下水道管路管理の中国市場
専務理事 田中修司 1. なぜ中国市場に関心をもつのか(1ドル50 円と 1000 円の間) 現時点(2011 年 10 月 17 日)1ドル 76 円から 78 円の間を行き来している。この為替状態 は購買力平価でみると妥当という見方がされている。例えば分かりやすい例ではビッグマ ック価格を見てみると2011 年 7 月 28 日調べでは米国は 4.07 ドル、日本は 320 円。したが ってこれで為替を換算すると1ドル78.6 円となる。現状の為替はこのビッグマックをベー スにした比較ではおおむね妥当な水準となる。このような考え方はビッグマック指標と呼 ばれている。 為替の現状に対して、近い将来に一層円高が進み1 ドル 50 円代まで行くという説もある。 一方日本の財政赤字等から国債発行がうまくゆかなくなる事態等をきっかけにして一気に 円安が進み1 ドル 500 円や 1000 円時代が来る可能性があると警鐘を鳴らす人たちもいる。 超円安時代には輸入品が高くなり超インフレが来ると予想される。 円高は管路管理機器や材料の輸入等でメリットを享受できる点があり内需中心の管路管 理業には困難さはない。逆に超円安時代になると、超インフレになるので海外展開を考え ていないと一気に経営が成り立たないと考えられる。企業経営の観点に立てば、円高と円 安の両方に備えを考えておくべきであろう。1 ドル 1000 円時代の可能性は巨大津波が来る 確立よりもかなり高い。 このような観点に立てば、円安時代が来てから海外情報を入手していては間に合わない。 円高のこの時代にこそ超円安時代を想定して海外市場の情報を貪欲に入手し備えをしてお くべきと考える。様々な国に事業の立脚点を持つことができれば一本足で立つよりも環境 の激変にも安定して立っていられそうである。また事業環境の異なるマーケットでの経験 から相互に合理化や効率化を遂げる視点も得られるかもしれない。 中国市場は巨大マーケットであり日々成長を続けている。いま直ちに中国で事業を始め るのは難しいとしても将来のマーケットとして中国市場について研究をしておくことは決 して無駄にはならないだろう。 なおビッグマック指標でみると、中国、香港、インド、タイなどが 40%以上の割安にな っている。例えばタイでは70 バーツでビッグマックが買える。日本円換算で 180 円ほどで ある。しかしタイでは70 バーツあると結構立派な食事ができる。タイの庶民感覚ではビッ グマックは割高な食べ物である。この点から考えるとビッグマック指標で示される為替の 不均衡以上に中国、香港、インド、タイなどの通貨は割安に評価されていると言える。い ずれこの不均衡は是正されると考える(文献 1、2 など)とこれらの国へ投資が大きなリター ンとなって帰ってくることが予想される。 ただし中国は現状はバブル時期にあるとも考えられ、物価の騰貴が著しく、このために社会が不安定になっており共産党体制の崩壊もあるのではないかという論説も聞く。この ような状況も総合的に考えながら実際の行動を決定する必要がある。 2. 下水道管路管理業務の中国市場調査報告書の概要(表番号は報告書をそのまま引 用) 1)中国の下水道施設と管理体制 昨年度上海市を対象に下水道管路管理業務の中国市場調査を行い報告書を出版した。中 国全土の中における上海市の位置づけ及び上記報告書の概要について以下に少し述べる。 中国全土での管路延長は統計データによると34 万キロで我が国よりもまだ全延長は短い。 しかしここ10 年ほどは毎年 2 万キロ以上延長を伸ばしてきており数年以内に我が国の管路 延長を追い越すと予想される。北京市の管路延長は 2009 年時点で 9300km、上海市は 10500km となっている。上海市の延長は横浜市よりもやや短い程度の延長である。上海市 の下水道管路の特徴はポンプ場が非常に多いことにある。2009 年で 765 か所になっている。 これは、上海市が長江の下流に位置しており非常に平坦な地形であることと関連している。 処理施設も非常に多く、全体で52 か所を数える。BOT や TOT 方式で運営されている処理 施設もかなり多い。最大の処理施設は白竜港水質浄化場で日処理能力が200万トンある。 次に大きな処理場が竹園第1下水処理場で、170万トンの能力となっている。 下水道施設を管理しているのは上海市であるが、その下部に位置する組織はやや複雑で 込み入っているうえに頻繁に組織編成が変更になっている。2004 年から政府と企業が分離 されており、調査時点では、中心部の下水道管路管理業務は市城市排水有限公司が独占的 に行っている。中心部以外の区は水務局の管轄であり各区に対応する行政組織が置かれて いる。そこから民間の業者に業務が発注されている。 下水道管路管理を担っている民間の業者は 144 社あるが、その多くは元の公益性体制の 工務所から転換して民間企業となった業者である。純粋に民間業者からスタートした業者 で急成長を遂げている会社もある。 2)下水道財政 上海市は「上海市排水施設使用料徴収に関する管理方法」という規定があり、この規定で は、下水道料金が下水道施設の建設、維持管理に使用されることが明記されている。しか し施設建設のため世界銀行からの融資や同時で調達した資金がありこれらの返済のため、 政府の財政投入等が行われている。 下水道使用料金は2010 年 11 月から改定されており住民は 1.30 元/m(約3 16 円/m3)、 役所は1.70 元、企業等は 1.8 元となっている。 下水道使用料金だけでは下水道経営に必要な財源を賄えないため、下水道管路の維持管 理にかかる費用は実質的には市と区政府の財政負担となっている。各政府と排水管理機関 は「上海市下水道管路施設維持管理業務標準歩掛」と「上海市下水道管路施設維持管理業
務年度予算標準」に基づき予算申請を行っている。2009 年度の予算額は 8924 万元(約 10 億 7 千万円)だった。この費用は下水道管路の疎通、洗浄、巡視および点検など定期的に 行われる作業を対象としたものである。管路調査、修繕、更新などの費用は建設プロジェ クトの扱いで別途確保されている。 3)下水道管路管理に関わる規程 上海市の下水道管路管理に関連する法律と基準及び規定には、地方法規、規定、基準と 技術規定がある(表 3-3-3)。1989 年に上海市は「排水管理方法」を発表し、国内で比較 的に早く下水道関連の地方規定を公布する地方政府の一つとなっている。1996 年に、「上 海市排水管理条例」が正式に公布され、上海市排水管理の法体系を更に充実される結果と なった。 「上海市公共下水道管路CCTV とソナー調査に関する評価技術規定」は、2006 年に最 初に公布された。その内容には、総則、用語、基本規定、CCTV 調査、ソナー調査、管路 評価と作業報告書及び調査の検収が含まれている。そのほかに、管路調査の技術要求、機 器仕様、管路損傷の分類と定義、表示方法、評価基準などの内容を多岐にわたって詳細に 規定した。その一例として、管路調査頻度に関する規定は表3-3-4 に示すとおりである。
4)下水道管路維持管理の現状 下水道管路施設維持管理業務の目標は、管路流下能力の確保、浸水防災上の安全性の確 保、管内土砂堆積量の低減による公共用水域水質汚染保全等となっている。 上海市下水道管路の特徴として、管路勾配が緩やかで、管内流速が低く、堆積物量が多 い。下水道管路の閉塞は、以下の三つの要因に起因するものと考えられる。 ①道路工事や建築工事によるごみや土砂が管内に流入、または道路上のごみ等の異 物が雨水管への流入 ②地震による管路のずれ ③管路材質の腐食 下水道管路施設維持管理技術の向上に伴い、上海市の維持管理業務の実施は従来の人力・ 簡易機械式から自動化機械の維持管理方式への転換を図っている。2008 年10月から2009 年9 月までの一年間に全市(浦東新区を除く)の管路疎通距離が7,870kmで、マンホール や雨水枡の清掃数が106.44 万個(回)となっている。表4-1-1 は、上海市水務局排水管理 処が定めた管路施設維持管理業務の年度保全率である
3. まとめ 中国市場調査で、上海市を対象に下水道管路管理をめぐる現状について調査を行った。 調査結果は「下水道管路維持管理業務の中国市場調査報告書」として管路協から発刊して いる。現状での中国市場の持つ意味と、報告書の概要について紹介した。 現地調査も行ったが、急成長している管路管理業者も訪問し、中国市場の一層の拡大が 今後期待できることと、日本での問題点とは異なる課題への対応が必要であることが分か った。 ご興味のある方は上記報告書を一読願いたい。 参照文献等
1. Clements,K.W, Lan,Y and Seah,S.P. “The Big Mac index two decades on an evaluation of Burgenernomics” Business School, The University of Western Australia, Discussion Paper 10.4, 2010
2.下水道管路管理業務の中国市町調査報告書(2011 年 4 月)、公益社団法人日本下水道管 路管理業協会