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2009年12月6日(日) 9:30

東 京 大 学 ( 本 郷 ) 小 柴 ホ ー ル

∼総合的な海洋政策の形成を目指して∼

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第 1 回 年 次 大 会 プ ロ グ ラ ム

(敬称略) 【午前の部】 9:30 開 会 : 会長挨拶 (株)三菱総合研究所理事長 小宮山宏 来賓挨拶 国土交通大臣 前原誠司 9:45 基調講演 : 海洋政策の研究 −海の総合的管理を目指して− 慶應義塾大学名誉教授 栗林忠男 我が国の海洋科学 ・技術研究と第4 期科学技術基本計画 東京大学名誉教授、琉球大学監事 小池勲夫 11:00 パネルディスカッション : テーマ 「海洋政策研究へ向けての分野横断的連携の模索」 ・モデレータ : 東京大学大学院法学政治学研究科教授 城山英明 ・パネリスト : 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 磯部雅彦 東京大学大学院理学系研究科教授 浦辺徹郎 横浜国立大学名誉教授、放送大学教授 來生 新 東京海洋大学海洋科学部海洋環境学科教授 櫻本和美 横浜国立大学統合的海洋教育・研究センター長 角 洋一 東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長 山形俊男 12:30 昼 食 : 第3回定例理事会開催 (小柴ホール内会議室) 【午後の部】 13:30 応募論文発表: (1) 海洋資源開発へのアプローチ 海洋生物資源管理における生態系アプローチ適用の国際的動向と日本への政策的含意 東京大学先端科学技術研究センター特任研究員 大久保彩子 「海洋資源メジャー」を日本に創ろう 大阪府立大学教授 山崎哲生 (2) 「日本型」海洋保護区の発信 「日本型海洋保護区」の方向性 −国内制度と国際展開の統合化にむけて 東京大学大学院総合文化研究科助教 清野聡子 日本型海洋保護区の特徴と課題 東京大学大学院農学生命科学研究科特任准教授 ・総合海洋基盤プログラム(日本財団) 学際海洋学ユニット 八木信行 15:00 休 憩 15:15 応募論文発表: (3) 海洋科学調査の戦略的展開 データ同化による海洋情報の統合化 気象庁気象研究所海洋研究部第2研究室長 蒲地政文 日本沿岸域における海洋調査の戦略的な推進とその課題 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 黒倉 壽 (4) 海上交通の安全確保と国際協力 海賊対処法制定の意義と今後の課題 海上保安大学校准教授 鶴田 順 海上の安全の確保のための日本周辺海域における船舶航行実態把握 国土交通省国土技術政策総合研究所港湾研究部長 高橋宏直 16:45 定例総会開催 (大会会場) 17:15 閉会挨拶 日本海洋政策研究会副会長 秋山昌廣 【交流・懇親会】 17:30 会場:小柴ホールピロティ

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プロフィール (敬称略) 【基調講演者】 ◎ 栗林忠男(くりばやしただお) 1937 年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒、同大学院法学研究科修士課 程修了。オーストラリア国立大学(ANU)大学院博士課程修了。Ph.D.(law)の学位を取 得。その後、慶應義塾大学専任講師、助教授、教授を経て 2002 年定年退職し、同大学 名誉教授となる。

Law of the Sea Institute Director(理事)、世界法学会理事長、国際法学会名誉 委員、日本海洋法研究会代表、(内閣官房)海洋総合政策本部参与会議議長などを歴任。 現在、海洋政策研究財団特別顧問、日本海事センター参与。2008 年 7 月、第 1 回「海 洋立国推進功労者賞(内閣総理大臣賞)」を受賞。主要著書として、「航空犯罪と国際 法」、「注解・国連海洋法条約下巻」、「現代国際法」など。 ◎ 小池勲夫(こいけいさお) 1944 年東京都生まれ。1975 年東京大学理学系研究科博士課程修了、1979 年東京大 学海洋研究所助教授、1988 年同大教授を経て、2001 年同研究所所長(2005 年まで)。 1997 年から琉球大学監事。現在、日本海洋学会会長、文部科学省科学技術・学術審議 会海洋開発分科会会長など。 研究分野は海洋の窒素・炭素などの生元素の循環と微生物代謝で、研究船白鳳丸な どによる北太平洋、ベーリング海、南大洋などでの主に表層生態系を対象にした研究 航海に加えて、沖縄、フィージー、タイなどの臨海実験所での海草藻場、サンゴ礁に おける物質循環の研究を行なった。編著書は 2000 年「海底境界層における窒素循環の 解析手法とその実際(産業環境管理協会)」、2006 年「地球温暖化はどこまで解明され たか(丸善)」、2007 年「海洋問題入門(丸善)」など。 【パネルディスカッション】 テーマ:海洋政策研究へ向けての分野横断的連携の模索 <モデレーター> ◎ 城山英明(東京大学教授) 東京大学大学院法学政治学研究科講師、助教授を経て 2006 年より教授 。専門は 行政学。主要な関心領域は、科学技術と公共政策の境界領域である環境・安全規制、 国内の様々な分野における政策形成過程、国際行政の枠組と運用である。現場の政 策実務家や技術系研究者とも協働しつつ研究を行っている。主要な著書としては、 『国際行政の構造』、『中央省庁の政策形成過程』 (共編著)、『続・中央省庁の 政策形成過程』(共編著)、『国際機関と日本』(共編 著)、『エネルギー技術の 社会意思決定』(共編著)、『科学技術ガバナンス』(共編著)、『政治空間の変 容と政策革新1:政策革新の理論』(共編著)、『政治空間の変容と政策革新6: 科学技術のポリティクス』(編著)、『日本の未来社会:エネルギー・環境と技術・ 政策』(共編著)等がある。

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<パネリスト> ◎ 磯部雅彦(いそべまさひこ) 1975 年東京大学工学部土木工学科卒。横浜国立大学工学部土木工学科助教授、東京 大学工学部土木工学科教授等を経て、東大大学院新領域創成科学研究科社会文化環境 学専攻教授(工学博士)、2009 年 4 月より副学長。 現在、日本沿岸域学会理事、土木学会理事・副会長、科学技術学術審議会海洋開発 分科会委員、三番瀬再生計画検討会専門家会議会長、高潮・津波ハザードマップ研究 会委員、ゼロメートル地帯の高潮対策検討会委員長、総合海洋政策本部参与、環境省 閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談会委員等を歴任。著書は海岸環境工学(東 大出版、共著)、海岸波動(土木学会、共著)、海岸の環境創造(朝倉書店、編著)等。 ◎ 浦辺徹郎(うらべてつろう) 1971 年東京大学理学部地学科卒、1976 年東京大学理学部系博士課程修了と同時に同 地質学教室 助手、1985 年工業技術院地質調査所(現:産総研)に異動、2000 年より 東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻教授 、東京大学機構「海洋アライアンス」 副機構長 。公職は経済産業省総合資源エネルギー調査会 鉱業分科会長、内閣府大陸 棚審査・助言者会委員。専門分野は鉱床学。海底熱水鉱床。地下生物圏。 日本の黒鉱鉱床ほか、カナダ、メキシコ等の熱水鉱床の研究に従事した後、海底熱 水活動の研究を専門とし、海嶺の熱水活動に対する大型研究であるリッジフラックス 計画、アーキアンパーク計画などの研究代表者を務めた。現在、新学術領域研究「海 底下の大河」計画 (2008-2012)領域代表者。 ◎ 來生 新(きすぎしん) 19754 月∼2009 年 3 月の間に横浜国立大学助教授、教授、副学長・理事を経て 2009 年 5 月、放送大学教授。専門分野での業績としては、 ・海洋産業研究会、「新海洋時代に対応する海洋開発関連法制に関する研究」(NIRA の研究助成 NRC79−5 )昭和 59 年 有斐閣『現代行政法大系 9 公務員・公物』「海 の管理」 ・「港湾の公共性概念の変遷」(新版日本港湾史 日本港湾協会 平成 19 年) ・海洋政策研究財団編『海洋問題入門―海洋の総合的管理を学ぶ―』(丸善 平成 19 年)編集代表者 ・「海洋基本計画における『総合的管理』の批判的検討」(沿岸域学会雑誌 Vol.21 No.1 特集「海洋基本計画と今後の沿岸域の総合的管理」(2008 )18 頁∼21 頁) ・「海洋国日本の国土形成計画への期待」人と国土 21 34 巻第 1 号 特集「海洋基 本計画と国土行政」(2008 年 5 月)25 頁∼29 頁 ・「海洋基本法・基本計画下での国内法政策の今後の課題」(ジュリスト 2008 年 10 月 15 日号)

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◎ 櫻本和美(さくらもとかずみ) 1975 年 3 月東京水産大学水産学部漁業学科卒、1977 年 3 月同大学院水産学研究科修 士課程修了、1986 年「マルチ・コホート法による南半球産ミンククジラの資源学的研 究」の学位論文で東京大学農学博士号取得。現在、日本水産学会、水産海洋学会、日 本海洋政策研究会、日仏海洋学会に所属、公職は国際捕鯨委員会科学委員、農林省独 立行政法人評価委員会委員、国際漁業研究会副会長を務め、現在、国際協力事業団モ ロッコ零細漁業改良普及事業国内支援委員長、資源評価調査に係る外部有識者検討委 員会、独立行政法人水産研究センター遠洋水産研究所概要資源外部評価委員。 著書は 2004 年日本の漁業「ブリタニカ国際年鑑」(ブリタニカ・ジャパン)、2003 年個体群生態学、水産資源管理学(成山堂、共著)、漁業管理の ABC(成山堂)等。 ◎ 角 洋一(すみ よういち) 1971 年3月横浜国立大学工学部造船工学科卒、1976 年3月東京大学大学院工学系研 究科船舶工学専攻、博士課程修了工学博士に、同年4月横浜国立大学工学部講師、1 993年4月横浜国立大学工学部教授、2007年 6 月横浜国立大学統合的海洋教 育・研究センター長(併任)現在に至る。この間、1978年9月から1980年9月 まで米国ノースウェスタン大学客員研究員、1997年運輸省ナホトカ号事故原因調 査委員会委員、日本学術会議 17∼19 期人工物設計・生産研究連絡委員会委員、20 期 連携会員等を務めた。 現在、(社)日本船舶海洋工学会会長、国土交通省独立行政法人評価委員会委員 交 通分科会長、(財)日本海事協会評議員、海洋政策研究財団評議員、(財)日本船舶技 術研究協会理事等を務める。専門分野は船舶海洋工学、特に海洋環境下での構造破壊 に対する安全性評価に関する研究。 ◎ 山形俊男(やまがたとしお) 1975 年東京大学理学部地球物理学科卒。1994 年から東京大学大学院理学系研究科教 授、 現在、理学系研究科長。海洋開発研究機構アプリケーションラボヘッドを兼務。 専門は海洋物理学。大規模な大気海洋相互作用の研究で日本海洋学会および日本気 象学会の学会賞受賞、ダイポールモード現象の発見で米国気象学会 スベルドラップ 金メダル受賞、海流予報の実用化で Techno-Ocean Network Award を受賞、2004 年ト ムソン・ロイター社による、<世界のフロントをゆく 16 人の日本人研究者>。2005 年紫綬褒章受章。ウッズホール海洋研究所バー・シュタインバッハ学者、米国気象学 会フェロー、米国地球物理学連合フェロー。

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海洋生物資源管理における生態系アプローチ適用

の国際的動向と日本への政策的含意

大久保彩子 東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員 1.はじめに 生態系アプローチは生態系保全と資源利用の両立に向けて重要な概念として、多くの国 際条約や行動計画に盛り込まれてきた。持続可能な開発に関する世界首脳会議にて採択さ れたヨハネスブルグ実施計画では、2010 年までに生態系アプローチの適用を奨励するとの 目標年次が掲げられ、その進捗状況が注目されている。一方で、生態系アプローチの定義 や運用指針は多様であり、国際的な共通認識は確立されていないため、国際的な生物資源 管理においては、生態系アプローチに関する認識の相違が関係国間の対立につながる場合 もある。関係国の合意を得られる形で生態系アプローチを用いるには、国際的な政策動向 を分析したうえで、共通認識を形成していく必要がある。 そこで本研究では、多国間および各国の海洋生物資源管理において生態系アプローチの 構成要素がどのような管理措置に翻訳されてきたのかを比較分析するとともに、日本への 政策的含意を導出することを試みる。こうした作業は、海洋に関する国際的な秩序の形成 及び発展のために先導的な役割を担いつつ国際的協調を推進するという海洋基本法の理念 に照らして重要であると考えられる。 2.分析視角 本研究ではまず、国連海洋法条約および公海漁業実施協定、生物多様性条約および締約 国会議決議、アジェンダ21、責任ある漁業のための FAO 行動規範などの国際文書における 記述から、生態系アプローチの構成要素を特定する。主要な構成要素は、以下の4つに整理 することができる。なお、各要素間の重みづけは文書によって異なる。 ① 生態系の構造と機能の考慮 ② 知見の現状への対応 ③ 良きガバナンスの確保 ④ 多様な人間活動の統合的な管理 次に、特に①および②の要素がどのような管理措置として具体化されてきたのかを事例 に沿って分析する。①に対応する管理措置は、漁獲枠の決定や混獲防止など生物種に着目 した措置と、特定海域への人間活動の影響を制御する空間ベースの措置に分けられる。漁 獲枠の決定手法はさらに、生物種ごとに漁獲枠を決定する単一種管理と、複数の生物種間 の関係を定量的に再現する生態系モデルに基づく複数種一括管理の手法に分けられる。 分析対象としては、生態系アプローチの先駆的取り組みとされる南極の海洋生物資源の保

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存に関する委員会(CCAMLR)、および、アラスカ湾・ベーリング海・アリューシャン列島海 域、バレンツ海、EU 共通漁業政策の事例を取り上げる。 3.海洋生物資源管理における生態系アプローチの実際 各事例の比較分析から、生態系アプローチのもとで実施されてきた管理措置には一定の 傾向を見出すことができる。漁獲枠の設定では、漁業が非対象種に及ぼす影響を考慮しな がら魚種ごとの漁獲枠を決定する単一種管理手法の拡張が主流となっており、そこで意図 されているのは、漁獲対象種を餌とする捕食者生物種が生存するために十分な餌を残して おくことである。CCAMLR のオキアミ管理では漁獲回避率の設定、アラスカ湾の底魚管理 では漁獲対象種とその他の種を含む漁獲の総枠の設定によって、生物種間の関係を単純化 した形で組み入れている。また、バレンツ海では複数種モデルに基づく漁獲枠決定が試み られてきたが、実際には単一種管理の性質が強いと評価されている。一方で、多くの生物 種間の関係を定量的に再現する生態系モデルを漁獲枠設定の直接的な立脚点とするには技 術的課題が多いことが広く認識されている。 各事例にはまた、安全係数やシミュレーションによる頑健性の確保、混獲・投棄対策、 漁具の選択や規制、漁法に応じた操業海域や禁漁海域を含む海洋保護区の設定など、従来 の管理手法を基礎に、生態系に関する考慮を組み入れていく現実的対応が見て取れる。 4.日本への政策的含意 こうした分析結果から導出される日本への政策的含意として次の点が挙げられる。1)漁獲 対象種の資源水準の向上のために非対象種である捕食者生物を間引くという考え方が生態 系アプローチとして国際的に受け入れられる可能性は低いこと;2)漁獲対象種と非対象種と の間の線引きに関する各国間の意見対立を生態系アプローチによって解決することは難し いこと;3)日本として生態系アプローチをどのような管理措置として具体化するのかを発信 しつつ、国際的な資源管理においては上記のような政策動向を踏まえて関係国が合意可能 な生態系アプローチのあり方を模索する必要があること。 例えば、日本は国際捕鯨委員会の国際交渉において、既に合意されている単一種管理型 の捕獲枠算定方式(RMP)は時代遅れであるとして、生態系モデルに基づく複数種一括管理方 式の必要性を主張し、その開発を調査捕鯨の主目的にも掲げているが、そうした管理方式 は技術的にも外交交渉上も実現可能性が非常に低いといえる。

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「海洋資源メジャー」を日本に創ろう

山崎哲生

大阪府立大学大学院工学研究科 海洋システム工学分野

アジア、太平洋地域の海洋国家である日本の目指すべき針路は、海洋資源の持続的開発 利用を実現し、その技術を海洋新産業の創生へと発展させていくことである。その第一 歩が、日本の EEZ にそれぞれ、世界第 1 位、世界第 2 位の潜在的資源ポテンシャルを有 すると推定されている海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラストの早期開発を通じて 「海洋資源メジャー」を日本に育成することである。 「商業化」、「自給率向上」だけでは不十分 日本が利用可能な深海底資源を図1に示したが、このうち、EEZ と大陸棚に存在する海底熱水鉱 床とコバルト・リッチ・クラストについては、それぞれ、世界第1 位、世界第 2 位の潜在的ポテン シャルを有すると推定されている。また、大量のメタンハイドレートの賦存も確認されており、日本 が海洋資源大国であることが認識されつつある。平成20 年 3 月に策定された海洋基本計画では、特 に、海底熱水鉱床とメタンハイドレートについて、10 年程度を目途に商業化すると明記している。 しかし、海洋基本法制定の趣旨のひとつである海洋新産業の育成・振興は、この商業化だけでは達 成できない。資源は有限であり、掘り尽くしてしまった後は何も残らないからである。資源を有効に 利用して、ライバルに対する技術的優位性を確立し、海外権益を確保するとともに、汎用化して海洋 開発分野全般への応用を図るという戦略的展開が必要である。 石油・天然ガスおよび金属資源開発のフィールドを持たない日本の資源開発技術は、精製技術や製 錬技術を除けば、衰退する一方である。今後の海外権益確保には、資金提供だけでなく、技術協力、 技術供与などが不可欠であることは、最近のウランやレアメタルなどの協力協定締結の例を見ても明 らかであるが、情勢は今後、より一層厳しくなると予想される。海洋における石油・天然ガス開発経 験がほとんどない日本にとって、創成期にある海底熱水鉱床開発において、ライバルに先んじて、早 期に採鉱実験や商業開発にチャレンジすることは、技術的優位性を確保するために不可欠である。 「海洋資源メジャー」を創ろう 陸上の水、食糧、エネルギー、資源の供給能力に限界が見える今日、近い将来に到来することが確 実な海洋におけるこれらの開発市場において、技術的覇権を取り、権益を確保する力のある企業(海 洋資源メジャー)を創るという壮大な視点が必要である。 海底熱水鉱床の早期開発を通じて、海洋での調査技術、システム技術、環境保全技術を熟成し、こ れらを輸出できるレベルにまで高めること、また、技術協力、技術供与によって、海外権益の確保を 図ることが求められている。これらの技術はメタンハイドレートやコバルト・リッチ・クラスト開発 にも応用可能であり、さらに汎用化して、海洋開発分野全般への展開も可能である。リスクを恐れず トップランナーとなり、ライバルに先んじて「海洋資源メジャー」への道を拓かなければならない。 システムの統合制御オペレーション技術構築が重要 海底熱水鉱床やコバルト・リッチ・クラストの採鉱システムは、日本が過去にマンガン団塊用に開 発した計測制御技術に、土木建設機材製造技術、潜水艇建造技術、スラリー輸送技術などの既存要素 技術を組み合わせることによって十分に構築可能である。しかし、外洋の厳しい気海象条件の下で稼 働する直列系巨大システムの統合制御オペレーション経験を持たない日本にとって、できるだけ早期 に実海域でのパイロットスケールの採鉱実験を実施し、試行錯誤しながら技術を熟成していくという プロジェクト展開が重要である。これがなければ、海洋での石油・天然ガス開発技術を保有する海外 企業との技術格差は開くばかりであり、技術的優位性の確保は望めない。 「海洋資源メジャー」への道筋 一般の資源開発においては、経済性の有無にかかわらず、まず対象地域の探査権あるいは鉱区を確

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保し、賦存把握(資源としての価値の調査と経済性検討)、技術開発(最適な開発システムの構築)、 環境保全策立案(環境アセスメントの実施)という直列的な開発スケジュールを立てる。しかし、最 近の海底熱水鉱床開発に向けた海外動向にみられるような、ライバルが存在する情勢下においては、 図2に示したように賦存把握、技術開発、環境保全策立案を同時並行的に実施し、商業開発までの所 要時間を短縮するという、海外権益確保と海洋新産業創生に向けた戦略的展開が必要である。 一方、創成期にある海底熱水鉱床開発は、リスクが高いため、官民が連携・分担して、リスク 回避と早期の技術的優位性確保の両立を図ることも求められる。賦存把握、技術開発、環境保全策立 案のそれぞれについて、最適と考えられるロードマップと役割分担を図2に例示する。 海洋を次世代のフロンティアに 金融市場の混乱による景気後退によって、現在は食糧、エネルギー、資源価格の下落と供給過多の 局面を迎えているが、中長期的には、再度価格高騰と供給不安状態に戻ることは確実である。陸上だ けをみれば資源小国の日本であるが、海洋資源大国として海洋新産業の育成・振興を図ることは、産 業の成長戦略であるとともに、次の世代に「資源」と「産業」を残し、価値のある仕事を行うことの できるフロンティアを開拓することになる。長期的視点と迅速な取り組みが必要である。 図1 日本が利用可能な深海底資源 図2 「海洋資源メジャー」へのロードマップと役割分担 コバルト・リッチ・クラスト 水深800-2,500mの海山 マンガン団塊 水深5,000mの深海底 黒鉱型海底熱水鉱床 水深1,300-1,700mの背弧海盆等 コバルト、ニッケル、銅、レアメタル、レアアース 金、銀、銅、亜鉛、鉛、レアメタル 国産エネルギー 資源として期待 されるメタンハイ ドレート 日本周辺水深1,000m以上の堆積層 安定的金属供給源として期待される深海底鉱物資源 探査・埋蔵量把握 環境規制・保全策確立 メタンハイドレート開発 海洋開発全般への応用 商業開発 海外海底熱水鉱床等開発協力 コバルト・リッチ・クラスト開発 2015 2030 2010 持続的な開発を実現する開発計画、開 発技術、環境保全策等の早期確立 技術的優位性の確立 戦略的国際展開 海外権益確保 国際的な鉱業規則検討を主導。日本の 開発技術、環境保全策を世界基準に 2020 採鉱・選鉱技術開発 採鉱実験 パイロット事業 官がすべて実施 官資金で民が実施 民がすべて実施 凡例 プレーヤーの例 JOGMEC、産業技術総合研究所、大学等 エンジニアリング系、造船・重機系、非鉄金属、商社等でコンソーシアム 上記コンソーシアム、金融、ファンド等

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「日本型海洋保護区」の方向性 ―国内制度と国際展開の統合化にむけて

清野聡子 東京大学大学院 総合文化研究科 助教

海洋基本計画における海洋保護区

海洋基本計画では、

「2 海洋環境の保全等」に「生物多様性の確保等のため

の取組」として、「我が国における海洋保護区の設定のあり方を明確化した上

で、その設定を適切に推進する」が明記された。この

日本型海洋保護区

ついて、理念、国内実情、国際情勢の整理が必要となっている。

海洋保護区(Marine Protected Area: MPA)

は世界各地に設定されてい

るが、アジア太平洋諸国で、それを有しない国はまれである。しかし、対外的

には海洋保護区が見えないものの、日本には事実上、海洋保護区と認知される

べき海洋環境保全を目的とした空間が存在している。これらは自然保護、水産

生物生息地、文化的意義に基づき、近代化以降に、海外からのコンセプト導入

と日本の社会特性を融合させた諸制度にもとづいている。今、海洋基本法のも

とで、約1世紀近いこれらの海洋環境保全への実効性の検証と、制度の短所長

所を整理する時機にあると考えられる。

日本の海洋保護区的制度

「天然記念物」の制度は1919年に始まり、生物や繁殖地の空間などを指定対

象としている。指定要件は自然と文化の両方の価値観を融合させており、住民

による保存会など地域ベースの活動が支えてきた。しかし、ウミガメやカブト

ガニの繁殖地の例では周辺の開発や環境改変により維持が困難で、保存に要す

る費用も少なく実効性を欠いた。この古典的な手法は、地域での合意形成や観

光業での活用など社会システム面から再評価が必要と考えられる。

一方、自然保護活動や国際会議との接点がある「国立・国定公園」の制度の

海域への拡大が注目される。従来、海は景観の一部で、海中公園の狭い範囲以

外には海岸や海中の管理はほとんど行われてこなかった。しかし、2009 年の自

然公園法の改正では海域の管理強化が決まり、知床・小笠原などでは公園範囲

の拡大が検討されてきている。

「ラムサール条約登録湿地」も、干潟・海岸・島嶼周辺など海域が含まれて

いる。基本的には開発が抑制されるものの、自然再生や適切な管理、賢い利用

など、人間の関与を前提とした保全も含まれている。現在は、国内的には環境

省所管の特設鳥獣保護区が相当しているが、空間管理計画が存在すれば指定が

(11)

可能である。国内的には、海岸・港湾などの計画や、海域別の再生計画なども

国際基準の対応で整理して、国際登録を検討すべきである。また、多様な主体

の参加として、市民レベルの国際交流やネットワーク、漁業者との連携の始動

も注目される。

「水産資源保護水面」、「禁漁区」は、注目すべき制度である。漁業と自然保

護の問題は、調整に困難はあるものの、天然水域で野生生物を対象としている

自然資源に依存した産業であると認識が進んでいる。持続的な漁業、責任ある

漁業などの近年の国際的な概念以前にも、水域の保全には、漁業者が漁場を守

るために多くの運動をしてきた歴史もある。また、自主的な資源管理や環境監

視が地域主体に行われている。日本の漁業の在り方が国際的に非難されている

が、数世紀にわたり環境保全の歴史をもつ漁村や、賢く利用されている漁場が

ある点は国際発信が必要である。

空間管理制度としては、海岸法に基づく「海岸保全区域」の再評価も必要で

ある。海岸法は防護の面が強調されるが、激しい開発から海岸、海底を守る役

割も果たしてきた。海底の砂利掘削の禁止など強い法的管理も可能であり、東

京湾や愛知県渥美半島周辺での実績が注目される。

これらの空間の管理では、地方分権化に伴い、地方公共団体の役割が増大す

る。海岸や沿岸の管理者の測量調査、水産試験場や環境研究所など地域シンク

タンクの研究機関の再構築が急務である。

生物多様性と国際情勢

2010 年は日本で生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)が開催される。主

要テーマのひとつが「沿岸・海洋」であり、MPAの国際ネットワークの形成

も議題に上がる予定である。また、東アジア海洋会議(2009 年 11 月、マニラ)

でも生物多様性とMPAの議論が盛んであった。

特に、東アジアでは、海洋環境保全は、今や単なる自然保護運動ではなく、

地球環境問題や国際環境政策に参加している国家か否かの基準ともいうべき重

要課題である。

一方、日本の海洋環境の現行制度は、国内だけでも所管の範囲で行われセク

ショナリズムを超えることなく全体性を欠いている。そのため、「日本海洋環

境基本計画」のような総合的な計画の作成にも未着手である。

日本型MPAの国際的な訴求力は、近代化や高度経済成長の1世紀以上にわ

たり、海洋の開発と保全の社会実験を通過してきた点にある。

MPAの検討を契機に、海洋環境政策の国内での検証が、国際的に具体例を

もとに理念と現実の狭間の論点を提示できるだろう。

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図1 日本の国立公園、国指定天然記

念物の海域

図2 東京都葛西海岸の干潟地形の

保全と海岸保全区域の設定

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日本型海洋保護区の特徴と課題

八木信行 東京大学大学院農学生命科学研究科 総合海洋基盤プログラム(日本財団)学際海洋学ユニット特任准教授 要旨 日本は沿岸での人口が比較的多く、漁業も広く存在している点で、欧米諸国とは異なる 社会的背景が存在している。そのような中、沿岸域の利用者(漁業者)は自主的な保護区 を多数設置している。今後、日本型海洋保護区を議論する際には、沿岸域では既往の努力 を最大限生かしつつ、その拡充及び体制支援を実施することが重要である。世界各地で、 小規模かつ自主的な資源管理と保全の枠組みが有効であるとの事例を収集・分析したオス トロム教授が本年ノーベル経済学賞を受賞したことに鑑みれば、この様な対応策は国際的 にも受け入れられるものと思量する。 1.海洋基本計画と日本型海洋保護区 海洋の開発利用と海洋環境の保全との調和は、これまで日本が長年に渡り取り組んでき た課題であり、また海洋基本法の基本理念の一つでもある。平成 20 年に政府が決定した海 洋基本計画においては、政府が総合的活計画的に講ずべき施策の一つとして海洋環境の保 全等を取り上げており「生物多様性の確保や水産資源の持続可能な利用のための一つの手 段として、生物多様性条約その他の国際約束を踏まえ、関係府省の連携の下、我が国にお ける海洋保護区の設定のあり方を明確化した上で、その設定を適切に推進する」との記述 が見られる。 2.国際的な関心の高まりへの対応ニーズ 国際的にも、海洋保護区(MPA)は高い関心を集める案件といえる。2002 年の持続的 開発に関する世界サミット(WSSD)においては MPA の設置や 2012 年までの代表ネットワ ークの設置が決議され、2004 年生物多様性条約 COP7等でも同様の議論がなされた。生物 多様性条約 COP10 は来年(2010 年)に名古屋で開催予定となっているが、ここでも海洋保 護区に関する議論がなされる可能性もある。 3.外国における海洋保護区の設置例 諸外国においては、広大な MPA を設置している例も見られる。例えば、2006 年に米国が 設置した北西ハワイ諸島の海洋国定史跡(marine national monument)は、長辺約 2 千キロ、 面積約 14 万平方マイルの大きさであり、立入りは許可制とし、漁業は 5 年でフェーズアウ トするなどの規制が導入されている。原住民の活動は規制から除外し、また商業的な漁業 は極めて少数であったため調整費用をあまりかけずに保護区が設置できる場所であったと は思えるが、我が国において同様の規模で同様の規制を実施することは不可能であろう。

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4.日本国内の実態 我が国の実態を見れば、以上のような広範囲な面積を保護区に指定する例はないもの の、MPA と呼ぶべき海域は多数存在している。公式な統計はないが、(1)自然公園法 に基づく海中公園地区、(2)自然環境保護法に基づく海中特別地区、(3)水産資源 保護法に基づく保護水面、(4)漁業法の枠組みの中で漁業者が自主的に設定する禁漁 区域を合計すれば、これらは日本全国に数百カ所の規模になると計算ができる。しかし、 これらの海域は、複数の法律等でその保護内容が規定され、また異なる省庁の管轄とな っているため、全体像の把握が進んでいない。特に、上記(4)の分類のように、中央 政府がトップダウン的に設置したものではなく、沿岸の漁業者という利害関係者が自主 的にボトムアップで設置したものについては、欧米型の MPA とはイメージがかなり異な るため、その保全効果などについて丁寧な説明を行うことが重要となっている。 5.ノーベル経済学受賞者オストロムの議論 日本型の小規模 MPA が有効である点を説明するためには、2009 年 10 月にノーベル経済 学賞を受賞したインディアナ大学のオストロム教授の議論を援用することが可能である。 共有資源を巡る従来の議論においては、「共有地の悲劇」を避けるために、資源を①分割 して私有地化するか、または②一括して国有地化する対応が有効とされていた。しかし、 オストロム教授は第3の選択肢として、地域の当事者による自主的な努力で管理すること を上げている。実際、地域の自主管理で 100 年以上にわたり共有資源の維持に成功してい る例が世界に多数存在し、そのような場所については、政府が見当違いの介入を行えば、 長年にわたり築かれた地域の制度的資本を崩壊させる結果につながると指摘している (Ostrom, 1990, Governing the commons, p184)。

6.結論 日本は沿岸での人口が比較的多く、漁業も広く存在している。そのような中、生態系保 全の負担者と受益者が一致している場合は、自主的な保護区を多数設置している。このよ うな小規模な生態系保全の枠組みが有効であるとの既往研究(例えば上記オストロム)も 世界で脚光を浴びている状況にある。 ついては、今後、日本型海洋保護区を議論する際には、(1)沿岸域では既往の努力を 最大限生かし、奨励策を講じること、(2)河口や干潟の保全拡大、海と川の保全の連携 など新規の取り組みを拡大させること、(3)政府は各個別の保全活動に関する統一的な 評価基準を策定し、モニタリング活動などへの援助や関連データベースの整備などを実施 するとともに、適切な対外発信を行うこと、などが重要になると考えられる。 7.謝辞 この調査は、日本財団から 東京大学 海洋アライアンス「総合海洋基盤(日本財団) プログラム」に助成頂いた資金を使用し実施した。日本財団及び調査に協力頂いた各位に 謝意を表したい。

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データ同化による海洋情報の統合化

蒲地政文

(かまちまさふみ)

気象庁気象研究所海洋研究部第 2 研究室室長

要旨

総合的な海洋政策を策定する場合の基礎資料の一つである海洋の物理情報(水温、塩分、

流速、水位等)を、統合的に作成する科学技術について、国内外の研究開発の成果を用いて

紹介する。

1.はじめに

本発表では、統合的な情報作成の際に、海洋科学調査による海洋観測データがどのように

加工され、

(海洋大循環モデルと呼ばれる)数値モデルに「データ同化」という手法で取り

込まれ、現在の海洋の状況の把握(海況監視)と予測が行われるかについて述べる。海洋政

策策定時にこのような統合的な基礎資料がより効率的に利用されるためには、どのように統

合化がなされているか、その長所・短所を(政策立案者を含めた)ユーザーに理解していた

だくことが重要であると考えられる。海洋情報の統合化に関して、国際研究計画 GODAE(全

球海洋データ同化実験 Global Ocean Data Assimilation Experiment )を中心にこの 10 年あま

り議論されてきた情報の流れ・統合化の成果について例を示す。

2.データ同化による情報の統合化

データ同化とは、

(断片的にしか得られないが現実を表している)観測データと、

(力学・

熱力学の法則に則っているが外力とモデル内部のプロセスの不完全さによる誤差・バイアス

を含む)数値モデルの双方から有用な情報を抜き出し、組合す一連の操作である(淡路他、

2009)

。そのことにより、観測そのものや数値モデルそのものよりも、より現実的な海の状

況が得られる。データ同化の目的としては以下のものが挙げられている:

1. 海の状況や気候変動の予報等のための最適な初期・境界条件を求める

2. 数値モデルの最適なパラメーターを求める(パラメーター評価)

3. 同化結果(4 次元データセット)による現象の理解・解明

4. 既存の観測システムの評価と最適な観測システムの構築

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図 1.は、海洋科学調査を行いその調査・観測結果と数値モデルを用いてデータ同化・予

測を行い、海況監視・予測のプロダクトをユーザーに提供し利用されるまでの、各種要素間

の情報の流れに関する概念図である。この図は GODAE 計画で議論されてきた研究開発項目

を基にして作成した。重要なことは、各コンポーネントの研究開発はもちろんのこと、全体

をトータルなシステムとして捉えること、情報が一方向に流れるだけでなくフィードバック

ループを形成することである。最終的なプロダクトには、115 項目に及ぶ利用形態があるこ

とがわかってきた。これらの利用形態に応じて、本研究会のテーマである海洋政策も決定さ

れるべきであると考える。発表では、それぞれの要素について例示しながら紹介・議論した

い。

海洋情報を社会に提供する場合に、対象とする現象の特徴的な時間・空間スケールに応じ

たいくつかのデータ同化システムが必要である。例えば、熱帯太平洋の水温が数年おきに大

きく変動するエルニーニョのような現象には全球のシステムが必要である。一方、黒潮や親

潮のような日本近海の海流や渦を対象とする場合は、北西太平洋のような限られた海域での

(しかし解像度は細かくする必要がある)システムが必要である。図2は、全球から日本近

海を主に対象とするデータ同化システムの地理的な関係としての模式図である。現在世界各

国では、全球のデータ同化システムから徐々にダウンスケーリングを行い、発信すべき情報

がよりよく再現・予測されるスケールでの同化・予測システムを構築して統合的な情報発信

を行う努力がなされている。これらのデータ同化システムによって(観測と数値モデルが)

統合された情報が応用されている例も、発表時には示す。

3.おわりに

海洋情報の統合化に関する技術開発は世界各国の現業・研究機関で急速に進展している。

また、その情報の取り扱い、特にデータフォーマット、用語、記号等について、国際的な標

準化の動きもある。今後、国内外の現業・研究機関の間の連携が不可欠になると思われる。

参考文献

淡路敏之、蒲地政文、池田元美、石川洋一(2009):データ同化、観測・実験とモデルを融

合するイノベーション、京都大学出版会、284pp.

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図 1.海洋同化・予測を行う際の各種要素間の情報の流れの概念図。

図 2. 海洋データ同化の例。全球(右上)から、より狭い海域で、より細かい情報を作成す

るために、北太平洋(左上)

、北西太平洋(左下)

、日本近海(右下)へとダウンスケーリン

グを行ったシステムが用いられる。右上図から左下図までは気象庁のシステムであり、右下

図は日本気象協会と九州大学のシステムである。

(18)

日本沿岸域における海洋調査の戦略的な推進とその課題

黒倉

くろくら

ひさし

東京大学大学院農学生命科学研究科・教授

要旨

二酸化炭素問題におけるキーリングの貢献のように、環境問題を考えるために

は、環境の継続的な観測の蓄積が欠かせない。特に海洋観測は時間的・空間的

に密なデータの蓄積が必要である。こうした視点に立って、我が国の海洋環境

調査のシステムを説明し、海洋観測の継続が困難になっている現状を報告する。

最後に国レベルでの国策としての海洋観測の継続の必要性を訴える。

長期的観測の必要性

2007 年、元アメリカ副大統領アル・ゴアは、地球温暖化問題に関する啓蒙活動

を評価されて、IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change)とともに、ノー

ベル平和賞を受賞した。チャールズ・キーリングはそれに先立つ2年前、2005

年に死亡している。地球温暖化の機構やその対策については様々な意見がある

が、現在、大気中の二酸化炭素濃度が毎年着実に増加し続けているという事実

は、キーリングが 1950 年代から、ハワイ・マウナロア山で始めた大気中の二酸

化炭素の測的記録(いわゆるキーリング曲線)によって明瞭に示されている。

大気中の二酸化炭素濃度は季節的な変動を含めて様々な要因で変化する。その

長期的な傾向を知るためには継続的な観測が不可欠である。キーリングが観測

を始めた当初、その観測記録がどのような情報をもたらすのかまでは予測でき

なかったであろう。実際、初期の段階では、観測は資金不足のために中断して

いる。しかし、彼が示した事実の解釈や対策が、世界的に政治の重要課題にな

っている。さまざまな要因で変動する環境データーの中から、長期的な傾向を

見出すために連続的な観察を続けることの意義は、一般には理解されにくい。

しかし、我が国が環境問題を含めた地球規模の問題で国際的なリーダーシップ

をとろうとするのであれば、長期的なデーターの蓄積は不可欠である。

我が国の海洋観測

大気と並んで海洋も地球規模での環境変動にかかわる重要な要素である。また、

海洋それ自体が、水産生物を含む多くの生物をはぐくみ、様々なサービスを人

類に提供している。海洋環境と大気では、空間的・時間的な変動のスケールが

異なる。沿岸域に見られる潮目の様に、異なる水の塊同士が混ざり合うことな

く接して、押し合い移動を繰り返す。また、それらの水塊中にさらに小さな空

間スケールで群れを形成して、さまざまな生物が分布・移動・消長を繰り返し

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ている。例えば、養殖魚介類に被害を与える有毒な植物プランクトンは、1∼

2日程度といった短期間の局所的な水塊変化に大きく影響を受け、赤潮を形成

したり、貝類の毒化の原因となったりしている。このように、沿岸において海

洋生物の動態と環境との関係を把握する場合、その観察の測点は密でなければ

ならない。1963 年から 2006 年の我が国の水産試験場等が海洋観測を行った地点

の数は、およそ50万測点ほどである。毎年1万以上の測点で観測が行われて

いることになる。こうした調査は水産庁により組織化されて行われてきた。図

1には、各県が行っている観測の定線を示した。我が国沿岸から針のように観

測定線が突出し、協力し合って海域をカバーしていることがわかる。科学技術

の進歩により、海洋観測の技術も発展している。人工衛星によるリモートセン

シングの技術は、広い範囲での連続的な観測を可能にし、自記式の記録計は観

測ブイやプラットホームによる連続的なデータの収集を可能にした。しかし、

より細かい水質項目や、動物・植物プランクトンの分布などについては、船舶

を利用した観測が欠かせない。時間的変動等や空間変動のスケールを考えれば、

年間1万点以上という測点の数はけして多いものではない。小達和子は、1951

年東北海区水産研究所に入所以来、42 年間にわたって動物プランクトンの調査

研究に従事し、蓄積した2万点にもおよぶ標本を分析して、動物プランクトン

の変動と小型浮魚類の資源変動とに同調性がみられることを明らかにした。こ

れらの標本・データーは ODATE コレクションとして世界的に名高い。この他に

も、定線観測によって得られた貴重な標本・データーが各地の水産試験場など

に蓄積されている。これは、我が国の科学技術が誇るべき実績である。

我が国の海洋観測をめぐる問題。

図2には、ある地方自治体の海洋観測に関する費用の変遷を示した。地方分権

化の動きの中で、国から自治体への財源が移譲された結果、地方自治体の水産

試験場における調査研究費は大幅に削減され、中でも直接的利益が目に見えに

くい環境調査の予算は削減の対象となりやすい。多くの自治体で、予算の制約

から、従来の環境調査・定線観測の維持が困難になっている。海洋環境の空間

的変動スケールは小さい。しかし、変動は部分的に独立して起こるのではない。

お互いに広い範囲で連携している。それらを総合的に把握しなければならない。

また、海洋資源は広い範囲で移動分布する。それぞれの自治体が独立して管理

することはできない。国防は国の問題であり、地方自治体に任せるべきもので

はないのと同様に、海洋環境の観測と管理は国レベルの問題である。国が予算

を確保し、水産庁など適当な国レベルの枠組み指導のもとに、国策として各自

治体が連携して行う仕組みを維持していかなくてはならない。

(20)

図1.水産試験場による観測定線

(21)

海賊対処法制定の意義と今後の課題

鶴田 順

海上保安大学校 准教授

本報告では、本年7月に施行された「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関す

る法律」

(海賊対処法)を制定する以前の日本による海賊行為への対処と処罰の限界

を見極めることで、同法を制定した意義を明らかにし、あわせて同法の適用・執行に

まつわるいくつかの課題について言及する。

アラビア半島南側のソマリア沖およびアデン湾で、航行中の船舶が、重火器で武装

した海賊等に襲撃される事件が急増している。この海域での海賊等(海賊および海上

武装強盗)の事件の発生件数は、国際商業会議所国際海事局の報告書によれば、2008

年に前年の 44 件から 111 件に急増し、本年は上半期のみで約 150 件に達している。

この海域は日本と欧州・中東を結ぶ重要な海上交通路であり、年間 2000 隻以上の日

本関係船舶が航行しており、日本船籍の原油タンカーが海賊等に襲撃され被弾するな

ど、日本関係船舶の航行の安全が脅かされる事態にいたっている。

こうした状況をうけて、日本政府は、本年 3 月 13 日に、自衛隊法 82 条にもとづき、

ソマリア沖およびアデン湾において日本関係船舶を海賊行為から護衛することを目

的として、海上警備行動を発令し、海上自衛隊の部隊を派遣した。海上警備行動によ

る護衛の対象船舶は日本関係船舶に限定された。このことは、派遣の根拠となった自

衛隊法 82 条の「人命若しくは財産」という文言が、従来から基本的には日本国民の

生命または財産であると解されてきたことによる。

また、2009 年 3 月 13 日には、海賊対処法案を第 171 回国会に提出し、6 月 19 日に

衆議院の再可決により成立し、同年 6 月 24 日に公布された。

海賊対処法は、国際法上の海賊行為を日本の国内法においても犯罪行為とし、海賊

行為の実行者の国籍を問わず処罰することを可能とするとともに、護衛の対象船舶を

すべての国の船舶に広げること等を目的としている。

2007 年 4 月に成立した海洋基本法には、衆参両院の委員会で可決される際に決議が

付された。これら 2 つの決議はほぼ同内容であり、ともに、海洋基本法の施行にあた

っては、日本における国連海洋法条約の実施のための「国内法の整備がいまだ十分で

ない」ことを考慮し、

「海洋に関する我が国の利益を確保し、及び海洋に関する国際

的な義務を履行するため」

、国連海洋法条約「その他の国際約束に規定する諸制度に

関する我が国の国内法制を早急に整備すること」について、

「適切な措置を講じる」

べきであるとしている。

国連海洋法条約の海賊行為関連規定に対応した日本の国内法も、海賊対処法が制定

されるまでは、まさに「整備がいまだ十分でない」という状況にあった。

国連海洋法条約 101 条の「海賊行為」の定義の内容を要約すると、

「公海上の私有

船舶の乗員・乗客による他の船舶等に対する私的目的に基づく不法な暴力等の行為」

である。また、国連海洋法条約 105 条は、公海における旗国主義の例外として、すべ

ての国が、海賊行為に使用された船舶(海賊船舶)を拿捕し、海賊行為の実行者を逮

捕する等の司法警察権限を行使することを許容している。

海賊対処法が制定されるまで、日本には国連海洋法条約第 101 条の海賊行為を処罰

するための特別刑法はなく、海賊行為に日本籍船や日本人が関係することで刑法典の

(22)

適用がある限りにおいて、国内法上の犯罪として処罰することができるにとどまった。

海賊対処法の制定により、公海上で外国人のみが乗船した外国船舶が外国人により襲

撃されるような海賊事案であっても、海上保安官が海賊行為からの危害を排除する等

の行政警察権を行使するのみならず、海賊行為の実行者を逮捕する等の司法警察権を

行使することが可能となった。

たしかに、これまでもハイジャック防止の国際条約上の犯罪に対応した国内法にお

いても、

「刑法第二条の例に従う。

」等と規定することによって、日本の国内法令を国

外にひろく適用する立法はなされてきた。しかし、その執行については、あくまでも

条約によって締約国に課せられた「引き渡すか裁判するか」の選択義務の履行として、

当該犯罪行為の実行者が日本国内に所在するにいたった限りにおいてなされる「受け

身」のものであった。海賊対処法については、同法の観念的適用のみならず、同法に

おける犯罪に対する公海上での執行も可能である。海賊対処法の制定によって、国外

で発生した事案への日本の国内法の適用と執行のあり方は新たな局面を迎えたとい

える。

海賊対処法の制定によってひろく行うことが可能となった国際法上の海賊行為に

対する司法警察権の行使を、いかなる場合に、いかなるかたちで行っていくべきか。

国際法上、海賊行為に対する普遍的管轄権の行使は旗国主義のあくまでも「例外」と

して許容された権限行使であることに留意しつつ、そのあり方を整理していく必要が

ある。

(23)

日本海洋政策研究会事務局

〒105-0001 東京都港区虎ノ門 1-15-16 海洋船舶ビル 海洋政策研究財団内

TEL:03−6206−1026 FAX:03−3502−2127

図 2.  海洋データ同化の例。全球(右上)から、より狭い海域で、より細かい情報を作成す るために、北太平洋(左上) 、北西太平洋(左下) 、日本近海(右下)へとダウンスケーリン グを行ったシステムが用いられる。右上図から左下図までは気象庁のシステムであり、右下 図は日本気象協会と九州大学のシステムである。

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