婚姻・離婚制度の改正に関する私見
著者
日野原 晶
著者別名
Sho Hinohara
雑誌名
東洋法学
巻
37
号
1
ページ
89-123
発行年
1993-09
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003502/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja婚姻・離婚制度の改正に関する私見
日
野
原
昌
まえがき
法制審議会民法部会では、身分法小委員会において、平成三年一月以来、当面の課題として婚姻及び離婚制度全般 の見直しのための検討作業をしていたが、ある程度問題点が明らかになってきたとし、今後更に検討を進める上から も、広く関係各界の意見を聴くことが適当であると判断されるにいたった。そこで、法務省民事局参事官室では、そ れまでの身分法小委員会における審議の結果を参考として、問題点及びこれに対する意見を取りまとめ、﹁婚姻及び 離婚制度の見直し審議に関する中問報告︵論点整理︶﹂︵以下、単に﹁中間報告﹂という︶と題して、平成四年一二月 にこれを公表した。右中問報告は、法務省民事局長から東洋大学法学部長あてに送付され、右中間報告に掲げられた 事項について、御意見又は御提案があればお寄せ頂くようにとの御依頼があり、また、右法学部長は右中聞報告を私 に回付されたので、私は、東洋大学比較法研究所の所員にアンケートを回し、更に同研究所の研究会における討議を 東洋法 学 八九婚姻・離婚制度の改正に関する私見 九〇 経た上、それらを参照しながら右中間報告に対する意見書を作成し、これを平成五年四月八日に法学部長を経て法務 省民事局参事官室あてに提出した。 本稿の内容は、右意見書とほぼ同一である。今回は、裁判実務の経験に基づく意見を主とし、かつ、その意見書の 公表という趣旨で外国法制や参考文献等は掲げなかったが、いずれ稿を改めて詳しく論述したいと思っている。本稿 では、右意見書には記載しなかった﹁中間報告の内容しを事項ごとに挿入して、問題点が理解し易いようにした︵な お、中間報告では、民法の条文は条名のみとしている︶。また、中問報告の中でも﹁意見﹂という用語が使用されて おり、紛らわしいので、私の意見はすべて﹁私見しと訂正した。以下は、私の意見書である。 婚姻及び離婚制度の見直し審議に関する中間報告に対する意見書 この意見書は、法務省民事局参事官室から平成四年ご一月に公表された﹁婚姻及び離婚制度の見直し審議に関する 中闘報告︵論点整理︶﹂に関し、これに対する意見及び提案をまとめたものである。この意見書の作成に当たっては、 東洋大学比較法研究所における所員︵同大学法学部教授・助教授・講師らにより構成︶によるアンケート結果及びそ の研究討議を経た上で、それらを参照しながら作成したが、最終的には私個人の意見ということになるものである ︵なお、私自身は裁判官として、家庭裁判所で家事事件を約七年間、地方裁判所で人事訴訟事件を含む民事事件を約 四年間、高等裁判所で同じく民事事件を一〇年間余それぞれ担当し、現在は家事調停委員及び参与員をも兼務してい るが、本意見は、それらの経験を踏まえてのものである︶。
第︻ 婚姻の成立に関する問題点 一 婚姻の要件 1 婚姻最低年齢︵七一三条関係︶について ︵中問報告︶ の 問題の所在 現行制度の下では、男性は満一八歳以上、女性は満一六歳以上でなければ、法律上の婚姻をすることができ ないとされている。このような男女間の区別を設けることの当否。 口意 見 a 現行制度は、男女の成熟の度合い等を考慮したものであり、これを改める必要はない。 b 男女の間に区別を設けることに合理的な理由を見いだし難いので、区別は廃止すべきである。すなわち、 男女とも満一八歳以上でなければ婚姻をすることができないこととし、親権者等の同意又は家庭裁判所の許 可を得たときは、満一六歳以上であれば婚姻をすることができることとするのが相当である。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ 東洋大学比較法研究所所員のアンケートの結果︵以下単にアンケ⋮トという︶では、a三、b一一で改 正案が多数であった。 人口動態統計によれば、平成二年の初婚の平均年齢は夫二八・四歳、妻二五・九歳で、男女とも晩婚の傾向を示し、 東洋法 学 九一
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 九二 かつ、男女差も戦前に比べて縮まってきている。婚姻の条件は、単に肉体的な関係だけでなく、精神的、経済的、社 会的な要因も関係し、また、婚姻最低年齢を規定する理由が早婚による弊害防止という点にもあり、さらに、あらゆ る面で男女平等が叫ばれている今日の状況下においては、婚姻適齢も男女差を無くするのが相当である。 ただし、満一六歳以上の男女については、法定代理人︵親権者又は後見人︶の一人の同意があれば婚姻をすること ができるものとすべきである。後記のように、満一八歳になれば法定代理人の同意なしに婚姻ができるということに なれば、﹁家庭裁判所の許可﹂という制度は不要であろう。長くても二年待てば、親が反対しても婚姻ができるから である。またそういう場合は、多くの場合、家裁の許可などという面倒な手続きを踏まないで、内緑関係に入って一 八歳になるのを待つであろう。 2 未成年者の婚姻︵七三七条、七四四条関係︶について ︵中間報告︶ e 問題の所在 現行制度の下では、婚姻最低年齢に達した未成年者が婚姻をする場合には、父母の同意が必要であるが、父 母の一方が同意しないとき、知れないとき、死亡したとき又は意思を表示することができないときは、他の一 方の同意だけで足りるとされている。また、父母の同意を得ないでされた婚姻は取り消すことができるものと はされていない。このような制度の当否。
口意 見
a 現行制度は、未成年者が婚姻をするには、父母のある限り、少なくともその一方の同意を要求することで未成年者の保護を図ろうとするもので、合理性があり、これを改める必要はない。 b 未成年者の保護を徹底するために、法定代理人︵親権者又は後見人︶の同意を得なければならないとする のが適当である。また、同意を得ないでされた婚姻は、取り消すことができるものとすべきである。 c 未成年者も一定の年齢︵特にー⇔bの場合には満一八歳︶に達すれば相当の判断力を有するから、未成年 者が婚姻をするには父母の同意を得なければならないとの現行制度を廃止するのが相当である。 ︵私見︶ cの意見に賛成 ︵理由︶ アンケートでは、a五、b二、c七であった。 満一八歳で法定代理人の同意なしに婚姻ができるとすることに多少の不安がないではないが、昔の一八歳に比べて 現在の一八歳は知的能力において格段に優れ、また、世界の趨勢が満一八歳を成年とし、成年者には父母の婚姻同意 は不要としている国が多数を占めているとの実状に鑑み、cの意見が相当である。現実には、婚姻をしようとする夫 婦に経済力がある場合にのみこの恩典に浴するのであり、経済力がない場合には依然として親の事実上の同意を必要 とするであろう。 なお、親の同意なしの婚姻年齢と成年の年齢とは別問題で、必ずしも一致させる必要はない。少年法でも、一八歳 以上と未満とで差別を設けている。 3 再婚禁止期間︵七三三条関係︶について ︵中間報告︶ e 問題の所在
東洋法学 九三
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 九四 現行制度の下では、女性は、婚姻解消又は取消後六か月以内は再婚をすることができないとされている。こ のような制度を維持することの当否。 口意 見 a 嫡出推定の重複を避けるために必要な制度であり、諸外国にもあるものであるから、現行制度を維持する のが相当である。 b 嫡出推定の重複を避けるために再婚禁止期間の制度を設けることは必要であるが、その期間は六か月から 一〇〇日に短縮するのが相当である。 c 嫡出推定が重複するのは例外的な場合であるから、一般的にこのような制度を設けるのは適当でなく、こ れを廃止すべきである。 ㈱ 制度を廃止する場合には、嫡出推定が重複した場合における父の決定方法を定める必要がある。 ︵私見︶ cの意見に賛成 ︵理由︶ アンケ⋮トでは、a四、b三、c七であった。 事実上の離婚による別居後三〇〇臼を過ぎてから妻が出産した子については、民法七七二条の嫡出子の推定は及ば ないとの判例が確立したため︵最判昭四四・五・二九︶、嫡出推定が重複する事例は極めて少なくなっている。その 嫡出推定が重複した場合でも、血液鑑定の進歩により親子の判定は比較的容易である。そうであれば、女性にのみ課 している再婚禁止期間の制度を廃止しても、現実に困ることはあまりない。
なお、現代のように男女間の性が乱れている時代においては、妻にのみ再婚禁止を命じても、事実上の父性衝突の 起こることは避けられない。それを法律上の推定のみによって解決しようとすれば、戸籍と真実とが合致しない事態 が生ずることになる。 ︵提案︶ 再婚禁止期間の制度を廃止した場合には、民法七七三条の規定を改める必要がある。すなわち、法律上 嫡出推定が重複したときの父の決定方法として、﹁後婚成立後に出生した子は後夫の子と推定する。﹂旨の規定を置く ことが相当である。 ︵理由︶ 前婚解消後三〇〇日以内、後婚成立後二〇〇日後に生まれた子の父の決定方法については、父を定める 訴えによる方法、嫡出子否認による方法なども考えられるが、﹁父を定める訴しの方法は、迂遠である上、裁判確定 までの身分が不安定なので適当でなく、また、﹁嫡出子否認﹂の方法は、﹁一年以内﹂という点が改められない限り真 実と戸籍とが一致しない事態が生じ易いので適当でない。ところで、前婚解消後三〇〇日以内、後婚成立後二〇〇日 後に生まれた子は、前婚については事実上の離婚状態になっている場合が多く、したがって、そのほとんどが後夫の 子であるとの蓋然性が高いと思われるので、そのように推定するのが合理的であり、そのような立法例もある︵旧ド イツ民法一六〇〇条︶。もし、真実後夫の子でないのであれば、親子関係存否確認の方法で解決すればよい。 なお、前夫、後夫の双方から法律上の推定を受ける子というのは、その母が前婚解消まで前夫と同棲して性交渉を 継続し、その解消後一〇〇日以内に後夫と婚姻同棲するという場合であり、しかも前婚解消から後婚成立までの日数 が永くなれば永くなるほど、後婚の子であればそれだけ未熟児として生まれる可能性が高いということになるのであ 東 洋 法 学 九五
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 九六 るから、事例としては非常に少ないことになろう。 むしろ問題は、前婚継続中の不倫関係で懐胎し、又は前婚解消から後婚成立までの間に後夫となるべき者と関係し、 その結果、前婚解消後三〇〇日以内、後婚成立後二〇〇日以内に生まれた子の場合である。この場合の法律上の推定 は前夫のみということになるから、前夫が嫡出子否認の訴えを一年以内に提起しないかぎり、その子の真実の父が後 夫である場合であっても、それを戸籍上表現することは困難になる。そこで、これを解決するためには、後婚成立後 に出生した子はすべて後夫の子と推定するとの規定を置くことが相当であり、多くの場合それによって問題は生じな いであろう。これは大審院昭和一五年一月二三β判決の考え方を更に拡張し、現実性を持たした考え方である。もし、 真実後夫の子でないのであれば、前記のように親子関係存否確認の方法で解決すればよいのである。 二 婚姻の無効及び取消し 1 再婚禁止期間違反の婚姻取消し︵七四四条、七四六条関係︶について ︵中間報告︶ e 間題の所在 現行制度の下では、再婚禁止期間に違反した婚姻は取り消すことができるとされている。このような制度を 維持することの当否。 口意 見 a 再婚禁止期間の制度を維持する以上、その要件に反する婚姻が取り消されるとの現行制度は維持すべきで
ある。 b 再婚禁止期間の制度が維持されるとしても、婚姻の取消しに遡及効がない以上嫡出推定の重複の問題が残 るから、その要件に反する婚姻を取り消すことには合理性がなく、これを廃止すべきである。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ 七四六条では、前婚の解消後六か月を経過したときは取消請求はできないとされ、また、解釈上、取消 しの判決も六か月以内にすべきこととされている。調停前置主義などを考えると、六か月以内の取消判決は不可能に 近く、したがって実効性に乏しい。無用の規定として廃止すべきである。 2 失踪宜告を受けた者の配偶者の再婚と失踪宜告の取消しについて ︵中間報告︶ e 問題の所在 失踪宜告を受けた者の配偶者が再婚した後に、その失踪宜告が取り消された場合における前婚の帰すうにつ いて、明文の規定を設けることの当否。
O意 見
a 再婚当事者が悪意のときには前婚が復活し重婚となるが、善意のときには前婚が復活しないとの結論を得 ることができる︵三二条一項ただし書参照︶ので、規定を新設する必要はない。 b 失踪宜告を前提として形成された身分関係の安定を損なわないようにするのが相当であり、重婚状態を生 じさせないようにするため、配偶者の再婚後に失踪宜告が取り消された場合には、一律に、前婚は、再婚の 東 洋 法 学 九七婚姻・離婚制度の改正に関する私見 九八 成立によって解消する旨の規定を設けるべきである。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケートでは二対一二でbの意見が多かった。世界的に通信、交通の発達した現在の状況下において、 失踪宜告を受けるような状態をつくった本人も悪い。少なくも過失ありという場合が多いであろう。したがって、前 婚解消とするのが相当である。ただし、再婚当事者が悪意のときには、損害賠償︵慰謝料︶支払の義務が生ずること もあるであろう。 第二 婚姻の効力に関する間題点 一 夫婦の氏 1 夫婦の氏の異動︵七五〇条関係︶について ︵中間報告︶ O 問題の所在 現行制度は、夫婦は、婚姻の際に当事者双方が定めるところにより、夫又は妻の氏を称するものとし︵いわ ゆる夫婦同氏制度︶、子は、親の氏を称するものとしている︵いわゆる親子同氏制度︶。このような制度を見直 すことの当否。 口意 見 a 夫婦親子の一体性を示すものとして、長年慣れ親しまれてきたものであり、子の福祉を維持し、社会的な
混乱を避ける等の観点から、現行の夫婦同氏制度を維持すべきである。 b 婚姻に際し必ず夫婦の一方が氏を変更しなければならないのは相当でなく、とりわけ多くの場合に氏を変 更している女性の社会的活動の上で不都合も生ずるので、夫婦が別氏を称することができるようにすべきで ある。また、そのようにしても、子の福祉を害するおそれはない。 囲 夫婦が別氏を称することができるとする場合の戸籍の問題については、別途検討する。なお、最後尾の別表を参照 のこと。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケートの結果はa七、b七で同数であった。 明治民法の前は夫婦別姓であったこと、諸外国の例でも夫婦別姓を認めている国がかなりあり、それによって大き な支障が生じているとは思えないことなどから考えると、夫婦が同姓でなければならないという必然性はないように 思われる。世論調査の結果にょれば、夫婦別姓を肯定する意見も三割くらいはいる。もっとも自ら別姓になりたいと いう者はそのうちの四分の一くらいであるが、制度ができればその割合いも増えてくることになろう。結局、男女の 実質的平等を図ろうとすれば、夫婦別姓を認めざるを得ない。 ︵提案︶ 別姓選択制を認めた場合の戸籍は、個人別登録制が合理的である。 ︵理由︶ 戸籍については、①別姓同籍戸籍案、②別姓異籍戸籍案、③個人別登録制案の三つが主張されて いる。右①、②は現行戸籍を基本とするものであり、したがって現行戸籍法を大きく修正する必要はなく、その実施 東洋法 学 九九
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一〇〇 も比較的容易であると思われる。しかし、公表された個人別登録私案︵例えば、ジュリスト一〇〇四号七〇頁の榊原 富士子私案︶を見ると、この個人別の方がスッキリしているようにみえる。準備は大変だが、身分変動の度ごとに一 〇年か二〇年がかりで順次作成していけば、最終的には複雑な戸籍よりも簡潔で明快なものができ、また、その作成 についてもコンピュータの発達により、それほど手間もかからず、場所もとらないのではないかと思われる。 なお、右①、②の案にどうしてもこだわるのであれば、①の別姓同籍戸籍案の方が好ましいと思うが、戸籍筆頭者 を夫にするか妻にするかという点で難点があり、結局②の別姓異籍戸籍案ということになるであろう。そうであれば、 ③の個人別にしてもたいして変わりはないのではなかろうか。 2 夫婦が別氏を称することができるとする場合の考え方について ︵中間報告︶ 以下の意見がある。 a 婚氏と婚姻前の氏との併存を認めるもの 夫婦は、婚姻の際に当事者双方が定めるところに従い、その共通の氏︵﹁婚氏﹂ということがある。︶とし て夫又は妻の氏を称しなければならないという現行制度を維持するとともに、自己の婚姻前の氏を夫婦の共 通の氏と定めなかった夫又は妻は、戸籍法の定めるところにより婚姻の田から三か月以内に届け出ることに ょって、自己の婚姻前の氏を称することができるものとする。 ㈱ 婚氏と婚姻前の氏との併用を認めるかどうかについては、なお検討する。
b 夫婦の同氏別氏の選択を認めるもの 夫婦は、婚姻の際に当事者双方が定めるところに従い、その共通の氏として夫又は妻の氏を称し、又は各 自その婚姻前の氏を称することができるものとする。 c 婚氏についての定めがないときは夫婦別氏となるとするもの 夫婦は、婚姻の際に当事者双方が定めるところに従い、その共通の氏として夫又は妻の氏を称するが、夫 婦の称する共通の氏について婚姻の際に定めがないときは、夫婦は、各自その婚姻前の氏を称するものとす る。 d 夫婦別氏を原則とするもの 夫婦別氏を原則とし、夫婦の一方は、婚姻の際に相手方と同じ名称の氏を称することができるものとする。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケートは、a二、b七、留保五で、c、dの意見はなかった。 aの意見は、いったん同氏にするという点で別氏論者に抵抗感があるであろう。c、dの意見はいずれも適当でな い。したがってbの意晃が相当である。 3 夫婦が別氏を称することができるとする場合のその他の検討課題 ︵中間報告︶ 夫婦が別氏を称することができるとする場合においては、以下のとおりの問題があると指摘されているが、こ れらについては、いずれも積極消極等の意見がある。なお、2の各意見次第で自ずと結論が異なることになる論
東洋法学
∼〇一婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一〇二 点もある。 ω 同氏夫婦について、婚姻後に夫婦別氏にすることを認めるかどうか。認める場合には、やむを得ない事由の 要否、当事者双方の合意の要否、回数制限の有無、家庭裁判所の許可の要否等をどうするか。 ω 別氏夫婦について、婚姻後に夫婦同氏にすることを認めるかどうか。認める場合には、やむを得ない事由の 要否、当事者双方の合意の要否、回数制限の有無、家庭裁判所の許可の要否等をどうするか。 ⑥ 別氏夫婦の子の氏︵七九〇条関係︶は、出生時に当然に定まるものとするのか、出生後に定まるものとする のか。 ω 別氏夫婦の子の氏︵七九〇条関係︶の決定方法については、当事者の合意による方法だけに限定するか、合 意ができないときに備え補充的な方法をも設けるかどうか。例えば、①家庭裁判所の決定、②ドイツで検討さ れているくじ引による決定、③判断能力取得後の子による自己決定等の方法を認めるかどうか。 ⑥ 子相互︵兄弟姉妹︶間で氏が異なることを認めるかどうか。 ⑥ 親が別氏の場合に子の氏の変更を認めるかどうか。認めるとした場合、家庭裁判所の許可があればよいこと にするかどうか︵七九一条一項参照︶。子が低年齢の場合にはどうするか。 ω 別氏夫婦を養親とする養子緑組をする場合、養親子同氏の原則を修正して養子は緑組の際に定めるところに 従い、いずれかの養親の氏を称することにするかどうか。 ㈲ 現在の既婚者︵岡氏夫婦︶についても、夫婦が別氏を称することができるものとするかどうか。その場合の
要件をどうするか。 働 圖の場合には、子の氏の変更も認めるかどうか、その場合の要件をどうするか。 ㈲ 夫婦が別氏を称することができるものとした場合、夫婦の一方の死亡等に伴う祭祀承継制度に影響が生ずる かどうか︵七六九条、七五一条二項、八一七条、八九七条等参照︶。 ㈱離婚に伴う復氏、生存配偶者の復氏及び別氏夫婦を養親とする緑組につき離緑があった場合の復氏についても、検 討する必要がある。 ︵私見︶ ωについて⋮⋮﹁やむを得ない事由﹂がある場合に限り、家裁の許可で別氏にすることを認めるようにすべきであ る。当事者双方の合意の有無及び回数制限などは、家裁の裁量にすべきである。許可の審判に対しては他の配偶者の 方から、却下の審判に対しては申立人から、いずれも抗告ができるものとすべきであろう。 ωについて⋮⋮婚姻後六か月以内に同氏にする場合には戸籍の届出だけでよい。それ以後は家裁の許可によるが、 ωの場合と違ってゆるやかな運用でよいであろう。 ⑥について⋮⋮出生時に当然に定まるとするためには事前に届出をすることが必要となるが、一部の者たちにとっ ては、それは困難であろう。出生届出時までに協議が成立していることが望ましいが、それができない場合には、次 の@の方法によることになるであろう。 ㈲について⋮⋮合意ができないときには、基本的には、③判断能力取得後の子による自己決定ということになるが、
東洋法学 一〇三
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 . 一〇四 それまでの閲どうするかという問題が残る。②のくじ引は、子の氏決定の方法としては軽々しく感ぜられて適当では ない。①の家裁決定は、一応乙類審判事項とすることは考えられる。そうすれば多くは調停で解決するであろう。し かし、同居の夫婦間で争うのはどうかなという感じがしないでもない。そして審判に移行した場合、基準が示されて いないと家裁としても困惑するであろう。 そこで一つの考えは、子の氏は暫定的に﹁母の氏﹂にするということである。そういう立法例もある。大体親子の 結び付きは、父子関係よりも母子関係の方が強いし、子が小さいうちは母の愛情が特に必要でもある。また、あくま でも母の氏にこだわる母は離婚の可能性も高く、そうなれば母の氏に結局はなるのであろうから、現実的でもある。 なお、このような考えで制度化したとしても、母の氏で出生届出をするという事例はそんなに多くはならないであろ う。 ㈲について⋮⋮子相互︵兄弟姉妹︶間で氏が異なることを法律で禁止するのは相当でない。子相互間で氏が異なる 場合でも、親の愛情が平等であれば間題はないし、子相互間の氏が異なる国も現にある。数人の子のうちの一人が母 方の祖父の養子になって氏が変わったが他の兄弟姉妹と一緒に育てられている場合もある。氏が異なることを制度的 に認めた場合でも、多くの親は子相互問の氏が異なるようにはしないであろう。この問題は家庭内の私的自治に任し てもよいと思われる。 ⑥について⋮⋮この問題は、すべて家裁の許可にかからせ、家裁の裁量に任せるべきである。途中からの変更は、 とくに子が低年齢の場合には、原則的に認めるべきではない。ただし、父母が別氏から同氏になったときは、家裁の
許可なしに変更を認めてもよいであろう。 ωについて⋮⋮この問題は積極に解する。 ㈹について⋮⋮前記ωに準ずる。 ㈲について⋮⋮前記⑥に準ずる。 ⑯について⋮⋮原則的には影響は生じない。 するであろう。 ただし、七六九条の﹁氏を改めた夫又は妻しの部分は多少手直しを要 二 夫婦間の契約取消権︵七五四条関係︶ ︵中間報告︶ 8 問題の所在 現行制度の下では、夫婦問の契約は自由に取り消すことができるとされているが、このような制度を維持す ることの当否。
口意 見
a 夫婦間の契約の履行は、夫婦間の愛情と道義に任せるべきで、裁判所の力を借りて実現するのはふさわし くなく、b意見の指摘するような場合は、別途の法理で対処することができるので、夫婦閲の契約は取り消 すことができるとの現行制度を維持するのが相当である。 b 夫婦問の契約も契約取消しの制度一般︵例えば、書面によらない贈与を取り消すことができるとの五五〇東洋法学
一〇五婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一〇六 条︶の適用を受けるだけで十分であり、現行の夫婦間の契約取消権の制度は、離婚を事実上想定してされた 夫婦間の契約が理由なく取り消されるなど弊害を伴うものであるから、廃止すべきである。 ︵私見︶ aに賛成 ︵理由︶ アンケートはa一〇、b四であった。 夫婦間の契約は、夫婦間の力関係によって多少強要的に、又は安易に作られる場合がある。一度の浮気で全財産を 妻に贈与するとの書面を書かされた気弱な夫や、横暴な夫から、親からの相続によって得た妻の財産を事業資金とし て提供するよう求められ、いやいやながらその旨の書面を書いた妻の場合などを想定すると、簡単に廃止してよいも のか疑問が残る。右のような場合、詐欺又は強迫で取り消そうとしても、実際上は困難である。その履行を求め、強 制的に実現しようとして訴訟を起こす場合には、もはや夫婦関係は破綻し、離婚に瀕している場合が多い。そういう 場合であれば、財産分与制度の適正な運用により処理した方が好ましい。学説の多数は廃止説が多いようであるが、 疑問である。なお、最判昭和四二年二月二日の判例のように、取消権の乱用は禁止すべきである。 第三 夫婦財産制に関する問題点 夫婦財産契約︵七五五条関係︶ ︵中間報告︶ e 問題の所在 現行制度の下では、夫婦財産契約を締結するには婚姻届出前に契約をし、 その登記をすることが必要である
とされているが、その当否。
口意 見
a 現行制度を改める必要はない。b意見のように夫婦財産契約制度全般の見直しと切り離して夫婦財産契約 の時期及び変更の可否だけを取り上げるのは、適当でない。 b 婚姻届出後にも、夫婦財産契約を締結し、又は変更することができるようにするのが相当である。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケートはa七、b七であった。 現行制度は婚姻届出前ということで利用しがたい。婚姻時には財産がなかったがその後有産となった場合、又はそ の逆の場合などがあるのであるから、婚姻後でも夫婦財産契約を結ぶことができるよう、融通性のある規定が必要で ある。その契約内容を登記しておけば、夫婦間の契約取消権の規定は適用できないものとしておくべきである。 二 法定財産制ll夫婦の居住用不動産の処分の制限について ︵中間報告︶ O 問題の所在 婚姻中に夫婦がその居住の用に供するため、 図る見地からの手当ての要否。口意 見
東 洋 法 学 一方の単独名義で取得した建物等につき、 他方の居住の安定を 一〇七婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一〇八 a 特段の手当ての必要はない。b意見は、権利の名義人でない配偶者の岡意を要求する一種の法定の処分制 限であり、公示を伴わないため、取引の安全を損ない、第三者の利益を害するおそれがある︵なお、婚姻関 係が破綻した状態において将来の離婚に伴う分与対象財産を確保するためであれば、保全処分を利用して、 ほとんどの場合目的を達成することができる︶。 b 婚姻中に夫婦の一方がその名義で共同生活のために取得し、現に他方が居住している家屋若しくはその敷 地又はそれらの賃借権若しくは敷地についての地上権について、その名義を有する者が居住している配偶者 の同意を得ずに譲渡その他の処分をした場合には、その配偶者は、これを取り消すことができ、取消しをも って第三者に対抗することができるものとするのが相当である。 ㈱ 取消権の存続期間及び取消しの手続きについては、なお検討する。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケiトはa四、b九、留保一であった。 居住用不動産は家庭生活の根底をなすものである。それを勝手に処分されて居住の権原を喪失させられるというこ とはフェアではないから、居住している配偶者に取消権を認めるのは相当である。しかし、居住している配偶者が法 的に無知で取消権の行使を怠るような場合もあるから、民法一二二条、一一四条の例に習い、配偶者の追認を要し、 また、相手方の催告に対し確答をしないときは追認を拒絶したものとみなすというような方法が採られればベターで ある。a意見にあるような保全処分の利用を求めることは、実際上は困難な場合が多い。
第四 離婚に関する問題点 ︸ 協議上の離婚 1 協議離婚後の親子の面接交渉︵七六六条関係︶について ︵中間報告︶ e 問題の所在 協議離婚後に親権者とならなかった父母の一方︵親権者の他に子の監護をすべき親があるときは、子の監護 をすべき者とならなかった父母の一方︶と子との面接交渉について、明文の規定を設けることの当否。
口意 見
a 離婚後の親子の面接交渉は、七六六条の﹁監護について必要な事項しに含まれると解することができるの で、新たな規定を設ける必要はない。 b 離婚後の親子の面接交渉は、近時、離婚した夫婦にとっての重要な問題となっており、諸外国における立 法例のように、明文の規定を設けるべきである。 ㈱ 内容的には、協議にょることとし、協議ができないときに家庭裁判所の審判によるが、子の福祉に反するおそれが あるときは、認められないといった構成にすべきである。 ︵私見︶ bに賛成 ︵理由︶ アンケートの結果はa四、b九、留保一であった。東洋法学
一〇九婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一一〇 民法七六六条の規定から面接交渉のことは直接には出てこない。したがって明文の規定が必要である。また、子の 福祉に反するときの消極規定の新設も重要な意義を有する。 2 財産分与制度の内容︵七六八条関係︶について ︵中問報告︶ O 問題の所在 夫婦の協議離婚後の財産分与に関する現行規定を改めることの当否。 口意 見 a 事柄の性質から内容は自明であり、現に調停及び裁判実務における解釈及び運用で制度の内容は明確にさ れているので、分与の額及び方法を定める際の具体的な考慮事由を明示する必要はない。 b 現行規定は分与の額及び方法を定める際の具体的な考慮事由が明らかではないので、財産分与における清 算の基準を明確にするため、財産形成に対する夫婦双方の寄与度を考慮すべきことを明示し、その割合は原 則として二分の一ずつとすべきである。 囲− 財産分与に関しては、協議上の離婚をした当事者の一方は、離婚後の生活が著しく悪化する場合には、相手方に 対し、相当額の補償を請求することができるものとし、離婚に至るについて自己に主たる責任があるとき又は補僕 の支払により相手方が生計に窮するときは、この限りでないものとすべきである等の意見がある。 2 a、b意見とも、財産分与に慰謝料的要素が含まれ得ることを排斥しないという考え方に立つ。 ︵私見︶ bに賛成
︵理由︶ アンケートはa三、b三であった。 財産分与の内容、とくに﹁離婚後の扶養﹂のことは明規が必要である。しかし、寄与度の割合を﹁原則二分のご と明規することは問題である。共働きの夫婦も、三食昼寝付きの場合も、同列に論ぜられるおそれがあるからである。 大体、財産分与の額は、財産の多寡、寄与度、その他一切の事情を考慮して定めるべきものであるが、そのコ切の 事情﹂の中の﹁離婚意思の強弱﹂及び﹁離婚に至った原因関係しということも大きな要素を占めている。例えば、妻 に離婚意思がなく、夫の離婚意思が強い場合には、妻の寄与度が少ないときでも分与の額は多くなり、その逆の場合 には分与の額が少なくなることになる。しかし、妻が離婚を強く求める理由が夫の暴力にあるのであれば、妻自身は 夫の暴力から早く逃れるために分与の額にこだわらないときであっても、審判ではそれ相当に多くするよう配慮しな ければならないし、逆に、単にいやになったとか、他に好きな人ができたということで離婚したいという場合であれ ば、寄与度が高くても分与の額を多くするわけにはいかないであろう。 要するに、離婚意思が恣意によるものか、正当な理由にょるものかということも財産分与の額を決定する際の重要 な要素であるから、﹁寄与度﹂だけをとくに明示することは問題である。しかし、原則二分の一の寄与度だけを明規 した場合には、恣意による離婚が増加し、かつ、他方配偶者に対して二分の一の財産分与を求めるということになり、 その結果、夫婦が協力して婚姻共同生活を維持していこうとする意欲が失われ、ひいては正常な婚姻制度そのものの 維持が困難になる危険性を生ずることになろう。したがって、﹁二分の一﹂というのは、純粋に夫婦が形成した財産 の清算の際に考慮すべき一つの基準として、解釈論上いうべきことであって、法規に明示すべき事項ではなく、また、
東洋法学 二一
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 二二 これのみを法規上に明示すれば誤解を招くおそれがあるものといえよう。 なお、囲1の﹁補償﹂の点は、財産分与の﹁離婚後の扶養﹄の概念の中に含めて考えてもよいであろう。 3 財産分与の方法︵七六八条関係︶について ︵中間報告︶ 以下のような意見がある。 ω 実効的な解決手段を付与する等の趣旨から、当事者の一方に定期金の支払義務を負わせることができる旨を 明示すべきである。 ω ω意見の指摘する方法の他、裁判所は、当事者の一方から相手方に対する清算調整のための債務負担の命令 等ができる旨︵家事審判規則一〇九条参照︶を明示すべきである。 ︵私見︶ ω、ωとも積極に解する。 ︵理由︶ アンケートの結果は、ωは積極九、消極三、留保二であり、ωは積極一〇、消極二、留保二であった。 財産分与の支払方法は多いほどよい。 4 協議離婚に関するその他の事項について ︵中間報告︶ 以下のような意見がある。 ω 協議離婚時の離婚意思の真正を確保する手段を設けるべきである︵七六四条及び七六五条参照︶。 ω 協議離婚後の両親相互間の子の養育費用の分担義務を明示すべきである︵七六六条参照︶。 ︵私見︶ ω、ωとも積極に解する。
︵理由︶ アンケート結果は、ωは積極二一、消極一、留保一であり、ωは積極一三、消極○、留保一であった。 ωの離婚意思の確認の方法は、通常は家裁ということになる。家庭裁判所調査官の援助を受け、多少人的な配慮を してもらえれば、それは不可能ではない。しかし、補助的に、公証人による離婚意思確認の方法を認めてもよいので はなかろうか。また、夫、妻それぞれに弁護士がつき、その間で﹁離婚契約書﹄のようなものが作成され、それを協 議離婚届出書に添付するという方法によって確認してもよいであろう。現在のように、勝手に協議離婚届が出されて その無効確認の訴えを出さざるを得なかったり、半年ごとに協議離婚届不受理申請を出さなければならないというよ うなことは好ましいことではない。 ωの離婚後の養育費用分担義務は当然のことであり、それを法規上明示することは必要である。 二 裁判上の離婚 1 離婚原因︵七七〇条一項関係︶について ︵中間報告︶ ⑨ 問題の所在 現行の離婚原因について、破綻主義の観点から、これを見直すことの当否。 口意 見 a 現行法には破綻主義の離婚原因が規定されている︵七七〇条一項五号︶ので、これを改める必要はない。 b 破綻主義の考え方に基づく具体的な離婚原因を明確にし、訴訟において家庭内の事情を公にしないで済む
東洋法学 二三
婚姻・離婚制度の改正に関する私晃 一 四 ようにするためにも、新たに﹁夫婦が継続して一定期間︵例えば五年間程度︶以上共同生活をしていないと き﹂を離婚原因に加えるのが相当である。 ㈱1 七七〇条一項五号の規定が破綻主義の考え方に基づくものであることを明確にするために、﹁その他婚姻を継続 し難い重大な事由があるとき﹂を﹁婚姻関係が破綻し、その回復の晃込みがないとき﹂とするかどうか、及びする とした場合の七七〇条一項各号との関係については、なお検討する。 2 有貰配偶者から、bを理由とする離婚請求がされた場合につき、離婚により配偶者︵又は子︶が精神的、社会的 又は経済的に著しく苛酷な状態におかれるときは、離婚を認めないものとする規定︵いわゆる苛酷条項︶を設ける かどうか、及びこれを設ける場合には、その他の離婚原因につきこのような制限規定を設けるかどうかについて、 なお検討する。 ︵私見︶ bに賛成、なお㈱1は消極、㈱2は積極である。 ︵理由︶ アンケートは、離婚原因の追加の点につきa六、b六、留保二であり、苛酷条項については積極五、消 極一、留保八であった。 コ定期間以上の別居﹂を離婚原因に加えれば、審理が簡潔化するであろうという理由でbに賛成する。しかし、 この場合には苛酷条項を設けることが絶対に必要である。なお、その他の離婚原因につき苛酷条項を必要とするのは 精神病離婚の場合のみであろう。 2 裁量棄却事由︵七七〇条二項関係︶について ︵中間報告︶ e 問題の所在
現行制度の下では、裁判所は、七七〇条一項一号から四号までの事由があるときでも、一切の事情を考慮し て婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができるとされている。このような制度を維 持することの当否。
⇔意 見
a 現行制度は、妥当な結論を得るために必要なものであり、これを改める必要はない。 b 現行制度は、裁量の幅が広く、離婚の自由を不当に制限するおそれがあるので、廃止し又は見直すべきで ある。 囲 いわゆる苛酷条項との関係については、なお検討する。 ︵私見︶ 前記の苛酷条項が新設されることを条件としてbに賛成 ︵理由︶ アンケートはa九、b五であった。aの中には、苛酷条項が新設されるのであればbでもよいというも のが含まれている。従来、裁量棄却された場合でも、婚姻関係が元の円満な状態に復するという事例はほとんど無か ったものと思われる。そうであれば、裁量棄却の制度はほとんど意味がない。従来もこの七七〇条二項の規定は苛酷 条項的な役割を果たしていたものと思われる。 3 裁判上の離婚後の親子の面接交渉及び財産分与等について 一の王から3まで及び4鋤︵協議上の離婚についての同事項︶と同様である。 4 栽判離婚手続について東洋法学
二五婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一一六 ︵中間報告︶裁判手続及び司法制度の在り方にかかわる問題であるが、離婚制度を見直す見地からの間題点の指摘 として次のようなものがある。 ω 裁判離婚事件を家庭裁判所の管轄とするかどうか。 ω 離婚訴訟手続において家庭裁判所調査官を活用することができるようにするかどうか。 ⑥ 離婚訴訟事件が協議離婚により終了する場合に、この手続に併合されていた子の監護者の決定や財産分与等 の事件︵人事訴訟手続法一五条一項︶を家庭裁判所に移送することができるようにするかどうか。 ㈲ 離婚訴訟手続においてされた養育料の支払や財産分与の裁判についても、家事審判法一五条の五から七まで に定める履行確保の措置を講ずることができるようにするかどうか。 紛 訴訟上の和解によって離婚をすることができるようにするかどうか。 ︵私見︶ ωについて⋮⋮積極に解する。 ︵理由︶ アンケートは積極八、消極三、留保三であった。 人事訴訟事件を公開の法廷で争わせるのは本来好ましいことではない。とくに離婚事件は子の問題が絡んでいるの で、早く解決すべきであるのに、地裁の審理では証拠調べが長くかかり過ぎ、記録も厚くなり、裁判官の更送や控訴 審、上告審で記録を読むのにも大きな負担となり、裁判全体の遅延の原因にもなっている。また、現在離婚判決とと もに、財産分与、慰謝料、親権者、監護者の指定もしているが、その適正な判断は訴訟記録だけでは難しい。これら
の点は、家裁に人事訴訟事件を移管し、手続も多少非訟化し、家裁調査官活用の道を開けば、審理期間も短く、記録 も厚くならず、しかも事件の核心を掴み易いため適正妥当な判断もし易いということで、一挙に解決することとなる。 なお、人事訴訟事件の非公開化は、他の国においても一部行われている。 ωについて⋮⋮一応積極に解する。 ︵理由︶ アンケ⋮トは積極一〇、消極二、留保二であった。 事件の適正妥当な解決のためには家裁調査官は活用した方がよいし、現在でも鑑定という方法で活用はされている。 しかし、その活用の方法は難しい。現在の家裁の仕事だけでも手いっぱいなのに、更に地裁の離婚事件についてまで 常時担当するということは困難である。また、公開法廷における報告書の取扱いも問題である。やはり人事訴訟事件 を家裁に移管し、そこで活用するようにすべきである。そうすれば、その事件の家裁における調停時における調査報 告書やその他の資料も活用できることになるのである。 ⑥について⋮⋮消極である。 ︵理由︶ アンケートでは積極一〇、消極二、留保二であった。 子の監護者決定や財産分与を決めないまま離婚だけをするということは、通常はやらないことである。家裁の実務 でも、離婚だけを調停で決め、附随的なことだけを審判で決めるということは普通はやらないが、同一裁判官が処理 する場合に限り、また、特殊な事件に限って、例外的に行われるに過ぎない。その場合にはある程度資料があり、子 の監護者決定や財産分与についての裁判官の心証も固まりつつあるからである。
東洋法学 二七
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一一八 本問の場合には、地裁の方は協議離婚で一件落着し、余分なものだけを家裁に移送するということになるが、移送 を受けた家裁の方としては、監護者及び財産分与決定という観点から改めて審理のやり直しをしなければならず、甚 だ迷惑であろう。こういう場合は地裁の方で 挙に解決すべきである。それよりも、人事訴訟を家裁に移管し、家裁 ですべてを解決できるようにすべきである。 @について⋮⋮積極に解する。 ︵理由︶ アンケートは積極︸○、消極二、留保二であった。 これは積極的に活用すべきであろう。もっとも寄託は、家裁の事件でも減っていることと思う。銀行振込を活用し た方が便利で早く、証明も十分だからである。履行勧告と履行命令は心要であろう。 ⑥について⋮⋮積極に解する。 ︵理由︶ アンケートは積極九、消極三、留保二であった。 離婚事件を家裁に移管すればこの問題は解決するが、地裁で訴訟を継続するのであれば、訴訟上の和解で離婚がで きないと困る場合がある。和解成立後一方が翻意して離婚に応じなくなると離婚はできず、それまでの手続も無に帰 するからである。
[別表] 夫婦同氏制度と夫婦が別氏を称することのできる制度との対比︵参考︶ ︵注︶ 問題点を明らかにする趣旨から、標記の両鮒度について想定される考え方を誇張されたものも含め広く取り上げ、 とおりに分類して、対比した。 一 制度の内容 左の 夫婦岡氏制度︵現行制度︶ 夫婦が別氏を称することのできる制度 夫婦がその共通の氏を称することが要請される制度︵例えば、甲 法的な構成としては、複数の案が考えられるが、いず 野姓の人と乙山姓の人が婚姻する場合、甲野姓を夫婦の共通の氏と れにしろ夫婦が別氏を称することのできる制度︵例えぱ、 するか、又は乙山姓を夫婦の共通の氏とする制度︶。 甲野姓の人と乙山姓の人が婚姻する場合、それぞれ従前 婚姻に際し、夫婦の共通の氏について、当事者双方が合意するこ の甲野姓、乙山姓を称することができる制度︶。 とが必要である。 夫婦が別氏を称することができる制度の構成の仕方に もよるが、夫婦の共通の氏についての合意は不要である。 二 夫婦同氏制度が相当であるという立場からの意見とこれに対する反論 夫婦同氏制度が相当であるという立場からの意 夫婦が別氏を称することのできる制度が相当であるとの 見 立場からの反論 1 国民の意識 夫婦同氏制度は、少なくとも明治申期以降、 夫婦が別氏を称することのできる制度は、称したい者 国民に慣れ親しまれ、国民生活に定着しており、 が称するという制度であり、その採否は、支持者の多寡 国民の大多数が支持している。 にょって決定すべき間題ではない。 なお、積極的に夫嬬別氏を称することを希望する人は もちろん、自分達は同氏を称するが他の夫婦が別氏を称 することに反対はしないという人も、相当数いる。 東 洋 法 学 一九 一
婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一二〇 2 当事者間におけ 共通の氏があることで夫婦の一体感が名実共 夫婦の一体感は氏が同一かどうかだけで定まるもので る夫婦の一体感 に強まる。 はない。 3 親子の一体感 夫婦親子局氏となるので、夫婦とその間の未 夫婦とその間の未婚の子とが共同生活をする以上、 婚の子とからなる家族の一体感を確保すること 氏の異同で親子の一体感や子の福祉は影響されない。 ができ、子の福祉に資する。 4 対外的に見た 夫婦親子の氏が同一であるから、氏が夫婦親 夫婦親子からなる生活共同体の構成員の身分関係が対 夫婦、親子の判 子からなる生活共同体の呼称という機能を有す 外的に分かりやすいかどうかにこだわる必要はない。 別可能性 ることになり、対外的にも、夫婦親子であるこ 夫婦が別氏を称することとした場合においても、工夫 とが容易に分かる。 次第で、対外的にも、夫婦であることを示すことは可能 夫婦が別氏を称することができるとされた場 であるし、購氏であるとの一事で夫婦であることが証明 合には、夫婦を相手として重要な取引をする第 されるものでもない。 三者は、戸籍謄本により夫婦であることを確認 するなど煩雑な手続が必要となることも予想さ れる。 5 子の氏の決定 夫婦が別氏を称することのできる制度を採用 親の子に対する愛情からすれば、子の氏をどうするか 方法 した場合、夫婦が子の氏をどうするかについて について別氏父母間に協議が調わないということはほと 協議をすることができないときに、適当な決定 んどあり得ない。このような稀な事態を前提に制度全体 方法を定めることは困難である。家庭裁判所の を批判するのは当を得ない。 決定やくじ引きによるなどの考え方もあるが、 家庭裁判所が決定する場合、何を基準とするの かという問題があるし、くじ引きも大方の納得 が得られるものではない。
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な つが 三 夫婦が別氏を称することができる制度が相当であるという立場からの意見とこれに対する反論 夫婦が別氏を称することができる制度が相当で 夫婦同氏制度が相当であるという立場からの反論 あるという立場からの意見 1 氏の定め方に 同氏制度の下で、大部分の夫婦は夫の氏を称 夫婦の氏を定めるにつき、いずれの氏を選ぶかの自由 ついての平等性 しており、結果的には女性に不利益となってい が確保されており、同氏制度が氏の定め方に関して不平 る。 等ということはない。 夫婦が別氏を称することができる制度によれ ば、氏の定ぬ方について夫婦双方の実質的な平 等が確保される。 2 人格的利益の 氏を変更しなければ婚姻することができない 現行制度では、婚姻に際し、夫婦のどちらか一方が従 侵害の可能性 岡氏制度は、氏を変更する当事者から、氏名と 前の氏を変更しなければならないが、これは、夫婦の合 いう人格的利益又は永年使用した氏という法的 意に基づく氏の変更であって、強制的に氏を変更させら に保護される利益を強制的に奪うという結果を れるものではない。人格的利益又は法的に保護される利 もたらす。 益の侵害はない。 3 女性の職業、 婚姻して氏を変更する一方配偶者︵主に女性︶ 職業ないし社会的活動上の不利益は、従前の氏を事実 社会的活動上の は、職業ないし社会的活動について、それまで 上使用したり、氏の変更を職場や取引先などに知らせる 東 洋 法 学 一二一婚姻・離婚制度の改正に関する私見 一二二 不利益 に築いてきた実績、信用が断絶し、大きな不利 ことで回避できる。 益を受ける。 4 アイデンティ 同氏制度では、当事者の一方は、氏を改めざ 氏を変更した当事者は新しい氏に違和感を覚えること ティーの喪失 るを得ず、その結果﹁自分が自分でなくなった があるかもしれないが、時の経過とともに慣れることが 感じ﹂︵アイデンティティーの喪失感︶に陥り、 多いと思われる。このような違和感をとらえてアイデン 著しい苦痛を感じる人も少なくない。 ティティーの喪失というのは少々大袈裟である。 5 内縁︵事実婚︶ 同氏制度の下では、当事者双方とも氏を変更 夫婦が共通の氏を定めることは、確固とした婚姻意思 との関係 したくないために婚姻届を出せず、婚姻そのも を確保することにもなるから、夫婦の共通の氏について のを諦めたり、事実婚にとどまる者も生じてい の合意を要求するのが相当である。 る。 なお、別氏を称することのできる制度でも、構成如何 夫婦が別氏を称することのできる制度にすれ では、周氏にするか別氏にするかにつき当事者の意見が ば、このような事実婚の発生はなくなる。 一致することが必要であり、この一致ができないと事実 婚になる。 6 氏の保持ない 氏は、本来、名と併せて個人を表す呼称であ 家名を残したいとして別氏を称した夫婦の双方がそれ し承継 るが、家名を残したいという国民の意識を全く ぞれの家名を子に承継させたい場合には、子の氏の決定 無視することは相当ではなく、例えば一人息子 が難しくなる。 と一人娘の婚姻等において、双方とも家名を残 したいという場合もあり、夫婦別氏によれば、 これを実現できる。 7 外国の制度と 多くの立法例において何らかの意味での別氏 氏はすぐれて各国固有の習俗等に依存するものであ との関係 制度を採用するようになってきている。 る。諸外国の別氏制はそれぞれの特有の考え方に由来す るのであり、直ちにわが国の参考にはならない。
四 氏に関する法制度の在り方についての双方の立場からの意見 夫婦同氏制度が相当であるという立場からの意見 夫婦が別氏を称することのできる制度が相当であるとの 立場からの意見 婚姻法のように国民の基本的な生活にかかわる分野の法律は、国 価値観の多様化している現代においては、婚姻法の分 民の意識に根ざしたものであることが必要であり、社会に先行する 野においても、個人の選択の自由をできるだけ許容する ことは相当でない。 ことが望ましい。 現行制度は、百年近くにわたって行われてきたものであって、国 夫婦が別氏を称することのできる制度は、別氏を強制 民の大多数が支持しており、夫婦が別氏を称することのできる制度 するものではないから、同氏制度の指示者が多いことは、 に子の氏の決定その他でかなりの難点がある以上、同氏制を維持す この制度の導入を妨げる事情にならない。 るのが相当である。 現行制度に強い不利益や不便を感じ、夫婦が別氏を称 少なくとも国民的な合意が得られているとはいえない段階で導入 することのできる制度を望む者が少なからず存在すると するのは時期尚早である。 きには、その希望を尊重することが相当である。 ︵注︶ さらに、墓、祭祀財産等と氏のあり方との関係についても、それぞれの立場からの各種の考え方があると思われる。 東 洋 法 学 二一三