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What the Students' Home Learning Let Teachers Notice:
An Example of Lesson Study of Mathematics in Elementary School
渡邊 慶子
Keiko WATANABE
滋賀大学新海美智代
Michiyo SHINKAI
甲賀市教育研究所 <キーワード> 家庭学習,授業研究,かさ比べ 1.本稿の背景と目的 1.1 基礎的背景 本稿は,甲賀市教育研究所による事業「算数・数学 科における小・中接続を意図する教材研究の方法に関 する研究」(平成26年度滋賀大学教育学部共同研究〈地 域教育支援〉事業補助金)で実施された授業研究によっ て得られた成果の一部である。本事業は,家庭学習を いかした授業の効果を検証した平成25年度までの事 業―「子どもたちの「予習」を活かす算数・数学科の 学習指導の工夫」(平成23-25年度滋賀大学教育学部共 同研究〈地域教育支援〉事業補助金)―の成果を踏ま え,特に,家庭学習と学校での学習(授業)とを融合 させた教材研究,授業研究の方法を探究している。本 事業では,授業実施前に教師複数名による「教材検討 会」を実施し,授業の計画,実践,そして反省の詳細 な記録をとり,授業研究の方法を模索した。本稿は, そのような取り組みを,一つの授業研究の事例をもっ て示すものである。 日本の算数・数学科授業の「授業研究」に関して言 えば,スティグラ-らがそれを客観的に評価している。 氏らは日本の算数授業が「構造化された問題解決」と いわれる5つの段階を踏んで展開されていると特徴を 述べ,その5段階を日本の算数・数学科授業のパター ンとした(Stigler & Hiebert,1999)。・前時の授業の見直し ・今日の問題の提示 ・生徒が個人か集団で問題に取り組む ・解決方法を議論する ・要点の強調とまとめ (上述5つの段階の翻訳は,清水(2010)を参考に した) これらの5つの項目は,授業研究の際に,授業の計 画や授業の反省の観点となることが多い。 近年,これらの段階の中でも「生徒が個人か集団で 問題に取り組む」段階の構成に注意が向けられている。 「コミュニケーション」を重視するために,少人数(ペ アや3,4人など)の小集団になって「話し合い」を するよう教師が子どもたちに指示することが多くなっ た一方で,個人で探求し自分なりの考えをもつことが 少なくなったという懸念が生じている。本事業では, この授業段階が充実するか否かは,どれ程に子ども一 人一人が,既知を用いるだけでは問題解決できないと 明確に判断し,疑問をもって授業に臨めるかに依存す ると仮定した。 子どもなり疑問は,授業の中で「今日のめあて」と 表わされる事が多い。算数・数学科の授業では,算数・ 数学を解決のための単なる手続きや手段とするのでは なく,その手続きを踏むとどうして問題が解決できる のか,その手続にはどのような数学的な意味があるの かという理由にまで踏み込むことを重視している。そ のために,日本の問題解決型の学習は,「問題」を解 決するために,子どもが知りたいと思うことを明らか にする「文化」が根強い。今日の「めあて」は,子ど もそれぞれに考え方があって,そこから他者の考えと 合意するためのプロセスを授業でたどるために必要な スタートとなる「問い」ともいえる。 そこで,本研究では,既知を活かして新たな問題に 取り組む個人的な学習場面を通して,子どもがそれぞ れに「めあて(問題を解決するために子どもが知りた いこと)」を作ることができたり,自分なりの解決を 持てたりする機会が必要であることに着目した。我々 は,そのような機会を家庭での学習活動を含めて子ど もたちに確保する工夫をし,その子どもの取り組み, つまり,本事業でいう「家庭学習」,が生きる授業づ くりについて探究する。 1.2 本稿の目的 本稿は,子どもの「家庭学習」の成果を生かして授 業を設計し,実施して反省をするという一連のプロセ スの一事例を示すことによって,子どもの「家庭学習」 を生かした算数科の授業の具体的な授業研究の観点を 導出するものである。 2.研究の暫定的枠組み 2.1 「家庭学習」を授業に生かすための暫定的枠組み 「家庭学習」の定義とその授業への連動に関して, 前年度までの研究―平成23-25事業「子どもたちの「予 習」を活かす算数・数学科の学習指導の工夫」(滋賀 大学教育学部共同研究事業補助金)―で表1(甲賀市
2 教育研究所,2014,p.5,一部改訂含む)に示す枠組 みを暫定的に作成した。「家庭学習」と授業を連動さ せると,子どもなりに「今日のめあて」へ“接近”で きた状態になっている。そのため,授業の導入は,「家 庭学習」で困ったこと,分からなかったこと,自分な りに考えたこと,つまり,「今日のめあて」に直結す る事柄の発表と共有から始まる。それを実現するため に,我々は子どもが自分なりの考えをもつことを大切 にしながら既知と未知を結び付ける「家庭学習」のあ り方を,教材研究を通して模索した。結果として,「家 庭学習」のタイプは3つあるとした:「既知を使って 本時の問題を考えてくる」,「本時のねらいに関わって, 既知の解決方法を想起させ,より汎用性のある解決方 法を考えてくる」,「本時の問題を解決するために既知 を想起してくる」。どのタイプであっても,授業では, 教師が個人の考えを出させて,そこから学びの原動力 としての「問い」を導出し,それを子どもに「本時の めあて」と意識させて,授業を展開する(表1)。 2.2 「家庭学習」を授業研究に活かすための模索 「家庭学習」の内容や子どもの取り組みの分析,本 時の授業の反省は,相互に影響している。「家庭学習」 を活かした授業を反省すると,子どもの素朴な教材(学 習内容)に対する考え方が,如何に教師のねらいに沿っ て変わっていったのか(あるいは,単に考え方が塗り 替えられてしまったか)がよくみえる。それには2つ の理由があると思われる。一つは,表1にあるように, 教師が,「家庭学習」を子どもに課すために本時の授 業を綿密に計画していることである。しっかりとした 計画は,その授業を支えるだけでなく,その授業を具 体的に反省するために不可欠である。もう一つは,「家 庭学習」の記録から子どもの考えを,「教材研究」の 記録から教師のねらいを,そして「実際の授業」の記 録から子どもの考えが授業を通してどのように変化し たのかを,相互に関連させながら考察できるからであ る。我々はこの三つを関連付けて考察すれば,教師に とって効果的な授業研究の場となると考えた。 3.「家庭学習」を生かす授業の設計 第1学年「くらべかた」では,かさの大小系列をつ けるために,子どもたちが様々な活動を通して考え, 表現していく。数字や記号,数学用語を多用できな い子どもたちの表現の中にも,「数学」が潜んでいる。 タイプ【Ⅰ】「本時の学習のめあてを自分で考える(問いをもつための)予習」を取入れた授業 予習 本時の問題につ いて自分なりに 考える(分かると ころまで)予習 「問い」 を持つ 「問い」 の交流 簡単に交流 ペアやグループで 交流 展開1 展開2 展開1 全体で交流 子どもがもった 問いの広がり 展開2 さらに深く考える さらなる課題への 挑戦 まとめ まとめ 展開のまと めと次時の 問題提示 タイプ【Ⅱ】「新たな解決方法を考えるための予習の活用」を取り入れた授業 予習 簡単に交流 後,予習で 考えたことを 基にどのよう に考えれば よいか理解 する 個人によ る問題解 決 新たな問 題の提示 小集 団で 議論 全体で 議論 展開のまとめ と次時の問題 提示 タイプ【Ⅲ】「既知を思い起こす予習」を取り入れた授業 予習 簡単に交流 後,本時の 課題解決に 向けて大切 なる要素を 確認する 個人による 問題解決 小集団 で議論 全体で 議論 展開のまとめ と次時の問題 提示 本時のねらいに 関わって、既知 の内容を用いた 解法を想起して より汎用性のあ る解決方法を考 えるための予習 本時の課題解決 に関わって既知 を思い起こす予 習 導入 導入 展開1 展開2 まとめ 新たな問題 の提示 導入 予習の成果の活用 既知の確認 予習の成果との比較 新たな問題から新たな 「問い」 をもつ 「問い」 の交流と解決 「問い」 の深まりと解決 「問い」 の交流と解決 「問い」 の深まりと解決 「問い」 の深まり 図1 子どもの予習を活かした授業展開例
3 子どもたちの「家庭学習」は,教師や観察者が反省す る具体的な指標を与え,授業改善のための修正点を具 体的に示唆した。 3.1教材の特徴 小学校第1学年「くらべかた」では,「量とは何か」 を考えるうえで,一般に,大きく2つの内容を授業の 流れの主軸としている。まず,大小系列をつけること。 これは「どちらが大きい?」という問いに答えること によって達成される。直接比較のみならず,比べられ る2つの量(A,B)の間に第3の量(C)を挿入し, 推移率(A>B←A>C,B<C)によって大小系列を つける間接比較も教材とする。次に,差を表すこと。 これは,単位の導入によって,本来数えることができ ない連続量を,「数えられるようにすること」に通ずる。 例えば,AとBのリボンがあったとすると,次の量の 表現を指導する。一つは,「Aの長さは,私の鉛筆3本 分でBの長さは2本分だから,私の鉛筆1本分AがBよ りも長い」など,任意単位(私の鉛筆の長さ)の個数 で量を表わしてその個数の差によって量の差を表わす 方法(任意単位による測定)。もう一つは,共有され る範囲が広い単位(例えば「1㎝」や「1L」)の個数 の差,つまり,「Aの長さは6㎝(1㎝が6つ分)でB の長さは4㎝(1㎝が4つ分)だから,Aの方が2㎝(1 ㎝の2つ分)長い」など,いわゆる普遍単位(例:1 ㎝)の個数で量を表わしてその個数の差によって量の 差を表わす方法(普遍単位による測定)である。通常, 任意単位による量の表現から普遍単位のそれへと移行 させる。本稿では,「大小系列をつける」段階の授業 を事例とした。 このような流れで,小学校1年生では,はじめに「長 さ」を,その後に「かさ」を学習する。このとき,「か さ」に関していえば,「長さ」の学習が先行すること に関わって,液体を入れる容器の高さ(低さ)の認識 が,かさの大小関係に直接反映されてしまうことが多 い。即ち,「背が高い(長い)容器の方が,かさも大 きい(例:水がたくさん入る)」という「かさに対す る誤認識」が認められる。算数科の授業を通して顕在 化したこの誤認識を,子どもが「かさくらべ」を介し て意識し,解消しようとする機会に遭遇することがこ の教材の特徴といえる(コープランド,1976)。 3.2授業の計画 教材の特徴を踏まえ,次の観点に留意して授業は担 当教師を中心に計画された。甲賀市教育研究所は適宜, その担当教師と共に授業計画の作業を行った。さらに は,同じ市内の数名の小学校教師が当該授業の計画に ついて議論する機会も設けた。ここでは,複数名の小 学校教師による当該授業の計画についての議論の概要 を示すとともに,実際に計画された授業展開案を示す。 複数名の小学校教師による当該授業の計画につい て,2014年8月26日に6名の小学校教師によって議論 された。主な論点は次の4点であった。 (1)具体的な操作を通して「かさの概念」を獲得させ ることについて:かさの概念は,具体的な経験を積み 重ねることによって養われていく。この学習は,体積 の学習の基礎となる単元であるため,「かさ」につい て見当をつけたり,実際に「かさくらべ」をする活動 を繰り返したりすることを大切にしながら,豊かな量 感覚を身につけられるようにしていく必要がある。 (2)操作をするための道具(容器 の形)について:本時で使用す る容器は,全部で3つ(容器ア; 図1の左:300mL入り,最も 背が高い容器/イ;図1の中 央:280mL入り,最も背が低 い容器/ウ;図1の右:265mL 入り,最も細くイよりも背が 低い容器)。これらは子どもたちが持って作業しやす く,何度も繰り返し操作しやすい量が入るものを考え た。また,「かさの誤概念」が顕在化するように容器 の太さや背の高さに留意した。 (3)比較対象の決定とその順序: 本授業では,家庭学習段階も含 めて,次の2段階で3種類の容器 を子どもに使用させた。まず, 容器アと容器イ(図2)を子ど もたちそれぞれに家庭へ持ち帰 らせて,それらのかさの大小系 列をつける方法を考えさせる(第 1段階)。本時の授業において,第1段階で得た答えと 方法をクラスで共有し,次に,容器イと容器ウを用い てそれらのかさの大小系列を明らかにするよう求める (第2段階)。本時では,高さも太さも異なる容器を用 意することで,子どもたちの「比べたい」という意欲 を引き出そうと考えた。 (4)本時の授業の主な流れ:次のような展開を計画し た。 ①問題の提示と確認(「家庭学習」の利用:問題理解 の確認) 教師は,問題「アとイ,2つのいれものがあります。 どちらのいれもののほうが,たくさんのみずが入るで しょう」を提示し,その後,「家庭学習」のふり返り を促して比べ方は複数個あることを子どもに確認させ ることにより,子どもの注意を「比べた結果」よりも むしろ「比べ方」に向かせようと考えた。次に,教師 は,「家庭学習」の際に「困ったこと」や「わからなかっ たこと」を子どもたちに発表させ,本時のめあてを解 決したいという課題意識を高めることを重視した。 ②小集団による探究(「家庭学習」の利用:小集団に おけるくらべかたの発表と共有) 2つの容器ア(300mL)・イ(280mL)を用意し,子ど 図1 図2
4 もたちに小集団(1集団3人)になるよう促す。そこで, 子どもたちには,「家庭学習」の成果に基づき,どち らの容器の水が多く入るかを容器に水を入れる操作に よって順番をきめて発表するよう指示する。そして, それぞれが考えた比べ方を聞きあい,自分の「比べ方」 との相違点や共通点を見いださせる。教師は,子ども の家庭学習を事前に配布したプリントを確認すること によって,次の4つを子どもの発表内容として想定し た。 -容器アに水をいっぱいいれて,容器イにうつした: 結果をえるための手順のみの記述。結果を決める現 象の記述はなし。 -容器イに水を入れて容器アにうつしたら,容器アの 方が多かった:結果をえるための手順と結果のみ記 述。結果を決める現象の記述はなし。 -容器に水をいれて,別の容器にうつして比べた:新 しい道具の紹介のみ記述。 -容器イの方が多いと思ったが,水を入れて比べると 容器アの方が多く水が入った:予想と結果のみ記述。 ③クラス全体への「くらべかた:アとイの容器のかさ」 の発表と共有 教師は,まず,問題に対する結果(容器アと容器イ のどちらの方が,かさが大きいのか)を子どもに確認 する。次に,比べ方を子どもに問う。このとき,子ど もには「比べ方」を単に操作させるだけにと留めず, 言葉で説明するよう促す。 ここで,教師は次の説明をクラスで共有しようと計 画した。 -容器アに水をいっぱいいれて,容器イにうつした。 そうしたら,容器アにみずがあまるから,容器アの 方が多く水が入る。 -容器イに水を入れて容器アにうつしたら,容器アが いっぱいにならないので,容器アの方が多く水が入 る。 -容器ア,イそれぞれに水をいれて,容器ア,イよ りも大きな容器Aにうつしてそれぞれの水位(水の 入ったところの「高さ」)を比べると,容器アの水 位の方が高いので,容器アの方が多く水が入る。 ④新たな問題の提示(容器ウの登場) 教師は,ここで,第3の容器ウ を登場させ,これと容器ア,イ とを其々比較するよう子どもに 求める。上述①~③と家庭学習 によって,子どもたちは,かさ のくらべをするための「手順」 を獲得し,「結果を判断するため の現象(水が容器にあまる 等)」 を見極められると想定する。よって,容器アとウ(高 さが同じ容器のかさ比べ)と容器イとウ(太さも高さ も異なる容器のかさ比べ,図3)をし,かさ以外の量 ( 例: 容 器 の 高 さ ) の大小に依存しない 子どももいることを 想定した。 ⑤個別の探求と小集 団による探究 本時の展開①から ③に基づいて,小集 団(1集 団 に つ き3 人)で比べ始める。 特に,容器イと容器 ウの比較の結果(容 器ウよりも容器イの 方がたくさん水が入 る)は,集団によっ て誤認識(容器イの方が容器ウよりも容器の高さが低 いので,容器ウの方が容器イよりたくさん水が入る) が,操作の結果を勝って,答えを誘発する可能性があ ると想定できる。 ⑥くらべ方の発表と共有 ここで,教師は次の説明をクラスで共有しようと計 画した。 <容器アと容器ウのかさくらべ> -容器アに水をいっぱいいれて,容器ウにうつした。 そうしたら,容器アにみずがあまるから,容器アの 方が多く水が入る。 -容器ウに水をいっぱいいれて,容器アにうつした。 そうしたら,容器アがいっぱいにならないので,容 器アの方が多く水が入る。 <容器イと容器ウのかさくらべ> -容器イに水をいっぱいいれて,容器ウにうつした。 そうしたら,容器イにみずがあまるから,容器イの 方が多く水が入る。 -容器ウに水を入れて容器イにうつしたら,容器イが いっぱいにならないので,容器イの方が多く水が入 る。 -容器イ,ウそれぞれに水をいれて,容器ウ,イよ りも大きな容器Bにうつしてそれぞれの水位(水の 入ったところの「高さ」)を比べると,容器イの水 位の方が高いので,容器イの方が多く水が入る。 -容器イの方が容器ウよりも小さい(背が低い)ので, 容器ウの方がたくさん水が入るはずだ。 ⑦まとめ かさくらべをするときは,どちらかの容器に水を いっぱいれて,他方にうつすと,「水がもとの容器に あまる」や「まだ水をうつすことができる」ことで確 かめることができるということを共有できたかどうか 確かめる。 このように,本時の展開を想定し,「家庭学習」の 内容を決定した。 図3 図4 家庭学習用のプリント
5 3.3 「家庭学習」の実際 本時の授業内容と授業展開に関連させて,「家庭学 習」の内容を次の(1)から(5)に定めた(図4)。 (1)めあての提示:「かさのくらべかたをかんがえよう」 という本時のめあてを,家庭学習でも意識させようと した。 (2)問題の提示:本時の問題(アとイの容器にはいる かさの大小系列を明らかにする)を容器アとイの写真 とともに提示した。 (3)結果の予想とその理由:操作をする前に「予想」 をし,その理由を示すよう促した。教師が子どもの理 由の記述を本時の事前に確認して,さらに子どもがか さの大小系列をつけようとする基準(例:容器の背の 高さ)を把握するようにした。 (4)操作の方法の部分的な指示と結果:教師は,操作 の方法に関連して,「(容器に)みずをいれて」と指示 し,続いて「□が多い」という結果を明示するよう子 どもに求めた。 (5)操作の方法の記述(絵やことばを用いて):教師は, 子どもの大小系列を明らかにする方法をかいてくるよ う求めた。そのための記述欄は2つ準備されており, 教師は子どもたちに複数個の方法があることを暗に示 した。 これら5つの内容を備えた「家庭学習」の成果を子 どもたちはプリントに表わしている。教師は,本時の 実践前にそれらプリントを見,授業の展開の計画を調 整して実施する。 4.授業の実際 4.1授業の対象と記録の方法 本研究授業は,平成26年10月に滋賀県甲賀市内K小 学校第1学年の1クラス(全33名)に対して実施された。 また,授業の記録は,ビデオカメラによって記録され た。ビデオカメラは,全体を記録するもの1台と,定 点カメラ1台を使用した。さらに,前時授業終了時に 配布された「家庭学習用のプリント」と授業中に配布 されたプリントも,授業終了後に回収し,そこに記述 された子どもの記録を本稿では分析する。 4.2授業の展開 (1)問題の提示と確認(「家庭学習」の利用:問題理解 の確認):最初に教師は,「家庭学習」を話題にして,「め あて」を子どもたちに意識させた。子どもたちが家庭 で実際に操作しながら試したことについて,困ったこ とを伝え合うことから授業が始まった。ここで,教師 は,2つの容器ア(300mL)・イ(280mL)を子どもたち に見せて,「アとイのいれもの,どちらが多く水をい れられるか」を彼らに問うと,子どもたちは「簡単だっ た」や「大変だった」など「家庭学習」の感想をこた えた。そこで,教師は「ちょっと難しいなと思ったと ころはないか」と問いかけた。それに対してある子ど もは,容器へ水を注ぐ技術の困難さを訴えた。教師は, 技術的な困難さではなく,操作の手順に子どもの意識 を向けるために,技術の困難さは(漏斗を用いて)解 消できることを子どもたちに伝えた。そうしておいて, 教師は改めて子どもたちに「今日のめあて」を板書し, 子どもによませた。 (2)小集団による探究(「家庭学習」の利用):ここで, 子どもたちは,「家庭学習」の成果を基にしてそれぞ れの「比べ方」を実際に操作しながら発表した。子ど もたちは,教師の指示で3人の小集団になり,家庭で 実際に行った操作を見聞きし合うよう促された。この とき,中には単にプリントを読んで発表していた子ど ももおり,それだけでは自分の比べ方との相違点や共 通点は見いだすことはできないと言う子どもの姿が見 られた。子どもが家庭で操作したことは以下のとおり であった: -容器アに水をいっぱいいれて,容器イにうつしたら 水があふれたからアが多い -容器アに水をいっぱいいれて,容器イにうつしたら アに水が残ったからアが多い -容器アに水をいっぱいいれて,容器イにうつしたら アが多かった -容器イに水をいっぱいいれて,容器アにうつしたら あふれなかったからアが多い -容器イに水をいっぱいいれて,容器アにうつしても まだ入るからアが多い -容器イに水をいっぱいいれて,容器アにうつしたら アが多かった -同じ大きさの容器に水を入れて高さをはかるとアが 多い -別の入れ物にアの水を入れて線を引き,水を捨てて イの水を入れて線を引くとアが多かった -別の容器で何倍分か比べるとアが多かった (3)クラス全体での「くらべかた(アとイの容器のか さ)」の発表と共有:全体交流で,教師は,数人の子 どもたちを前に出して,実際に容器に水をいれるなど の操作による比べ方を発表させ,どちらの容器がたく さんの水が入るか述べさせた。ここでは次の4つの発 表がクラスで共有された。 1つ目は,イの容器に水を入れ,それをアの容器に 移す方法を取り上げた。前で発表している子の操作を 1つずつ止めながら今,何をしたのかを周りで聞いて いる子たちに問いかけながら,操作の仕方を確認して いった。周りで聞いている子どもたちは,友だちがど のようにして比べようとしているのか集中して聞き, 「どんな操作をしたのか」と問いかけられても,すぐ に「自分も同じようにした」や「ぼくは違う」など答 えたりしていた。この教師と子どもたちのやり取りは, 以降の発表の場でも繰り返し観察された。その後,発 表者に結果を尋ねると「水があふれなかったからアが
6 した。しかし,容器イと容器ウを比べる段階で子ども たちにいくらか混乱する様子が見られた: -アとウの実験の後,引き続きその水をイとウの実験 に使おうとしたため,どの水かが分からなくなって しまった。 -今までの学習経験から長い容器の方が大きい(今回 ならば容器ウが大きい)というイメージが出来上 がってしまい,実験で結果が違っている(容器ウよ りも容器イが大きい)と混乱し,再度実験している 内にだんだん曖昧になり,分からなくなってしまっ た。 -実験の手順や,結果を判断する現象(どうなると大 きいと判断できるのか)が分からなくなってしまっ た。 -目の前に幾つものペットボトルが並び,何を比べて いるのかが分からなくなってしまった。 (6)くらべ方の発表と共有:教師は,子どもたちに結 果のみを尋ねた。容器アと容器ウの比較について,子 どもたちは一斉に「ア(の方が多い)」と答えた。し かし,容器イと容器ウの比較については,「みんなは イの方が多いと予想したけど水を入れて比べるとどち らが多かったですか」と教師が尋ねると,はっきり述 べられなかった。 (7)まとめ:意見が分かれてしまったままなので,こ こでまとめをするのでなく,容器イと容器ウに関して, どのようにしていけばよいのか,次時にもう一度考え ることにした。 5.考察 授業の実際から得られた次の4点に焦点をあてて, 「教材研究」,「授業の方法」,「家庭学習」をそれぞれ 考察する。 5.1 大小系列を決定する「キーワード」の必要性に ついて 小集団の活動では,結果を判断するための表現が多 様に発表された。クラス全体で比べ方を共有し結果を 導出する場面で「容器アにいっぱいいれた水を容器イ に移すと,あふれた」や「容器アに一杯入れた水を容 器イに移すと容器アに水が残った」などと子どもが述 べた。これにより,結果を判断する基準が子どもにとっ て多様に存在した。このような授業の実際から,教材 研究において,多様な表現をクラス全体で共有するた めに,子どもの合意を得られると想定でいるキーワー ドが必要であるといえる。それによって,授業では, 例えば,教師が「水を移すとこぼれた」あるいは「水 を移してもこぼれなかった」という表現で,最終的に 表わせるかを子どもに問うことができる。大小の系列 をつけるための現象を「こぼれる/こぼれない」で表 現し直す活動が,かさ比べの方法とそれにともなう結 果をクラスで共有する活動となる。更に言うならば, 多い」と答えた。再度,周りで聞いている子どもたち に「イからアに水を入れかえるとどうなったか」と尋 ねると,「アの容器の上の部分があいていた」や「あ ふれなかった」といい,それらもアが多いという結果 の理由となった。2つ目は,アの容器に水を入れ,そ れをイの容器に移す方法を取り上げた。発表者は,水 を移しかえ,イの容器がいっぱいになった時点移しか えるのを止め,「アの容器の水が少し残ってしまった から,アの容器が大きい」と答えた。「同じように考 えた子はいますか」と尋ねると数人の子が挙手をし, 別の子どもがアの容器に水を入れ,それをイの容器に 中の水を全て移しかえ,「あふれたから,アの容器が 大きい」と答えた。同じ操作であっても,結果を導き 出した根拠が違っていることを表現した。これら2つ の比べ方は,「直接比較」である。 3つ目に,教師は別のコップを使って考えた子の意 見も取り上げた。子どもは,1つのコップを使って, まずアの水を移しかえ,入った高さの所までを黒色の マジックで線を入れた。その後,コップの中の水を捨 て,再びイの水を移しかえた。そして,アと同じよう に,水が入った高さの所までを赤色のマジックで線を 入れた。ここで教師は結果をすぐに見せずに,周りで 聞いている子どもたちに「さあ,線はどうなったか」 と問いかけた。それに対して,子どもたちは,「アよ りもイが下になる」と反応を返した。そして教師は, 結果を見せた。4つ目の方法の発表を促すために,教 師が「今はコップ1個で比べたけれど,同じ大きさの コップを2個使って比べることができないか」と尋ね たところ,多くの子どもが挙手をした。そこで,教師 はそのうちの1人に操作しながら説明するように促し た。その子どもは,アとイの容器の水をそれぞれ同じ 大きさのコップに移しかえ,2つのコップに入った水 の高さで比べた。 (4)新たな問題の提示(容器ウの登場):ここで,教師は, 第3の容器ウを子どもに見せた。そして,容器アと容 器ウはどちらがたくさんの水が入ると思うか尋ねた。 子どもたちの予想は,容器アとウの比較について,意 見が分かれた。見た目が,同じような高さで,太さも 同じくらいということもあり,答えに迷っていた。ま た,容器イと容器ウではどうかと尋ねると,このとき の子どもたちの予想は,「容器ウ」と答えた子どもが 圧倒的に多かった。教師が,これらの答えをえるため にどうしたらよいかを尋ねると,「くらべる」と子ど もたちは応えた。プリントを配布し,容器アと容器ウ を比べて,結果どうであったか,容器イと容器ウを比 べて結果どうであったか,結果を記入するよう求めた。 (5)個別の探求と小集団による探究:小集団になり, 比べ始めた。新しい別容器に移しかえる子はなく,ど の小集団も直接比較で比べ始めた。容器アと容器ウに ついては,大きな混乱もなくアの方が多いと結果を出
7 そのキーワードが自然に子どもから提案される必要が ある。家庭学習では,「水がどうなったのか」を操作 やことば,絵図などで表現させ,事前に教師がその子 どもの表現を把握できれば,先のキーワードをもつ子 どもを意図的に指名できる。 5.2 教材に注意を向けるための教具について 本時では量を直接比較する方法が教材の中心であっ たが,道具(例 容器アとイよりも大きな入れ物A) を用いた比較が多く見られた。つまり,子どもたちは, 入れ物Aに2つの水位を記録するという方法を選択し ていた。それを回避し,かさの比較をさせるためには, 水位が見て把握できない必要がある。全ての容器に外 紙を張るなどして,中が見えない状態の容器が必要で あった。日常生活の場面を考えれば,水をこぼすこと なく,水位を見てかさの大きさを把握する方法をよく 使う。しかし,算数科で大小系列を決めるための直接 比較の学習においては,この日常的な方法ではない方 法に目を向けさせる必要もあろう。 5.3 子どもたちの「比べ方」の共有方法について 小学校1年生にとって,操作方法とその手順の記述 は難しかった。授業の中の交流で,自分の比べ方を伝 えるために家庭学習で書いてきた文章を単に読んでい て,それを実際の操作をしながら読んでいる子どもは いなかった。更に,友だちの「比べ方」を聞いても, それがどんな操作であるのかイメージすることは難し く,結局,自分と他者が同じ方法で「かさ比べ」をし てきたのかを家庭学習のプリントを基にして検討でき なかった。しかし,授業中に1人の子どもがクラス全 体に向けて「比べ方」の操作を実際にやってみせると, 「自分も同じだ」や「そこだけがちがう」と自分と他 者を比較する様子が見られた。これらから,教師は, 家庭学習では記述することよりもむしろ,自分が操作 して,「実物を使って話せるようにしてくること」を 求める必要があるといえる。 5.4 容器イと容器ウの大小系列は定まらなかった (次時に送られた)ことについて 容器イと容器ウのかさ比べをする子どもたちの様子 から,実際のところ,彼らは大小系列をつける2つの 基準―ボトルの背の高さと操作による「かさくらべ」 ―を有していたことが顕在化した。容器アと容器イの かさ比べは,容器アの方が容器イよりも背が高く,か つ,かさも大きいという結果であった。本時ではその ような子どもの実態を教師が把握するだけではなく, 子どもに「容器の高さによって,入る水の量の大小は 判断できるのかな?」という疑問をはっきりと持たせ ることには成功している。この疑問を「次時のめあて」 とする教師の判断は適切であったと考える。 6.結論 本稿では,上述の4点の通り,小学校第1学年「かさ くらべ」の授業を通して,「家庭学習」を授業に生か す取り組みによって,教師の具体的な教材や授業展開 に照らし合わせた授業研究の視点を前項(5.考察) の通り明らかにできた。 謝辞 今回の授業を提供いただいた先生,並びに,授業記 録を取らせていただいた児童のみなさん,学校の皆様 に厚く御礼申し上げます。 引用・参考文献
Stigler, J. and Hiebert, J. (1999). Teaching Gap: Best Ideas from the World’ s Teachers for Improving Education in the Classroom. The Free Press. コープランド(1976)「ピアジェを算数授業にどのよ うに生かすか」明治図書出版 甲賀市教育研究所(2014)「平成25年度 研究紀要(第 9号 算数・数学)」非売刊行物○c甲賀市教育研 究所,発行日2014年3月 清水美憲 編(2010)「授業を科学する―数学授業への 新しいアプローチ―」学文社