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スーパーハイビジョンコーデックの開発と衛星伝送実験

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(1)

招待論文

スーパーハイビジョンコーデックの開発と衛星伝送実験

井口

和久

a)

中島

奈緒

境田

慎一

合志

清一

†∗

筋誡

鈴木

陽一

伊藤

††

中川

††

数井

君彦

††

Development and Satellite Transmission Experiments of Super Hi-Vision

Codec Sysytem

Kazuhisa IGUCHI

†a)

, Nao NAKAJIMA

, Shinichi SAKAIDA

, Seiichi GOHSHI

†∗

,

Hisashi SUJIKAI

, Yoichi SUZUKI

, Takashi ITOH

††

, Akira NAKAGAWA

††

,

and Kimihiko KAZUI

††

あらまし MPEG-4 AVC/H.264 方式を用いたスーパーハイビジョンコーデックを開発した.スーパーハイ ビジョンは7680 画素 × 4320 ラインを有する,現在最も解像度の高いテレビシステムである.この超高解像度 映像をリアルタイム処理するため,スーパーハイビジョンコーデックは映像を時空間に分割して符号化を行う. 分割符号化を実現するため,分割画面間の同期機構と分割境界線の低視認化を行うポストフィルタを併せて開発 した.本論文では,スーパーハイビジョンコーデックの詳細と2008 年 9 月に実施した国際衛星伝送実験につい て述べる. キーワード 映像符号化,MPEG-4 AVC,H.264,超高解像度映像,スーパーハイビジョン

1.

ま え が き

近年,ハイビジョンを越える解像度をもつ様々な動 画システムが提案・開発されている.デジタルシネマ で利用される2 K/4 Kや,イベントのために用意され たシステム[1]など多岐にわたる.これらの超高精細映 像の中でも,スーパーハイビジョン[2]は7680画素× 4320ラインの映像を用いる現在最も解像度の高いシス テムである.スーパーハイビジョンは視聴者に高い臨 場感,没入感を与えるため,22.2マルチチャネル音声 による三次元音響も有している.特に映像の解像度が 高いため,スーパーハイビジョンの情報量は極めて大 きい.放送サービスを実現するためには,高画質・高 NHK放送技術研究所,東京都

Science & Technical Research Laboratories, NHK, 1–10–10 Kinuta, Setagaya-ku, Tokyo, 157–8510 Japan

††(株)富士通研究所,川崎市

FUJITSU LABORATORIES LTD., 1–1, Kamikodanaka 4-chome, Nakahara-ku, Kawasaki-shi, 211–8588 Japan

現在,シャープ株式会社 a) E-mail: [email protected] 圧縮の符号化装置が必須となる.我々はスーパーハイ ビジョンを衛星放送が可能なビットレートに圧縮する ことを目指し,映像をMPEG-4 AVC/H.264方式[3] で圧縮,音声をAAC方式[4]で圧縮するスーパーハ イビジョンコーデック[5]を開発した.本装置の開発 と衛星伝送実験の成功によりスーパーハイビジョン放 送の展望が開けた. 開発したコーデックは,通常のハイビジョン用符号 化装置を複数用い,同期機構などの改修を加えて実現 したものである.複数の符号化装置を組み合わせてよ り高い解像度の符号化を行う手法は,初期のハイビ ジョン用符号化装置を開発する際にも広く用いられた. 最近では,複数のハイビジョン用コーデックを組み合 わせて最大4 K× 2 K(3840画素× 2160ライン)サ イズまで符号化可能なフレキシブルコーデック[6]が 開発されている.このコーデックはハイビジョン用符 号化装置を4台組み合わせたもので,4 Kサイズま での様々な映像を符号化することが可能である.し かし符号化方式にMPEG-2を使用しているため,ハ イビジョン用符号化装置4台でビットレートが60∼

(2)

表 1 スーパーハイビジョン諸元 Table 1 Specification of Super Hi-Vision. 画面のアスペクト比 16:9 画素数 7680画素× 4320 ライン (約 3300 万画素) 標準的な視野角 100度 フレームレート 59.94 Hz 走査線構造 プログレッシブ 音声 22.2チャネル 160 Mbit/s(1/100∼1/38)と圧縮率が高くない. 筆者らの開発したコーデックはスーパーハイビジョ ン映像をリアルタイムに約1/200(映像のエレメンタ リーストリームを118 Mbit/s以下)に圧縮可能な性 能を有する.このような高圧縮を実現する超高精細映 像用のコーデックは他に存在しない.本論文では開発 したスーパーハイビジョンコーデックの映像処理につ いて,画素構造,画面分割の方式,分割画面間の同期, 分割境界線の後処理を述べるとともに,開発したコー デックを用いた符号化実験及び国際衛星伝送実験につ いて述べる.

2.

スーパーハイビジョンの画素構造

スーパーハイビジョンの諸元を表 1に示す.スー パーハイビジョンは視野角100度[7]を実現するため に,ハイビジョンの16倍となる約3300万画素をも つ.現在,RGBそれぞれ約3300万画素をもつカメラ 及び表示装置の開発を行っているが,現在のスーパー ハイビジョンカメラ[8], [9]は,800万画素CMOSを 4板(G1/G2/B/R)用い,Gチャネルの斜め画素ず らし[10]によりベイヤー配列と等価な撮影を行ってい る.スーパーハイビジョンプロジェクター[11]も,現 在はカメラと同様にGチャネルの斜め画素ずらしに より映像を表示している.Gチャネルの斜め画素ずら しによるスーパーハイビジョン映像の画素構造を図 2 に示す.輝度信号に最も大きな影響を与えるG信号 は,水平方向と垂直方向については約3300万画素と 等しい解像度をもつが,斜め方向に関しては半分の解 像度となる.この現在の画像構造はRGBの全画素を 合計して約3300万画素を有しており,情報量はハイ ビジョンの16倍(空間方向に8倍,時間方向に2倍) となる.スーパーハイビジョンコーデックは,この画 素構造の映像を圧縮符号化する.

3.

スーパーハイビジョンコーデック

スーパーハイビジョン映像のビットレートは,非圧 縮伝送時は24 Gbit/sに達する.そのため,スーパー ハイビジョンの素材伝送や放送を実現するためには, 圧縮符号化が必須である. 一般に素材伝送では,極めて高い画質を維持する必 要があるため,高ビットレートの符号化を行う.この ような用途に,既にMPEG-2 4:2:2プロファイルを 利用したコーデックを開発[12]した.このコーデック はスーパーハイビジョン映像を180∼600 Mbit/s程度 に圧縮可能である.素材伝送に必要な画質を得るため に,このコーデックは通常は600 Mbit/s程度で利用 する.このコーデックにより,映像・音声を合わせて 640 Mbit/sに圧縮し,1 Gbit/sの専用IP回線を利用 したライブ伝送[13]も実現した. しかし,このコーデックを放送に利用する場合は, 180 Mbit/sを超える高ビットレートの回線を各家庭 まで確保する必要があり,実現が容易ではない.放送 については,より安価な伝送路を用いる必要がある. 50∼100 Mbit/sを超える比較的大きなビットレートを 安価に実現可能な伝送路の一つに衛星放送がある.衛 星放送は,一つの衛星で全国にサービスが可能である とともに,既に放送に利用されている実績ももつ優れ た伝送路である.衛星放送のビットレートは,周波数 帯や使用するトランスポンダ数,変調方式や符号化率 により様々に考えられるが,今回は高度衛星デジタル 放送の暫定方式[14]として提案されていた32APSK (符号化率4/5)伝送時の1トランスポンダ当りのペ イロードビットレートである126 Mbit/sの伝送路を 想定した. スーパーハイビジョンの映像・音声を126 Mbit/sで 伝送するためには,映像のエレメンタリーストリームを 118 Mbit/s以下に圧縮する必要がある.そのため我々 は最新の映像符号化方式であるMPEG-4 AVC/H.264 方式を用いたコーデックを開発した.このコーデック はスーパーハイビジョンの映像・音声を約1/200の 126 Mbit/sに圧縮可能である.スーパーハイビジョン のような超高精細映像のコーデックで,1/200の高い 圧縮率をもつものは他に類がない. MPEG-4 AVC/H.264方式に準拠した様々な符号化 装置が製品化されているが,処理可能な映像はハイビ ジョンサイズにとどまっている.現在の技術レベル及 びコストの面から,スーパーハイビジョンのように高 精細な映像をリアルタイムに処理する符号化装置を単 体の動画像処理系として製作することは極めて困難で ある.また,スーパーハイビジョン映像は,MPEG-4

(3)

図 1 スーパーハイビジョンコーデックの全体構成 Fig. 1 Super Hi-Vision codec system.

図 2 現在のスーパーハイビジョンの画素構造 Fig. 2 Pixel structure of current Super Hi-Vision.

AVC/H.264方式で規格化されている映像サイズの上 限を超えている.そこで,ハイビジョン用符号化装置 を複数用いることで,スーパーハイビジョンのリアル タイムコーデックを実現した.図1に,スーパーハイ ビジョンコーデックの全体図を示す.送信側では,最 初に映像フォーマット変換装置によりスーパーハイビ ジョン映像を16組のハイビジョン信号に変換し,こ の信号をスーパーハイビジョン符号化装置で圧縮符号 化し,最後にストリームを多重化し1本のDVB-ASI として出力する.受信側では,ストリーム分配装置に よりスーパーハイビジョン復号装置にストリームを分 配し,復号した16組のハイビジョン映像をポストフィ ルタ装置によりスーパーハイビジョン映像に変換して 出力する. 3. 1 映像フォーマット変換装置 映像フォーマット変換装置は,スーパーハイビジョ ン映像を通常のハイビジョン用符号化装置で処理可能 図 3 Y1/Y2/Cb/Crに変換した画素 Fig. 3 Pixel structure of Y1/Y2/Cb/Cr.

な16組のハイビジョン映像に変換・分割する装置で ある.この装置は,MPEG-2 4:2:2プロファイルコー デック[12]開発時に製作したものである.この装置で は図2に示したG1/G2/B/R信号を,変換マトリッ クスを用いてY1/Y2/Cb/Cr信号に変換する.変換後 の画素構造を図3に示す.映像フォーマット変換装置 は,この画像を空間的に8分割する.8分割の方法は, 図4に示すように,水平に4分割する方法(H分割と 呼ぶ)と,垂直に4分割する方法(V分割と呼ぶ)の 2通りが可能である. 次に,分割した各画面をハイビジョンサイズに変換 する.H分割の場合は図5に示すように,Y1/Y2画 素を上下に移動することで,1920画素× 1080ライ ンの画像が得られる.このとき画素位置の仮想的な移 動を行うだけで画素値は変更しない.V分割の場合 は図6 に示すようにY1/Y2信号を左右に移動する. Cb/Cr信号についても同様に画素位置を仮想的に移動

(4)

図 4 空 間 分 割 Fig. 4 Spatial dividion.

図 5 H分割時の画素移動 Fig. 5 Pixel shift for “H” division.

図 6 V分割時の画素移動 Fig. 6 Pixel shift for “V” division.

する.この処理の結果,分割した画面はそれぞれ1920 画素× 1080ラインのYCbCr 4:2:2,フレーム周波数 59.94 Hzのプログレッシブ映像になる. この映像を更に時間的に2分割(図7)することで, 16組のハイビジョン映像(1920画素× 1080ライン, 図 7 時 間 分 割 Fig. 7 Temporal dividion.

図 8 エンコーダ間の同期機構

Fig. 8 Synchronization mechanism between encoders.

YCbCr 4:2:2,フレーム周波数29.97 Hz,プログレッ シブ)が得られる. 3. 2 スーパーハイビジョン符号化装置 スーパーハイビジョン符号化装置は,ハイビジョン 用MPEG-4 AVC/H.264符号化装置16台を用いて開 発した.映像の符号化にはディレーが伴うため,単純 に16台の符号化装置を使用しただけでは,分割画面間 に同期ずれが発生する.これを防ぐために,1台目の 符号化装置が他の15台すべてを制御する同期機構を 新たに開発した.同期機構を実装するために,内部プ ログラムが変更可能なFPGAとDSPで構成されてい るハイビジョン用符号化装置を用いた.同期は,1台目 の符号化装置が27 MHzクロック,符号化パラメータ, 符号化開始シグナル等を他の装置に供給することで実 現している.これにより,16組の出力ストリームの

PTS(Presentation Time Stamp),DTS(Decoding Time Stamp),PCR(Program Clock Reference),

GOP(Group Of Picture)構造が同期し,分割画面 間の同期が実現される. 同期信号は,図8 に示すようにデイジーチェーン で各符号化装置に伝達される.1台目の符号化装置は, この信号を用いて制御すべき符号化装置の台数を自動 的に取得する.これにより16台未満の構成によるテ スト動作も可能である.

(5)

また,スーパーハイビジョンの符号化画像の主観的 な画質を向上するため,映像の特徴に応じてビット レートを制御するレート制御方式を新たに開発した. 輝度の低い領域では,輝度の高い領域と比較して画質 劣化が見えやすい傾向がある.そこで,開発した符号 化装置では,入力画像の統計的性質を求め輝度の低 い領域に対して,QP値を通常より小さくすることで ビットレートを多く割り当てる処理を行う.これによ り,輝度の低い領域の画質を改善する. なお,この処理は1台のハイビジョン用符号化装置 それぞれの画面内で行うものである.各分割画面の ビットレートは常に映像全体のビットレートの1/16 に制御される. またMPEG-4 AVC/H.264方式では予測方式の異 なるフレームの間に画質の差が発生し,フリッカのよ うな画質劣化が発生する場合がある.このような劣化 が目立ちやすいフレームに関しては,フレームの間 で画質変化が小さくなるようにビットレートの制御を 行っている.このようなレート制御方式により,スー パーハイビジョン映像を120 Mbit/s程度(1分割当 り7.3 Mbit/sに圧縮し,合計で117 Mbit/s)に圧縮 可能とした. 音声はAAC方式を用い,ハイビジョン用符号化装 置1台当り2チャネルを圧縮する.16台の符号化装置 で合計32チャネルを伝送可能である.通常はこのう ち24チャネルを用いスーパーハイビジョンの音声を 伝送する.音声は22.2チャネル合計で約2 Mbit/sに 圧縮可能(2チャネルごとに160 kbit/sに圧縮し,合 計で1920 kbit/s)である.圧縮された映像と音声の ストリームはストリーム多重化装置により一つのスト リームに多重化され出力される. 図9に開発した符号化装置を示す.右側のラックの 上部が映像フォーマット変換装置,下部がスーパーハ イビジョン符号化装置を構成する16台のハイビジョ ン用符号化装置である.入力映像切替装置は複数の入 力映像の切換に用いる装置であり,この装置の有無が 符号化装置に与える影響はない.左側のラックはスト リーム多重化装置である. 3. 3 スーパーハイビジョン復号装置 スーパーハイビジョン復号装置は通常のハイビジョ ン用復号装置16台から構成される.1台目の復号装 置の出力をもとに同期信号を生成し,受信側に接続さ れる他のすべての機器への同期信号を供給する.これ により,受信側で用いる機器群についても分割画面間 図 9 スーパーハイビジョン符号化装置 Fig. 9 Super Hi-Vision encoder.

で正確な同期を保つことが可能である. なお,開発したコーデックは分割画面ごとのスト リームを1本に多重化して伝送することを前提として いる.ストリームを分割して伝送することも可能だが, 分割ストリーム間に大きなディレーが発生した場合に, それを吸収する機構は特に設けていない.ストリーム 間のディレー差は伝送路側で調整する必要がある.た だし,多少のディレー差であれば,ハイビジョン用復 号装置が有する出力フレームロックで吸収されるため 出力に同期ずれが発生することはない. 3. 4 ポストフィルタ装置 開発したコーデックは,スーパーハイビジョン映像 を空間的に8分割して符号化するため,分割の境界線 が検知される場合がある.分割画面ごとに符号化を独 立に行っているため,分割境界の左右(上下)に現れ る符号化劣化が異なる場合があり,これが分割境界線 が検知される原因である.この分割境界線を目立たな くするためにポストフィルタ装置を新たに開発した. 分割境界線が目立つ画像は,大別して分割の左右 (上下)で1.輝度が大きく異なる場合,2.テクスチャ が大きく異なる場合,の2種類がある.特に,分割境 界線の左右(上下)で輝度差が大きく,双方のテクス チャが少なく平たんな絵柄の場合分割境界線は目立つ 傾向がある.これを軽減するために,ポストフィルタ 処理では分割画面間の境界にLPF(Low Pass Filter)

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を適用する.ただしすべての分割境界に同じLPFを 適用すると,ぼやけが生じる場合がある.ぼやけは細 かいテクスチャがあるときほど目立つ.そこで,分割 境界に隣接する領域を小ブロックに分割し,各ブロッ クの輝度の平均と分散を求め,これらに基づきLPF の強度(係数)を制御する. LPFの制御は,まず分割境界を挟んで隣接する小 ブロックの平均輝度差が大きいほど,強いLPFを選 択する.次に,上記のテクスチャとぼやけの関係を考 慮しLPF強度の補正を行う.テクスチャの細かさの 検出には,小ブロック内の輝度の分散を用い,分散が 大きいほどテクスチャが細かいと判定する.二つの小 ブロックの輝度の分散がともに大きい場合は,1段弱 いLPFを選択する.細かいテクスチャがあるときに LPFによるぼやけが目立つことを低減するためであ る.二つの小ブロックの輝度の分散がともに小さい場 合は,1段強いLPFを選択する.平たんな領域では 分割境界線が目立つためである.それ以外の場合(輝 度の分散の大小が二つの小ブロックで異なる場合)は, 補正は行わない. LPFは,ハードウェアの規模を考慮して,分割境界 線に直交する向きの一次元フィルタで実現した.この ポストフィルタ処理により,ぼやけの発生を抑制しつ つ分割境界線を目立たなくすることが可能である. ポストフィルタ装置は映像フォーマットの逆変換の 機能も有し,3. 1で述べた処理の逆の変換により16 組のハイビジョン映像をスーパーハイビジョン映像に 変換することが可能である.

4.

符号化実験

開発したコーデックを用い,2種類の映像フォーマッ ト変換による画質の差の測定と,ポストフィルタの効 果,レート制御の効果,分割画面間の同期について確 認する符号化実験を行った. 4. 1 フォーマット変換による画質の差 3. 1で述べたH分割とV分割が符号化画質に与える 影響を測定する実験を行った.映像のエレメンタリース トリームのビットレートを128 Mbit/s,208 Mbit/s, 288 Mbit/sの3種類に変化させ符号化を行い,符号 化装置の入力と復号装置の出力との間で輝度信号の PSNRを測定した. 実験は31種類のカットに対して行った.その中の4 カットの結果を図10に示す.グラフは横軸がビット レート,縦軸がPSNRである.ここに示した“cherry”, 図 10 分割ごとの符号化結果 Fig. 10 Results of divisions.

“rocket”を含む24カットでV分割がH分割のPSNR を上回り,“cell”を含む5カットがほぼ同等のPSNR であった.H分割がV分割を上回るカットは“clouds” を含む2カットのみで,どちらもビットレートによっ ては同等またはV分割のPSNRの方が高かった.こ の実験の結果から,多くの画像でV分割が適している と考えられる. 図11に,画像“rocket”の1フレームの水平及び垂 直方向の周波数特性を示す.画像“rocket”は,垂直 方向の高周波成分が水平方向比較して高いエネルギー をもっている.その他のV分割の方がPSNRが高い 画像でも,同様の傾向が多く見られた.このような例 として,画像“house”と画像“moon”の周波数特性 を図12,図13に示す. H分割では,図5に示すように上下に画素を移動す るため,フォーマット変換後の画像に水平方向の高周 波成分が発生しやすい.特に,もとの画像に垂直エッ ジが多く含まれる場合,垂直エッジが上下に移動され ることにより,フォーマット変換後の画像に水平方向 の高周波成分が新たに発生し,符号化効率が低下す る.図 17に,垂直エッジと分割の関係を模式的に示 す.一方,V分割では画素は左右に移動されるため, 垂直エッジが多く含まれる画像をV分割した場合は, H分割のような高周波エネルギーが新たに発生するこ とは少ないと考えられる.そのため,垂直方向の高周 波成分が水平方向の高周波成分より高いエネルギーを もつ画像はV分割の方が適していると考えられる. H分割とV分割でPSNRの差がほとんどない画像 “cell”と画像“clouds”の周波数特性を図14と図15

(7)

図 11 画像 “rocket” の周波数特性 Fig. 11 Frequency responce of “rocket”.

図 12 画像 “house” の周波数特性 Fig. 12 Frequency responce of “house”.

図 13 画像 “moon” の周波数特性 Fig. 13 Frequency responce of “moon”.

に示す.これらの画像では,水平方向と垂直方向の周 波数特性に大きな差はなかった.このような周波数特 性をもつ画像は,分割により発生する高周波成分のエ

図 14 画像 “cell” の周波数特性 Fig. 14 Frequency responce of “cell”.

図 15 画像 “clouds” の周波数特性 Fig. 15 Frequency responce of “clouds”.

図 16 画像 “cherry” の周波数特性 Fig. 16 Frequency responce of “cherry”.

ネルギーがV分割でもH分割でも大きな違いがなく,

PSNRにも差が現れないと考えられる.

(8)

図 17 垂直エッジをもつ画像の分割 Fig. 17 Pixel shift for vertical edge.

図 18 復 号 画 像 Fig. 18 Decoded image.

図 19 ポストフィルタ処理画像 Fig. 19 Post filtered image.

近いPSNRの差があるにもかかわらず,図 16 に示 す周波数特性は,水平方向と垂直方向で大きな差がな かった.このような例外もあるため,もとの画像の水 平方向及び垂直方向の周波数特性以外にも,分割の適 性を決める要因が存在すると考えられる. 4. 2 ポストフィルタの効果 ポストフィルタの効果を確認する実験を行った.実 図 20 輝度ごとの PSNR 差 Fig. 20 PSNR difference per luminance level.

験は映像のエレメンタリーストリームのビットレート 128 Mbit/sで行った.図18に復号画像,図19に復 号画像にポストフィルタを適用した画像のそれぞれ分 割境界近傍の画像を示す.復号画像では水平に顕著な 境界線が現れているが,ポストフィルタ後の画像では 境界線が抑制されている. このほかの多数の画像で実験を行い,ポストフィル タの効果により,分割境界線が目立たなくなることを 確認した.ただし,画像に適応して強度を可変にして いるとはいえ,常に同じ空間位置にLPFがかかるた め,動画として表示すると固定的な位置にぼやけた領 域として視認される場合があることも確認した. 4. 3 レート制御の効果 3. 2で述べた輝度の低い領域にビットレートを多く 割り当てるレート制御の効果を確認する実験を行った. 実験は,映像のエレメンタリーストリームビットレー ト128 Mbit/sで行った. 図20は,提案方式によるレート制御による符号化 画像のPSNRと,このレート制御を行わなかった場 合(従来方式)のPSNRの差を,マクロブロックの 輝度レベルごとに集計したグラフである.提案方式で は輝度レベルの低い部分にビットを多く割り当てるた め,輝度レベルの低い部分ではPSNRが向上する一 方,輝度レベルの高い部分ではPSNRが低下する. 図21に,符号化画像の輝度レベルの低い部分を示 す.従来方式ではテクスチャがつぶれてぼやけている が,提案方式ではテクスチャ感が保持されており,提 案手法の方が主観的な画質が高い.図22は,輝度レ ベルの高い部分である.従来方式の方がPSNRは高

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図 21 暗部の符号化画像 Fig. 21 The dark part of decoded image.

図 22 明部の符号化画像 Fig. 22 The bright part of decoded image.

いが,主観的な画質の差はほぼない. このように,輝度の低い領域にビットレートを多く 割り当てることにより,主観的な画質が向上した. 4. 4 分割画面間の同期 3. 2で述べた同期機構の効果を明らかにするため, ハイビジョン用符号化装置の入力とハイビジョン用復 号装置の出力の間のディレー量を測定し,分割画面間 のディレー差を求めた. 同期機構を使用しない場合,16分割画面間のディ レー差は平均6.4 msで,最大33.3 msに逹する場合 があった.これは1フレーム分の時間に相当する.同 期機構を使用しない場合,ポストフィルタ装置が出力 するスーパーハイビジョン映像の一部に1フレームず れた画像が表示されることがある.同期機構を使用し た場合は,ディレー差は平均0.7 ms,最大10.1 msに なる.このディレー差は復号装置の出力フレームロッ クにより吸収可能であり,出力されるスーパーハイビ ジョン映像にフレームずれは発生しない. この実験により,符号化装置に付加した同期機構が 分割画面間のフレームずれを抑制する効果をもつこと が明らかになった. また,ストリームを分割して伝送する場合に,分割 ストリーム間に発生するディレー差が同期に与える影 響についても測定を行った.この実験ではストリーム を2分割し,片方のストリームにディレーを加えた. その結果,分割ストリーム間のディレー差が15.5 ms 以下では出力画像に影響はなく,15.6 ms以上のディ レー差があるとスーパーハイビジョン映像の一部に1 フレームずれた画像が表示されることがあった.この 実験により,ストリームを分割して伝送する場合,分 割したストリーム間のディレー差を15.5 ms以下に抑 える必要があることが明らかになった.

5.

国際衛星伝送実験

2008年9月12日∼16日に開催されたIBC2008 [15] において,スーパーハイビジョンの国際衛星伝送実験 を行った.この伝送実験は,RAI(Radio televisione Italiana:イタリア放送協会)と共同で実施した.イ タリア・トリノにあるRAIの研究所CRIT(Centro Ricerche e Innovazione Tecnologica)から衛星に送 信し,オランダ・アムステルダムのIBC2008会場で 受信した. この伝送実験の系統図を図23に示す.この実験で は開発したコーデックを用いてあらかじめ符号化した ストリームを伝送した.伝送には2台のDVB-S2変調 器を用い,8PSK,符号化率5/6,変調シンボルレー ト30 Mbaudで変調した.衛星のトランスポンダを 二つ用い,ペイロードは合計で約145 Mbit/sである. これに合わせ映像・音声合わせて140 Mbit/sのビッ トレートのストリームを作成した.このストリームを トリノに置いたストリームレコーダから再生し,スト リーム分割装置により2台のDVB-S2変調器にスト リームを分配し衛星に送信した. 受信側のアムステルダムでは,2台のDVB-S2復 調器で復調した二つのストリームをストリーム結合装 置で一つのストリームに結合した後に,スーパーハイ ビジョン復号装置による復号を行い,ポストフィルタ 装置を経てスーパーハイビジョン映像と音声を得た. なお,復調した二つのストリーム間のディレー差は 256µsと小さく,2分割して伝送した影響はなかった. この伝送実験は,2箇所で展示を行った.片方の展示 では縦横半分のサイズ(3840画素× 2160ライン)に ダウンコンバートした映像を4 Kモニタに表示し,も う一方の展示ではスーパーハイビジョンプロジェクタ 及び4 Kモニタを4台用いて映像を縮小せずに7860 画素× 4320ラインで表示した.

(10)

図 23 衛星伝送実験系統図

Fig. 23 Diagram of satellite transmission experiment.

図 24 スーパーハイビジョン復号装置 Fig. 24 Super Hi-Vision decoder.

図24は会場に設置した復号装置(中央付近,一番 奥)の写真である.図25はダウンコンバートして4 K モニタに表示した復号画像である. 従来のスーパーハイビジョンの伝送は,光ファイバ や専用IP回線で行っており,衛星を利用したスーパー ハイビジョンの国際伝送は今回が初めての試みである. この実験の成功により,衛星を利用したスーパーハイ 図 25 復号画像の展示 Fig. 25 Display of decoded image.

ビジョン放送の実現可能性を示すことができた.

6.

む す び

スーパーハイビジョンの映像・音声を符号化するコー デックの開発について述べた.このコーデックはスー パーハイビジョンの映像を16分割し,16台のハイビ ジョン符号化装置で符号化を行う.分割画面を同期さ せるため,ハイビジョン符号化装置に同期機構を付加 した.また,分割画面の境界線を目立たなくするポス トフィルタ装置を開発し,実験により効果を確認した. 本コーデック開発の意義は,衛星を利用したスー パーハイビジョンのリアルタイム伝送を可能にした点 にある.シミュレーションによる非リアルタイム符号 化でも部分的な画質の確認は可能である.しかしなが ら,伝送実験を行うためにはリアルタイムコーデック が必要であり,本装置はその条件を満たすものである.

(11)

開発したコーデックは,スーパーハイビジョン映像 を120 Mbit/s程度に圧縮可能だが,このような高い 圧縮率では絵柄によっては符号化劣化が目立つ場合が ある.ポストフィルタ装置についても,一次元LPF を用いているため斜めエッジで画質劣化が発生したり, 分割境界線のぼやけが目立つ場合がある.このような 画質劣化を改善するため,今後は符号化装置の更なる 改善やポストフィルタ装置のフィルタ構成の改善を行 う.また,フォーマット変換時の分割が符号化画質に 与える影響についても引き続き検討する. 文 献 [1] 大場省介,“愛・地球博 レーザードリームシアター,”信学 技報,EID2005-26, 2005. [2] 野尻裕司,“スーパーハイビジョン概要,”映情学誌,vol.61, no.5, pp.596–598, 2007.

[3] ISO/IEC 14496–10/ITU–T Rec. H.264. [4] ISO/IEC 13818–7.

[5] S. Sakaida, N. Nakajima, K. Iguchi, S. Gohshi, K. Kazui, A. Nakagawa, and K. Sakai, “Development of AVC/H.264 codec system for Super Hi-Vision,” IWAIT, P3–3, 2008.

[6] T. Yoshitome, K. Nakamura, J. Naganuma, and Y. Yashima, “A flexible video CODEC system for super high resolution video,” IEICE Trans. Inf. & Syst., vol.E91-D, no.11, pp.2709–2717, Nov. 2008. [7] T. Hatada, H. Sakata, and H. Kusaka,

“Psychophys-ical analysis of the “sensation of reality” induced by a visual wide-field display,” SMPTE J., vol.89, no.8, pp.560–569, 1980.

[8] H. Shimamoto, T. Yamashita, N. Koga, K. Mitani, M. Sugawara, F. Okano, M. Matsuoka, J. Shimura, I. Tsukamoto, and S. Yahagi, “An 8 k× 4 k ultrahigh-definition color video camera with 8 M-pixel CMOS imager,” SMPTE Motion Imaging J., vol.114, no.7-8, pp.260–268, 2005. [9] 山下誉行,三谷公二,菅原正幸,島本 洋,岡野文男,“走 査線 4000 本級 4 板式超高精細動画カメラ,”映情学誌, vol.58, no.3, pp.383–391, 2004. [10] 菅原正幸,三谷公二,斉藤敏紀,藤田欣裕,末次圭介,“4 板撮像方式における画素ずらし効果についての検討,”テ レビ誌,vol.49, no.2, pp.212–218, 1995.

[11] M. Kanazawa, K. Hamada, I. Kondoh, F. Okano, Y. Haino, M. Sato, and K. Doi, “An ultrahigh-definition display using the pixel offset method,” J. Society for Information Display, vol.12, no.1, pp.93–103, 2004. [12] 西田幸博,市ヶ谷敦郎,黒住正顕,中須英輔,“スーパー ハイビジョンの MPEG-2 コーデックの開発,” 2006信学 総大,情報・システム 2, D-11-26, 2006. [13] 黒住正顕,西田幸博,田中廉暁,深澤勝彦,岩津茂太郎, “スーパーハイビジョンの長距離ライブ IP 伝送実験,” 2007年映像情報メディア学会年次大会,2007. [14] 電波産業会,“高度衛星デジタル放送の暫定方式案に関す る中間報告,”情報通信審議会情報通信技術分科会放送シ ステム委員会(第 11 会),2008. [15] http://www.ibc.org/ (平成 20 年 11 月 28 日受付,21 年 2 月 24 日再受付) 井口 和久 (正員) 1993東京工業大学大学院理工学研究科 修士課程了.同年 NHK に入局.現在,同 放送技術研究所に勤務.HDTV 方式変換 の研究,映像圧縮符号化の研究に従事. 中島 奈緒 (正員) 2002横浜国立大学大学院修士課程了.同 年,NHK 入局.2005 より放送技術研究所 勤務.映像符号化の研究に従事. 境田 慎一 (正員) 1991早稲田大学大学院理工学研究科修 士課程了.同年 NHK に入局,同放送技術 研究所において映像圧縮符号化方式,画像 処理などの研究に従事.MPEG-4 標準化 活動に寄与.現在,同所人間・情報副部長. 博士(工学). 合志 清一 (正員) 1981早稲田大学大学院理工学研究科博 士前期課程了.同年 NHK に入局.1984 より放送技術研究所において,映像信号の ディジタル処理・伝送の研究に従事.1995, 同技術局に転じ,ディジタル伝送機器の開 発・整備に従事.現在,同所人間・情報主 任研究員.工博. 筋誡 久 (正員) 1993早稲田大学大学院理工学研究科通 信工学専攻修士課程了.2001 NHK 入局. 技術局を経て,2005 から放送技術研究所に て将来の衛星放送技術に関する研究に従事.

(12)

鈴木 陽一 (正員) 2003東北大学大学院工学研究科電子工学 専攻修士課程了.同年,NHK 入局.2003 から放送技術研究所にて衛星電波伝搬にお ける降雨減衰の研究及び伝送路符号化方式 の研究に従事. 伊藤 隆 (正員) 1983東京大学大学院工学系研究科修士 課程了.同年,(株)式会社富士通研究所に 入社.以来,主として動画像の符号化方式, LSI,装置,システムの開発に従事.現在, 同社画像・バイオメトリクス研究センター 主席研究員. 中川 章 1991東京大学大学院工学系研究科修士 課程了.同年,(株)富士通研究所に入社. 以来,主として動画像の符号化方式,動画 像標準化(H.263/H.264),LSI,システム の開発に従事.『H.264 対応ハイビジョン 伝送装置の開発』により第 56 回電気科学 技術奨励会会長賞を受賞.現在,同社画像・バイオメトリクス 研究センター主任研究員. 数井 君彦 (正員) 1993東京工業大学大学院総合理工学研 究科修士課程了.同年,(株)富士通研究 所に入社.以来,動画像符号化及びその応 用の研究開発に従事.

表 1 スーパーハイビジョン諸元 Table 1 Specification of Super Hi-Vision.
図 1 スーパーハイビジョンコーデックの全体構成 Fig. 1 Super Hi-Vision codec system.
図 6 V 分割時の画素移動 Fig. 6 Pixel shift for “V” division.
図 15 画像 “clouds” の周波数特性 Fig. 15 Frequency responce of “clouds”.
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参照

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