特別講演 〔東女医大誌 第62巻 第4号頁303∼311平成4年4月〕
最近の熱傷治療の進歩と私達の夢
東京女子医科大学 ヒラ ヤマ 平 山 形成外科 タケシ峻
(受付 平成3年12月4日) はじめに 熱傷は私達人類が生存する上で,“火”を使い始 めた有史以来,発生し続けてきた外傷であり,そ の治療法の記載は,すでに紀元前数百年にも及ん でいる. したがって従来一般的には“火傷”といわれ続 けてきたが,最近ではこの外傷を熱傷と呼び変え, その範囲は,熱湯その他高温の加熱体によるもの, 火焔に起因する症例を始めとして,電撃傷(感電, スパーク等によるもの),化学傷(化学薬剤による もの),凍傷,放射線障害等も総称するようになっ てきた. 熱傷外傷の特徴とは,何時でも,何処でも発生 するものであり,重症例では感染を必発するため, 他の救急外傷例と並列して,同室内で治療を行う ことができにくい点にある.特に最近ではMRSA の出現により,重症熱傷患者の生命は常に脅かさ れるようになり,その対策が急務といえよう. 熱傷の救急治療は勿論重要であるが,他の外傷 例と同様に救急治療システムの確立,治療法の専 門化,かつ予防面をさらに普及させて,その発生 を抑制するような計画,配慮が今後さらに行われ るべきである. 本論文では,私達が実際に熱傷を診断する際に どのような点が最も重要であり,かつ注意すべき かを詳述することとする. 実際には,軽い熱傷例の治療方針,重症熱傷の 意義とその臨床経過,治療法等について述べる. さらに従来の治療法と現在の治療法との問題点 を捉え,それらに関連する今後の改良,研究面等, 私達の考えている未来治療に連る諸点についても 言及して行きたいと考えている. 1.熱傷とは 熱傷とは,高エネルギーが低エネルギー領域に 向かって流れ込む際発生する諸現象をいう. これをもう少し分かりやすく説明してみると, 高温が体表面に一定時間以上加わった場合に現れ る局所反応であり,熱傷がさらに広範囲の場合に は,全身症状を随伴してくるという点に特徴がみ られる. 2.熱傷,重軽症の判定法 熱傷を診断する際,何故重軽症例を判定する必 要があるかというと,軽度熱傷例では,全身症状 を全く伴わないゆえ,それらの治療方針が全く異 なるからである. したがって軽症例では,局所部を水で冷却し, ゆっくりと治療しても一向に差しつかえないが, 重症例では,可及的速やかにショック救命治療を まず開始するべきである点に,大きな治療上の差 違がみられるといえよう。 これら重症熱傷鑑別上に,最も大切な3素因に ついて以下述べてみよう. 熱傷の重軽症判定には,熱傷の部位,範囲,深 度についてまず観察すべきである. 1)熱傷の部位 熱傷部位が顔面の場合には,その深度は特に注 意して観察しなけれぽならない. 熱傷の深度が,深在性2度(後述),3度熱傷の Takeshi HIRAYAMA〔Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Tokyo Women’s Medical College〕:Modern burn therapy and our dream in the future場合には,まず気道熱傷の合併を考え熱傷の原因, その他診断上必要な精密検査を即刻行い,救急治 療方針をたてるべきである. 気道熱傷併発有無の早期診断法としては,気管 支鏡検査が最も確実である. 2)熱傷の範囲 私達の全体表面積を100%と考え,図1のような 9の法則を用いて熱傷の範囲を測定するとよい. 3)熱傷の深度
熱傷の深度は,1度,2度,3度の3種類に分
類し,さらに2度熱傷は浅在性,深在性2度熱傷 に分類する.この理由の詳細については後述する が,深在性2度熱傷例では,治癒後,肥厚性癩痕 を必発するため治療上極めて重要であるので,予 め早期に分類,診断しておいた方が良い. 熱傷の重症度は,以上の3素因を基に決定する ことができるが,これらの中,熱傷の範囲,深度 の状態を別々に判定するのではなく,同時に2素 因を考慮して熱傷外傷を3次元的に(立体的に) 理解すべきである.私達が通常熱傷創を表現する場合には,2度100%,3度5%というようにそ
の深度,範囲を同時に表現する方法を用いている. 熱傷の重軽症度の判定はArtz(表1)の基準に 従っている. A 一一 嘩‘一 罵 =こ、’芦 表1 熱傷重軽症分類(Artz) 軽症例 2度 3度 中等度例 2度 3度 重症例2度
3度
15%以下 2%以下 9 16∼29% 3∼9% 9ハ
9さ2\1/
B 30%以上 1)顔面,四肢10%以上 2)気道熱傷 3) 軽部糸且織損傷 4)骨折 表2 重軽熱傷の判定と熱傷指数 a 熱傷指数(Burn Index, B,1.) 3度 1%=1 軽度熱傷 B工 5以下 中等度熱傷 B.1. 6∼9 重症熱傷 1)B,1. 2度 1%=渥 9 10以上 2)合併症を有するもの (1)心肝,腎疾患の既応症を有する人騰灘}を伴・症例
b 高齢者熱傷の判定法と熱傷指数 成人例:3度 7%のBJ.=7中等度例 高齢者例:70歳,3度 7%,腎既応疾患あり B.L;7十5 (加齢歳数)十1=13 重症例 A 9一」し,
9×2 ( ( 9 … ・一・ X 図1 9の法則(体表面積測定法) B 4) 熱傷才男数 (表2a) 熱傷の重軽度判定には,特にその深度と範囲と を考えるべきであると述べた. 熱傷指数とは,3度,1%を指数1とし,2度, 1%を1/2と数える.熱傷指数10以上を重症例とす る. 5)高齢者の問題 高齢者と成人との熱傷例では,諸臓器の反応, 特に心,肝,腎臓機能も異なってくるので,単な る熱傷指数の考え方だけでは,その重軽症度を判 定することは困難となってくる. 著者は高齢者の熱傷を判定する際には,65歳を 基準として考えるよう配慮している.65歳以上を 1年加齢することに熱傷指数1を加算することにしている.さらに心(循環器系),肝,腎臓その他 全身疾患の既往症(糖尿病,リューマチ等)を外 傷以前に持っている高齢患者には,その状態によ り,熱傷指数を1または2を付加する(表2b). 例えば,3度7%の熱傷患者は,健康成人の場 合の熱傷指数7で,重症例ではないが,70歳,心
疾患保持者の3度7%の熱傷例では,7+5(加
齢度)十1=13となり,熱傷指数は10以上となるゆ え,重症例と考え,治療方針を立てるべきである. 3.軽度熱傷 軽度熱傷とは,ごく限局された2度および3度 熱傷例で,熱傷指数は5以下をいう.これらの熱 傷例では,余程のことがない限り全身症状を現す ことがないので,治療方針としては,感染予防と 消炎治療だけを主体として行えばよい.仮に1度 熱傷例または2度熱傷例でも,広範囲例では,時 に吐気,ロ区吐,頭痛,発熱(脱水症状による)症 状を現すこともあるので,その際には点滴注射を 必要とすることもある. 軽度熱傷の局所治療方針としては,創部をでき るだけきれいに1,搬痕ケロイドを残すことなく 創傷部を治癒させることである. そのためには,最も注意を払わなけれぽならな い対象例とは,深在性2度熱傷例と3度熱傷例と である.以下それらの対処法について詳述してみ よう. 1)深在性2度熱傷の診断と治療方針 (1)診断 表3に示すように,深在性2度熱傷も浅在性2 度熱傷も,いずれも水溶,腫張,発赤を示すので, それらのごく初期では鑑別診断は困難である.水 痕を一部取り除いてみると,深在性では銀白色の 真皮層を示すことが特徴であり,かつ穿刺テスト (細い注射針で熱傷部をごく軽く刺してみる)で は,深在性は落忌なく陰性,その経過では,熱傷 創治癒期間は3週間以上を必要とすることで明ら かに鑑別診断を下すことができる. (2)治療方針 関節部等機能に影響する部位に発生した深在性 2度熱傷例では,受傷後2週間以内に植皮術を行 うようにして,それらの関節機能の保持に努める. 表3 浅在性,深在性2度熱傷の鑑別 浅在性2度熱傷 深在性2度熱傷 深度 浅 い 深 い 臨床像 水庖,腫脹 水疸,腫脹 真皮所見 鮮紅色 銀白色 穿刺テスト 陽 性 陰 性 治癒経過 10日前に治癒 14日以上にて治癒 搬痕形成 な し 著 明 穿刺テスト:細い注射針にて熱傷創を穿刺する と,浅在性2度熱傷では疹痛あり(陽性),深在性 2度熱傷では疹痛なし(陰性). 一方関節機能に関係のない部位,例えば躯幹部 では,できるだけ早期表皮化(治癒)をはかり, 治療後,癩痕ケロイド予防の目的で持続圧迫療法 を3∼4ヵ月行うとよい. 2)3度熱傷 軽度熱傷群に属する3度熱傷は,約5%以下で ある.直径1cm以下の症例以外は原則として植皮 術を早期に行うべきである. 4.重症熱傷とその治療 重症熱傷とは,熱傷指数10以上の症例をいう. その他気道熱傷を合併するもの,複雑骨折を併発 する症例等である. 重症熱傷の特徴としては,受傷1ヵ月以内のご く短期間内に,ショック期(受傷1∼5日頃),感 染期(6∼14日),潰瘍期(14日以降)という形態 の全く異なった症状を示しながら,全速力で疾走, 経過するものである. これらの中,ショヅク期,感染期の両時期には, むしろ内科的療法が必要であり,最後に現れる潰 瘍期では,むしろ外科的療法,植皮術が必須となっ てくる. したがって熱傷治療を行う医師とは,内科面で の充分な医学知識および外科技術を同時に必要と するゆえ,これらの点から熱傷専門医の教育,養 成が必要となってくる理由もここにあるわけであ る. 1)熱傷ショックの原因とその治療方針 一般にいわれているショックには,それらを原 因別に見ると外傷を伴うものと,伴わないものとがある.熱傷ショックは,外傷性シ・ックの一範 時に当然入る訳である.この際単なる外傷性出血 性ショックの症状としては,当然のことながら循 環血液量の減少と貧血が現れてくるが,熱傷 ショックでは,循環血液量の減少は示しても,(末 梢)血液はむしろ濃縮状態を現す点に一大特異性 が見られる. この状態は,丁度(図2a, b, c)のように,み そ汁を作っている際に,ついうっかりして煮込み 轟 缶鋸 獺融 過ぎ,水分の1部が蒸発(濃縮)してしまったが, みそ汁の中味は残っているといった状態を想定し て頂けば,熱傷ショックの起因を容易に理解でき るものと思われる. 熱傷ショックの原因は,前述のように循環血液 量の減少と血液濃縮というマクロ的な原因で起こ るが,この状態をさらに追求してみると,細胞外 液の減少とNa+イオンとの著しい低下というミ クロ的現象によって起こることが分かってきた. 以下それらについて説明する. 熱傷ショック治療として開発された世界的にも 有名なBrooke輸液公式は1949年,マクロ的状態 を基盤にした方法であり,Baxter輸液公式(Par− kland公式)は細胞外液の減少, Na+イオンの低下 を治療する主目的のための輸液法である.前者は 生理食塩水と膠質溶液とを同時に輸液するが,後 者はNa+イオンと水分の多い乳酸加リンゲル溶 液だけを主体として輸液する治療法である(表 4). これらの輸液公式の発想基盤が全く異なってい 表4 輸液公式
黛灘軸灘
図2 人体は丁度ビニール袋,火焔を受けると水分が 漏れる.これが熱傷ショックである. a:みそ汁を煮過ぎると水分の蒸発がみられる.b: なべ底に穴があくと,中の水分とみそ汁の中味がも れる.丁度外傷性出血ショックに相当する.c:体は ビニール袋の中の水分のようなもの.袋に穴が開く と内の水分がもれる.熱傷シ・ックの状態に似てい る. 1.Brooke輸液公式 o受傷24時間以内の輸液量 1)電解質溶液量 体重・kg・・熱傷面積・%・・1÷…・… 2)膠質溶液量 体重(・・)・岡積(%)・去一・・ 3)患者1日の不感蒸泄量 乳酸加リンゲル溶液 1,000ml………C 投与法 A十B十C 受傷後最初の8時間 2 A十B十C 次の16時間 2 0受傷24∼48時間内の輸液量 A十B +C 2 2.Baxter輸液公式(Parkland公式) ○受傷24時聞以内の輸液量 4mlx体重(kg)x熱傷面積(%) ○受傷24∼48時間内の輸液量 維持液量(乳酸加リンゲル溶液) 膠質溶液(必要量を与える)るため,輸液組成もまた異なった溶液が与えられ ている.実際の治療効果としては,両者の差違は, 余り見られない.この理由は,私達人体の構造は, 余りにも精密にできているために,現在での医療 面で人智の到達できる限りの考え方で治療を行っ てみても,余程の間違いのないかぎり,これらを 受容し,適度に体内の一部の状態として適応させ ていくものと考えられる. 2)感染の対策と治療 現在の熱傷専門治療法では,余程の間違いか, 重症ショックでないかぎり,熱傷ショック期は, いずれの状態でもこれをほとんど乗り越えること ができるようになってきた. しかしながらショック期以後に猛威を奮う感染 期に対しては,最近数多くの抗生剤が出回らてい るにもかかわらず,MRSA等の問題もあり,この 時期に患者の一命を落とすことが最も多く見られ る. 感染期対策としては,当然のことながら局所, 全身抗生剤を用いての対処法がある.現在使用さ れている局所剤として推奨できるものは,シル バーサルファーダイアジンクリームであるが,本 剤とても使用に際して耐性が出現し始めている. 感染抑制という点から,抗生剤以外の対処法は 同種,自家植皮術を熱傷創に対して行うことであ る.これらはいずれも生着するので(同種二三は 約3週間,自家皮片は永久生着),植皮片がひと三 生着することは,局所の感染を完全に消滅させ得 る偉大な魔力を持っていることに特に注目すべき であろう.自家植皮片の採取は,広範囲重症熱傷 例では,採皮部に制限があること,外科的侵襲の 大きいこと等の理由から,自ら採皮片量の制限が みられる. また最:近では同種植皮片は,エイズの問題から, 日本人の宗教的,儒教的思想から,子供の熱傷例 では一応両親からの採皮が可能ではあるが,それ 以外の場合では,ほとんど採皮できないというこ とが現状といえよう. したがって今後は人工皮膚(後述)の利用に期 待するところが極めて大きい. 3)潰瘍期 従来の熱傷治療法では,熱傷壊死におちいった 組織が脱落し,潰瘍を示すこの時期に,始めて植・ 皮術が行われてきた.そのためか重症熱傷感染期 での死亡率が高いため,、この時期に植皮できる症 例は,ごく僅かに限られてきた. 4)全身栄養の対策 約10工程以前からは,重症熱傷患者に対する ショック,感染期に対する単なる治療の他に,全 身栄養法の治療,配慮が確実に行われるようにな り,今日まで充分に与えられなかった栄養が経腸, 経静脈経由で与えられるようになり,重症熱傷例 の生存率は,最近はるかに,向上してきたといえ よう. 5.従来の治療法と現在の治療法との問題点 本邦における熱傷の治療法は,現在でもなお家 伝の妙薬,秘薬等が見られるように,熱傷治療は, 局所病として長い間取り扱われてぎた.既に述べ たように熱傷は,その範囲が狭く,軽度の症例で は,局所病と考えてその治療計画をたてて一向に「 差し支えばないが,広範囲重症熱傷例では,熱傷 ショック,感染,敗血症,合併症としてDIC等の 全身症状を随伴して来るため,患者への早急な全 身治療上の配慮が必要となってくる. 全身療法を強く配慮した現代熱傷治療法では, 重症熱傷患者のショック期は何とか乗り越えるこ とができても,感染期に入ると,患老自身消耗し 果て,一命を取り落とすことが極めて多く見られ る. 抗生剤(全身投与),局所剤等は次々に強力な新 薬が出現し続けてはいるが,所詮は細菌群と抗生 剤との競走であって,一時的に殺菌効果が見られ ても,やがては耐性菌が出現して来る状態がくり 返されているといってよい. 現在熱傷治療法の盲点とは,感染の予防,とく
にMRSAに如何に対処し,これを処理するかと
いうことが重大問題である. 感染を抑制する直接の薬剤は,勿論抗生剤によ る局所,全身性使用法であるが,これらとて現在 明らかな治療上の限界が見られる. 重症熱傷例に必発する感染予防の王道とは,自 家同種植皮術とである.他の予防法とは,感染期到来以前に植皮術を行 うことで,これを早期植皮術という.現在では受 傷して1∼2日後可能なかぎり早期に植皮術を行 うよう努めている.著者の経験から早期植皮術こ そは,感染を予防する唯一の王道ではあるが,手 術時の侵襲,さらに熱傷ショックに加えた外傷性 riskのために,その効果は,私達が切望している ほど,著明に救命率が向上し得ないのが現実とい えよう.その向上し得ない理由の1つとして,他 人からの二二を採取し難いという日本人の儒教的 観念が,大きく起因しているといえよう.近年著 者は,従来の人工皮膚とは異なった,永久三二を 示す人工皮膚を開発しつつあり,これが完成すれ ぽ,重症熱傷救命上,重要な治療法となり得ると 信じている. 6.未来治療と私達の夢 本項では,永久生着を示す人工皮膚の開発,パ ソコンを用いたコンピューター救急輸液法,ヘパ リン加チューブを用いた新しい組織移動法による 熱傷後変形再建術の施行,および東京都熱傷救急
医療システムおよびWHO国際協力による全世
界的な熱傷の予防法についても言及する. 1)人工皮膚 従来の人工皮膚とは,皮膚欠損部を一時的に被 覆する代用皮膚を意味し,用いられて来た.その 代表的なものがbiobraneである.1987年, Burke, Yannusらが2層になる人工皮膚を開発し,報告 して以来,数々の研究が現在世界各国で盛んに行 われつつある. 私達も今回テルモ株式会社から人工真皮の提供 を受け,現在まで25例の臨床例を経験し,かなり よい成績を得ることができたので以下その方法, 結果について述べる. 人工皮膚は,表皮層(薄めの分層植皮または培 養表皮)と人工真皮とからなる(図3a, b). 表皮層は,薄めの分層植皮片を採取するか,表 皮細胞(keratinocyte)を培養するかいずれかの方 法による. 人工真膚とはコラーゲ.ンを加工したもので3層 に分かれている. 実際の方法としてはまず人工真皮内に新生血管 a 培養表皮 Cultured auto−skin 人工真皮 Substituted derrηi5 b 図3 a:人体皮膚は,表皮と真皮とから構成される. 表皮:培養により増加される,真皮:人工真皮(コ ラーゲソにて作製).b:人工真皮,コラーゲンを加 熱して作製. が侵入し,約2週間後に生着状態を示してから, 培養表皮または薄めの表皮片をその上に移植す る. 図3bは人工真皮を示す.図4aは人工真皮を移 植した状態を示す.移植した人工二皮を2週間創 面に置き,その後この表面に培養表皮を移植した. 図4bは,総てを移植後3週間目の状態を示す.3 ヵ月後の生検像を示す(図4c).表皮,真皮層とも 良好な状態を示している. 本法の欠点としては,人工真皮はあくまで異物 であるため,感染に対して抵抗が最も弱いことで ある.この対処法として新生血管増殖促進剤,ヘ パリン溶液,TGFホルモン剤等を同時に与え,植 皮床内に新生血管の増殖を促すことにより,感染 に対処して行く計画をたてている.近い将来,こ れらの対処法で,多数の臨床成功例を報告するこ とができよう. 2)コンピューター輸液法(図5) 重症熱傷ショック時の輸液法は,その状態が千 変萬化を示しかつ急速に経過するので,理想的に懲.
轟景鍵
図4 a:人工真皮十培養皮膚を移植.b:移植後,3 週目の生着状態を示す.c:移植3ヵ月後の生検像. a b ♪C は,1人または2人の医師が1重症例を常に監視 していなけれぽならない. 特に集団熱傷時には,多数の医師,看護婦を必 要とする.著者らは,今回教室の若松らの協力を 得て,パソコン,コンピューターを用いて,これ らの輸液総てを自動的に行うことを計画し,実行 している. 図5はコンピュータープログラム化された輸液 図5 a:輸液用コンピュータープログラム,b:実際 の輸液量を示す. 例を示す.本法は毎時排尿量および10数種に及ぶ 情報のインプットを必要としている. 今後さらに改良し,完成したいものをと考えて いる.本プログラム完成後では,例えば山間僻地 に発生した重症熱傷例でも,私達熱傷センター同 様な考え方で,治療を行うことのできる特徴を持 つことになる. 3)熱傷外傷後の再建法 熱傷外傷は,あたかも癩患者同様に総ての組織 破壊を現すので,重症熱傷患者が,熱傷急性期よ り回復し,社会復帰するためには多数回の再建手 術を必要としている.それら再建術施行の際には, 従来では主として顕微鏡下血騒騒合法による組織 移動,再建術が多く行われてきた.その際の吻合 術は,特殊技能修練を必要とする. 著者らは,これらの特殊技術を必要としない heparinized tube(内部にヘパリンを含有してい a bC b d 図6 大後肢における実験的組織移動 a:移植組織とヘパリンチューブ(矢印),b:移植組織とヘパリンチューブ(矢印), c:ヘパリンチューブ(矢印),d:移植の完了. る)を用いた組織移動を目下研究中である(図6). なお,この研究には本学医療工学研究施設,岡野 光夫助教授の絶大な御協力,御指導を頂いている. 本法は,現在ではほぼ完成しているが,近い将 来外傷後変形再建法に革命的変化が,現れるので はないかと強く期待している. 4)東京都における熱傷救急医療について 東京都では,1983年から熱傷救急医療を充実し, 整備してきた.現在では東京都内に発生した重症 熱傷患者は,消防司令センターを通して,約30分 以内に東京都内のいずれかの熱傷医療専門施設に 導入され,救急医療が受けられるという体制が整 えられている. 本学,形成外科内に東京都熱傷救急医療連絡事 務センターが設置され,毎月の熱傷患者数は,東 京都内11熱傷専門治療施設から郵送,連絡されて
くる.現在まで熱傷患者総数は2,703人であり,そ れらの詳細についての分析結果は,他の機会にて 述べることとする. 5)世界保健機構(WHO)と熱傷予防 1985年,東京女子医大熱傷治療専門施設は, WHOにより,熱傷専門治療,研究,教育センター として発足し,現在に至っている. 現在まで多数の医師が,東南アジアを始め他の 地域から研修,勉学に来ている. 熱傷治療は,その予防が最も重要であることは 論を持たない. 近い将来,本学熱傷専門治療施設を通して,東 京都を始めとして,国際予防活動に当たれるよう 計画したいものと切望している. ま と め 熱傷の重軽症例について,それらの治療方針, 原因等について述べた.. また熱傷治療の末来像についても,いくつかの 事項を検討,報告した. また東京都救急医療,世界保健機構熱傷研究, 研修センターについても述べ,現在,将来の熱傷 予防についても言及した. 文 献 .1)Briggaman RA, W卜eeler CE Jr:The epidermal・dermal junction. J Invest DermatoI 65 :71, 1971 2)Burke J, Yannus F, Quinby IV Jr et al: Successful use of a. physically acceptable arti負cial skin in the treatment of extensive burn injury. Ann Surg 194:413,1987. 3)’Hansborroug血JF, Boyce ST, Cooper ML et al: Burn wound closure with cultured autologous keratinocytes and 丑broblasts attended to a collagen−glycosaminoglycan sub− strate. JAMA 262:2125,1989 4)平山 峻編:熱傷治療の実際.金原出版,東京 (1985) 5)Munster AM, Weiner S, Spencer RS:Cul− tured epidermis for the coverage of massive burn wound。 Ann Surg 7:676,1990