISH 法 に よ る HER2 検 査 は, ト ラ ス ツ ズ マ ブ 病 理 部 会 が 作 成 し たHER2 検査ガイド1に 基 づいて,PathVysion HER-2 DNA Probe Kit(Abbott Laboratories. Abbott Park, IL, U.S.A.) を用いた.判

定は,癌細胞を20 個以上観察し,HER2 シグナル 数とCEP17(17 番染色体のセントロメア)シグナ ル数の比を算出し,HER2/CEP17 比< 2.0 を陰性, HER2/CEP17 比≧ 2.0 を陽性とした(図 1).FISH 検査の実施に先立って,病理医と共にHE 染色標 本とHER2 の IHC 標本を観察し,癌細胞を確認す るとともに観察領域を決定した.FISH シグナルの カウントは,熟練した検査技師2 名で実施した. なお,FISH 標本の観察に際しては,薄切標本であ ることと腫瘍細胞の不均一性を考慮して,癌領域 全体におけるシグナル数を把握するように努めた. 結果および考察  乳癌 521 例の IHC 法による判定結果は,スコア 0 が 276 例 (53%),スコア 1+ が 82 例 (16%),ス コア2+ が 96 例 (18%),スコア 3+ が 67 例 (13%) であった.スコア2+ の 96 例のうち,91 例につい てFISH 法を実施した結果,陽性が 14 例 (15%), 陰性が77 例 (85%) であった(図 2).陽性群では,

PathVysion HER-2 DNA Probe Kit は, 17q11.2-q12 に位置す る HER2 遺伝子プローブ (赤で標識) と 17 番染色体のセント ロメアにハイブリダイズする CEP17 プローブ (緑で標識) から なる.正常細胞では赤 2 個緑 2 個のシグナルパターンを示すが, HER2 遺伝子増幅細胞では緑 2 個であるのに対して赤が増加 (この図では 6 個), 17 番染色体 polysomy 細胞では赤と緑が 同じ数だけ (この図では 6 個) 増加する. 遺伝子増幅陽性判 定のカットオフ値は 2.0 とした. 図 1. FISH 法による HER2 検査の原理を示す模式図 陽性 HER2(6個) =3.0 CEP17(2個) HER2 CEP17 陰性 HER2(6個) =1.0 CEP17(6個) Polysomyによる増加 正常細胞 HER2遺伝子増幅 図 2. 2011 年から 2013 年に診断した乳癌症例 521 例の HER2 検査結果 .IHC 法スコア 2+ の 96 例 (18%) のうち 91 例に対して FISH 法による HER2 検査を実施した. FISH法 スコア2+ 96例 (18%) 陰性: 77例 陽性:14例 未検査:5例 スコア0 276例 (53%) スコア1+ 82例 (16%) (n = 521) スコア3+ (13%) 67例 FISH法

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図 4. FISH 法による HER2 検査の具体例 . (A) 陽性症例, (B) 陰性症例. HER2 シグナル数が平均 6.5 個(範囲:2 ~ 30 個), CEP17 シグナル数が平均 2.0 個(範囲:1 ~ 5 個), 陰性群では,HER2 シグナル数が平均 3.2 個(範囲: 1 ~ 14 個),CEP17 シグナル数が平均 2.8 個(範囲: 1 ~ 9 個)で(図 3),多くの症例では,陽性・陰 性の判定は容易であった(図4).  陰性症例のHER2 シグナル数の増加の多くは, HER2 シグナル数とともに CEP17 シグナル数も増 加していることから,17 番染色体数の増加(17 番 染色体polysomy)に起因すると考えられた.図 3 の領域A に分布する 4 症例は,いずれも HER2 シ グナル数が約6 個に増加しているが,CEP17 シグ ナル数が約2 個と 3 個の 2 例は HER2 遺伝子増幅 陽性と判定されるのに対して,CEP17 シグナル数 が約5 個の 2 例は HER2 遺伝子増幅陰性と判定さ れる.このような17 番染色体 polysomy に起因す るHER2 遺伝子数の増加は,HER2 遺伝子増幅とは みなされない(図1).  一方,図3 の領域 B に示す様に,陽性・陰性両 群の境界付近には陰性症例が分布している.最も 陽性領域に近かった症例C では,HER2 シグナル 数が平均5.5 個,CEP17 シグナル数が平均 2.8 個, HER2/CEP17 比 1.9 であったため陰性と判定した. しかし,個々の癌細胞をみると,図5 に示すよう にシグナル数のバラツキが大きく,癌組織内での 不均一性が示唆された.この様な症例は,FISH 検 査による判定の信頼性が低い可能性があるため,

図 3. FISH 法による HER2 シグナル数と CEP17 シグナル数 (各症例の癌細胞 1 個あたりの平均値) の分布 HER2/CEP17 比≧ 2.0 を陽性と判定した. 領域 A, 領域 B, 症 例 C については本文参照. 陰性(77例) 比:2.0未満 CEP17平均シグナル数 H E R 2 平均シ グ ナ ル 数 領域 B 領域A 症例C 陽性(14例) 比:2.0以上 0 2 4 6 8 8 6 4 2 0 HER2(28個) = 9.3 CEP17(3個) 0 HER2(2個) = 1.0 CEP17(2個) A B 報告書には,シグナル数のバラツキについても記 載することにしている.  最後に,当院でのFISH 法による HER2 陽性率と, 他施設のデータを比較した(表1)2-5.IHC 法の スコア2+ 症例における FISH 陽性率は,当院では 15% であったが,検索した 5 施設では,3% から 25% であった.一方,IHC 法によるスコア別割合 も各施設で大きく異なっていた.このような施設

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図 5. 症例 C の FISH

細胞によって HER2, CEP17 シグナル数にバラツキが認められる. 右の 2 個の細胞は HER2/CEP17 比 2 であるので, HER2 遺伝子増 幅陽性細胞である可能性があるが, 左のようなカットオフ値以下の細胞が混在するため, 全体としては陰性と判定することになる. 0 HER2(4個) = 1.3 CEP17(3個) 0 HER2(6個) = 2.0 CEP17(3個) 0 HER2(12個) = 2.0 CEP17(6個) 間格差の原因の一つとして,FISH 標本の作成方法 の違いがあげられる.FISH 法による HER2 検査は, ホルマリン固定薄切標本を用いるので,シグナル が欠失したり,細胞が隣接するために境界が不明 瞭になったり,標本の厚みによって細胞が重なっ たりするため,個々の癌細胞のシグナル数を正確 にカウントすることはしばしば困難である.従っ て,FISH 法による HER2 検査は,実際には,判定 に差が出る不安定な検査であるとも考えられた. 結語  乳癌のHER2 検査において,IHC 法スコア 2+ 症 例のFISH 法による陽性率は 15%(91 例中 14 例) であった.陰性群のHER2 シグナル数の増加の多 表 1. FISH 法による HER2 陽性率の他施設との比較 スコア 0 1+ 2+ (FISH 陽性率 ) 3+ 当 院 (2013) 53% 16% 18% (15% : 14/91 例 ) 13% 和田ら (2013) 49% 22% 17% (18% : 3/17 例 ) 13% 加藤ら (2007) 4% 9% 60% ( 3% : 2/78 例 ) 28% 津田ら (2001) 34% 43% 9% (25% : 5/20 例 ) 14% Mass ら (2000) 40% 6% 17% (24% : 21/88 例 ) 37% HER2 検査ガイド第 3 版,トラスツズマブ病理部会 編,中外製薬,東京,2009. 和田光平,原 智代,林 修平,他.乳癌における HER2 検査,IHC 法と FISH 法の比較検討 ( 会議録 ). 日本農村医学会雑誌.2013;62:426.

加藤法男,岩本久司,高頭秀吉,他.当院における 乳癌HER2 検査法の現状 . IHC 法と FISH 法の比較. 長岡赤十字病院医学雑誌.2007;20:39-44.

Tsuda H, Akiyama F, Terasaki H, et al. Detection of HER-2/neu (c-erb B-2) DNA amplification in primary breast carcinoma. Interobserver reproducibility and correlation with immunohistochemical HER-2 overexpression. Can-cer 2001;92:2965-2974.

Mass RD. Sanders C, Charlene K, et al. The concordance between the clinical trials assay (CTA) and fluorescence in situ hybridization(FISH) in the Herceptin pivotal trials (abstract).Proceedings of Am Soci Clin Oncol 2000;19:75a 1. 2. 3. 4. 5. 参考文献 くは,17 番染色体 polysomy に起因するものであっ た.一部の症例では,癌組織内でのシグナル数の 不均一性が示唆された.ホルマリン固定薄切標本 の性状を理解した上で,FISH 標本を慎重に観察す ることが重要であると考えられた.

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Application of fluorescence in situ hybridization testing for the amplification of

HER2 gene in breast cancer

Atsuko Okumura

1

, Miho Nakagawa

1

, Masahiko Hayashida

1

, Masatosi Yasuda

2

, Gen Honjo

3

1Tenri Institute of Medical Research; 2Department of Laboratory Medicine, Tenri Hospital; 3Department of Diagnostic Pathology, Tenri Hospital

Purpose: Ten years ago, we introduced fluorescence in situ hybridization (FISH) into clinical practice as a

companion diagnostic test for HER2 gene amplification in breast cancer. We summarize here our FISH data during the last 3 years, and discuss the points at issue of this diagnostic test.

Patients and methods: Of a total of 521 cases diagnosed with breast cancer and investigated for HER2

expression by immunohistochemistry (IHC) between 2011 and 2013, 91 cases with IHC score of 2+ were subjected to the FISH test. Using the PathVysion HER-2 DNA Probe Kit, we counted the number of HER2 and CEP17 signals in 20 or more cancer cells, and a ratio of HER2/CEP17 ≥2 was defined as positive for HER2 amplification, while a ratio <2 was defined as negative.

Results and discussion: Fourteen (15%) cases were FISH positive and 77 (85%) cases were FISH

negative for HER2 amplification. In the FISH-positive group, the mean HER2 signal number per nucleus was 6.5 (range, 2~30) and that of CEP17 was 2.0 (range, 1~5), while in the FISH-negative group, the mean HER2 signal number was 3.2 (range, 1~14) and that of CEP17 was 2.8 (range 1~9). Increased HER2 signal numbers in the negative group were mainly attributable to polysomy of chromosome 17. Although the assessment of test results in the majority of cases was undemanding, there were equivocal cases in which the HER2/CEP17 ratio was close to 2.0. In FISH specimens prepared from formalin-fixed paraffin-embedded tissues, nuclear truncation by sectioning leading to loss of DNA material can occur, and non-overlapping intact nuclei for scoring and areas of invasive tumor may not necessarily be identified. Thus, a considerable amount of practice with FISH assay is necessary to correctly define the presence of a FISH abnormality.

図 3.  FISH 法による HER2 シグナル数と CEP17 シグナル数
図 5.  症例 C の FISH

参照

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