Ⅰ.はじめに
わが国の高等学校卒業生の進路状況を見ると,大学 等進学率が 50%を超え,2011 年度は 55%弱となって いる。また,専修学校進学率は 14 〜 18%前後で推移 している。就職率は 2009 年度まで 18%程度であった が,景気後退に伴って 2010 年度と 2011 年度は 15%強 にまで低下してきている。1)他方で,フリーターは今 世紀に入って急増し,ここ数年は徐々に減少してきて いるものの約 170 万人がアルバイト等で生計を立てて いる。また,無業者(ニート)についても 2002 年以 降約 64 万人で推移している。さらに,非正規雇用者 数は正規雇用者の 3 人に 1 人にまで増加してきており, 経済格差,所得格差,教育格差,地域格差等に拍車が かかり,格差の固定化に繋がるのではないかと懸念さ れている。 このような,わが国の経済・社会の変容に対して 1990 年代以降,キャリア教育の推進が求められ,高 等教育を含めて初等・中等教育等の学校教育段階での 一貫したキャリア教育の推進が進められている。そこ で,本稿では,高等教育段階におけるキャリア教育の 1 つの方向性と,このキャリア教育による意識改革を 通した経済教育の有効性について,松本大学松商短期 大学部の事例を紹介する。Ⅱ.国民所得の決定とキャリア教育
1.「時代理解」としてのマクロ経済学 高等教育におけるキャリア教育は,「望ましい職業 観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさ せるとともに,自己の個性を理解し,主体的に進路を 選択する能力・態度を育てる教育」2)と定義されてい る。ここで,「主体的に進路を選択する」ためには自 分が生きていく時代を理解することが必要であり, 「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技 能を身に付けさせる」ためには時代とともに変化する 経済・社会を理解し,自分が生きる時代の職業につい て,またそこで求められる能力について理解している ことが不可欠である。したがって,キャリア教育の 1 つの側面として,「自分が生きていく時代を理解させ る」という側面がある。3)そこで,経済学的な視点か ら「時代理解」を促す 1 つの手法として,国民所得の 決定における労働市場の役割や状況を理解させ,これ を通して自分が生きる人生について考え,自分は今何 をすべきかを理解させる授業展開が考えられる。 2.マクロ経済学における政府の役割 マクロ経済学において国民所得の決定を説明する場 合,国民所得を(Y),消費を(C),民間投資を(I), 公共投資ないしは財政支出を(G),輸出を(X),輸 入を(M)として以下のような需給関係の恒等式を用 いる。 Y = C + I + G + X - M (1) この式は,右辺の総需要の大きさが左辺の総供給を 決定するとする有効需要の原理を前提として,総需要 の各要素を示している。また,有効需要の原理を前提 とすると,総供給である国民所得の大きさは,消費や 民間投資,公共投資などの右辺の総需要を構成する各 要素の変化によって決定されるため,マクロ経済学で は,総需要の各構成要素の決定要因と国民所得に対す る波及メカニズムやその効果について検討する。した がって,マクロ経済学は,左辺の総供給,すなわち国 民所得の決定要因を明らかにするとともに,右辺の各 構成要素に対する政策当局の操作可能性と国民所得に 対する影響や波及メカニズムを分析する政策論的側面 を強く持っている。キャリア教育をベースとした
経済教育の展開
The Journal of Economic Education No.31, September, 2012Development of Economic Education Based on Career Education
Itoi, Shigeo
さらに言えば,労働市場で非自発的失業が存在して いるときに国民所得が増大すれば,結果として労働市 場の雇用を増やすことになるため,失業対策としては 国民所得を増大させればよい。そして,そのためには, 財市場において直接的に需要を増大させる財政政策 (公共投資政策)や,民間利子率の低下による民間投 資の増大によって国民所得を増加させる金融政策が有 効と考えられるため,財政政策と金融政策のあり方や その波及メカニズム,国民所得に対する効果の分析が 重要となる。4)すなわち,マクロ経済学では,非自発 的失業という労働市場内部ではその調整に時間がかか る矛盾を,財市場と貨幣市場の自己調整メカニズムを 活用しつつ,国民所得水準を高めることで短期的にそ の矛盾を是正しようとしているのである。したがって, 政府や中央銀行などの政策当局は,労働市場において 雇用が増えるような,すなわち「働く場」を創出する ような政策運営をする必要があり,マクロ経済学等を 学修した者は,この政策運営について,その政策が好 ましいかどうかの価値判断が出来るようになることが 求められるのである。5) このように整理すると,マクロ経済学を大学や短期 大学で教える理由の 1 つは,卒業後の実社会で,政府 や中央銀行などの政策当局が何をしようとしているの か,その政策がどのような結果をもたらすのか,など について自分で考え,自分自身の価値判断を持たせる ためであろう。つまり,マクロ経済学の 1 つの役割は, 自分が生きる時代を理解し,自分が生きる時代・社会 を他人任せではなく,自分の意見を表明することで他 者と議論し,自分が生きる時代をみんなで改善してい くための価値判断の前提となる知識や技能を提供する ことにあると考えられる。6) 3.労働市場分析におけるキャリア教育 他方で,人間の労働力により作り出される価値は価 格で表現されるが,左辺の総供給である国民所得は, 一定期間,一定地域で作られた総付加価値の合計,す なわち付加価値を価格で表現した労働者の所得の合計 で表すことが出来る。したがって,国民所得は,下記 のように,労働者,すなわち雇用者数を N として, 雇用者の平均所得(Y / N)と雇用者数(N)を掛け た値として表すことが出来る。 Y = YN × N − (2) ここで,雇用者の平均所得(Y / N)は,1 年間の 労働によりその国の労働者がどれだけ稼いだのか,つ まりどれだけの価値を創り出したのかを表しており, この値が大きいほど労働生産性が高いことを表してい る。したがって,この式は,その国の国民所得を増加 させたいのであれば,労働生産性(Y / N)を高める か,雇用者数を増やす必要があることを示している。 さらに,(2)式の両辺をその国の人口(P)で割る と,以下のような式になる。 YP− = YN− × NP− (3) ここで,(Y / P)はその国の国民一人ひとりに分 配される国民所得の額,すなわち生活水準を表してお り,(Y / N)は労働生産性,(N / P)はその国の人 口に対してどれだけの人が雇用されているのか,すな わち労働参加率を示している。そして,この式を前提 として少子高齢化社会を迎える日本社会を考えると, 少子化と高齢化によって人口に占める雇用者数が減少 するために労働参加率(N / P)が低下するのに伴っ て,国民一人ひとりに分配される国民所得の額も低下 するために,その国の生活水準は劣悪になる。ここで, 労働生産性が高まれば生活水準の低下に歯止めを掛け ることが出来るが,労働生産性が低下すれば生活水準 はさらに悪化することになる。したがって,わが国が 直面している少子高齢化社会においては,労働生産性 と労働参加率を高めない限り日本国民の生活水準は将 来低下していくことになるのである。 それでは,この労働生産性と労働参加率について日 本の状況はどうであろうか。周知のように,わが国の 労働生産性は 2011 年の統計で OECD 加盟 33 カ国中 22 位と低い水準にあり,労働参加率についても 2011 年 度の若年失業率は 8%を超え,無業者(ニート)数は 64 万人と高止まっている。7)また,雇用者数の 3 分の 1 は非正規雇用となっている。そして,このような非 正規雇用や無業者の増加は,労働力を高めるような研 修が行われないがために将来的には労働生産性の低下 を招くとともに,労働力の質の低下から失業率を高め る可能性が高い。さらに,非正規雇用の増加は,所得 が少ないために結婚や子育てが難しく,結果として少 子化に拍車を掛けることになろう。 4.マクロ経済学とキャリア教育 さて,このように整理すると,マクロ経済学では, 上記の政府や中央銀行等の政策当局が行う「働く場」 の創出に加えて,労働者一人ひとりの個人レベルの課
題として労働生産性と労働参加率を高める必要がある ことも指摘できる。また,上記の(1)式と(2)式を マクロ経済学の側面とキャリア教育の側面から整理す ると図 1 のように整理することが出来よう。ここで, マクロ経済学は,国民所得(Y)がどのように決定さ れ,その国民所得を増加させるためにはどのような財 政金融政策が有効かについて分析するわけであるが, 労働供給の面からすれば,キャリア教育は,「労働力 の質」という点で,労働生産性と労働参加率の上昇が 国民所得を増加させるために不可欠である。 図 1 マクロ経済学とキャリア教育 〈マクロ経済学〉 〈キャリア教育〉 Y =C+I+G+X−M Y = × N = × = Y P N P Y N Y N そこで,経済学的側面からキャリア教育の重要性が 指摘されるようになってきた背景を整理すると,フ リーターやニートの増加,早期離職や非正規雇用の増 加に見られるように,わが国の若年労働市場が大きく 変化したことがあり,この「労働生産性と労働参加率 を高めなければ少子高齢化社会に対応することが出来 ない」との危機感があったと考えられる。そして,時 代の変化に対応して「働いて生きていく」という意識 の涵養と,常に自らの技能を高めていく態度の育成, すなわち若年労働者の意識改革と技能向上を促すこと によって労働生産性と労働参加率を高め,労働力の国 際競争にも負けない「労働力の質」を確保するために, キャリア教育の推進が求められたと整理できるのであ る。すなわち,グローバル化,ボーダレス化した労働 市場を前提にすると,政策当局が財政金融政策等によ り雇用の創出に成功したとしても,雇用されるのは 「労働力の質」が良い労働者であり,日本人が雇用さ れる保証はない。つまり,マクロ経済学の問題として 財政金融政策等によって雇用を創出しても,労働力移 動のボーダレス化や仕事の海外へのアウトソーシング が進むと,「労働力の質」が良い外国人労働者が雇用 され,自国の失業率の低下に繋がらない可能性が高く なってきているのである。8)その結果,わが国のよう な相対的に高い賃金水準にある国では,低賃金の単純 作業では発展途上諸国に勝てないのであるから,その 高い賃金に見合った「労働力の質」を確保する必要が あるのである。9)そしてこのような,若年層の意識改 革と技能向上を通して労働生産性と労働参加率を高め, 「労働力の質」を高める観点からキャリア教育の重要 性が指摘されるようになったと考えられるのである。 以上のように,マクロ経済学の側面から整理すると, 労働力移動や仕事の海外へのアウトソーシングが困難 な時代には,失業対策としての財政金融政策は自国の 非自発的失業を減少させる効果を持つが,労働力移動 が自由化され IT 革命等により仕事の海外へのアウト ソーシングが進むと,失業対策としての財政金融政策 は必ずしも自国の非自発的失業を減少させるわけでは なくなる。それゆえ,自国の非自発的失業を減らすた めには,財政金融政策により雇用が創出されたときに, 自国の失業者が相対的に高い賃金に見合う,雇用する に値するだけの「労働力の質」を持っていなければな らない。そこで,この「労働力の質」を高めるために, 具体的には労働生産性と労働参加率を高めるために キャリア教育が求められているのである。したがって, この場合のキャリア教育の視点は,労働生産性を高め るための知識・技能の向上であり,労働参加率を高め るための意識改革ということになろう。そして,この ように整理すると,キャリア教育の 1 つの方向性とし ては,時代理解の側面からわが国の労働市場の現状や 非正規雇用やワーキング・プアの実体について説明す ることで,一人ひとりの学生に自分の将来について考 え,今何をすべきなのかを認識させることで目的意識 と修学意欲を高め,学生の知識や技能を向上させるよ うな授業展開が求められる。
Ⅲ.キャリア教育科目による意識改革
─松本大学松商短期大学部の取組─
1.「キャリアクリエイトⅠ」 上記のように,キャリア教育には「自分が生きてい く時代を理解させる」という時代理解の側面があり, これをマクロ経済学の視点から考えれば労働市場の現 状や課題を授業に織り込むことが考えられよう。つま り,政府や中央銀行などの政策当局の役割としては, 「雇用の創出」のために財政金融政策等の政策運営を 積極的に行うが,他方では,一人ひとりの労働者が自 分の「労働力の質」を高め,全体として労働生産性や 労働参加率を高めていく必要がある。そして,そのために,時代理解を通して意識改革を促し,自己理解と 知識・技能の向上を通して「労働力の質」を高める キャリア教育が求められているのである。 このような認識の下,松本大学松商短期大学部では, 1 年生前期に,専門教育科目の「マクロ経済学」と キャリア教育科目の「キャリアクリエイトⅠ」を開講 し,図 1 に示したように専門教育とキャリア教育の二 つの側面からカリキュラムを展開している。前者の 「マクロ経済学」では政府や中央銀行等の政策当局の 役割とすべきこと,後者の「キャリアクリエイトⅠ」 では上記のような労働生産性や労働参加率の問題を含 めて個々の労働者の役割とすべきことについて説明し ている。また,この「キャリアクリエイトⅠ」では, 「なぜ勉強するのか」「なぜ高等教育を受けるのか」 「なぜ松本大学松商短期大学部で勉強するのか」など について考えさせるとともに,本学のキャリア教育の 取組やその手法である「出席レポート」の取組や携帯 メモ帳『EYE』の取組について説明し,目的意識の 明確化や修学意欲の向上を促すことで徐々に職業観や 人生観の形成を図っている。10) 2.「キャリアクリエイトⅠ」の役割 ─メモ力育成の取組の効果を高めるために─ さらに,上記のような意識改革に加えて,松本大学 松商短期大学部では,授業外学習の充実と汎用的能力 (ジェネリック・スキル)の育成,特に「メモをとる 力(メモ力)」育成の観点から,専門講義科目を中心 に「出席レポート」の取組と全学的取組として携帯メ モ帳『EYE』の取組を実施している。11)キャリア教育 にはさまざまな側面があるが,社会人・職業人として 求められる技能としては整理力や文章力,質問力やメ モ力などの汎用的能力が重要と考えられるため,松本 大学松商短期大学部では教職員がサポートしつつ学生 に「負荷」をかけることで,この汎用的能力の向上に 取り組んでいる。 松商短期大学部の「出席レポート」は,授業中のメ モやノートを参考に授業内容を次回までに A4 の「出 席レポート」1 枚に整理する取組で,受講生は各自の ノートやインターネット,図書館の本や友達とのグ ループ学習によりこの「出席レポート」を授業外学習 で整理することになる。その結果,授業外学習時間が 増加するとともに,情報収集能力や検索能力,整理力 や文章力などが「出席レポート」作成過程で育成され ることになる。さらに,ほぼ毎回「出席レポート」を 提出させることで,受講生はメモを取ることや整理す ること,調べることなどが習慣化され,授業外学習の 常態化や生涯学習力の育成にも効果的な取り組みに なっている。12) また,実社会を見ることで時代理解を促す観点から, 本学ではアウトキャンパス・スタディを積極的に展開 しており,このようなアウトキャンパス・スタディに おいても,「メモをとる力(メモ力)」の育成の観点か ら携帯メモ帳『EYE』を常に携帯させ,必要に応じ て授業外学習でパワーポイントを作成させて発表させ ている。アウトキャンパス・スタディでは,アウト キャンパス・デイを事前に設定し,通常の 1 コマの授 業時間では実施が困難な企業見学や職場訪問等を行っ ており,アウトキャンパス・スタディ実施後に携帯メ モ帳『EYE』にメモした内容を整理して,報告会等 も実施されている。13) このように,本取組は,学生に「メモを取らせる」 ことを柱として,「出席レポート」を書かせ,パワー ポイントを作成させるなど,さまざまな負荷を与えて それを成し遂げる過程で育成される汎用的能力の向上 を図る取組である。それゆえ,「何故この取組が重要 なのか」,「この取組をすることでどうなるのか」など について事前に提示することで,その取組の重要性を 学生が認識し,納得してプログラムに参加することが 重要となる。そこで,上記の「キャリアクリエイト Ⅰ」の授業においては,このような特色ある取組につ いても,時代理解や企業が求める能力との関係の中で 説明し,説明することで目的意識を持って取り組める よう配慮している。したがって,「キャリアクリエイ トⅠ」は,本学の教育手法を理解させ,その重要性を 認識させる役割を担っているのである。 以上のように,松本大学松商短期大学部では,1 年 生に前期の段階で,経済学,特に「マクロ経済学」の 授業とキャリア教育科目である「キャリアクリエイト Ⅰ」の授業を並行して開講することで,経済の側面か ら自分が生きている時代(現在)を理解させ,目的意 識と修学意欲を高める取組を行っている。また,この ような意識改革と知識・技能(特に汎用的能力)の向 上を意図したキャリア教育を早期に展開することで, 経済学や金融論などの経済教育等の充実を図ってい る。14)すでに述べたように,キャリア教育には「時代 理解」という側面があるが,今日の高等教育を含めた 学校教育においてはこの「生きる時代を理解させ,そ こで求められる知識・技能を提示する」側面が弱かっ たと考えられる。それゆえ,自分たちが学んでいる内 容が実社会でどのように活かされるのかについても明
示し,学生が自分の「労働力の質」を高めるために目 的意識を持って学生生活を送れるよう,キャリア教育 の充実が求められていると考えられるのである。
Ⅳ.まとめ
以上のように,松本大学松商短期大学部においては, マクロ経済学と並行して,わが国の労働市場の現状を 説明する科目「キャリアクリエイトⅠ」を開講するこ とで専門的な経済教育の充実を図っている。また,意 識改革と汎用的能力の育成に主眼をおいたキャリア教 育を全学的取組として展開することで,専門教育科目 や資格取得科目,教養教育科目の充実を図っている。 特に,1 年の前期の段階でキャリア教育科目である 「キャリアクリエイトⅠ」を開講し,並行して開講さ れている社会科学系の科目の有用性について,さらに は「メモをとる力(メモ力)」育成を 1 つの柱とした 本学のキャリア教育の取組について説明している。そ して,「キャリアクリエイトⅠ」で,労働生産性や労 働参加率,ワーキング・プアや非正規雇用問題,工場 の海外移転問題や仕事の海外へのアウトソーシングの 問題,年金問題や老後の生活など,社会科学で取り扱 う問題の多くを取り上げることで,本学では,自分が 生きる時代を認識し,そこで働いて生きていくために は何が必要か自分で考え,目的意識を持って修学する ことで効果的な専門教育の展開が可能になっているの である。15) ところで,上記のキャリア教育による意識改革を促 しつつ専門的な経済教育を展開する松本大学松商短期 大学部の取組は,その専門教育の充実に対する,また 汎用的能力の向上に対する有効性は高いものの,技術 的な問題は数多く存在する。例えば,「出席レポート」 は毎回提出させて添削をして返却するが,添削を行う 教員の負担の問題や返却時間の確保の問題,アウト キャンパス・スタディについて整理して報告する授業 時間の確保の問題,これまで授業外学習の習慣がなく, 本学の取組が負担になる学生に対するサポートのあり 方等,課題も明確になってきている。このような点に ついては取組に有効性を確保しつつ改善を図っていき たい。 註 1) 文部科学省ホームページ等を参照。 2) 平成 11 年 12 月 16 日の中央教育審議会答申「初等中等教 育と高等教育の改善について」の第 6 章「学校教育と職 業生活の接続」を参照。 3) キャリア教育の「自己の個性を理解し」,の側面を加える と,キャリア教育には主として「自己理解」の側面と 「時代理解」の側面の 2 つの側面があり,この 2 つの側面 の理解を通して「主体的に進路を選択する能力・態度」 を育成する教育ということになろう。 4) 理論的には,非自発的失業が存在している場合には,国 民所得の増大は雇用を拡大させて非自発的失業の減少を もたらすが,非自発的失業が存在せず,その国の経済が 完全雇用国民所得水準に達している場合には,国民所得 の増大は賃金の上昇に伴ってインフレを引き起こすこと になろう。 5) その意味では,マクロ経済学等を学修した者は,政府や 中央銀行の政策運営に対する監視役としての役割も期待 されていると考えられ,自分達が生きる社会に主体的に 関わり,これを改善していく知識と能力を得るために経 済学などの高等教育を受ける必要があると考えられるの である。 6) ここで,「技能」が重視されるのは,経済学等の勉強を一 生懸命することで,汎用的能力(ジェネリック・スキル) の向上が図られるためであり,実社会では,このような 汎用的能力の活用が求められている。この汎用的能力は 学校教育における通常の学習により伸ばすことが出来る わけであるが,勉強する意味や汎用的能力向上の重要性 については,拙稿「経済のグローバル化とキャリア教育」 (都留文科大学大学院『都留文科大学大学院紀要』第 16 集,2012 年 3 月,所収)を参照のこと。 7) 労働生産性については公益財団法人日本生産性本部の ホームページ。わが国の労働市場の現状については厚生 労働省『労働経済の分析』やホームページ等を参照。 8) わが国の憲法 25 条は,「すべて国民は,健康で文化的な 最低限度の生活を営む権利を有する。」第 2 項「国は,す べての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆 衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と生きる 権利(生存権)について規定しており,資本主義経済に おいては雇用の場を創出・確保することも国家の役割と 考えられよう。しかしながら,労働市場のグローバル 化・ボーダレス化が進むと,自国民の「労働力の質」の 低下は,国家として雇用創出を進めても自国民のための 雇用に繋がらない可能性を増大させることになるのであ り,さらに,労働生産性と労働参加率の低下は憲法 25 条 で規定されている「最低限度の生活」水準の低下を意味 しているのである。したがって,「健康で文化的な最低限 度の生活を営む」ためには労働生産性や労働参加率の上 昇が不可欠であり,そのためにわが国若年層の「労働力 の質」の向上が求められているのである。 9) わが国が先進国になるのに伴って賃金水準は上昇するが, 労働力の国際間移動や情報通信(IT)技術の進歩による 海外へのアウトソーシングを前提とすると,相対的に高 くなった賃金水準で求められる労働は単純作業から専門 的作業にシフトすると考えられる。つまり,単純作業で あれば相対的に賃金が低い国々の労働力でも対応が取れ るため,工場の海外移転や仕事のアウトソーシングが促 される。その結果,相対的に賃金が上昇した先進諸国で は専門的作業,知識集約型産業に対応できない単純作業 の労働者を中心として,失業率の上昇を招くことになる ため,先進諸国では相対的に失業率は高くなる。先進諸 国の失業率については厚生労働省ホームページ等を参照 のこと。 10) 本学のキャリア教育の取組については,金子・飯塚・糸 井「『出席レポート』を活用した『就業力』と『学士力』 向上の取り組み」(経済教育学会『経済教育』第 30 号,2011 年 10 月,pp.147-154。所収)を参照のこと。また, 本学の取組は,平成 21 年度「大学教育・学生支援推進事 業」大学教育推進プログラム【テーマ A】に,「メモ力育 成を核とした単位制度実質化の取組」というテーマで選 定されている。 11) 松本大学松商短期大学部では,労働参加率を高めるため には「時代理解」を通した若年層の意識改革が不可欠で あると考えられているが,労働生産性の向上には各専門 科目での学習を通した汎用的能力(ジェネリック・スキ ル)の育成が必要である,と考えられている。 12) このような「出席レポート」の取組や携帯メモ帳『EYE』 の取組は,「メモ力」育成に対して有効な取組であるが, それまであまり授業外学習の習慣がない学生にとっては 負担が大きく,従来から宿題等が大量に出される資格取 得科目との調整が必要なこともあり,「出席レポート」実 施科目は専門講義科目である選択必修科目 4 科目に絞っ ている。 13) 平成 22 年度の「大学生の就業力育成支援事業」では,「座 学によって得られる専門的知識や技術が,企業等の第一 線でどのように活用されるか実地に学ぶ」という視点が 盛り込まれ,大学教育と実社会との関係,大学教育の実 社会での有用性・有効性について明示することが求めら れている。 14) 松本大学松商短期大学部では,入学予定者に対して入学 前の 1 月から 3 ヶ月間の入学前教育を実施している。2 月 に実施されるキャリア・カウンセリングでは,自己肯定 観の形成と短大での目的意識の明確化に主眼をおいたカ ウンセリングを行うことで,修学意欲の高揚を図ってい る。 15) 松本大学松商短期大学部のキャリア教育をベースとして 専門教育の充実を図る取組の有効性については,一定程 度学生アンケートの結果や試験結果で把握することが可 能であろう。これについては,各年度の松本大学・松本 大学松商短期大学部『自己点検・評価報告書』や前掲の 金子・飯塚・糸井「『出席レポート』を活用した『就業 力』と『学士力』向上の取り組み」(経済教育学会『経済 教育』第 30 号,2011 年 10 月,pp.147-154。所収)を参 照のこと。