香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号 61∼69,1994
オクラの花芽分化及び花芽発達に関する微細形態学的観察
垣渕和正・藤日章旗
MICROMORPHOLOGICAL OBSERVATIONS OF FLOWER BUD
INITIATION AND DEVELOPMENT IN OKRA
Kazumasa KAKIBUCHIand Yukihiro FuJIME
Flower bud development of’Early five’and‘Better five’okra was observed by SCanning electron microscope
lFloralstages of okra were dividedinto7stages;0:the vegetative stage,1:the dome−forming stage2:the accessary sepal一重orming stage,3:thesepal−formingstage,4: the petaトforming stage,5:the stamen and pistiトforming stage,6:the stamen and pistildeveloplng Stage
2 Filaments fused each other and formed androecium
3Fifty anthersinitiated basipetally from top to bottom at fused filaments 4 Five carpels fused each other and developedinto the parts of ovaly,Style and Stigma
5 Coroller,StamenS and carpels fused at basalportion of the flower bud Key words:Okra,flower bud development,micromorphology,SEM
緒 口 著者らは走査型電子顕微鏡を利用して,疏菜頬の花芽分化並びに花芽発達の形態学的変化を観察 している.これまでに,アブラナ科疏菜の花芽分化期(1),花芽発達段階(2)と花弁分化時期(3)を明らか にしてきた オクラの花芽分化は渡辺(4)が観察しているが,実体顕微鏡による観察のため,微細な形態には不 明な点がある‥特に,オクラは雄ずい群を形成することが報告されているが(5),その発達過程は不 明である 西野(6)は,雄ずい群には求基的に分化するものと,求頂的に分化するものがあるとしているり数 種のサボテンでほ雄ずい群が形成され,雄ずい群を構成している個々の雄ずいは求基的に頂部から 基部に,向けて分化することが報告されている(78) −・般に花器は求心的もしくは求頂的に,すなわち基部から頂部へ分化することが知られてい る(79).しか し,アブラナ科植物でほり雄ずい分化後に花弁が分化するという分化の逆転が報告され ている(10誹.そ こで著者らはアブラナ利権物について花芽分化時期を走査型電子顕微鏡を用いて詳 細に観察した結果,花弁原基は雄ずいとはぼ同時期かもしくは若干早く分化していることを明らか にした(3)いオクラの雄ずい群の分化及び発達過程においても,走査型電子顕微鏡で観察することに 数種読菜の花芽形成並びに花芽発育過程に関する研究(第4報) 本研究の−∴部は平成3年度園芸学会秋季大会で発表した
香川大学農学部学術報告 第46巻 第2号(1994) 62 より分化位置と分化順序及び形態的特徴を明らかにできると考えられる ここには,オクラの花芽分化及び発達を走査型電子顕微鏡を用いて観察し,花芽発達段階,雄ず いの構造,花器の融着について明らかにしたので報告する
材料及び方法
供試材料にほ,‘ァ・−・リ・−・ファイブ と‘ベタ・−フ・アイブ の2品種を用いた 両品種とも1989年7月5日に播種箱に播種した.育苗はガラス室内で行った.子葉が展開した7 月15日に,株間30cm,条間30cmで各品種について120個体を圃場に定植した..栽培管理は慣行に従っ た 発芽時の7月10日から7日おきに各品種10個体ずつを採取し,茎長,茎径と英数を調査した小 同 時に茎頂部をFAAで国定して保存した‖その後,茎頂都を実体顕微鏡下で解剖し,走査型電子顕微 鏡を用いて花芽発育を観察した オクラの場合,予備実験においてグルタ−ルアルデヒドによる単固定においても,オスミウム酸 併用の2垂固定と同等の走査電顕像が得られた.そこで,本実験では固定方法として,グルタール アルデヒドの単固定法を用いた.すなわち,解剖した材料を4%のグルター・ルアルデヒド(pH7.4 のリソ酸バッファ・一で溶解)で5℃・24時間で固定した.固定後,ただちにpH7.4のリン酸バッ ファーで16時間ずつ3回洗浄したv エタノール系列で脱水後,50%の酢酸イソアミル(99%アル コールで溶解)と100%の酢酸イソアミルでそれぞれ12時間と24時間ずつ,アルコ・−ルを酢酸イソ アミルへ置換した その後,試料を臨界点乾燥器(日立HCP−1)に移し,20℃で酢酸イソアミルを液化炭酸ガスに 置換し,43℃で臨界点乾燥を行った.乾燥した試料は銀ペ・−ストを用いてアルミ試料台へ貼り付 け,イオンコ一夕(Eiko社)でPb・Pt蒸着を行い,走査型電子顕微鏡(日立S−800塾)で観察し た.加速電圧ほ5∼8kvとした 結 果 1“花芽発達段階の分類 走査型電子顕微鏡による観察と,実体顕微鏡による観察を比較した結果,オクラの花芽発達段階ほ0::未分化期,1:膨大期,2:副がく片分化期,3:がく片分化期,4:花弁分化期,5:雄
ずい・雌ずい分化期,6:雄ずい・雌ずい発達期の7段階に分類された 両品種とも第1花の花芽は3∼4節目の菓腋に分化し,それ以降の各節位に1個ずつ分化した 第1図に‘ァt−リーファイブ∴第2図に‘ベターファイブ の第1花について,各花芽発達段 階の走査型電子顕微鏡像を示した.未分化期における腋芽頂部の直径は50∼10伽mで,中央部がわ ずかに.隆起していた(第1図−0,第2図−0).膨大期では腋芽頂部が肥大・肥厚した(第1図− 1,第2図−1).また,直下の腋芽も肥大していた(第2囲−2).副がく片分化期では,肥大し たド・−ムの周辺より,10枚の副がく片が分化した(第1図−2,第2図−2)..がく片分化期になる と,副がく片の内側に5枚のがく片が分化したいただし,それぞれのがく片はお互いに融着してお り,全体としてがくを形成した(第1図−3,第2図−3).花弁分化期でほがくの内側が輪状に盛 り上がり,その周辺に5枚の花弁が分化した(第1図−4,第2図−4)..雄ずい・雌ずい分化期に は輪状組織の上部より卵塾の雄ずいが多数分化し(第1図一5,第2図−5),輪状組織の内側では 5枚の心皮が分化していた(第2図−5)雄ずい・雌ずい発達期になると輪状組織は集合花糸と して伸長し,円筒形に.発達した(第2国−6)い心皮は発達して柱頭,花柱と子房を形成した(第1oltra tra.
flg stage
ning stage, reloping
垣渕和正・藤日章披:オクラの花芽分化及び花芽発達に関する微細形態学的観察 65
TablelFlower bud developmentin okra
Floral stagesz
date O 1 2 3 4 5 6 7 ‘EaIly five……●y
●●●●
7/10
7/16
7/23
7/30
8/6
8/15
8/20
●●●●●●●●●
●● ●●●●● ●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●●●
●●●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ‘Better five ●●●●●●● ●●● ●●● ●●●●● ●●7/10
7/16
7/23
7/30
8/6
8/15
8/20
●● ●● ●●●●●●
●●●●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●●● ●●●● ●●●●● ●●●●● ●Zo)Thevegetativestage,1)ThedomeLformingstage,2)Theaccessorysepal−formingstage・3)
Thesepalformingstage,4)Thepetal−formingstage,5)Thestamenand pistilLformingstage,6)
Thestamenand pistildevelopingstage,7)Anthesis
y●:Showingthat one plant reached each floralstage
図−6,第2図−6)
2花芽発達段階の進展 オクラの第1花の花芽発達の進展を第1表に示した.両品種とも,定植翌日の7月16日には第1 花がすでに副がく片分化期に達しており,その後の花芽発達も極めて速く,定植後30日目の8月6 日にはほとんどの個体が雄ずい・雌ずい発達期に達していた 3花器の発達 花器の発達過程は両品種でほぼ同じであった‖第3図に‘ァーリ・−ファイブの雄ずいの発達,香川大学虐隻学部学術緒くきテ 第46巻 第2号(1994)
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Fig.3▲Stamen deveiopmenもiniEarly five’olくra
1),2)王nitiation of arlther,3),4)Start of development of anther,5)devetopment of stamen,6)Longitudinalsection of stamen!7)At fin主sh ofirlitiat主on of anthers.8)Cross
secとion of anther an:anとher,Pe:Peとal,StアニSty主e,fi:filament,PO:PO重1en 第4図に‘ベターファイブ’の心皮の発達,第5図に‘ァーリーファイブ’の雄ずい・雌ずい発達 期までの花芽の縦断面を示した (1〉 建ずいの発達 准ずいの分化は,輪状覿織の上部で紡が分化した時に確認された,分化初享決の薪ほ環状観織の頂 部で,微細な突起として観察された(第3区ト1,2).分化後の薪は楕円状に発達し(第3図−
短期㈲宜∵藤凋球場目方リラの花芽分化及び花芽発達に供する敏雛形態学的観察 67 3,4)∴雄ずい辟の個々の薪の分すとほ求基約に起こった.つまり,分化した繭の直ドの環状覿織か ら新たな薪が分化していた(第3事実卜5).雄ずい群の基部である輪状覿織でほ,花糸が複雑に融嘉 していた(第3ま又ト6,第5鰍工 業麿後期の雄ず十でほ,環状敵城のE瑚鈴屋二に10個の豹が分化し た.この翰ほ5輸あり,合計50偶の義姉ミ分fヒした(第3‡業ト7),計た∴約の内諾でほ多数の突起を 終った直径80〟mの花粉が分化していた(第3囲¶牒). (2ラ 心皮の発達 5枚の心皮ほ應凄二いに融嘉しながら仲良し,…王j錐形のf▲房を形成した(第4要ヌト1,2,3).や がて,心皮ほjこ房の頂部に花柱を発達させながら伸長Lていき(第4‡ヌ巨4),償端部に柱頭を形成 した.柱頭は5裂しており(第4図¶5),表面は挺径約35〟mの紡錐状姐織で覆わ弟ていた(第4 図】6)∴子房の内灘では,中央部にある飴線上に胚珠の分化が認められた(第5囲). (3)花器の融着関係 花冠は基部で雄ずいと融著しており,鰊ずいもそ彷基部で花冠や雄ずいと融着Lており,ヂ虜ド 位の形態を刃ミした(第5邑異音).
Fig.4.Carpeideveiopmentin‘Better f主vef okra
1),2)Initiation of carpeis・3)Development of carpels・4)Stylc forming,5)Top view of stigma.6)Magnified surface of stigma
香川大学農学紗竿椋綬薔 第と呈6巻 第2軍(ま99射
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Fig.5.Longiとudina主secL妄0ヱ10f fiower budinlミarly f主ve’okra
i)Ear屋y deve如汀IenL ofぎ星oraきorgaglS亨2)Deve呈oping og sとagⅥen and pjsも呈j,3)Deveヱoped
flower(まu(i Se:Sei)ai,Pe:Peta主?Sと:Sとamen,an二anther,0Va:0\ダary,0Vu:0Vuie,P重二Piacer汗a,S頓 S頼e Stg:Stlgma 考 察 渡辺も4きほオクラの花芽分化を詔査して,花芽発達段階せ未分化夕臥分すと初胤分化英凱がく片形成 j臥包葉形成期,花弁形成j軋 雄ずい・雌ずい形成期,㍍三珠形成期と花室卜柱頭形成j漬の9段階に 分放している.渡辺Ⅵ儲鷹では∼ 膨大した腋芽臓辺より分北する最初の花薬をがく片とし,その内 輪に分化するものを包薬としている.しかし,包菓と蛛通常′花芽の外側にある薬的器官とされて いるf9〉ことから,個々の花芽の外部に分化していなければならない.オクラの場合,渡辺が包発と している器官ほぷく片町紬臥 すなわち花芽の内部に分化しており,包葉とするのほ適切でないと 思われる.Storeタ・No、VOkeぞSきと矧i蒼(12きほ,アオイ科植物の花貸誇を外側より副がく片,がく片(が く),花弁,雄ずい,雌ずいとしている.従って,渡辺ががく片としてい計花薬は剥がく片,包葉と している花葉ほがく片とするのが適切であると考えられる. 本試験でほ以きこの形態学約観察を踏まえ,外部形態を基準として花芽発達段階を束介すと腰,膨大 期,副がくj毒▲分化j臥 がく片分化期,花弁分化期,雄ずい・媒ずい分化期と維ずい・雌ずい発達期 の7段階に分類した. 渡辺らの分類では,本実験をこおける副がく片分化髄をがくノ; ̄初期形成湖とがく片形成灘匿2段階 に分け,雄ずい・蜂ずい発蓮瀾橡儲凋溌成過と花柱・柱頭形成期の2段階濫分けている.おそら く,剥がく片の農約な発育を基準として分類上ているものと考えられるが,どのように区別してい るのかは明確でない.本実験での観察でほ剥がく片発達過牽かこおいて∴分化初期と分化才漬を明確をこ 分類できる形態的変化ほ観察されなかった.濠た,胚珠の分化と花柱および柱頭の分化時j切につい ても,外部形態より判断できなかった.そこで「本実験で分類した7段階が,オクラ扮花芽発達段 階の分弊往こほ適していると考えている また,オクラの花芽発達ほ極めて速いことが確かめられた.渡辺もオクラの花芽分化時瀾と花芽 発達ほ速く∴定検からL週間=に副がく片を分化し,都祁対談度で柱頭・花柱形成j切に達するとして おり,本実験でむ称様の結潔が認められた, 鰊ずいぼ,集合花糸を伴った雄ずい群として分化し,素与は環状軌絨の頂部から基部に向かって求
垣渕和正・藤百事披:オクラの花芽分化及び花芽発達に関する微細形態学的観察 69 基的に分化した通常の花芽発達では,花器は外輪から内輪に向かって求心的もしくは求頂的に分 化する.しかし,雄ずい群を分化する植物では,雄ずいが求基的に分化する場合があることが報告
されている(7・6)∩ ヤシ科植物では,花床周辺部の細胞分裂によって花床部が外側に拡大し,その結
果,雄ずい群は遠心的に分化が起こるとされている(13).オクラでも求基的に荊が分化することか
ら,雄ずい群の基盤になっている環状組織は,花床部の細胞分裂によって持ち上がるように発達 し,その結果薪が頂部から基部にかけて求基的に分化したものと思われるまた,雄ずい群を持つサボテンの数種頼では,求基的に雄ずいが分化するとされているが(8),これらの種燥における雄ず
い分化過程も,本実験におけるオクラの場合と同様の理由である可儲性が考えられる, 摘 要 2種煩のオクラについて,花芽分化並びに花芽発達を走査型電子顕微鏡を用いて観察し た 1.オクラの花芽発達段階は,0:未分化期,1:膨大期,2:副がく片分化期,3: がく片分化期,4:花弁分化期,5:雄ずい・雌ずい分化期,6:雄ずい・雌ずい発達期 の7段階に分けられた 2.雄ずいでほ花糸が融若し,50本の薪を持つ雄ずい群を形成していた… 3り 荊は雄ずい群の頂部より求基的に分化したハ 4.5枚の心皮はお互いに融着しながら発達して,子房,花柱と柱頭を形成し,柱頭は 5裂になっていたい 5花冠,雄ずい心皮はお互いに基部で敵着していた..引 用 文 献
(1)藤日章擁・垣渕和正:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究第1報数種アグラ ナ科疏菜の花芽並びに花序形成に関する走査電顕 像り香大農学報,44,39−46(1992).. (2)藤日章抗・垣渕和正:数種疏菜の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究.第2報..走査型電顕 による数種アブラナ科疏菜の花芽発達段階の分 煩,香大農学報,44,47−54(1992) (3)垣渕和正・藤日章擁:数種武美の花芽形成並びに 花芽発育過程に関する研究..第3報走査型電子 顕微鏡によるアブラナ科疏菜の花弁形成時期の観 察.園学雑,(印刷中). (4)渡辺慶一・−斎藤忠雄・高橋文次郎:オクラの花芽 分化に関する形態学的観察仁農及園,57:345− 347(1982)(5)SroREY,W Band NwoKE,FIO:Hibiscus, In A H Halevy(ed),Handbook of flowering Vol2 pp133−139 CRC Press,Florida
(1985).
(6)西野栄正:花の発生の形態学.細胞,24,147− 153(1992)
(7)KINETJM,SACHS,R Mand Bernier,G:The physiology of flowering,Vo13 pp15,31CRC Press,Florida(1985)
(8)Ross,R:Initiation of stamens,Carpels and receptaclein the Cataceae Amer・JBot,69: 369−379(1982) (9)熊沢正夫:植物器官学.pp8−27裳華房,束京 (1979) ㈹ ORR,AR:Inflorescence developmentin βrαS;土cαCαm夕e5才γ去5LAmerノβ0£,65:466− 470(1978) (u)THOMPSON,KF:Cabbages,kales etc,Jn Simmonds,et al(eds),Evolution of crop plantspp 49−52,Longman,UK(1976) ㈹ 村田 源:アオイ科小学館編,園芸植物大事
典.第1巻pp18−21小学館,東京(1990) a3)UHL,N Hand MooRE,HE:Centrifugal
Stameninitiation on phytelephantoid palms A椚♂rJβof,64:1152−1161(1977)