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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 吉原 将大. 論 文 題 目. 漢字熟語の音読と発話における音韻単位. 審査要旨 吉原氏は,漢字で表記された語を音読したり発話したりする際に,音韻情報がどのように準備されるのかとい う問題について多面的な検討を試みた。これまで,音読や発話のために音韻情報を準備する際には,それぞ れの言語に固有の音韻単位が存在し,その音韻単位の情報をもとに,音読や発話のための音韻情報が準備 されると考えられてきた。先行研究によれば,英語やオランダ語の音韻単位は音素,中国語の音韻単位は音 節,日本語の音韻単位はモーラであると提案されてきた。 先行研究による音韻単位の観察では,マスク下プライミング音読課題,潜在的プライミング連想手がかり課 題,マスク下プライミング線画命名課題などが使われている。例えば,マスク下プライミング音読課題では,音 読を求めるターゲットに先立って,マスク刺激とプライムが同じ位置に提示される。プライムは瞬間提示され,即 座にターゲットに置き換えられるため,実験参加者がプライムの存在に気付くことはほとんどない。それにも関 わらず,プライムとターゲットが先頭音を共有する場合には,ターゲットに対する音読成績が促進される。この先 頭音プライミング効果は,プライムが提示された段階で,音読の準備が開始されるため,ターゲットの音読に, 同じ音韻情報が使われる場合にのみ,有意なプライミング効果が観察されるものと考えられている。 英語やオランダ語を対象に,この課題を使った研究では,プライム-ターゲット間の先頭音素の共有(e.g., dark - DOOR)によるプライミング効果が報告されている(e.g., Forster & Davis, 1991; Kinoshita, 2000; Schiller, 2007)。一方,中国語を使った研究では,先頭音素の共有によるプライミング効果は観察されないが,先頭音節 の共有(e.g., 密 /mi4/ “dense” - 迷你 /mi2-ni3/)によるプライミング効果が報告されている(e.g., You, Zhang & Verdonschot, 2012)。さらに,日本語の仮名表記語を使った研究では,先頭音素の共有による効果は観察され ないが,先頭モーラの共有(e.g., スミ - すし)によるプライミング効果が報告されている(e.g., Verdonschot, Kiyama, Tamaoka, Kinoshita, La Heij & Schiller, 2011)。 しかし,日本語の語彙全体の約七割程度は,漢字表記語であることから,吉原氏は,漢字表記語に対する 音読・発話の際にも,モーラが音韻単位としての役割を果たしているのかどうかについて検討を試みた。吉原 氏の論文では,第 2 章でマスク下プライミング音読課題,第 3 章で潜在的プライミング連想手がかり課題,第 4 章でマスク下プライミング写真命名課題を使って,漢字表記語の音読・発話の際の音韻単位が検討されてい る。そして,これらの結果を踏まえた上で,第 5 章で漢字表記語も含めた日本語の音韻単位について,総合的 な考察を行っている。 第 2 章のマスク下プライミング音読課題を使った実験と第4章のマスク下プライミング写真命名課題を使った 実験では,一貫して,先頭モーラの共有のみでは(e.g., 発案 - 博物),有意なプライミング効果は観察され ず,プライム-ターゲット間で先頭漢字の読みが共有される場合にのみ(e.g., 化石 – 火力),有意なプライミン グ効果が観察されることを明らかにしている。これらの結果は,語の音読ばかりでなく,写真の命名などの発話 の際にも,音韻情報を準備する際には,文字の読みを単位として,音韻情報が準備されることを示唆してい た。一方,第 3 章の潜在的プライミング連想手がかり課題を使った実験では,先頭モーラの共有によってプライ ミング効果が観察されることが確認された。しかし,この課題は,発話生成のプロセスに加えて,記憶検索のプ ロセスも課題成績に効果を持つ可能性が高いことから,先頭モーラの共有が記憶検索の手がかりとして機能す るために,先頭モーラの共有によるプライミング効果が観察された可能性が高く,この課題のデータをもとに, 音韻単位について議論するのは難しいだろうと吉原氏は論じている。 これまで個々の言語毎に固有の音韻単位が存在すると提案されてきたが,吉原氏のデータは,むしろ,語の.

(2) 氏名. 吉原 将大. 音読・発話の際の音韻単位は,語が持つ文字と音韻情報との間の対応関係の性質に強く依存するものであ り,文字の学習を経て形成される可能性が高いことを示唆している。仮名文字と漢字とでは,文字-音韻間の 対応関係の性質が異なる。そのため,仮名表記語と漢字表記語の音読・発話の際に使用される音韻単位は, 文字-音韻間の対応関係の違いを反映していると吉原氏は指摘する。 このように,吉原氏の論文では,漢字表記語を音読・発話する際の音韻単位の性質を明らかにするために, 複数のパラダイムを用いて多面的な検討を行っているため,そのデータは十分に信頼できるものと思われる。 また,吉原氏の実験データから得られた知見は,これまで提案されてきた知見とは異なり,音韻単位は,文字 の学習による影響を受けるものであることを示唆するものであった。もちろん,吉原氏の研究を通して音韻単位 の性質が全て解明されたわけではない。しかし,吉原氏は,音韻単位の形成に,文字の学習の影響を指摘す るなど,新たな可能性を示唆する重要な提案を行っている。こうした理由から,本審査委員会では,審査員全 員が一致して,吉原氏の論文は博士学位を授与するにふさわしい論文であるとの結論に至った。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2018 年 5 月 26 日 所属機関名称・資格. 氏名. 専門分野. 博士学位. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 日野 泰志. 言語心理学・認知心理学. 博士(西オンタリオ大学). 審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 福澤 一吉. 神経心理学・認知神経心理学. 博士(ノースウエスタン大学). 審査委員. 大阪教育大学・講師. 三盃 亜美. 特別支援教育. 博士(筑波大学). 審査委員 審査委員.

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