あ ら ま し
LTE(Long Term Evolution)移動通信システムは,スマートユビキタス社会の構築 を支えるワイヤレスブロードバンドインフラである。富士通は,クラウド時代に向け たフィールドプルーブンなプラットフォームとなるLTEシステムの早期確立を目指し, フィールドトライアルによる検証を行った。本フィールドトライアルでは,1.7 GHz帯の 5 MHz帯域を使用し,グローバル市場向けEnd to EndのLTEシステムを構築し,エリア 設計の妥当性検証,性能評価を実施した。スループット性能の検証では,最大下り回線 34.6 Mbps,上り回線9.5 Mbpsのスループット性能を達成し,フィールドにおいても十 分高い性能を発揮できるシステムであることを確認した。また,従来固定のIPネットワー クで使用されるアプリケーションをLTEシステム上で動作確認し,クラウド時代に向け た動作検証を行った。 本稿では,フィールドトライアルの実験成果について述べる。 Abstract
The Long Term Evolution (LTE) mobile network system is a wireless broadband infrastructure that supports the construction of a smart ubiquitous society. Fujitsu has conducted a field trial to verify this LTE system that provides a field-proven platform for the forthcoming Cloud age, so that it can be promptly established. In this field trial, 5 MHz bandwidth in the 1.7 GHz band was used to construct an end-to-end LTE system for the global market and the area design was checked and its performance evaluated. Throughput performance of up to 34.6 Mbps for downlink and 9.5 Mbps for uplink was achieved, which confirmed that the system had adequately high performance in the field. In addition, operations of applications conventionally used in fixed IP networks were checked in the LTE system to verify they are ready for the Cloud age. This paper describes the test results of the LTE field trial.
● 鬼柳広幸 ● 箕輪守彦
フィールドトライアル
(Multiple Input Multiple Output)と呼ばれるマ ルチアンテナ技術を採用し,セル中心に位置する 伝搬品質の良いユーザのスループットを大幅に向 上している。今回の実験では,下り回線2×2のア ンテナ構成で,Closed-loop型Precoding MIMOを 適用した。帯域幅は5 MHzでオーバヘッドを考慮 した下り最大スループットは35 Mbps,上り最大 スループットは,9.5 Mbpsである。 LTEシステムは,グローバル市場向けに開発し たLTE基地局装置,EPC(Evolved Packet Core), 端末のEnd to Endシステムを3局7セル構成で設置 した。LTE端末として評価機およびシミュレータ を複数台使用し,EPCと基地局間を結ぶバックホー ルは社内イントラネットによって接続した。LTE システムの構成を図
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に示す。 7セルの内,1セルについては屋内に設置し,屋 内伝搬の試験環境として構築した。さらにLTE基 地局の一部となるRRH(Remote Radio Head)に は,風力と太陽光によるハイブリッド発電の自然 エネルギーを供給する構成とした。 フィールドトライアルの実施と実験成果 本章では,フィールドトライアルの実施内容お よび成果について述べる。 ● スループット性能 基地局には垂直(V)/水平(H)偏波の2本のセ クタ指向性アンテナを用い,地上高30 mのビルの 屋上に設置した{図-2
(a)}。フィールドトライア ルでは,LTE端末を搭載した電測車で実験エリア 内を走行し,スループットを測定した。取得した 最大スループットを表-2
に示す。上り/下り回線と もにほぼ理論値に等しいスループットを確認した。 さらに,下り回線では,MIMOの採用によりス ループット性能が向上しているが,移動局アンテ ナの偏波特性がスループット性能へ与える影響に ついて測定した。(1) 移動局には2本のV偏波無指向性 ダイポールアンテナを用いた。移動局アンテナは, 高さ約2 mの電測車{図-2(b)}の屋根に設置し, 1.5λ間隔のVV配置{図-3
(a)}と,同じアンテ ナを±45°傾けた±45°配置{図-3(b)}の2パター ンを準備した。 基地局位置とデータを取得した移動局の走行 コースを図-4
に示す。建物の影響により,コース フィールドトライアルの実施と実験成果 ま え が きLTE(Long Term Evolution)移動通信システ ム(以下,LTEシステム)は,スマートユビキタ ス社会を支えるワイヤレスブロードバンドインフラ として期待され,国内ではNTTドコモ様が2010年 12月より「Xi」(クロッシィ)(注)としてサービスを 開始している。富士通は,クラウド時代に向けた フィールドプルーブンなプラットフォームとなる LTEシステムの早期確立を目指し,フィールドト ライアルによる検証を行った。 本稿では,フィールドトライアルの実験成果に ついて述べる。 フィールドトライアルの環境構築 フィールドトライアルは,1.7 GHz帯の5 MHz 帯域を使用し,川崎市中原区にある富士通川崎工 場周辺の半径1.2 kmの市街地/住宅街エリアで実 施した。実験パラメータを表
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に示す。LTEで は,下り回線にOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access),上り回線にSC-FDMA (Single Carrier-Frequency Division MultipleAccess)のマルチパスに強い無線アクセス方式が 採用されている。また,LTEでは,これらの無線 アクセス方式において,時間/周波数領域のスケ ジューリングを行うことで,スループットの向上 を図っている。さらに,下り回線では,MIMO ま え が き (注) 「Xi」,「Xi/クロッシィ」は,株式会社NTTドコモの商標 または登録商標です。 フィールドトライアルの環境構築 表-1 実験パラメータ 項 目 内 容 フィールド環境 市街地/住宅街 局構成 3局7セル キャリア周波数(DL/UL) 1862.4 MHz/1767.4 MHz システム帯域幅 5 MHz 基地局最大送信電力 43 dBm アンテナ構成(Tx/Rx) 2/2 DLアクセス方式 OFDMA ULアクセス方式 SC-FDMA トランスミッションモード TM4
MIMO伝送方式 Closed-loop with rank adaptation DL:下り回線 UL:上り回線
内のほとんどは見通し外であるが,F ∼ G地点の 道路沿いは,基地局が見通せる範囲である。本コー スで測定したVV配置と±45°配置の下りスルー プットを図
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に示す。S ∼ E地点の見通し外では, アンテナ配置によるスループットの差はあまりな #1(屋内設置) アンテナ LTE端末 電測車BBU(Base Band Unit)
#2 #3 RRH #1 実験局3 アンテナ #2 BBU EPC RRH 内設置) #1 実験局2 アンテナ #2 BBU イントラネット 実験局1 RRH RRH ネットワーク 機器 ネットワーク 機器 ネットワーク 機器 コアネットワーク (a)基地局 (b)電測車 図-1 LTEシステムの構成 Fig.1-LTE system structure.
図-2 基地局と電測車 Fig.2-eNodeB and test car.
表-2 最大スループット
項 目 測定値 理論値比較 下り回線 34.6 Mbps 98.8% 上り回線 9.5 Mbps 100.0% (スループットは1秒平均で測定)
いが,F ∼ G地点の見通し内では,±45°配置で 35 Mbpsの最大スループットが安定して得られて いるのに対し,VV配置では見通し内にもかかわら ず25 Mbps程度のスループットしか得られてい ない。 アンテナ配置による特性比較を表
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に整理する。 見通し外では平均スループットの差は小さく,見 通し内では,基地局のV/H偏波それぞれの信号対雑音干渉比(SINR:Signal to Noise Interference Ratio)が小さく,かつ受信アンテナ間の相関が大 きくなることで,VV配置のスループットが±45° 配置に対して20%程度劣化するという結果を得た。 ● エリアおよびハンドオーバ評価 LTE端末を搭載した電測車で実験エリア内を走 行し,ランダムに発呼を繰り返してその成功率を 測定することで,エリアカバー率評価を行った。 (a)VV配置 (b)±45°配置 図-3 移動局アンテナ配置 Fig.3-UE antenna layout.
図-4 移動局の走行コース Fig.4-Drive test route.
表-3 アンテナ配置による特性比較 項 目 VV配置 ±45°配置 見通し外平均スループット 20.7 Mbps 21.7 Mbps 見 通 し 内 平均スループット 27.2 Mbps 34.1 Mbps SINR(基地局V偏波) 31.8 dB 37.7 dB SINR(基地局H偏波) 29.8 dB 36.8 dB 受信アンテナ相関 0.64 0.18 (スループットは下り回線のもの) 5 10 15 20 25 30 35 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 ス ル ー プ ッ ト (M bp s ) 走行距離(m) V V ±45° A B C D E F S G 見通し内 見通し外 図-5 下りスループット Fig.5-DL throughput.
ことを目的としている。 フィールドトライアルでは昼間の住宅街など ユーザトラフィックが低下している場合を想定し て,従来3セル運用しているサービスエリア(通 常モード)を1セルのみで運用させるESモードで, 電力削減量や,エリアカバー率,スループットな どを測定した。(2) 測定結果を表
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に示す。ESモード では,アンテナチルトや送信電力を変化させ,ほぼ 3セルの通常モードと同等のエリアをカバーするよ うに設定を変更している。通常モードにおける移 動局のRSRP(Reference Signal Received Power) とESモードにおける移動局のRSRP値を取得した ところ,電源をoffにしたB局近辺でRSRPの低下 が見られた。しかし,エリアカバー率(ここでは, 移動局のRSRPが-120 dBm以上である地点と定義) については,通常モードとESモードとでそれほど 低下していない。一方,システム消費電力につい ては,通常モードに対してESモード時は約44%で あった。このように,稼働セルを減少させたとき の消費電力削減効果は,エリアカバレッジ95%以 上を保ったまま,消費電力をほぼ半減できるとい う結果が得られた。 また,ハンドオーバ(H.O)についても同様に, 接続する基地局を切り換えることを繰り返し,H.O 成功率を測定した。測定結果を表-4
に示す。エリ ア内の発呼成功率は95%以上を確認した。発呼が できなかった箇所における原因は,複数セル間の 干渉やビル影などによる受信信号の品質劣化が主 要因である。このような,いわゆるカバレッジホー ルについては,小電力の基地局を追加設置するな ど,様々な対策が必要とされている。さらに,H.O 成功率についても95%以上を確認した。エリア設 計時に算出した受信電力などのデータを用い,モ デル化したシミュレータを使ってH.O発生箇所や H.O問題事象発生率をあらかじめ算出している。 また,H.O動作を最適化するために,H.O前後のス ループットが同一となることでユーザにH.Oを感 じさせないことや,頻繁にH.Oが発生してシステ ムリソースを過度に使用しないようなパラメータ の最適化を行うことで,H.O成功率向上に貢献し ている。 ● 屋内性能 電波が届かない地下街や,ビル内に単独でシス テムを導入するような場合は,屋内に基地局およ びアンテナを設置してカバーする。今回のフィー ルドトライアルでは,屋内に基地局およびアンテ ナを設置した場合を想定して,屋内の電波伝搬の 基本特性試験を実施した。図-6
は,屋内に基地局 を設置し,下りスループットを取得したものであ る。ほぼ全域で20 Mbpsを超えており,LTEの特 長であるMIMO効果が屋内においても有効であり, 高いスループットを確認した。 ●Energy Savings
Energy Savings(ES)は,SON(Self-Organizing Network)の重要なユースケース,ソリューショ ンの一つであり,ユーザのトラフィックに応じて 基地局を停止し,隣接基地局によってエリア補完 するなどのトラフィックと運用基地局数を最適化 することで,ネットワークの消費電力を削減する 表-4 発呼およびハンドオーバ評価 項 目 サービスエリア内における成功確率 発呼 95%以上 ハンドオーバ 95%以上 図-6 下りスループット(屋内環境) Fig.6-DL throughput (Indoor Env.). 表-5 通常モードとESモードにおける消費電力 項 目 モード 備 考 通常 ES システム消費電力 1.00 0.44 通常モードを1として算出 エリアカバー率 (%) 99.5 97.8 RSRPが-120 dBm以上と定義● 自然エネルギー供給 環境負荷軽減のため,自然エネルギーを使用し た機器運用を行った。風力と太陽光によるハイブ リット発電システムで,従来気候に左右される発 電量を風力と太陽光の2種類の発電方式を採用す ることで,自然エネルギーとしては,比較的安定 的に電力供給を可能とする発電システムである (図
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)。フィールドトライアルにおいては,基地 局装置の電力の一部に自然エネルギーを供給し, 電力供給に関する基本データを取得した。 アプリケーション動作環境の検証 LTEシステムは,ユビキタス社会を支えるイン フラとして期待されている。今回は,従来固定の IPネットワークで使用されるTV会議システム,ハ イビジョン映像装置(IP-9500)を使った映像配信, ネットゲームなどをLTEシステム上で接続し,ア プリケーションの動作を検証した。高速,大容量, 低遅延といったLTEシステムの特長により,従 来の固定のネットワークで使用されるアプリケー ションが動作できることを確認した。これらのTV 会議システムやハイビジョン映像配信については, 富士通フォーラム2010やワイヤレスジャパン2010 へ出展(図-8
)し,リアルタイムデモを公開した。 実際に中原区のLTE実験エリア内でTV会議システ ムとハイビジョン映像装置を搭載した電測車を走 行させ,展示会場までをLTEシステム実験網によっ アプリケーション動作環境の検証 て接続し,その走行映像をライブで配信した。ま た電測車に搭乗している担当者と会場にいる来場 者をTV会議によって会話可能とし,LTEシステム の応答性の高さを体感できる展示を公開した。 む す び 今回のフィールドトライアルでは,川崎市中原 区に構築した実験エリアでEnd to EndのLTEシ ステムを評価し,エリアカバー率やスループット む す び TV会議 ハイビジョン映像 図-7 ハイブリッド発電システム Fig.7-Hybrid power generater. 図-8 ワイヤレスジャパン2010出展地などの多様なエリアを補完するシステムを含め た検証を実施し,通信事業者が抱える課題に対す るソリューション検証を進めていく。 参 考 文 献 (1) 大山哲平ほか:LTEフィールド実験における下りリ ンクMIMOスループットの検証.電子情報通信学会, 2010 ソサイエティ大会 B-5-43. (2) 横山 仁ほか:LTE屋外実験によるセル数削減の 評価.電子情報通信学会,2010 ソサイエティ大会 B-5-44. などの基本性能をはじめ,Energy Savingsや自然 エネルギー供給などのシステム運用の確認を行う ことで,フィールドにおいても十分高い性能を発 揮できるシステムであることを確認した。また従 来,固定のIPネットワークで使用されるアプリケー ションをLTEシステム上で動作可能であることを 確認し,将来のクラウド時代に向けた動作検証を 行った。 今回は,マクロ基地局と呼ばれる比較的セル半 径が大きく,広いエリアをカバーする基地局を使 用したが,今後は,カバレッジホールや屋内不感 鬼柳広幸(きやなぎ ひろゆき) アクセスネットワーク事業本部モバイ ルキャリア事業部 所属 現在,移動通信システムの方式設計に 従事。 箕輪守彦(みのわ もりひこ) アクセスネットワーク事業本部モバイ ルキャリア事業部 所属 現在,移動通信システムの方式設計, プロダクト戦略に従事。 著 者 紹 介