博士論文審査報告書
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(2) 血液透析は腎不全により患者の体内に蓄積した老廃物や余剰な水分を透析 装 置 で 除 去 す る 施 術 で あ る . 患 者 は 2014 年 12 月 現 在 約 32 万 人 で あ り , 維 持期の患者は毎週 3 回,1 回約 4 時間程度の施術を生涯受ける.透析施術は 臨 床 工 学 技 士 ( 技 士 ) ら が 担 っ て お り , 1)患 者 ご と の 治 療 条 件 設 定 を 医 師 の 処 方 の も と 確 実 に 行 い , 2)血 液 の 体 外 循 環 に 伴 う 出 血 や 空 気 混 入 な ど の 不 具 合監視や対応を行っている.技士が施術において行うべきタスクは関連学会 等によりガイドライン化されているが,各患者の血管形状等の身体的特徴, 過去の施術時の治療条件,血圧の推移傾向,起こしやすい体調不良等や,治 療条件に関する患者満足に関わる要望には個別性があり,また,施術当日の 体調や透析の進捗等も変動する.このため,各患者のそれら個別の履歴,施 術当日の体調等を総合的に勘案し,それらに応じて施術の各タスクでの治療 条件設定や不具合監視・対応の内容をきめ細かく調整すること,すなわち状 況に応じたアクティビティの遂行が技士には求められる.これは安全で患者 満足度の高い透析施術に極めて重要となる. 一 般 に ,血 液 透 析 に 携 わ る 新 人 技 士 は ,入 職 し た 透 析 施 設 に お い て O n t h e J o b Tr a i n i n g ( O J T ) に よ り 実 践 的 な 能 力 を 身 に つ け る が , 状 況 に 応 じ た ア クティビティ遂行に関する訓練項目は学会ガイドライン等においても整備さ れ て お ら ず , 1)新 人 訓 練 の 内 容 や 訓 練 の 完 了 基 準 が 訓 練 担 当 者 に よ っ て バ ラ つ く こ と , 2)訓 練 担 当 者 が 各 新 人 の 訓 練 の 進 捗 や 苦 手 箇 所 を 把 握 で き な い こ と 等 の 問 題 が 生 じ て お り , そ の 結 果 , OJT 訓 練 後 の 新 人 の 能 力 に バ ラ つ き が 生じている. そこで,本研究では血液透析に従事する技士が状況に応じてアクティビテ ィを適切に遂行するために必要な訓練項目を導出することを目的としている. 具 体 的 に は , 訓 練 方 式 と し て の C o m p e t e n c y B a s e d Tr a i n i n g( C B T ) を 前 提 に,各アクティビティの遂行に必要なコンピテンス(実践的な能力)を記載 した訓練項目表の作成を目標としている.さらに本研究は,状況に応じたア ク テ ィ ビ テ ィ 遂 行 に は 適 切 な 状 況 認 識 の 存 在 が 不 可 欠 で あ る と 考 え , Mica E n d s l e y の 提 案 す る S i t u a t i o n a l Aw a r e n e s s ( S A ) の 状 況 認 識 プ ロ セ ス に 従 ってコンピテンスの明確化を行っている. 以 上 の コ ン セ プ ト の も と ,本 研 究 で は ,新 人 技 士 訓 練 を 担 う 大 学 附 属 T 病 院透析室の協力を得て,以下の手順で検討を進めている.まず,新人技士が 安全,及び患者満足上適切に遂行することが難しいアクティビティを明確化 している.次に,それらについて新人技士がうまく遂行できない理由,ベテ ラン技士がうまく遂行できる理由を収集している.それに加え,ベテラン技 士がアクティビティを遂行するために手がかりとする情報を顕在化している. 本研究ではこれら,遂行の難しい理由と手がかり情報をコンピテンスとして 整 理 し ,ア ク テ ィ ビ テ ィ と 対 応 付 け た 訓 練 項 目 表 を 作 成 し て い る .そ の 上 で , 安全,及び患者満足度上でのコンピテンスの重要度や,コンピテンス同士の 関係性について検討し,コンピテンスの訓練順序について検討している. 1.
(3) 以 上 の 成 果 と し て , ア ク テ ィ ビ テ ィ 29 個 と コ ン ピ テ ン ス 100 項 目 か ら 構 成される訓練項目表が作成されている.さらに本研究では,この内容の妥当 性や訓練項目を用いた訓練の実現可能性について透析施設 4 ヵ所において新 人 訓 練 担 当 者 に イ ン タ ビ ュ ー を 行 い , 1)訓 練 項 目 が 訓 練 内 容 の バ ラ つ き を 抑 え , 状 況 に 応 じ た 施 術 に 関 す る 新 人 訓 練 に 寄 与 す る , 2)訓 練 項 目 の 内 容 は 訓 練担当技士が具体的にイメージしやすく,訓練の実現可能性が高い,との評 価を得ている. さらに本研究では,状況に応じたアクティビティの遂行を表した状況認識 行 為 モ デ ル を 作 成 し ,慢 性 疾 患 医 療 と し て の 血 液 透 析 の 特 徴 を 考 察 し て い る . それによると技士は,先述した施術対象患者の過去の施術においての履歴情 報をその患者の通常の状態とし,それと施術当日の状態を比較することで, 施術対象の患者の当日の治療条件設定の意思決定や,施術中の体調等の不具 合の検出を行っていると述べている.従って,履歴情報の獲得は血液透析施 術の安全,及び患者満足に大きく影響するものであり,それを把握するため のコンピテンスが血液透析では重要であることを明らかとした. 本論文は,以下に示す 9 章から構成されている. 第 1 章では,緒言として血液透析の概要や透析施設の新人訓練に関する調 査を行い,本論文の研究背景及び課題,本研究の目的について述べている. 第 2 章では,状況に応じたアクティビティ遂行に 関係する既存の訓練方法 について他産業の例も含め幅広く調査し,本研究でコンピテンスベースの訓 練項目を作成する理由やそのメリットについて検討している.また,本研究 でベースとする状況認識モデルについて説明している.以上を踏まえ,本研 究の研究方法を述べている. 第 3 章 か ら 第 5 章 で の 検 討 は ,新 人 訓 練 を 担 う 大 学 附 属 T 病 院 の 協 力 を 得 て進めている.まず,第 3 章では血液透析施術のタスクプロセスを明らかと し,各タスクで技士が行うべきアクティビティを収集している.具体的には 技 士 11 名 に 「 各 タ ス ク に 対 し て 具 体 的 に 行 っ て い る ア ク テ ィ ビ テ ィ は 何 か 」 を尋ねる半構造化インタビューを行い,さらに,ベテラン,新人技士各 1 名 の 施 術 プ ロ セ ス を ア イ マ ー ク レ コ ー ダ で 撮 影 ・ 分 析 す る こ と で ,3 9 個 の ア ク ティビティを収集している. 第 4 章では,新人訓練が必要なアクティビティを,遂行の困難さの観点か ら 絞 り 込 ん で い る . 具 体 的 に は , 第 3 章 で 得 ら れ た 39 個 の ア ク テ ィ ビ テ ィ に つ い て , 新 人 か ら ベ テ ラ ン ま で の 技 士 計 33 名 に 「 状 況 に 応 じ て ア ク テ ィ ビ テ ィ を 行 う 難 し さ 」を 5 件 法 の 質 問 紙 で 評 価 し て も ら い ,ベ テ ラ ン ,中 堅 , 新 人 の 技 士 ほ ぼ 全 て が 容 易 と 評 価 し た 10 個 を 除 く 29 個 に 絞 り 込 ん で い る . 第 5 章 で は ,2 9 個 の ア ク テ ィ ビ テ ィ そ れ ぞ れ に つ い て ,そ の 遂 行 に 必 要 な コンピテンスを明らかにしている.具体的には,半構造化インタビュー調査 により,新人技士には「アクティビティに困難さを感じる理由」を,ベテラ ン技士には「経験を重ねるにつれて困難でなくなった理由」を尋ね,それぞ 2.
(4) れをコンピテンスとして収集している.また,これに加えてベテランが施術 中 に 手 が か り に し て い る 情 報 を , r e l a t i v e a p p r o a c h( ベ テ ラ ン と 新 人 の パ フ ォーマンスの差異を基に,ベテランのノウハウを明らかにする手法)により 収集している.具体的には,第 3 章で撮影したアイマークレコーダ映像を基 に,新人とベテランの差異を抽出し,手がかりとする情報を導出している. 本章では,ここまでに明らかとなったコンピテンスについて内容の重複を集 約 し , 計 100 項 目 に 整 理 し て い る . 第 6 章では,アクティビティとコンピテンスを対応付けた訓練項目を作成 し ,コ ン ピ テ ン ス の 訓 練 順 序 に つ い て 検 討 し て い る .後 者 に つ い て は ,安 全 , 及び患者満足上遂行が難しいアクティビティとそれに対応するコンピテンス を明らかにし,また,コンピテンス同士の関係性についても検討している. 第 7 章では,訓練項目の内容に関する妥当性や訓練の実現可能性について 透析施設 4 ヵ所で新人訓練を担当する技士 5 名に半構造化インタビューを行 い,評価を得ている. 第 8 章では,本研究で得られた成果をまとめ,その考察を行っている.具 体 的 に は Endsley の 状 況 認 識 モ デ ル を 基 に 透 析 技 士 の 状 況 認 識 行 為 モ デ ル を 作成し,先述した血液透析のコンピテンスについての特徴を示している.さ らに慢性疾患医療としての血液透析において,患者状況に応じた施術に関す るその特徴を考察している. 第 9 章では,結言として本研究の成果をまとめ,結論,今後の課題や展望 について述べている. 以上のように,本研究では,血液透析施術時に技士が状況に応じてアクテ ィビティを適切に遂行するために必要な訓練項目を作成した.これにより, 血液透析に従事する新人技士の効果的な訓練が可能となり,透析の安全,及 び患者満足の向上につながるものと期待できる.また,本研究で提案した血 液透析の状況認識行為モデルは,慢性疾患医療における患者状況への対応の 特徴を示唆するものであり,医療安全において学術的価値あるものである. よって,本論文は,博士(工学)早稲田大学の学位論文として価値あるもの と認める. 2016 年 6 月 審 査 員( 主 査 ) 早 稲 田 大 学 教 授. 博士(工学)早稲田大学. 小松原明哲. 博士(情報科学) 北陸先端科学技術大学院大学. 岸知二. 早稲田大学教授. 工学博士(大阪大学). 永田靖. 早稲田大学准教授. 博士(社会心理学) 東京大学. 膳場百合子. 早稲田大学教授. 3.
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