修士学位論文
MPPC を用いた次世代 PET 装置の基礎研究
平成 21 年度
信州大学大学院工学系研究科
物質基礎科学専攻
高エネルギー研究室
山﨑 真
概要
PET(Positron Emission Tomography)、陽電子断層画像装置はがん診断に有 用なツールとなっている。早期発見によりがんは完治する病になってきている が、それには画像診断法の進歩が大きな寄与をしている。患者のQOL(Quality Of Life)向上のために短時間でなおかつ高精度な検査が必要となり、そのための 機器開発が盛んに行われている。 その中でもPET 装置は人間の生理現象を用いており、がんの特性をうまく利 用し確実に病巣を発見できる。本研究ではPET 装置の高位置分解能をいかに達 成するかを示し、次世代PET の開発へつなげる第一歩とする。 高位置分解能を得るために、本研究では光検出器としてMPPC(Multi Pixel
Photon Counter)を用いた。MPPC はその微小なサイズから、かねてからの PET
装置の問題である、縁辺での視差を減尐させるDOI(Depth Of Interaction)のア
イデアに最適と言える素子である。そして、5T もの高磁場中でも安定動作する ので、MRI(Magnetic Resonance Imager)、核磁気共鳴断層画像診断装置との組 み合わせも可能であり、放射線を使用する画像診断の中でも、人体被爆を最小 限に抑えることもできると考えている。現在の画像診断ではより鮮明な画像を 取得することを目的にCT(Computer Tomography)と PET を組み合わせた PET-CT 装置が主流になりつつあるが、CT は X 線を使用するため最低限の人体
被爆が問題である。それをさらに減尐させるために、MRI と PET の組み合わせ
で画像診断装置を製作し、臨床に用いればさらに被爆を抑制することが可能に なる。また、シンチレータとして無機シンチレータLFS(Lutetium Fine Silicate) を用いた。LFS のシンチレーション光の減衰時間は 35ns と非常に短く、 TOF(Time Of Flight)の手法にも応用できる可能性がある。 PET の仕組みは、体内に注入された放射性同位体からの陽電子による対消滅 γ線を対向させた二つの検出器で同時計数することにより、そのγ線の発光位 置を捕える。本研究では、1×1mm2の受光面を持つ浜松ホトニクス社製MPPC に3×3×15mm3のサイズを持ったZecotek 社製 LFS を直接接着した検出器を 二個製作し、それを対向させ、中心に22Na の陽電子放出核を配置して実験を行 った。それによると、エネルギー分解能はσ/E=10%、位置分解能は σ=1.4mm を 達成した。この結果から MPPC と LFS を用いて、DOI と TOF を考慮した次世代 PET を開発することは十分可能であると考えられる。
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目次
第1章 PET(Positron Emission Tomography)装置について
1-1.原理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-2.診断項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-2-1.脳血管 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-2-2.心臓 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-2-3.癲癇 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-3.使用薬剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-4.これまでの PET 装置 ・・・・・・・・・・・・・・ 1-4-1.PET 装置について ・・・・・・・・・・・・ 1-4-2.光検出器 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 1-4-3.シンチレータ ・・・・・・・・・・・・・・ 1-5.DOI(Depth Of Interaction)-PET ・・・・・・・・・ 1-6.TOF(Time Of Flight)-PET ・・・・・・・・・・・ 第2章 新型光検出器 MPPC(Multi Pixel Photon Counter)
2-1.MPPC の動作原理 ・・・・・・・・・・・・・・・ 2-2.諸特性 2-2-1.Gain ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2-2-2.Noise rate ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2-2-3.Cross talk ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2-2-4.検出効率 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 第3章 無機シンチレータについて 3-1.発光機構 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3-2.PET 用シンチレータ ・・・・・・・・・・・・・・ 3-3.新型無機シンチレータ LFS(Lutetium Fine Silicate)・・・ 第4章 新型 PET 装置開発のための基礎実験 4-1.研究内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4-2.MPPC の測定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4-2-1.Gain について ・・・・・・・・・・・・・・ 4-2-2.Noise rate について ・・・・・・・・・・・・ 4-2-3.Cross talk について ・・・・・・・・・・・・ 4-3.実験のセットアップ ・・・・・・・・・・・・・・ 4-4.システムの妥当性 ・・・・・・・・・・・・・・・ 4-5.エネルギー分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・ 4-6.位置分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 6 6 6 6 6 8 9 9 10 12 13 15 16 16 16 17 18 18 20 23 23 23 25 26 26 29 30 31
2 4-7.角度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 4-8.位置分解能の角度依存性 ・・・・・・・・・・・・ 第5章 結果のまとめ 5-1.エネルギー分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・ 5-2.位置分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5-3.角度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5-4.位置分解能の角度依存性 ・・・・・・・・・・・・ 第6章 考察 6-1.エネルギー分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6-2.位置分解能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-3.角度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6-4.位置分解能の角度依存性 ・・・・・・・・・・・・ 総括・今後の課題 参考文献 謝辞 付録 34 37 37 37 37 38 41 43 46
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図・表目次
図 1 ブドウ糖と FDG ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 表 1 PET 用薬剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 図 2 PET 装置の概要図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 図 3 有機シンチレータの発光機構 ・・・・・・・・・・・・ 8 図 4 Non-DOI と DOI の比較 ・・・・・・・・・・・・・・11 図 5 TOF-PET ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 図 6 1×1mm2 MPPC と受光面拡大写真 ・・・・・・・・・・ 13 図 7 無機シンチレータの発光機構 ・・・・・・・・・・・ 16 表 2 PET 用無機シンチレータの特性 ・・・・・・・・・・ 17 図 8 無機シンチレータ LFS ・・・・・・・・・・・・・・・ 図 9 LFS の発光スペクトルの強度温度依存 ・・・・・・・・・・ 図 10 波長 415nm と 290nmLFS の発光スペクトル温度依存性・・ 図 11 LFS と BGO の発光スペクトルの比較・・・・・・・・・ 20 図 12 Gain 測定のセットアップ・・・・・・・・・・・・・・・ 2 図 13 1×1mm2 MPPC の ADC 分布 ・・・・・・・・・・・・ 22 図 14 Gain 線形性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 図 15 Noise rate ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24 図 16 LFS と MPPC の模式図 ・・・・・・・・・・・・・・ 24 図 17 検出器(MPPC と LFS)と各モジュールの接続図 ・・・ 25 図 18 PET を想定した検出器のセットアップ ・・・・・・・ 26 図 19 実際のそれぞれの配置 ・・・・・・・・・・・・・・ 26 図 20 22 Na の崩壊図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 図 21 同時計数率の距離依存性 ・・・・・・・・・・・・・ 27 図 22 22 Na からのγ線のエネルギー ・・・・・・・・・・・ 27 図 23 コインシデンスの信号数分布(9cm) ・・・・・・・・・ 28 図 24 コインシデンスの信号数分布(12cm) ・・・・・・・・ 29 図 25 角度依存性と位置分解能の角度依存性の測定 ・・・・・ 30 図 26 角度依存性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 図 27 位置分解能の角度依存性(θ=10°) ・・・・・・・・・・ 31 図 28 位置分解能の角度依存性(θ=20°) ・・・・・・・・・・ 32 図 29 エネルギー分布(threshold : -7.2mV) ・・・・・・・・・・ 34 図 30 エネルギー分布(threshold=-100mV) ・・・・・・・・・・ 35 図 31 エネルギー分布(threshold=-150mV) ・・・・・・・・・・ 35 図 32 エネルギー分布(threshold=-200mV) ・・・・・・・・・・ 36 5 8 9 11 13 14 15 18 19 20 21 21 22 24 24 25 26 27 27 28 28 28 29 30 31 32 33 34 35 35 38 39 39 40 38 404
図 33 位置分解能(threshold=-150mV) ・・・・・・・・・・・・ 41 図 34 角度依存性(threshold=-150mV) ・・・・・・・・・・・・ 43 図 35 ディスクリミネ―タの設定 ・・・・・・・・・・・・ 39 図 36 threshold curve for discriminator A ・・・・・・・・・・ 40 図 37 threshold curve for discriminator B ・・・・・・・・・・ 40 図 38 位置分解能の角度依存性のメカニズム ・・・・・・・ 41 図 39 ADC モジュールと積分方法 ・・・・・・・・・・・・ 図 40 LSO シミュレーションの様子 ・・・・・・・・・・・ 図 41 LSO 内で 0.51MeVγ線が落としたエネルギー分布 ・・ 44 44 45 46 51 52 52
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第1章
PET(陽電子断層画像)装置について
PET(Positron Emission Tomography)は名のごとく、陽電子‐電子対消滅に より発生した、511keV の対消滅γ線を検出器で捕えて画像化する。 1-1.原理 体内に陽電子放出核を注入すると、そのままでは体全体に分布してしま う。PET 装置の標的はがん細胞なので、がん細胞の代謝機構をうまく使っ てがん細胞に陽電子放出核を蓄積させる。体の生理現象を応用するため、 機能診断と呼ばれる。それには、糖に似た構造を持つ FDG (Fluoro Deoxy Glucose)(図 1)の水酸基の一つを陽電子放出核に置き換えて体内に注射する と、がん細胞は糖の代謝が多い、つまり糖をため込む性質があるため、こ の FDG はがん細胞に集積する。そこで、陽電子が放出されるが、我々の体 はその 60%が H2O(水)でできているため体内にはたくさんの電子が存在す る。すると、放出された陽電子はすぐにそれらの電子と対消滅を起こし、 それとともに 511keV の二つの対消滅γ線となる。このγ線を対向させた検 出器で測定する。また、この対消滅γ線はソースからの陽電子の初期運動 量によって様々な方向に放出される。すると、対消滅γ線の検出位置によ りいくつもの直線を描くことができる。これらの直線を重ね合わせて交わ った点を陽電子の放出点と定義する。つまり、がん細胞の位置を特定する ことができるのである。 図 1 ブドウ糖と FDG 検出器に用いられるのは、シンチレータと光検出器である。それらで構 成された検出器を 360°円形に配置して、完全な PET 装置が製作される。 これにより、360°どの方向に放出された対消滅γ線でも同時に観測するこ とができるようになる。
e
+6 1-2.診断項目 PET 装置は主にがん診断装置として用いられるが、そのほかにも薬剤を 変えることによって、様々な診断が可能である。 1-2-1.脳血管 脳梗塞などの虚血性疾患とくも膜下出血などの出血性疾患に分けられる。 PET では、虚血性疾患の診断に有用である。つまり、脳血管の血流や酸素 の代謝を見る。血流と酸素飽和度は使用する薬剤を変化させることにより 区別することが可能である。 1-2-2.心臓 心臓は血液循環の要となる臓器である。大量の血管がそれを取り巻いて いる。PET では心筋の血管障害を探る。血流を見るのは脳と同じで、心筋 生存能を判定する。心筋梗塞や狭心症、虚血性心疾患を発見する。 1-2-3.癲癇 癲癇とは、大脳の神経細胞(ニューロン)由来の発作や脳波異常を指す。ニ ューロンは正常な場合、お互いに一定の電気信号で活動しているが、この 電気信号が突発的に乱れることにより発症する。PET は癲癇の起こる発作 点(焦点という)を特定するために使用される。この発作には2種類あり、発 作の初めから脳全体が電気信号の乱れに襲われる、全般発作、この場合発 作当初から意識不明に陥る。また、脳の特定の部位から始まる部分発作が あるが、そのほかの診断法、脳波検査やCT、MRI など所見も合わせて、 PET 検査ではさらに、発作の部分を確実に特定するため、こちらのケース が検査対象になる。 1-3.使用薬剤 PETで用いる薬剤は、主に体の代謝にのせるもの(標識化合物)と、陽電 子放出線源に分けられる。代謝にのせるものとは、PET では動物の生理現 象を用いることからここではそう呼んでいるが、PET が適用になるのはほ とんどががんなので、糖に分類される薬剤である。 ・標識化合物 診断したい箇所により、陽電子放出核で標識する化合物を変化させる。 局所的血流においては、CO ガスや CO2ガス、またCO ガスは肺の灌流(血 液のもれ)の診断にも使用される。N2ガスは換気機能、O2ガスは酸素消費
7 量等の診断に用いられる。アミノ酸やグルコースの先駆物質を調べるため に水素シアン化物、各種薬剤の先駆物質を調べるのにはヨウ化メチルを用 いる。また、特定の臓器がターゲットとなる場合、脳と心筋の造影、糖代 謝ではグルコース、脳と膵臓の造影、受容体の研究にはメチオニン、脳と 胸の造影にはアンモニア、単純な血流を調べるのにH2O、脳と胸の造影、
がんの診断にはFDG(Fluoro Deoxy Glucose)が使用される。どれも生体の
生理機能を用いて、つまりそれぞれの臓器で周りの臓器よりも代謝されや すいといった、異なる薬剤が適用される。 ・陽電子放出核 PET 検査で用いられる陽電子放出核は人体の被爆を最小限に抑えるため に、比較的短い半減期の放射性同位元素が用いられる。そのため、検査で 用いる化合物を施設外で生産し、それを輸送して検査に使用するのは効率 が悪い。そこで、PET 装置を所有する施設ではサイクロトロンを併設して いることが多い。様々な陽電子放出核の中でPET で用いられるのは主に、 炭素11C、窒素13N、酸素15O、フッ素18F である。それらの生産過程を見 てみる。最も効率的な反応は、高濃縮された安定核を含むターゲットにサ イクロトロンで陽子を加速して、(p,n)型反応を起こさせることである。 例えば、 13C (p,n) 13N , 15N (p,n) 15O , 18O (p,n) 18F である。1回の検査で使用される放射能は、11C と13N で約 10mCi、15O で 15~20mCi、18F で 5~10mCi の放射性核種の初期放射能に対して 1~数 mCi の範囲である。 表 1 にPET 検査で使用される薬剤と検査目的を示す。 PET に使用される放射性核種は、数 10mCi であるが、サイクロトロン で製造される量はその治療施設における検査を受ける患者数によるが、陽 子を加速するエネルギーと放射性核種の収量はほぼ一定となっている。例 えば、18F に関しては現状の臨床現場では、十数 MeV に加速された陽子を 18O に照射するが、この18O は H2O の酸素をターゲットにしているので、 実質、陽子で水を照射することになる。十数MeV の陽子で18F の収量は 1 ~10Ci/2h になる。18F は半減期が 108min.と短いので、患者の検査時間に 合わせて製造し放射能を減弱させれば、上に挙げた5~10mCi の放射能で 検査を行うことができる[1]。例として、10Ci の18F が 10mCi になるまで の時間は、計算によると79.9 分でおよそ 80 分である。また、18F 生成核反 応断面積は陽子10MeV と18O の反応で 200mb、陽子 20MeV で 40mb と 陽子エネルギー上昇に伴って指数関数的に減尐する[2]。
8 表1 PET 用薬剤 1-4.これまでの PET 装置 次世代PET の研究するにあたり、過去または、既存の PET について知 る必要がある。その中で、高位置分解能を達成するための問題点を明らか にし、本研究の課題にする。まず、PET に不可欠な素子として光検出器が あり、さらに放射線を光検出器の敏感波長を持つ光に変換、十分な光量を 得るために必要なシンチレータについて述べる。
これまでのPET 装置では、シンチレータとして BGO や LSO などが用い
られてきた。しかし、BGO は減衰時間が非常に長く光量も尐ない。LSO に 関しては特性はPET 装置に適当である、なぜなら大抵使用する光検出器、 PMT などの敏感波長領域に発光波長領域が合うためである。しかし LSO、 BGO 共に高価であり、低コストで PET 装置を製作するためには不都合で ある。 また、既存のPET 装置では光検出器として PMT が主流であった。PMT は同じく高価であり、それを回避するために1つのPMT で多数のシンチレ ータからの信号を読み出す技術が提案されてきた。しかし、そこでは読み だした信号をそのまま画像化することは不可能であり、検出器の後に組み 込まれるエレクトロニクスやコンピュータの画像解析で補正を行っていた。 そのために位置精度には限界があり、位置分解能の向上は見込めないのが 現状である。 核種 標識化合物 検査目的 15O(gas) O 2 脳酸素消費量 CO2 組織血流量 CO 組織血流量 15O(liq.) 水 脳血流量 18F FDG 腫瘍・脳機能・心機能 フロロド―パ 脳機能(ドーパミン代謝) 11C メチオニン アミノ酸代謝・腫瘍 酢酸 心筋血流量 メチルスピペロン 脳機能(ドーパミンD2) 13N アンモニア 心筋血流量
9 1-4-1.PET 装置について まず、これまでの基本となるPET 装置の形式について述べる。PET 装置 は360°に配置された検出器で対消滅γ線を捕える(図 2)。ここで、検出器 は先述した光検出器とシンチレータで構成される。様々な方向に直線的に 放出される対消滅γ線のラインを重ね合わせることによって、それらのラ インの交差する点をγ線が放出された点、つまりがんなどのターゲットが ある位置と定義する。 図2 PET 装置の概要図 1-4-2.光検出器
・Photo MultiPlier Tube (PMT)
高エネルギー実験では最も安定しており、ノイズも尐なく広範囲に使用 される光検出器である。医療分野でも画像診断の機器に応用され、現在も 多くの面で使用されるスタンダードなツールである。また、高Gain(105~108 程度)を稼げるため、神岡実験や他の実験でも利用される。しかしが比較的 大きなサイズを持つことと、磁場の影響を受けること、さらに高価なため コストの問題が短所となる。動作原理は、入射してきたphoton が光電面に 入射することで、光電効果により電子がたたき出される。これが、高電場 のかかったダイノードに衝突し2次電子をたたき出す。そこでは複数の電 子がたたき出されるため、次のダイノードではさらに複数の電子がたたき 出される、これがダイノードの数だけ繰り返され電子が増幅されるという 仕組みである。
ターゲット
検出器 (光検出器+シンチレータ)10
・Flat Panel Photo MultiPlier Tube (FP-PMT)
平面に受光面を持つ光電子増倍管である。多数のチャンネルを保有する ことから、Multi Anode PMT とも呼ばれる。また、チャンネルごとの positioning をうまく行えば、どのチャンネルからの信号なのか割り出すこ とができるため、位置情報も取り出せる。そのためPS-PMT(Position Sensitive PMT)とも呼ばれる。このタイプの光検出器は、広い受光面を持 っており広範囲に渡る光の入射がある実験に適している。
・Avalanche Photo Diode (APD)
半導体検出器の一種であり、第2 章で述べる MPPC の原点でもある。p-n 接合の半導体に逆バイアスをかけて動作させる。しかし、始めは電流は流 れない。ところがある点(breakdown Voltage)を超えると、急に電流が流れ 始める。これは電子雪崩降伏による。空乏層中でのキャリアーのエネルギ ーによって結晶格子の結合を切り、新しい電子と正孔対を作る。これらが さらに加速されて同じ現象を引き起こすとネズミ算式に電子と正孔が作ら れ、大きな電流となる。雪崩降伏では終始雪崩が起こるので、素子の中に クエンチング抵抗を組み込みそれを抑制する。breakdown Voltage 以上の 逆バイアスで動作させると、同時に入射するphoton 数に依存せず一定の信 号を出力するようになる。このモードをガイガーモードいう。 1-4-3.シンチレータ シンチレータには大きく分けて有機シンチレータと無機シンチレータが ある。それぞれ異なった特徴があり、使用用途に分けて利用される。 Ⅰ.有機シンチレータ 固体、液体、気体の3種類に分類される。基本的には有機溶媒に蛍光物 質をまぜ、成型して製作する。有機シンチレータの場合、蛍光物質を混入 させる有機溶媒の相や種類によって、使用用途に合わせて加工するが、加 工自体は非常に簡単で安価である。有機シンチレータは、青~緑の波長の 光を発光する。photon 数は 100eV の吸収エネルギーで 1photon 程度であ る。 有機シンチレータの発光機構は3 種類に分けられるが、すべてが重なって 発光する。まず、蛍光であり、主なシンチレーション光になる。これは、 図3 の S1からS0の遷移であり、寿命は10-9~10-8秒程度である。蛍光量 I は指数関数的に減衰し、次式 t/ 0
I
I
e
・・・・・・・(1)11 に従う。ここでI0は初期蛍光、τは減衰時間である。続いて、燐光である。 これは、T1からS0の遷移であり、10-4 ~数秒でやはり、指数関数的に減 衰する。3つ目は遅い燐光である。常温、または高温において見られる現 象であり、T1→S1と遷移できる十分なエネルギーがあるときに可能である。 発光スペクトルは蛍光と同じで、寿命はT1とS1の間隔、T1の寿命、温度 に依存し10-6秒程度かそれより長くなる。 また、本来シンチレータで吸収されたエネルギーと発光量には線形性が あるはずであるが、有機シンチレータは非線形性を有する特性がある。こ れは入射photon のエネルギーが小さくなると顕著になる。その式を以下に 示す。 ここで、 は粒子の種類に依存しない定数であり、 9~11mg・cm-2・MeV-1 という値を持つ。 ・固体シンチレータ スチルベンやアントラセンなどの蛍光有機結晶をそのまま用いる。 ・プラスチックシンチレータ p‐テルフェニル(TP)を適当な溶媒、スチレンなどに溶かした後、プラス チック化したもの。プラスチックの成形は容易なので、実験目的に合わ せて比較的安価に製作することが可能である。しかし、シンチレータそ のものの寿命、残光、製作工程で混入する空気の光子生成抑制、放射線 耐性が悪い、などの問題もある。
(dE/dx)
1
dE/dx
L
dx
dL
0 Bk
Bk
図3 有機シンチレータの発光機構 ・・・・・・・(2)12 ・液体シンチレータ トルエン、混合キシレン(オルソ、メタ、パラ-キシレンの混合物)、プソ イクドメン、ジオキサンなどの溶媒にPPO(ジフェニルオキサゾール)や ブチル-PBD(2-[4-tert-ブチルフェニル]-5-[ビフェニル]-1,3,4-オキサジ アゾ―ル)などの溶質を混合させたもの。液体シンチレータは測定試料を 直接シンチレータの中に溶かし込めることが特徴であり、幾何学的検出 効率は100%である。 Ⅱ.無機シンチレータ PET の場合、シンチレータに以下のような要請がある。 ① 0.51MeVγ線を検出するために、高阻止能を持つ、つまり高密度である こと。 ② 一定時間連続的に信号を検出するために、信号の重なりを防ぐため蛍光 減衰時間が短いこと。 ③ シンチレーション光を検出器まで効率的に導くため、透明であること。 ④ 蛍光出力が高いこと。 ⑤ 自己放射性がないこと。バックグラウンドを抑えるため。 ⑥ 結晶が大量生産できること。 これらを満たすものとして、PET には無機酸化物単結晶(無機シンチレ ータ)が用いられている。本研究で用いる新型無機シンチレータを含めて 第3章で詳しく述べる。 1-5.DOI-PET DOI(Depth Of Interaction)は、対消滅γ線を検出する際の検出器 の幾何学的な問題による視差を低減させ、さらに感度を低下させな いための原理である。既存のPET は 1 層の円筒形の検出器で構成 される。しかしこのままでは、FOV(Field Of View)の縁辺つまり検 出器内の対消滅γ線発生点が検出器の縁辺にあるとき、検出器その ものの大きさによって対消滅γ線の発生点を割り出すのに限界が できる。つまり検出器に入る異なる位置から放出された対消滅γ線 が同じシンチレータ対に入射した場合、同じ信号として認識されて しまう。これを回避するための発想がDOI である。図 5 に示すよ うにDOI は検出器のシンチレータ部分を FOV 中心から見て放射方 向に垂直に分割させる。すると、検出器は奥行き方向において別々
13 の検出器として働く。しかし、分割によりシンチレータの長さが短 くなりγ線との相互作用の確率が低下する。それが検出器の感度を 低下させるが、DOI-PET では細分割した検出器を層構造にして円 周上に配置することによって、感度低下を防ぐ。 1-6.TOF-PET TOF(Time Of Flight)-PET は時間情報を元に、ターゲットの位置を 特定する装置である。図5に示すように対向した検出器で0.51MeV の対消滅γ線を捕えるのは普通のPET と同じであるが、対の検出器 の片方にγ線が入射した時間ともう片方にγ線が入射した時間の差 を計測することによって、その対消滅γ線の走った直線上のどこで対 消滅が起こったのか特定する。これにより、通常のPET のように線 を重ねることによって求めていた対消滅点を、原理的には1つの直線
図4 Non-DOI と DOI の比較 左側の PET 装置の概略図を見る
と、ソースがFOV 中心にあるときはどの検出器を見込む立体角は 同じであるが、ソースがFOV 縁辺になると立体角が大きくなり、 これが位置分解能を低下させる。右側の図を見ればわかる通り、 Non-DOI の場合2つの黄色のソースの位置からのγ線は同じ検出 器に入射し、同じ信号として検出されてしまうため判別が不可能 になり、一様に広がったぼやけたものになる。DOI の場合、2つ の赤いソースは検出器を分割することにより、判別が可能になる。 これが位置分解能向上させる。
14 が検出できればその点を割り出すことが可能となる。そして、実質検 査時間の短縮と位置分解能の向上が予想される。しかし、時間情報を 扱うので検出器の高時間分解能が要求される。現在検出器には無機シ ンチレータが用いられているが、無機シンチレータは一般に蛍光減衰 時間が長く(~O(100ns))、TOF の技術を適用するのは困難である。 そのため、TOF-PET 開発に当たってはより蛍光減衰時間の短いシン チレータが必要であり、現在様々な研究が行われている。 時間差情報に関して、1ns の時間差で 15cm(FWHM)の位置特定にな
る。これはPET 装置として十分な性能ではない。現在 LSO(Lu2SiO5)など
(表 2)減衰時間の速いシンチレータを用いて時間分解能の向上を目標[3]に しているが、[ns]オーダーの減衰時間から我々が目指す[mm]オーダーの位 置分解能を得ることは困難である。[mm]オーダーの位置分解能を得るには 尐なくとも60ps の時間差情報が必要である。60ps の時間差で 0.9mm の位 置分解能(FWHM)が算出できる。これは、シンチレータの改善が不可欠に なるが、TOF-PET の利点としては 1 直線上でターゲットの位置を特定可 能なため、バックグラウンドの軽減に寄与する。 図5 TOF-PET 信号を検出した時間差を測定することにより、0.51MeV の対消滅γ線の走った直線上で、FOV の中心からのソースの位置的なずれを 測定可能。これにより原理的には既存のPET のように直線を重ねて、対消 滅点を割り出す必要性がなくなる。また、多数の対消滅γ線の信号を観測す れば、統計的にも分解能が向上すると考えられる。
Δ
t
cΔt
15
第2章 新型光検出器 MPPC(Multi Pixel Photon Counter)
MPPC(Multi Pixel Photon Counter)は、1-4-2 で述べた APD を小面積内
に集積させた光検出器であり、例えば1×1mm2の受光面に1600pixel の APD が集積されたものがある。現在信州大学など国内の研究教育機関と浜 松ホトニクスが共同開発中の新型光検出器である。特徴としては、 ・優れたphoton counting 性能 ・常温で動作 ・低バイアスで動作(~76V) ・高いGain が得られる(105~106) ・磁場の影響を受けない ・微小なサイズ(受光面:1×1mm2や3×3mm2など) などがあげられる。PMT と比較しても低バイアスで同等の Gain が得られ ることから、PMT に取って替わる光素子といっても過言ではない。また、 磁場の影響を受けないため、広範囲に応用可能であると考えられる。得ら れる信号はphoton が入射した pixel 数に比例し、入射光量が尐ない場合、
photon 数と出力信号は線形性を持つ。しかし、pixel 数を超える photon が 入射してくると一定の信号に飽和してしまう。つまり、大光量に対しては MPPC の信号は非線形性を示す。
2-1.MPPC の動作原理
MPPC の受光面に集積されたそれぞれの APD pixel は入射 photon 数に
よらず一定の大きさの信号を出力する。また、APD pixel はそれぞれクエン チング抵抗が接続されており、出力電流が流れるようになっている。MPPC 内ですべてのAPD pixel は1つの読み出しチャンネルにつながっているの で、それぞれのAPD pixel からの信号は重なり合い、1つの信号となる。 この信号の大きさ、または電荷量を測定することにより、MPPC に入射し cathode 図6 1×1mm2MPPC と受光面拡大写真
16 たphoton 数を見積もることができる。1つの photon が MPPC に入射した ときに得られる信号を1photoelectron(p.e.)と定義する。 2-2.諸特性 2-2-1.Gain ADC 分布を見たとき、MPPC は1photon ごとにきれいに分別されたピ ークを描く(図 13)。隣り合うピークの間隔はちょうど1p.e.分の電荷量に相 当することから、Gain を見積もることが可能である。1つの pixel のガイ ガーモードでの電子の増幅率は、
素電荷
変換量
チャンネル
2つのピーク間の
素電荷
が出力する電荷量
1
ADC
ADC
pixel
Gain
で求めることができる。 MPPC の増幅率は、逆バイアスに対して直線性を持つことが知られてい る。 2-2-2.Noise rate 入射光がない状態での単位時間当たりの信号数。これは、熱励起による ノイズと考えられ、ダークノイズと呼ばれる。MPPC は固体素子であるの で、この熱励起による電子が雪崩を起こしてノイズが発生する。ガイガー モードで動作するMPPC はノイズ成分も増幅され、本来の photon 信号と 区別できなくなる。そこで、ノイズの評価はMPPC では重要となる。ここ では、そのノイズを評価するため、ある一定時間内にどのくらいのノイズ が発生するのかを検証するので、Noise rate を定義する。ほとんどの場合 1秒間のノイズをカウントし、単位をHz で表す。また、ノイズの信号の大 きさは1p.e.に相当する。 2-2-3.Cross talkAPD pixel において、増幅の過程で入射した photon とは別の photon が発生することがある。一度励起された電子とホールが再結合を起こ し、photon が発生する。この photon が隣の pixel に入射し、そこで 増幅を起こして信号として検出されてしまうのが cross talk である。 Cross talk は 1.5p.e. threshold での Noise rate と 0.5p.e. threshold での
17 Noise rate の比で表される。
)
threshold
e.
rate(0.5p.
Noise
)
threshold
e.
rate(1.5p.
Noise
talk
cross
ここで、p.e.threshold について述べる。p.e.とは 1 photon に対する 出力信号のことである。図13 に示すが、MPPC は優れたフォトンカ ウンティング性能を持っている。信号分布は、1 photon ごとにピー クを示し、ADC 分布から photon 数を見積もることが可能である。そ こで、cross talk を評価するにあたり、threshold を 0.5p.e.と 1.5p.e. に設定する。0.5p.e.の threshold に設定すると、1p.e.以上の photon 入射でMPPC は信号を出力する。同様に 1.5p.e.の threshold 設定で 2p.e.以上の photon 入射で信号が出力される。0.5p.e.の threshold で 1 photon の入射を保証、1.5p.e.の threshold で 2 photon の入射を保 証する。これらの比を取ることによって、1 つの pixel に入射した photon により放出された photon が、隣の pixel に入射することによ り信号を出力する割合を計算することができる。 2-2-4.検出効率 入射photon のうち、検出可能な photon の割合を示すものである。こ れは、量子効率 QE とアバランシェ増幅を起こす確率εGeiger 、MPPC の受 光面において光子に対して感度のある有効面積εgeometryを用いて、 検出効率 = QE × εGeiger × εgeometry ・・・・・(5) で表すことができる。 ・・・・・(4)
18
第3章 無機シンチレータについて
3-1.発光機構 第1 章でも述べたとおり、PET 装置では無機シンチレータがよく使 用される。そこで、まずは無機シンチレータの発光機構について述べ る。 この発光機構は、結晶格子で決まるエネルギー準位による。結晶中 のエネルギー準位は離散的なバンド構造を持つ。しかし純粋な結晶の 場合、価電子帯と伝導帯間のバンドギャップが大きいため、電子は禁 制帯を飛び越えて価電子帯から伝導帯へ遷移することができない。そ こで、活性化物質と呼ばれる不純物を添加することにより、禁制帯内 に電子の存在できる新たなエネルギー準位(活性化中心)を作り出す。 入射粒子によって結晶は電離、励起され電子・ホール対を生成する。 このホールは素早く活性化中心に移動し、活性化物質を電離する。ま た、電子はその電離された活性化物質と結合し、そのエネルギーがシ ンチレーション光として放出される。 図 7 無機シンチレータの発光機構 3-2.PET 用無機シンチレータPET には NaI:Tl(Sodium Iodide)、BGO(Bismuth Orthogermanate, Bi4Ge3O12) 、 GSO(Gadlinium Orthosilicate, Gd2SiO5:Ce) 、 LSO
(Lutetium Orthosilicate, Lu2SiO5:Ce)などといったものが従来用いられて
きた。これは、より重い元素を結晶の密度を上げるために使用したことと、 発光量を大きくするための手段であった。また、それぞれにTl や Ce の不 純物が含まれている。これは、不純物を混ぜ込むことにより、新しいエネ ルギー準位を作りだし、求める波長の光、厳密には使用する光検出器の敏 感波長領域の光を取り出すことが目的である。現在臨床におけるPET 装置 の多くにはBGO が用いられており、研究段階として、LSO やいくつかの
禁制帯
価電子帯 伝導帯 活性化中心 活性化物質の 基底状態 photon19 無機シンチレータを組み合わせた LGSO(LSO+GSO)や LYSO(LSO+ Y2SO5)などの混晶型無機シンチレータの開発が行われている。しかし、有 機シンチレータと比較して、無機シンチレータの場合、融点や沸点が非常 に高いことから、その製法にまで工夫が求められており、全体として大き な研究分野となっている。主だったものの特性は表2 に示す[4]。NaI は発 光量は非常に多いのだが、潮解性があるため安定したPET 装置運転のため に不向きである。また、GSO は高密度で減衰時間は短いが、光量が尐ない。 さらにはBGO は GSO よりさらに密度を高めたが、減衰時間が非常に長く なり光量も低下してしまった。そこで LSO が誕生する。LSO は密度も高 く、放射線の阻止能に優れており光量もNaI の 80%という高い出力を持つ。 さらに、減衰時間も短いため、現在PET に使用される最も有力な候補であ り、LSO を実装した PET 装置も市場に出てきている。しかし、問題はそ の価格である。LSO は非常に高価であり、PET 装置のコストの大半を占め る。これがPET 装置の普及を妨げていると考えられる。そこで、我々はよ
り新しい無機シンチレータ LFS(Lutetium Fine Silicate)[5]の使用を考え ている。 表2 PET 用無機シンチレータの特性 Specification Density (g/cm3) attenuation length(cm) decay constant(ns) maximum emission(nm) light yield (NaI:100) NaI 3.67 2.59 2.3 415 100 BGO 7.13 1.11 300 480 12 LSO 7.4 1.14 40 420 75 LYSO 7.2 1.16 44 428 75 LGSO 7.2 unsearchable 43 420 75 LFS 7.4 1.12 36 416 80
20
3-3.新型無機シンチレータ LFS(Lutetium Fine Silicate)
LFS(図 8)は LSO と同等の特性を持ち、かつ非常に安価であることから 現在のPET 装置のコストを下げるのに有効であると考えられる。LFS の特 性も表2 に載せる。また、減衰時間が 35ns と短いので、高時間分解能が必 要なTOF-PET にも使用できる可能性がある。しかし、その構造がいまだ に不明であるため、詳細が分かりかねるところが難点である。 我々は信州大学工学部の伊藤稔教授に依頼し、LFS の特性を調査してい ただいた。そこでは、LFS は CexLu2+2y-xSi1-yO5+yの構造を持ち、近似的に
不純物としてCe が用いられた LSO(Lutetium Ortho Silicate ; Lu2SiO5:
Ce)と考えることができると示された。密度は 7.3g/cm3と高く、LSO とほ とんど同じである。また、発光波長は412nm であり、青色の光を発する。 これは、本研究で用いる光検出器MPPC との適応性がよい。また、NaI:Tl の80%を超える光量を稼ぐことができるので、PET 装置の検出効率を上げ ることが可能であると考えられる。既にPET に広く使用されている BGO との比較においては、室温で約20 倍の光量が稼げるとの伊藤教授からの報 告がある。LFS の発光スペクトルの温度特性、LFS 発光強度温度依存性、 LFS と BGO の発光スペクトルの比較は図 9、図 10、図 11 に示す。 図8 無機シンチレータ LFS
21 図9 LFS の発光スペクトルの温度依存性 本研究では室温で実験 を行っているので、300K で規格化されている。 図10 波長 415nm と 290nm の LFS 発光強度温度依存性
22 図11 LFS と BGO の発光スペクトルの比較 これらの実験データは信州大学工学部の伊藤稔教授による測定結果である。
23
第4章 新型 PET 装置開発のための基礎実験
4-1.研究内容 本研究では新型PET 装置製作を念頭において、高感度、高位置分解能 で低コストでそれが実現できるようなツールを用いる。そこで、光検出器 としてMPPC を、無機シンチレータとして LFS を使用する。 現在、PET 装置の研究では低コスト、高位置分解能の2つに目的が集 約されているが、本研究では高エネルギーの物理実験で用いられる放射線 検出器を応用することで、その視点から高性能なPET 装置を製作すること を念頭に置いている。我々高エネルギー分野での検出器(カロリメータなど) は、PET 装置とほぼ同じ構造を持つがその性能は PET 装置を考えたとき、 オーバースペックである。なので、医療診断分野で求められる性能と市場 を見極めつつ、PET 装置の基礎研究を行う。 4-2.MPPC の測定 まず、MPPC の諸特性について測定を行った。MPPC は素子それぞれが 異なった特性を持ち、それらをモニタリングしながら実際の応用の実験に 用いなければならない。MPPC は 1×1mm2の受光面を持つもの[6]を使用 した。 4-2-1.Gain について MPPCはそれ自体ノイズを持っており、光が入射しなくても 1p.e.また は2p.e.相当の信号は十分測定可能である。しかしノイズに関しても厳密に は素子ごとにその数は変化する。そこで、意図的にLED を光らせ、室温で 測定を行った。MPPC の Gain を求めるには、まず出力信号の ADC 分布を 取る。その分布からピークとピーク間の差d を求めて、次式を適用する。e
A
S
d
Gain
ここで、d は 1p.e.に相当する ADC カウント、S は ADC の分解能
0.25pC/ADCcount、e は素電荷(1.602×10-19C)、A はアンプの増幅率であ
り、本研究で用いたアンプでは594.6 倍である。実験系のセットアップは
図12 に載せる。
24
図12 Gain 測定のセットアップ
Clock generator は 50kHz、ADC の gate の時間幅は 200ns に設定した。
75.6V から 77.2V まで MPPC のバイアスを変化させて ADC 分布を測定 した。76.1V の ADC 分布を図 13 に示す。 図13 1×1mm2MPPC の ADC 分布(バイアス:76.1V) 図13 の左から最初のペデスタルのピーク、2 つ目の 1p.e.のピークを Gaussian で fit し、ピークの中心値を求め、そこから d を求めると、 d = (1p.e.の中心値)-(ペデスタルの中心値) = 87.06±0.89 となり、式(6)に代入すると、 電源 [ADC count] LED driver 電源 MPPC LED
ADC
Gate generator Clock generator 恒温槽25 19 5 12
10
0.04)
28
.
2
(
6
.
594
10
602
.
1
10
25
.
0
06
.
87
Gain
となった。MPPC のバイアス電圧を変化させたときの Gain を求め、結 果を図14 に示す。MPPC の Gain は線形性を持っているが、それが確認 できた。 図14 Gain 線形性:各バイアス電圧での Gain をプロット また、このグラフで直線の横軸の切片はMPPC に電流が流れ始める電圧、 break down 電圧を示す。これは本来各 MPPC により異なるため、素子 ごとに測定をする必要がある。さらに、実際にoperate する電圧はその 2 ~3V 上に設定することが多い。本研究で用いた MPPC では breakdown 電圧が74.38±1.79V になった。誤差が大きいが、これは fitting の際の 切片の誤差に起因している。 4-2-2.Noise rate について 77V のバイアスで MPPC を作動させ、その threshold curve を測定し た。図15 では 1p.e.で値は急激に低下するのが分かる。図 15 の実線はガ ウス関数をある下限以上で積分した相補誤差関数でfitting したものである。これにより、0.5p.e. threshold を決定し、それを Noise rate と定義 する。図15 から 0.5p.e.が-30mV threshold に対応する。
26
この結果からは、0.5p.e. threshold で(1.71±0.01)×105Hz となった。 4-2-3.Cross talk について
threshold curve を元に、式(4)を適用する。まず、1.5p.e.の Noise rate は、(2.62±0.01)×104Hz であるので、Cross talk は、
0.15
0.01
Hz
10
0.01)
(1.71
Hz
10
0.01)
(2.62
talk
Cross
5 4
となったので、およそ15%である。 4-3.実験のセットアップ 本研究では、主にPET 装置を前提としたエネルギー分解能と位置分 解能について実験を行った。まずそのためのセットアップについて述べ る。 MPPC は、1×1mm2の受光面を持ったものを使用した。また、LFS は3×3×15mm3のサイズの結晶を用いた。図16 に示すように MPPC の受光面にLFS の 3×3mm2の面を接着剤を使用せず直接接合し、1 つ の検出器とした。これをもう1 セット製作し、1 直線上に対向させて配 置させると、PET 装置における 1 対の検出器に相当する。また、実験の ための回路図を図17 に載せる。 図15 Noise rate
27 図16 LFS と MPPC の模式図 図17 検出器(MPPC と LFS)と各モジュールの接続図 まず、それぞれの検出器から読みだした信号はディスクリミネ―タに 入力される。その後、コインシデンスモジュールにそれらの信号が入力 され、同時計数のロジックが出来上がる。ここで、コインシデンスのタ イムコンスタントは25ns に設定した。さらに、エネルギー分解能の測定 のためにADC 分布を測定したので、コインシデンスモジュールからの 1
つの信号はADC モジュールに gate 信号として入力した。ここで、gate
信号は200ns に設定した。また、ADC 分布を取る信号は片方の検出器、 図17 の MPPC1 からの信号を用いた。また、コインシデンスからのもう 1 つの信号は、同時計数により位置分解能を測定するため、スケーラーに 入力した。 本研究では、ディスクリミネ―タは豊伸電子[7]N023、コインシデン スモジュールは豊伸電子N013、ADC モジュールは、豊伸電子 C009-16chADC、スケーラーは KN1860 を用いた。 エネルギー分解能、位置分解能各測定での検出器の配置を図18 と図19 に示す。まず、LFS と MPPC で構成された検出器を対向させ て設置する。それらを結ぶ直線上のちょうど中心に0.51MeV の対消滅γ 線源22Na を置く。この線源は位置分解能測定時に使用するマイクロメー タ上に置き、中心から検出器を結ぶ直線に対して垂直に移動させること
LFS
Gate
ADC
28 ができるようにした。実験を通して、MPPC のバイアスは 75.6V に設定 した。 図18 PET を想定した検出器のセットアップ 図19 実際のそれぞれの配置 図20 22Na の崩壊図 22
Na
検出器 (MPPC+LFS) 検出器 (MPPC+LFS) 9cm or 12cm 9cm or 12cm 22Na micro meter29
22Na の線源は図 20 に示すような崩壊を起こす。実験で用いた線源は
プラスチック内に密封されており、線源から放出された陽電子はプラス
チック内で対消滅を起こし0.51MeV の back to back のγ線になる。これ
を検出器で検出するのが本研究の目的である。しかし、22Na 線源は 1.28MeV のγ線も放出するので、それがバックグラウンドとして実験結 果に影響するので、実験結果の評価ではそれを考慮する必要がある。 4-4.システムの妥当性 実験システムの妥当性を探るため、線源と検出器の間隔を変化させ てコインシデンスのカウント数を計測した。ディスクリミネ―タの threshold は-7.2mV に設定した。これは 1/r2に従うはずなので、その検 証のため、実際の実験に入る前に行った測定である。図21 にその結果を 示す。カウント数は1 分間になっている。 図21 同時計数率の距離依存性 fitting の結果は、 y=a/r2 ±b ・・・・・・(7) において、a=(6.84±0.31)×107[Counts/min./mm2]、b=(10.76±0.56)× 105[Counts/min.]となった。これから、計数率は 1/r2にしたがっており、 システムの妥当性が示された。また、テールの部分の底上げは22Na から の1.28MeV のバックグラウンドと考えられる。
30 4-5.エネルギー分解能 4-4 節で述べたシステムで各検出器と線源の距離を 12cm に設定し、 ADC 分布を測定した。また、ディスクリミネ―タの threshold は-200mV に設定した。結果を図22 に示す。図 22 より、0.51MeV のピークとコン プトンの連続分布が見てとれる。 PET では 0.51MeVγ線の検出を目的としているので、そのピークを Gaussian で fitting をし、エネルギー分解能を σ(E)/E で評価した。
σ(E)/E=10.00±0.19%
となった。gate 信号は分布のコインシデンスを取っているので、このピ ークは0.51MaV の back to back のγ線と保証される。4000 チャンネル
付近に鋭いピークがあるが、これはADC が最大 4095 チャンネルまでし
か測定できないことによるオーバーフローで、1.28MeV によるものと考 えられる。4-6 節の位置分解能のバックグラウンドの議論のためも 1.28MeV のγ線の計数が必要であるが、1.28MeV のピークがオーバーフ ローによりデルタ関数のようになっているため、解析が不可能である。 1.28MeV のエネルギー分布が検出できれば、0.51MeV の分布と 1.28MeV の分布を積分し、その比を算出することにより位置分解能(図 23、24)で の1.28MeV によると思われるバックグラウンドと 0.51MeV の計数比較 が可能になる。1.28MeV の分布を検出する実験が今後の課題になる。 図22 22Na からのγ線のエネルギー分布 [ADC count]
31 4-6.位置分解能 この実験では、線源と検出器の距離を9cm と 12cm の2通りに変化さ せて行った。さらに、マイクロメータを用いて、線源を図19 のように 1mm ずつ検出器と検出器を結ぶ直線に垂直な直線の中心(エネルギー分解能測 定で線源を置いた位置)を 0mm と定義し、その直線に垂直な方向に- 5mm~5mm まで移動させてそれぞれの位置で同時計数を行った。計数は 1 分間のカウント数で評価し、結果をプロットしてさらに Gaussian で fitting を行い、位置分解能を算出した。また、threshold は-7.2mV に設 定した。 まず、検出器と線源を9cm に設定した場合の分布を図 23 に示す。 図 23 コインシデンスの信号数分布(9cm) これより位置分解能は、
σ=2.49±0.17mm
(FWHM=5.85±0.40mm) となった。 次に検出器と線源の距離を12cm に設定して同じ実験を行った結果を 図24 に示す。 position [mm]32 図24 コインシデンスの信号数分布(12cm) 同じようにGaussian で fit して、結果が、
σ=1.38±0.05mm
(FWHM=3.25±0.12mm) となった。12cm の方が検出器を見込む立体角が小さくなるため、分解 能が向上していることが分かる。また、信号数に関しての議論はこの 後のバックグラウンドの評価のところで述べるが、式(7)に従うことが 確かめられた。 以上の図23、24 のグラフを見ての通り、分布にはバックグラウンド があることが分かる。本来であれば、コインシデンスを取っているの で、back to back のγ線のみを検出しているのであれば、バックグラ ウンドは0 カウントになるはずである。これは、エネルギー分解能の ところでも述べたが、線源からの1.28MeV のγ線を偶発的に同時計数 してしまった結果と考えている。 バックグラウンドの評価であるが、今回用いた22Na の崩壊(図 20) を考えると、まずβ+崩壊で22Ne の励起状態に遷移し、そこからの0.51MeV のγ線と EC(Electron Capture)による 1.28MeV のγ線の割
合は1.1:1.0 の計算になる。これを考慮すると、図 23、24 における
ピークの値とテールの値はほぼこの比に対応していると考えられる。
なお、22Na はプラスチックで密封されているため、放出された陽電子
は、プラスチックパッケージ内ですべて対消滅を起こすと考えられる。 position [mm]
33 また、図23、24 においてのバックグラウンドの計数であるが、式(7) をそれぞれの線源と検出器間の距離に適応すると、バックグラウンド の差は9cm と 12cm で 0.03×106Hz となる。図 23 ではバックグラウ ンドが1.54×106Hz として、図 24 では 1.51×106Hz と見積もり、式(7) においてr=9cm or 12cm として信号数を計算して、その差を取れば図 23、24 でバックグラウンドが異なることが説明可能である。 4-7.角度依存性 ここでは、検出器の片方を動かして対の検出器が直線上にないとき のコインシデンス信号数の分布を調べた。PET 装置では 360°に検出 器が配置されているため、異なった時間に起こった対消滅による 0.51MeVγ線が対向した検出器に入射せず、直線上からずれた検出器 に同時に入射することもあり得る。もちろんこれは使用する陽電子放 出核の崩壊率にもよるが、そのイベントがバックグラウンドとなり、 位置分解能を低下させる要因になる可能性がある。 そこで本実験では、検出器と線源の距離を12cm と一定に保ったま ま、検出器を円弧上に移動させてそれぞれの位置で同時計数を行い、 角度依存性を調べた。 図25 角度依存性と位置分解能の角度依存性の測定 図25 のような配置で測定を行った。角度 θ は±50°の範囲で 10° 毎に取り、カウント数は1 分間のものになっている。また、threshold 12cm 12cm 22
Na
LFS
MPPC
θ
90° 5cm34 は150mV に設定した。結果を図 26 に示す。 図26 によると、θ=0°にピークがあることが分かる。また、その 他の位置では信号数は同等と考えられる。図25 のように片方の検出器 に角度をつけて配置すると、back to back のγ線は検出できない。そ のために、θ=0°にのみピークができる。この結果から、0.51MeV の back to back のγ線を検出できていることが示された。 また、バックグラウンドの部分は22Na の 1.28MeV のγ線に起因 していると考えられる。 図24 と比較して、計数率が減尐しているのは、threshold を-15mV に設定して、位置分解能、図23、図 24 のデータを取得した時の-7.2mV のthreshold で測定した時と実験環境を変化させたためである。詳細は 6-3 節を参照。 図26 角度依存性 4-8.位置分解能の角度依存性 検出器に角度をつけて位置分解能を測定する。ここでは、図25 の ように検出器をある角度θ で固定し、線源と検出器を結ぶ直線に垂直 な方向に線源を移動させて同時計数を行い、検出器が直線上にないと きの位置分解能を評価する。なお、線源の位置は検出器を一直線上に 置いたときのその線の中心を0mm として図 25 の黄色い線に沿って 5mm ごとに動かしてそれぞれの位置でコインシデンスを取った信号 数を計測した。 図25 において角度 θ を 10°に設定した場合の信号分布を図 27 に 示す。また、threshold は-15mV に設定した。 0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60 C ou n ts [/min .] position[degree] angular dependance
35 θ=20°の場合の信号分布を図 28 に示す。 図28 位置分解能の角度依存性(θ=20°) なお、計数(グラフの縦軸)は 5 分間のカウントになっている。これは threshold を高く設定したため、計数率が減尐したので統計的な問題を 回避するためにより多くのカウント数を取得するためである。 図27 と図 28 の結果から、同時計数した信号分布はある位置でピ ークを持った分布となった。これらはガウス分布で評価できないため、 分布の仕方を考察し、評価した。図25 のように片方の検出器に角度を つけて配置しても、もう片方の検出器とで、back to back のγ線を検 出できる範囲がある。この範囲で分布はピークを形成するのであるが、 そのピークの立ち上がりと立下りの範囲を計算し、実験結果と比較す 275000 280000 285000 290000 295000 300000 305000 310000 315000 0 10 20 30 40 50 co u n ts [/5min.] position[mm]
spatial resolution depending on angle 10 degree
240000 290000 340000 390000 440000 0 10 20 30 40 50 co u n ts [/5min.] position[mm]
spatial resolution depending on angle(20 degree)
36
37
第5章 結果のまとめ
5-1.エネルギー分解能 4-5 節の 0.51MeV の光電ピークからエネルギー分解能は、σ(E)/E=10.00±0.19%
となった。 5-2.位置分解能 線源と検出器の距離を9cm と 12cm と 2 種類の測定を行った。そ れによると、9cm の場合位置分解能は、
σ=2.49±0.17mm
(FWHM=5.85±0.40mm) となった。また、12cm の場合、σ=1.38±0.05mm
(FWHM=3.25±0.12mm) となった。これらの結果は、無機シンチレータLFS と新型光検出器 MPPC を用いて PET 装置に求められる位置分解能が得られたことを示 している。 5-3.角度依存性 角度を10°間隔で測定した場合、その間隔が角度分解能よりも大き かったため、計数率が有意に大きかったのは図24 の θ=0°のみであり、 Gaussian による fitting を今回は断念した。しかし、このプロットか ら角度分解能が10°以下であることが言える。さらに、この結果からθ=0°にピークが存在することにより、back to back の 0.51MeVγ線 を検出できていることが確認できた。 5-4.位置分解能の角度依存性 位置分解能の角度依存性は、θ=10°,20°の二通りで測定を行った。 分布は図27、図 28 を見てそれぞれの場合で比較をしたが、独特な分 布をしている。詳細は考察で述べるが、この実験によってPET 装置の 縁辺部では位置分解能が著しく低下することが分かった。
38
第6章 考察
6-1.エネルギー分解能 4-5 節で示した結果ではエネルギーの分布はthreshold を-200mV に設定した場合であるが、当初はthreshold をディスクリミネ―タの 最低値の-7.2mV で実験を行っていた。ADC 分布を図 29 に示す。 図29 を見ると、ADC カウントが 100 付近に多数の信号がきている ことがわかる。しかし、本来であれば検出している対消滅γ線の信号 はコインシデンスを取っているので、このようなpedestal やノイズの ような信号は検出されないはずである。そこで、threshold を変化させ てADC を再取得することになった。threshold を-100mV、-150mV、 -200mV に設定した時の ADC 分布をそれぞれ、図 30、図 31、図 32 に示す。 これらの分布から、threshold を高くすることによって、図 26 にあ ったノイズらしきピークを排除することができたことが分かる。 threshold=-100mV の図 30 の ADC カウントが 400 近辺のピークは本来のpedestal と考えられる。back to back のγ線を検出しているが、
コインシデンスの幅は25ns に設定してあるので、その時間内で同時
計数にかからなかった信号がこのピークを形成していると考えられる。 図29 エネルギー分布(threshold : -7.2mV)
39 さらにthreshold を上げていくと、コンプトン散乱の分布も減尐して いき、0.51MeV のピークが顕著になってくる。本研究では -200mVthreshold の分布をエネルギー分解能を算出する際に用いたが、 このいくつかのthreshold を設定した中で、一番良い分解能が得られ た。 図30 エネルギー分布(threshold=-100mV) 図31 エネルギー分布(threshold=-150mV) [ADC channel] [ADC channel]
40
図 32 エネルギー分布(threshold=-200mV)
図 32 の本研究の実験結果ではコンプトンエッジが見えていない。こ れは実験において統計的な揺らぎが大きかったためと考えられる。
41 6-2.位置分解能 位置分解能に関してもthreshold との問題がある。4-6 節に示した 実験結果では、やはりthreshold が-7.2mV とディスクリミネ―タの最 低値に設定された場合の結果である。しかし、この結果は妥当な数値 と考えている。なぜなら、シンチレータそのもののサイズから来る分 解能の限界を与えられていると考えられるからである。実験に使用し た無機シンチレータLFS は 3×3×15mm3のサイズを持っており、実 験では対消滅γ線を検出するためにこのシンチレータを対にして、3 ×3mm2の面を対向させて配置した。ここから、2 次元での信号の広 がりはFWHM で 3mm の限界を持つ可能性があるからである。この 結果が妥当とすると、位置分解能はシンチレータのサイズに左右され、 それ以上の分解能を得ることは不可能に思える。 しかし、今回エネルギー分解能測定でthreshold を変化させて再測 定を行うと同時に、位置分解能も再測定した。設定したthreshold の 値は-150mV である。結果を図 33 に示す。 図33 位置分解能(threshold=-150mV) 結果はGaussian で fit されており、
σ=0.31±0.02mm
(FWHM=0.73±0.05mm) となった。これは、この節の冒頭で示したシンチレータのサイズによ る位置分解能の限界を超えさらに良い分解能を与えることを示す。こ こから、threshold を高く設定することにより、図 3 1 のようにデー タの広がりを抑制しGaussian で fit できると仮定したときに、良い分 解能を得ることができると考えられる結果となった。これは、シンチ42 レータ中のコンプトン散乱による信号がthreshold を高く設定したこ とにより抑制された結果であると考えている。本実験では位置分解能 の測定でシンチレータの3×3mm2の面に0.51MeV のγ線が入射する ように検出器を配置したが、この3×3mm2の面の縁辺では、入射 photon がコンプトン散乱によりシンチレータ外に散乱される可能性 が考えられる。このコンプトン散乱の電子によるシンチレーション光 が図23、図 24 の position=0mm を中心として、シンチレータのサイ ズを考慮した時、±1.5mm の部分で信号数を増加させているのではな いかと考察する。6-1 節の図 30、図 31、図 32 を見ると、threshold を上げることによってコンプトン散乱の分布がthreshold の位置でカ ットされていることからもこの可能性がある。さらに、threshold を 高く設定したことにより、検出効率は格段に低下している。例えば、 threshold が-200mV の場合は、150000event で 3~4 時間、データ取 得に要した。これは、PET 装置においては好ましくない傾向である。 つまり検査中に患者をベットに固定しておく時間が長くなるわけであ り、患者のQOL(Quality Of Life)を低下させるにとどまらず、実質的 な効率も悪くなる。検査にかかる時間が長くなればなるほど、検査結 果を出すのにも時間がかかるわけである。それだけ、主に人件費にな るであろうがコストもかかる。PET においてはいかに低コストで高分 解能を得るかというのが一番の問題である。それは低コストな装置と いうだけではなく、現在に至ってはそのシステム全体の問題になって いる。つまり、装置の使用開始から装置使用停止までの総ランコスト が低くなければいけないということである。threshold をどの辺りに 設定するかということで、ここまで話が広がるのかとも思うが、位置 分解能と検出効率はthreshold を介して表裏の関係にある。結論とし ては高位置分解能を得るために、検出効率をどこまで犠牲にできるか ということであろう。現に、threshold を高くすれば分解能は、値と して小さくなる結果を示した。 そこで、検出効率と位置分解能の関係性を明らかにするための追 実験が必要である。それらの関係性が明らかになれば、臨床で求めら れるパラメータを決定することが可能になる。さらには、決まったサ イズの線源を使用し、位置分解能の測定を行わなければならないと考 えている。これにより例えば、1mm の線源を使用したとき、その位置 分解能を測定することにより、PET 装置としての性能を示すことがで きる。これは次のステップである多数の検出器を製作し、実機に近い PET 装置を製作につながる一つの大きなファクターになるであろう。