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発育促進物質に就て

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497

6ンフルエンザ・ビールスの 発育促進物質に就て

金沢大学医学部細菌学教室(主任 谷教授)

土  井

   7 amotsu Doi

(昭和27年4月25日受附)

第1章緒

 Smith, A ndrewes&Laidhw(1933年)がFerret の経鼻感染1)に成功して,インフルエンザ・ビ ールス研究の第一一歩を踏み出した.その後感受 性のある動物が次々と発見されたのであるが,

就中19斗1年HeDle&Cl)tunbersによって鰐化鶏 卵尿膜腔内培養法2)が発見されるに及び,大量 のインフルエンザ・ビールス〈以後「イ・ビ」と略 記)が比較的簡輩に入手出阿るようになった.

その後今日迄,との培養法が殆んど完全である

かの如く思われて潤た爲か,「イ・ビ」の発育要 素に関する業績3)一一:)は比較的少ないようであ る.著者は由仁院8)が痘毒で,又鰍谷9)がRic−

kettsiaで行った:方法を踏襲して,「イ・ビ」に各 種アミノ酸,ビタミン及びその他数種の物質を 添力比たいわゆる艀化鶏卵添加培養を行い,そ の癸育効果について槍討したのでここに一括報

告する.

第2章 実験材料並びに実験方法

     第1節実験材料

 1.培養に使用した「イ・ビ」:国立予防衛生研究 所より分譲を受けた「イ・A・ビ」(PR8株)及び「イ

・B。ビ」(Lee株)を夫々11日卵の尿膜腔内に援種 し,36。Cにて48時間培養後直ちに尿液を採取した.

そして4。Cに2〜5日間保存した尿液を使用した.

 2.添加物質

 a.アミノ酸:グリシン,dl一ヴアリン, dl一一イソロ イシン,d一一グルタミン酸,1・一グルタミン酸ソーーダ,レ ブエニールアラニン,チロヂソ,1一一アルギニンedi一塩 酸オルニチソ,dしチトルリソ,クレアチニン,1一プロ リン)タウリン,塩酸ヒスチヂン,塩酸ペタイソ等で,

これらの濃度は原則として51ug/cc蒸溜水水溶液とし て使用した,ただしd一グルタミ:/酸は10mg/cc,チロ ヂソは2mg/cc7 dl一塩酸オ・ルニチソは2・5mg/ccとし て使用した.なおこれら溶液の滅菌にはザイツ濾過板 による濾過法を用いた,

 b.ピタミソ=ビタミンB1(10mg/cc武田),ビタ ミン:B2(1mg/cc武田),ビタミン。(50mg/cc田辺),

ピタミソB1望(15Y/cc武田),葉酸(15mg/cc武田)等 を使用した.

 c.その他の物質:デスオキシリボ核酸(20mg/

cc),焦性葡萄酸(10mg/cc),イヌリン(10mg/cc),

CaC12 ・ 21 120(20mg, cc),インシュリン(20軍位/cc 武田)等を使用した.

 3.赤血球凝集反応用赤血球:クエン酸ソーダ加難 血液を3回洗顔し,赤血球の0・25%食塩水浮游液とし て使用した.

     第2節実験 :方法

 1,培養法:稀釈しない「イ・ビ」感染尿液に原則 として添加物質の等量を試験管内にて混合し,その混 合液O.2ccを4〜5個の11日卵尿膜腔内に接種し,36。

Cにて48時聞培養の後に各卵の尿液を探取した.なお 対照として生理食塩水を同容童添加した群を設けた.

【 1 コ

(2)

498

 2.判定方法 :厚生省編纂のインフルエンザ診 断指針10)に從って探取各馬丁の赤1血球凝集価を測定

し,更に対照群と物質を添加した添加群との各々につ いて,Reed&muenchの方法11)によって50%赤血球

凝集価(以後HAT50と略記)を夫々算記した・この 糠にして得られたHAT50によって上述の2群を比較 し,添加群のIIAT50/対照群のHAT50を以って添加 群の壇殖倍率とした.

第3章実験成績

    第1節 各種アミノ酸の影響

 実験域績は第1表に示す如くで,良好な発育 促進作用を現わすアミノ酸は無く,かえってグ ルタミン酸は発育抑制的に作用し,特に「イ・

B・ビ」の発育を全く阻止した.

    第1表:各種アミノ酸の影響 1  一    2  :一丁L殖一一峯_

ア、ノ酸1添加量iA型

グ   リ  シ  ン

dl一ヴアリン

dl一イソロイシン d・グルタミン酸

1一グルタミン酸ソーダ

(mg)(PR8)

:O・51 ・2〜1・6  0.5 1

     0.9

・.5{1.・

11.010.04

         

 0.5 1一フェニF一ルアラaソ10・5

チロヂン「0.2

      1

1一アルギニン 0.5

dl一塩三三ルニチン10.25

dLチトルリン 0.5 クレアチニン 0.5

1・  プ   ロ   リ  ソ   0.5

タ  ウ   リ  ン  0.5

塩酸ヒスチヂン 0.5

塩酸ペタインro・5

【(Is型1,ee)

8i3

6a

殖牽は次第に減少傾向を示したが,:Lee株は殆 んど影響されなかった.(第3表参照〉

第2表:ビタミンB1の影響

        墳  殖

添轟量棚藤(蜘

・・25 「・・一1・4

0.5 1 1.0

1・O 1 1.6r・一2.5 1・5 1 6.8・v14・8 2.0 1 3.3N3.9

 倍  i率

ゆ型(周 1 1.0

   1.0

  1.3t−v4.0   2.4 v10.5   1.2−v2.5

1.Orvl.80.7tN−1・4

   1O.9

1.1

0.7 1.0 1.O

O.7 1.1 1 .e

1.2 i.i i

1.0

1.O e.g 1.O O.7 0.8 0.9 1.0

第3表:ビタミン:B2の影響       一一__増  殖. 倍__一血

肥轟)量剛・R8)B型岡

O.025 0.05 0.1

 O.9  0.5

0.12一一vO.4

 O.9  0.8

0.s−vo.g

,.i 1

1.2

    第2節 各種ビタミンの影響

 1.ビタミンBlの影響:第2表に示すよう

に0.5mg以下の添加では発育促進効果を期待出 來ないが,1 .Omg以上添加すると促進作用が発

現し始め,1.5m9添加の場合に最も著効を示

し,更に2.Omgに於いては却って効力減退の傾 向を示した.殊に15m9添加の際に, PR8株に 対しては6・8〜14・8倍,Lee株に対しては2.4〜

105倍という驚異的な増殖促進作用を示し,凝 集価は最:高40,000に達した.

 2.ビタミンB2の影響=添加B2量を0.025

mgより次第;に」曾加するに從って, PR8株の増

 3.ビタミンB,及びB2併用添加の影響i:最 も効果のあるビタミン}ll 1.5m9にB2の種::々量:

を添加して見たが,:B1それ自身の発育促進作用 が更に増張されるようなととはなかった.(第

4表参照)

第4表1ビタミン:B汲びB2併用添加の影響

噌  殖  倍  寧

玉髄蚤・型(・R8)

B型(Lee)

Bl 1.5 B2 O.025

Bl 1.5 B2 O.05

旨B1 1.5 1 Bq O−1

 米 (

12.2

(12.0)*

12.0

(12.0)

5.8

(12.0)

7.9

(&0)米

8.0

(8.0)

3.9

(8.0)

   )内数字はB1軍用の場合,即ちBl対 照の壇殖倍率を示す

[ 2 ]

(3)

インフルエンザ・ビールスの発育促進物質に就て 499

 4.その他のビタミンの影響:ビタミンB12

及び葉酸は何れも増殖促進効果を期待出來なか ったが,ビタミンCは:Lee;株に対して軽i度では あるが促進的傾向(増殖倍率1.5〜1.8)を示し た,(第5表参照)

第5表:その他のビタミンの影響

ビタミン…添加量

     (mg)

V. B12 v. c 葉  酸

O.OO15 1 1.4

5.0 1 1.3 1.5 1 1.1

一__曾_殖」言一率 A型(PR8)、:B型(:Lee)

       1.0

      1.5  kvl.8

     1 O.8

12)であるイヌリン,無機塩であるCa C1,及び糖 代謝に関与するインシュリン等を夫々添加して 見たが,何れも発育促進効果を示さなかった.

(第6表参照)

    第6表:その飽の物質の影響

1物…再⊥盤懸騰l

lデスオキシリボ礫1?・・11・・」・・2

1凹凹半 凾P:1

1.01.1

    第3節その他の物質の影響

 細菌発育素としてしばしば用いられるデスオ キシリボ核酸及び焦性葡萄酸,抵抗減弱化物質

イ・リン B8:ll:1

1.01.2

CaClof 2HnO 2.0 i.o 1

インシュリンi躍ll:8

i.e li   −1 1.1 1 1.1 l

  e

第4章総括並びに考按

 さてここで以上の実駿成績を振り返って見る

に,

 1.「・f・ビ」のアミノ酸構成につbては:Knight 13)によってすでに分析成績が発表されている.

そして「イ・ビ」のA型及びB型の抗原性の相違 は恐らく構成アミノ酸の量的相違によるもので あろうと述べて居る.そこで著者は「イ・A・ビ」

により多く含有されて居るグルタミン酸ソ■一ダ 及びチロヂン,叉「イ・B・ビ」により多く含有さ れて居る1一アルギ=ンを添加培養した場合に,

「A・ビ」あるいは「B・ビ」が特異的に増殖促進を

示すかも知れないと考えて実験を行って見た

が,両型の発育程度に:何んらの相違も認められ なかった.

 2.d一グルタミン酸は「イ・ビ」の発育を強く 抑制したが,これは輩なるPHの影響14)15)と考

えられる.特に「イ・B・ビ」は酸性溶液内でより 容易に不活性化されるから,接種:前の混合試験 管内に於いて酸性であるグルタミン酸の影響を 受けて殆んど完全に不活性化され,從ってその 増殖率が0となったのだと思われる.

 3.ビタミンB・の発育促進作用について考察

するに,(tl)焦性葡萄酸の酸化に必要なコカ ルボキシラーゼはビタミンB1のピロ燐i酸エステ ルであって,動物体内では,ビタミン:B1は主と して〜二の形で利用される.(b)Ackermann 7 }は Krebsの回路の酵素系を抑制する化学物質によ って,「イ・ビ」の発育抑制に成功して居る.そ して「イ・ビ」の宿主組織内に於ける解糖エネル ギーを利JIJして,「イ・ビ」が宿主細胞内で増殖 するのだろうと述べて居る.以上の事よりビタ ミンBlの大量:投与が直接宿主である尿膜組織の 糖代謝を促進し,その結果生するエネルギーを 利lljして「イ・ビ」の合成が促進されるのかも知 れない.宿主組織の代謝促進と「イ・ビ」の発育 との関係についてはすでにK:alter, Sturt&

Tepperman 5)によって報告されて居る.即ち宿 主細織の蛋白同化作用を促進する発育ホルモン

あるいはテストステ・ンがマウスの肺に於ける

「イ・ビ」の発 育を促進させると述べて居る.し かしKilboume&Horsfall S)は,コーチゾンによ って同化作用を低下させた二化鶏卵を使用して

「イ・ビ」及びムンプス・ビPtルスの発育促進を 証明して居る.そしてビールスの増殖をより良

[3 ]

(4)

500

好ならしめる爲には宿主組織の生理的代謝を不 均衡にする事が必要条件であろうと推論して居 る.そeで著者は糖代謝の不均衡を目的に,イ ンシュリンの比較的大量(2輩位)を使用して見 たが,「イ・ビ」の増殖促進作用を得る事が出來な かった,從ってビタミンB置の発育促進作用も箪 なる糖代謝の不均衡とも考え難い事になる.更 に宿主の代謝と無関係に,ビタミンB,のある構 成部分がビールス合成の基質として:利用される 可能性も考えられるから,Krebsの回路に於け る解糖エネルギーを直接利用するのだと断言も 出來ない.要するにビタミンB1の発育促進機序

はなお不詳であるが,宿主細胞の解糖過程が

「イ・ビ」の発育にある意味を持つように思える.

 4.ビタミンCがPR8株よりLee株の発育に

幾分効果的である理由を考察するに,Magill&

:Francis 3)は嫌気的状態にてPR8株の組織培養 を行うと発 育が悪くなると報告して居る.又幅 見,砂川6)はLee株を同様の条件で培養すると 幾分発育が良好になると述べて居る.從ってビ タミンCの:Lee株に対する効果は低電位物質を 添加したという意味に於いて有意義であったの

カ〉も失ロれなV・.

『第5章結

 インフルエンザ・Aビールス(PR 8株)及びB ビールス(Lee株)に各種アミノ酸,ビタミン及 びその他i数種の物質を添加し,艀化鶏卵脈絡尿

膜腔内培養を行った処,次のような知見を得

:た.

 1・15種類のアミノ酸を使用したが,何れも 発育促進作用を示さなかつfz.

 2.ビタミン:B10.5m9以下の添加の場合には

促進作用を示さなかったが,LOmg以上添加す

ると促進作用が発現し始め,1.5in9で最も著効 を示した. 更に2.Omgに於いて:は幾分効力減弱 の傾向を示した.

 5.ビタミンB2 O.lmg添加に於いてはPR8株 に対し増殖抑制を示したが,Lee株に対しては 殆んど影響を示さなかった.

 4.ビタミンBl及び:B2併用添加を行って見た が,B1軍用の場合との間に著明な相違を認め なかった.

 5.ビタミンB;?)ビタミンC,葉酸及びその 他アミノ酸,ビタミン以外の5種類の物質につ いて添加培養を行ったが,何れも著明な促進作 用を認める事が出來なかった.

 欄筆するに臨み恩師谷教授の御懇篤なる御指導並び に御校閲に対し深く感謝します.

1) Smith, W., Andrewes, C. H. amd Laidlaw,

P. P.: Lancet , (II):66 (1933) 2) Henle,

W. and Chambers, L. A.: 1 roc. Soc. Exp.

Biol. Med., 46; 713 (1941) 3) Magill,

T. P. and Francis, T. Jr.: J. Eyp・ Med・,

63:803(1936) 4)富盛秀雄・砂川澄子:伝 研予研学術集団会演述(昭和23・4) 5)Kalter,

S. S., Stuart, D. C., Jr. and Tepperman,

J.: 1 roc. Soc. Exp. Med., 74:605 (1950)

6) Kilbourne, E. D. and Horsfall, F. L.,

Jr.:Proc. Sec. Exp. lliol. Med., 76:116

(i951) 7) Ackermann, W. W. : J. E: p・

Med・,93=635(1951)  8)貴宝院秋雄i=京

都府立医大雑誌,20:1458(1937)  9)溺谷 喜兵衛:十全医学会雑誌,51=191(1949)

10)七生省編纂=衙生槍査指針,(1【)=160(19 50)協同医書出版砒,  11)Reed, L. J. and Muench, A.: Am. J. Ilyg., 27:493 (1938)

12)大島俊雄:日本衛生学維誌,5,(2):6(19 50) 13) Knight, C. A.: J一 Exp. Med.,

86:125 (1947) 14) Briody, B. A.:

Bacteriological Rev., 14:65 (195e) 15)

Horsfall, F. L., Jr.: Vira] and Rickettsia]

Infections of Man. Edited bv T. M. Riverg : 303 C1948) J. B. ljippincott Co., 1 hiladelphia.

[4 ]

参照

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