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民間企業におけるコーポレートガバナンスのあり方

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考える方が主流であり,株主は当然ながらその中心的な位置を占めるが,それらの広い範囲での企 業への関与者を「ステークホルダー」と呼ぶ。 広義で考えるべき理由の1つは,株式会社の株主は有限責任であること,また上場会社の株主は, 取引所等での売買を通じて,容易にその出資を現金化して回収し,株主の立場から退出できること にあると言われている。「株主が有限責任である」とは,仮にその企業が債務超過に陥り,会社清 算となっても当初の出資金以上の損失を引き受けることは,原則として「ない」ことを意味する。 したがって,出資された金額を超過した損失は,その企業の借入金や買掛金等の債権者が引き受け ざるを得なくなる。会社は,その株主はもちろんだが,債権者も含めて幅広い範囲,すなわち「ス テークホルダー」を意識しながら事業運営を行うことが求められているのが今日の実情である。 その会社の従業員も,もちろんステークホルダーの一角を成している。会社との間に雇用契約が あり,未払いの賃金・賞与や積み立てられた退職年金などの債権者としての立場もある。従来の日 本的な終身雇用制を前提として考えれば,その会社の先行きが社員1人1人の生活や人生さえも左 右してしまう存在でもあり,「会社と社員の関係は,単なる雇用主と被雇用者である」という考え 方は,心情的にも受容されないであろう。会社側も,福利厚生制度など,さまざまな仕組みを講じ て「愛社精神」を鼓舞してきた。さまざまな法令や規則を整備して企業活動の領域を提供し,また, 枠組みを規定している国や自治体もステークホルダーである。会社には,当然,法令遵守の義務が あり,また,国や自治体に対して法人所得税や地方税・固定資産税などの納税義務もある。その企 業が製造業に従事しているのであれば,環境保全の義務もある。また,国や自治体の向こう側には, その主権者たる国民や住民が存在している。 その企業が,何らかの形態で外国において事業活動をしていれば,その国も当然ながらステーク ホルダーであるし,さらにその範囲はその当事国だけに止まらない場合があることに注意しておき たい。その国の市場において,その企業が不正競争(贈賄など)を犯して,競合する米国籍企業に

不利益を与えたと判定されれば,FCPA(Foreign Corrupt Practices Act1977:海外腐敗行為防止法)

によって,巨額な課徴金が課されることは広く知られている。あるいは米国籍企業に直接の損害が 生じていなくても,例えば不正競争にコミットするメールが米国内に設置されたサーバーを通過し ていたり,贈賄が米ドルで行われ,その決済が米国内の銀行を通じて行われていたりすれば,その 事実だけでも米国当局は,その不正行為の当事者を摘発することができるとしている。また EU に

ついても,2018年5月に施行された EU 域内の個人情報に関する GDPR(General Data Protection

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があれば,その会社自身がコミットしている訳ではないのに問題企業として告発されてしまう。 企業とグローバルでの環境問題や社会問題との関わり合いも,最近,非常に注目されている。環 境問題とは,例えば,温暖化,異常気象,海洋プラスチックなどである。社会問題とは,例えば, 人口増加,難民,貧困,食料危機などである。国連等の国際機関は,早い時期から人権問題や環境 問題に着目し,指針を明示してきたが,近年はこれらの問題の深刻化とともに,対応が加速されて いる。1948年世界人権宣言,1966年国際人権規約,1972年ローマクラブによる「成長の限界」,1995

年 WBCSD:World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界

経済人会議)発足,1997年京都議定書,1999年国連グローバルコンパクトの10原則の提唱,2006年

国連責任投資原則,2015年持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals),2015年

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えないことになる。 ところで Compliance の邦訳は,「応諾」とか「追従」であり,リーガル的には「法令遵守」で ある。すなわち Authority を有する者に「決められたものを受け入れる」という受動的なニュアン スが感じられる。しかし,今日のコーポレートガバナンス上でのコンプライアンスの意味は,法令 遵守のような受動的な範囲に止まらない。企業にとって,「する」ことはコストであり,「しない」 ことはリスクである。「何をして」,「何をしないか」という企業ごとの行動規範は,その企業が自

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「誠実」誰に対しても誠実であること。

「挑戦」果敢に挑戦し,自らも変化し続けること。

「創造」結束と融合を通じて,新たな価値を創造すること。 グループスローガン

Creating for Tomorrow 昨日まで世界になかったものを。

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第2節 コーポレートガバナンス・コード策定の背景 本節では,CGC は,企業側からはどう見えるものなのか,もう少し踏み込んで検討しておきた い。そもそも,CGC は,なぜ策定されたのだろうか。 2012年12月26日の第2次安倍内閣発足に伴って,「デフレからの脱却」と,「富の拡大」を実現す るための経済政策,すなわちアベノミクス「3本の矢」が掲げられた。その3番目の矢「民間投資 を喚起する成長戦略」を進めるために2013年6月に公表された「日本再興戦略2013−JAPAN is BACK−」では,民間の力を最大限引き出す方策として,コーポレートガバナンス改革が大きく取 り上げられた。さらに,続く2014年6月に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014−未来への 挑戦−」では,コーポレートガバナンスの強化を行うために CGC を策定することが定められた。 「日本再興戦略」改訂2014からの引用が少々長くなるが,その内容を見てみよう。そこでは,「日 本企業,特にサービス業の低生産性が深刻であること,グローバルで戦っている産業・企業は市場 環境の変化への対応が遅れている」ことが指摘され,日本企業が国際競争に打ち勝って行くために は,「大胆な事業再編を通じた選択と集中を断行し,将来性のある新規事業への進出や海外展開を 促進することや情報化による経営革新を進めることで,グローバル・スタンダードの収益水準・生 産性を達成」することが求められ,そのためには「コーポレートガバナンスの強化により,経営者 のマインドを変革し,グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に,グローバル競争に打ち勝 つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化」することが重要であると位置づけられている。また, 好決算を実現した企業については,内部留保を貯め込むのではなく,新規の設備投資や,大胆な事 業再編,M&A などに積極的に活用していくことに期待が表明された。 第3節 世界における日本企業の現況 かつて1980年代には,「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで持ち上げられた日本企業は,本 当に,日本再興戦略が指摘するような状況へ陥ってしまったのだろうか。本節では少々,客観的な データから点検してみよう。 例えば,今からちょうど30年前,日本経済がバブル景気の最中だった1989年には,企業の世界時 価総額ランキング top20社のうち,日本企業は14社も含まれていた。ところが2018年末現在では,top 20ランク内の日本企業は1社も存在していない。さらに詳細に見てみると,1989年時点で top20社

に含まれていた世界の企業で,2018年末でリスト内に残っている企業は,Royal Dutch Shell 社

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0 5 10 15 20 25 30 35 40 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 2020 ೖຌ ธࠅ χ΢ς ϓϧϱη ηΤΥʖυϱ ஦ࠅ εϱΪϛʖϩ テーマでの日本のランキングは,最高でも3位に止まっている。上位30テーマのうち23テーマの1 位は,中国が占めている。(表2参照:上位20テーマのみを表示)(日本経済新聞「先端技術研究, 中国が8割で首位 ハイテク覇権に米警戒」2018年12月31日朝刊)また,同じく日本経済新聞の2018 年12月31日の紙面には,「文部科学省科学技術・学術研究所の『科学技術指標2018』によると,2014 ∼16年の国別の論文数のシェアは,米国が25.1%で,中国が19.9%となった。2004∼06年では2位 だった日本は5位(5.5%)。優れていると評価を得た論文数は,2014∼16年は,米国が1位(37.9%), 中国が2位(21.6%),日本は11位(4.6%)と(中略)存在感が低下している。」と掲載された。(日 本経済新聞「研究開発力とは 論文数で評価,米中が存在感(きょうのことば)」2018年12月31日 朝刊) 毎年継続的に発表されている三菱総合研究所の MRI トレンドレビュー「IMD『世界競争力年鑑』 からみる日本の競争力」(政策・経済研究センター酒井博司)の2020年版が同年10月に3回にわたっ

て公表された。(IMD : International Institute for Management Development,国際経営開発研究所。

スイスのローザンヌのビジネススクールで,その研究組織として IMD 世界競争力センター:IMD World Competitiveness Center を運営している。1989年より,毎年,世界競争力年鑑を公表。)MRI

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位のタイに劣後する位置である。 IMD の世界競争力年鑑は,その作成プロセスとして,調査対象国63か国それぞれからさまざま な指標を収集している。これらをスコア化した後,20の小分類,4の大分類へ区分集計し,全体と しての競争力順位を決める仕組みである。4つの大分類は,「経済状況」「政府効率性」「ビジネス 効率性」「インフラ」である。4つの大分類のうち,2020年の日本の総合順位が前年から4つラン クダウンした主要因は,「ビジネス効率性」である。2015年から19年にかけて25位から36位へ次第 に落ちてきていたが,2019年は一挙に46位まで下げ,さらに2020年には55位まで下げてしまった。 その小分類の中で特に劣後しているものは,「経営プラクティス」は63か国中で62位(2018年から 2019年は15ポイント下落,2020年はさらに2ポイント下落)である。「政府効率性」も,決して高 くはない。2015年から19年のスコアは35位から42位の間にとどまっており,2020年は41位である。 その内の小分類としては「財政」の61位が相対的に一番劣後している。 また,2018年3月27日の日本経済新聞には,「東証1部,3割『期待外れ』」という記事が掲載さ れた。「投資家が,投資先企業に求める最低限のリターンを「株主資本コスト」と呼び,企業側は ROE でこの水準を超える必要がある。2014年に経済産業省がまとめた通称『伊藤レポート』によ ると,機関投資家が日本株に求める株主資本コストはおよそ8%だ。一方,…東証1部で直近まで 3年連続で ROE が8%に届かなかった企業数を調べたところ,684社が該当した。つまり東証1 部の3社に1社が投資家が要求する資本効率を達成できていない,投資先としては『期待外れ』の 企業ということになる。」(「東証1部,3割『期待外れ』」『日本経済新聞』2018年3月27日,朝刊) 厳密に言えば,通称「伊藤レポート2014」によれば,「資本コストは,市場が期待する収益率であ るが,(中略)一つの参考として,日本株に対して,国内外の機関投資家が求める株主資本コスト は(中略)平均的には7.2%(海外),6.3%(国内)を想定しているとの調査結果がある。(中略) ROE が8%を超える水準で約9割のグローバル投資家が想定する資本コストを上回ることにな る。」とされている。(「『持続的成長への競争力とインセンティブ∼企業と投資家の望ましい関係構 築∼』プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」P.43∼45) 同じく2019年3月27日の日本経済新聞の紙面には,「PBR,米の3分の1,1倍割れ半数,新興 国にも及ばず」という記事もある。「東証株価指数(TOPIX)構成企業の PBR(株価純資産倍率) は米ダウ工業株30種平均の3分の1だ。インドや中国などの新興国にも後れを取っている。(中略)

企業の PBR,PER(株価収益率),自己資本利益率(ROE)の3つには,『PBR=PER×ROE』とい

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企業が成し遂げようとしていること」を見ようというコンセプトである。このため,ESG 情報は, 「非財務情報」とも言い換えられている。また,こうした ESG 要素を考慮して行われる投資を,「ESG 投資」と呼んでいる。(表3参照) 実は,スチュワードシップ・コードや GPIF も,ESG について言及している。2014年2月に発表 されたスチュワードシップ・コードには,原則3の指針3―3に,「ガバナンス,社会・環境問題に 関連するリスク」という表現があり,また,2017年5月の改訂版スチュワードシップ・コードには, その指針3―3の注7として「ESG 要素」という表現も現れた。

また,GPIF のホームページに,「ESG 投資とは」という説明がある。「ESG という言葉が知られ

るようになったのは,2006年に国連のアナン事務総長(当時)が機関投資家に対し,ESG を投資

プロセスに組み入れる『責任投資原則』(PRI,Principles for Responsible Investment)を提唱したこ

とがきっかけです。(中略)2019年3月末時点で2400近い年金基金や運用会社などが PRI に署名し

ています。このうち年金基金などアセットオーナーの署名は432にのぼり,その運用資産残高の合

計は20兆ドル(約2200兆円)近くに達しました。GPIF も2015年に署名しています」と掲載してい

る。さらに GPIF は,2017年6月には,「スチュワードシップ活動原則」を定め,「(4)投資にお

ける ESG の考慮」の項目を設け,「運用受託機関は,(中略)ESG 課題に取り組むこと,重大な ESG

課題について積極的にエンゲージメントを行うこと,PRI への署名を行うこと」としている。この ような機関投資家側の ESG 要素の重視に対応して,企業側は対外的に発表する CSR レポート等に 「SDGs に取り組んでいる」とする企業が増えている。SDGs(Sustainable Development Goals:国

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ことが分かるであろう。 図7は,2019年3月に,みずほ銀行から「みずほ産業調査 Vol.61」として公表された,「我が国 石油化学産業の現状と展望」に掲載された,国内の石油化学コンビナートの状況を説明するもので ある。図の上段に,石化事業の基幹プラントであるエチレンプラントへ,原料ナフサを供給する石 油精製プラントが記載されている。中段には,各エチレンプラントが記載されている。下段は,各 エチレンプラントが操業されている地区ごとのエチレンの消費量が記載されている。各エチレンプ ラントには,生産能力(千トン/年)と操業開始年が書かれている。最も古いものは,出光の1964 年,最も新しいものでも京葉エチレンの1994年。大方は,1970年代に建設されたものである。白抜 きになっているものは,既に操業停止しスクラップになったものである。エチレン消費量の欄に, その地区でのエチレンの余剰/不足を表している。同図から,基本的に旧式設備を停止した鹿島, 水島地区を除くとエチレンの余剰が生じていることが分かる。なぜ,日本の石化事業は,このよう に古い設備を後生大事に使っているのだろうか。エチレンプラントは24時間連続操業を行うプラン トである。期間延長の特例はあるが,原則として年に1度,関連プラントも含めて全ての設備を止 めて,定期点検を行っている。次の定期点検までに故障するリスクがある部品は,故障する前に交 換してしまう。なぜなら,故障による予期しないプラント停止は,製品の供給責任に影響を及ぼす など多大な損失に繋がるからである。したがって,日本のエチレンプラントは,操業開始からかな りの年齢を重ねていても,中味は新品同様だと強弁する意見も見られる。しかし,それは事実では ない。設備の生産性を考えれば,他国のプラントと比較して,技術的や経済的な優位性は疾うに失 われてしまっていると言わざるを得ない。なぜ,日本のエチレンプラントは,Scrap & Build が進 まなかったのか。それでは,そうならざるを得なかった,これまでの歩みを見てみよう。

グラフ2 世界の主要繊維の生産推移

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! 企業内の疑似的な三権分立,権限と責任の分担

1章第3節において,「上場企業は,財務報告に関する内部統制体制の有効性について経営者が

評価を行う」(J−SOX 対応)と指摘した。内部統制体制の有効性の評価は,通常は,経営者からの

委嘱を受けて内部監査部門が業務監査の一環として実施する。内部統制報告の確からしさを高める ためには,できるだけ被監査対象部門を多くする必要があるが,それには内部監査部門のマンパワ ー面での制約が伴う。この状況に対して,CSA(Control Self Assessment:統制自己評価)と呼ば れる手法を用いて,内部統制体制の有効性の評価を行うことができる。内部監査協会(IIA : The In-stitute of Internal Auditors)による定義では,「CSA とは,内部統制の有効性が検証され評価され るプロセスである。その目的は,すべての事業目的が達成されるであろうという合理的保証を与え るものである」とされている。一般的には,企業における現場の第一線がワークショップやアンケ ート等の方法により,自らの業務について内部統制の適切性や有効性の自己評価を行うことを指し ている。第三者である機関や組織が行う「監査」ではないが,CSA は内部監査を効率よくサポー トする手続きとして位置づけられている。 CSA では,グループ内の重要性がある部署やグループ会社ごとに,それぞれの責任者・管理者 が,本社の内部監査部門があらかじめ準備したチェック・リストを用いて,次の2項目を評価する。 A)自らの業務についてプロセスやルールの文書化の整備状況 B)実際の業務が,その文書に則ってきちんと行われているかの運用状況 CSA は自己評価なので,一番の特徴は,評価プロセスを通じて評価者たる自分自身の「問題点の 気付き」が可能となり,しかもどこを改善すればスコアをよくできるかが分かりやすいことにある。 ありのままの現状で初めからよいスコアを取れれば,もちろんそれは理想的ではある。しかし CSA の評価中でも評価後でも,その「気付き」に基づいて,現場自らが現状の要改善点を理解し自己意 思で実際に改善することが大事である。したがって CSA は,その対象部門のトップ1人だけで実 施するのではなく,トップを含む幹部複数名が集まって内部統制の現状や問題点,改善点などの共 通認識を高めることが望ましい。自己意思による改善という点は,前述した監査と同様である。CSA も監査も,内部統制上の問題部署やその責任者を摘発するために行うのではなく,組織全体として の内部統制状況を充実させることに目的があるので,自主的に改善が進むことが一番望ましいので ある。 また,金融庁への正式な「内部統制報告書」の提出に当たっては,各部門から提出された CSA の自己評価結果について,本社の内部監査部門等が客観的な立場から二次評価を行って,必要な場 合にはそれを提出した現場に修正を求めて全社の評価品質レベルの確保を行う。 CSA を内部統制体制の有効性のチェックに用いるためには,あらかじめ本社が準備するチェッ ク・リストを企業会計審議会が開示した「J−SOX 実施基準」(財務報告に係る内部統制の評価およ び監査に関する実施基準)に準拠させておくことが合理的である。また,グローバルで事業活動を 行っている場合には,海外グループ会社における CSA を現地においても有効なものとするために,

「改訂版 COSO2013」にも準拠させるように調査項目を調整する。(COSO:The Committee of

Spon-soring Organization of the Treadway Commission トレッドウェイ委員会支援組織委員会)

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コンプライアンス状況の定時一斉点検は,時間の経過によるコンプライアンス状況の劣化を補正 しようとする取組みである。どのような事情で時間の経過に伴ってコンプライアンス状況は劣化す るのであろうか。その1つは,従業員のコンプライアンスに対する意識である。人はどうしても慣 れる。企業において何らかの不正事案等が発覚すると,原因究明や再発防止策の検討等を通じてコ ンプライアンス重視の意識は組織内に否応なく高まる。身の周りに事案への関与者の処分があれば なお更であろう。しかしそれも1年経ってしまうと,新たな従業員が加わって過去に何が起きたか を知らない者も出てくるだろう。3年も経てば「コンプライアンスを重視しなければならない」こ とや,その対策としてのルールは日常の業務風景の中に埋もれて行く。だから不正事案は風化し, コンプライアンス状況は劣化するのである。 2つ目は,部署間等のコミュニケーション不足である。企業が守らなければならないものは法令 等に限らない。顧客との間で取り決める製品スペックは,顧客の事情等で厳しい方向へ見直される ことがある。基本的には,顧客との接点である営業部門は,実際に製品を製造する製造部門とよく 相談を取りながら製品スペックの見直しを行い,そこにコミュニケーション不足はあり得ない。し かし顧客と営業部門の力関係において営業部門が相対的に弱ければ,顧客からの要望を一方的に呑 まされることがある。例えば強力な競合他社がある場合などである。顧客の要望を一方的に呑まさ れるにしても,きちんと製造部門との連携が保たれていればよいが,製造部門にはとても言えない 条件を呑まされることもあるだろう。反面,製造部門由来のコミュニケーション不足が発生するこ とがある。製造現場では,生産性や品質を高めるために常に努力を続けていることが普通である。 グラフ11 KPMG「日本企業の不正に関する実態調査」不正の発見経路(複数回答可)

出 所:KPMG Insight Vol.37 Jul.2019(2019)P.61 「日本企業の不正に関する実態調査」

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しかし「4M 変更」と呼ばれる Man(作業体制),Machine(工場や機器),Method(生産技術), Material(原材料)に関してどれか1つでも変更を行う場合は,予め顧客へその変更時期や注意事 項を連絡しておくことが常識である。顧客がその製品を用いるときに,供給側からでは予期できな い支障を来さないためである。このような連絡は,通常,顧客への窓口である営業を通じて行うが, ともすれば製造現場は自分のプロセスの向上に必死で,自分の目の前にいない顧客への連絡を忘れ てしまう。これらの結果,社内のコミュニケーション不足を原因として企業が守るべき品質管理に 齟齬が生じてしまう。 3つ目は,時間の経過によって行政指導などルールの運用が変化する場合である。どのような法 令やルールでもその適用にグレーゾーンはつきものであり,行政等その規則を運用する者の判断で 黒かセーフ(すなわち白に準じる扱い)かが決定されている。しかし何らかの環境変化が起きると その運用方針が変化し,表面上では法令は何も変わっていないのに,これまでグレーだったものが 黒と判定されてしまうことがある。2016年12月に電通および同社幹部は,東京労働局から労働基準 法(36協定)違反の容疑で書類送検され,社長の引責辞任となった。同社は,2015年8月に労働基 準監督署から是正勧告を受けていたが,その後に新入社員の自死事案が発生し労災認定(長時間労 働によるうつ病発症)された。本件は会社側の対応が極めて悪質だったと判断されてしかるべきも のだったが,しかし書類送検と社長の引責辞任という結果を来したことは,他企業の関係者へ衝撃 を与えるものだった。それまでたいていの企業は,多かれ少なかれ36協定について甘くみた対応を していたからである。本件は,政府の働き方改革への取組みの強化と無関係であるとは言い切れな いであろう。また,既存のルールの運用変化だけではなく,社会的な不都合や悪影響が著しい場合 には後追いで法令等が設置,施行されてしまうこともある。 こうした時間の経過とともにコンプライアンス状況が劣化してしまうことに対して,定時一斉点 検を実施することが有効である。通年で比較的業務量が低い時期を選び,例えば毎年1回,全社一 斉にコンプライアンス状況の自己点検を行う。企業の各事業に関連する法令等は数多い。各部署に おいて関連する法令等の一覧表を作成し,定期的に法令等の改定がないか,自分たちの遵守状況で 逸脱は無いか等について定期的にチェックを行う必要がある。関連法令等の洗い出しに当たっては, その部署だけで行っていると漏れが生じるリスクもあるので全社の専門部署のチェックを受けたり 部署間で連携を取り合ったりして精度を高める必要がある。場合によっては社外のコンサルタント を起用することも考えられよう。製品スペックなど顧客との取り決めについても,営業部門と製造 部門が協力して一覧表を作成して遵守状況の確認を行う。

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して倫理観を貫く力やこだわりは個人個人で差があるので一概には言い切れないが,しかし組織の コントロールとしては,組織内で相対的に弱そうなところが破れないように手当てをすることが有 効だと考えられる。企業から「動機」や「プレッシャー」そのものを取り除くことは困難が伴うが, 企業内の相対的に弱い立場にあると想定される個人や組織の孤立感を弱め,より大きな規模,例え ば会社全体としてそれらの困難な状況を共有して,堤防に穴が開くことがないよう工夫や配慮をす ることは能動的に取り組めるはずである。 3番目の「機会」については,会社はもう少しダイレクトにコントロールできそうである。本節 の初めに「目の前に裸のキャッシュが置かれる」という例を上げたが,会社の現場ではそれほど極 端ではないにしろ,それと同然の隙が生じることがある。例えば,比較的小規模な職場に設置され た金庫の中に現金や商品券を入れっ放しにして,鍵を特定の従業員へ預け切りにしてしまうとか, 銀行の取引印を預けっ放しにするなどは時々見かける光景である。「これまで代々の支店長がそう していたし,過去20年以上も何も起きなかった」から,引き続き今後も鍵を預けっ放しにしておい て大丈夫とは限らない。過去はたまたまラッキーだっただけである。そもそも会社は,その気になっ たら容易に不正にコミットしてしまうようなリスクに従業員を曝してはならない。製造現場に例え て言えば,高所の作業所に柵を設けなかったり,ブンブンと高速で回転している機器に保護カバー も付けずに放置していたりすることと同質であり管理不全である。会社は,大事な従業員が保安事 故を起こしてしまってからしか柵や保護カバーを設置できないだろうか。同様に,製品品質などの 検定機器の計測結果を特定の個人に手書きで記録させることもリスキーである。このような現金や 保証に関するデータは,必ず複数の人間による二重チェックを行うようにする。検定機器であれば, コストはかかるが自動計測・自動記録式にして中央へデータを吸い上げ,人手を介すること自体を 無くしてしまうことも可能である。このように担当レベルの業務は,不正防止の方針さえ明確化で きれば,そのためと割り切ってコスト増や時間ロスを容認した上で,二重チェックの仕組みをビル トインすることが比較的容易となる。 だが,本当はコントロールが難しいのは組織のトップの立場である。トップの一挙手一投足は多 くの部下に見守られているかも知れないが,イエスマンばかりに囲まれているとしたら「裸の王様」 同然であることに注意しなければならない。組織のトップも金庫の鍵を預けっ放しにしてしまう支 店長も,所管業務の一部を部下へ委嘱して組織全体としての成果を上げることを求められている訳 だが,仕事を部下へ任すという業務に関して,銀行など信用そのものがコアの営業資産である企業 を除いては一般的に無頓着すぎるケースが見受けられる。そうしたトップや支店長などの立場への 人材の登用は,必ずしも組織の管理運営能力ではなく,むしろ技術力や営業力など個人に属する抜 きん出た他の才能に着目して行われることが多いし,登用に際して組織の管理運営について適当な 研修を行っていないからである。

2つ目の理論は,「3ディフェンスライン」である。「3ディフェンスライン(Three lines of

de-fense)」とは,IIA(The Institute of Internal Auditors:内部監査人協会)が発表した「The Three Lines of Defense in Effective Risk Management and Control」にその考え方が示されている。企業 組織を,!現業部門,"コーポレート部門,#内部監査部門に分類し,それぞれの分類ごとにリス ク管理における役割と責任を明確化しそれを果たす(=3つのディフェンスラインとなる)ことに よって,不正を防止しようとするものである。

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なる考え方や意見をぶつけながら議論を交わすことだ。対話を通じて新しい発想が生まれ,組織に イノベーションをもたらす。対話に必要なのは『質問力』だ。参加者が自分事として考える習慣が 根付けば,解決困難な問題でも合意形成に向けた建設的な取組みが期待できる。」(日本経済新聞「大 機小機」2019年10月26日朝刊)こうした対話がきちんと行われる組織では相互理解やアドバイスの やりとりが進み,プレッシャーが特定の個人へ鬱積してしまうリスクが下がるだろう。実際に「三 人寄れば文殊の知恵」のように問題解決へ向かうチャンスも現れるかも知れない。会社の現場では, 風通しのよさは定期的な従業員意識調査などの方法で組織ごとに測定している。組織ごとの風通し のよさのスコアと,事故発生率やコンプライアンス事案の発生率には,緩やかだが確かに負の相関 が現れるので,グループ全体のリスク・コントロールとしては相対的に風通しのよさのスコアが低 い職場を優先してその改善を促す。

世の中には不正防止に関する重要な Keywords も存在する。ここでは「Tone at the Top」と「透

明性」について見ておこう。「Tone at the Top」の意味するところは,「企業における不正防止に

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には海外も含まれていると考えるべきである。国内のグループ会社の数がいくら多くても,親会社 の監査役はグループ会社それぞれに設置される各監査役の活動や報告に依拠してグループ全体の監 査品質を維持することができるだろうが,海外のグループ会社に関しては別途対応策が必要だとい うことである。 しかし反面,リスク管理の観点からは日本の親会社から海外のグループ会社に対する管理・監督 を徹底しようとすると現地の実情から乖離してしまいやすくなる。何が何でも日本中心で全てをコ ントロールしようとすることには,コーポレートガバナンスの観点からも合理性が小さい。例えば

2018年5月に施行された EU 域内の個人情報に関する GDPR(General Data Protection Regulation :

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て業務執行を任せる従業員も必要となる。従業員にとって都合がよいことでも,株主や取締役がそ れを受容できるかどうかは必ずしも分からない。従業員の就業状況を一定の合理的な範囲に収め, また,それをモニタリングするために,社内には様々なルールとしての規程が用意される。だから 監査役はこれらの業務執行状況も監視するし,別途,社長や取締役会が差配する内部監査部門も設 置される。 このように会社の事業運営においては経営資産や業務執行が株主以外の誰かへ何階層にも亘って 負託されており,その活動が適切に行われているかどうかを監視し検証するために専任の機関や部 署が設置されている。しかしそうした監視専任のための機関や部署でも制度上の制約や,マンパワ ーやコストなどの経営資源面での制約が伴うのでその成果は完璧なレベルには遥かに遠い。だから この状況を改善するには従来からの監視体制や活動の強化ではなく,会社において何階層にも亘っ て負託されている経営資産や業務執行そのものがどうしたら正しく行われるようになるかというテ ーゼへ行き着く。本論が提案するその方法とは,「経営資産や業務執行の負託のあり方に似ている」 と言うよりは,「不正を起こさないこと」を業務執行の一部としてそこへ埋め込んでしまうことで ある。「業務の一部として埋め込む」とは,例えば支払い業務について二重チェックを行っている かどうかをチェック項目に含めておき,第1のディフェンスラインである現場がそれを自らチェッ クするということである。特別な仕掛けは何もない。しかし例えばこのようなコーポレート業務が 社内の特定の誰かに任せ切りになっていて,そこに隙ができていることにトップ自身が気が付いて いないことがある。CSA の実施で隙があることに気が付いてもなお,それを放置しているようで あればそれは明らかに善管注意義務違反に相当するだろう。「これまでだって会社は『不正を行っ てよい』とはしていなかったじゃないか」という指摘があるだろうが,それは経営者や従業員の倫 理観へ寄りかかっているだけである。本当にそのように行われているかどうかの検証は専任の機関 や部署の監視を必要としていた。経営者や従業員が保有している Values は倫理観だけではないか らである。恐らく,よりよく会社の業務執行をこなして高い業務成果を獲得してゆくためには,現 場においては倫理観と同等か一時的にはむしろそれより必要度の高い他の Values もあるだろう。 業務執行の一部として「不正を起こさないこと」を埋め込むためには,昨今のハイパフォーマン スの情報システムやネットワークがリーズナブルなコストで提供される環境を必要としている。 CSA のコンセプトそのものは決して新しくはないが,それをグループ内の重要なポリシーやルー ルを網羅するグループ会社全体のプラットホームとして活用するには,グローバルに展開されてい る全てのグループ会社をネットワークで繋ぐ必要があるし,必要に応じて改定されたり新規設定さ れたりするポリシーやルールをタイムリーに反映して常時 Fresh な状態としておくためには時差 も考慮して常時オンライン稼働としておく必要もある。現実的には,このような取組みは非常に限 られた企業でシステムの開発を終え運用が端緒に着いたばかりである。筆者は,こうした新しいチャ レンジが着実な成果を上げて企業における不祥事が撲滅されてゆくことを切に願うものである。 Reference 旭化成ホームページ「グループ理念」 https : //www.asahi−kasei.co.jp/asahi/jp/aboutasahi/philosophy/,2020年11月2日アクセス

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KPMG Insight Vol.37Jul.2019(2019)P.61「日本企業の不正に関する実態調査」

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参照

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