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旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割(水地宗明教授退官記念論文集)

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旧約聖書に見る町の長老たちと

     その果たした役割

赤  井  伸  之

1 はじめに 健全な判断は年輪を重ねた者に, 確かな勧告は長老にふさわしい。 知恵は年を経た者たちに, 理解力と忠告は尊敬すべき年寄りにふさわしい。 豊富な経験こそ老人の冠であり,       1) 主を畏れることこそ彼らの誇りである  旧約聖書において「長老」を意味するヘブライ語は,「あごひげ」を意味する        2> 語が語源であると言われている。それゆえ「長老」とは,まずその根本的意味 において,あごひげのある男,すなわち成人の男子を一般的に意味するものと して理解されている。しかしながら,旧約聖書において「長老」とされた者た       3) ちは,年齢に関係なく,支配階層を形成する者として言及されている。  このことを念頭に置いて,本稿では,旧約聖書の記述を手掛かりに,「町の長 1)シラ書〔集会の書〕25章4−6節。なお引用は,日本聖書協会発行の『聖書 新共同訳 旧 約聖書続編つき』(1987年)による。 2)この点につき,R. Laird Harris, Gleason L. Archer, Jr., Bruce K, Waltke, ed., Theological Wo rdboole of the Old Testament, Moody Press, Chicago, 1981, p,249.また, Ernest Klein, A Comprehensive Etymological Dictionary of the Hebrew Langveage for Readers of English, Macmillan,1987. p,202,参照。 3) Hanoch Reviv, The Elders in Ancient lsrael, Magnes Press, Jerusalem, 1989, p, 7. Johannes Pedersen, ls rαel:Ifs五肋and Cultttre, Vol,1, University of South Florida, 1991. p. 36.

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老たち」の任務と役割について,若干の考察をしていく。すなわち,旧約聖書       4) 中に「長老(たち)」と言及されている箇所は非常に多いが,本稿で取り上げよ うとする「町の長老たち」は,古代イスラエルの歴史におけるいわゆるカナン 定住後,国家を形成していく初期に,広範な権i威・権力を行使し,町の内部秩 序の保護者=司法を司る者として,また町の外部に対しては,彼らの居住する 町共同体を代表し,政治的・軍事的にかなり重要な任務を帯びる者たちでもあ った。  ところで,長老たちの住む町とはどのようなものであったのであろうか。古 代イスラエルの人々は,いわゆる出エジプトを経験し,荒野での生活を経て, 神が与えると約束した地であるカナンへの侵入を試みていくのであるが,定住 することになる町については,恩命記6章10−12節や申命記19章1節より明らか なように,自らが最初から建設したものではなく,先住民であるカナン人たち と戦闘をし,勝利した結果,彼らを全滅させるか,全滅させないまでも追い出 すことによって町を乗っ取り,これに移り住むことによって獲得したものであ った。聖書には,このような戦闘に際してどのような心構えで臨むべきか,ま た先ず降伏を勧告すべきこと,聞き従わない場合には町を包囲し,男子をこと        5) ごとく剣にかけて撃つべきことなど,細かく規定がなされている。 4)聖書において現われる「長老」という語は,本稿で取り上げる「町の長老(たち)」とい  う表現の他,主なものには,「イスラエルの長老(たち)」(出3:16,18;12:21;17:5,  6;18.12;レビ9:1,民11:16,30;16:25;申27’1;ヨシュ7:6;8:10;24:1;サ  ム下3:17;5:3;17’4,15;王上8:1;早上11:3;15:25;貸下5:2;エゼ8:11;  14:1;20:1,3etc.)「イスラエルの人々の長老」(出4:29)「イスラエルの家の長老」(エ  ゼ8:12>「(イスラエルの)七十人の長老たち」(出24:1,9;民!1:25)「ユダの長老たち」   (サム上30:26;サム下19:12;エ.ズ5:5;6:8,14;エゼ8:1)「ユダの長官と長老たち」   (エズ6:7)「民の長老(たち)」(出19.7;民11:16,24;ルツ4:4;サム上15:30;イ  ザ3:14;エレ19’1)「共同体の長老たち」(レビ4:15,士21:16)「部族の長老」(申31:  28)「部族の長と長老」(申5:23;29:9)「ミディアン人の長老たち」(民22:4)「モアブ  とミディアンの長老たち」(民22:7)「ギレアドの長老たち」(士11:5,7,8,9,10,11)  「ヤベシュの長老たち」(サム上11:3)「スコトの指導者と,長老七十七人」(士8:14)「エ  ジプトの国の長老」(創50:7)「王家の長老」(サム下12:17)「祭司の長老たち」(王下19:  2;イザ37:2)「おとめシオンの長老」(哀2:10)などがある。 5)申命記20章参照。

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旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割  97 II対外的諸問題と町の長老たち  ここでは,町の外部に対して,長老たちがその居住する町を代表して,かな り重要な役割・任務を帯びていたことを,「サムエル記⊥」に現われたいくつか        6) の記事をもとに考察する。 【事例1】アンモン人のヤベシュ包囲に対応する長老たち  サムエル掌上11章1−4節には,アンモン人のナハシュがギレアドのヤベシュ を包囲した際,ヤベシュの長老たちが町の問題の解決のためにいかに活躍した かの記事がある。ここには「ヤベシュの全住民」と「ヤベシュの長老たち」と いう二種類の者たちが登場する。前者は町に居住する一般自由人及び土地所有 者層住民を指すのに対し,後者は執行権のある町の評議会ないし町の住民の長        7) を意味するものとされる。  ヤベシュの町の長老たちは,政策決定者として,「町の全住民」に町の全権を アンモン人の王に渡すことを含む隷属的な契約=条約を提案させると共に,難 局に際しては,アンモン人と直接交渉を行い,七日間の猶予を請い,助けを求        8) める使者をイスラエル全土に立てることまでした。 【事例2】サムエルを迎えるベツレヘムの町の長老たち  サムエル記上16章4節では,ベツレヘムの町の長老を,サムエルがダビデを 新しい王として油を注いで聖別するためにベツレヘムの町へやって来た時に, その町の責任を負う者として描いている。つまり,サムエルの予期しない突然 のベツレヘム訪問は,彼ら町の長老たちに不安を与え,「おいでくださったの 6)「サムエル記上」以外にもこの問題に関して検討すべき聖書の箇所は多いが,時間的ま た紙面の都合上割愛することをお断りしておく。 7)ところで,このような町の二重構造図は,Revivによれば,イスラエルを含む古代中東を 通じて存在したと考えられ,町は「町の長老たち」の指導の下にこれら二つの団体が,ヤ ベシュ以外でも独立した政治的・軍事的・法的政策を実行し,問題解決のために努力した といっ。Reviv, op. cit. p.55. 8)町の長老たちは,政策決定,外国との関係,軍事に関することなど,この記事に示され る如き多くの権限を有していたが,やがて王権が確立していく過程でこうした権限は取り 上げられてしまうので,王政以前の状況を示す記事であると考えられている。

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は,平和なことのためでしょうか」と問わせている。 【事例3】ダビデに対するケイラの有力者たち  サムエル丁丁23章10−13節には,ペリシテ人の略奪からダビデによって救われ たケイラの人々は,彼らの感謝の思いからすれば,サウルから逃れるダビデを 守って当然であったけれども,ノブの町においてサウルが徹底的に破滅させた ことを考慮し,町の安全を配慮してダビデをサウルに引き渡す決断をしたため に,ダビデはケイラを去り,あちこちをさまよったと記されている。ダビデは 「ケイラの有力者たち」=「ケイラの町の長老たち」が,他のユダの「町の長 老たち」と同様に,外的要素による難局に直面した場合,行政的・代表的役割 を持つゆえに,彼らの町の立場に立って町の安全確保という政策決定をなし得 る権限があると考えた。 【事例4】ダビデの外交政策と町の長老たち  サムエル記上30章26−31節には,ダビデがツイクラグに帰ったときに,友人で あるユダの地ネゲブにある町の長老たちに戦利品の中から贈り物をしたという 記事がある。戦利品は,部族の長にではなく,「町の長老たち」に直接贈られ た。このことは,町の長老たちが,外的な関係についても発言権を持っており, 世論に対しても影響力を持っていたことを示している。ツイクラグの町がアマ レク人に攻撃されて焼け落ちた状態であったにもかかわらず,ダビデはユダ族 の長たちの権力を認識していたので,支持を得るために彼が試みたことは,長       9) 老たちを引き付けておくことであり,それが成功の鍵だと思った。逆に,長老 たちとしては彼らの住む町のダビデとの関係を有利にしておこうと考えたであ  10) ろう。 III法的・司法的問題と町の長老たち 前節では対外的諸問題の解決に活躍する「町の長老たち」を一瞥したが,本 9)ダビデの放浪生活は長期かつ広範囲に行われ,旅先の至る所で人心を得ていた。焼け跡  の町ツイクラグに帰ったダビデがなおも分捕り物を贈ったことは,彼の人徳を表わすと共  に,偉大な戦略家であったことを示すものである。 10) Reviv, oP. cit. p. 60.

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       旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割  99 節では町の秩序維持のために,とりわけ法的・司法的問題を担当した「町の長 老たち」を見ていきたい。ところで,「町の長老たち」の法的権威は,本質的 に,部族社会に根源を持つ社会単位におけるリーダーシップに基礎を置いてい た。それゆえ,申命記並びに他の聖書の箇所で述べられている「町の長老たち」 の司法への関わりは,古代の法的伝統先例,訴訟手続及び個人的経験に基づ いていた。これらは,王政の時代及びその後の期間に発展した「町の長老たち」       11) の訴訟手続の中に組み入れられた。  申早場は,その町の設定と共に,明らかに「町の長老たち」によって構成さ れる地方法廷の枠組の中における訴訟手続を描いている。 【事例1】犯人不明の殺人事件と町の長老たち  出費記21章1−9節には,犯人不明の殺人事件で流された血の罪がイスラエル に負わせられないようにするための具体的な方法を示した記事が置かれている。  この手続は,町の長老たち並びに裁判人たちによって進められ,,死体が発見 された場所に一番近い町が殺人に責任があるものとして宣告された。測定だけ に携わる裁判人たちと異なり,長老たちは手続のあらゆる段階に関わった。こ こにはレビの子孫である祭司たちも出て来るが,おそらく,裁判人たちやレビ の子孫である祭司たちではなく,「町の長老たち」だけが,この儀式に関与した        12) と考えられている。       13) この記事は,おそらくヤーウェ宗教以前の古い慣習と後の考え方とが結合した ものとされ,殺人が放置されるならば,それはイスラエル全体の罪になるとい う,犯罪に対する強烈な連帯的責任感がこの記事の背後に流れており,それゆ えに町の長老たちは祭儀を執行し,最後に,彼らの町がこの殺人事件とは関わ        14) りがないことを,手を洗うという行為によって示した。 11) Reviv, oP. cit. pp.61−62. 12)Reviv, op. cit. pp.69−70.なお,この見解は, Gerhard von Rad, Deuteronomy, Westminster,1966, pp.135−136.に基づいている。 13)「町の長老たち」のみが関わった儀式それ自体は,かつての魔術的行為を示唆するもの  で,古い時代にまで遡るとされている。この点につき,Reviv, op. cit. p.70. 14) Pedersen, oP. cit. p. 35.

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【事例2】反抗する息、子と町の長老たち  申自記21章18−21節には,父母に従わない子の処置についての規定がある。子 供の親に対する尊敬は,古代イスラエルの社会においては,基本的な定めであ  15) つた。社会の平安は家庭の平安から,家庭の平安は神のこの命令に従うことか       16) ら得られるので,親は子に対し,宗教教育を施す義務と責任があった。箴言は       17) 父母に自分の子を懲らしめ,厳しく育てるよう繰り返し教示している。従って,        18) 親不孝は神の民の秩序を破壊するものとして死罪と決められていた。しかしな がら,両親には子を自由に処刑する権利はなかった。処刑は親の訴えにより長       19) 老の裁きに委ねられ,その裁判の判決によってなされることになっていた。  ここでも「町の長老たち」は,族長たちの規範=「モーセの十戒」の教えに 従わせることの出来なかった彼らの手に負えない息子を,両親の要請に従って      20) 制裁している。一般に容認された法的伝統に従って「町の長老たち」は,この 問題を議論するための権威ある法廷を形成し,罰を割り当てている。しかしな がら,聖書では息子の言い分は全く省略されてしまっている。おそらく,長老        21) たちは両親の証言だけで満足したように思われる。 【事例3】離婚原因としての処女の証拠と町の長老たち  申存意22章13−21節には,妻が結婚前に不品行をしたことを理由に離婚しよう とする場合の問題が論じられている。そもそも,古代イスラエルにおける結婚 =両性の結合は,純潔かつ責任あるものであることが要請された。この記事に おいて「町の長老たち」が演じた役割は,①両者の訴え・言い分を聞くこと, 15)父母に対して子たる者が取るべき態度についての積極的な教えは,いわゆる「モーセの  十戒」(出20:12;申5:16)とレビ記19:3に示されている。また,箴言19:26,20:20,  28:24,30:11,17も参照。 16)申命記6:6−7参照。 17)箴言13:24,19:18,22:15,23:13−14,29:15,17等。 18)出エジプト記21:15,17,レビ記20:9,取皿記27’16等。 19)しかし,実際には親が子を訴えることは滅多になかったと考えられるため(サム上3二13  参照),この記事は親への不従順の罪の重大さを印象付けるための規定だとされている。 20) Pedersen, oP. cit. p.35. 21) Reviv, ,oP. cit. p. 64.

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       旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割  101 ②申し立てられた供述の妥当性を審議し,肯定するか否認すること,③判決を 言い渡すこと,すなわち,(a)処女の証拠が認められるならば,夫に対して肉体 的刑罰と罰金を科すこと,逆に,(b)処女の証拠が認められない場合には,町の 人たちにより妻を石で打ち殺すことさえ認める権限を持っていた。  このように,夫の訴えが妻の処女性に対する虚偽の非難に基づくものである ことが判明したならば,彼には鞭打ちの刑のみならず,生涯離婚出来ないとい う厳しい条件と共に,銀百シェケルというかなり重い罰金刑が科せられ,一方, 夫の訴えが正当であることが判明したならば,妻は父親の家の戸口で石打ちの       22) 刑に処せられた。 【事例4】ハリツァーの儀式と町の長老たち  申命記25章5−10節には,いわゆるレヴィレート婚に関する規定が置かれてい る。レヴィレート婚の慣習そのものが過去の時代のものであり,少なくとも祭 司的なものが強くなった時代には,レビ記20章21節に見るような全く正反対の 規定が現われ,兄弟の妻を早ることは汚らわしいことだと言い切っている。申 誤記の記事は,そのような状況の下で,レヴィレート婚を逃れるためのハリツ       23) アーの儀式を設定し,その下野の立会人としての「町の長老たち」を描いている。 【事例5】「逃れの町」の長老たち  聖書には,いわゆる「逃れの町」についての記事が,出エジプト記21章13−14 節,野晒記35章6,9−34節,申命記4章41−43節,同19章1−13節,そしてヨシ ュア記20章1−9節にある。この「逃れの町」とは,例えば,「隣人と柴刈りに 森の中に入り,木を切ろうとして斧を手にして振り上げたとき,柄から斧の頭        24) が抜けてその隣人に当たり,死なせたような場合」のように,意図してではな 22)Pedersen, op. cit. p. 35.なお,この記事には,「町の長老たち」や「町の門」さらには罰  金のタイプなどが出て来るけれども,仕事は座って出来ること,状況が特別なこと,要求  の性質などから,必ずしも町に定着した生活様式を要求していないという。この点につい  て,Reviv, op. cit. p. 63. 23)レヴィレート婚をめぐる諸問題については,かつて考察したことがある。拙稿「兄弟の  妻を嬰ること」聖泉人文社会学会『人文社会科学論集』第7号(1991年1月)1−31頁所収。 24)申命記19:5。

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く,偶然に人を殺してしまった者が,共同体の前に立って公平な裁判を受ける 前に,血の復讐をする者の手にかかって死ぬことがないように,保護を受ける ことのできる町である。なぜなら,本来,殺害者は二人または三人の証言によ

 25) 26)

って必ず死刑に処せられることになっており,血の復讐をする者は,その殺害       27) 者に出会うとき,自分で殺すことができるからである。そこで,故意によらず 殺人を犯した者は逃れの町に逃げ込むわけであるが,その人は町の門の入り口 に立ち,その町の長老たちの聞いている前で事情を説明し,長老たちが彼を町 に受け入れてくれたならば,彼は場所を与えられて,共に住むことが許された。       28) たとえ血の復讐をする者が追って来ても,殺害者を引き渡してはならない。  もし,故殺がなされているのに,殺害者が「逃れの町」に逃げ込んだならば, 「その犯人を出した町の長老たちは,人を遣わして彼を捕らえ,復讐する者の       29) 手に引き渡して殺させねばならない」と規定し,町の長老たちは,正義の追求 者として,また秩序の維持者として,自らが実行するのではないが,命じて人 を遣わし,殺人者を捕らえさせ,刑の執行までさせている。  なお,折角逃げ込んでいた「逃れの町」からフラフラと外に出て,偶然血の 復讐をする者と出会い,これに殺されたとしても,血の復讐をする者には血を       30) 流した罪はないとされている。  ところで,「逃れの町」は初め三つが制定されたことが,申前記4章41−43節 や同19章1−7節の記述より知られるが,その後ヨルダン川の東側をも支配下に

       31) 32)

治めた後には,さらに三つの町を加えて,合計六つの町を「逃れの町」とした。  ところで,こうした「逃れの町」の制定の裏に,聖所の中央集権化とそれに 25)等割記17:6。 26)民博記35:16等。 27)民数矢35:19,21。 28)ヨシュア記20:5。なお,この規定の名宛人,すなわち,「引き渡してはならない」と教  示されているのは,「町の長老たち」とも考えられるが,広く逃れの町の住民と考えたい。 29)申命記19:12。 30)民数記35:26−28。 31) 申命言己4:8−90 32)民数記35:13−15。その具体的な町の名称については,ヨシュア記20:7−8参照。

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       旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割  103 伴う地方画所の廃止という現象が関係していると言われている。すなわち,祭 壇の角がとりわけ神聖なものと考えられ,それに触れると殺されないと考えら    33) れていた。 【事例6】ルツ記における町の長老たち  ルツ記は,「士師が世を治めていたころ」という設定がなされているけれど 34) も,言い回し等から判断して,ダビデの時代以後のものと考えられている。と ころでルツ記には,日常生活,家族,法慣習についての確実で信頼できる記述 がなされているが,ルツ記4章1−12節の記事において注目されることは,土地 の買い戻しに関する交渉と結婚の申し出を明らかにすることが,「町の長老た       35) ち」の面前でなされていたことである。  「町の長老たち」は,定期的に,おそらく毎日開かれた常設の法廷のメンバ ーであった。これらの問題に関係する法的決着は,明らかに「町の長老たち」 によって処理され,関係した家族の長によっては解決されなかった。  法廷を構成するために必要だと要請された長老たちの定足数は,特定されて いない。ポアズと共に座っていた十人の「町の長老たち」が定足数であったの か,あるいはあの時たまたまその場に居合わせたのかは明らかではない。  しかも,ポアズの「この裁きの座にいる人々と民の長老たちの前で買い取っ        36) てください」という表現は,ポアズの家族の長老たちがその法廷に含まれてい たことを暗示していると共に,「町の長老たち」の法廷が,定住の社会単位の長 たちによって構成されていたことを示している。加えて,ポアズが門の所に座 っていたということは,彼もこの組織制度に含まれていたことを示している。 もしこのことが実際その通りであるなら,「町の長老たち」は,影響力があり, 裕福な男たちを含んでいたことになる。なぜなら,ポアズは「有力な」者であ ったからである。 33)出エジプト記21:14,列掌記上1二5G,2:28参照。 34) ノレツ言己1:1。 35) Pedersen, oP. cit. p.36. 36) ノレツ言己4:4。

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 このように「町の長老たち」は,定住地の生活や経済,地方の家庭内の事柄        37) や社会単位や個人に関係する財産問題に深く関わっていた。 IV 結び  以上,町の対外的諸問題の解決並びに町の秩序維持とりわけ法的・司法的諸 問題の解決に努力した「町の長老たち」について,旧約聖書に現われた若干の 記事を手掛かりに考察してきた。  まず,対外的諸問題に対処する「町の長老たち」の果たした役割は,IIで考 察した4つの事例から,0先ず何よりも彼らの居住する町の安全に対して責任 があり,町の住民たちに対する影響力を持っていたこと ②難局に直面した場 合には,町の立場に立って発言し,政策決定をなしたこと ③対外的交渉の全 責任を負い,問題解決のために努力したことを指摘出来るであろう。  次に,法的・司法的諸問題の解決に果たした「町の長老たち」について,III で考察した6つの事例から,おおよそ次のことが言えるのではないかと思う。 すなわち,【事例1】においては明らかではないが,他の全ての事例において,       38) 「町の長老たち」は必ず町の門のところにおり,おそらく座っていたこと。さ らに,「町の長老たち」が果たした役割として,持ちかけられた事件・事案につ いて法的・司法的判断を下す必要がある場合には,0申し立てられた言い分を 聞くこと ②言い分の真偽を審理すること ③審理した結果に従って判断・判 決を下すこと。以上のプロセスを経て,事件・事案を処理していたと思われる。  既に【事例3】の本文中において,上述のプロセスを解明しておいたが,他 の事例についてもここでそのプロセスを明らかにしておこう。  【事例1】「町の長老たち」は,①殺人事件が発生したことが知らされると, ②殺害現場に一番近い町を測定により定め,③その町の長老が祭儀を執行した。 37)以上,Reviv, op, cit, pp.64−66. 38)町の門が法手続きの場所であり,座る場所が設けられていたことについては,H.J.ベッ  カー著,鈴木佳秀訳『古代オリエントの法と杜会  旧約聖書とハンムラビ法典一』ヨ  ルダン社(1989年目34−5頁参照。

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       旧約聖書に見る町の長老たちとその果たした役割  105 【事例2】「町の長老たち」は城門にいて,①両親の訴えを聞き,②息子が両親 の申し立て通り反抗的であることが確証されれば,③「町の長老たち」は,町 の住民が息子に石を投げつけて殺すことを認めている。【事例4】長老たちは町 の門のところにおり,①死んだ者の妻が,亡夫の兄弟はレヴィレート婚の義務 を果たしてくれないと申し立てるのを聞く。②「町の長老たち」は,その申し 立てが事実か否かを,亡夫の兄弟を呼び出して確認する。③彼のレヴィレート 婚拒否の意思が固いならば,長老たちの面前でハリツァーの儀式を行わせる。 【事例5】逃れの町の長老たちは,①過失致死の罪を犯した者が逃れの町に逃 げ込もうとする時に事情説明を聞き,②その申し立てを真実だと判断したなら ば,③彼が町に住むことを許した。【事例6】長老たちは町の門のところに座っ ており,①ポアズの申し出を聞くと共に,②ナオミが手放そうとしている畑地 の売買取引の立ち会いをし,またポアズがルツを嬰る証人ともなった。そして, ③ポアズとルツの結婚を祝う言葉を述べている。

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