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報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

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Academic year: 2021

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学位論文の内容の要旨

論 文 提 出 者 氏 名 伊井野 潤子

論 文 審 査 担 当 者 主査 窪田哲朗

副査 戸塚実,小山高敏

論 文 題 目

Platelet-derived sphingosine 1-phosphate induces migration of Jurkat T cells (血小板由来スフィンゴシン 1-リン酸は Jurkat T cell の遊走を促進する) (論文内容の要旨) <結言> リゾリン脂質はさまざまな生理学的作用および病態生理学的作用に関与する脂質メディエータ ーである. 生体内にはスフィンゴシン 1-リン酸 (S1P),リゾホスファチジン酸 (LPA),リゾホス ファチジルセリン (LPS),リゾホスファチジルイノシトール (LPI),リゾホスファチジルエタノ ールアミン (LPE)などさまざまなリゾリン脂質が存在しているが,特に S1P および LPA について はこの 10 年で研究が進み,個体レベルで重要な役割を持つことがわかってきた.すなわち,生体 膜に派生し、種々の刺激に応じて産生、放出されるリゾリン脂質は強力な生理活性作用を有し, リンパ球や血管内皮細胞をはじめ様々な細胞種の受容体を介して,細胞増殖,細胞運動,細胞分 化など多彩な作用を及ぼすことがわかっている.なかでも S1P はリンパ球,特に T リンパ球にお いて遊走を促進することが明らかになっており,最近では S1P シグナル伝達経路が多発性硬化症 の治療のターゲットとなった.スフィンゴシンアナログ Fingolimod (FTY720)が,多発性硬化 症の治療薬として日本でも 2011 年に認可されている.FTY720 はスフィンゴシンキナーゼ 2 によ って FTY720–リン酸となり S1P1 受容体を downregulation することで末梢血の循環リンパ球数を 減少させる.このように S1P は治療薬としても応用され,受容体特異的作動薬,および代謝関連 酵素の阻害剤の新しい臨床応用が期待されている. 循環血中の S1P の由来は,おもに赤血球,血小板,血管内皮細胞であると考えられているが, 赤血球は定常状態での血漿 S1P 濃度を規定するのに対し,血小板は活性化に伴って S1P を細胞外 に放出すると考えられている.血小板は S1P を生成するスフィンゴシンキナーゼ活性が高い一方、 S1P を分解する S1P リアーゼ(開裂酵素)活性を欠き,S1P を豊富に含有することが示されており (リン脂質で補正後),このことは動脈硬化のような活性化血小板が大きく関与する病態に S1P が非常に重要な役割を果たす可能性を示唆している.動脈硬化は慢性的な炎症と血栓の疾患であ り,血小板はアテローム形成に重要な役割を担っているが,最近ではこの過程に T 細胞の関与も 示された.動脈硬化病変には早期から T 細胞が存在し病変の進展に伴って数が増加すること,病 変の T 細胞のほとんどは CD4 陽性 T 細胞であり,そのサブセットにも特徴があることなどがあげ られる.さらにその重要性は,動物モデルにおいて CD4 陽性 T 細胞の移行が病変を悪化させるこ と,また apoE 欠損マウスで CD4 陽性 T 細胞の欠如により,動脈硬化病変が小さくなることという

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- 2 - 報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し,ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用い て血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした.動脈硬化などの病態を想定し,血小 板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与について, 他のリゾリン脂 質と比較しながら検討を行った. <対象と方法> Jurkat 細胞株:10%ウシ胎児血清,1%抗生剤加 RPMI 1640 を用いて培養した. 血小板刺激上清の作成:同意が得られた健常成人よりクエン酸採血し,血小板を分離した.血小 板を洗浄後 5.0×108 個/mL に調整しコラーゲン 20 μg/mL で 15 分間刺激後,10000 rpm 1 分遠 心して上清を得た. S1P および関連脂質の測定:S1P を抽出後,オルトフタルアルデヒド(OPA)プレカラム誘導体化 HPLC 法により S1P 濃度を測定した.リン脂質,LPA,LPC 濃度は Hitachi 7600 を用いて酵素法に より測定した.

受容体発現の確認:RNA を抽出し,RT-PCR 法にて S1P および LPA 受容体を確認した.また,flow cytometry 法にて S1P1 受容体の発現を確認した.

modified Boyden’s chamber 法:8 μm ポアサイズの Transwell cell culture chamber を用いて, 遊走作用を評価した.上層には 1×107 /mL の Jurkat 細胞 100 μL,下層に agonist (S1P,LPA, LPI,LPS,血小板刺激上清,血清) 600 μL を加えた.4 時間後,下層の Jurkat 細胞を回収し flow cytometry で細胞数をカウントした.

<結果>

血小板刺激上清中の S1P および関連脂質の濃度:コラーゲンによる血小板刺激上清中の S1P 濃度 は 0.36 ± 0.11 μM であった.代謝関連脂質であるリン脂質,LPA,LPC 濃度は,それぞれ 11.07 ±1.96 μM,0.45 ± 0.21 μM,4.0± 1.41 μM であった.

Jurkat 細胞上の S1P 受容体および LPA 受容体の発現:mRNA レベルで S1P1 から S1P4, LPA1 から LPA4 の発現が認められ, S1P5 はほとんど検出されなかった. タンパクレベルで S1P1 の発現も確 認した. S1P および活性化血小板による Jurkat 細胞の遊走作用と阻害実験: 1) S1P および関連脂質による細胞遊走 S1P 濃度 10 nM から 100 nM で最も遊走が認められた.100 nM による遊走は百日咳毒素で阻害され, また VPC23019 により 20 μM で約 25%,50 μM で約 75%と濃度依存的に阻害された.S1P 以外の関 連脂質(LPA・LPI・LPS)100 nM では遊走は認められなかった. 2) コラーゲン刺激血小板上清による細胞遊走 血小板刺激上清の 10 倍希釈濃度で最も遊走が認められ,この遊走は上清を煮沸しても観察され た.さらにこの遊走は百日咳毒素で阻害され,VPC23019 により 50%程度阻害された. 血清による Jurkat 細胞の遊走作用と阻害実験:血清 10 倍希釈濃度,血清 100 倍希釈濃度,S1P 100 nM の順で遊走が認められ,血清 100 倍希釈濃度,S1P 100 nM による遊走は VPC23019 により有意

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に抑制された.血清 10 倍希釈濃度では遊走は阻害されなかった. <考案> 今回は S1P の種々の作用の中でも特に細胞遊走機能に着目し,活性化血小板上清中の S1P が T リンパ球(Jurkat cell)に及ぼす作用を確認した. 血小板刺激上清中には,細胞遊走作用が報告されている脂質メディエーターS1P,LPA が存在し ていた.既報では,108 個の未刺激血小板中に S1P が 141±4 pmol 含有するとされており,今回 の結果から血小板中に蓄えられた S1P の約 51%が細胞外に放出されるといえる.これはコラーゲ ンが強力な血小板アゴニストであることを考えると妥当なものである.さらに過去の報告から血 清 S1P 濃度と血漿 S1P 濃度の差が活性化血小板によるものであると考えると,今回の結果(血小 板刺激上清中の S1P 濃度)はそれと一致している.動脈硬化など血管内局所で炎症が起こる病的 な状態では,血小板が炎症部位に集積して活性化することが予想されるが,病態形成に関与する リンパ球および種々の細胞(血管内皮細胞・マクロファージ・血管平滑筋細胞)は,このような 遊走を引き起こす S1P 濃度にさらされることが想定される.

S1P,LPA は主に細胞表面の受容体を介して作用するが,Jurkat 細胞上には mRNA レベルで受容 体が発現していた.S1P1 はタンパクレベルでの発現も認めた.しかし Jurkat 細胞は LPA ではな く S1P で細胞遊走を認めた(100 nM).この遊走は,Gi を阻害する百日咳毒素, S1P1 および S1P3 の antagonist である VPC23019 で抑制され,S1P が主に S1P1,Gi を介した経路で細胞遊走を引き 起こすという過去の報告と合致した.一方,血小板刺激上清でも遊走が起こり,この遊走は上清 を煮沸しても観察されたことからタンパク質ではなく脂質の関与が示唆された.さらに血小板刺 激上清中の S1P 濃度を換算すると,S1P による遊走濃度と一致し,百日咳毒素, VPC23019 で抑制 された.これまで Jurkat 細胞上には mRNA レベルで S1P1 から S1P4,ヒト T リンパ球では主に S1P1 と S1P4 の発現が報告されている.今回の実験からは他の受容体の関与も完全に否定できないが, VPC23019 による実験から S1P1 および S1P3 の関与が考えられ,おそらくヒト T リンパ球において は S1P1 が大きな割合で血小板刺激上清による遊走に関与していると考えられる.以上の結果,血 小板由来 (および血清由来の) S1P が主に S1P1 を介して Jurkat 細胞 (T リンパ球) の遊走を引 き起こす可能性が示された.血清における遊走も VPC23019 により抑制されたが,含有する S1P 相当量に対する遊走と阻害の程度を考察すると,S1P 以外にも多くのタンパク質や脂質が関与す る可能性を示唆しており今後の検討課題である. 今回の結果は,T リンパ球の遊走を引き起こす血小板由来 S1P が,動脈硬化のような局所的に 血小板が集積する病態において,促進的に関与することを示唆している. Jurkat 細胞が最も遊 走を引き起こした S1P 濃度とコラーゲンによる血小板刺激上清中の S1P 濃度が一致したことは, それをさらに裏付けるものである.また動脈硬化以外でも,血小板とリンパ球の細胞連関につい ては種々の報告があり,これらの病態形成にも S1P が関与している可能性は十分に考えられさら なる検討が必要である. これまで S1P による T リンパ球の遊走作用は,多発性硬化症の治療薬である免疫抑制剤 FTY720 の出現により注目されてきた.しかし,循環中におけるリンパ球の重要な調節系というだけでな く,局所での S1P 濃度の増加による T リンパ球の遊走が病態形成に関与する可能性は新しい知見

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- 4 - といえる.今後,受容体や代謝関連酵素を標的とした研究により,血小板とリンパ球が連関する ような疾患に対する新しい治療,創薬の開発が期待される. <結論> 今回の知見により,血小板由来 S1P が S1P 受容体 S1P1 を介して T cell の遊走を引き起こすこ とが示唆された.動脈硬化のような血小板と T リンパ球の細胞間クロストークが起こる病態形成 に,S1P は重要な分子として介在する可能性がある.

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論文審査の要旨および担当者

報 告 番 号 甲 第 4826 号 伊井野 潤子

論文審査担当者 主 査 窪田哲朗

副 査 戸塚実, 小山高敏

(論文審査の要旨)

学位審査論文 “Platelet-derived sphingosine 1-phosphate induces migration of Jurkat T cells. (Lipids in Health and Disease 2014 年第 13 巻に掲載)”について審査した。

生体内にはスフィンゴシン 1-リン酸 (S1P),リゾホスファチジン酸などのリゾリン脂質が存在 し,リンパ球や血管内皮細胞をはじめ様々な細胞種の受容体を介して,細胞の増殖,運動,分化 などの多彩な作用を及ぼすことがわかってきた。循環血中の S1P は,おもに赤血球,血小板,血 管内皮細胞に由来するが,赤血球は定常状態での血漿 S1P 濃度を規定するのに対し,血小板は活 性化に伴って S1P を細胞外に局所的に放出すると考えられている。動脈硬化は慢性的な炎症と血 栓による病態であり,血小板はアテローム形成に重要な役割を担っているが,最近ではこの病態 形成に CD4 陽性 T 細胞も関与することが示唆されている。そこで本研究は,ヒト T 細胞株 Jurkat 細胞を用いて,その遊走における血小板由来 S1P の効果を明らかにすることを目的として行われ た。 まず,Jurkat 細胞には S1P の受容体 S1P1 が発現していることが,mRNA レベルおよび蛋白レベ ルで確認できた。Boyden chamber 法によって Jurkat 細胞の遊走を評価したところ,10 nM から 100 nM の S1P の添加によって遊走亢進が認められ,それは S1P1 に会合する Gi 蛋白を阻害する百 日咳毒素,および S1P1 アンタゴニスト VPC23019 により阻害された。血小板をコラーゲンで刺激 した上清によっても Jurkat 細胞の遊走が認められた。活性化血小板上清による遊走効果は,上清 を煮沸しても観察されたことから,蛋白質ではなく脂質によるものと考えられ,さらに百日咳毒 素および VPC23019 により阻害される傾向を認めたことから,S1P による効果である可能性が強く 示唆された。 以上の結果は,動脈硬化の病態形成に血小板と T 細胞のクロストークが関わっていることを裏 付けた点で独創的であり,しかも,将来のさらなる病態解明と治療法の開発に結びつく重要な情 報を提供している点で価値が高いと考えられた。

参照

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