On the classification of thick representations of
simple Lie groups
(Joint work with Kazunori Nakamoto)
面田 康裕
(
明石高専
)
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はじめに
群 G の有限次元表現 ρ : G→ GL(V ) が既約であることは、V の任意の部分空間 V1, V2で dim V1 = 1, dim V2 = dim V − 1 を満たすものに対して、うまく g ∈ G をと
ることで ρ(g)V1⊕ V2 = V とできることに同値である。このとき自然に次の問題が 考えられる。 問題 1. 群 G の既約な n 次元表現 ρ : G → GL(V ) について、dim V1 + dim V2 = n を満たす任意の2つの部分空間 V1, V2 に対して、うまく g ∈ G をとることで、 ρ(g)V1⊕ V2 = V とできるか。 この性質を満たす最も典型的な例は以下のものであろう。 例 1.1. 一般線型群 GLn(C) の自然な n 次元表現は上記の問題の性質を満たす。 例 1.2. 対称群 Snの自然な置換表現も上記の問題の性質を満たす。 当初、我々は任意の既約表現がこの性質を常に満たすのではないかと安易に考え ていた。しかしそうではないということに気付いたのが本研究の出発点であった。 本講演では複素単純リー群の複素既約表現で上記の性質を満たすものの分類結果 について報告する。一般論からはこうした性質を満たす表現は非常にたくさんある ことが推測される。しかし、これに反して単純リー群の複素表現の場合にはこうし た性質を満たす表現はとても少ないことが判明した。この結果は我々にとっては驚 きであった。
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基本的な定義および性質
2007 年の表現論シンポジウムでの講演と重複するが、基本的な定義と性質を述べ る。以下,G を群,V を体 k 上の n 次元ベクトル空間とする。 定義 2.1. 群 G の表現 ρ : G → GL(V ) が m-thick であるとは,dim V1 = m なる V の任意の部分ベクトル空間 V1と,dim V2 = n− m なる V の任意の部分ベクトル空 間 V2に対して,ある g∈ G が存在して,(ρ(g)V1)⊕ V2 = V が成り立つときをいう。 また,ρ が thick であるとは,0 < m < n なる任意の整数 m に対して,ρ が m-thick であるときをいう。 定義 2.2. 群 G の表現 ρ : G → GL(V ) が m-dense であるとは,ρ から誘導される G の外積表現∧mρ : G → GL(ΛmV ) が既約であるときをいう。また,ρ が dense であ るとは,0 < m < n なる任意の整数 m に対して,ρ が m-dense であるときをいう。 このとき以下の性質が成り立つ。 命題 2.3. ρ : G → GL(V ) を群 G の n 次表現とする。ρ が m-thick であることと (n− thick であることは同値である。また,ρ が m-dense であることと (n − m)-dense であることは同値である。 命題 2.4. 群 G の表現について、次が成り立つ。m−dense =⇒ m−thick =⇒ 1−dense ⇐⇒ 1−thick ⇐⇒ irreducible
特に次が成り立つ:
dense⇒ thick ⇒ irreducible
系 2.5. 3 次以下の表現 ρ : G→ GL(V ) について、
dense⇐⇒ thick ⇐⇒ irreducible
つまり 3 次元以下の表現については,これらの概念は全て一致する。差異が生じ るのは 4 次以上の表現に対してである。 上記の命題によりいくつかの例については thick であることが容易に分かる。 例 2.6. 特殊線型群 SLn(C) の自然な表現とその双対表現は dense である。よって thick である。 例 2.7. 奇数次の特殊直交群 SO2n+1(C) の自然な表現は dense である。よって thick である。
証明は省くが、次は実際に thick と dense に差がある例である。 例 2.8. シンプレクティック群 Sp2n(C) の自然な表現は thick であるが, 1 < m < 2n−1 を満たす各 m に関して m-dense でない。よって dense でない。 次に表現が m-thick であるかどうかの特徴づけを述べる。まずはそのために必要 な定義を行う。 定義 2.9. V を体 k 上の n 次元ベクトル空間とする。V の d 次元部分ベクトル空間 V′ (0 < d < n) によりP∗(ΛdV ) の元 [ΛdV′] が定まる。簡単のため以降は [ΛdV′] を ΛdV′ ∈ ΛdV と同一視する。部分ベクトル空間 W ⊆ ΛdV がある d 次元部分ベクト ル空間 V′から得られるゼロでないベクトル ΛdV′を含むとき、W は実現可能である という。 このとき、m-thick でない表現は以下のように特徴付けられる。 命題 2.10. ρ : G→ GL(V ) を群 G の n 次表現とする。ρ が m-thick でないことは以 下と同値である。 G-不変で実現可能な部分ベクトル空間 W1 ⊆ ΛmV と W2 ⊆ Λn−mV で W1⊥= W2 を満たすものが存在する。 Proof. G-不変で実現可能な部分ベクトル空間 W1 ⊆ ΛmV と W2 ⊆ Λn−mV で W1⊥ = W2を満たすものが存在したとする。W1, W2は実現可能なので、V の m 次元 部分空間 V1および (n− m) 次元部分空間 V2が存在して、ΛmV1 ∈ W1, Λn−mV2 ∈ W2 となる。各 Wi の G 不変性と直交性 W1⊥ = W2 によりどんな g ∈ G に対しても, ρ(g)V1 ∧ V2 = 0 となる。つまりどんな g ∈ G に対しても,ρ(g)V1⊕ V2 = V となり 得ない。よって表現 ρ は m-thick でない。 表現 ρ が m-thick でないと仮定すると、V の m 次元部分空間 V1 および (n− m) 次元部分空間 V2 が存在して,どんな g ∈ G に対しても,ρ(g)V1 ⊕ V2 = V とな り得ない。{(∧mρ)(g)(ΛmV 1) | g ∈ G} により生成される ΛmV の部分空間を W1, {(∧n−mρ)(g)(Λn−mV 2)| g ∈ G} により生成される Λn−mV の部分空間を W ′ 2とする。 W1, W ′ 2は G-不変で実現可能な部分空間であり,W1∧ W ′ 2 = 0 をみたす。このとき、 W2 = W1⊥とおくと W2は G-不変であり、W ′ 2を含むので実現可能である。以上よ り,主張がいえた。 2 この特徴付けにより、m-thick でない n 次元表現のなす集合が n 次元表現全体の なすモジュライの中で閉集合であることがわかり、次の定理を得る。 定理 2.11. Repn(G) を [2] の意味での群 G の代数閉体 k 上の n 次表現からなる表現 多様体とする (一般には既約性は保証されない)。Repn(G) の中で m-thick (もしく
は m-dense) である表現全体は、GLn不変な開集合をなす。特に、thick (もしくは dense) である表現全体は、GLn不変な開集合である。 群 G の n 次元表現全体の集合 Repn(G) への GLnの共役による作用での商を特性 多様体 Chn(G) と書くことにする。 系 2.12. 群 G の代数閉体 k 上の n 次既約表現のモジュライ Chn(G)irrは、n 次 m-thick な表現 (もしくは m-dense な表現) のモジュライを開集合として含む。特に,n 次 thick な表現のモジュライ Chn(G)thickおよび n 次 dense な表現のモジュライ Chn(G)dense を開部分スキームとして含む。 ここでの表現多様体 Repn(G) や特性多様体 Chn(G) などの正確な定義や様々な性 質については中本 [2] を参照してください。 Remark 2.13. 上記の主張により、表現全体の中では thick なものが一般的である と考えるのが自然であろう。
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階数2の自由群の4次元表現の場合
まず、thick、dense、及び既約性に差が生じる可能性があるのは表現空間の次元 が4以上のときであったので、階数2の自由群の4次元表現を考えるのは最初に取 り組むべき課題の一つであろう。よって、本講演のタイトルからは離れるが、階数 2の自由群の4次元既約表現のモジュライについて得られた結果を紹介しておく。 まず、4次元の場合の thickness の判定法を述べる。 命題 3.1. k を代数閉体、V を k 上の 4 次元ベクトル空間とする。群 G の表現 ρ : G→ GL(V ) にたいして、ρ が thick であることは以下と同値である。 ρ は既約であり、自然に得られる表現∧2ρ : G→ GL(Λ2V ) は、2 ≤ dim W ≤ 3 で あるような G 不変部分空間 W ⊂ Λ2V をもたない。 以下、F2 = ⟨α, β⟩ を階数 2 の自由群とし、F2 の 4 次元既約表現のモジュライ Ch4(F2)irr についての我々の結果を紹介する。 命題 3.2. Ch4(F2)irrは 17 次元非特異代数多様体である。 非特異性をさておけば、大雑把にはdim Rep4(F2)irr = dim GL4(k)× GL4(k) = 42+ 42 = 32,
により,
dim Ch4(F2)irr = dim Rep4(F2)irr − dim PGL4(k) = 32− 15 = 17
と次元が計算される。 定義 3.3.
Chn(G)dense :={[ρ] | ρ : n-dimensional dense representation of G} Chn(G)thick :={[ρ] | ρ : n-dimensional thick representation of G} とおく。このとき,
Chn(G)irr ⊇ Chn(G)thick ⊇ Chn(G)dense がいえる。
ここでは、Ch4(F2)non−thick := Ch4(F2)irr\ Ch4(F2)thickについての結果を述べる。 [ρ]∈ Ch4(F2)non−thickを考える。∧2ρ : F2 → GL(Λ2V ) について,Proposition 3.1
より,F2不変部分空間 W ⊆ Λ2V として,dim W = 2 または dim W = 3 となるも のがとれる。 まずは dim W = 2 の場合の表現の正規化定理を紹介する。 命題 3.4. ρ : G → GL(V ) を 4 次元 non-thick 既約表現とする。G 不変部分空間 W ⊆ Λ2V として,dim W = 2 となるものがとれると仮定せよ。このとき,V の基 底 e1, e2, e3, e4が存在して,W =⟨e1∧ e2, e3∧ e4⟩ かつ任意の g ∈ G に対して ρ(g) = ( A1 02 02 A2 ) or ( 02 A1 A2 02 ) となるものがとれる。ここで,A1, A2は 2× 2 行列である。 定義 3.5. 上の正規化定理において, ρ(g) = ( A1 02 02 A2 ) の形の行列を type +, ρ(g) = ( 02 A1 A2 02 ) の形の行列を type − と呼ぶことにする。
ここで,dim W = 2 の場合の Ch4(F2)non−thickの既約成分を定義しよう。 定義 3.6.
S4(F2)(+,−) :={ρ ∈ Rep4(F2)irr | ρ(α) : type + , ρ(β) : type − }
S4(F2)(−,+) :={ρ ∈ Rep4(F2)irr | ρ(α) : type − , ρ(β) : type + }
S4(F2)(−,−) :={ρ ∈ Rep4(F2)irr | ρ(α) : type − , ρ(β) : type − }
とおく。また,標準的な射 ϕ(+,−) : S4(F2)(+,−) → Ch4(F2)non−thickを考え,同様に ϕ(−,+), ϕ(−,−) も考える。このとき, Ch(+,−) := Imϕ(+,−) Ch(−, +) := Imϕ(−,+) Ch(−, −) := Imϕ(−,−) と定義する。 次に dim W = 3 の場合の表現の正規化定理を紹介する。 命題 3.7. ρ : G → GL(V ) を 4 次元 non-thick 既約表現とする。G 不変部分空間 W ⊆ Λ2V として,dim W = 2 となるものは存在せず,dim W = 3 となるものがとれ ると仮定せよ。このとき,ある 2 つの 2 次元既約表現 ρ1, ρ2が存在して,ρ と ρ1⊗ ρ2 は同値である。 dim W = 3 の場合に対応する既約成分を定義しておこう。 定義 3.8. 有理射
ϕdim=3 : Ch2(F2)air× Ch2(F2)air 99K Ch4(F2)non−thick
(ρ1, ρ2) 7→ ρ1⊗ ρ2
の像の閉包を Ch(dim = 3) とおく。
以上の準備のもとで Ch4(F2)non−thickに関する主張を述べる。 定理 3.9. Ch4(F2)non−thickの既約分解は
Ch4(F2)non−thick = Ch(+,−) ∪ Ch(−, +) ∪ Ch(−, −) ∪ Ch(dim = 3)
で与えられる。また,dim Ch(+,−) = dim Ch(−, +) = dim Ch(−, −) = 9 かつ
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単純リー群の
thick
な表現の分類
以下では体 k を複素数体C として考える。G を連結な単純リー群、B を G の Borel 部分群、T ⊂ B を極大トーラス部分群、B−を T に関して B と逆の位置にある Borel 部分群、V を G の有限次元既約表現とする。V における T に関する weight の集合を W (V )、φ ∈ W (V ) に対して W における weight φ の部分空間を Vφと書 く。G ⊃ B ⊃ T に関する単純ルートの集合を選ぶと、W (V ) にはルート順序に関する poset (partially ordered set) の構造が入る。これは weight poset と呼ばれる。 (µ, γ ∈ W (V ) に関して、µ − γ が正ルートになっているとき µ は γ より大きいとし、 特に µ− γ が単純ルートになっているとき µ が γ をカバーしているという。)W (V )
の任意の weight φ に対して Vφが一次元であるとき、V は weight multiplicity-free で あるという。(省略して WMF と書かれることも多い。) 定義 4.1. 群 G の二つの表現 ρ : G → GL(V ),ρ′ : G′ → GL(V′) に対して、同型写 像 f : V → V′ が存在しそれにより誘導される同型写像 f∗ : GL(V ) → GL(V′) に関 して f∗(ρ(G)) = ρ′(G′) が成り立っているとき二つの表現は幾何学的に同値であると いう。 補題 4.2. V を連結な単純リー群 G の有限次元既約表現、W を ΛkV における G の realizable な部分表現とする。このとき、W とグラスマン多様体 Grass(k, V ) の共通 部分には、B ⊂ G に関して最高ウエイトベクトルとなっている元 [x] が存在する。 この補題と thick でないことの特徴付けを述べた命題 2.10 を用いると個別の計算 により次の事実が証明できる。 命題 4.3. SL2(C) のすべての有限次元既約表現は thick である。 命題 4.4. 例外型リー群 G2の 7 次元の基本表現は thick である。 これまでは、表現が thick であるかどうかを個別に調べていたのだが、次の主張 が証明できたおかげで一般的な分類が可能になった。
命題 4.5. 連結な単純リー群の表現が thick であるならば、表現は weight
multiplicity-free である。
表現が weight multiplicity-free でないならば thick でないことを示せばよいのだ が、thick でないことの特徴づけを思い出せば、その証明の重要な部分は外積表現の なかに実現可能な部分表現を見つけることであるのが分かる。ここでは実現可能な 部分表現の構成法を簡単に説明する。この構成方法は Howe[1] によるものである。
表現 V が weight multiplicity-free でないとする。ウエイト空間の次元が1より大き いウエイト φ を一つとり、対応する一次独立なウエイトベクトルを2つ取っておく。 weight poset において φ より大きいウエイトをすべて集めた部分集合を考える。そし て部分集合に含まれるすべての weight に対してそのすべてのウエイト空間を考え、 それと先にとったウエイトベクトルの一方により生成される部分空間 W を考える。 dim W = m として W によって定まる ΛmV の元を考えると、それは ΛmV における ある既約部分表現の最高ウエイトベクトルとなっている。もう一方のウエイトベク トルをとればもうひとつの既約部分表現の最高ウエイトベクトルも得られる。これ により ΛmV のなかに2つの実現可能な部分表現が得られる。Λdim V−mV に対して も、似たような方法で 2 つの既約部分空間が構成できる。それぞれ 2 つずつ構成し たおかげで直交性も証明することができる。
連結な単純リー群の weight multiplicity-free である既約表現の分類は Howe[1] に おいてなされている。
次の命題も先の命題と似たような方法で証明できる。
命題 4.6. 連結な単純リー群の表現が thick であるならば、表現の weight poset は全 順序集合である。
Howe[1] では分類された weight multiplicity-free である表現の weight poset の構 造も調べられており、それが全順序集合となるのは以下の場合のみであることが分 かる。 命題 4.7. 連結な単純リー群の既約表現でその weight poset が全順序集合であるよう なものは以下のものに幾何学的な同値である。 (An, ω1), (A1, mω1), (Bn, ω1), (Cn, ω1), (G2, ω1). ただし、単純リー群のタイプと基本ウエイトを表わす上記の記号はブルバキの記法 にしたがっている。 以上の結果をまとめて以下の分類を得る。 定理 4.8. 連結な単純リー群の thick な表現は以下のもののいずれかに幾何学的に同 値である。 (An, ω1), (An, ωn), (A1, mω1), (Bn, ω1), (Cn, ω1), (G2, ω1). 特に、thick であって dense でないものは次のもののいずれかに幾何学的に同値で ある。 (A1, mω1)(m≥ 3), (Cn, ω1), (G2, ω1).
一般の群の表現のモジュライに関する主張からは thick な表現が非常に多く存在 することが期待されるのだが、ここではある意味それに反する結果が得られたとい うのは興味深いことであろう。
参考文献
[1] Howe, R., Perspectives on invariant theory: Schur duality, multiplicity-free actions and beyond, Piatetski-Shapiro, Ilya (ed.) et al., The Schur lectures (1992), Ramat-Gan: Bar-Ilan University, Isr. Math. Conf. Proc. 8, (1995) 1-182.
[2] Nakamoto, K., Representation varieties and character varieties, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 36, No. 2, (2000) 159-189.