博士論文審査報告書
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(2) 日 本 に お け る 透 析 患 者 数 は 、毎 年 1 万 人 強 の 割 合 で 増 加 を 続 け 、2 0 0 4 年 末 に は 約 25 万 人 に 達 し て い る 。 こ う し た コ ン ス タ ン ト な 患 者 数 の 増 加 は 、 糖 尿病性腎症の増加、高齢化、透析膜・透析器や透析システムの改良など、多 くの要因による。現在、全患者数のうち、腎移植を受けられる患者数は全体 のわずかであり、長期透析患者にみられる合併症の問題など透析患者の QOL(Quality of Life)向 上 が 大 き な 課 題 で あ る 。 こ の 問 題 を 解 決 す る た め に は、新規高性能・高機能透析膜および透析器、新規透析システムの開発が急 務である。尿素、クレアチニンなどの低分子量物質、慢性腎不全患者の自覚 症状に関連すると考えられている中分子量物質の除去効率を向上させ、さら に β 2-ミ ク ロ グ ロ ブ リ ン や α1- ミ ク ロ グ ロ ブ リ ン な ど に 代 表 さ れ る 低 分 子 量 タ ンパク質の効率的な除去を可能にする新規高性能・高機能透析器の開発が盛 んである。同時に、血液と人工膜との接触に起因する生体適合性に優れた透 析膜の開発も進んでいる。 本 学 位 審 査 論 文 で は 、こ れ ら の 高 性 能 透 析 器 お よ び そ れ に 用 い ら れ て い る 高性能透析膜を、物質移動・生体適合性の観点から評価し、新規高性能・高 機能透析膜および透析器、新規透析システムの開発に向けた有用な知見を得 ている。新規な評価法を用いることにより、従来法では測定できなかった膜 に 阻 止 さ れ た E t( E n d o t o x i n )の 活 性 評 価 、O 2 - に よ る 透 析 膜 の 評 価 に 成 功 し ている。これらの成果は、今後、医工学(人工臓器)分野への貢献が期待さ れ る 。本 論 文 は 、5 章 か ら 構 成 さ れ て お り 、以 下 に 各 章 の 審 査 要 旨 を 述 べ る 。 第 1 章:血 液 浄 化 療 法 の 歴 史 と 現 状 に つ い て 概 説 す る こ と に よ り 、透 析 医 療の抱える問題点について触れている。また、本研究の意義およびオリジナ リティー、本学位審査論文の総括がまとめられている。 第 2 章:近 年 、透 析 ア ミ ロ イ ド ー シ ス の 原 因 と さ れ る 低 分 子 量 タ ン パ ク 質 除去に有効であると注目される内部濾過促進型透析器に対して、膜劣化(フ ァウリング)や透析液流動状態の観点より評価・検討している。ウシ血液で 透析後の透析器内局所より取り出した中空糸膜の純水濾過係数と拡散透過係 数を測定している。その結果、特に内部濾過が生じると考えられる透析液出 口付近で、透析初期に膜の透過性が顕著に低下することを示している。しか し、透析 4 時間後における、この純水濾過係数と拡散透過係数の低下は従来 型透析器と同程度であり、過度のファウリングは起こらないことを示してい る 。 ま た 、 透 析 器 内 に 留 置 し た 電 極 に 、 イ オ ン ト レ ー サ ( NaCl 水 溶 液 ) が 到達する時間を測定することにより、中空糸の高充填化が透析液流動状態に 及ぼす影響について調べている。結果、従来型透析器ではハウジング壁面近 傍に偏流が見られるのに対し、内部濾過促進型透析器では比較的均一な流動 状態が得られている。ハウジング形状および配糸状態により偏流が軽減され ていることを示している。本研究は、高充填化による内部濾過促進の低分子 量タンパク質除去に対する有効性を示すとともに、更なる改良に対する指針 を示した点で高く評価できる。.
(3) 第 3 章 : E t は 、強 い 発 熱 作 用 を 有 し 人 体 に 有 害 で あ る た め 血 液 透 析 に お い て 、透 析 液 中 の E t 濃 度 を 低 く 抑 え る 必 要 が あ る 。市 販 さ れ て い る 透 析 膜 は 、 非 常 に 優 れ た E t 阻 止 能 を 有 し て お り 、臨 床 条 件 に お い て E t が 透 析 液 側 か ら 血 液 側 へ 侵 入 す る こ と は 少 な い が 、 長 期 の 透 析 患 者 に Et が 一 因 と 考 え ら れ る 疾 病 の 発 症 が 多 い 。こ の こ と か ら 、Et は 血 液 に 侵 入 し な く て も 、マ ク ロ フ ァ ー ジ を 刺 激 し 、 腫 瘍 壊 死 因 子 ( T N F )、 イ ン タ ー ロ イ キ ン ( I L ) と い っ た サイトカイン、酸素ラジカルなどの産生を亢進する可能性があるが、現行の E t 活 性 評 価 法 で は こ れ を 評 価 す る こ と は で き な い 。そ こ で 本 研 究 で は 、膜 に 阻 止 さ れ た Et の 活 性 を 評 価 す る 新 規 手 法 を 確 立 す る こ と に よ り 、 透 析 中 に 逆 濾 過 に よ っ て 膜 に 阻 止 さ れ た Et が 血 液 に 及 ぼ す 影 響 、 ま た 、 膜 構 造 の 違 いによる影響について検討している。本研究では、カブトガニの血球抽出成 分 液 ( Limulus amebocyte lysate , LAL) 試 薬 を 中 空 糸 膜 内 に 充 填 し 、 血 液 側 近 傍 に 阻 止 さ れ た E t の 活 性 を 測 定 し て い る 。膜 に 阻 止 さ れ た E t 活 性 の 膜 構造による差異を調べるために、外側と内側に緻密層を持つポリエステル系 ポ リ マ ー ア ロ イ ( P E PA ) 膜 、 ポ リ エ ー テ ル ス ル ホ ン ( P E S ) 膜 、 お よ び 内 側 に の み 緻 密 層 を 持 つ ポ リ ス ル ホ ン ( PS) 膜 に つ い て 検 討 し て い る 。 3 種 の 膜 の 内 ・ 外 表 面 の 孔 径 を F E - S E M お よ び A F M を 用 い て 測 定 し て い る 。E t 試 験 溶 液( 濃 度 1 0 , 0 0 0 E U / L 、1 0 0 E U / L 、1 0 E U / L )を 臨 床 濾 過 流 束( 1 5 m l ・ m i n - 1 ・ m-2) の 1-13 倍 の 条 件 で 濾 過 し た の ち 、 LAL 試 薬 を 充 填 し 、 恒 温 下 で 反 応 さ せ 、 LAL 試 薬 を 吸 引 し 、 吸 光 度 ( 405nm) を 測 定 す る こ と で 膜 に 阻 止 さ れ た E t の 活 性 を 測 定 し て い る 。 外 側 緻 密 層 で E t を 阻 止 す る P E PA 膜 は 中 空 糸 内 側 で E t 活 性 が 検 出 さ れ な か っ た の に 対 し 、中 空 糸 内 側 緻 密 層 で E t を 阻 止 す る P S 膜 と P E S 膜 で は 、高 濃 度 E t を 濾 過 し た 場 合 に 中 空 糸 内 側 に E t 活 性 が 検 出 さ れ て い る 。 な お 、 Et が 低 濃 度 ( 10 EU/L) の 場 合 は 、 い ず れ の 膜 も E t 活 性 は 検 出 さ れ な か っ た こ と か ら 、透 析 液 の 清 浄 化 が 重 要 で あ る こ と を 示 し て い る 。 以 上 よ り 、 中 空 糸 内 側 緻 密 層 で 阻 止 さ れ た Et は 血 液 に 影 響 を 及 ぼ し 得 る こ と か ら 、E t は 血 液 が 直 接 触 れ な い 中 空 糸 外 側 緻 密 層 、も し く は 血 液 側 よ り 離 れ た 部 位 で 阻 止 す べ き で あ る こ と を 示 し た 。今 ま で 、E t は 血 液 中 へ の 混 入 防 止 が 重 要 と さ れ て い た が 、 本 研 究 で は Et 混 入 が な く と も 血 液 に 影響を及ぼしうることを示した初めての報告でありそのオリジナリティーは 極めて高い。 第 4 章:生体内において、活性酸素は酵素反応の促進、殺菌作用などの重 要な役割を果たしている。しかし、過剰に生成すると、脂質、糖、タンパク 質 、 核 酸 な ど を 攻 撃 し 、 そ れ が 多 く の 疾 病 、 DNA 障 害 、 発 癌 の 原 因 と な る 。 血液透析治療の際、血液と透析膜の接触により、白血球成分の一つである好 中 球 が 活 性 化 し 、 活 性 酸 素 種 (reactive oxygen species: ROS)を 放 出 す る 。 そ の た め 、透 析 に よ る R O S の 増 減 と そ れ に 伴 う 透 析 ア ミ ロ イ ド 症 な ど の 合 併 症 と の 関 係 が 注 目 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 O2-発 光 試 薬 で あ る 2-methyl-6-p-methoxyphenylethynyl-imidazopyrazinone(MPEC)の 反 応 に.
(4) よ る 化 学 発 光 を 用 い て 、 ROS の 中 で も 特 に 多 く の 毒 性 機 構 が 知 ら れ て い る O2-に 着 目 し 、 そ の 生 成 、 膜 透 過 、 消 去 能 の 点 か ら 透 析 膜 を 評 価 し て い る 。 O 2 - の 生 成 は 、牛 血 液 を 遠 心 分 離 す る こ と に よ り 分 離 し た 白 血 球 成 分 を 透 析 膜 に 接 触 さ せ 、そ の 際 の O 2 - の 生 成 量 を M P E C 発 光 と し て 測 定 し て い る 。結 果 、 膜 素 材 に よ り O2-生 成 量 が 異 な り 、 比 較 的 疎 水 性 が 強 く タ ン パ ク 質 が 吸 着 さ れ や す い 膜 で O2-生 成 量 が 多 い こ と を 示 し て い る 。 血 液 接 触 後 の 膜 で は O2生成量に違いはなかった。これは、膜表面がタンパク質に覆われることによ り 、白 血 球 が 膜 に 接 触 し に く く な る た め と 考 察 し て い る 。O 2 - の 抗 酸 化 能 評 価 は、刻んだ中空糸膜を抗酸化物質もしくは酸化物質を含む液中で攪拌し、そ の濃度を測定することにより行われるのが一般的である。この場合、中空糸 内 側 と の 接 触 に よ る も の だ け で は な く 、O 2 - の 寿 命 に よ る 消 失 や 高 い 反 応 性 の ために、他の物質との相互作用の影響を受けるという問題がある。そこで本 研 究 で は 、以 下 の よ う な 新 規 な 評 価 法 に よ り 、O 2 - の 透 過 量 お よ び 消 去 量 に つ い て 調 べ て い る 。 中 空 糸 膜 外 側 で xanthine の xanthine oxidase に よ る 酸 化 反 応 に よ り 生 成 さ せ た O2-を 、 中 空 糸 膜 内 側 で MPEC と 反 応 さ せ る こ と に よ り 生 じ る 発 光 量 を 、中 空 糸 内 腔 に 挿 入 し た 光 フ ァ イ バ に よ り 測 定 す る こ と で 、 透 析 膜 の O2-透 過 量 を 測 定 し て い る 。 結 果 、 O2-透 過 量 は 膜 の 拡 散 透 過 係 数 に 依 存 し て お り 、膜 素 材 に よ る 顕 著 な O 2 - 消 去 は 見 ら れ な い 。ま た 、ビ タ ミ ン E 修飾有無およびその固定量による透過量の違いから、膜に固定したビタミン E の 抗 酸 化 能 を O2-消 去 量 と し て 評 価 し て い る 。 結 果 、 ビ タ ミ ン E 表 面 改 質 膜 に お い て O 2 - の 消 去 が 認 め ら れ て い る 。ま た 、ビ タ ミ ン E 固 定 量 が 2 5 m g / m 2 以 上 に お い て O2-消 去 量 は ほ ぼ 一 定 と な る こ と か ら 、 固 定 化 量 に は 至 適 値 が 存在することを示している。新規測定法により、膜に固定化されたビタミン E の O2-消 去 に 対 す る 有 効 性 を 示 し て い る 。 さ ら に 、 酸 化 さ れ た ビ タ ミ ン E は ビ タ ミ ン C 処 理 に よ り 還 元 さ れ 、そ の 抗 酸 化 能 が 復 元 す る こ と を 示 し て い る。本研究成果は、長期にわたり抗酸化能を有する透析膜および透析システ ムの開発に大きく寄与するものと考える。 第 5 章:総括として、各章で得られた成果をまとめている。 以 上 の よ う に 、本 学 位 審 査 論 文 は 、高 性 能 透 析 器 お よ び そ れ に 用 い ら れ て いる高性能透析膜を物質移動・生体適合性の観点から評価することで、新規 高性能・高機能透析膜および透析器、新規透析システムの開発に向けた有用 な知見を得ることに成功している。医用化学工学(人工臓器)分野への貢献 は 大 き く 、本 論 文 は 博 士( 工 学 )の 学 位 論 文 と し て 価 値 の あ る も の と 認 め る 。 2006 年 1 月 審査員. (主査). 早稲田大学. 教授. 工学博士(早稲田大学). 酒井清孝. 早稲田大学. 教授. 工学博士(早稲田大学). 平沢. 泉. 早稲田大学. 助教授. 常田. 聡. 博士(工学).
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論文要旨
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