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◎ 腸管出血性大腸菌 (EHEC/VTEC)による感染症の発生動向について

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Academic year: 2021

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堺市における腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染症の発生動向

-平成

27(2015)年度-

下迫純子、杉本光伸、福田弘美、岩崎直昭、木村友美、横田正春、小林和夫 要旨 堺市内における平成27 年度の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の発生状況は、13 事 例、感染者20 名であった。12 名が下痢、腹痛等を呈し 8 名は無症状病原体保有者であっ た。溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した者は 1 名で、原因菌の血清型は O157:H7 で あった。血清型については、O157 が 11 事例(18 名)、O26 が 1 事例(1 名)、O121 が1 事例(1 名)であった。

O157 による 11 事例のうち複数名の感染者が判明した 5 事例では、毒素型、薬剤感受性 パターンおよびIS 法、PFGE 法、MLVA 法による DNA 解析の結果、事例内の原因菌の 類似度は高かった。

今回の事例中で5 事例(9 名)の感染者には、発症前に焼肉等の喫食歴が見られたもの の原因食品の特定には至らなかった。

キーワード:EHEC、O157、IS 法、PFGE 法、MLVA 法、薬剤感受性

1.はじめに 平成 27 年度における堺市内での腸管出 血性大腸菌(以下EHEC)感染症の発生動 向を知る目的で、市内の各医療機関におい て分離された菌株及び行政検査として当 衛生研究所に搬入・分離された EHEC に ついて疫学的、細菌学的特徴を検討した。 2.材料と方法 1) 堺市内の医療機関にて患者検便から分 離されたEHEC 株 それぞれの医療機関より分与していた だき、当所において志賀毒素(Stx)産生 性、パルスフィ-ルド・ゲル電気泳動 (PFGE ) 法 お よ び Fingerprinting Ⅱ (BIO-RAD)による解析、薬剤感受性試 験を実施した。さらに O157 については IS-printing System(以下 IS)法による遺 伝子解析も行った。また、O157、O26、 O111 は国立感染症研究所(感染研)にお いてmultilocus variable-number tandem

repeat analysis(以下 MLVA)法による分 子疫学解析が行われた。 2) 検便 先の医療機関にて EHEC が分離された 患者の家族あるいはその接触者らについ て搬入された便の細菌学的検査を実施し た。 3) 分離方法 搬入された便検体のうち、EHEC O157 (以下O157)、EHEC O26(以下 O26) およびEHEC O111(以下 O111)につい て は CT-SMAC 寒 天 平 板 ( O157 ) 、 CT-RMAC 寒 天 平 板 ( O26 ) お よ び CT-SBMAC 寒天平板(O111)による直接 培養およびmEC ブイヨンによる増菌培養 後、免疫磁気ビーズ O157、O26 および O111(Dynabeads)による集菌を行った。 続いて、それらを上記寒天平板にて培養を 行った。疑わしいコロニー5~10 株を CLIG 培地(O157)/TSI 培地(O26、O111) および LIM 培地、シモンズのクエン酸培

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地に釣菌した。これら菌株の生化学的性状 およびCLIG 培地上に発育した菌への紫外 線(365nm)照射による蛍光の有無等から、 O157、O26 あるいは O111 を疑う菌株に ついては血清型を確認した。また、O157、 O26 および O111 以外の EHEC について は、CT-SMAC 寒天平板および DHL 寒天 平板による直接培養、また、トリプトソイ ブ ロ ス に よ る 増 菌 培 養 後 、 そ れ ら を CT-SMAC 寒天平板および DHL 寒天平板 にて培養を行った。疑わしいコロニー5~ 10 株を TSI 培地、LIM 培地およびシモン ズのクエン酸培地に釣菌した。これらの生 化学的性状から、疑わしい菌株について血 清型を確認した。 4) 志賀毒素(stx)遺伝子検査および志賀 毒素(Stx)産生性の検査 stx 遺伝子検査については、One Shot PCR Typing Kit(タカラ)にて行った。 Stx 産生性は、CAYE 培地にて振盪培養後、 ポリミキシン処理し、その培養上清につい て大腸菌ベロトキシン検出キット:デュオ パス・ベロトキシン(メルク)にて検査を 行った。stx遺伝子の保有と Stx 産生性を 確認し、EHEC と同定した。 5) 菌株の薬剤感受性 各菌株はKirby-Bauer 法(センシ・ディ スク)によりアンピシリン(ABPC)、セ フォタキシム(CTX)、カナマイシン(KM)、 ゲンタマイシン(GM)、ストレプトマイ シン(SM)、テトラサイクリン(TC)、 シプロフロキサシン(CIP)、ナリジクス 酸(NA)、ホスホマイシン(FOM)、ノ ルフロキサシン(NFLX)、ST 合剤(ST)、 クロラムフェニコ-ル(CP)の 12 薬剤に 対する感受性試験を実施した。 6) IS 法による遺伝子解析 O157 の 菌 株 に つ い て IS-printing System(東洋紡)の仕様書方法に準じて検 査を実施した。2 種類(1st set / 2nd set) のプライマーセットで検出される各々18 本の増幅バンドと同じサイズの増幅バン ドの有無を判定し、有り-1、無し-0 で数 値化、近畿 IS データベースを利用し、菌 株情報を入力登録して IS コードに変換し た。 7) PFGE 法による DNA 解析 分 離 菌 株 に つ い て 「PFGE New Protocol-Kinki」の方法1)によりPFGE を 行った。泳動像については、Fingerprinting Ⅱ(BIO-RAD)にて類似度の解析を行っ た。 3.結果 平成27 年度の EHEC による感染症発生 状況を表1 に示した。13 事例の発生がみら れ、有症者 12 名、無症状病原体保有者 8 名、合計 20 名であった。血清型別では、 O157 が 11 事例(18 名)、O26 が 1 事例 (1 名)、O121 が 1 事例(1 名)であった。 感染症発生を月別に見ると、6 月 2 事例 /2 名、7 月 2 事例/3 名、8 月 1 事例 /1 名、9 月 4 事例/6 名、10 月 2 事例 /3 名、12 月 1 事例/1 名、28 年 1 月 1 事例/4 名であった。O157 の 18 菌株の Stx 型は、事例 12 の 1 菌株が Stx2、他 17 菌株はStx1&2 であった。さらに、事例 1、 7、9 の 5 菌株は ABPC、SM、TC に薬剤 耐性を示し、事例4 の 1 菌株は SM に薬剤 耐性を示した。 EHEC O157 の近畿 IS コードと感染研 によるMLVA 法の解析結果を表 2、PFGE 像のFingerprintingⅡによる解析結果を図 1 に示す。同一事例菌株は同一の IS コード であった。さらに MLVA 法の解析結果も 同一の type または complex であった。 PFGE 法の解析結果についても 100%の類 似度を示した。事例間では、事例3、7、10 はIS コードが同一であり、そのうち事例 3 と事例10 は PFGE 法の解析で 100%の類

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43 似度を示し、事例7 とは 92.31%と高い類 似度を示した。事例4、13 は IS コードが 同一でPFGE 法の解析では 94.74%と高い 類似度を示した。 表1 EHEC による感染症発生状況 (平成 27 年度) 事例 No. 届出年月発生届 菌株 No. 年齢 性別 臨床症状 血清型 Stx型 薬剤耐性 備考

1 2015.06 1 75 M 水様性下痢、血便、腹痛 O157:H7 1&2 ABPC、SM、TC 2 2015.06 2 36 M 水様性下痢、血便、腹痛 O121:H19 2 ABPC、KM、SM、TC

2015.07 3 65 M 水様性下痢、血便、腹痛 O157:H7 1&2 (all感受性)

2015.07 4 67 F 無症状 O157:H7 1&2 (all感受性) No.3の妻 4 2015.07 5 21 M 水様性下痢、腹痛 O157:HNM 1&2 SM

5 2015.08 6 49 M 水様性下痢、血便、腹痛 O157:HNM 1&2 (all感受性)

6 2015.09 7 49 F 無症状 O26:H11 1 ABPC、SM、TC 他府県在住の家族(2名感染者) と焼肉店でホルモン等を喫食 2015.09 8 3 M 水様性下痢、血便、腹痛、発熱 O157:H7 1&2 ABPC、SM、TC 焼肉を喫食

2015.09 9 37 M 水様性下痢、血便、腹痛 O157:H7 1&2 ABPC、SM、TC 焼肉を喫食、No.8の父 8 2015.09 10 83 F HUS、水様性下痢、血便、腹痛、嘔吐、

痙攣、昏睡、発熱、急性腎不全 O157:H7 1&2 (all感受性) 焼肉店で喫食 2015.09 11 3 F 水様性下痢、血便、嘔吐、発熱 O157:H7 1&2 ABPC、SM、TC

2015.09 12 49 M 無症状 O157:H7 1&2 ABPC、SM、TC No.11の父 10 2015.10 13 36 F 水様性下痢、血便、腹痛 O157:H7 1&2 (all感受性) 炙りレバー等外食

2015.10 14 2 F 水様性下痢 O157:H7 1&2 (all感受性)

2015.10 15 7 F 無症状 O157:H7 1&2 (all感受性) No.14の姉 12 2015.12 16 27 F 無症状 O157:H7 2 (all感受性) 定期健診にて検出

2016.01 17 2 M 水様性下痢、血便、腹痛、嘔吐 O157:H7 1&2 (all感受性) 牛レアステーキ丼、焼肉を外食 2016.01 18 40 F 無症状 O157:H7 1&2 (all感受性) 牛レアステーキ丼、焼肉を外食、No.17の母 2016.01 19 5 M 無症状 O157:H7 1&2 (all感受性) 牛レアステーキ丼、焼肉を外食、No.17の兄 2016.01 20 8 F 無症状 O157:H7 1&2 (all感受性) 牛レアステーキ丼、焼肉を外食、No.17の姉 3 7 9 11 13 近畿ISデータベース

ISコード MLVA type MLVA comp 1 1 O157:H7 1&2 216959-117103 15m0046 15c014 3 O157:H7 1&2 249711-116975 13m0073 15c011 4 O157:H7 1&2 249711-116975 13m0694 15c011 4 5 O157:HNM 1&2 84591-215275 15m0324 5 6 O157:HNM 1&2 215085-213103 15m0323 8 O157:H7 1&2 249711-116975 15m0328 9 O157:H7 1&2 249711-116975 15m0328 8 10 O157:H7 1&2 216959-18923 15m0294 11 O157:H7 1&2 216941-116975 15m0329 12 O157:H7 1&2 216941-116975 15m0329 10 13 O157:H7 1&2 249711-116975 15m0101 14 O157:H7 1&2 137231-197711 15m0471 15 O157:H7 1&2 137231-197711 15m0471 12 16 O157:H7 2 49711-199758 15m0472 17 O157:H7 1&2 84591-215275 16m0008 18 O157:H7 1&2 84591-215275 16m0008 19 O157:H7 1&2 84591-215275 16m0008 20 O157:H7 1&2 84591-215275 16m0008 菌株 No. 血清型 Stx型 感染研MLVA 3 7 9 11 13 事例 No.

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4.考察

今年度の EHEC 感染症で複数名の感染 者が判明した事例では、それぞれにIS 法、 PFGE 法および MLVA 法による DNA 解 析、薬剤感受性試験および毒素型別等の結 果、同一事例内での分離菌株の類似度は高 く、各事例内の感染源は同一であると考え られた。近畿IS データベース平成 27 年分 離株で見ると、事例3、7、10 と同一の近 畿IS コードは 41 菌株で、一番多く登録さ れている。事例4、13 については 3 番目に 多く、18 菌株登録されている。事例 1 につ いては13 菌株で 5 番目に多く、4~6 月に かけて登録されている2)。事例10 は、炙り レバー等の喫食歴があり、近畿では9~10 月にかけて同様の喫食歴をもつ事例が発 生したが、原因食品の特定には至らなかっ た3)。事例3 の MLVA complex 15c011 株 は、20 府県 27 地衛研から 12 型 127 株が 検出されており、近畿では 6~9 月にわた り検出されている。この15c011 株は 8 月 に九州ブロックを中心にしたピークがみ られたが、共通の感染源の解明には至って いないことが報告されている 4)。また、事 例2 の O121:H19(VT2)は、感染研の PFGE 解析により 5 都道府県から 5~6 月 に分離された6 菌株のパターンが一致して いることが報告されている5) 厚生労働省により、平成 23 年には生食 用食肉の規格基準の制定、平成24 年 7 月 1 日より生食用としての牛レバーの販売が 禁止され、同年10月には、漬物によるO157 図1 平成 27 年度 EHEC O157 分離株の PFGE 像の Fingerprinting Ⅱによる解析結果 92.31% 91.39% 95.24% 86.27% 94.74% 87.18% 81.19% 79.64% 71.03% 菌株No. 事例10 13 事例 3 3 4 事例 7 8 9 事例 9 11 12 事例 8 10 事例 1 1 事例11 14 15 事例12 16 事例13 17 18 19 20 事例 4 5 事例 5 6

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45 の集団発生を受け、漬物の衛生規範が改正 された。平成27 年は全国の EHEC 感染者 の総報告数が平成8 年以降で最少であった が、飲食店等を原因施設とする食中毒事例 は依然として多く発生していることが報 告されている6) 今年度のいずれの事例においても、保健 所による発症前の喫食歴等を含む聞き取 り調査が実施され、5 事例 9 名の感染者は 発症前に焼肉等の喫食歴が見られ、これら の食品との関連が疑われる事例もあった が、食品等の残品がなく、原因食品の特定 には至らなかった。 5.結語 1) 今年度の EHEC 感染症は、O157 が 11 事例(18 名)、O26 が 1 事例(1 名)、 O121 が 1 事例(1 名)であった。 2) O157 による 11 事例のうち、複数名の感 染者が判明した5 つの事例では、それぞれ にIS 法、PFGE 法および MLVA 法による DNA 解析、薬剤感受性試験および毒素型 別等の解析結果、事例内での分離菌株の類 似度は高く、同一性の高いものであった。 3) 13 事例中 5 事例 9 名の感染者は、発症 前に焼肉等の喫食歴が見られたが、原因食 品の特定には至らなかった。 謝辞 今回、菌株の性状を検査するに当たり、 これらの菌株を分与していただいた堺市 内各医療機関の関係各位並びに菌株の入 手、その搬送に携わって頂いた感染症対策 課の方々、またDNA 型別解析結果を還元 して頂いた国立感染症研究所細菌第一部 の皆様に深謝いたします。 なお、本報告は一部「厚生労働省科学研 究費補助金新興・再興感染症及び予防接種 政策推進研究事業」の支援を受けて実施し たものであることを付記します。 [参考文献] 1) 勢戸和子、他:厚生労働科学研究費補助 金(新興・再興感染症研究事業)平成15 年度 分担研究報告書-近畿ブロックにおけるパル スフィールドゲル電気泳動(PFGE)型別法の 施設間変動について.感染研新プロトコール の試用.食品由来感染症の細菌学的疫学的 指標のデータベース化に関する研究.平成 15 年 度 総 括 ・ 分 担 研 究 報 告 書 . 2004 : 95-104. 2) 勢戸和子、他:厚生労働科学研究費補助 金(新興・再興感染症及び予防接種政策推 進研究事業)平成27 年度分担研究報告書- 近畿ブロックにおける食品由来感染症の病原 体情報の解析および共有化システムの構築 に関する研究.平成 27 年度総括・研究分担 報告書.2016:58-68 3) 勢戸和子、他:厚生労働科学研究費補助 金(新興・再興感染症及び予防接種政策推 進研究事業)平成27 年度分担研究報告書- 飲食チェーン店で発生した腸管出血性大腸 菌 O157 食中毒疑い事例.平成 27 年度総 括・研究分担報告書.2016:69-72 4) 泉谷秀昌、他:腸管出血性大腸菌感染症 <特集関連情報>2015 年に分離された腸 管出血性大腸菌O157,O26 および O111 株 のMLVA 法による解析.病原微生物検出情 報.Vol.37 No.5 (2016.5):93-95 5) 石原朋子、他:腸管出血性大腸菌感染症 <特集関連情報>PFGE による O157, O26,O111 以外の腸管出血性大腸菌におけ る広域感染事例の解析.病原微生物検出情 報.Vol.37 No.5(2016.5):95-97 6) < 特集> 腸管出血性大腸菌感染症 2016 年 4 月現在.病原微生物検出情報. Vol.37 No.5 (2016.5):85-86

表 2  平成 27 年度 EHEC O157 分離株の近畿 IS コードと感染研 MLVA type/complex

参照

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