招待論文
4K ディジタルシネマの開発と次世代メディアトランスポートへの 展開 *
藤井 竜也
†a)藤井 哲郎
††小野 定康
†††青山 友紀
††††Development of 4K Digital Cinema and New Media Transport Technologies
∗Tatsuya FUJII
†a), Tetsuro FUJII
††, Sadayasu ONO
†††, and Tomonori AOYAMA
††††あらまし 筆者らは映像コンテンツの王様である映画のディジタル化と,ディジタル化されたコンテンツのネッ トワーク配信を目指して4Kディジタルシネマ伝送システムの開発を進めた.4K映像はフィルムをディジタルに 置き換えるメディアとして米国映画業界(ハリウッド)に受け入れられ,ハリウッドが進めていたDCI規格に組 み込まれ,その後SMPTE及びISOの国際標準となった.また,大容量の映像コンテンツ伝送を可能とする次 世代メディアトランスポート技術について前方誤り訂正符号の開発を行い,MMT (MPEG Media Transport) に提案してISO国際標準化を実現した.超高速通信の時代に適した高品質な映像メディアの究極の追求に始ま り,テラビットメディアの流通を促進する新たな伝送方式を開発して国際標準化を実現してきた取り組み,更に その経験と知見からの提言を述べる.
キーワード SHD映像,4Kディジタルシネマ,LDGM-FEC,DCI国際標準化,MMT国際標準化
1.
ま え が き筆者らは臨場感のある映像体験を可能とする高品質 なマルチメディア通信の実現を目指し,走査線数
2000
本級の非常に高精細な画像をオールディジタル処理技 術で扱う超高精細(SHD: Super High Definition
)画 像のコンセプトを1989
年に提唱し,先ず医療・教育・印刷・美術博物学・
CAD
分野へのアプリケーション の開拓を進めてきた[1]
.更に,商用映像コンテンツの 王様であり,それまで銀塩フィルムでしか実現できな い最高品質の映像と言われてきた映画を,完全ディジ タル化してネットワーク流通を実現すべき究極のター†日本電信電話株式会社未来ねっと研究所,横須賀市
NTT Networks Innovation Labs., NTT Corporation, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan
††東京都市大学メディア情報学部情報システム学科,横浜市 Department of Information Systems, Tokyo City University, Yokohama-shi, 224–8551 Japan
†††O&G株式会社,横浜市
O&G Inc., Yokohama-shi, 223–0061 Japan
††††東京大学名誉教授,東京
Emeritus Professor, The University of Tokyo, Tokyo, 113–
8654 Japan
a) E-mail: [email protected]
*本論文は,システム開発・ソフトウェア開発論文である.
DOI: 10.14923/transcomj.2016SHI0007
ゲットと考えて,世界初の走査線数
2,000
本級の「800
万(4K × 2K)
画素超高精細ディジタルシネマ配信シ ステム」を開発した.このシステムは,高品質な完全 ディジタル処理による上映を可能としただけでなく,光ネットワークを用いて映画品質のライブ映像のスト リーム配信が可能になることも実証した.ハリウッド 関係者とともにこのシステムの品質評価実験を実施し,
35mm
映画フィルムの品質をディジタル映像技術によ り再現できるとの高い評価を得た.この実験結果に基 づき,ハリウッドによるディジタルシネマは4K
映像 品質を頂点とすることに決定し,その標準規格がDCI (Digital Cinema Initiative, LLC) [2]
により制定され 後にSMPTE
とISO
により国際標準となった[3]
.こ のDCI
とはハリウッド6
大スタジオがディジタルシ ネマの規格策定の為に共同で設立した法人である.この
DCI
標準の制定を受け,映画業界の各社の協 力を得て,筆者らは最新の封切り映画を扱う実証実験「
4K Pure Cinema
」を行った[4]
.筆者らは世界初と なるDCI
仕様準拠の「4K
ディジタルシネマ上映シス テム」を開発,Warner Bros.
社(ロサンゼルス市)と 本上映システムを設置した日本国内6
ヶ所の映画館を 光ネットワークで結んだ.2
年間で15
本の作品をハー ドディスク等の物理媒体を一切用いずに配信上映した実験結果から技術面・運用面での課題を明確化し,更 に当時の業界が強くもっていたネットワーク配信に対 するセキュリティの懸念も払拭できた.そして
2015
年末時点で,国内の映画館3,437
スクリーンの97%
, 及び全世界の90%
のスクリーンがディジタル化される に至った.次に筆者らは,映画館に引き込まれた光ネットワー クを高度に活用するため,ライブ配信による
ODS (Other Digital Stuff)
と呼ばれるオペラ,ミュージ カル,演劇,スポーツなど映画以外のコンテンツ上 映に向けた4K
映像ストリーミング技術の開発と,4K
映像を映画館等にライブ中継する実証実験を行っ た[5]
.この4K
映像ライブ中継の実現に向けて培って きた技術の一つが,疎グラフ符号であるLDGM (Low Density Generator Matrix) [6]
に基づく前方誤り訂 正(FEC)
符号の技術である.低処理負荷とロバスト 性を改良した「FireFort LDGM-FEC
」と名付けた符 号を考案し,ISO/IEC23008-1 MMT (MPEG Media Transport) [7]
とともに標準化が進められたMMT AL (Application Layer)-FEC [8]
に提案し,採用さ れ2015
年に発行された.MMT
はMPEG2-TS
を置 き換え,次世代放送とIP
ネットワーク配信に適した 伝送を可能とする国際標準である.以上のように筆者らは超高精細映像技術の先駆的研 究開発に取り組み,
4K
ディジタルシネマ配信システム の開発により映画のディジタル化を加速し,その映像 規格は4K
ディジタルシネマとして国際標準化され全 世界に普及した.4K
映像のライブ配信の為に開発し たFEC
符号はMMT
国際標準のAL-FEC
となった.この
4K
映像及び伝送システムの技術の国際標準化に 関した開発と,研究開発の経験に基づく提言を述べる.2.
超高精細画像の提唱と研究開発ブロードバンド時代を見据え,高品質映像の新しい カテゴリーの創造を目指して筆者らが提案した超高精 細画像のコンセプトを概説する.これが
4K
ディジタ ルシネマの出発点である.2. 1
超高精細画像の定義超高精細画像は,既存の画像メディアの統合を目指 して
1989
年に提唱したディジタル画像メディアの新カ テゴリーであり,コンピュータとブロードバンドネッ トワークを結合した新たな映像流通プラットホームの 提供を目指した.基本的な定義は以下のとおりである.(1)
走査線数2000
本以上(35mm
フィルム相当)図1 超高精細画像の位置づけ
Fig. 1 Positioning of Super High Definition Image.
図2 スーパーフレームメモリ Fig. 2 Overview of Super Frame Memory.
(2)
完全ディジタル方式である(3)
順次走査方式(Progressive
)である(4)
画像サンプリングが色差含め正方格子である既存の画像メディアとの関係を時間解像度及び空間 解像度の観点で表した図
1
で,映画品質も含む全ての 画像メディアを統合する位置に超高精細画像がある.2. 2
超高精細画像プラットホームの開発と検証1990
年頃のATM (Asynchronous Transfer Mode)
伝送方式の黎明期に超高精細画像を実現評価するた め,約8000
個の4M-DRAM
を用いて6Gbps
の高速 なデータ読み出しが可能な「スーパーフレームメモリ」を世界に先駆けて開発した
[9]
.本装置は2048x2048
画 素のプログレッシブ60P
方式の動画像をCRT (SONY
社製DDM-2802C)
に表示できた(
図2)
.当初4
秒間,改良後には
16
秒まで動画像再生時間を拡大した本装 置を用いて,HDTV
を超える解像度の静止画と動画像 による医療・教育等の専門的な領域でのアプリケーショ ンを検証し,超高精細画像のコンセプトを実証した.その後,静止画アプリケーションを切り出し,運搬 可能な超高精細画像ステーションを開発した
[10]
.当 時のユーザ用として最高速度であったATM 155Mbps
のインタフェースを搭載し,高速・広帯域の伝送実験 がアプリケーション側から進められるようになった.これで超高精細映像通信が社外のユーザにも取り扱え るようになり,高品質な画像の潜在的需要が掘り起こ された.これは
NTT
が進めたマルチメディア実験に 引き継がれ,教育・医療・出版関連の幅広いユーザと アプリケーションに関する検証が進められ[11]
,New York Times
でも取り上げられた[12]
.1997
年に筆者 らは,New York
市のWhitney
美術館で開催された20
世紀の米国のアートを振り返る記念イベントの一 環として,本装置を用いて2Kx2K
解像度の静止画像 表示で絵画作品を表示し,将来のディジタルミュージ アムの形態を一年にわたり展示して注目を得た.しかし様々な実験を経た結果,ディスプレイの重量 が非常に重く
(CRT
で約100Kg)
,地磁気の影響を非 常に強く受けることがシステムの大きな問題点となっ た.これを克服するため,28
インチの超高精細液晶 ディスプレイをシャープと共同で開発した[13]
.重量 はCRT
のわずか1/8
の13Kg
,厚さ5cm
のディスプ レイ部は,2560 × 2048
画素の解像度をもち,非常に コンパクトにすることができた.同時に,フレーム メモリとディスプレイを結ぶ専用ディジタルビデオイ ンタフェースを設計し,差動信号伝送であるTMDS (Transition Minimized Differential Signaling)
を高 並列化して総容量12Gbps
を達成したことで,超高精 細画像プラットホームにおいて最後までアナログだっ たビデオ・インタフェースを完全ディジタル化するこ とができた.超高精細画像の動画像伝送は,静止画システム開 発を開始した当初より大きな技術目標であった.非 圧縮映像を
DRAM
に蓄えたスーパーフレームメモ リに続き,1998
年には世界初の超高精細画像のリア ルタイムデコーダを開発した[14]
.図3
のブロック 図のように,高並列のMotion JPEG ASIC
を用い,2048 × 2048
画素60
フレーム毎秒のSHD
動画像を あらかじめJPEG
圧縮し,300Mbps
のストリームと して受信することでリアルタイム復号と時間無制限の 再生を可能にした.2. 3
テラビットメディアディジタルシネマに代表される超高精細動画像の データ量は非圧縮の場合,
2
時間の映画で約6 Tera
図3 超高精細映像リアルタイムデコーダの内部構成 Fig. 3 Block diagram of SHD video real-time
decoder.
図4 コンテンツ流通のカテゴリー分類 Fig. 4 Category of content distribution.
Byte
に達する.これを圧縮した場合でも,2
〜5 Tera bit
になり,まさにテラビットメディア流通と呼ぶに ふさわしい状況となる.現在,インターネットの爆発 的な普及により,IP
を用いた様々なコンテンツ流通 が存在するが,ディジタルシネマがこれらIP
を用い たコンテンツ流通においてどのようなポジションに位 置づけられるかを図4
に示す.縦軸に1
個あたりの コンテンツの容量を,横軸に予想されるアクセス数を とっている.同図よりIP
を用いたコンテンツ流通は 大きく4
種類に分類できる[15]
.つまり,1) IoT
に代 表されるM2M (Machine-to-Machine
,センサネット ワーク)
の非常に粒度の細かい流通,2) Web
をベー スにしたコンテンツ流通であるB2C (
ビジネスから一 般ユーザへ)
の一般的タイプ,3) YouTube
あるいは ニコニコ動画等により生み出されているP2P (
ピア・ツー・ピア
)
ベースに流れる少し粒度の大きいコンテ ンツ流通,4)
超高精細画像に代表される大容量スト リーミング配信による非常に粒度の大きいコンテンツ 流通に分かれる.図中Digital Cinema
は1
作品あた り約300 GByte (
約2.4 Tbit)
のデータを1
日1
回,国内の約
3000
スクリーンの商用映画館に配信する場 合のトラヒック量を示している.コンテンツあたりの データ量と配信数の積で見ると,HDTV/SDTV
中継(
CATV
等を含む日本の放送事業者,約750
局が24
時間,10
〜100Gbit/hour
で配信するデータ量を図中 に配置)や,他の三つのカテゴリーに匹敵する大容量 のトラヒックが超高精細映像の流通により新たに生み 出される.3. 4K
ディジタルシネマ伝送装置の開発1999
年から筆者らは超高精細動画像の応用をディ ジタルシネマの商用化に定め,ネットワーク配信によ る映像流通プラットホームの実現へと歩みだした.3. 1 4K
ディジタルシネマ伝送装置35mm
フィルム映画と同等の品質を得るためには,水平走査線数
2000
本の高品質なディジタル化が必要 である.この条件と映画のアスペクト比に対応するた めに,横方向の画素数を4000
画素に拡大した総画素 数800
万画素のディジタルシネマ映像伝送装置の開発 を開始した.ハリウッドの映画関係者は解像度を横方 向で呼ぶ慣わしのため,超高精細映像は「4K
映像」と 呼ばれるようになった.映画のディジタル化における最初の問題は,映像符 号化としてどの方式を採用するかであった.ハリウッ ド関係者は,映画をディジタル化するためには,人 間の視覚では映像品質の損失が解らない圧縮を行い
「
Visually Lossless
」の実現が必須と主張していた.一 般にテレビの動画像の符号化には,高圧縮を目的として
MPEG2
のようなフレーム間の相関を利用する方式が用いられる.しかし,
1)
色差信号の間引きにより 画像のエッジに色にじみが出やすい,2)
階調が8bit
に限定される,3) MPEG2
では4K
解像度に対する 規格がない,4)
データ誤りが生じたときに影響が前後 のフレームに波及する,5)
動画像の1
コマごとの編集 が行えない,等の問題点がある.これを解決するため に筆者らは,1
フレームごとに画像を圧縮しつつ高能 率なJPEG2000
とRGB
空間4:4:4
サンプリングによ る符号化方式の採用を決め,装置の開発を進めた[16]
.JPEG2000
で圧縮した場合,約1/10
〜1/15
程度に圧 縮しても非常に高品質な映像を再生できる.当時ハリ ウッドの内部では,MPEG
系の符号化とJPEG2000
のどちらがディジタルシネマに適しているかの議論 があったが,本システムによる筆者らの実証がその議 論に結論を与えた.開発した800
万(4K × 2K)
画素図5 4K超高精細ディジタルシネマ配信システム Fig. 5 4K SHD digital cinema distribution system.
超高精細ディジタルシネマ配信システムを図
5
に示 す.本システムは図の左から,1)
圧縮した映画のデー タを送出するサーバ,2) Gigabit Ethernet (GbE)
ス イッチ,3) JPEG2000
リアルタイムデコーダ,4) 4K
ディジタルビデオIF
プロジェクタ,で構成されてい る.ATM
に代わってGbE
のIP
伝送を活用すること で,経済的なストリーム伝送を実現した.本システム は3840 × 2048
画素,最大48
フレーム毎秒の動画像 を復号して,R
,G
,B
各色10bit
のディジタルビデ オ信号の出力が可能である.4K
映像の復号に十分な11.3Gbps
ビデオ信号の処理能力を得るために計120
個のJPEG2000
復号プロセッサASIC
を用いたリア ルタイム並列処理を実現した.2 CPU
のLinux PC
をベースに,各30
個のJPEG2000-ASIC
を搭載した デコード処理ボード4
枚を搭載した構成で,GbE
ネッ トワークからのデータ受信のプロトコル処理はLinux
上のプログラムで行い,各ボード上のJPEG2000
デ コード処理とのパイプライン処理により最大600Mbps
の伝送レートで符号化した低圧縮なデータをリアルタ イム復号し再生することができる.3. 2 4K
ディジタルシネマシステムの実現2002
年3
月に筆者らが銀座ヤマハホールで行った最 初の4K
ディジタルシネマの公開配信実験では101
分 のハリウッド映画作品「トゥームレイダー」を用いた.当時は映画の
4K
ディジタルデータは皆無な為,制作 行程に近い上質なフィルムをスキャンしてデータを作 成した.素材は上質なデュープ・ネガ(
上映プリント 作成用ネガフィルム)
で提供され,ディジタル・フィル ムスキャナー(IMAGICA
製IMAGER XE
)を用い て1
コマごとディジタイズしてJPEG2000
圧縮した.300
インチのスクリーンに対して十分な光量と映像品質でディジタル上映する為に,日本ビクター社で新 しく開発されたばかりの
4K
方式のD-ILA
方式反射型 液晶デバイスを用いたプロジェクタを開発した.1.7
イ ンチD-ILA
素子をRGB
用に3
枚用いた3840x2048
画素,光出力5000 ANSI
ルーメン,コントラスト比1000 : 1
のプロジェクタエンジン部(図5
右奥)を ベースに,4K-JPEG2000
リアルタイムデコーダの専 用ディジタルビデオインタフェース装置(図5
右手前)を筆者らが開発することで,配信から上映まで完全 ディジタル処理を実現した.
3. 3 NPO
法人ディジタルシネマコンソーシアム の設立と国内外の映画界との連携ハイビジョンを超える超高精細映像技術によるディ ジタル化の最後のターゲットとして映画を設定し,映 画産業界を巻き込むために筆者らは非営利団体であ るディジタルシネマコンソーシアム
DCCJ (Digital Cinema Consortium of Japan) [17]
を2001
年2
月 に設立し,以降日本国内での研究会,シンポジウム,そして東京国際映画祭での併催ワークショップ
[18]
な どを実施した.それまでに4K
映像に対応した映像 入出力装置は日本の各企業において要素技術として 個別に開発されてきた.日本ビクター社のD-ILA
方式の
QHDTV
プロジェクタ,オリンパス社の超高精細画像カメラ,
IMAGICA
社の35mm
映画フィルム の高速スキャナ等である.これに,筆者らが開発した4K
ディジタルシネマ伝送装置を接続し,統合するこ とで4K
ディジタルシネマというコンセプトでDCCJ
より世界中に提示して行くことを目指した.更に映画 産業の世界的な中心であるハリウッドの技術者への働 きかけを推進し,同年7
月のSIGGRAPH 2001
での 世界初4K
超高精細映像のデモンストレーションを実 施した(図6
),事前にハリウッドの映画界には何も 案内していなかったが,開催中に業界内に知れるとこ ろとなり,大勢のハリウッド関係者も詰めかけ,彼ら に最先端の日本の映像技術を提示する絶好の機会と なった.これが契機となり,Paramount
社とWarner Bros.
社から4K
映像に関する評価を進めたいとの要 請が届き,翌年6
月のParamount Studio
社での品 質評価,続けてハリウッドの映画技術の評価機関の役 割を担っていたSouthern California
大学(USC)
のEntertainment Technology Center (ETC)
における 評価実験を行うに至り,ディジタルシネマの標準化に 多大な影響を与えた.図6 SIGGRAPH 2001における4Kディジタルシネマ の展示状況
Fig. 6 4K digital cinema exhibition at SIGGRAPH 2001.
3. 4 4K
超高精細映像技術の世界標準に向けてParamount
社やWarner Bros.
社と筆者らの間で,4K
映像を用いることで映画の品質を落とすこと無く ディジタルシステムへの移行ができるであろうとの共 通認識が得られたことから,この技術をハリウッドで 映画産業に携わる多くの関係者に理解してもらおう と,2002
年10
月にUSC/ETC
において世界初の詳 細な4K
ディジタルシネマ映像の評価実験を行った.この評価実験の場において,ディジタルシネマの標 準化団体である
DCI (Digital Cinema Initiative)
のCTO
が4K
映像の採用を表明し,4K
映像のDCI
仕 様への採用が確定した.この実験にはハリウッドスタ ジオ関係者約100
名及びASC (American Society of Cinematographers
,全米撮影監督協会)
関係者約20
名が参加し,実稼働する4K
映像システムとその品質 を見たハリウッド関係者は,新たに策定するディジタ ル規格が,フィルムの100
年の歴史と同様に永続的で あると確信し,その後の本格的な標準化作業を加速さ せた[19]
.DCI
はディジタルシネマのシステム仕様案を作成 し,2003
年5
月30
日にDraft Document
版として 外部に初めて公開した.その基本は,1)
一つのマスタ データで世界中の映画館において同じ品質でディジタ ル上映できること,2)
オープンなスタンダードである こと,3)
セキュアであること,の3
点に集約される.この仕様案の中に筆者らが提案した
4K
映像規格が織 り込まれた.2005
年7
月にDCI Specification V1.0
が公開され,DCCJ
は許諾を受けてその日本語版を発 行した.この規格の最新版「Digital Cinema System
Specification v.1.2
」は,DCI
のホームページから入手できる
[20]
.標準化は当初から米国の映画テレビジョンの標準化 団体である
SMPTE (Society of Motion Picture and Television Engineers)
で行う方針であった.DCI
の 仕様案を受け,技術部会DC28
の下にマスタリング(28.10)
,配送(28.20)
,映画館上映(28.30)
の新たな ワーキンググループが設置され,標準化文書を発行し た.ハリウッドの6
大スタジオはこれを世界標準とす る為にISO
において国際標準化を進め,SMPTE
で 作成したドキュメントのほとんどがISO
からも発行さ れた.また,商用開発されたディジタルシネマシステムが
DCI
規格を満たすことを認証する機関として,映画産 業界から許諾された2
機関の一つとして慶應義塾大学DMC
研究機構がアジアで唯一認定され,映画産業の 振興に貢献している.3. 5
ディジタルシネマ配信の実証実験DCI
仕様がほぼ確定したのを機会に,仕様策定を積 極的に進めてきたWarner Bros.
社と共同で4K
ディ ジタルシネマの実証実験「4K Pure Cinema
」を2005
年に開始した[4]
.ディジタルシネマ標準のDCI
仕様 に基づき,高額な費用をかけて制作された封切り映画 をセキュアに商業用映画館にネットワーク配信し,有 料で興行する共同ビジネストライアルである.筆者 らは,この実証実験に向けてDCI
仕様に基づくAES (128bit)
暗号の実時間復号処理や暗号鍵の配信管理機 能・耐タンパ機能を付加したDCI
準拠となる世界初の4K
ディジタルシネマ再生装置(図7
)を開発,映像配 信用のネットワークを構築した.実証実験は,ティム・バートンの「コープス・ブライド」
(2005
年10
月)
を 皮切りに,「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(2005
年11
月)
等が続き,2
年をかけて合計15
作品で実施図7 DCI仕様4Kディジタルシネマ再生装置 Fig. 7 DCI 4K digital cinema playback system.
した.米国
Burbank
市のWarner Bros.
社でディジ タルデータが作成され,光ネットワークを介してまずNTT
横須賀研究開発センタに直接送られた.データ チェック(試写)を行った後,お台場メディアージュ,東宝シネマズ六本木,東宝シネマズ高槻はじめ計
6
カ 所にメトロイーサなどの光ネットワークを介して配信 した.これが世界初の映画館での商用ベースの4K
興 業であり,この実証実験によりネットワーク配信実験 の有効性が実証された.4. 4K
ライブストリーミングの展開 次に筆者らは映画館に設置された4K
プロジェクタ と光ネットワークを活用する4K
映像ストリーミング 技術の研究開発を行った[21], [22]
.映画とは異なる客 層を映画館に呼び込むビジネスとして始まったODS (Other Digital Stuff
,非映画コンテンツ)として4K
映像のライブ中継実験を行った際に発見した課題の解 決のために培った技術の一つが,疎グラフ符号であるLDGM
符号を改良した前方誤り訂正(FEC)
技術で ある.4. 1 4K
ライブストリーミングの実現4K
映像を用いた世界初のライブストリーミング実 験は,2005
年9
月のiGRID 2005
シンポジウム[23]
における太平洋横断
IP
配信実験であった(
図8)
.こ れはNTT
と慶應義塾大学,Illinois
大学Chicago
校,California
大学San Diego
校による共同実験[24]
で,筆者らが新たに開発した,
4K
映像を毎秒30
フレーム で処理可能な4K
リアルタイムコーデックにより,4K
カメラ映像のリアルタイム伝送を初めて実現し,こ の実証実験はNew York Times [25]
に掲載され注目 された.iGRID2005
は,GbE
ネットワークが一つの アプリケーションで占有される時代の始まりを告げる図8 世界初の国際4Kストリーミング実験iGRID2005 Fig. 8 World 1st international 4K streaming in
iGrid2005.
イベントとなった.新たに開発したリアルタイムコー デックは,
4K × 2K
画素,30
フレーム/
秒,YCbCr 4:2:2
,総データ量6Gbps
の超高精細画像の実時間符 号化と500Mbps
の高速なIP
伝送処理を同時に実行 することができる[5]
.当時は4K
映像に関する動画像 符号化の標準は存在せず,劇場の300
インチを超える スクリーンに見合う画質を得られる膨大なエンコード 演算量を並列処理で行えることからJPEG2000
を採 用した.4. 2
超低遅延4K60P
映像コーデックの開発2009
年10
月に開催された日本手話学会の基調講演 の中継を双方向の4K
映像で行った.この実験では,手話の高速で微妙な動きを
4K
映像でどれだけ詳細に 伝えて会話を成立させられるかが課題であった.そこ で筆者らは今までの2
倍の60
フレーム毎秒の処理を 新たに実現した4K60P
映像コーデック[26]
を活用し,世界初となる
4K60P
双方向通信の公開実験を,講演 会場の東京大学駒場キャンパスとサテライトの東京都 市大学横浜キャンパスをJGN2Plus
の1Gbps
回線で 接続して行った.双方向通信で手話の会話を行い,非 常にスムーズに手話の会話が可能であったとの感想を 得た[27]
.更に符号化・
IP
送受信・復号による総処理時間を,分割画面のパイプライン処理等により
80 msec
に低減 する改良を加え,会話の不自然さを解消した.市中のHDTV
コーデックの遅延500 msec
に比べて極めて少 ない.その外観を図9
に示す.本装置はLinux
をOS
とするIA
サーバとJPEG2000
処理ボード4
枚で構成 され,符号化を各ボードで,IP
伝送プロトコル処理を プロセッサ部で分担実行し,伝送制御のプログラマビ リティを確保している.2010
年には,上限なく多数の エンコーダ・デコーダをソフト制御でフレーム同期させ図9 4K映像伝送システム Fig. 9 4K video transmission system.
る機能を実現,米国の金融機関の役員会議用に
4K60P
の3
面構成のTV
会議システムとして導入された[28]
.4. 3
疎グラフ符号による高信頼IP
パケット伝送 ライブ伝送において専用線が使えるのが望ましいが 現状で実用的と言えない.第一の理由は回線コスト で,次に回線開通の所要準備期間と利用効率である.したがって
ODS
では共用網を使わざるを得ず,デー タ伝送の信頼性の点で懸念が生まれる.また宅内系の 伝送にはお客様設備を共用して使うので,機器の信頼 性や他トラヒックとの混在もパケット伝送の不確実性 を増やす.上述のiGrid 2005
の実験においても,学 術網内でパケットロスが時々発生し,映像フリーズ等 で映像品質を損ねていた.こうした経験から,筆者 らはIP
パケットロスへの対策が必須と早期から認識 し,マルチキャスト配信にも使える,再送の不要な前 方誤り訂正(FEC
)符号の実装が必要と考えた.それ は高速処理が可能で,IP
網のバースト的なパケット ロスに強いことが求められる.そこでLDPC
(Low Density Parity Check
)符号の一種で,IP
パケット 伝送では不要な誤り検出機能を省いて簡略化した疎グ ラフ(LDGM: Low Density Generator Matrix
)符 号を採用して,従来の欠点を解消する改良を行った.LDGM
符号は,同じブロック長ではReed-Solomon (RS)
符号と比べて効率が劣るが,バースト誤り耐性 を高めるために大きな符号ブロック長を用いても計算 量の増加は緩やかという利点がある.まず復号時のMessage Passing Algorithm (MPA)
を高速化する実 装によりXeon (Dual Core 2.33GHz)
を2
個用いた コーデック内で800Mbps
の処理速度を達成した.5.
次世代メディアトランスポートへの展開 ディジ タ ル シ ネ マ の 普 及 に よ りH.264/MPEG4- AVC
の4K
映像への対応が進み,更に大容量化す る 映 像 を よ り 高 能 率 に 符 号 化 す る た め にMPEG- HEVC/H.265
標準化が開始された.それと並行し て次世代トランスポートMMT
の標準化が始まり,こ こにNTT
が提案したFireFort-LDGM
がFEC
符号 として採用された.5. 1 MPEG Media Transport
(MMT
)の 特徴符号化データを伝送するメディアトランスポート規 格は長期にわたって
MPEG2-TS
が多用されてきた.しかし制定後
20
年が経過し,その間に映像コンテン ツの端末はTV
からPC/
モバイルに移行し,伝送経路図10 MMTの特徴 Fig. 10 Characteristics of MMT.
も放送波に加えてモバイル網,高速光インターネット 等の
IP
伝送路などに多様化した結果,トランスポー ト規格に対して以下のような機能が必要となってきた.1
)IP
伝送への親和性,可変長データへの対応2
)複数の映像や音声を自由に組み合わせる,あるいは分離ができるハイブリッド伝送の実現
3
)End-to-End
配信を高信頼にするアプリケーション レベルのFEC (AL-FEC)
1
)はMPEG2-TS
が想定したATM
伝送に由来する188
バイト固定長フォーマットの非効率性から脱する ものであり,2
)は付加的な情報をIP
網から送るハイ ブリッド放送を念頭に考えられたものであるが,これ らの機能はパブリックビューイングで多視点の映像を 同時に上映する等の非放送分野にも有用な機能である.2009
年からMPEG-H
としてHEVC/H.265
符号化や3D-Audio
の標準化と併せて上述の機能実現を目指し た新しいメディアトランスポートMMT
の規格化作業 を開始し,2014
年にはISO/IEC 23008-1
(MPEG-H Part1
)としてデータフォーマット・属性情報伝送の中 核部分を制定した[7]
.MMT
の特徴は図10
に表した ように,上記の3
項目のほかに,異なる発信点や経路 から送られてきたコンテンツを同期して再生できるよ うに,再生すべき時刻情報を送信側で指定できる機能 と,ディスプレイの画面上にどのように表示するかの レイアウトを制御する機能がある.特に再生時刻情報 は世界標準時UTC
に基づく絶対時刻を用いることが 定められ,MPEG2-TS
では27MHz
のビデオクロッ ク再生に必要な情報(PCR
)のみを伝送しているのと 大きく異なるなど,PC
等の端末でのメディア再生を 強く意識している.5. 2 MMT
アプリケーションレベルFEC MMT
標準化ではIP
伝送での信頼性向上のために,当初から高能率な
FEC
符号の必要性が提唱され,2015
表1 MMTが規定する誤り訂正符号 Table 1 Variety of FEC codes specified in MMT.
図11 MMT AL–FECの適用領域 Fig. 11 Application domain of MMT AL–FEC.
年に
23008-10 (MPEG-H Part10)
として標準化され た[8]
.筆者らは4K
ライブストリーミングで培ってき たIP
伝送に好適なFireFort-LDGM FEC [29]
と呼 ぶ技術の普及を目指してMMT
標準化に当初から提 案し,性能が認められAL-FEC
符号の一つとして採 用された.このMPEG-H Part10
では,様々な伝送 路の特性に対応するため,表1
に示す6
種類のFEC
符号を規定している.誤り訂正能力と演算量の観点か ら一長一短があり,その特徴に応じて選択して利用す る.現状,ロバストなFEC
処理が可能なブロックサ イズと訂正処理に必要な計算量の観点からは,何にで も適用可能な万能なFEC
符号は存在しない.図11
に 示すようにReed Solomon
符号は最適な符号であるが 計算量の制約からブロックサイズを大きくできない.Pro-MPEG
は計算量が少ないが誤り訂正能力に劣る.残りの
4
方式は疎グラフに基づく線形符号で,特にFireFort-LDGM FEC
は,Raptor-Q
系符号に近い良 好な誤り耐性をもちつつ計算量が約半分である.従来 のLDGM-FEC
ではブロックサイズが1000
程度と少 ない場合に誤り耐性が劣化する大きな欠点があったが,これを解消したサブパケット分割手法
[30]
,更に階層 符号化に適したLayered-Aware
特性[31]
,符号ブロッ クサイズや冗長度を変えても疎行列を再設計・再計算しなくても良い
Rate Adaptive
特性などの特徴を備 えている.FIFA World Cup Brazil 2014
大会の際には,MMT
とFireFort-LDGM FEC
による高信頼IP
伝送システ ムを用いたパブリックビューイング向け8K
映像配信実 験をNHK
放送技術研究所と共同実施した.280Mbps
の8K
映像ストリームをMMT
フォーマットに変換,FireFort-LDGM FEC
で10%
の冗長度を与えて日本 に伝送した.学術ユーザで混雑しているリオ・マイア ミ間の学術網と,米国の学術網Internet2
等の共用網 を用いても1
ヶ月間の安定した8K
映像伝送を実現,MMT
の可用性を示した[32]
.6.
提 言光通信が高速・大容量化を進める中,今後どのよう な用途に大容量ネットワークが用いられるのかという 議論が
1980
年代後半にあった.ネットワークの進化の 下に,新しいアプリケーションとして何を生み出して いくのかが大きな課題であり,これに対応しようとい うのが超高精細映像の発想の原点であった.通信ネッ トワークはそこを流通する情報の性質やサービスの要 求条件によって決定される.したがって,車の両輪の ように情報を運ぶネットワークの研究開発と,ネット ワークの利用方法を常に念頭に両方の研究開発を並行 して進めることが必須であると考える.筆者らは,そ のような立ち位置に身を置き,当時ブロードバンド ネットワークに向けたATM (Asynchronous Transfer Mode)
伝送方式の研究開発に関与しており,その研究 開発過程から超高精細映像のプロジェクトを誕生させ た.ATM
はエンドユーザ向けのネットワークとして は普及することはなく,ネットワークはインターネッ トのIP
パケット転送のみとなった.これによりATM
ベースで開発されていたアプリケーションは大部分消 滅することとなったのである.ネットワークを流通す る情報が音声主体からコンピュータ間のデータ主体に なることを予測できなかったからである.筆者らは超 高精細映像の流通をIP
ネットワークで実現する研究 とその実証実験を進めてきた.今後爆発的増大する トラヒックに直面し,インターネットの限界が指摘さ れ,IP
プロトコルの改良ではなく,clean slate
でネッ トワークのアーキテクチャやプロトコルを研究する 新世代ネットワーク(NWGN: New Generation net- work
)のプロジェクトが世界的に展開されSDN (Soft- ware Defined Network)/NFV (Network Function
Virtualization)
が開発されている.このような新しい ネットワークとそれを利用して超高精細映像を効率的 に低遅延で転送する技術の開発,更にクラウドを利用 したコンテンツの制作・配信・アーカイブの技術開発 が必要である[33]
.また超高精細映像の開発を通じて,筆者らは国際標 準化に関して二通りの全く異なるアプローチの経験が できた.一つはビジネスユーザへの応用分野であり,
一方はコンシューマであるマスへの応用分野である.
前者が
4K
ディジタルシネマの国際標準化であり,ハ リウッドスタジオというごく限られた有力事業者の手 中にある映画の国際標準化である.後者が広範なマス を対象とした映像の配信プロトコルの国際標準化であ る.前者の映画の規格は,ハリウッドの6
大スタジオ が既得権者として大きな影響力をもっている.彼らに4K
ディジタルシネマを認知させない限り,標準化へ の道は開けない.逆に,一度その中に取り込まれると その影響力は全世界に及び,DVD
規格のようにコン シューマに向けても大きな影響力をもたらす.筆者ら は前述したように,ハリウッドの映画業界に対してロ サンゼルスで開催されたSIGGRAPH2001
の展示会 を利用して4K
映像を提示し,その後での世界初の4K
映像評価実験を開催することで,彼らが進めるディジ タルシネマの規格の中に採用させるに至った.4K
ディ ジタルシネマの国際規格に4K
映像が採用されたイン パクトは非常に大きく,世界中の映画館が4K
ディジ タルシネマ化し,ネットワークでつながり始めただけ ではなく,一般消費者向けの大型液晶TV
が4K
映像 を採用するきっかけを明確に作ることができた.これ は次に,YouTube
,NetFlix
,ぷらら等のネットワー クを介したビデオサービス業者にも影響を及ぼし,4K
映像がインターネットで流通する時代を作り出すに 至った.正に,テラビットメディア流通が実現される に至った訳である.これが1990
年の超高精細映像を 提案したときに目論んだターゲットそのものである.4K
映像に関しては,自らが表舞台に立たなかったこ とが普及を大きく推進させ,筆者らが当初目論んだHDTV
を超える次世代映像をネットワークで流通さ せる時代を約25
年で実現するに至ったのである.これに対し,後者の
MMT
の国際標準化におけるFireFort-LDGM FEC
採用への取り組みは,マスへ の国際標準化である.これまで広く利用されてきたMPEG2-TS
とPro MPEG FEC
は,もともとATM
伝送を想定して20
年以上前に標準化されたもので,固定長のデータフォーマットや,ロバスト性の弱い
FEC
が,IP
パケット伝送の時代に適合しなくなったことか ら,MMT
の標準化は開始された.2008
年のMPEG
釜山会合で,筆者らは4K
映像の研究開発動向を講演 してMPEG
での次世代符号化とトランスポートの標 準化を加速する講演活動を行った.そして本格化したAL-FEC
の標準化に関しては,いまなお,万能の符号 は存在しないことを標準化のメンバーが相互に理解し,お互いにクロスチェックを行い選抜した
6
種類の符号 を採用し,用途に応じて選択できるような仕様策定を 協調して進めた.その結果,IP
ネットワーク伝送に適 した,広範なユースケースをカバーするAL-FEC
を 標準化することができた.このように,次世代の映像プラットホームがどうあ るべきかを考え標準化を進める際には,アプリケー ションを想定し,将来にどのようなネットワークを実 現すべきか,アプリケーションとネットワークの両者 を組み合わせて考えることが必要不可欠である.これ が
4K
の次の世代の映像プラットホームを考える基盤 となると思われる.7.
む す び1980
年代末に,光通信技術とディジタル処理技術の 熟成を見越し,将来のブロードバンド時代の到来を見 据え,筆者らは高品質なマルチメディア通信を実現す るプラットホームとして超高精細映像の概念を提唱し た.更に35mm
フィルムでしか実現できなかった映像 コンテンツの王様である映画を完全ディジタル化して ネットワーク流通を実現すべく,4K
ディジタルシネマ の研究開発を進めてきた.その技術はハリウッド映画 関係者に受け入れられ,SMPTE
及びISO
により世界 標準となった.国際標準化の重みは大きく,2001
年に ハリウッド関係者に4K
ディジタルシネマを提示して 以来,約15
年で映画は完全にディジタル化を完了し た.今日では4K
映像がコモディティ化し,4K-TV
や4K
カメラが家電量販店で普通に販売され,インター ネットに4K
映像が溢れる時代に突入した.筆者らの当 初の目標がまさに実現されたと考える.更に4K
映像 のライブストリーミングの経験からFireFort-LDGM
を開発し,新たな国際標準に貢献することもできた.これは,更なる
4K
映像の発展を支えるストリーミン グの基盤技術である.今後,この4K
映像は映画・TV
から医療・教育・ゲーム・監視・自動運転などあらゆ る分野に適用され,Big Data
の大きな要素としてその映像情報がネットワークを流通するであろう.これ によって新たに,品質・セキュリティ・コスト・消費エ ネルギーなどのネットワークへの要求条件がクリアと なり,新しいアーキテクチャ及びプロトコルの新世代 ネットワークや
5G
モバイルネットワークの構築とそ の発展に大きなインパクトを与えるであろう.4K
映 像のアプリケーションとそれをビジネスユーザと一般 消費者に提供するネットワーク基盤を車の両輪として 構築し,それによって産業も発展するビジネスモデル の確立が重要であると考える.謝辞 本研究開発の推進にご協力いただいた
NTT
研究所の関係各位,DCCJ
の会員として活動いただい た皆様,及びハリウッドシネマ業界の関係者の皆様に 深く感謝の意を表します.文 献
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(平成28年12月15日受付,29年3月29日再受付,
6月7日早期公開)
藤井 竜也 (正員)
1986東大・工・電気卒,1991同大学院 博士課程了(工博).同年NTT入社.1996 Washington University in St. Louisに おいて客員研究員.2007〜2016 NTT未 来ねっと研究所メディア処理システム研究 グループ・リーダとしてディジタルシネマ・
4K/8K映像の大容量リアルタイム映像ストリーミング技術の
研究開発に従事.2011電気通信普及財団 第26回テレコムシ ステム技術賞.現在,同研究所主幹研究員.電子情報通信学会,
映像情報メディア学会,IEEE会員.
藤井 哲郎 (正員:フェロー)
1979東大・工・電子卒,1984同大学院 博士課程了(工博).同年日本電信電話公
社(現NTT)入社.主にディジタル信号
処理及びトランスポート処理の研究に従事,
1990年より超高精細画像システムの研究 を開始し,4Kディジタルシネマシステム の開発に至る.2008年より武蔵工業大学(現東京都市大学)教 授.2010年より2016年8月まで東京都市大学大学院環境情 報学研究科長.第41回業績賞受賞,2009年度高柳記念奨励賞 受賞,電子情報通信学会フェロー.IEEE会員.
小野 定康 (正員:フェロー)
1976慶大大学院電気工学専攻博士課程 了(工博).1976年日本電信電話公社(現 NTT)横須賀電気通信研究所入所.1997 年NTT研究所小野特別研究室長.2003 年慶大デジタルメディア・コンテンツ統合 研究機構教授を経て現在,株式会社サペレ 代表取締役,O&G(株)副社長.ディジタル信号処理,ディジ タル画像理,ディジタルシネマの研究に従事.電気通信普及財 団賞,高柳記念奨励賞,前島賞,電子情報通信学会業績賞等を 受賞.現在世界最初の永久保存クラウドストレージサービス提 供のために活動している.
青山 友紀 (名誉員:フェロー)
1969年東京大学大学院電気工学科修士 課程了.同年日本電信電話公社入社.電気 通信研究所でディジタル信号処理,情報通 信システム,広帯域ネットワーク,などの 研究に従事.1994年NTT光エレクトロ ニクス研究所所長,1995年NTT光ネッ トワークシステム研究所所長に就任.1997年から東京大学工 学系研究科教授.2000年〜2006年3月まで東京大学大学院 情報理工学系研究科教授.2006年4月慶應義塾大学に転じ,
デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構教授.情報通信研 究機構(NICT)プログラムコーディネーターを兼任し,2017 年3月まで慶應義塾大学理工学部訪問教授.東京大学名誉教 授.工学博士.日本学術会議会員(21期・22期).電子情報通 信学会フェロー,名誉員,第86代会長,IEEE Life Fellow,
IEEE Japan Council Chair(2015–2016).NPO法人ディジ タルシネマコンソーシアム(DCCJ)会長(2001年–2016年). 超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会会長(2001 年–2011年).電気通信普及財団テレコムシステム技術賞,志 田林三郎賞,前島賞,電子情報通信学会論文賞(2回),業績 賞,功績賞,総務大臣賞,文部科学大臣賞.