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任 検 察 官 は 証 拠 隠 滅 罪 で 起 訴 され 有 罪 になり 特 捜 部 長 副 部 長 はつい 最 近 の 大 阪 高 裁 で も 有 罪 となり 特 捜 部 長 副 部 長 は 控 訴 を 断 念 したために 有 罪 が 確 定 しました これは 証 拠 を 国 家 公 務 員 が

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2013年12月5日ロイヤリング講義

講師:弁護士 大川治先生

議事録作成者:辻川美由紀

「刑事弁護の実際」

I. プロローグ 1. 自己紹介 本日の講義を始めます。プロローグとして簡単な自己紹介から始めたいと思います。私 は大川といいます。昭和63年に大阪大学法学部に入学しました。在学中に司法試験を受 験し、平成8年に弁護士登録をしましたので、ちょうど今で弁護士を初めて17年目にな ります。大阪市内にある堂島法律事務所で弁護士をやっています。今日は刑事弁護につい ての話をしますが、普段は企業法務が業務の大半です。刑事事件はあまりたくさん扱って はいませんが、刑事弁護にはずっと関心があります。弁護士を志したのも刑事弁護をやり たいなという思いがきっかけです。過去に無罪判決を得たこともあります。17年間で2件の 無罪判決を勝ち取っています。これは少ないとも言えるし、99.9%という日本の刑事事件 の有罪率を考えると多いとも言えます。 2. 刑事司法における3つの衝撃! (1) 検察官による証拠改ざんの衝撃! 警察は犯罪の内容を捜査します。そして、そのあとに捜査の内容をチェックして起訴す るのが検察官です。その検察官や警察が集めた証拠は真実であることが前提となって、被 疑者は起訴されます。そのような重要な証拠を改ざんしたという衝撃的な事件が近年あり ました。皆さんの記憶から薄れているかもしれませんが、4年前に厚生労働省の村木元局長 が起訴されて、結果的に無罪になりました。村木さんは女性で、厚生労働省においてかな り高い位の役職についていて、女性の社会進出という観点からも事務次官になるのではと いう期待をかけられ、まさに将来を嘱望されていた方でした。村木さんは、簡単に言えば、 嘘の公文書を作ったという疑いをかけられ、大阪地検特別捜査部に起訴されました。通常 は、警察が捜査をしてから検察がそれを引き取って起訴・不起訴を決めるのですが、特捜 部は警察に操作を任せることなく自ら捜査できます。特捜部では、警察が口を出しにくい 人を被疑者とする事件の場合に活躍します。例えば警察官が罪を犯した場合などです。 裁判では、通常は99.9%の刑事事件が有罪となる中、無罪判決が出されました。通常は控 訴がなされるものですが、主任検察官が重要な証拠物であるフロッピーディスクのデータ の日付を検察の都合の良いように改ざんして、その行為を上司であった特捜部長・副部長 が隠蔽していたということが問題となったために控訴は行われませんでした。そして、主

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任検察官は証拠隠滅罪で起訴され有罪になり、特捜部長・副部長はつい最近の大阪高裁で も有罪となり、特捜部長・副部長は控訴を断念したために、有罪が確定しました。これは 証拠を国家公務員が改ざんしていたことが裁判所で認められたことを意味します。 刑事訴訟法を勉強している人ならわかると思いますが、裁判においては証拠から事実認 定をし、それに裁判官が法律の適用を行います。ゆえにその証拠は採取されたまま、録取 されたままのものでないといけないはずです。供述調書であればそれを作成した側の思い 違いや記憶違いということが起こることもないわけではないでしょう。しかし、フロッピ ーディスク等の動かぬ証拠は客観的な犯罪の証拠として評価されます。そのようなものを 国家公務員が改ざんしたことがはっきりしました。 検察官は司法試験に受かって司法研修に合格した国家公務員で、我々弁護士とも同じ釜の 飯を食ってきた仲であり、検察と弁護士という対立関係にあったとしても、一定の信頼が あります。その信頼が打ち砕かれたというのはまさしく驚きでした。 しかし、衝撃的な事件ではありましたが、われわれ弁護士を含む法曹界からしてみれば、 「やっぱり!」という思いもありました。というのも、そのような行為が検察によって行 われていなければ説明がつかないような事件が以前にもたくさん起きてきたからです。検 察官の中でも特にエリートといわれる特捜部の人間が有罪にこだわって証拠を改ざんする ということは私たち法曹関係者に落胆をもたらしました。 (2) 足利事件の衝撃! 近年非常に大きく報道されたため皆さんも新聞やテレビで目にしていたかもしれません が、無実の人間が自白して服役していたという事件があります。これは足利事件という事 件で23年前に起こりました。栃木県に足利市というところがありまして、行方不明になっ た女の子が渡良瀬川の河川敷で遺体で発見されました。犯人はなかなか見つからなかった のですが、被害者の女の子の衣服に精液が付着していたので、1年3か月後にDNA型鑑定が行 われました。当時のDNA鑑定は進歩中の技術でそこまで高い精度ではなかったのですが、菅 家さんのDNA型と女の子の衣服に付着していた精液のDNA型が一致すると菅家さんは犯人に 間違いないとされました。そこで菅家さんは任意で取調べを受け、彼は犯行をすべてやっ たと自白し、起訴されました。 地方裁判所で行われた一審の公判の初日で、菅家さんは弁護士にも「私がやりました」 と言ったために、弁護士も菅家さんが犯行に及んだことを前提に情状酌量を求める弁護を 行おうとしました。しかし、のちに菅家さんが無罪を主張したために、弁護側は無罪主張 に転じました。一審では有罪判決がなされました。弁護側は、二審の段階から、彼から採 取したDNAを弁護団側で鑑定したところ結果が一致しなかったことを主張しましたが認め られませんでした。そこで最高裁調査官という、最高裁判事のために法律関係の調査をす る人に弁護団が面会に行って、弁護側でのDNA鑑定の結果が検察側の結果と異なることを主 張しました。しかし、上告は認められず、最高裁は上告を棄却し、菅家さんの有罪が確定

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しました。科学捜査においてはその捜査の原理が科学的に確立されたものでないと証拠と して採用されません。皮肉なことに、足利事件の最高裁判決は判例百選に掲載されていて、 はじめて裁判所がDNA鑑定の証拠能力を認めた判決とされていました。 その後も、菅家さんは無罪であると主張し続け、日弁連の再審支援制度を受けて再審請 求が行なわれ、弁護側は再びDNAが一致しないと主張しました。そこで裁判所では東京高裁 がDNA型をより高度の検査を用いて再鑑定をすることになり、弁護側と検察側の双方の推薦 した鑑定人によって当初の鑑定より高い精度でのDNA再鑑定が行われました。その結果、双 方でDNAが完全に不一致だとわかったのです。本来ならば再審開始決定が出た後に、また再 審を行うのですが、その結果が出る前に菅家さんは釈放され、再審無罪が確定しました。 再審で死刑判決が出ていた事件としては免田事件という事件があります。そうした再審無 罪事件の中でも再審無罪判決が出る前に釈放されたという点でとりわけ驚くべき事件です。 この事件は DNA 鑑定が間違っていたために重要な事件であるというよりは、犯人でない 人が自白して有罪となったという点で重要な意味を持つ事件であるといえます。犯罪行為 をしていない人間は自白をしないという前提から、自白は証明能力が高いとされています。 その反面、自白には嘘が混じっていることもあるので、証拠とするには慎重にならないと いけないというのが捜査をする側の基本的なスタンスです。しかしやってもないことを人 は捜査側に話すという実例がでました。自分が経験してもいないことを作ってでも話さざ るを得なくなるような取り調べを受けたのではないか、という疑いがもたれます。このこ とから、検察が自白を証拠とすることに慎重になる傾向が出ましたが、冤罪というものは 無実の方にとっては誠に不幸なことです。 この事件では不幸中の幸いにも再審開始決定が出されたのですが、同様のDNA鑑定の手法 で死刑になった人もいます。足利事件と同時期にDNA鑑定の結果を受けて死刑判決がでた飯 塚事件ではもう被告人は死刑が執行されてしまいました。もし冤罪だったとしても、いっ たん死刑が執行されてしまうと取り返しがつかず、それ以上のことは何もできないのです。 死刑廃止論は「悪いことをしたやつは相応の罰を受けるべきだ」という論調のもと反対さ れることが多いですが、死刑廃止論者が最も恐れているのは、冤罪で死刑が執行されてし まったときの取り返しのつかなさです。これは非常に恐ろしいことです。アメリカではDNA プロジェクトというものが行われていて、検証の結果、実際にはDNA型が一致していなかっ たのに、死刑になったケースが数例認められています。日本においてもこのような取り返 しのつかないことが起きているのではないかと考えてしまいます。 (3) 東電OL殺人事件の衝撃! 去年話題になった事件ですので、記憶が新しいと思いますが、東電OL事件という事件が あります。東電のOLが渋谷区のアパートで遺体の状態で発見されました。ネパール人のゴ ビンダ・マイナリさんが強盗殺人容疑で逮捕されました。足利事件と違うのは、マイナリ さんがずっと無罪を主張していたことです。弁護団もマイナリさんが無罪であるとの主張

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を行い、一審は無罪でした。この人が犯人でないと考えないと説明のつかない証拠があり、 東京地裁がそれを重視したからです。本来ならば捕まっている間に在留期間が過ぎていた ので、釈放されたら不法滞在になり、強制送還されるために控訴審でたとえ有罪になった としてもマイナリさんはネパールに居続けることができるはずでした。ところが、検察が 無罪になったマイナリさんを無理やり勾留継続しました。東京高裁も最高裁も勾留継続を 是認して、これまた判例になるという極めつけの皮肉もありました。マイナリさんは出国 できず、二審であっという間に逆転有罪になり、無期懲役がマイナリさんに言い渡されま した。最高裁も比較的簡単に上告棄却しました。 マイナリさんらは再審請求をし続けました。殺人事件があると、管轄の警察の機動鑑識 隊が遺留物などの全ての証拠を探し、しらみつぶしに採取していきます。その中で、有罪 に働く証拠だけが採用されるのですが、再審請求の中でほかの証拠を確認したところ、遺 体から検出していた精液は当初の裁判ではDNA鑑定されていませんでした。この精液をDNA 鑑定したところマイナリさんのDNA型とは一致しませんでした。検察は代わりにトイレにあ ったコンドームをDNA鑑定していて、一致したために有罪としていました。そして、被害者 の身体に付着していた体毛のDNA型と被害者の体内の精液のDNA型が一致したことを受けて、 東京高裁はすみやかに再審開始決定をし、刑の執行停止をし、再審手続が終わる前にマイ ナリさんはネパールに強制送還されました。これもまた前代未聞でした。ここでの大きな 問題は、最重要証拠である被害者の体内から発見された精液が隠されていたことです。も しDNA判定が最初の公判でこの証拠が提出されていれば、マイナリさんはすぐにも無罪にな ったのではないでしょうか。同様に無罪で服役している人がいるのではと思います。これ は検察庁や警察の描くシナリオと逆の方向に働く証拠を提出しないということに起因する 日本の刑事司法の闇の一つであると思います。 (4)名張ぶどう酒事件の衝撃! 再審の扉が開いたのに、再び閉ざされたという事件が起こりました。名張ぶどう酒事件 という非常に著名な事件です。第7次再審請求に対し、ぶどう酒に混入された農薬が違って いたのではないかということで再審開始決定が出ましたが、検察官の異議が認められ、そ れは取り消されました。平成22年4月の最高裁決定では再審決定を取り消した名古屋高裁で の決定が再び取り消され、差し戻しがなされました。被告が本当に犯人であるかどうかが 分からなかったからです。しかし、昨年5月名古屋高裁は再審開始はできないという結論に 至りました。これを受けて今年の10月最高裁は再審の開始を認めませんでした。弁護側は 今年11月にあきらめずに8度目の再審請求をしました。 3. 刑事司法は変わりつつある (1) 裁判員裁判

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裁判員裁判により、刑事裁判に専門家でない素人が参加できるようになりました。アメ リカの弁護士ドラマを見っている人はお分かりになると思いますが、右側の 12 席人が座っ ているシーンがよくあります。これは陪審員で、証言や証拠をもとに有罪・無罪を判断し ます。アメリカ・イギリスではこの陪審員の制度があり、同じコミュニティーの自分たち の仲間に判断をもらいたいという民主主義のフィロソフィーを実践しています。日本もや はり裁判に市民の参加があるべきだということで、裁判員裁判が 2009 年 5 月に始まりまし た。日本では、職業裁判官 3 人、裁判員 6 人で構成されます。裁判員裁判になってから無 実判決もちらほらでています。裁判員は選挙人名簿から6人がくじで選ばれます。また、 殺人などの重大事件が対象事件です。裁判員は普段は仕事がある人なので、昔だと月に 1 回裁判が開かれて、判決が与えられるまでに長い時間がかかっていましたが、今は 3 日か 4 日くらいで終わります。これは今までの裁判とは大きく異なる点です。 (2) 被疑者国選弁護制度 被疑者国選弁護制度が始まる以前も、憲法で定められている国選弁護人制度は以前から あったのですが、被告人とされた段階でしか国選弁護人は付けられませんでした。つまり、 被疑者の段階では弁護士の知り合いがいなければたいてい弁護士を付けることはできない 状態でした。たとえば、交通事故で、人を殺してしまった場合、警察の留置所に入っても 多くの人はその段階ではなすすべのないままでした。それを問題視した弁護士会が当番弁 護士制度を設けていましたが、それを法律上の制度として導入したのが被疑者国選弁護で す。この制度下では、捜査段階で弁護士がつきます。 4. 刑事弁護はなぜ必要か 刑事弁護がなぜ必要か話していきたいと思います。 弁護士がよく問われる素朴な疑問は「なぜ、悪い人の弁護をするのですか?」、「悪い 人の弁護をして、被害者や遺族が気の毒だと思わないのですか?遺族がかわいそうと思わ ないのか?良心が痛まないのですか?」、「どうして、そんな荒唐無稽な主張をして世間 をバカにするのですか?」などです。私自身もしょっちゅう聞かれます。法学部の皆さん には実務家がどう考えているのかを知ってほしいと思います。 このように弁護士が叩かれる一方で、弁護士の頑張りもあって無罪事件は続出していま す。先ほど紹介したように、悪いことをした人にまで国が弁護士をつけるのはどうしてで しょうか。なぜ、刑事弁護が必要なのでしょうか。 (1) 弁護士が取り扱う業務分野 弁護士が取り扱う事件の範囲は広いです。民事や家事、商事、倒産案件、知的財産権な ど扱う事件の幅は非常に広いです。弁護士はどれかに専門をおいてやっていくことも十分 にできます。「弁護士」という名前ではあるが、民事事件では、弁護士は「代理人」と呼

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ばれます。しかし刑事弁護では「弁護人」です。なので、刑事弁護をするのは弁護士とし て名前から考えれば当たり前だとも言えます。 (2) テレビドラマなどで見かける弁護士像と現実のギャップ しかし、テレビドラマなどで皆さんがみる刑事事件における弁護士と実際の弁護士とは とは随分違います。ドラマだと一日中自ら捜査しています。でも実際は刑事事件に充てら れる時間に限りがあり、使える経費にも限りがあります。また証人尋問によって被疑者が 泣き崩れるといったようなドラマティックな法廷劇など起こりません。日々の弁護士の営 みは派手なものではありません。 (3) 重大事件と弁護士 弁護士はかっこいいものでは無い上に、オウム真理教事件や和歌山毒カレー事件、神戸 連続殺傷事件などでは弁護人の弁護活動が批判されてきました。一般市民から批判される だけだと気にしないのですが、光市母子殺害事件だと、弁護士会に懲戒請求をすればよい という発言があったことをきっかけに懲戒請求の嵐が起こりました。また、カミソリが送 付されてきたり、無言電話がかかってきたり、顧問先から契約を解除されたりひどい目に あう弁護士も居ます。「なぜ、あんな悪いやつの弁護をするのですか」と素朴に問われ、 「悪しき隣人」といったような扱いを受けます。 (4) 無罪率の異常な低さ 刑事事件における無罪率は非常に低いです。99.9パーセント有罪です。こんな中で一生 仕事に情熱を持ち続けることができるのでしょうか。 (5) 誰でも、刑事事件の被疑者になる可能性はある しかし、みなさんに覚えておいてほしいことは、誰でも被疑者になりうるということで す。いつでも誰でも刑事事件の被疑者になりうるのです。誰でも車でも自転車などによっ て交通事故をおこし、逮捕されることは十分あり得ます。相手方が亡くなった場合は、保 険金だけですむ話ではなく、逮捕されるのです。思想・表現の自由から、刑事弁護活動を 批判的に議論するのは自由ですが、弁護士はこういう人間だ、と批判するだけではなく、 自分がもし被疑者被告人になった時のことも考えて欲しいです。もし、自分が被疑者にな ったときも弁護人という制度がなくてもいいといいきれるのでしょうか。攻撃する側の身 に立脚して語ることは簡単ですが、自分が加害者になってしまったときに誰も弁護する側 の人間のいないような社会を実現してほしいですか。また、権利の保護は憲法の要求する ところです。たとえ、無罪ではないことが明らかであっても、被疑者の権利を守るために ある一定の弁護活動は必要です。

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(6) 小規模な事件から大事件まで 刑事弁護はどんな刑事事件であっても、日常的な積み重ねが大切です。有罪・無罪の事 件とありますが、無実になる事件のみが保護されるべき刑事手続というわけではありませ ん。日常的な事件の積み重ねから信頼されうる刑事事件が実現できるのです。 (7) 刑事弁護人はなんのために必要なのか 日本憲法では有罪が確定するまでは、犯人は無罪であるという推定が働きます。弁護士 は悪い人でなく無罪推定の働いている人を弁護するのです。ご承知の通り、刑事訴訟は歴 史的にも弾圧の道具でした。戦前がまさにそうでした。小林多喜二は特高警察の拷問を受 けて死にました。たとえ裁判をしても、裁判という形を借りて、政敵などを死刑に処すな どして言論の自由に弾圧を加えることも可能なのです。社会が閉塞し、多様な価値観を認 めにくい風潮になっているときがもっとも危険です。アメリカでは同時多発テロが起きて から、かつてのように自由の国とは言われなくなってきました。基本権保障が後退したと 言われています。 弁護人が必要な理由についてまとめますと、以下の3点のことが言えると思います。 ①それが「仕事」だから 被疑者・被告人は世界中の多数の人間を敵に回しているような立場にあります。そのよ うな中でも誰か一人は味方がいるべきです。その味方こそが刑事弁護人です。依頼者の利 益を最大限に保護することこそが、プロフェッショナルである刑事弁護人の仕事でありま す。「なぜ悪い人の弁護をするのか?」、悪い人の弁護をするのが仕事だからです。無罪 の人を無罪にするのは当たり前です。刑事弁護人の神髄は、無罪の人を無罪にすることで はなく、有罪の人でも、悪い人でも弁護することです。 ②どんな被疑者・被告人にも弁護の余地がある 私が過去に扱った事件の中では、弁護の余地のない被疑者・被告人はいませんでした。 極悪非道としか言いようがなく、本人が犯行を認めている場合であっても、弁護の余地が 必ずあるということは確信を持って言えます。 ③ 逮捕・勾留・捜索押収は政府の実行行使そのもの 日本は軍隊を持たないため、日本において政府が最も実力行使をしうるのは警察である と思います。逮捕、勾留されると体の隅々まで調べられ、身体の自由が制限され、自宅を 捜索され、差押さえされます。これは人間の尊厳を痛く傷つけることです。この政府の力 に対し、弁護人は六法と弁論とペンの3つの力で平和的に、しかし決して屈せず対抗する ことができます。時には有罪といわれることを無罪にすることで政府の力に打ち勝てます。 だから悪いといわれる人の弁護もしますし、今後も刑事弁護の必要性に変わりはないと思 います。時代が移り変わってもこの必要性が変わることがあってはならないのです。

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II. 普通の刑事事件のありよう 1. 捜査段階と弁護士の役割 (1) 刑事事件のスタート「逮捕」 もともと知っていた依頼者から、「友達が居酒屋で喧嘩して、警察に連れて行かれて帰 ってこないのですが、どうしたらいいですか?」といった、事務所にかかってくる一本の 電話から始まることはよくある話です。喧嘩して怪我させ、傷害になるので程度にもより ますが、警察は逮捕します。報道では逮捕の時点で犯人と呼ばれますが、この時点では犯 人であると疑われているだけです。 逮捕から裁判にかけられるまでの間は捜査期間と呼ばれます。日常の犯罪で、大阪だと 多いのは覚せい剤です。また、交通事故での逮捕事件は年々減ってはいますが、まだまだ 多いです。先ほどの居酒屋での例のように、喧嘩で逮捕されることもあります。また、コ ンビニでの万引きや、痴漢によって逮捕されることも多くあります。 この時、逮捕された人の知人等に弁護士がいない場合は、弁護士会が弁護士を紹介する 私選弁護士制度を利用することができます。一定の累計の事件では、先ほど述べたような 被疑者国選弁護制度を利用できます。逮捕を経て弁解録取手続きがあった後、勾留の必要 がある場合は、逮捕から48時間以内に警察が勾留請求をします。勾留されると10時間は帰 ってくることができないので、警察の管轄下にある逮捕後勾留されるまでの48時間で弁護 士がどれだけのことができるかで、その後の動きに大きな違いが生じます。例えば、先ほ どの居酒屋の事案であれば被害者と示談が成立すれば、捜査自体は続きますが、勾留され ること無く最終的に不起訴になります。実際は48時間という時間は非常に短いので、この 期間に弁護士がつくのはまれです。 (2) 勾留最大20日間の身体拘束 令状に基づき検察で勾留がされます。勾留は原則 10 日ですが、延長をすることができる ので 20 日と思っていてもらった方が良いです。勾留されると被疑者は非常に厳しい状況に おかれることとなります。面会もできず、音楽も聞けない、好きなものも食べられないと いう 20 日間を過ごすこととなります。また、社会人にとっては 20 日間の仕事のロスは非 常な打撃です。したがって、捜査段階での弁護士にとっての最初のヤマ場は「勾留させな いこと」です。弁護士は裁判官や検察側と接触して、証拠も隠滅できる物もないし、隠し たりもしないので勾留理由は無いということを交渉します。勾留されると取り調べが始ま ります。朝の8、9時から12時、13時から17時、その後更に晩からも狭い部屋の中 で長時間の取り調べがあります。そのくらい長い時間刑事と過ごします。この長時間にわ たる詰問の中で、自白をしてしまうケースがあるくらいですから、その苦痛は相当なもの だと思います。この苦しい時間の中で、被疑者を励ますことも重要な弁護士の仕事です。

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しかし、このような弁護士の本来の立場に反するような動きを被疑者がとることがありま す。勾留期間は長く密室で行われるので、被疑者は刑事と親しくなることがあります。そ れに対して、弁護士が被疑者に接見できる時間は一日 1 時間程度です。被疑者の中には弁 護士の仕事内容もわかってない人がいます。ですから、親しみを感じてしまった警察の吹 き込んだことを鵜呑みにして自白をして弁護士に自白をしたことを隠す被疑者もいます。 被疑者の不利益供述を含んだ調書が裁判では証拠能力を持ちます。自白している調書があ った場合、その後の公判で犯行を否認したとしても、供述が変わっているということで信 頼されません。 我々弁護士会は、取り調べが密室で行われることが問題であるとし、全過程の録音やビ デオ撮影をするなど取り調べの全面可視化を主張しています。可視化によってどのような 犯行をやってもいない人が犯行を自白するような無理な取調べは行われないようになると なくなるのではないでしょうか。 家族との接見が禁止された場合、被疑者にとっての社会との窓口は弁護士だけとなりま す。このような場合に弁護士は家族との伝言役となることがあります。しかし、被疑者が なぜ家族と接見してはならないのかは疑問の残るところです。 ドラマと違うところは、弁護士に圧倒的に情報がないことです。被疑者からしかほぼ情 報を得られません。捜査機関がどのような証拠を持っているのか、どのような調書を取っ ているのかを考え、有罪を認める場合はなんとか早めに勾留期間中に示談交渉をします。 捜査段階の弁護士の仕事は非常に知的な作業です。検察側がどんな戦略を持っていて、そ れにどう立ち向かうかを考えなければなりません。ここでは告訴・告発を取り下げてもら ったりして、何とか勾留期間中に不起訴にもっていく努力をします。途中、勾留に対抗す る手段としては、いわば不服申し立てである準抗告などの手段がいくつかあるのですが、 これらはあまり効力がありません。準抗告をして勾留状態が覆ったのは、私が過去担当し た刑事事件の中では1件しかありません。 (3) 捜索・押収手続き あと、捜査でよくイメージするのはがさ入れ、捜索があります。がさ入れは徹底的に行 われます。ドラマではがさ入れの現場だと弁護士が駆けつけますが、日本ではほぼ不可能 です。警察は朝早くに予告もなく抜き打ちで来ることが多いので、弁護士が連絡を受けて 動き出してもがさ入れはたいてい終わってしまっています。弁護士が立ち会ってがさ入れ をコントロールすることはほぼ不可能に近いです。 (4) 起訴と刑事弁護 先ほど申し上げたように、勾留段階で起訴されないようにための弁護活動をします。示 談ができたら、示談書をもっていったり、検察官との交渉を行ったりして、事実上の司法 取引を行います。罰金で済むのであれば、裁判で有罪になって服役するよりはよほどいい

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のです。不起訴であれば、前科も尽きません。起訴されたら、被疑者が外に出られるよう に保釈請求をすぐにします。「人質司法」という言葉をどこかで聞いたことがあるかもし れません。日本では保釈請求が通ることはまれです。保釈が通らなかった場合、つかまっ たままの人と拘置所内・留置所内で公判段階の打ち合わせを行わないと行けません。保釈 がされていれば、十分な時間を取って打ち合わせを行えます。 3. 公判段階と弁護士 (1) 起訴後、弁護士が入手できる資料 起訴された場合、一回目の裁判の日が決まり、開廷されます。そして、人定質問をして、 起訴状の朗読をして、被告人の意見を言います。冒頭手続、その後立証段階に入っていき ます。立証が終わると、最終的には意見陳述が行われ、判決の宣告の日が伝えられるとい うのが、大まかな流れです。公判準備の段階で、検察官が裁判所に証拠を提出して、やっ と弁護士は証拠を見ることができます。ただし、検察官が立証に使おうとする証拠に限り ますので、それ以外の重要な証拠は隠されているというケースがありえます。東電OL事件 はまさにそのような事件です。そのため、弁護側はまだまだ隠されている証拠があると思 った場合は、公判になってから証拠開示命令の申し立てを行ったりします。 この一連の動きは裁判の結果を左右する非常に重要な流れです。 (2) 公判期日と弁護活動 公判手続の期日は、裁判所が一方的に決めるわけではありません。起訴されてから弁護 士がついていることが分かっていれば、第一回の公判期日の調整の連絡が送られてきます。 そこで、公判手続の期日は、被告人側が手続を早く進めたいかゆっくり進めたいかで決め ます。たとえば前科があるときや執行猶予期間中の人は、執行猶予期間中に新しい判決で 有罪になると、その刑で刑務所に行くだけでなく、執行猶予のついていた前の刑も合わせ て刑務所に行かなくてはならなくなります。このような場合は迅速に裁判をすると困りま すので、執行猶予の満了期間後に判決の言い渡しが行われるように弁護人は努力します。 (3) 公判期日手続き 裁判員裁判がはじまるまでの弁護人はずっとうつむいてメモを読み続けていて、詳しい 書面を各々に配っているために検察官も裁判官もうつむいて読んでいて、被告人だけが手 持ち無沙汰でした。職業裁判官しかいなかった時代は、それでもよかったのですが、今は 裁判員裁判が導入されましたので、裁判員裁判にそのような詳しい書面を提出してもなか なか分かってもらえません。そこで、弁護人も顔を上げ、みんなと目を合わせて、裁判官 だけでなく裁判員にも話さねばならないようになりました。 できれば皆さんには一度法廷に行って、実際の裁判を傍聴してほしいと思います。刑事 訴訟法の勉強を理解するのに有益です。

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証人尋問も、昔は用意していた尋問事項を読み上げるのみでしたが、今は、ドラマのよ うに華麗に「異議あり!」といったことは言わなくても、現在は異議を積極的に出すこと はあります。今後刑事訴訟はどんどん変わっていくと思います。 III. おわりに 実際の刑事弁護活動は地味なもので、10件の刑事事件に携わってもほぼ10件ともが有罪 となります。その中で刑事弁護にやりがいがあるかということですが、私はあると思って います。皆さんの中には法曹に進まれる方もそうでない方もいらっしゃるとは思いますが、 刑事弁護は悪人を守るようなことを目的とした活動をしているのではなく、本日述べたよ うなさまざまな目的をもって地道な努力を重ねていっているということを覚えていてくだ さい。その上で、温かい目をもって刑事弁護をとらえてくれたら、と思います。 以上

参照

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