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The Japanese Society for Dental Health 口腔衛生会誌 J Dent Hlth 63: 21 27, 2013 原 著 社会的ひきこもり者の歯科保健医療に関する検討 ひきこもり者に対する質問紙調査の結果から 1) 小松㟢明 2) 小野幸絵 江面 2) 晃 4) 鈴

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全文

(1)

緒  言

 近年,わが国においては「社会的ひきこもり」や「ひ きこもり」と呼ばれる状態の若者が急速に増加し,軽度 の者も含めると,その数は約 70 万人以上と推計されて いる1).斎藤2)は,社会的ひきこもりを「20 歳代後半ま でに問題化し,6 か月以上自宅にひきこもって社会参加 しない状態が持続し,他の精神障害がその第 1 の原因と は考えにくいもの」と定義しており,思春期の精神的発 達や家族との関係性の問題が背景となり生じると考えら れている(以下,本研究では精神医療の対象とならな い社会的ひきこもり(者)を「ひきこもり(者)」とす る).  ひきこもりは,その問題の拡大とともに,全国的な支 援対策も進められ,2010 年 4 月には子ども・若者育成 支援推進法が施行され,全国の都道府県や政令指定都市 に,ひきこもり地域支援センターの設置が進められてい る状況にある.   新潟県下においては,2000 年以降に支援団体が組織 化され,「居場所」(社会的ひきこもりの改善を図る目的 で設置される共用空間で,当事者と支援者との接点でも あり,支援活動の拠点としての機能ももつ)の開設や, 「メンタルフレンド」(一定の研修を受けた後に居宅を訪 問し友人的立場で支援を行うボランティア)の派遣事 業,家族や支援者に対する研修等が,行政と連携して実 施されてきた3).日本歯科大学新潟生命歯学部および新 1)日本歯科大学新潟生命歯学部衛生学講座 2)日本歯科大学新潟病院総合診療科 3)日本歯科大学新潟病院在宅歯科往診ケアチーム 4)日本歯科大学新潟病院口腔外科 5)日本歯科大学新潟病院歯科麻酔・全身管理科 6)新潟市歯科医師会

社会的ひきこもり者の歯科保健医療に関する検討

─ひきこもり者に対する質問紙調査の結果から─

小松㟢 明

1)

江面  晃

2)

黒川 裕臣

2, 3)

田中  彰

4)

藤井 一維

5)

小野 幸絵

2)

鈴木見奈子

4)

吉岡 裕雄

2)

岡田  匠

6)

野村  隆

6)  概要:ひきこもり者の支援イベント参加者,支援団体が開設する「居場所」利用者 133 名(ひきこもり者 75 名を含む) を対象として,質問紙調査を実施し,ひきこもりと歯科疾患との関連性や支援活動の必要性について検討した.また,歯 科受診がひきこもり者のストレスとならないかを検討するため,「居場所」で口腔診査前後,歯科保健指導後に簡易唾液 アミラーゼ活性測定法による緊張度評価を実施し(「居場所」利用者 19 名を対象),その影響の有無について検討した.  その結果,ひきこもり者の 66% が「歯が痛む・しみる」と回答した.「居場所」での口腔診査の結果からも,ひきこも りはう蝕等の歯科疾患のリスクを高めることが示唆された.  ひきこもりの長期化が歯・口の健康に影響すると回答した者は,ひきこもり者群で 77%,家族・支援者群では 88%を 占め,その影響を危惧する者が多く,歯科領域からの支援をひきこもり者の 80%の者が必要と回答していた.   歯科受診が,ひきこもりの改善に寄与すると回答したひきこもり者は 71% あり,在宅歯科診療での受診も 60% のひき こもり者が,必要な場合に利用したいとの回答だった.  唾液アミラーゼ活性の測定結果では,診査後,指導後とも測定値の有意な上昇は認められず,歯科受診がひきこもり者 のストレスとなる可能性は低いと考えられた.  索引用語:社会的ひきこもり,質問紙調査,DMFT,訪問診療,唾液アミラーゼ活性測定 口腔衛生会誌 63:21-27, 2013 (受付:平成 24 年 7 月 10 日/受理:平成 24 年 11 月 7 日)

原  著

(2)

潟市歯科医師会では,これら支援活動に早い段階から協 力し,新潟市こころの健康センター等と連携しながら, 歯科保健医療面からの支援について検討してきた4–7)  ひきこもり者の生活範囲は自宅や自室が中心となり, 昼夜逆転など生活習慣も悪化し,外出も控えるため医療 機関への受診等も不可能な状況にあり,健康面への影響 が危惧される状況にある8).新潟市内の精神科病院で, ひきこもり専門外来を開設する中垣内9)によれば,ひき こもり者は運動不足,整容・入浴・セルフケア行動等の 減少から,感染症や皮膚科疾患等に罹患しやすい傾向が 認められた.よって,必然的に歯科疾患の罹患リスクも 高い状況にあると推測される.ところが,国内外のひき こもり関連の文献を渉猟したが,地域のひきこもり者の 歯科保健医療に関する調査を実施した例は認められず, ひきこもり者の歯科保健医療状況については不明であ る.  そこで著者らは,今後のひきこもり者の歯科保健医療 の検討に向けた基礎資料を得るべく,新潟市が実施する 支援イベントや「居場所」の開設など支援活動を通じ て,ひきこもり当事者(現在ひきこもり状態の者)およ びひきこもり経験者(両者を以下,ひきこもり者とす る),当事者の家族(以下,家族とする)等を対象とし て質問紙調査を実施した.一部の支援者からは,歯科関 係者との接触が契機となり,ひきこもりの改善にも寄与 する可能性も指摘されたため,この点も質問紙調査で確 認することとした.   これらの調査を元に,ひきこもりと歯科疾患との関連 性や効果的な支援をするための方策について検討するこ とを本研究の目的とした.   一方,これとは逆に歯科受診がストレスとなり,ひき こもりを悪化させないかと心配する保護者もあったた め,「居場所」で実施した口腔診査・歯科保健指導の前 後の緊張度を簡易唾液アミラーゼ活性測定法10)により 測定し,その影響についても検討することとした.

対象および方法

 1.  支援イベント参加者,「居場所」利用者に対する 質問紙調査  対象は,新潟市主催の 2009 年と 2010 年のひきこも り支援イベント「ひきこもり ART FORUM はじめの 一歩展」に参加し,無記名式の質問紙調査に回答した 者(65 名)と,2008 年~ 2010 年に NPO 法人などの支 援団体が新潟市内3か所で開設した「居場所」利用者の うち,支援イベント時と同内容の質問紙調査に回答した 者(68 名)で,両者合計で 133 名から有効回答を得た. 対象者を属性別に,ひきこもり者群(当事者・経験者), 家族・支援者群,友人・一般参加者群に分類し,回答状 況を比較した.各群の性別および年齢階級別の人数を表 1 に示す.  質問内容は,属性,性および年齢階級,ひきこもりの 歯・口への影響の認識,現在の歯・口の状況や,歯科受 診に関する姿勢等の項目で,質問の内容を表 2 に示し た.複数回の調査に同一人物が重複して回答している可 能性もあるが,調査期間中に当事者から経験者,支援者 へと立場が変化する場合も考えられるため,本研究では 得られた質問紙を基本単位とし,のべ回答者数で集計を 行った.  また,結果については今後の歯科保健医療面からの支 援にあたり,連携が必要と考えられる,家族・支援者の 歯科に対する認識や一般的な支援活動の周知状況に関す る検討も必要と考えられ,ひきこもり者群と家族・支援 者群,友人・一般参加者群との回答状況を比較検討する こととした.  2.  「居場所」利用者の口腔状況の評価と,口腔診査 前後での緊張度の比較   支援団体が新潟市内3か所で開設した「居場所」の利 用者で,本研究への協力を承諾した者 19 名に対して, 図 1 に示した流れで口腔診査(DMF,歯肉炎症所見, 清掃状態)を含む歯科保健指導を行った.その前後に交 感神経活動を反映する唾液アミラーゼ活性を測定し,歯 科受診を想定し緊張度がどの程度変化するか評価を試み た.  測定機材には唾液アミラーゼモニター(ニプロ社,東 京)を使用し,介入開始前,口腔診査後,歯科保健指導 後の 3 時点で測定し比較した.   本研究データの集計に関しては,Microsoft Excel (Microsoft Japan 社,東京)を使用し,質問紙調査結果 の分割表分析(χ2検定)および唾液アミラーゼ活性測 表 1 対象者の性・年齢階級別人数 属性 性 年齢階級 合計 10歳 代 20歳代 30歳代 40歳以上 ひきこもり者群 男性 4 45 5 1 55 女性 2 16 1 0 20 家族・支援者群 男性女性 0 3 1 4 12 49 618 友人・一般 参加者群 男性女性 410 211 00 34 925 (人)

(3)

定水準間の比較(Friedman 検定)には,エクセル統計 2008 for Windows(社会情報サービス社,東京)を使用 した.   また,本研究の遂行にあたり研究倫理については,日 本歯科大学新潟生命歯学部倫理委員会の承認(教 35 号, 2008 年 3 月 3 日付)を得て実施した.

結  果

 1. 質問紙調査の結果   表 2 には,質問紙調査の結果を属性別に示した.各質 問の回答では,ひきこもりが長期化した場合に歯・口の 健康に「影響あると思う」と回答した者は,ひきこもり 表 2 質問紙調査の質問内容と各群の回答状況 質問項目 ひきこもり者群 家族・支援者群 友人・一般参加者群 χ 2検定 (複数回答 除く) 人数 % 人数 % 人数 % 1.ひきこもりの長期化は歯・口に影響あると思いますか あると思う 58 77.3 21 87.5 25 73.5 ないと思う・わからない 17 22.7 3 12.5 9 26.5 「あると思う」回答者のみに質問(複数回答の 1~3 位) どのような影響があると思いますか 歯垢・歯石がたまる 51 87.9 19 90.5 17 68.0 歯磨きなど口腔清掃回数が減る 40 69.0 17 81.0 17 68.0 むし歯になりやすくなる 30 51.7 15 71.4 11 44.0 2.自分の歯・口で気になるところ(症状等)はありますか ある 50 66.7 9 37.5 16 47.1 * ない 25 33.3 15 62.5 18 52.9 「ある」回答者のみ(複数回答の 1~3 位) どのような点が気になりますか 歯と歯の間に食物がはさまる 46 92.0 8 88.9 5 31.3 歯が痛む・しみる 33 66.0 3 33.3 1 6.3 口臭が気になる 22 44.0 4 44.4 1 6.3 3.歯科のひきこもり者支援活動を知っていますか 知っている 36 48.0 14 58.3 7 20.6 ** 知らない 39 52.0 10 41.7 27 79.4 4.歯科のひきこもり者支援は必要と思いますか 思う 60 80.0 22 91.7 24 70.6 思わない,どちらとも,わからない 15 20.0 2 8.3 10 29.4 5.歯科受診によるひきこもりへの影響はあると思いますか 改善する,改善する可能性がある 53 70.7 20 83.3 17 50.0 影響ない・わからない 19 25.3 4 16.7 16 47.1 かえって悪化する 3 4.0 0 0.0 1 2.9 6.在宅歯科診療を受けよう(受けさせよう)と思いますか 受ける,我慢できなければ受ける 45 60.0 21 87.5 18 52.9 * 受けない・わからない 30 40.0 3 12.5 16 47.1 7.個室での歯科診療を受けよう(受けさせよう)と思いますか 受ける,我慢できなければ受ける 55 73.3 21 87.5 20 58.8 受けない・わからない 20 26.7 3 12.5 14 41.2 8.優先すべきと思う支援は何ですか(複数回答 1~3 位) 支援に関する十分な説明 58 77.3 17 70.8 24 70.6 ひきこもりに関する情報の収集 46 61.3 12 50.0 11 32.4 歯科疾患に関する啓蒙活動 36 48.0 15 62.5 9 26.5 (**:p<0.01,:p<0.05)

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者群 77%,家族・支援者群 88%と家族・支援者で高率 となっており,影響すると思う内容については「歯垢・ 歯石がたまる」,「口腔清掃回数が減る」など,口腔清掃 に関する内容が上位となっていた.  歯・口で「気になるところ(症状等)がある」と回答 した者は,ひきこもり者群では 67%が「ある」と回答 し,他群間との比較で回答者率に有意差(p<0.05)が認 められた.   具体的に気になる症状等として挙げられた内容は, 「歯と歯の間に食物がはさまる」,「歯が痛む・しみる」 が上位となっており,ひきこもり者群では「歯が痛む・ しみる」と回答した者が 66%と他群よりも多くなって いた.  本学および歯科医師会が行っている支援活動の周知 状況については,支援活動を知る者は家族・支援者群 では 58% と過半数が認知していたのに対し,ひきこも り者群では 48% にとどまっており,回答者率に有意差 (p<0.01)が認められた.  ただし,歯科からひきこもり者支援の必要性について は各群とも 70% 以上が必要と回答しており,特に家族・ 支援者群では 92%が支援の必要ありと回答していた.  歯科受診によるひきこもりへの影響があると思うか については,「改善する」,「改善する可能性がある」と 回答した者の合計は,ひきこもり者群では 71%,家族・ 支援者群では 83%,友人・一般参加者群でも 50%と なっており,歯科からの支援に対して,ひきこもりの改 善も期待されている状況が把握できた.  必要があれば在宅歯科診療や,他の患者と接しない個 室診療室での診察を「受ける(受けさせたい)」「我慢で きなければ受ける(受けさせたい)」と回答した者は, 家族・支援者群で高く,在宅歯科診療,個室環境受診と もに 88% が受診に前向きな回答となっていた.ひきこ もり者群も個室環境受診では 73%が受診に前向きな回 答となっていた.   歯科関係者の支援で優先すべき事項について聞いたと ころ,回答が多かった項目は「支援に関する十分な説 明」(各群とも回答者率 70%以上)や「ひきこもりに関 する情報の収集」等が上位となっていた.  2 . 「居場所」での口腔診査前後・歯科保健指導後で の緊張度測定の結果   口腔診査の結果については表 3 に示した.DMFT は 10.2±5.1,要治療歯数の平均値は 2.5 歯で 70% 以上の者 が要治療歯を有していた.歯肉炎症所見を有する者の 割合は 68% となっていた.口腔清掃状況については上 顎前歯歯面の 1/3 以上に歯垢付着がある清掃不良者が 60%を超えていた.  唾液アミラーゼ活性の測定結果は図 2 に示した.開始 前の測定値が交感神経の緊張状態10)の基準とされる 100 KIU/L(以下,省略)を超えていた者は 3 名のみで,開 始前より口腔診査後,指導終了後の値が上昇していた者 は 7 名あったが,各測定時の平均値±標準偏差は,開始 前 60.9±37.3,口腔診査後 58.8±38.4,指導終了後 61.9± 38.3 で,いずれも 60 前後の値で安定し平均値間に有意 差は認められなかった.各測定時間の多重比較でも有意 差は認められなかった.

考  察

 社会的ひきこもりの増加を受け,2010 年 5 月には「ひ きこもりの評価・支援に関するガイドライン」11)が策定 図 1  「居場所」利用者に対する唾液アミラーゼ活 性測定の流れ 表 3 「居場所」利用者(19 名)に対する口腔診査の結果 性 男性 17 名,女性 2 名 年齢階級 10 歳代:2 名,20 歳代:12 名, 30 歳代:4 名,40 歳代:1 名 DMF 歯数 10.2±5.1  最大値 20 ~最小値 4 要治療歯数 2.5±2.4  最大値 8 ~最小値 0 歯肉炎症所見 所見あり 13 名(68.4%) 清掃状態 多量歯垢付着あり 12 名(63.2%)

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されている.そのガイドラインによれば,ひきこもりの 支援においては精神医療関係者だけで解決することは困 難であり,さまざまな支援者・団体の相互連携が大切で あるとされている.社会的ひきこもりの実像自体も明確 ではなく,不登校やニートとの関連や,家庭の問題点 などを指摘する声もあり,問題は複雑化,社会問題化 し12),ひきこもり者や家族に対する支援を一層困難なも のとしている.   これまでの調査から明らかにされている社会的ひきこ もり者の特徴では,男性に多く,年齢的には 20 歳まで に問題が生じる場合が多いとされる.本研究でもこの傾 向は一致しており,ひきこもり者群の 73%が男性で 30 歳未満が 60%を占め 20 歳代が最も多かった.  ひきこもりの原因は特定できない場合が多く,学校や 職場での対人関係の問題や挫折,生活環境の変化などが 多いとされており,親の無関心など家族内の問題が背景 となる場合が多い9).本研究では質問紙調査を採用して おり,背景要因の把握までは困難と考え調査項目から除 いたが,自己効力感の低下など心理的側面については, 今後の調査で実施できるか検討したい.  生活面では,重度のひきこもりでは 81% に昼夜逆転 がみられるなど基本的な生活習慣の維持が難しく,入浴 をしないなど保健行動をとらない事例も認められてい る.ひきこもり専門外来での観察からも,不健康な生活 が 6 か月以上継続するため,皮膚科疾患や歯・口腔疾患 に罹患する者も多いと考えられている9)  ひきこもり者の特性から通常は接触困難であるが,本 研究では対象を「居場所」利用者まで広げることで,経 験者を含む 75 名から回答を得ることができた.「居場 所」の設置は支援の中核となる活動であり,ひきこもり からの回復期にある経験者の利用が多いと推察された. 訪問系の支援を通じて当事者に対し調査を行うことも不 可能ではないが,接触は非常に困難であり,著者らはイ ンターネット上のコミュニティの利用など新たな手法を 検討中である7).    また,本研究で口腔診査を実施できた「居場所」利用 者は 19 名と少数にとどまったが,DMFT は新潟県13) 同年代の値と比較して高い値となっており,要治療歯を 有する者も多かった.質問紙調査の結果からも,ひき こもり者で「歯が痛む・しみる」と回答した者が 66% と多かったことから一定のう蝕罹患者の存在が示唆され た.ひきこもりの影響については個人差も大きいと推測 されるが,長期に渡る口腔環境の悪化と,歯科受診不可 能な環境の継続が,口腔状況に反映した結果ではないか と思われる.   質問紙調査の結果からは,家族や支援者を中心に歯科 保健医療的支援を必要とするとの見方が多く,ひきこも りの改善に対する期待も存在している点から,精神保健 や関連医科領域と連携し,行政も含めた地域保健医療対 策のレベルで,ひきこもり者を歯科疾患のハイリスク者 と位置づけ,支援対策を講じる必要があると考えられ た.  中久木14)は,ホームレスやニート,災害等での避難 者,就労目的渡航外国人など歯科保健医療的ケアが届 きにくい状況にある人々を「歯科的マイノリティ」と呼 び,支援の必要性を訴えている.ひきこもり者の多くも 類似した環境にあり,対象者と歯科保健医療資源との近 接性の向上や,訪問診療での医療保険上の取り扱いの明 確化など,改善すべき問題も多いと考えられた.   また,医療の利用を機会としてひきこもり自体が改善 する場合も認められるとされ,支援団体と歯科医療機関 との協調的な介入が実現できれば,精神保健と歯科医療 との接点から歯科医療の新たなフィールドが広がる可能 性もある.  本学では在宅歯科往診ケア等の経験者を中心に,支援 団体のメンタルフレンドとしての立場も併せもつ者でプ ロジェクトチームを構成し,市内の精神保健機関や支援 団体と協調した体制構築を試みた.問合せや受診申込み も寄せられるようになってきたが,質問紙調査の結果に もあるように,まだ歯科領域の支援は十分に周知されて 図 2  開始前・診査後・指導後の唾液アミラーゼ活性 の測定結果の比較 (KIU/L:糖基質の分解による変色を光学ユニットが 反射率として捉えた換算単位)

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いない状況にあり,今後は歯科保健医療支援の必要性の 啓蒙等を含め,広報活動に力を入れる予定である8)  一方,外出しない対象者の特性からも,訪問歯科診療 を各地で展開する地域歯科医師会との連携はきわめて重 要と考えられ,この点からイベント協力等に際しては当 初から新潟市歯科医師会と共同で対応している.新潟市 歯科医師会においても保健センター内に個室で受診可能 な設備を整えており,寄せられた相談事例等の情報共有 も進めている.今回の質問紙調査の結果からも,ひきこ もり者に対する訪問歯科診療や個室環境での受診などの ニーズは潜在的に存在すると予測され,今後もこれら受 診環境の整備が必要と考えられた.   服部15)は,ひきこもりは日本文化に深く根ざした現 象であると述べ,その改善と予防には広く社会全体の 支援が必要としている.子に対し過剰に心配する親も多 く,それは場合により支援を遅らせる要因となる場合も ある.著者らも,歯科受診がひきこもりを悪化させるの ではないかと,親が心配する事例に遭遇している.   しかし,本研究での唾液アミラーゼ活性測定結果から も,歯科受診がひきこもりを悪化させるようなストレス となる可能性は低く,今回の測定結果は,家族等に対し 歯科受診の理解を得るための資料として活用できると考 えられた.   今後の支援活動に向けた課題としては,今回の調査結 果からも歯科からの支援が実施されていることを知る友 人・一般参加者群の回答者率は 20%と低く,支援の基 盤を強固とするためにも,一般向けも含めた啓蒙活動が 重要と考えられた.支援体制の流れが不登校対策から高 齢者閉じこもり対策までも含めた複合的かつ,全ライフ ステージをカバーした支援活動にシフトしており,そこ に歯科がどのように関わっていけるか検討が必要と思わ れた.   ひきこもりの問題は,児童虐待・自殺増加とともに, 近年の精神衛生の三大課題と称され16),その深刻さから 対策が急がれている.ひきこもり対策に関しては,特に その長期化が問題視されており,本研究対象でも 40 歳 以上のひきこもり者が確認された.支援が長期化した場 合には,これまで以上に精神保健・医療機関と歯科との 連携が求められる場面も増加すると考えられた.   今後,ひきこもりに関する問題に多くの歯科関係者が 興味をもち,支援が進むことを願うとともに,歯科保健 医療面からの支援が,ひきこもりの改善にも寄与する可 能性についても調査検討を進めたい. 謝  辞  本研究の遂行にあたり,ご協力を賜りました新潟市こころ の健康センター,NPO 法人にいがた若者自立支援ネットワー ク伴走舎の皆様に謝意を表します. 文  献 1) 内閣府政策統括官:若者の意識に関する調査(ひきこもりに関 する実態調査)報告書概要版,内閣府,東京,2010. 2) 斎藤 環:社会的ひきこもり―終わらない思春期―,PHP 研究 所,東京,2003,32–61 頁. 3) メンタルフレンドにいがたフレンド会員編:活動報告集メン タルフレンドにいがたの「あしあと」,博進堂,新潟,2005. 4) 小松㟢 明,江面 晃,黒川裕臣:社会的ひきこもり者に対 する歯科保健医療に関する検討,口腔衛生会誌 56:208–209, 2006. 5) 小松㟢 明,江面 晃,黒川裕臣:社会的ひきこもり者に対 する歯科保健医療に関する検討(第二報),口腔衛生会誌 57: 55,2007. 6) 小松㟢 明,江面 晃,黒川裕臣ほか:社会的ひきこもり者 に対する歯科保健医療に関する検討(第三報),口腔衛生会誌 8:63,2008. 7) 小松㟢 明,江面 晃,黒川裕臣:社会的ひきこもり者に対す る歯科保健医療に関する検討―これまでの活動を総括して―,口 腔衛生会誌 61:80–81,2011. 8) 青柳玲子:ひきこもり関連事業の取り組みから,公衛情報 38: 38–41,2008.  9) 中垣内正和:はじめてのひきこもり外来,ハート出版,東京, 2008,24–68 頁 . 10) 中野敦行,山口昌樹:唾液アミラーゼによるストレスの評価, バイオフィードバック研 38:3–9,2011. 11) 斎藤万比古:こころの健康研究事業報告書:ひきこもりの評 価・支援に関するガイドライン,厚生労働科学研究費,2010. 12) 内田千代子:ひきこもりカルテ:精神科医が語る回復のための ヒント,法研,東京,2001. 13) 新潟県福祉保健部健康政策課:解説平成 20 年県民健康・栄養 実態調査報告,新潟県,新潟,2010. 

14) 中久木康一:Voice to the Editorial Board 歯科的マイノリ ティーに対して今,歯科医師ができること,The ��intes�The ��intes� sence 29:75–78,2010. 15) 服部雄一:ひきこもりと家族トラウマ,日本放送出版協会, 東京,2005,14–58 頁.  16) 高塚雄介:ひきこもりの実態―その対策と予防を考える―,ここ ろの健康 26:22–30,2011.  著者への連絡先:小松㟢 明 〒 951�8580 新潟市中央区 浜浦町 1�8 日本歯科大学新潟生命歯学部衛生学講座  TEL:025�267�1500(内線 582) FAX:025�266�3567  E�mail:[email protected]�.ac.jp

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Development of a Dental Health Care Program for Socially Withdrawn People -The Res�lts of a ��estionnaire

S�rvey-Akira KOMATSUZAKI1), Akira EZURA2), Hiroomi KUROKAWA2,3), Akira TANAKA4), Kaz�y�ki FUJII5), Sachie ONO2), Minako SUZUKI4), Hiroo YOSHIOKA2),

Tak�mi OKADA6) and Takashi NOMURA6)

1)Department of Comm�nity and Preventive Dentistry, The Nippon Dental University, School of Life Dentistry at Niigata

2)Department of Comprehensive Dental Care, The Nippon Dental University, Niigata Hospital 3)Home�Visit Dental Care Team, The Nippon Dental University, Niigata Hospital 4)Department of Oral and Maxillofacial S�rgery, Nippon Dental University, Niigata Hospital

5)Dental Anesthesia and General Health Management, The Nippon Dental University, Niigata Hospital

6)Niigata Dental Association

Abstract: This st�dy was �ndertaken to explore the association between a retreat from normal social

interactions and oral diseases in withdrawn people, and to examine the need to s�pport them. For these p�rposes, a q�estionnaire s�rvey was cond�cted involving a total of 133 people. The respondents incl�ded withdrawn people who participated in vario�s programs, friendly s�pporters, and members of the general p�blic.

They had participated in some programs designed to s�pport socially withdrawn persons and had �sed Ibasho (open rehabilitation home set �p excl�sively for people with behavioral or emotional problems by a s�pport gro�p).

Socially withdrawn people tend to be oversensitive, and this may ca�se dental examinations to be more stressf�l. To investigate this, salivary amylase activity (SAA) levels, which can be �sed as a marker of sympathetic nervo�s system activity, were meas�red before and after oral examination, and after dental health g�idance given to 19 s�bjects at the Ibasho home. The degree of psychological tension in s�bjects was assessed based on the res�lts.

Of the withdrawn people, 77% replied that prolonged withdrawal had had an adverse effect on their dental and oral health. Abo�t 80% of the withdrawn people said that s�pport from the dental profession was necessary. Asked whether a dental health care program co�ld be beneficial for withdrawn patients, 71% replied in the affirmative. More than 60% of the withdrawn and former withdrawn respondents expressed their willingness to receive either home care services or treatment in a private room of a dental office.

The intraoral examination revealed that the DMFT for the s�bjects �sing the Ibasho home was 10.2 on average; the n�mber of teeth req�iring treatment averaged 2.5, and over 70% of the s�bjects had teeth yet to be treated.

No significant differences were observed in SAA levels meas�red before and after intraoral examina� tions, and after dental health g�idance. This s�ggested that there is little possibility for dental examina� tions to be stressf�l for withdrawn patients.

J Dent Hlth 63: 21-27, 2013

Key words: Socially withdrawn, Questionnaire survey, DMFT, Home care service, Salivary amylase activity Reprint requests to A. KOMATSUZAKI, Department of Comm�nity and Preventive Dentistry, The Nippon Dental University, School of Life Dentistry at Niigata, 1�8 Hama�ra�cho,Ch�o��k�, Niigata, 951� 8580, Japan

参照

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