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理学療法 臨床 研究 教育 27:3-9,2020 体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察 3 講座 体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察 谷本道哉 * 要旨体幹トレーニングとして, 体幹の剛体化を目的としたプランクが行われることが多い 体幹屈曲筋 伸展筋の筋力トレーニングとして活

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注目される体幹 多くのスポーツ動作において運動エネルギーを生み出 す主要な動作は四肢の関節運動だが,近年は四肢動作以 上に体幹に強い注目が集まっている。極端な例として は,サッカーなどで,右にバランスを崩しながらも素早 く左に切り返した選手に対して「体幹が強いですね」と 解説者が評する場合もある。この動きに最も貢献するの は,地面を蹴って左方向への大きな力積を生み出す「右 脚」の脚伸展動作であることは自明である。これを「体 幹が強い」と評するのは体幹に対する過大評価といえる が,実際に脚伸展の筋力以上に体幹機能を重視して考え ている指導者や選手は少なくない。 トップの競技選手が体幹を重視し,プランクなどの 体幹固定系のトレーニングを推奨していることなども ここには強く関係しているであろう。なお,一般に体 幹トレーニングとはプランクなどの体幹固定を強調した Bridge exercise を指す場合がほとんどである。プラン クとは「厚板」を意味する英単語で,仰臥位,側臥位, 背臥位(フロントプランク,サイドプランク,バックプ ランク)で肘と足を地面につくなどして,様々な向きで 体幹と下肢を「板状」に一直線に固定する運動である。 また,片手片足を上げるなどして,バランスや負荷の非 対称性などの要素を加えた方法もある。 なお,プランクの発祥には,身体動作における体幹機 能の重要性を示す研究背景が関係しているようである。 本稿では体幹トレーニング,主にはプランクがここまで 流行することとなった研究背景,トレーニング現場での 広がりから,その意義と位置づけをひも解いていきた い。 体幹が注目された研究背景とプランク,ドローイン 多くの競技動作において,大きな力で大きく動く,つ まりたくさんの力学的仕事をして運動エネルギーを生 み出す(その時間微分がパワーとなる)のは,腕と脚 の四肢の関節運動であり,体幹ではない。ではなぜ体 幹に大きな注目が集まったのか。そのきっかけの 1 つ として,1990 年代の Hodges らの「立位姿勢において 腕・脚を肩関節・股関節から大きく動かす運動課題を与 えると,腕・脚の動きに先立って体幹筋群(背筋群・ 腹筋群)の筋活動が起こる」という研究報告 Hodges と Richardson1,2)があげられる。 この結果から,四肢を動かす動作では,「四肢の土台

体幹トレーニングの流行の背景と効果に関する考察

谷本 道哉

要旨 体幹トレーニングとして,体幹の剛体化を目的としたプランクが行われることが多い。体幹屈曲筋・伸展筋の筋 力トレーニングとして活用されることもある。また,腹横筋の活動促通を目的としたドローインもよく行われる。しかし, プランクでは実際には体幹を剛体化させる Bracing も腹圧の上昇もしていない。また,そもそも多くの競技動作では体 幹は固定させるよりも,大きく動作して力学的仕事を行っており,これらから考えるとプランクの意義を見出しにくい。 ただし,反証データもあるが,プランクの実施による競技パフォーマンスの向上を認める報告もある。そのメカニズム は明確ではないが,選手にとって効果を実感できるのであれば,プランクの実施はプラスとなるかもしれない。また, ドローインには腹横筋の筋活動の促通効果が腰痛患者において認められる。ただし,腹横筋の筋活動レベルは競技動作 そのもののほうがドローインよりもはるかに高い。競技動作を十分に行える身体機能を有する競技選手においては,ド ローインを行う意義は薄いかもしれない。プランクやドローインの意義には不明確な部分があるが,体幹の機能から考 えて,体幹動作の強い筋力と大きな可動性を有することが重要であることはおよそ間違いないであろう。これらの機能 改善には,体幹屈曲筋・伸展筋の筋力トレーニングと体幹の可動性獲得の動作トレーニングが有用となるだろう。 キーワード:体幹の剛性・力学的仕事・筋肥大 ■講 座 (* 責任著者:谷本 道哉,近畿大学生物理工学部 〒 649-6433 紀の川市西三谷 930 e-mail: ta.michiya@gmail.com)

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群の活動が高まるが,背筋群はほぼ筋活動していない。 バックプランクはその逆の様子が観察される(図 1:下 代と谷本4),Okubo ら5))。 プランクは「負荷のかかっている方向に対する筋力発 揮で姿勢を保っている」わけである(図 1)。フロント プランクであれば,重力で体幹が伸展していく力が作用 するのに対して,腹筋群による体幹屈曲の力を発揮して いる。腹筋群,背筋群を共収縮させる Bracing で「どの 方向から力を受けても体幹が変形しないように剛性を高 めている」という状態ではない。したがって競技動作に おける体幹の安定性の獲得に寄与するトレーニングに なっているとは考えにくい。 なおプランクでは体幹の深部筋,いわゆるインナー マッスルが使われるというイメージが強い。スポーツ の現場でもそのようによく言われる。しかし,前述の 通りプランク系のトレーニングは重力負荷に対する筋力 発揮で姿勢を支えているのであるから,脊柱に対して長 いモーメントアームを持つ表層のアウターマッスルが主 動となるであろう。実際に筋活動レベルをみた研究では (下代と谷本4)),フロントプランクでは腹直筋の筋活動 は 28% MVC,腹横筋は 17% MVC,バックプランクで は脊柱起立筋は 59% MVC,腹横筋は 12% MVC と深部 筋よりも表層筋が主動となっている。 プランクと腹圧 なお,プランクでは「腹横筋などで腹圧を上げて体幹 を固めることを意識する」とスポーツの現場で言われる ことが多い。プランクは「体幹を固めている」というイ メージからくる考えだと思われるが,実態としてはプラ ンクで腹圧はほとんど上がらない。前述のプランクで深 部筋が使われるというイメージの理由も,プランクで腹 圧を上げる,という考えからくるのかもしれない。腹腔 部分の体幹を固定して安定させる」動作を先行して行っ ているものと解釈できる。この「土台部分」の体幹の固 定・安定が競技動作や日常の身体動作において重要では ないか,と注目されるようになったようだ。その流れか らアメリカのアスリーツパフォーマンスというトレー ナー組織の推奨する,プランクなどの体幹の固定を強調 したトレーニングが一気に広まった。今日においては, もはやブームではなく完全に浸透している。 また,前述の Hodges と Richardson1,2)の報告では, 体幹筋群の筋活動の中でも深部に位置する腹横筋がより 先行して筋活動を開始する様子が観察されている。体幹 の深部筋の筋活動の先行に注目する研究者は多く,これ を Early activity と呼び全身動作の円滑化に貢献するだ ろうとの考え方がある。この考えに基づいた運動処方に ドローインがある。腹部を引き込むドローインは腹横筋 を選択的に活動させることで腹横筋動員促通の教育効果 を狙って行われる。 プランクにおける体幹固定の教育効果の有無 プランクのような体幹固定系の Bridge exercise は, 四肢の土台としての固定の重要性という考えから行われ るようになったようであるが,プランクで体幹を固定・ 安定させる能力が向上するかは疑問である。立位姿勢に おいての体幹の固定は,主には腹筋群と背筋群を共収 縮させる Braicing により行われると考えられる Stanton と Kawchuk3)が,プランクでそのような筋力発揮を行っ ているとは考えにくい。 フロントプランクでは,重力により体幹伸展の力が加 わるので体幹屈曲筋で,バックプランクではその逆に体 幹伸展筋でその姿勢を支えている,と考えるのが力学的 には自然である。実際に表面筋電計で筋活動の様子を検 証すると,フロントプランクでは,体幹屈曲筋の腹筋 図 1 プランクと筋活動レベル(下代と谷本4)より改変) フロントプランクでは腹筋群が大きく活動し背筋群は活動が小さい。バックプランクで はその逆の様子を示す。FB:フロントプランク(フロントブリッジ),SB:サイドプ ランク,BBN:バックプランク首接地,BBE:バックプランク肘接地,ES:脊柱起立 筋,TA-IO:腹横筋,RA:腹直筋,EO:外腹斜筋。

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的に大きな力を発揮するダイナミックな競技動作で,腹 圧が特に大きく高まるようである。 競技動作における動作関節としての体幹の重要性 四肢の土台の安定のための体幹の剛体化を狙ってプラ ンクを行うようだが,そもそも多くの競技動作において 体幹は剛体化させていない(図 3)。四肢と同じく動作 して大きな力学的仕事を生み出している。野球の投動作 や打撃動作など,四肢を振り回す競技動作では体幹の回 旋動作を大きな動作範囲で強いモーメント発揮を行って いる(Wicke ら6))。また,回旋だけでなく,屈曲・伸 展動作も多くの競技で強く大きく行われている。例え ば,垂直跳びでは下肢三関節だけでなく,体幹の屈曲・ の上の蓋の部分にあたる横隔膜が呼吸で動いているの で,呼吸しながら行うプランクでは,腹圧が大きく上が るとは考えにくい。 実際に腹圧を測定した研究(図 2:下代と谷本4)など) では,安静仰臥位での腹圧を 0%,バルサルバ手技での 腹圧を 100%とした相対評価値で,フロント,バックな どのいろいろな向きでのプランクでの腹圧は,いずれ も 10%(以降% Val. と表記)程度以下である。これは, 安静立位と同程度であり,ほぼ腹圧は上がらない。対し て野球の投球,打撃,サッカーのキック,ジャンプなど を全力で行った場合の腹圧は,瞬間的に 4-60% Val. と 大きく上昇する。筋力トレーニングではスクワットで大 きく上昇し,10RM 負荷で 45% Val. 程度である。瞬間 図 2 各運動と腹圧動態(下代と谷本4)より改変) プランク(ブリッジ)系の体幹トレーニングでは腹圧はほとんど上がらない。ダイナ ミックな競技動作では大きく増大する様子が観察される。 図 3 競技動作における体幹動作の模式図 打動作,投動作や跳躍動作など,多くの競技動作では体幹は大きな力で大きな関節運動 を起こす

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れる理由なのかしれない。 なお,通常の筋力トレーニング(以下 RT:レジスタ ンストレーニング)にもプランクの要素を含むものはあ る。腕立て伏せはフロントプランクの,ベントオーバー ローイングはバックプランクの動きを含んでいる。これ らの種目を体幹の安定性を意識しつつ行えば,本来の筋 肥大・筋力増強効果にプラスして,プランクによるパ フォーマンス向上効果も得られるかもしれない。わざわ ざプランクを行わなくてもよいと考えることもできる。 体幹のコントロール能力の改善効果は,プランクと通 常の RT で同様に得らえるとする報告がある(Jamison ら11))が,このあたりが関係しているのかもしれない。 なお,この話は長期のトレーニング効果に対してのこ とである。直後の一過性の効果を期待して行う場合は, スキル練習や試合のパフォーマンスの前などに行うのが 適切な実施タイミングとなるが,このタイミングに強い 筋疲労を起こす RT の実施は適さないだろう。 プランクは筋力トレ―ニングに適するか 体幹の固定・安定の練習が,プランクのもともとの主 目的と位置付けられるが,体幹筋群の RT として行われ ることも多い。しかしながら,プランクは RT として効 果の高い方法とはいいがたい。筋肉を大きく強くする RT は,負荷に対して重りや体を上げ下げするコンセン トリック動作,エキセントリック動作が重要な要素とな るからである(Schoenfeldra ら12))。アメリカスポーツ 医学会の position standard においてもコンセントリッ ク動作とエキセントリック動作を繰り返す RT 法を基準 として示している(ACSM13))。 負荷を上げるコンセントリック動作は,正の力学的仕 事をするためエネルギー消費が大きくなる。一定強度以 上の負荷・回数でのコンセントリック動作はエネルギー 代謝の過程で生じる乳酸を多量に発生する。浸透圧の関 係で,乳酸などの代謝物が筋内に蓄積するとそこに多く の水分を引き込んで水膨れ(muscle swelling)を起こ す(Loenneke ら14))。いわゆるパンプアップという現 象であるが,これは筋肥大を促す 1 つの有効な刺激とな る。また,負荷を下ろすエキセントリック動作は落下の エネルギーを筋肉が伸長するエキセントリック収縮で受 け止めている。力学的仕事量は負となるので,エネル ギー消費は小さく主観的強度は下がるが,筋肉に加わる 損傷刺激は大きい。そのためエキセントリック動作では 遅発性筋痛が強く生じ,炎症性マーカーの血中 CRP 濃 度が増大する(Jamurtas ら15))。この損傷刺激も筋肥大 を誘発する有効な刺激とされる。 伸展も大きく力学的仕事をしている。背中を丸めてしゃ がみ,背中を反らせて跳ぶ。Blache らのシミュレーショ ン研究(Blache と Montei7))では,腕の振りを除いた 力学的仕事量を計算すると,体幹伸展運動の仕事量は全 体の 20%程度にもなる。仮に体幹を 1 つの剛体とした 場合(仕事量 0)で計算すると総発揮エネルギーは 20% 低下する。これは跳躍高が 20%低下することを意味す る。 このように,多くの競技動作で体幹は四肢の土台とし て固めるというよりも,強く大きく動いて多くのエネル ギーを生み出す部位としての要素が大きい。四肢の運動 課題に対して体幹筋群が先行して筋活動を生じることは 確認されているが,ここから,体幹の作用として剛体化 を図ることだけが重要である,ということにはならない だろう。また,安定はすなわち剛体化というわけでもな い。前述のとおり,プランクで体幹の剛性を高められて いるとも言えないのだが,体幹を固定・安定させること が各種運動において重要とは必ずしも限らないといえ る。 プランクによるパフォーマンスの向上効果 プランクは Bracing の要素,腹圧の変化から,体幹 の固定に直接的には関係していないようである。また, そもそも多くの競技動作では体幹は大きく強く動いて力 学的仕事を行って動作に貢献している。以上から,プラ ンクが競技にプラスの作用を及ぼす要素が見出しにくい のだが,実際に競技パフォーマンスにプラスの結果を及 ぼすという報告は多くある。跳躍動作においては,プラ ンクの実施により,直後の一過性の効果(Imai ら8)), 長期のトレーニング効果(Butcher ら9))を認めたとす る報告がある。 多方向のプランクによる腹筋群,背筋群の筋活動の促 通が,競技パフォーマンスでの体幹筋群の活動の活性に つながったのかもしれない。また,プランクの実施が体 幹筋群の活動促通や体幹動作に対する「意識づけ」を誘 発し,それが動きに影響した可能性もある。なお,プラ ンクの実施が競技パフォーマンスに影響しないとするレ ビューもあり(Hibbs ら10)),一致した見解は得られて はいない。 体幹に対する意識づけにはプラセボ的な意味合いも含 まれているかもしれないが,そこにも意味はある。曖昧 な表現になるが,選手がプランクの実施によって,体幹 の軸を意識しやすくなり安定した動きをしやすいと感じ るのであれば,そして動きが実際に改善するなら,それ も 1 つの効果といえる。プランクが選手らに受け入れら

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は,「強い力で大きく動くことで大きなエネルギーを発 揮できること」が重要といえそうである。もちろんこれ 以外の様々な要素もあるが,運動機能として重要な一要 素といって差支えないだろう。 体幹筋群の RT 法 体幹筋群の RT は主に体幹の屈曲・伸展動作に負荷を かける方法であるが,一般的には自体重負荷で行われる 場合が多い。自体重にバーベルのプレート等を用いてさ らに荷重する方法もあるが,大きな荷重を加えることは 稀である。背骨周りは,神経根の出口のあるデリケート な部位であること,脊柱の屈曲具合により局所的な圧迫 力が増大することなどがその理由であろう。力学的負荷 が過大にならないように配慮する必要性が高い部位とい える。自体重負荷であっても,稼働範囲を存分に使う, 重力方向に対して負荷のモーメントアームが長くなる フォームの工夫,などを行えば十分に負荷強度を上げら れる。 腹筋群の RT 腹直筋は垂直軸方向に 4 段に分かれてい るが,体幹上部の胸椎あたりを屈曲する動きでは主に上 部が,体幹下部の腰椎あたりを屈曲する動きでは主に下 部の筋活動が高くなる(Sarti ら17))。腹直筋の解剖学的 な起始は恥骨,停止は第 5-7 肋軟骨と定義されるが,腹 直筋全体が筋膜で胴体部分とつながることで(連続的に 起始・停止が存在する),このような部位ごとの動作分 けになっていると考えられる。腹部の RT はこの特性に 合わせて行うと良いだろう。体幹上部を屈曲させるクラ ンチは腹直筋の上部,体幹下部を屈曲させながら股関節 屈曲を行うレッグレイズは腹直筋の下部が主に使われ る。ニーアップクランチで股関節屈曲と腰部屈曲の動き を合わせて行うと腹直筋全体を十分に動員させることが できるだろう(図 4 左)。また,シットアップも体幹屈 曲を脊柱全体で行える種目だが,動作の後半で重力負荷 重力負荷に耐えながら同一姿勢を維持するプランクで は,筋はアイソメトリック収縮をしている。筋肥大を誘 発する重要な要素となる正の仕事と負の仕事は,どちら もそれぞれ 0 である。 ドローインによる Early activity の学習効果 なお,ドローインという腹横筋などを使ってお腹を大 きくへこませるトレーニング手技も体幹トレーニングと してよく行われる。立位姿勢における腹横筋の筋活動の 低い腰痛患者にドローインの訓練を行うと,立位時によ る腹横筋の筋活動が高まることが報告されている(Tsao と Hodges16))。ドローインには,腹横筋の筋活動を促通 する教育効果があるいえる。腰痛患者においては,腹横 筋の活動により腹圧を上げる動作訓練として有効となる 可能性がある。 ただし,前述の通り,競技動作において腹圧が大きく 上がるわけであるから,競技練習そのものが腹横筋の 活動を含めた腹圧上昇の有効なトレーニングになって いるといえる。ドローイン時の腹圧は 13% val. とほと んど上がらず(谷本未発表データ),腹横筋の筋活動レ ベルは 15% MVC と低い。対してダイナミックな競技 動作では瞬間的に 110-140% MVC 程度に達する(下代 と谷本4)):前述未発表データと同じ被験者)。なお,こ こでの腹横筋の MVC は,バルサルバ手技における値を 100% MVC として評価している。 腹横筋の活動促通の目的が腹圧を高めるためだとする なら,競技動作が腹圧を上げる訓練となっているわけで あるから,競技選手においてはドローインを追加して行 う必要性は低いかもしれない。 競技に必要な体幹トレーニングとは 以上から,競技能力の向上に必要な体幹機能として 図 4 二―アップクランチとバックエクステンション ニーアップクランチは体幹上部の屈曲と同時に膝を引き付けることによる体幹下部の 屈曲を行うことで腹直筋全体の強い筋活動が期待できる。ハイパーバックエクステン ションでは股関節伸展ばかりでなく、体幹の伸展動作を強調して行うことで背筋群の高 いトレーニング効果が期待できる。

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プランクが行われることが多い。しかし,プランクでは 実際には体幹を剛体化させる Bracing も腹圧の上昇もし ていない。また,そもそも多くの競技動作では体幹は固 定させるよりも,大きく動作して力学的仕事を行ってお り,プランクの意義を見出しにくい。ただし,反証デー タもあるが,プランクの実施が競技パフォーマンスを向 上させるとする報告もある。そのメカニズムは明確では ないが,選手にとって効果を実感できるのであれば実施 することはプラスとなるかもしれない。プランクの意義 は不明確な部分があるが,体幹の機能から,強い筋力と 大きな可動性を有することは重要といえる。体幹屈曲 筋,伸展筋の RT と可動性獲得のための動作トレーニン グが有用となるだろう。 利益相反 本稿において利益相反はない。 文 献

1) Hodges PW, Richardson CA.: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther. 1997; 77: 132–142.

2) Hodges PW, Richardson CA.: Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord. 1998; 11: 46–56.

3) Stanton T, Kawchuk G.: The effect of abdominal stabilization contractions on posteroanterior spinal stiffness. Spine 2008; 33: 694–701,

4) 下代小平,谷本道哉:体幹トレーニングおよび各種運動 時の腹腔内圧の変化動態と体幹筋群の筋活動の関係 実 験力学.2018; 18: 184–191.

5) Okubo Y, Kaneoka K, et al.: Electromyographic analysis of transversus abdominis and lumbar multifidus using wire electrodes during lumbar stabilization exercises. J Orthop Sports Phys Ther 2010 Nov; 40: 743–750. 6) Wicke J, Keeley DW, et al.: Comparison of pitching

kinematics between youth and adult baseball pitchers: a meta-analytic approach. Sports Biomech. 2013; 12: 315–323.

7) Blache Y, Monteil K.: Influence of lumbar spine extension on vertical jump height during maximal squat jumping. J Sports Sci. 2014; 32: 642–651.

8) Imai A, Kaneoka K, et al.: Immediate effects of different trunk exercise rograms on jump performance. Int J Sports Phys Ther. 2016; 11: 197–201.

9) Butcher SJ, Craven BR, et al.: The effect of trunk stability training on vertical takeoff velocity. J Orthop Sports Phys Ther. 2007; 37: 223–231.

10) Hibbs AE, Thompson KG, et al.: Optimizing performance by improving core stability and core strength. Sports Med. 2008; 38: 995–1008.

による関節モーメントが大きく減じてしまう。傾斜を用 いたデクラインシットアップであれば,重力負荷と姿勢 の関係からこの問題は解決する。また,モーメントアー ムが多くの動作範囲で広がるため負荷強度も増大する。 自体重負荷であっても大きな傾斜をつければかなり強い 張力を筋に与えることができる。 背筋群の RT 背筋群の自体重負荷での RT としてよく 行われる種目として,ローマンチェアを用いたハイパー バックエクステンションがあげられる(図 4 右)。45°の 傾斜で行うものは,動作全般を通して一定の体幹伸展の 強いモーメントがかかる。動作範囲も大きなモーメント のかかる状態で大きくとることができる。背筋群の RT として推奨したい種目だが,実施に際しては股関節の屈 曲伸展動作と体幹の屈曲伸展動作の違いを区別して理解 したほうが良い。脊柱を固定した形で股関節の屈曲・伸 展で動作するハイパーバックエクステンションは,脊柱 起立筋はアイソメトリックに近い状態で,力学的仕事は 正負ともにあまりしていない。体幹の上げ下げは大殿 筋,ハムストリングによる股関節伸展トルクで主に行っ ていることになり,背筋群の RT にはあまりならない。 背筋群の RT とするなら体幹の屈曲伸展動作を強調して 行うべきである。パッドを骨盤に当てて股関節動作を制 限して体幹動作のみを行う方法も良いだろう。 体幹可動域拡大のトレーニング 体幹の可動域を拡大することは,競技動作での体幹の 動作範囲を広げて大きな仕事量の生成につながる。多 くの関節動作において可動域の制限は筋の伸長度によ るが,脊柱においては関節の内部構造による場合が多 い。関節内や周辺の構造は関節が不動の状態に長くある と可動性が低下する。関節内のコラーゲン線維などか らなる関節包や靭帯は不動によって線維同士が強力に 結合することなどから起こるとされる(Zachazewski, Zachazewski JE “Improving flexibility” in Physical Therapy JB Lipincott 1989)。脊柱もこうしたメカニズ ムで,可動域が徐々に制限されていくものと予想され る。 実際に臨床では不動が原因とみられる脊柱の可動性が 低い患者がよくいると聞く。体幹をしっかりと動かせる 健全なコンディションを保つために,脊柱をよく動かし て関節構造の可動性が低下しないよう予防する取り組み が重要となるだろう。 まとめ 体幹トレーニングとして,体幹の剛体化を目的とした

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swelling effects of blood flow restriction. Acta Physiol Hung. 2012; 99: 400–410.

15) Jamurtas AZ1, Theocharis V, et al.: Comparison between leg and arm eccentric exercises of the same relative intensity on indices of muscle damage. Eur J Appl Physiol. 2005; 95: 179–185.

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controlled trial of the effects of a trunk stabilization program on trunk control and knee loading. Med Sci Sports Exerc. 2012; 44: 1924–1934.

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