廃用症候群に対する理学療法効果 247 はじめに─廃用症候群介入分析への 3 つの視点から─ 廃用症候群介入に対する検証は,年齢,性,職業,居住地域 などの属性と疾患の重症度,重篤さ,悪性さ,進行の速度など の病態とその下支えとなっている全身状態の 3 つの要因の影響 を考慮することが重要である(表 1)。これらに加えてその他 様々な交絡因子の把握や制御も必要である。 高齢者,特に後期高齢世代の筋変化を考えてみる。筋線維数 は 80 歳までに約 40%減少し,筋自体も萎縮する。高齢期の筋 の萎縮はタイプⅡ線維(白筋線維)で著しく,運動神経の脱落 も筋力低下に関与している。また,80 歳を過ぎると約半数は サルコペニアに陥る。このことは,後期高齢での筋変化は老化 (病的)現象というより,加齢(生理的)変化の個人差と解釈 することが現実的と考えられる。 したがって廃用症候群の成り立ちには加齢(生理的)変化が 根底に存在し,種々の疾患の併存,栄養状態,ライフスタイル などが修飾する複合的要因が関連していると捉えられる。 筋変化を身体部位で捉えると,加齢に伴う筋量低下は上肢よ りも下肢において,また下肢では遠位(下腿)よりも近位(大 腿)において低下率が大きい。下腿筋量は歩行が維持されてい れば保持される可能性があると理解されている。 しかし,長時間歩行運動時のグルコース代謝を若年者(平均 年齢 24 歳)と高齢者(平均年齢 76 歳)の比較から検証した島 田ら1)の報告では,若年者は股関節外転筋,下腿三頭筋で取 りこみが高いのに比べて,高齢者では股関節外転筋の代謝が亢 進し,下腿筋の著明な代謝の低下を認めている。 一方,一定期間のベッドレストを課す研究2)では,大腿伸 筋は等尺性(静的)トレーニングにより再獲得可能であるが, 下腿三頭筋は戻らず低下し,等張性(動的)トレーニングの レッグプレスにさらにカーフレイズを加えることで大腿,下腿 とも筋力が回復し,画像所見からの筋機能の回復も確認された としており,下腿筋の再獲得は容易でないことが理解できる。 つまり下肢の筋の変化は,大腿では筋容量減少が大きいが, 歩行など運動時に代謝が亢進する。下腿では筋容量変化は免れ るものの,運動時の代謝の低下が先行するため,なんらかの きっかけで筋萎縮が発生すると筋機能の取り返しが困難とまと めることができる。 静的および動的栄養因子と理学療法 種々の因子の変動に影響されにくく,測定時の平均的栄養状 態を反映するものを静的栄養状態といい,血中半減期が約 3 週 と長いアルブミン(以下,Alb)が生化学的指標の代表である。 身体計測指標の静的なものとしては身長,体重,Body Mass Index(以下,BMI)などがその指標として位置づけられる。 一方,短期間の栄養状態変化を鋭敏に捉えるものを動的栄養 状態の評価と位置づけ,血中半減期が短い蛋白 Rapid turnover protein(以下,RTP)を用いている。身体計測指標もその状 況をより反映できる項目となる(表 2)。静的と動的のいずれ でも,炎症は蛋白を消耗するので炎症マーカーとして C- 反応 性蛋白(CRP)も同時に解釈に含める。 Crary ら3)は急性期虚血性脳卒中連続 67 症例(平均年齢 66 歳,平均在院日数 3.5 日)の入退院時の嚥下障害,栄養,水分 補給の 3 徴候間関連性を検証している。37%に嚥下障害を認め たが,嚥下障害と栄養スクリーニング指標,動的栄養評価指標 のプレアルブミンには関連性を認めなかった。一方,水分補給 と関連性があり,嚥下障害は誤嚥リスクを増す結果,水分補給 不足を招いている可能性を示唆した。興味深いことは嚥下障害 の有無とは別に入院の時点ですでにプレアルブミンデータでは 32%が低栄養を示していたことである。この分析は困難として いるが,虚血や脳梗塞発症に対する炎症やストレスに反応した データ変化の可能性を推測させる所見である。 原ら4)は周術期の消化管がん患者に Alb が使われている小 理学療法学 第 41 巻第 4 号 247 ∼ 249 頁(2014 年)
廃用症候群に対する理学療法効果
*
─リハビリテーション栄養─
久 保 晃
**アドバンスドセミナー
*Physical Therapy for Disuse Syndrome **
国際医療福祉大学理学療法学科
(〒 324‒8501 栃木県大田原市北金丸 2600‒1)
Akira Kubo, PT, PhD: Department of Physical Therapy, School of Health Sciences, International University of Health and Welfare キーワード:体重,体組成,静的栄養指標 1.属性の要因 年齢,性,職業,居住地域など 2.病態要因 傷害の程度,疾病の重症度や手術侵襲の大きさなど 3.全身状態の要因 リスク管理や栄養状態から把握される予備力など 表 1 介入,介入後の反応,有効性検証などにかかわる 3 つの視点
Japanese Physical Therapy Association
理学療法学 第 41 巻第 4 号 248
野寺式栄養指数(Prognostic Nutritional Index;以下,PNI) PNI = 10 × Alb(g/dl)+ 0.005 ×末梢血リンパ球数(/mm3) と Timed Up and Go Test(以下,TUG)より運動能力を求め, いずれも手術前に比べ手術後に有意な低下を認め,手術前後い ずれの時期においても PNI と TUG の有意な関連を確認した。 周術期がん患者の身体運動機能に静的栄養指数の Alb が影響し ていることを示唆した。この変化は,侵襲に伴う炎症やストレ スなどにより Alb の低下が生じているが,幅をもたせた解釈を することで有用な情報となる。 診療報酬では RTP であるトランスサイレチン(プレアルブ ミン)は 120 点と Alb の 11 点の 10 倍以上である。またトラン スサイレチンは手術前後の中心静脈注射の適用や栄養効果判定 の検討目的の検査として位置づけられており,手軽に入手する ことは困難なことからも,Alb は利用価値が高い。 やはり,体重測定は基本 栄 養 の 評 価 で は, 主 観 的 包 括 的 評 価(Subjective Global Assessment;SGA)はよく用いられるもののひとつであるが, この項目の中で 6 ヵ月間の体重変化が存在し,さらに汎用され る Mini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)では 3 ヵ月間の体重減少,Geriatric nutritional risk index(GNRI) でも現時点での体重と理想体重との比の情報が必要となる。 フ レ イ ル テ ィ ー の 評 価 で も,the Cardiovascular Health Study index(CHS index)5 項目のうち 1 年で体重が 4.5 kg 以上減少の有無が含まれている。また,The Study of Osteo-porotic Fracture(SOF study)の 3 項目のうち,2 年間で 5% 以上の体重減少がチェック項目になっている。 栄養に関する処方においても,エネルギー必要量=標準体 重(kg)× 25 kcal ×活動係数(活動係数の例,ベッドサイド リハ:1.2,訓練室リハ:1.4),タンパク必要量=体重(kg)× 1 ∼ 1.2 g,水分必要量= 30 ∼ 35 ml ×体重(kg),エネルギー 消費量(kcal)= 1.05 × METs ×体重(kg)×時間(h)など様々 なツールがあるが,やはり最低限体重が必要である。 こ れ ほ ど ま で に 体 重 は 基 本 情 報 で あ る に も か か わ ら ず, Izawa ら5)は 訪 問 看 護 利 用 952 例( 男 性 355 例, 女 性 597 例,年齢 80.5 ± 7.9 歳)の在宅要介護高齢者の体重未測定者は 30.7%,身長未測定者は 35.9%を占めていたと述べている。こ のうえで,身長未測定と体重未測定の 2 群に分け,コックス比 例ハザード解析を行うために,性,年齢,ADL 値,同居の有無, デイケア利用の有無,薬種数,慢性疾患の有無,最大上腕周径 を説明変数として投入した結果,体重未測定はすべての変数で 調整した後,死亡と入院のハザード比がそれぞれ 1.54 と 1.34 であったと報告している。 筆者ら6)の経口摂取が可能な高齢慢性期入院患者 101 例 (男性 40 例,女性 61 例,年齢 82 ± 11 歳)の検討でも Alb は FIM に基づく食事自立度の低下に伴い有意に低値になるため, 食事自立度を維持すること,また可能な限り向上へのアプロー チを取り入れることが栄養状態の確保に必要と報告した。ま た,女性は男性に比べ高齢で,Alb,体重とも低値であり,栄 養状態への留意がより必要なことをあきらかにした。 さらに,食事動作自立度は様々であるが経口摂取が可能な 高齢慢性期入院症例で BMI,FIM と Alb の評価が可能であっ た 49 例(男性 23 例,女性 26 例,年齢 80 ± 10 歳,要介護度 範囲 3 ∼ 5,中央値,最頻値ともに 5)の 1 年後の推移を調査 した。入院継続中で経口摂取が維持されているのは約半数の 26 例,死亡退院は 9 例,転院 10 例,自宅退院 1 例,入院継続 中で経管栄養 2 例,点滴が 1 例であった。入院継続例と死亡退 院例の比較では,Alb が有意に死亡例で低かった。1 年後入院 継続中で経口摂取が維持されている 26 例の FIM は運動項目合 計で有意に低下したが,認知項目合計では有意差は認められな かった。BMI の増減では,1 kg/m2以上増加 3 例,不変 14 例, 1 kg/m2以上減少 9 例で,性および FIM 変化と有意な関連は 血液・生化学的指標 略号 基準値 おおよその半減期 静的指標 アルブミン Alb 3.8 ∼ 5.3 g/dL 20 日 動的指標 トランスサイレチン TTR 22.0 ∼ 40.0 mg/dL 2 日 (プレアルブミン) レチノール結合タンパク RBP 2.9 ∼ 7.9 mg/dL 0.5 日 トランスフェリン Tf 男性 190 ∼ 300 mg/dL 7 ∼ 10 日 女性 200 ∼ 340 mg/dL 炎症指標 C- 反応性蛋白 CRP 0 ∼ 0.40 mg/dL 0.3 日 身体計測指標 静的指標 身長 体重 BMI 除脂肪量・率・指数 脂肪量・率・指数 動的指標 呼吸商(RQ) 安静時エネルギー消費量(REE) 表 2 理学療法実施に伴う栄養状態の把握に有用な静的および動的栄養指標
Japanese Physical Therapy Association
廃用症候群に対する理学療法効果 249 認められなかった。療養型病床入院中でも変化が認められ,体 重をはじめとして定期的な評価の必要性が示された。 理学療法士の日頃の評価手法で栄養指標開発を 先述のように,ADL が重度に低下し,立位保持が困難となっ たり,身体の変形などで身長や体重の測定が容易でないことも しばしば経験する。肢長や周径は理学療法士にとって身近な項 目である。この観点から,病院,施設,在宅など,どこでも理 学療法士が日頃の測定をもとに全身状態を観察できれば有意義 である。 筆者らは療養病棟入院中で経口摂取可能な高齢患者 42 例(男 性 21 例,女性 21 例,年齢 79 ± 10 歳,要介護度範囲 3 ∼ 5, 中央値,最頻値ともに 5)の BMI,Alb と非障害側ないし障害 の軽度な側の下腿 2 部位の周径,すなわち脛骨粗面位と下腿三 頭筋最大部とされる部位7)(腓骨頭から外果を結ぶ距離の 26% の長さで,腓骨頭から 26%の位置)の周径差(脛骨粗面位− 下腿三頭筋最大部)を求め,+1.0 cm 以上の差を認めた症例を S 群,‒ 0.5 cm から +0.5 cm 以内の症例を B 群,‒ 1.0 cm 以上 の差を認めた症例を N 群とし,下腿周径差と栄養および体格 との関係を検討した。 N 群 は 6 例 14.3 %(Alb3.7 ± 0.1 g/dL,BMI22.9 ± 4.9 kg/ m2),B 群は 7 例 16.7%(Alb3.4 ± 0.4 g/dL,BMI18.1 ± 2.1 kg/ m2),S 群は 29 例 69.0%(Alb3.2 ± 0.4 g/dL,BMI17.8 ± 2.8 kg/ m2)であった。 Alb で N と S 群に,BMI で N と B 群および N と S 群に有 意差を認め,採用した 2 箇所の計測とその周径差は,栄養状態 や体格を反映する可能性があり,さらに詳細な検討を進める価 値があると考えられる。 これからは体組成(脂肪量,除脂肪量)の計測を Schneider ら8)は,高齢者では,壮年者に比較して BMI が 小さくなるにしたがい除脂肪体重が大きく減少するために,体 重に占める除脂肪体重の割合も大きく低下するので,体組成の 把握が大切となると報告している。除脂肪体重を構成する主要 成分のひとつが,骨格筋であり,高齢者が栄養障害に陥ると, 筋肉組織の減少や筋力の低下が進行する。 体組成の測定では近年,インピーダンス法を採用した体組成 測定機器がよく用いられるようになり,二重エネルギー X 線 吸 収 法(dualenergy X-ray absorptiometry;DEXA) な ど の 高精度の機器との比較で,信頼性や妥当性の報告がなされてい る。しかし,体重や身長の測定と同様に,立位保持が可能な身 体機能が前提である。このような問題も近赤外分光法による測 定機器は,いわゆる寝たきりの状態でも使用可能で高齢慢性期 患者における検討も報告されるようになった9)10)。 体重が重要であることに変わりはないが,これからは体組成 を測定し,除脂肪量や脂肪量の観察,可能なら筋肉量を継続的 に把握することが求められる。 おわりに─活き活きとした気持ちに勝るものはない─ 高齢になると諸機能の衰退を免れることは難しい。しかし, 生活のハリや意欲の維持や向上の可能性は十分にあると思う。 よく検討,推奨されている処方内容の栄養素や食物を摂取す ることも大切であるが,長寿者が実際に好んで食べているも の,摂取しているものを分析することでひも解けることもある と推測される。 Shimizu11)らは日本の 100 歳老人が好む日常の食事実態を 30 名の高齢コントロール群と 98 名の中年コントロール群で 3 日間連続の食物摂取を記録し,栄養的に評価した。単位体重あ たりの摂取で比較した場合,蛋白,脂肪,炭水化物,総カロリー の一日の摂取に有意な差は認められず,乳製品を好むパターン が 100 歳老人に特に目立ち,カルシウム摂取量が高いことを示 した。 一方,生活意欲を Vitality Index を用いて回復期病棟入院患 者と維持期(生活期)療養病棟入院患者で FIM に基づく ADL や BMI を林ら12)は検討した。維持期(生活期)でのみ生活 意欲高得点群で BMI が有意に高く,縦断的に意欲の観察や体 格のモニターが必要であることを示唆している。 静的栄養指標を中心に述べてきたが,理学療法士はなにかの マシーンをうまく扱えるとか,早く扱えるとか,そういうとこ ろで競うべきものではないと思う。特に後期高齢世代では生活 とかかわりをもつ病気や生活環境への適応能力の問題がどんど ん増えてくると予測される。そういう状況と共存するには,体 調や健康管理の基本情報を大切にする姿勢が必要である。体 重,体格,身体組成や筋肉量を継続的に可視化しながら,廃用 症候群を分析し,付き合うことが有用である。 文 献 1) 島田裕之,石渡喜一,他:長時間歩行時の下肢筋の活動状態:[18F] fl uorodeoxyglucose を用いた Positron Emission Tomography によ る検討.理学療法学.2008; 35: 271‒278.
2) 秋間 広:ベッドレスト中のレジスタンストレーニングが下肢の 筋委縮に及ぼす影響.体育の科学.2012; 62: 613‒619.
3) Crary MA, Humphrey JL, et al.: Dysphagia, Nutrition, and Hydration in Ischemic Stroke Patients at Admission and Discharge from Acute Care. Dysphagia. 2013; 28: 69‒76.
4) 原 毅,佐野充広,他:周術期消化管がん患者の栄養指数と身 体運動機能の関連性について.総合リハ.2013; 41: 63‒68. 5) Izawa S, Enoki H, et al.: Lack of body weight measurement is
associated with mortality and hospitalization in community-dwelling frail elderly. Clin Nutr. 2007; 26: 764‒770.
6) 久保 晃,近藤真理子,他:高齢慢性期入院患者の食事自立度と 栄養状態.理学療法科学.2007; 22: 511‒514.
7) 西田裕介,加茂智彦,他:健常若年者における下腿最大膨隆部位 の位置の同定.理学療法科学.2009; 24: 539‒542.
8) Schneider SM, Al-Jaouni R, et al.: Lack of adaptation to severe malnutrition in elderly patients. Clin Nutr. 2002; 21: 499‒504. 9) 吉松竜貴:高齢慢性期患者における近赤外分光法による体脂肪推 定の妥当性について―皮下脂肪厚法との比較―.日老医誌.2009; 46: 440‒446. 10) 吉松竜貴 , 久保 晃:慢性期高齢脳卒中片麻痺患者における近赤 外線分光法による体脂肪測定の信頼性.理学療法科学.2008; 23: 539‒544.
11) Shimizu K, Noji H, et al.: Dietary preferences in Japanese centenarians favoring dairy foods. Geriatr Gerontol Int. 2002; 2: 187‒192.
12) 林 悠太,久保 晃:高齢入院患者の生活意欲と ADL,体格との 関連─回復期・慢性期の傾向─.理学療法科学.2010; 25: 143‒146. Japanese Physical Therapy Association