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(1)

児童買春・児童ポルノ等処罰法の検討(I)

上 野 芳 久 *

Critique od Japan’s Child Protection Law against Child Prostitution

and Child Pornography (1)

Yoshihisa UENO

In 1999, the Child Protection Law against Child Prostitution and Child Pornography was enacted. It was epoch-making in some respect but controversial in others. This article addresses the positive and negative aspects of this law and provides some suggestions on how to improve the law to better protect children.

<目   次 > 一 はじめに (一) 問題の状況 (二) 児童買春と児童ポルノの問題の違い (三) 児童売買の問題 二 本法制定の意義 (一) 処罰の間隙をうめる法 ( 1 ) 児童買春 ( 2 ) 児童ポルノ ( 3 ) 児童売買(以上 本号) (二) 現実的支障を除こうとする法(以下 次号) (三) 子どもの権利を重視する法 (四) 子どもを保護するための法 三 児童買春の刑事規制 四 児童ポルノの刑事規制 五 児童売買の刑事規制 六 おわりに 一 はじめに (一) 問題の状況 特別法は“時代を映す鏡”である。どんな法律でも多かれ少なかれその時々に起きた事件や時代の変化の影響を受 けるものであるが,とくに,対象を特別な事柄に限って制定された特別法はまさに時代の申し子である。 ところで,ここ 5 年くらいの間に,子どもの保護に関する特別法が次々と改正あるいは制定されてきた。① 1997 年 Vol. 37, No. 1, 2003

(2)

の児童福祉法の大改正法 ( 1 ),② 1999 年の児童買春・児童ポルノ等処罰法 ( 2 ),③ 2000 年 5 月の児童虐待防止法 ( 3 ) である。また,④成人を対象とするが特に少女にも被害者が多いストーカー行為を規制する法 ( 4 ),⑤少年法を広い意 味で少年を保護するものと捉えれば 2000 年 11 月の少年法一部改正法 ( 5 ) を,さらに,やや間接的な保護にはなるが, ⑥犯罪の被害者(含子ども)への刑事訴訟手続上の配慮を定める 2000 年 5 月の犯罪被害者対策関連二法 ( 6 ) や,⑦最 近では児童虐待との関連が指摘されているいわゆるドメスティック・バイオレンスに関する 2001 年法 ( 7 ) なども,ここ に数えることができるであろう。 これらの特別法は,いうまでもなく“世間が子どもの保護に大いに注目している現代”を映し出しているのである が,実はその背景には 1994 年にわが国が「子どもの権利条約」を批准したという事実がある。つまり,今や“世界中 が子どもの保護を考えている時代”なのである( 8 )。その意味では,最近の日本における子ども保護法の立法数の多さ は当然のことと言える。 問題は,これらの特別法が十分な効果をもつものなのかである。とくに,児童買春・児童ポルノ等の禁止について は②の法律で刑事罰が置かれたこと,最近では③との関連で児童虐待についても刑事規制が必要なのではないかとい う問題が議論されている ( 9 ) こともあって,れらの子ども保護法が効果的であるためには刑罰も必要なのではないか という点が問題となる。現に欧米では子ども保護に刑事規制を用いている国もある (10)。 本稿では,②の法律に的を絞り,同法の検討を通じて,この問題すなわち子ども保護と刑事法の関係という問題を 考えてみたい。同法については,既に刑事法学者から多くの疑問点が指摘されてきており,また今年(2002 年)から ( 1 ) 「児童福祉法の一部を改正する法律」1997 年 6 月 11 日法律第 74 号。1998 年 4 月 1 日施行。なお,児童福祉法 はその後,何度も改正されている。 ( 2 ) 「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰および児童の保護等に関する法律」1999 年 5 月 26 日法律第 52 号。 1999年 11 月 1 日施行。1990 年以降,とくに 96 年ストックホルム会議から本法制定に至る過程については拙稿 「フランス注釈刑法・未成年者を危険にさらす罪 ( 1 )」湘南工科大学紀要 33 巻第 1 号 120 頁注 ( 4 ) 参照。 ( 3 ) 「児童虐待の防止等に関する法律」2000 年 5 月 24 日法律第 82 号。同年 11 月 20 日施行。本法につき中司光紀 「児童虐待防止法の概要」法律のひろば 2000 年 7 月号 54 頁。 ( 4 ) 「ストーカー行為等の規制等に関する法律」2000 年 5 月 24 日法律第 81 号。2000 年 11 月 24 日施行。 ( 5 ) 「少年法等の一部を改正する法律」2000 年 12 月 6 日法律第 142 号。2001 年 4 月 1 日施行。 ( 6 ) 「刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律」「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する 措置に関する法律」2000 年 5 月 19 日法律第 74 号,第 75 号。2000 年 12 月 1 日施行。刑事訴訟法 157 条の 2157 条の 4 参照。 ( 7 ) 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下 DV 法と略記する)2001 年 4 月 13 日法律第 31号。2001 年 10 月 13 日施行。 ( 8 ) フランスにおける日本と同様な状況については,拙稿「フランスにおける児童ポルノ・児童買春の刑事的規制」 女性空間 16 号(1993 年 3 月),拙稿・注 ( 2 ) 掲載論文参照。 ( 9 ) 児童虐待を何らかの形で新しく犯罪化することに積極的な文献として,安倍哲夫「刑事的アプローチ」萩原・ 岩井編『児童虐待とその対策』(多賀出版,1998 年)295 頁,同「児童虐待の刑事的対応について」北陸法学 7 巻 1 号(1999 年)2 頁,林弘正『児童虐待—その現況と刑事法的介入』(2000 年)152 頁以下,中谷瑾子「児童虐 待の現代的意義と修正を必要とする昨今の事情」現代刑事法 2000 年 10 月号 8 頁注 ( 2 ),拙稿「被害少年の刑法 的保護 – フランス刑法を参考にして –」新倉・横山編『少年法の展望〔澤登俊雄先生古稀記念論文集〕』(現代人 文社,2000 年 3 月)。岩井宣子「児童問題への刑事規制のあり方」ジュリ 2000 年 11 月 1 日号も刑事規制に前向 きである。消極的な文献として,瀬川晃「児童虐待と刑事規制」現代刑事法 2000 年 10 月号 42 頁。なお,必ずし もどちらか明確ではないが,後藤弘子「児童虐待防止法の成立とその課題」現代刑事法 2000 年 10 月号 52 頁,同 「児童虐待防止法と刑事規制」松原・山本編『児童虐待 – その援助と法制度 –』(エディケーション,2000 年 12 月)も刑事規制を検討している。とくに,前者の後藤論文は,児童虐待防止法につき,見直しの際,刑事的対応 を含む視点で検討すべきことを指摘している,後藤・同 52 頁。 (10) アメリカ,ドイツなどにつき「第 3 章 外国における児童虐待の実態と対応策」萩原・岩井編『児童虐待とそ の対策』(多賀出版,1998 年)209 頁以下。フランスにつき拙稿「被害少年の刑法的保護 – フランス刑法を参考に して –」新倉・横山編『少年法の展望〔澤登俊雄先生古稀記念論文集〕』所収(現代人文社,2000 年)参照。

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見直しが予定されている (11) ので,緊急に検討すべき問題でもある。 なお,筆者は,同じ問題意識から既に本法につき若干の検討を試みたことがある (12) が,本稿は,前論文では紙幅 の関係で論じえなかった問題点を検討することを主目的とする。形式を整えるためにどうしても重複する部分が出て くるが,そこはできるだけ前論文に譲ることにする。 (二) 児童買春と児童ポルノの問題の違い 児童買春・児童ポルノ禁止法(以下本法という)を検討するにあたって,まず気になるのは,児童買春禁止と児童 ポルノ禁止を「一つの」法律で規定している点である。 たしかに,犯罪学的現象としては,たとえば児童買春をした者がその児童を使ってポルノを製作するというように, 児童買春罪と児童ポルノ罪が同一場面で発生することが多い。また,たとえば成人が児童に買春をさせた場合であろ うと,ポルノの被写体にさせた場合であろうと,どちらも大人が児童から搾取している(性的搾取)という点で同じ 問題だとも言える。だからこそ国際社会も両者を一緒に扱ってきた。たとえば,1996 年のストックホルムの大会も「商 業的性的搾取に反対する世界会議」とされていたし,その実現に大きな役割を果たしたエクパット (ECPAT) の行動を 見てもそうである。立法技術的にも両者を同一法典で取り上げれば両者に共通の規定を置けるため効率が良いとされ, 事実,外国の立法の中にも両者を一緒に扱うものもある (13)。したがって本法のような立法形式にも一理はある。 しかし,私は,児童買春の問題と児童ポルノの問題とは明確に分けて論ずる方が良いと考える (14)。少なくとも刑事 規制の問題を検討する場合には分けるべきである。なぜなら,第一に,両罪の法的性質は異なっており,およそ両者 の理論的関連は薄いからである。たとえば,買春行為については,売春行為がすぐ念頭に浮かび,「売春防止法」が比 較として参照されているのに対し,ポルノについては,猥褻図画との関連で「刑法」が比較参照されている (15) が,こ のことからも両罪の関連性が薄いことが推測されよう。逆に,両者を一緒に論じようとすると問題が複雑になったり (16),問題の所在が曖昧になるように思われる。第二に,立法技術的にもメリットはそれほど大きくない (17) し,外国の 立法の中にも両者を別々に扱うものも多い (18) からである (11) 児童買春・児童ポルノ禁止法は施行後 3 年後(=2002 年)を目途に検討が予定されている。(附則 6 条)。その 他,児童虐待防止法は施行後 3 年後(2003 年)(附則 2 条),ストーカー法も施行後 5 年後(2005 年)(附則 4),DV 法も施行後 3 年後(2004 年)(附則 3 条),少年法一部改正法についても施行後 5 年後(2006 年)(附 則 5 条)に見直しが予定されている。 (12) 拙稿「児童買春と児童ポルノの刑事規制」『佐々木史朗先生喜寿祝賀 刑事法の理論と実践』(第一法規,2002 年 11 月)所収。 (13) たとえば,ベルギーの 1955 年 4 月 13 日法,アメリカ合衆国の 1994 年 3 月 9 日法案(後に 1994 年 9 月 13 日法 中に採用された)。以上につき,外国の立法 1996 年 11 月号 87,88 頁参照。イタリアの 1998 年 8 月 3 日法につ き,森下忠・法令ニュース 99 年 8 月号 41 頁。 (14) さらに,後述するように児童の人身売買罪も分けて論ずべきである。(三)参照。 (15) たとえば,木村光江「児童買春等処罰法」ジュリ 1999 年 11 月 1 日号 64 頁以下。 (16) 同趣旨,園田 寿『解説 児童買春・児童ポルノ処罰法』(日本評論社,1999 年 12 月) 25 頁。 (17) 本法は,法の目的(1 条),児童の定義(2 条①項),適用上の注意(3 条),人身売買罪(8 条),児童の年齢の 知情(9 条),国外犯(10 条),両罰規定(11 条),児童の権利保護の具体化する規定(1217 条)を,共通の問 題として規定している。しかし,第一に,最後の 1217 条の規定を除けば,立法技術的な効率上の利点はそれほ ど大きくないように思われる。2 条の定義規定などは,①項の「児童」を共通項として,②項「児童買春」と③ 項「児童ポルノ」を並べただけだし,その後に,46 条に児童買春の規定,7 条に児童ポルノの規定,と相互に 無関係な規定が並んでいる。むしろ個別に法典化した方が読みやすい。とくに法の目的は別々にそれぞれの特徴 を生かして明確に規定すべきであろう。第二に,1217 条についてであるが,これらは,何も児童買春・ポルノ 犯罪に限定されるべきことではなく,より広く犯罪全般における子どもの保護に関する規定である。したがって, むしろより一般的な形で(たとえば刑事訴訟法などの基本的な法典に)規定すべきで,技術的にもその方がはる かに効率的であろう。 (18) たとえば,フランス,ドイツ,ノルウェーなどは別々の構成要件で罰している。実は,前注 (13) のベルギー法, アメリカ法も同一の法律で改正したが,結局は別々の条文を立てている。同注 (13)・外国の立法 122 頁以下,152 頁以下。

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そこで本稿では,章を分けて,それぞれの問題点を検討することにする (19)。 (三)児童売買の問題 本法は,児童買春罪,児童ポルノ罪のほかに,児童買春における性交等の相手方とさせる目的または児童ポルノを 製造する目的で,当該児童を売買する罪(以下,児童売買罪という)(8 条①項),同じ目的で,外国に居住する児童 で略取・誘拐・売買されたものをその居住国外に移送する罪(以下,児童国外移送罪という)(同②項)についても規 定している。東南アジア等において,現実にこのような行為が行われている実態に対処しようと置かれた規定である (20)。現行の日本刑法では,人身売買罪は日本国外移送目的の場合にのみ成立する(226 条前段)ので,児童買春目 的・児童ポルノ製造目的の場合は含まれない。また,国外移送罪も日本国外に移送する場合のみ(同条後段)を罰し ているので,たとえばタイ国の児童を日本に移送する場合は罰せられないことになってしまう。そこで,新しく両犯 罪が創設されたわけである。 これらの犯罪もおそらく児童買春や児童ポルノ製造と関連して事件が発生することが多いところから本法に規定さ れたものと思われるが,やはりこれらについても,前節(二)と同様に,刑事規制の問題を検討する場合には分けて 論じられるべきである。理由も前節と同様で,第一に,犯罪の法的性質が前二罪と異なるし,第二に,立法技術的な メリットはそれほど大きくないからである。立法論的にはむしろ弊害とさえ言えるかもしれない。たとえば,児童人 身売買については,本法は児童買春や児童ポルノ製造との関連だけを処罰対象としている (21) が,現実にはそれだけ ではなく,強制労働目的,臓器提供目的などの児童人身売買も横行していることは既に知られているところ (22) であ る。したがって,本来ならそこまで含めて人身売買からの児童保護を考えるべきである。 そこで本稿では,児童売買についても章を分けて検討することにする(→四参照)。 二 本法制定の意義 ある研究会で“何も新たに本法を制定しなくても,従来の法律の運用で対応できたのではないか”という意見 (23) が聞かれた。理論的には既存の法律で児童買春等の行為を罰することはできたはずだという趣旨であろう。たしかに 一部については運用でより有効な対処ができたのかもしれない。しかし,当然のことながら,既存法だけでは必ずし もすべての行為を罰することはできなかった。だからこそ立法化されたのである。しかも,それだけではない。本法 制定にはいろいろな面から見て他にも重要な意義があったのである。本法の詳しい検討に入る前に,まず本法を制定 したこと自体の意義を確認しておきたい。そうすることにより本法の問題点も浮かびあがってくるように思われる。 (一)処罰の間隙をうめる法 本法制定の何よりも大きな意義は,本法により,既存の法令では罰することができなかった行為を罰することがで きるようになった点にある。たしかに,本法施行前にも児童買春や児童ポルノは,たとえば刑法,児童福祉法,淫行 処罰条例などによって,一定の範囲で処罰されていた。しかし,これから見ていくように,やはり既存法令だけでは 処罰に間隙があったのである (24)。以下,児童買春,児童ポルノ,児童売買に分けて,どんな間隙があったのか,本法 がその間隙をどううめたのかを具体的に見ていく。 (19) たとえば,後注 (26) の西田 鎮目,岡本勝「『児童買春等処罰法』雑感」刑政 1999 年 9 月号 76 頁,木村・前 注 (15) 論文も,意識してかどうかは不明だが,両者を分けて論じているように読める。 (20) 森山真弓『よくわかる児童買春・児童ポルノ禁止法』(ぎょうせい,1999 年 11 月)62 頁。 (21) なぜなら,本法は,児童買春や児童ポルノに係わる行為を規制して,児童の権利の擁護に資することが目的な ので,その 2 つの目的の児童人身売買のみを処罰することにされたのである。森山・前注 (20) 62 頁。 (22) 森山・前注 (20) 62 頁,ユニセフのパンフレット参照。 (23) 同様の意見は,さまざまな新立法の際に出てくる。暴力団対策法についても同様の意見があった。後注 (70) 参 照。このような意見には,それまでの法執行機関の消極的姿勢に対する批判という意味をもつものと,本当に新 法は不要だ(不当だ)とする意見と二通りあるが,多くの場合,前者であるように思われる。 (24) 池田泰昭「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の制定について」警察学 論集 52 巻 9 号(1999 年 9 月)123 頁。

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( 1 ) 児童買春 【刑法】児童買春をする行為に対しては,まず刑法典の強制わいせつ罪(176 条),強姦罪(177 条),以上の未遂罪 (179 条) の適用が考えられるが,第一に,13 歳以上の者に対する買春行為だった場合は,条文上「暴行・脅迫」を伴 うことが要件である。それを伴わない場合,あるいは本人の承諾があった場合には上記の罪として罰することはでき なかった (25)。しかし本法によって,18 歳未満の子を対象とする場合には買春行為がすべて禁止・処罰されることに なった (26)。その結果,たとえば国内で社会問題化した「援助交際」に対しても,本法が一定の機能を果たしうること になった (27)。 第二に,13 歳未満への場合には,第一の場合のように「暴行・脅迫」がなくても,あるいは本人の承諾があっても, 上記の刑法犯罪が成立することになる。しかし,国際的に最も問題とされた海外での児童買春についてはうまく機能 しなかった。上記犯罪については国外犯処罰規定がある(3 条 5 号)ので,理論的には罰することはできるはずだった が,現実には,海外で児童買春をした日本人を実効的に処罰することは事実上困難だった (28)。なぜなら,上記二罪は 親告罪とされている(刑 180 条)うえ,告訴期間が 6 月しかない(刑訴 235 条)ので,とくに遠隔地にいる外国の子 どもは事実上告訴できず泣き寝入りするしかなかった (29) からである。また,外国との捜査協力も不十分 (30) で,裁 判制度等の違いもマイナス要因となったからある。そこで本法は,児童買春罪を親告罪とはせず (31),公訴を容易にし て状況を改善しようとしている。また,外国との捜査協力についてもわざわざ推進に努める旨の新規定を置いた(17 条)(32)。何とか海外で児童買春をした日本人を事実上も処罰できるようにしようとしたわけである (33)。 「暴行・脅迫」の代わりに,その者の心神喪失・抗拒不能に乗じるか又はその状態に陥らせて,13 歳以上の児童に対 して買春行為が行われた場合には,準強制わいせつ・準強姦罪(178 条) ,同未遂罪(179 条) が成立する可能性も ある。しかし,心神喪失・抗拒不能の要件を欠く場合は成立しないので,より広く罰するためには本法が必要となる。 13歳未満の者に対する場合は,上記二罪の条文(176 条,177 条)が適用され (34),前述した海外での買春処罰の困難と いう問題が生じ,やはり本法が必要となる。 (25) 池田・前注 (24) 123 頁。本人の承諾があれば暴行脅迫はないことになる。所・後注 (34) 298 頁。 (26) 坪井節子「子ども買春・子どもポルノ禁止法」法セミ 1999 年 9 月号 55 頁。 (27) 西田典之 鎮目征樹「児童の性的保護—児童買春・児童ポルノ処罰法の成立を契機に」法学教室 1999 年 9 月 号 34 頁はそういう機能を果たすことを期待する。もっとも,援助交際は必ずしも本法制定の直接の動機とはい えなかった。立法過程で,日本国内の女子中高生買春問題も射程内におかれることになったのである。本法運用 上の大きな問題のひとつが,ここから生じる,という指摘もある。坪井・前注 (26) 55 頁。 (28) 園田・前注 (16) 2 頁。 (29) 中原・月刊社会民主 2000 年 3 月号 17 頁。なお,強姦致傷(181 条)に至れば非親告罪だが,証拠の収集に時 間がかかるなどやはり立証には相当の困難が伴うとされる。境分万純「児童買春・ポルノ禁止法の意義と課題」 世界 1998 年 6 月号 36 頁。もっとも,これまで告訴・公訴が皆無だったわけではない。NGO や弁護士の懸命の努 力によって告訴・公訴が行われ,有罪とされた例もある。境分・前掲 36 頁,坪井・前注 (26) 54 頁,中原・前注 (29) 17頁。 なお,本法適用例として,島戸純「実務刑事判例評釈〔100〕」警察公論 2002 年 12 月号 53 頁に,ICPO ルート を利用して捜査をした 2 件の大阪地裁判決(有罪)が紹介されている。ただし,1 件目は児童ポルノの事例。 (30) 国際刑事警察機構 (ICPO) 経由の公式ルートでは,照会に 1 カ月,書類取り寄せに 6 カ月はかかってしまうとい われている。境分・前注 (29) 36 頁。 (31) 本法が児童買春罪を親告罪としなかった理由として,海外での買春については,加害者やその背後組織からの 報復を恐れて告訴ができないこと,保護者に対する金銭的示談で告訴を取り下げさせることなどが,通常の性犯 罪以上に予想されることが考慮された。園田・前注 (16) 2 頁。 逆に,親告罪とされなかったことにより,被害者が傷つかないようにする配慮はより強く求められることにな る。その意味では依然としてまだ問題は残っている。中原・前注 (29) 17 頁。 (32) この問題については,児童ポルノに関するものだが,井上泰浩「インターネットの子供ポルノ――国際規制と 摘発の可能性」法学セミ 2000 年 5 月号 68 頁が有益である。国際規制の重要性とその実現の可能性を説く。 (33) ちなみに,13 歳未満の者に対する買春行為の場合や,14 歳以上の児童に対償を供与したが児童本人の同意が ない場合には,本法の犯罪のほかに強姦罪,強制わいせつ罪が成立することになるが,その場合は,法条競合と して,重い後者が成立する。木村・前注 (15) ジュリ 68 頁。 (34) 13歳未満の者の心神喪失・抗拒不能に乗じた場合には,本条ではなく,前 2 条の後段が適用されると考えるべ きであろう。所一彦『注釈刑法 ( 4 )』(有斐閣,1965 年 8 月)302 頁。もっとも本条を用いた判例もある。同書同頁。

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さらに,児童買春行為をさせた者に対しては,淫行勧誘罪(182 条)の可能性も考えられる。しかし,この罪は「営 利の目的」で行われること,客体は「淫行の常習なき婦女」(35) であること,が要件であり,行為としては勧誘して姦 淫させる(未遂は不可罰)ことが必要である。また,この罪の「淫行」は性交のみで性交類似行為を含まないと解さ れている (36)。したがって,児童買春行為の勧誘行為がこの罪で罰せられるとしても,それはかなり限定されるであろ う (37)。ちなみに,児童買春行為をした者についても,本条の共犯が成立する可能性はありうるとされている (38)。しか し,勧誘されて姦淫した婦女(児童)は,共犯の要件を備えても処罰されないと解されている (39)。 なお,本法により,児童買春の相手にする目的で児童を売買した者は罰せられることになった(8 条。詳細は後述)。 また,原則として,児童を使用する者は,児童の年齢を知らないことを理由に児童買春周旋罪(5 条)および児童買春 勧誘罪(6 条)の処罰を免れることができない規定(9 条),両罪についての法人処罰規定(11 条)が置かれたので, その範囲で,処罰範囲が拡大した。以上はいずれも従来の刑法では処罰できなかった行為である。 【旅行業法】海外での児童買春については,かつて日本の旅行代理店が東南アジアへの買春ツアーを組むことが問題 になった。そこで 1979 年,旅行業法が改正され,旅行業者等又はその代理人,使用人その他の従業者は,その業務に 関連して「旅行者に対し,旅行地において施行されている法令に違反する行為を行うことを斡旋し,又はその行為を 行うことに関し便宜を供与すること」等が禁止された(13 条③項)。これにより,日本の旅行業界関係者が買春を斡旋 することはできなくなった。旅行業法に違反すると 6 月以内の業務停止命令,または登録取消をすることができるの で,旅行業者はそういう圧力も受けることになったわけである (40)。ただ,この 13 条③項には罰則規定が置かれなかっ たし,現地の業者が個人として買春を斡旋することも続いて行われてしまっていた (41)。しかし本法が児童買春の周旋 罪・勧誘罪(5 条,6 条)を新設し国外犯も罰する(10 条)としたので,今後,日本人のツアー業者がこれらの罪に問 われる可能性が出てきた。 【児童福祉法】児童福祉法 34 条①項 6 号は「淫行をさせる行為」を禁止し処罰対象としているが,児童買春行為を した者(児童の相手方)をこの条文で処罰できるのか。 この結論は,6 号の解釈が分かれているので,その解釈の仕方により異なってくる。一般には,6 号の「させる」と いうのは使役行為であって (42),淫行の相手方となった者については成立しないと消極に解されてきた。本稿も消極説 (35) 文言上は 13 歳未満の婦女も含まれるが,13 歳未満の婦女に対して本罪を犯すときは強姦罪が成立するので, 本罪はこれに吸収され,本条適用の余地はないと解されている。所・前注 (34) 322 頁, 323 頁。もっとも,古い 判例は本罪の成立を認め,学説の多くもこれに同調していた。同書同頁。 (36) 亀山継夫「児童に淫行をさせる罪(その一)」研修 346 号(1977 年 4 月)44 頁。 (37) もともと淫行勧誘罪については,児童福祉法 34 条 6 号や売春防止法 7 条などの規定で足りるので不要と解さ れている。たとえば中森喜彦『刑法各論(2 版)』(有斐閣,1996 年 3 月)69 頁,西田典之『刑法各論』(弘文堂, 1999年 4 月)69 頁。 (38) 姦淫の相手は,情を知っていただけでは罰せられないが,たとえば姦淫の決意を生じさせる行為に加巧したと きは共犯となるとされている。所・前注 (34) 323 頁。さらに同書は,自己を相手として勧誘させる行為も本罪を 構成するであろう,とされる。 (39) 所・前注 (34) 322 頁。 (40) 森山・前注 (20) 113 頁。 (41) 森山・前注 (20) 12 頁。 (42) ただし従来の判例では,使役の意味は非常に緩く,児童の淫行を利用する行為ないし助長する行為があれば足 りると解されている。したがって,たとえ淫行自体が児童の自発的な意思に基づく場合であっても,児童に対し 「事実上の影響力を及ぼして」淫行を助長する行為があれば本罪が成立する。亀山継夫「児童に淫行をさせる罪 (その二)・完」研修 347 号(1977 年 5 月)58 頁,小泉祐康「児童福祉法」『注解特別刑法 7〔第二版〕』(青林書 院,1988年 1 月)39 頁。澤新=長島裕「児童福祉法」『注釈特別刑法 8 巻』(立花書房,1990年 11 月)787 頁も同旨。 ちなみに,西田=鎮目・前注 (27) 37 頁は,「単純に相手方になる行為は,たとえ対賞の供与・約束を伴う場合 でも除かれるべき」で,その場合には本法を適用し,児童福祉法は,児童に対し「何らかの支配関係が成立して いる場合に限定するのが妥当」だとされ,できるだけ本法と児童福祉法が競合することを避けることを主張され ている。後注 (47) 参照。

(7)

が妥当と解する (43) が,この立場からは,6 号では児童買春行為をした者を罰することはできないことになる。 しかし,淫行の相手方を含むとする積極説 (44) に立てば,もともと児童福祉法でも買春した者を罰することができた ことになる。ただし,「させる」という使役行為がない場合には 6 号を適用できないので,買春した者すべてが処罰対 象となるわけではなかった (45)。これに対して本法の児童買春行為は,使役行為がなくても,一定の者に対賞を供与し ているなら,児童に対する性交等の行為によって成立する。 したがって,結局,いずれの立場に立っても,本法によって,児童福祉法の上記規定では処罰できなかった者を罰 することができるようになったと言えよう。特に,消極説から見た場合には,本法制定の意義はより大きかったとい うことになる。 もっとも,念のために付言しておけば,たとえば教師がその優越的地位のみを利用して児童に性交をしたような場 合には,対賞を供与したとは言えないので本法によっても罰しえない (46)。つまり,本法は児童と性交等に及んだ成人 すべてを処罰対象にしたものではない。上記積極説に立てば,むしろこの場合には逆に児童福祉法が登場してくるこ ともありうる。 なお,積極説に立てば,本法の罪と児童福祉法の罪とが同時に成立する可能性で出てくる。消極説でも,6 号ではな く 9 号が成立する場合はありうるので,両罪の関係が問題となってくるが,1 個の行為で両者が同時に別々に成立しう (43) 「させる」の解釈ともからむ問題だが消極に解すべきと思う。6 号はもともと旅館・芸妓置屋などの経営者が児 童に淫行させるような場合を想定した規定であることは明白だからである。児童福祉法 34 条の立法経緯を見て も,立法者は文字通り「させる」ことを前提にしている。児童局「児童福祉法案逐条説明(答弁資料)」児童福 祉法研究会編『児童福祉法成立資料集成上巻』(ドメス出版,1979 年 2 月)804 頁。また,6 号以外の各号と比べ てみても,①項に列挙されている行為は,誰かが児童に何かを「させる」形の行為がほとんどだし,もし自ら淫 行の相手方になる場合を想定していたなら,2 号が「こじきをさせ」る行為のほかに,児童を利用して「こじき をする」行為を規定しているように,「淫行をする行為」と明文化していたであろう。 従来の判例も相手方を含まないと消極的に解しているとされていた。澤 長島・前注 (42) 790 頁。学説では, 同論文 790 頁のほか,安倍哲夫「児童福祉法 34 条 1 項 6 号の『淫行をさせる』行為の意義」北陸法学 7 巻 2 号 (1999 年 9 月)76 頁も消極説をとる。 (44) 相手方を含むとする積極説として,たとえば亀山・前注 (36) 62 頁,小泉・前注 (42) 39 頁,安西温『改訂特別 刑法 4』(警察時報社,1991 年 4 月)127 頁。なお判例は,前注のとおり,消極説とされていたが,最近では積極 説に立つ下級審裁判例が多くなっていた。そんな中で,最高裁は,英語教師の被告人が教え子の児童に自慰行為 をするに至らせた場合も該当するとした(最決平成 10 年 11 月 2 日刑集 52 巻 8 号 505 頁,判時 1663 号 149 頁)。 この決定は,行為者自身が淫行の相手方となる場合を広く「淫行をさせる」にあたると積極に解したものだとす る説が多い。西田=鎮目・前注 (27) 37 頁,木村光江「児童買春・児童ポルノ処罰法」法律のひろば 1999 年 12 月号 40頁,園田・前注 (16) 18 頁,39 頁。しかし,そこまでは判断していないという指摘もある。安部・前注 (43) 75 頁。 (45) 池田・前注 (24) 123 頁。 (46) 園田・前注 (16) 22 頁。

(8)

ると言えよう (47)。 【青少年保護育成条例】このように児童福祉法では買春をした者を罰することが困難だったが,多くの地方公共団体 はいわゆる青少年保護育成条例を制定し,青少年(18 歳未満)に対する買春行為その他淫らな行為を罰する淫行処罰 規定を置いていた (48)。その限度で児童福祉法の淫行罪で罰しえない行為(法の間隙)をうめていたわけである (49)。 ところが,長野県のようにそういう条例を置いていないところもあったし,条例を制定している場合でも,その規 制内容は各地方公共団体によって異なっていた。たとえば,処罰の対象となる行為については,広くわいせつまたは 淫らな行為を罰する条例(北海道,福岡県などほとんどの県)と,制限的に,対賞を供与する等して性交または性交 類似行為を罰する条例(東京都)とがある (50)。法定刑については,2 年以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(青森県, 群馬県など),1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金(岩手県,東京都など),6 月以下の懲役又は 50 万円以下の罰金 (福島県,大阪府など)などの条例に分かれる。青少年の意義については,上限は 18 歳未満だが,下限につき特に規 定しない条例(東京都,大阪府など)と,6 歳以上(宮城県,栃木県など)とか小学校就学の始期から(神奈川県,千 葉県など)とか規定する条例がある (51) 。しかし,このように同じ行為が場所によって処罰されたりされなかったり というのは好ましくないし,科せられる刑罰が異なるというのも問題である。 本法は,このバラバラな状態を統一し,有償の買春行為を全国一律に罰することにした。しかも刑罰を 3 年以下の 懲役又は 100 万円以下の罰金と重く定めたのである。結局,本法は,法(児童福祉法)の間隙を十分にうめきれなかっ た法(条例)の間隙を更にうめたことになる。 (47) 本法の買春行為と児童福祉法の罪との関係については,本法と児童福祉法とではその処罰根拠を異にするので, 両方の罪がともに成立することもありうると説明されている。森山・前注 (20) 110 頁。両法の処罰根拠の違いは より細かく検討する必要がありそうであるが,いずれにせよ両罪の競合関係が生じる場合が考えられる。その場 合は,より重い後者が適用されることになる。木村・前注 (44) ひろば 40 頁。 もっとも,6 号が特に重く罰せられているのは,児童を事実上支配する経営者が淫行を助長する場合だからで あって,上記注 (44) の最高裁決定において児童福祉法が適用されたのも,被告人が教師であったことが重視された からだとする説もある。この説からは,「一般の買春にはそのような支配関係,優越的地位関係が認められない ことが多いと考えられるから,買春行為一般に児童福祉法を適用すべきではない」ことになる。木村・前注 (15) ジュリ 67 頁,同・前注 (44) ひろば 40 頁。この説は,おそらく前注 (27) の西田=鎮目説と同じく,6 号の刑罰が 非常に重いことを考慮して,できるだけ本法と児童福祉法との棲み分けを考えていこうという説であろう。園 田・前注 (16) 41 頁も同旨。 たしかに 6 号の刑罰は「10 年以下の懲役・ 50 万円以下の罰金」(60 条①項)と,他の号の刑罰が「1 年以下の 懲役・ 30 万円以下の罰金」(60 条②項)であるのに比べて,格段に重い。重いことの説明として,上記の棲み分 け説の説明は一応納得のいくものであり,消極説の立場からも取り得る解釈だと思う。しかし,それだけではな く,6 号が重いのはあくまでも児童に「淫行をさせる」ことが主たる理由であることを忘れてはなるまい。澤 長島・前注 (42) 786 頁。したがって,本法と児童福祉法との棲み分けは,次のように考えるべきである。(A) 6 号は, 旅館・芸妓置屋などで継続的反復的に行われることが多い形態( 支配関係,優越的地位関係が認められる形 態)を想定しているのであるから,そういう形態( 関係)を利用して児童に「淫行をさせる」行為をした場合 には,児童福祉法により重く罰せられる,(B) しかし,そういう形態( 関係)を利用しないいわば単発的な買 春行為については,今後は本法で対応していくべきだ(今までは無理に 6 号の適用を考える場合もあった),と。 なお,ここでは,回数を問題にしているのではないので,(A) の 6 号違反の場合であっても行為が 1 回あれば 成立することはありうる。澤 長島・前注 (42) 790 頁。 (48) 園田・前注 (16) 78 頁以下に各都道府県の条例抜粋リストがあり,状況を概観し比較するのに大変便利である。 (49) 条例という性質だけからみても,条例は児童福祉法に対しては補充法的性格を有するといえる。亀山・前 (42) 56頁,59 頁。なお,藤本哲也「第 2 章 青少年保護育成条例における淫行の概念」『刑事政策の諸問題』(中大 出版会,1999 年 3 月)は,条例と児童福祉法,刑法,売春防止法との各関係を検討された後,条例が各法では処 罰できない行為の処罰を可能にしたとされる。そして,多少疑問が残るものの,現在の有害な社会環境の下では 青少年保護の必要を痛感するので,「法律による規制よりも条例による規制の方が,現時点においてはベターな 方法ではないか」とされ,「青少年保護育成条例による淫行処罰規定は,他の刑罰法規の間隙を埋める役割を見 事に果たしている」と青少年保護育成条例を積極的に評価されている。 (50) 西田 鎮目・前注 (27) 36 頁。 (51) 以上,園田・前注 (16) 78 頁以下のリストによる。

(9)

法律は条例に優先し,法律で処罰される行為を条例で重ねて処罰することは認められないので,本法は,各条例で 定められた淫行処罰規定,買春処罰規定のうち,本法と競合するものについては本法施行と同時に当然に失効するこ とにした(付則 2 条 I 項)(52)。つまり有償による場合は廃止されることになったわけであるが,しかし買春行為が無 償でなされた場合については,本法は登場しないので依然として条例で処罰することも可能で,その判断は各地方公 共団体に委ねられることになった(53)。 【売春防止法】売春については,大きく分類すると,犯罪として関係者すべてを処罰する処罰主義,一定の条件で公 認する規制主義,廃止をめざして業者を処罰する廃止主義,そして,非犯罪化を要求するセックス・ワーク論という 四つの考え方があるといわれている (54)。世界諸国の法制もさまざまであるが,日本の売春防止法は,売春を「禁止」 するのではなく「防止」する,しかも,売春行為自体を罰することによってではなく,売春を「助長する行為」を処 罰することによって,売春の防止を図るものである (55) から,廃止主義に立つ (56) と言える。売春の主体については 条文上特に制限はない (57) ので,売春防止法は児童にも適用可能であるが,「何人も,売春をし,又はその相手方と なってはならない」(3 条)という規定に違反した場合の罰則規定は置かれていない。したがって,児童買春行為が あったとしても,児童 (58) はもちろん,買春した者も売春防止法で罰せられることはなかったわけである (59)。しかる に本法は,売春防止法で言ういわゆる単純売春にすぎない場合でも,買春した者(売春の相手方となった者)を罰す ることにしたのであるから,見方によっては,児童買春に限るとはいえ,我が国の売春法史上初めて売春の客(相手 方)を罰することにした画期的法律といえるであろう (60)。 他方,売春防止法では,売春をさせる業(12 条), 資金等の提供 (13 条), 場所の提供(11 条), 困惑等による 売春(7 条), 周旋(6 条)など,売春を「助長する行為」をした者は罰せられる。したがって,本法が処罰する児童 買春を周旋した者(本法 5 条①項),それを業とする者(同②項)や,周旋目的で児童買春を勧誘した者(本法 6 条① 項),それを業とする者(同②項)は,売春防止法でも一定範囲で処罰可能であった (61) と言えよう。だが,業とする者 を罰する売春防止法 12 条はいわゆる管理売春を罰しようとする (62) もので,業とする者が売春する者を「自己の占有し, 若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ」ることが要件とされており,またそれだけに刑罰も重い (52) 池田・前注 (24) 140 頁。 (53) 木村・前注 (15) ジュリ 67 頁。 (54) 平野裕二「子どもの性的自己決定権をめぐる諸外国の動き」宮台真司編『<性の自己決定>原論』(紀伊國屋 書店,1998 年 4 月)230 頁以下,若尾典子「買売春と自己決定—ジェンダーに敏感な視点から」ジュリ 2003 年 1 月 1 日 – 15 日号 185 頁参照。 (55) 佐藤文哉「売春防止法」『注解特別刑法 7〔第二版〕』(青林書院,1988 年 1 月)9 頁。 (56) 国連の条約やフランスも廃止主義を取っている。平野・前注 (54) 230 頁。 (57) 2条の売春の定義に主体の限定はない。また 3 条も「何人も」としている。佐藤・前注 (55)18 頁。 (58) しかし,たとえば売春をしようとする者(児童)が勧誘等(5 条)を行うと処罰される。売春行為それ自体は 罰しないが,勧誘等の行為は,売春行為それ自体の違法性とは直接には関係のない風紀の取締と公衆への迷惑防 止という観点から,処罰されるのである。佐藤・前注 (55) 32 頁。 (59) 前注のとおり売春者は一定の場合罰せられるが,買春者は罰せられない。売春防止法は「売る側の責任を問う ても買う側を野放しにする」と言われる所以である。境分・前注 (29) 37 頁。 (60) 売春防止法の沿革をみると,何度か売春の相手方を処罰する法案は提出されたことがあるが,実際に相手方を 処罰する法律が成立したことはない。佐藤・前注 (55) 1 頁以下,松浦恂「売春防止法」前注 (42) 掲載『注釈特別 刑法 8 巻』 681 頁以下。尤も,昭和 22 年 1 月 14 日の勅令は相手方を罰するようにも読める。しかし立法の流れ からするとそういう趣旨ではないであろう。 ちなみに,日本と同様廃止主義に立っていたフランスでも,児童買春問題を契機に,1994 年 2 月 1 日法で,児 童売春の場合には相手(客)を罰する規定を刑法典の中に置くことにした。これにつき,あるフランスの文献は 「フランス売春法史上初めて」と指摘していた。拙稿・前注(2)湘南工大紀要 144 頁,145 頁参照。 (61) 立法者の座長であった森山真弓議員の前注 (20) 掲載書には,5 条(児童買春周旋),6 条(児童買春勧誘)のそ れぞれの解説のあとに,参考条文として,売春防止法 6 条 I 項,12 条と,6 条 J 項 1 号,12 条とが掲載されてい る。同書 54 頁,56 頁。立法者は,これらの参考条文が,売春防止法上で本法 5, 6 条に対応する規定と考えてい たと推測できる。 (62) 佐藤・前注 (55) 74 頁。

(10)

(10 年以下の懲役及び 30 万円以下の罰金)。これに対して本法はこういう要件を規定していない。それだけ広く周旋 業,周旋目的勧誘業を罰することができるようになったわけで,刑罰もかなり軽くなっている(5 年以下の懲役及び 500万円以下の罰金)。本法と売春防止法の違いは刑罰にも現れている。本法は,周旋者と周旋目的勧誘者を,売春防 止法(2 年以下の懲役又は 5 万円以下の罰金)の場合より重く罰することにしている(3 年以下の懲役又は 300 万円以 下の罰金)。買春する者の相手方が児童であることが考慮されたものであろう。 ところで,児童福祉法も青少年保護育成条例も児童や青少年の保護を考えた法律であるが,売春防止法も売春婦の 保護を考えている。売春婦を加害者ではなくむしろ社会の犠牲者とみている(63)のである。しかし,それぞれの法の保 護の程度・方法は異なる。売春防止法は,売春婦に対する保護更生措置を規定し,要保護女子の早期発見とその指 導・保護を与えることにし,さらに昭和 33 年には,5 条の罪を犯した者に対する補導処分を導入し(17 条以下),要 保護女子の保護と社会復帰をめざした (64)。本法も児童を保護する法(1 条参照)であって,この点ではこれらの法と共 通であるが,本法は,後に詳しく検討する予定だが,児童買春をした者を罰することを直接の目的としており,その 処罰を通じていわば反射的に被害児童の権利を保護する法であると考えられるので,被害を受けた児童に直接働きか ける「補導」・「指導」などは想定していない (65) と思われる。したがって,この点では売春防止法と大きく異なる。 【風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律】この法律(以下,風営法という)により,風俗営業を営もう とする者は都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(3 条)のだが,公安委員会は,次の場合には,営業の 許可をせず又は営業の停止を命ずることができる。第一に,風営法の無許可・不正許可等の罪(49 条①項),公然わい せつ罪(刑法 174 条),わいせつ物頒布罪(同 175 条),淫行勧誘罪(同 182 条),賭博罪(同 185 条),常習賭博等の 罪(同 186 条),売春防止法 2 章の罪を犯し,1 年未満の懲役若しくは罰金に処せられ,その執行を終わり,又は執行 を受けることがなくなった日から 5 年を経過しない者には,公安委員会は営業を許可してはならない(4 条①項)。第 二に,性風俗特殊営業を営む者等が,営業に関し,風営法の罪(49 条③項 7 号及び 8 号の罪を除く)・公然わいせつ 罪(刑法 174 条)・わいせつ物頒布罪(同 175 条)・淫行勧誘罪(同 182 条)・売春防止法 2 章の罪を犯した場合は, 公安委員会はその営業の全部又は一部を停止することができる(30 条,31 条の 5 ,31 条の 6 ②項 2 号)。第三に,興 行場営業者等が,公然わいせつ罪(刑法 174 条)・わいせつ物頒布罪(同 175 条)を犯した場合は,公安委員会はそ の営業の全部又は一部を停止することができる(35 条)。公安委員会は,性犯罪や賭博罪が発生しそうな場所に目をひ からせ,営業不許可・営業停止を手段として,それを間接的に抑止できるわけである。 本法により風営法が改正され,以上の第一から第三のすべての場合につき,その犯罪リスト中に「児童買春等の犯 罪」(66) が加えられた(付則 3 条)(67)。単に公安委員会が営業不許可・営業停止をできる理由が一つ増えただけで,直 接買春行為を処罰する規定ではないが,間接的に児童買春の蔓延を防ぐ効果があることは確かである。従来の規定の ままでも一定範囲で「児童買春等の犯罪」を抑止できたであろうが,風営法には本法のように直接に性交等を犯罪化 した法,児童を保護の対象とした法はリストアップされていなかったので,本法制定によって,風営法でも性的被害 からの児童保護がより確実にできるようになった (68) と言えよう。 (63) 佐藤・前注 (55) 9 頁,14 頁。 (64) 佐藤・前注 (55) 910 頁。 (65) 1999年 5 月 14 日衆議院法務委員会で,本法の発議者も,本法 1 条には児童を指導・補導する趣旨は含まれな いとしている。ちなみに,15 条には「指導」「施設への入所」などが規定されているが,15 条は,本法を根拠に して指導等の措置をとれと命じる規定ではない。被害者となった児童に対しては児童福祉法などによる措置が必 要となる場合も多いので,そんな場合には行政機関は保護のための措置を適切に講ぜよとする趣旨である。森 山・前注 (20) 73 頁。 (66) 風営法と以下に取り上げる三法(旅館業法,暴力団対策法,組織的犯罪処罰法)は,児童買春行為に限らず, 本稿の次段 ( 2 ) ( 3 ) 以後で検討する児童ポルノ,児童売買に関する犯罪についても規定するので,「児童買春等の 犯罪」と書くことにする。また,これら四法はどれも買春行為自体を罰する規定ではない。 (67) 森山・前注 (20) 7884 頁参照。 (68) 児童ポルノについていえば,「わいせつ」とはいえない児童ポルノも罰しうるようになったので,本法で処罰 できる範囲がより広くなったと言えよう。

(11)

【旅館業法】旅館の営業者等が,営業に関し,公然わいせつ罪(刑法 174 条),わいせつ物頒布罪(同 175 条),淫行 勧誘罪(同 182 条),風俗営業に関する罪(風営法 2 条①項の接待飲食等営業に関するもの),売春防止法 2 章の罪を 犯した場合,都道府県知事は,営業の許可を取消しまたは一定期間営業の停止を命ずることができる。 本法により,「児童買春等の犯罪」を犯したときにも,都道府県知事は同様の命令をすることが可能になった(付則 4条)(69)。風営法と同様に,営業許可の取消・停止を手段として間接的に児童買春の行為を抑止するものに過ぎない が,改正された範囲で児童買春行為に関する法の間隙がうめられたと言えよう。 【暴力団対策法】この法律(1991 年 5 月 15 日法律 77 号,1992 年 3 月 1 日施行)は,正式名称を「暴力団員による不 当な行為の防止に関する法律」というが,民暴(民事介入暴力)・企業対象暴力への対策として,それまでなら刑事 事件にならなかったグレーゾーンにある一定の行為を規制することとした法で,戦後の暴力団対策立法の中で画期的 法律(70) と評されるものである (71) 。この法律(以下,暴対法という)の 2 条は用語の定義を定め,「暴力団」とは, 構成員が集団的又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体(2 条 2 号)とし,加えて,2 号にいう「暴力的不法行為等」とは,別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為(2 条 1 号)とする。本法は,この暴対法の別表に「児童買春等の犯罪」を加えた(付則 5 条)。 これにより,たとえば構成員が「児童買春等の犯罪」を常習的に行う場合には,その団体はこの法律にいう「暴力 団」(場合によっては 3 条の指定暴力団)に該当することになり,公安委員会からさまざまな命令を受け行動を制約さ れる可能性が出てくる。 【組織的犯罪処罰法】この法律(1999 年 8 月 18 日法律 136 号,2000 年 2 月 1 日施行)は,通信傍受法などと共にい わゆる組織的犯罪対策三法の一つとして制定された。「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」とい う正式名称からわかるように,組織的犯罪が平穏な社会生活を著しく害し,犯罪収益がこの種の犯罪を助長し経済に も重大な悪影響を与えるので,①組織的殺人などの行為の処罰を強化すると同時に,②その収益を規制し,没収追徴 制度を拡充する法律である(1 条)。たとえば,「別表」に掲げる犯罪から得られた収益を用いて事業経営の支配を目的 とする行為,収益の隠匿行為などを処罰するが,とくにマネー・ローンダリングを規制することにした法律として有 名である (72)。「別表」には実に様々な犯罪が網羅されているが,この「別表」中には「児童買春等の犯罪」も列挙さ れている(別表 59)(73)。 たとえば,ある組織が「児童買春等の犯罪」で得た収益を使ってある会社の株を買占めて取締役を解任させると,5 年以下の懲役若しくは 1000 万円以下の罰金を科せられる(9 条)。つまり,「児童買春等の犯罪」から得られた犯罪収 益については,その犯罪組織が企業対象犯罪に利用することも難しくなったし,収益も組織内に残らないようになっ たわけで,その限りで「児童買春等の犯罪」が抑止されることになる (74)。 (69) 森山・前注 (20) 823 頁参照。 (70) 成田頼明監修『暴力団対策法の解説』(民事法研究会,1992 年 5 月)3 頁。 (71) ①暴対法の制定前の事情,②暴対法の問題点については,加藤久雄『組織犯罪の研究』(成文堂,1992 年 1 月) 147 頁以下。①の部分には,暴対法制定前に存在した法律だけでも適切な運用があれば相当な効果を発揮できた と思われる,という指摘がある(149 頁)。本章の分析目的と関連し,興味深い指摘である。 (72) 森山・前注 (20) 84 頁。 (73) 本法制定 3 月後に制定された法律なので,当然のことながら,上記三法のように本法に「付則」はない。しか し,もし制定順序が逆であったなら,付則がおかれ上記三法と同様に扱われていたことであろう。 (74) 実は,この組織的犯罪法は,本法より後の法律なので,厳密に言うと本章で検討している「本法がいかに〔既 存の,つまり本法制定前の〕法の間隙をうめたか」という問題から外れ,取り上げる必要がないということにな る。しかし,本法と関係がある法律であるし,相互に補完する関係にあるし,前注 (73) で述べたように上記三法と 同じに扱われるべき法律と思われたので,ここに取り上げた次第である。

(12)

( 2 ) 児童ポルノ 【刑法】従来からポルノに適用が考えられてきた規定として猥褻物頒布等の罪(175 条)がある。まず客体から考え ると,本罪の客体は「わいせつな文書,図画その他の物」である。つまりこれに該当するためには,単に裸体が写っ ているだけでは対象にされず,「わいせつ」と言えなければならない。したがって,たとえば児童がうつっていても 「徒に性欲を興奮又は刺激」しない(「わいせつ」と言えない)写真である場合には,罰しえないことになる。現に 猥褻とは言えない場合が多く,結果として児童ポルノは野放し状態になっていた。児童ポルノを猥褻物とは別の視点 から理解する必要があった (75) わけである。これに対して本法は,客体を「児童ポルノ」とし,新しく児童ポルノを 定義(2 条③項)した。定義の良否の検討は後に譲るが,「わいせつ」という曖昧な概念を避けて,「性交」とか「性交 類似行為」という用語を使用したのはより明確な定義をしようとした努力として評価することができる。いずれにせ よ,従来罰しえなかった児童ポルノも,本法により罰しうるようになったのである (76)。 しかし,反面,児童ポルノでも,本法の対象からはずされたものもある。たとえば,小説など文書によるもの,絵・ コミックスやコンピュータ・グラフィックスなど想像によるもの,あるいは聴覚にうったえるポルノ (77) などは本法 の児童ポルノとはいえないと解されている (78)。これらについては,刑法 175 条に該当すると判断された場合にのみ刑 法で罰することができるだけで,本法では罰しえないことになる。 次に刑法 175 条の行為は,頒布,販売,公然陳列の三つ及び販売目的所持の合計四つに限られる。これに対して本 法 7 条は,前三者のほかに「業としての貸与」を加えた(①項)うえに,これら①項の四つの行為の目的をもってす る,製造,所持,運搬,輸入,輸出(②項)を罰している。さらに,日本国民が外国で輸出,輸入することをも罰し ている(③項)。ここから,本法が,刑法の行為すべてを含みかつそれを大幅に上回る多種の行為を罰していること, すなわち本法がいかに強い姿勢で児童ポルノを排斥しようとしているかがよく分かる (79)。特に,成人ポルノでは処罰 されない「製造」を罰している点は重要である (80)。「所持」については,今回は単純所持の処罰 (81) までは踏み切れ なかったものの,刑法 175 条のように販売目的には限定されず,頒布,公然陳列,業としての貸与の目的の所持もが 処罰の対象とされた。与党案では児童ポルノの広告も罰することになっていたが,しかしこれは採用されなかった (82)。 また③項は,日本人が東南アジアでその国の子どもたちをモデルにポルノを製造し,それを外国に輸出するというこ (75) 園田・前注 (16) 15 頁。 (76) 言い換えれば,児童ポルノについては,刑法の「わいせつ」に該当しないものも含み得ることになる。森山・ 前注 (20) 48 頁,58 頁。 (77) 聴覚ポルノの関係では,①放送事業者は,国内放送の番組編集では「善良な風俗を害しないこと」(放送法条 の 2 ①項)に留意しなければならない,②無線設備等によってわいせつな通信を発した者は罰せられる(電波法 108 条),などの条文が一定のポルノ排除機能をはたしていると言えよう。 (78) 園田・前注 (16) 2931 頁。 (79) これだけの行為が罰せられるのなら万全のようだが,インターネットの児童ポルノの規制については問題が残 されている。ポルノをダウンロードできる状態に設定することを判例のように「陳列」といえるかは疑問とされ, 風営法に置かれた「映像送信」といった新しい概念が必要だとの指摘がなされている。園田・前注 (16) 46 頁。 「映像送信」については後述する【風俗営業法】の項参照。 (80) 児童ポルノの製造が処罰される理由として,製造自体が児童に対する性的搾取・性的虐待となること,製造そ のものが性的搾取・性的虐待の半永久的な記録となり児童の心身に有害な影響を与え続けるので当罰性が高いこ と,製造が社会に広がると児童を性欲の対象ととらえる風潮を助長し児童一般の心身の成長に重大な影響を与え ること,国際的な対応として必要だったこと,などが挙げられている。森山・前注 (20) 129 頁,園田・前注 (16) 47頁。 (81) 自社さ案は単純所持も禁止していた(8 条。但し罰則なし)し,単純所持の禁止は今回の主な論点の一つで あった。森山・前注 (20) 23, 132 頁。今回は見送られたが,取締現場では所持を犯罪化すべきだという意見が強 い。理由の一つとして,警察は頒布を立証することは困難だが,所持は直ちに立証が可能だということが挙げら れている。ラルフ・ムチュケ(インターポールの課長)「子どもサイバーポルノをどう取り締まるか」月刊子ど も論 1999 年 3 月号 12 頁。慎重論としては園田・前注 (16) 63 頁がある。 (82) もっとも本法の下でも,児童ポルノの広告が全く罰せられないわけではなく,たとえば頒布罪の幇助で罰せら れる可能性はある。木村・前注 (15) ジュリ 66 頁。

(13)

とが多かった (83) という現実が背景となっている。従来は,刑法 175 条は国外犯規定(刑 3 条)に列挙されていない ので適用できなかったのである。①②項についても国外犯とされている(10 条)。 児童ポルノ自体に関する行為とは言えないが,たとえば,児童ポルノ製造の際に,児童の乳房や陰部を触る行為, 強制的に児童を裸にして写真をとる行為,男女の児童に性交を強要する行為,児童の肛門に異物を挿入する行為等が あった場合であれば,これらの行為が強制猥褻罪(176 条)に該当する可能性はある (84)。ただ,13 歳以上の者に対す る場合なら暴行・脅迫をもちいることが要件となるので,やはり処罰できるのは一定の場合に限られる。13 歳未満の 者に対する場合には,この要件はないが,既に子どもが裸になっているところを撮影したような場合には適用できな いことになる。これに対して本法では児童ポルノ製造罪(7 条②項)として罰せられることになろうが,同時にこれら の行為はそれとは別に強制猥褻罪を構成することもあると考えられる。 次に,これも直接児童ポルノ自体に関する行為ではないが,児童ポルノを製造する目的をもって児童を売買する行 為も罰せられるようになった(8 条。詳細は後述)。また,児童買春のところでも述べたように,本法では,児童を使 用する者は,児童の年齢を知らないことを理由に児童ポルノ頒布等の罪(7 条)の処罰を免れることができない規定 (9 条),同罪についての法人処罰規定(11 条)が置かれたので,その範囲で,処罰範囲が拡大した。以上,いずれも 従来の刑法にはない規定である。 【関税定率法】従来からポルノと言えば登場する法文のうち,上記刑法刑法 175 条と並ぶもう一つの代表が関税定率法 21条であろう。同条は「風俗を害すべき書籍,図画,彫刻物その他の物品」は禁制品であるとして,輸入を禁止して いる(①項 4 号)。罰則があるわけではないが,4 号品については税関長から輸入者に通知(同③項)され,その輸入 者は①任意放棄するか(事実上の没収)②その物品を原産国に返送するか③その物品に部分修正を加えるか,を迫ら れる(85)。いずれにせよそのままの形での輸入は認められない。したがって,かつては海外から日本国内へのポルノ (児童ポルノを含む)の持ち込みは困難であり,関税定率法 21 条①項 4 号が憲法違反かどうかの問題はさておき,こ の規定が置かれている結果として,税関が日本国内にポルノが蔓延するのを押さえていたと言える。もっとも今日で は,空港での手荷物の税関チェックの簡略化に伴い,個人的にポルノを持ち込むことはさほど難しくない状況になっ ている。その範囲では児童ポルノの輸入を防ぐのは困難な状況になったわけである。それでも,手荷物検査で発見さ れた場合は従来通り持ち込めないし,たとえば児童ポルノ・ビデオのあからさまな大量輸入行為などを一部防ぐ機能 は果たしている。さらに,本法制定により,わいせつでない児童ポルノも捕捉可となったと言える (86)。 しかし,今やインターネットというボーダーレスな仕組みが,異なる国家にある端末と端末の間での児童ポルノの やりとりを自由にしている時代である。関税定率法はかつての水際で児童ポルノの侵入を防ぐという機能を「ある面 では」完全に失ってしまったと言えよう。 【児童福祉法】児童福祉法には特に児童ポルノを罰する規定はない。しかし,たとえば,児童ポルノ製造過程で,児 童に「淫行をさせる行為」があった場合には,児童福祉法 34 条の「淫行をさせる行為」(①項 6 号)として処罰され (83) 森山・前注 (20) 60 頁。 (84) 西田・前注 (37) 84 頁。 (85) もちろん④異議申立の道もあるが,裁判に持ち込んだとしても現在の判例では勝訴の可能性はないといわれて いる。写真家ロバート・メイプルソープの写真集(ホイットニー美術館でのメイプルソープ回顧展カタログ)を 禁制品とした税関の処分取消を求めて裁判をした経験をもつ土屋勝氏(敗訴)のサイト http:/www.erde.co.jp./ masaru/mapple/indexj.html の「税関へ異議申立をしよう」参照。 (86) 前注 (85) の土屋氏敗訴の最高裁判決は 1999 年 2 月 23 日に出ているので,最近でも税関のポルノ侵入防止機能 は依然として働いているといえよう。もっとも,別の人が同じくメイプルソープ写真集を持ち込もうとして禁止 処分を受けたため,その人から起した損害賠償請求訴訟では,東京地裁は処分取消と 70 万円の損害賠償を命じ る判決を 2002 年 1 月 29 日に出している。前注 (85) 掲載のサイトのトップページ参照。国側は,税関で発見され た児童ポルノのうち,①関税定率法 21 条①項 4 号に該当するわいせつ物品であれば税関自らが取り締まる,② わいせつ物品に該当しない場合は,2000 年から警察に通報する,としている。第二回児童の商業的性的搾取に反 対する世界会議(2001 年 12 月 17–20 日横浜)の際の「児童の商業的性的搾取に関する国内行動計画」9 頁。

参照

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