• 検索結果がありません。

8. 形態論と語構成( Morphology and word formation )

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "8. 形態論と語構成( Morphology and word formation )"

Copied!
48
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

8. 形態論と語構成( Morphology and word formation )

本章では形態論と単語の構成について述べる。平江城関方言の現象を見ながら、周辺方 言での記述と対照していく。接辞は接頭辞、接尾辞、接中辞的な要素に分けて述べる。語 構成では語の重複と複合について述べる。

8.1.接辞(Affixes)

接辞には接頭辞、接尾辞と接中辞的な要素がある。接頭辞に比べて、接尾辞のほうが数 多く見られる。本論文で接辞としてみるものは、その他の成分に付いた時の意味が単独で の意味と異なるもの或は単独では意味を成さないものである。

8.1.1.接頭辞(Prefixes)

以下はまず上位方言とされている贛語の名詞接頭辞の一部について、刘纶鑫(1999)の記 述を挙げる。ここで見るものはすべて親族呼称に付くものである。ここでの順番は刘纶鑫 (1999)と同様、発音の順番に従う。

· 阿/a陰平///陰平/

“阿”は贛・客家語では一部の親族呼称の接頭辞に用いる。贛語では“阿公”(母方の祖父)、“阿 婆”(母方の祖母)しかないが、客家語のほうが下記のように広く使われている。

阿公(祖父) 阿婆(祖母) 阿爸/阿老(父親) 阿妈/阿母(母親) 阿娘(母親) 阿哥(兄) 阿姐(姉) 阿妹(妹)

· 霞/陽平/

親族の中の自分の世代以上の人に対する呼称である。

霞伯(伯父) 霞叔(叔父) 霞姑(おば) 霞姐(姉)

· 賀/ho陽去/と砣/陽去/

両方とも自分より上の世代の親族呼称の前に付くもので、地域別の使い分けがある。分布範囲は狭い。

贺姑/贺姑娘(父方のおば)、贺姨/贺娘(母方のおば)「父親より年上のおば、母親より年上のおば」

砣姑/砣得(父方のおば)、砣姨/砣妈/砣娘(母方のおば)、父親より年上のおば、母親より年上のお ばの意味である。

刘纶鑫(1999: 677-678)のまとめ

上述の記述において、“砣”については、平江の中では伍市方言にのみ残っている(表 92)。

ただし、「父方のほうで父より年上のおば」にしか用いられない。この表現が見られるのは、

ほかに湘語と呉語がある(4.2.3.1.3)。

(2)

表 92 平江城関方言における“おば”の言い方

贛語系 湘語系 客家語

顺序 词例

城関 虹橋 龍門 南江 三聯 伍市 岑川 塘坊 舅母 妗的 舅母 舅母 舅妈 舅娘 舅娘 舅娘 舅母 4036

































姑妈 姑姐 姑姑 姑姑 姑姐 姑娘 (比父大)/

姑啧(比父小)

姑娘 姑姑 4037





  

















姨妈 姨啧/

姨娘

姨娘 姨娘 姨啧/

姨娘

姨啧 姨啧 姨啧 姨娘 4038





  



   

北京官話には“阿、老、小”などの接頭辞がある。平江城関方言では“阿”の使用範囲 はきわめて狭い。贛語と同じく “阿公” // (母方の祖父)と“阿婆”//(母方 の祖母)しか持たない。これもすべての家庭で使っているわけではない上に、近頃はあまり 聞かれなくなっている。発音も贛・客家語と同じく/()であり、童謡に見られる。ほか には“老”や“小”に対応する“細”は多用されるため次の節で詳しく述べる。

看 阿婆, 阿婆 留 我 吃 昼饭, (GS)

921         見る 祖母 祖母 とどめる 1SG 食べる 昼ご飯

看外婆,外婆留我吃午饭,

祖母に会いに行き、祖母のうちでお昼を食べる。

 8.1.1.1.老(LAu) 8.1.1.1.1.先行研究

贛・客家語における“老”の用法にはまず下記のように北京官話と同じものがある。

“老”は贛・客家語では呼称、姓、順番と物名詞の接頭辞になれる。

呼称 老爹(親父) 老公(だんな) 老婆(女房)・・・・・・

老张(張さん) 老李(李さん) 老王(王さん)・・・・・・

順番 老大(長男) 老二(次男) 老三(三男)・・・・・・

物名詞 老鼠(ねずみ) 老虎(トラ) 老鹰(鷹)・・・・・・

刘纶鑫(1999: 678)

(3)

北京官話に見られないものは下記の通りである。下線になっている「夫」と「妻」を指 す“老公、老婆”は平江城関方言においては特別な語彙でしか存在しない。“野老公

[],野老婆[]”のみで、それぞれ不倫関係での相手を指す意味

である。発音も[]から[]で、声調交替が見られる。

呼称に用いる

老爹 曾祖父 曾祖父 老子 父亲 父親

老叔 叔父 叔父 老伯 伯父 伯父

老倌 公公 義理の父親 老家 婆婆 義理の母親

老舅 舅舅 母の兄弟 老弟 弟弟

老妹 妹妹 老公 老公

老婆 老婆

尊敬を表わす

老大人/老爷子 老人家 おじいさま

親しみや友情を表わす 老哥/老俵 同世代の見知らぬ男性への呼称

嫌悪を表わす

老棺材/老头拐 年寄りの男性を指すことば

老皮条/老骚货/老婊子 女性から年寄りの女性を罵ることば

物に用いる

老拐 青蛙 老阿/老哇/老鸦 乌鸦

老水/老龙哩 老鼠 ねずみ 老崖 老鹰

老姜 生姜 生姜 老酒 黄酒 紹興酒

老面 面酵子

刘纶鑫(1999: 678下線は筆者による)

8.1.1.1.2.平江城関方言

平江城関方言の“老”は北京官話より使用範囲がいくらか広いが、上述の贛・客家語の

“老”と使い方はおおよそ一致する。しかし、贛語では一般呼称に多く用いるようである が、城関では親族呼称に多く用いる。平江城関方言の“老”の用法は一般名詞、動植物名 詞、親族呼称、順番などを表わすものに分けられる。そのうち特に親族呼称に付くものが 多く見られる。

(4)

8.1.1.1.2.1.北京官話にも見られるもの

 固定した組み合わせ

これらの言葉の多くは最近現れたもので、北京官話でも言い方が同じであることから、

北京官話の影響であると考えられる。

元の語 意味 +老 発音 北京官話 意味

板 板 老板  老板 店の主人

乡 郷 老乡  老乡 同郷人

总 全部 老总  老总 社長

外 そと 老外  老外 外人



下記のものは、同じ要素から構成されるものであるが、発音の仕方によっては表わすも のが異なる。下線は強く発音する音節を意味する。

老外  母方の曾祖母“老外婆”の簡略化したいい方。

老外  外人

老姑  父方の祖父の姉妹“老姑姐”の簡略化したいい方。

老姑  夫の姉妹

 順番を表わす

老大 // 老大 (長、一番目)

老二 // 老二 (次、二番目)

老几 // 老几 (~番目)

 呼称

町において、職場などでは年をとっている人或いはある面で熟練している人を呼ぶ時に、

姓に“老”をつけて言うものがあり、対応する反対の意味のものは“小”である。これも 普通話の影響である。

老张//(張さん)

小张//(張さん)「筆者が10年前病院に勤務していた時こう呼ばれていた」

村では年をとっている年配の男性を呼ぶ時は名前の真ん中の一字に“老子//” (老人)をつけて言う。呼びかける時は“老人家”//という言い方もある。例 えば、筆者の祖父は下記のように呼ばれていた。

名前 呼称

父方の祖父 张标注 标老子 标老人

母方の祖父 陈全新 全老子 全老人

(5)

8.1.1.1.2.2.動物や植物名称

一部の動物と植物名称にも“老”が必要で、これらの“老”はほとんど省略することが できない。「虎」を「老いた虫」として呼んでいるのは、タブーを避けていることが原因で あると考えられる。「虎」という文字を避けて、「虫」で代用しているものである。似たよ うな言い方は湘方言の各地域で見られる(罗昕如2006:99)。

元の語 意味 +老 発音 北京官話 意味

虫 虫 老虫  老虎 虎

鹰 単独では意味なし 老鷹  鷹 鷹 鼠 単独では意味なし 老鼠  老鼠 鼠 姜 生姜(あまり使わない) 老姜  生姜 生姜 鸦 単独では意味なし 老鸦  乌鸦 烏

8.1.1.1.2.3.親族呼称

親族呼称で“老”がつくものが多く、各世代に見られる(親族関係図図 32参照)。

 同世代

普通、兄弟に言及する時に使われる。呼称としても用いられる。従弟などにも使用可能 である。



老 兄、 老 弟、 老 姐、 老 妹

これは単に兄、弟、姉、妹のことを指す。羅肇錦(1988)によれば客家語にこのような特 徴があるとの指摘がある。下記の用例はPDCCによる。

Dl: 哦, 要 你 俚 老 姐 把 你。 供应 你, 是 啪?

922             Int 必要 2SG -PL Dat 2SG 供給する 2SG CO PT

要你姐姐给你,供应你是吧?

お姉さんからもらう、提供してもらう、でしょう?

Ljh: 我 俚 有 个, 个 老 兄,

923       

1SG -PL ある CL CL

我有一个哥哥。

私には兄が一人いる。

Ljh: 我 俚 伊 还 个 老 弟,

924      

1SG -PL Loc まだ CL

我们这儿还有个弟弟,

(6)

そこにもう一人弟がいる、

このほかに、結婚相手の兄弟姉妹に使うこともある。女性に対しては夫の男性兄弟のみ を区別し、男性に対しては妻の姉妹のみを区別する。

伯伯老子//(夫の兄) 老叔//(夫の弟) 老姑//(夫の姉妹)

老舅//(妻の兄弟)

姨老妹//(妻の妹) 姨老姐//(妻の姉)

Cf: 我 俚 老 姑 昨日 看 哒 啦。

925       

1SG -PL 義理の姉妹 昨日 見る Perf PT

我们家小姑子昨天看到的。

私の義理の妹/姉が昨日見たのよ。

 2世代上

2 世代上の親族呼称には、祖父の姉妹と祖母の兄弟にもつけることが可能であり、これ は父の姉妹と母の兄弟の呼び方に“老”をつけるものである。

父の姉妹 姑姐// その配偶者 姑父// 祖父の姉妹 老姑姐// その配偶者 老姑父// 母の兄弟 舅的// その配偶者 妗的// 祖母の兄弟 老舅的// その配偶者 老妗的//

 3世代上

3世代上の親族呼称には、曾祖父母、とその兄弟にも“老”を付ける。

老公 // (父方の曽祖父) 老婆 /// (父方の曾祖母) 老外公 // (母方の曾祖父) 老外婆 // (母方の曾祖母) 老伯公 // (祖父の伯父) 老叔公 // (祖父の叔父)

8.1.1.1.2.4.その他

老爷//は神様のことを全般的に言うことばである。この一語のみであるため、

これは慣用語として考えたほうがいいかもしれない。

Tly: 我 去 敬 老爷 去 哒 哩,

(7)

926       

1SG 行く 参る 神様 行く Perf PT

我去敬神去了。

私は神様にお参りに行ったのね。

8.1.1.2.細と小(Si & SiAu)

平江城関方言では、本当に小さいという意味を表わすかどうかによって“细”と“小”

を使い分けている。小さいという意味があれば、“细”を使い、小さい意味がなければ“小”

を使う。“小”はほとんど外来語か書き言葉にしか用いない。

 “小”を使うもの

北京官話でよく使われる“小菜,小费,小姐”などはもともと平江城関方言になじみの ない語であるためそのまま使っている。この場合の“小”は小さいという意味を表わさな い。なお北京官話では“小名”(幼名)という言い方もあるが、平江城関方言にはこのよう な表現はなく、どの赤んぼのことも“毛毛”//と呼ぶ。更に、北京官話では使 わないが、平江城関方言で使うものが1つある: “小娘”//姑娘 (むすめ)。こ れは呉語にも見られる。

小菜//(おかず) 小姐/ii/ (お嬢さん)

小意思//(ほんの気持ち) 小费// (チップ)

謙譲的な意味があるもの(へりくだった言い方)

小店//(弊店) 小女/iny/(娘のへりくだった言い方)

 “细”を使うもの

小さいという意味があるときは、北京官話の“小”の代わりに平江城関方言では“细”

を使う。“细商品、细鬼”(小商品、子供への愛称)などがそうである。ほかに“细妹啧”

//(小娘),“细鸟啧”//(小鳥)などの言い方もある。

 “小”と“细”が異なる意味を持つもの

“小”と“细”が同じ名詞に使われるときがあるが、その時の“小”と“细”は違う意 味を持つ。“小”は小さいという意味はなく、文語または官話由来の語にしか用いられない。

“细”は小さい意味が基本であり、地元の日常的な表現に用いられる。地元の言葉と官話 や文語由来の言葉で使い分ける区別は前述の A、B 系三人称(6.2.3.3)と似ているかもしれ ない。

小女/iny/(娘のへりくだった言い方) 小姐/ii/(お嬢さん)

细女// (一番下の娘) 细姐// (一番年が近い姉)

(8)

8.1.2.接尾辞(Suffixes)

先行研究に見られるものを紹介してから、平江城関方言のことについて詳しく述べる。

下線の例は城関でも用いられるものを示す。

8.1.2.1.指小辞(Diminutive suffix)

本節では、周囲の方言の記述と対照して、平江城関方言の指小辞“子”と“啧”につい て述べる。

8.1.2.1.1.子

“子”は湖南の方言や北京官話では広く使用されているが、平江城関方言ではそれほど 広く使われていない。

8.1.2.1.1.1.贛・客家語

刘纶鑫(1999: 678-680)によると、贛・客家語の「子系」接尾辞についての記述は下記の ようになっている。「子系」とは発音及びその用法から筆者がつけたグループの名前である。

子// 普通話の“子”、“儿”に相当するもの 普通話も同じように用いるもの

篮子(篭) 桃子(桃) 柿子(柿) 李子(スモモ) 麦子(麦)

普通話では“子”を用いないが、贛・客家語では用いるもの

结巴子(口ごもり) 哑巴子(しゃべれない人) 手帕子(ハンカチ) 啄木鸟子(啄木鳥)

“子”の前が物体の頭、尻尾、尖端、枝などのような、部位を強調する名称である時、指小的な意 味が含まれる。

(粉笔)头子(チョークの先棒) (茶壶)嘴子(急須の口)

 “崽”、“者”、“则”とも書かれ、“子”に相当する。

兔仔(ウサギ) 猪瓜仔(豚) 山暑仔(サツマイモ) 刁仔(鳥)

“几” ////入声/は“叽,吉,激,积,己”などと書かれるが、すべて“几”の異形態である。

绳叽(紐) 凳几(椅子) 羊几(羊) 麦几(麦)

入声

異形態は“讷,乃,尼,呢”などである。贛・客家語において、生産性のある接尾辞であり、形態 素に付着し、名詞を構成する。

豆角嘚(豌豆) 辣椒嘚(唐辛子) 檐老鼠嘚(蝙蝠) 鸡嘚(鶏)

龍南客家語においては、物体の頭、尻尾、尖端、枝などのような、部位を強調する名称である時、指 小的な意味が含まれる。人名の後につけると、親しみを表せる。

刘纶鑫(1999: 678-680)のまとめ(下線は筆者による)

(9)

「異形態は“讷,乃,尼,呢”などである」というのは地域によって異なる発音になる もので、表わす漢字も異なってくる。要するに地域別の相違という意味である。実際の地 域別使用状況は下記の通りである。

“嘚”主要分布于赣语南昌片的都昌、湖口、星子、德安、奉新、安义、新建、南昌、宜昌片的 分宜、新余、万载、吉安片的吉水、永丰、遂川、万安、临川片的进贤、客家话的龙南。“讷” 、“呢”

见于万年,“尼”见于新余、分宜,“乃”见于大余。

“嘚”は主に、贛語南昌片の都昌、湖口、星子、德安、奉新、安义、新建、南昌、宜昌片の分宜、

新余、万载、吉安片の吉水、永丰、遂川、万安、临川片の进贤、客家語の龙南に見られる。“讷” 、

“呢”は万年、“尼”は新余、分宜、“乃”は大余にみられる。

刘纶鑫(1999: 680)

平江城関方言に見られるのは“子”[]と“啧”[]である。“啧”はおおよそ贛・

客家語の“嘚”入声に対応すると考えられる。以下に順番に説明する。

8.1.2.1.1.2.平江城関方言

本節では平江城関方言の“子”について述べる。北京官話ではいろいろな場合に“子”

を使う。平江城関方言ではそれぞれそのまま“子”接辞を使うか、“子”なしで単音節語を 使う場合が多い。ほとんどが同じ意味で使われているが、同じような名詞では用いられな い場合、その同義語を示す。以下では構成法別で平江城関方言→北京官話の順に、用例を 挙げる。

 平江城関方言: 子→北京官話: 子 表 93 接辞“子”対照表01

タイプ 元の語 意味 +子 発音 北京官話 意味2

皮子  皮子

笛子  笛子

鬼子  鬼子 外人

椅子  椅子 椅子

切符 票子  票子

名詞

+子

眼子  瞎子 盲人

ブラシをかける 刷子  刷子 ブラシ

広げる 摊子  摊子 屋台

探る 探子  探子 偵察者

組み立てる 架子  架子

挟む 夹子  夹子 クリップ

動詞

+子

だます 骗子  骗子 詐欺師

(10)

鋤で土を削る 铲子  铲子 スコップ

担ぐ 担子  挑子 天秤棒とその両端の荷

やせている 瘦子  瘦子 やせた人

耳が聞こえない 聋子  聋子 耳が聞こえない人 太っている 胖子  胖子 でぶ

頭が悪い 呆子  呆子 阿呆 頭が悪い 傻子  傻子 ばか

長い 长子  高个子 背が高い人

形容詞

+子

背が低い 矮子  矮个子 背が低い人

 北京官話: 子→平江城関方言: 子なし

北京官話では“子”がつくものに対して、平江城関方言では“子”はつかないが、2音節 になるものと単音節になるものがある。ただし単音節語では“啧”が付きうる語があるが、

この場合、意味が指小辞の“啧”に限定される。このうちの「箸」(下線)が字の通りの“筷

子”[]で発音されない理由は“快死”[]「早く死ね!」という言葉の

発音に近いため、忌み言葉を避けて、“快兴”[]「早く発展する」になったもの だと筆者は推測する。しかし、最近の若い人はこれらのことが分からないのか、“筷子”

[]と言っている人も見られる。

表 94 接辞“子”対照表02

北京官話 意味 平江城関方言 発音 タイプ

尺子 物差し 

梳子 

脑子 

桌子 テーブル 

刀子 ナイフ 

镜子 

塞子  

単音節 になる

辣子 唐辛子 班椒 

剪子 はさみ 剪刀 

筷子 筷兴 

蚊子 蚊虫 

耳挖子 耳掻き 挖耳 

双音節 になる

小镜子 小さい鏡 鏡啧 

小桌子 小さいテーブル 桌啧 

小梳子 小さい櫛 梳啧 

小塞子 小さい栓  

指小辞 が付加 される

老妈子 女中 干娘 

新娘子 花嫁 新小娘 

その他

(11)

 平江城関方言: “子”→北京官話: 子なし

下記の表での用例は、平江城関方言では“子”が必要であるが、北京官話では“子”が 必要ではないものである。

表 95 接辞“子”対照表03

平江城関方言 発音 北京官話 意味 タイプ

桃子  桃 桃

梨子  梨 梨

枣子  枣 なつめ

腿巴子  腿 脚

単音 節に なる

結子  结巴 どもる

嘴巴子  嘴巴 口

绷子  床垫 マット

屉子  抽屉 ひき出し

篙子  竹竿 物干し竿

大蒜子  大蒜 にんにくの粒

手笼子  手套 手袋

茶子  茶球 お茶の実

双音 節に

なる

人間を指す時に、使用する“子”語彙は以下のようなものが見られる。特に“女子、男子”

は北京官話では単独で使うことが少ないが、平江城関方言ではよく使われる。

平江城関方言 発音 北京官話 意味

唖子  哑巴 口がきけない人

祸坨子  祸根 よく面倒を起こす人

痨病壳子  肺結核患者 結核患者

男子  男人 成人女性

女子  女人 成人男性

8.1.2.1.2.嘖

7.2.1.1.3 で述べた通り、平江城関方言において、名詞か名詞句における指小辞的なもの

“啧”の付加がある。この付加は義務的ではないが、付加しない場合は、意味が変わる。

また小動物の場合は付ける必要があり、義務的ともいえる。“啧”は生産的であるが、すべ ての名詞に付くわけではない。大きいものにつけると、おもちゃを意味することになる。

嫌われるものにはつきにくい。“啧”は非常に多用され、PDCCでは425例見られ、その出 現頻度は異なり語数のうちの第15位を占める。

(12)

      

飞 机 「飛行機」 飞 机 啧 「玩具の飛行機」

      

汽 车 「車」 汽 车 啧 「玩具の車」

平江城関方言の“啧”は湘語の下位方言である益陽方言の“[t]”(口姐)と似ている接 尾辞である。徐慧(2001)には接尾辞“[t]”についての詳しい記述がある。平江城関方言 の“啧”は“[t]”ほど使用頻度は高くないが、北京官話の“子”より使われている。一 般に子供と話す時に多く使われ、その場合はほとんどの単音節語に付けることができる。

徐慧(2001: 44)では益陽方言の接尾辞“子”の発音が3つあり、“[t]”がそのうちの1つ

であるとしている。幼児は“崽崽”を使い、成人が幼児に対して使う場合は“崽崽 t” を使うとしている。動物名詞、もともと子が付いた名詞、類別詞、疑問や指示代名詞など

に“[t]”をつけることができるという。

以下に平江城関方言の“啧”を、幼児語と成人語に分けて述べる。

8.1.2.1.2.1.幼児語

幼児語で用いる“啧”は名詞に付くものと身体部位に付くものがある。名詞に付くと、

そのものがおもちゃになることがあり、身体部位にするとそのものが子供のものという意 味になる。

8.1.2.1.2.1.1.名詞に付く“啧”

幼児語とは子供が発するまたは子供との会話に見られる言葉を指す。幼児語での“啧”

は指小の意味がはっきりする。特に大きい物につくときはおもちゃの意味に変わるものが 多い。

 おもちゃになる場合

汽车啧 // 玩具车 おもちゃの車

飞机啧 // 玩具飞机 おもちゃの飛行機

电视机啧 // 玩具电视 おもちゃのテレビ

Ztq: 渠 话 要 我 搭 渠 买 个 火车 啧 咯,

927           

3ASG 言う ほしい 1SG Prep 3ASG 買う CL 汽車 DM PT

他说要我给他买个小火车的。

彼は私におもちゃの汽車を買ってほしいといった。

例外

屋啧 // 积木房/房子 おもちゃの家/家

一般に、“屋”「家」は普通大きいものであり、“啧”が吹かされた“屋啧”は「おもちゃ の家」になると考えられる。しかし、コンサルタントによると、家の場合、4 階建て以上

(13)

にならないと、大きいとは言えないようである。故に4階までの家は“屋啧”と言っても かまわないが、4階建て以上の家には“啧”をつけることができないという。

 子供のものになる場合

身体部位などの名詞にも付きうるが、子供にしか使えないので、そのときは“啧”が子 供ということを意味する場合が多い。

手啧 // 小手 子供の手

脚啧 // 小脚 子供の脚

脑啧 // 小脑袋 子供の頭

客啧 // 小客人 子供のお客さん

上述のものは子供を相手にしか使用できないので、自然に「おもちゃ、子供の」という 意味になってしまったのだと考えられる。

8.1.2.1.2.1.2.VOフレーズに付く“啧”

幼児用語では、動詞、目的語フレーズにも“啧”をつけることができる。目的語のみに 付くことはあまりない。この場合は動作を柔らかくする働きもあるので、フレーズ全体に 付いていると考えられる。

困觉啧   睡觉觉 寝る

唱歌啧  唱歌儿 歌を歌う

唱只歌啧  唱支歌儿 一曲歌う

写字啧   写字儿 字を書く

写个字啧   写个字儿 一字を書く



動詞-名詞+啧 吃 饭 啧 ご飯を食べよう(子供に)

食べる ご飯

Ztq: 他 穿 箇 咯 不 行, 穿 衣 啧,

928         

3BSG 着る Dem -Nom Neg いい 着る DM

他穿那些不会,穿衣服。

彼は着替えがだめ、服を着るときにね。

8.1.2.1.2.2.成人語

以下は一般に成人が用いる“啧”の用法について述べる。幼児語と同様、前の成分の品

(14)

詞別に述べる。

8.1.2.1.2.2.1.名詞に付く“啧”

名詞に付く“啧”は北京官話の“子”または“儿”に相当するものが多い。この用法は 湘語益陽方言や贛語の多くの方言に見られる。

鞋啧   鞋子  靴

盒啧   盒子  箱

花啧   花儿  花

树啧   树儿  木

兔啧   兔子  兔

Zsk: 反正 有 蛮 多 人, 就 话 我 个 才 格 年纪 啧,

929          

どうせ ある とても 多い ただ 言う 1SG CL こんなに Poss DM

反正有不少人,说我就那么大。

結構多くの人に、私はこの年(二十代)だと言われているよ。

 動物の仔

動物名詞にも付くことができるが、一般的に体の大きい動物につけると、動物の“仔”

になる。この時の“啧”は北京官話の“崽”(仔)と同じ意味である。体の小さい動物を除 いては、成体の動物の場合は“啧”は一般的に使われない。ただし、使われる場合は小さ い動物そのものを示す。

马啧   马儿 仔馬

牛啧  牛儿 仔牛

体が小さい動物には成体でも使える

羊啧   羊儿 ヤギ

狗啧   狗儿 いぬ

なお、普通の動物成体、体が小さい成体、動物の仔が並んでいる場合、下記のように区 別する。はっきりと子供の仔の動物をいう場合には“細~啧”を用いる。

牛 犬 馬

成体 牛 狗 馬

成体 牛啧 狗啧 马啧

(体が小さい) (小さい牛) (小さい犬) (小さい馬)

(15)

動物の仔 细牛啧 细狗啧 细馬啧

(仔牛) (仔犬) (仔馬)

 親族呼称

自分より年下或いは下の世代の親族呼称に“啧”をつけることができる。この場合の“啧”

はかわいいという意味になる。親族関係図(9.2図 32 平江城関方言親族関係図を参照)に ある自分より下の人にすべてつけることができる。“崽”で息子を指す言い方は湖南省や 江西省の方言において広く見られる。“崽”/tsai/は昔から“舌音”であり、指小辞の

“啧”//がそこからきている可能性が大きい。

老弟啧  弟弟 弟

老妹啧  妹妹 妹

女啧  女儿 娘

崽啧  儿子 息子

媳妇啧  媳妇 嫁

孙啧  孙子 孫

孙女啧  孙女 孫娘

外甥啧  外甥 甥

自分より上の人につけることは一般によくないとされるが、父方の祖母のことを“婆啧”

「婆ちゃん」と呼ぶ家庭も見られる。筆者の祖母が生きていた時、祖母自身は自分がそう 呼ばれるのを嫌っていた。ほかに男の子と女の子を呼ぶ一般呼称にも“啧”が必要である。

妹啧(女の子) 伢啧 (男の子)

8.1.2.1.2.2.2.「形容詞+α」に付く“啧”

形容詞に“啧”が付くと、語気を表わすものになる。ただし、この場合の形容詞は単独 の形容詞ではなく、「副詞+形容詞」、「形容詞の重ね型」、「非単音節の形容詞」などになる。

前述してきた通り益陽方言にも見られる(徐慧2001: 58)。これらの用例から“啧”はムー ド的な働きを持つものであることが言える。以下に順番に用例をあげながら説明していく。

「Adv+Adj」

他 字 写 得 蛮 好 啧。

930        

3BSG 書く PO とても よい DM

他的字写得不错哩。

彼の字はなかなかうまいね。

Zzh: 阿, 伊 格 时 蛮 好看 啧, 啥。

931          

(16)

Int Dem Poss TO とても きれい DM Int 对,这张挺好看的,是吧。

これはかわいいね。だよね。

「Adj+Adj」

好好啧 とてもいい 高高啧 とても高い 热热闹闹啧 とてもにぎやかだ

白白俚净啧 とても白い 干干俚净啧 とても清潔だ

8.1.2.1.2.2.3.類別詞に付く“啧”

類別詞に“啧”を付加することも可能であり、この場合、限定の意味になる。

        

数量詞+類別詞+啧 两 张 啧 「二枚だけ」

2つ CL

   

打 下 啧 「一回だけ叩く」

叩く 一回

写个啧字  就写一个字儿 一字だけ書く

唱只啧歌  就唱一支歌儿 一曲だけ歌う

    

類別詞+啧 个 啧 「1つだけ」 个个啧「どれも」

  

数量詞+啧 好 丫 啧 「少しよい」

Tly: 渠 时 只 搞 两 十 来 日 啧 体训 啪。

932            

3ASG TO ただ する 2 来る DM トレーニング PT

他只搞了20来天体育训练吧。

彼は20日くらいしか訓練を行なっていなかったみたいね。

Tly: 我 箇 中间 还是 来 哒 一度 啧,

933         

1SG Dem 中間 やはり 来る Perf 一度 DM

我中间还是来了一次。

私は途中一度だけきた。

(17)

8.1.2.1.2.3.動詞につく“阿啧”

動詞に付く“阿啧”は動作を和らげる役割を持っている。“V阿啧”は北京官話の“V一 下”/“V V”に当たる表現で、日本語では(ちょっと~してみる)という意味になる。

平江城関方言 発音 北京官話訳 日本語訳

看阿啧  看看 ちょっとみてみる

想阿啧  想一下 ちょっと考えてみる

困阿啧  睡一下 ちょっと寝る

听阿啧  听一下 ちょっと聞いてみる

   

看书啧  看书 本を読む

看阿啧书  看一会儿书 ちょっとだけ本を読む

   

写字啧  写字 字を書く

写阿啧字  写一会儿字 ちょっとだけ字を書く

Zzh: 要 个 底子, 我 伙 再 画 整 阿啧 啦。

934           要る CL 基盤 1SG -Incl 再び 描く できる ちょっと PT

需要个底子的,我再好好画好。

下書きが必要で、その後私がちょっと描くだけでいいんだ。

Zsk: 你 看 哒 我 伊 啰, 笑 阿啧 啰。

935         

2SG 見る Cont 1SG Dem PT 笑う ちょっと PT

你看着我这儿,笑一笑!

私を見て、ちょっと笑って!

8.1.2.1.3.近隣方言との対照

平江の隣で話されている瀏陽方言は平江と同じく贛語とされている。以下に瀏陽方言に おける指小辞を紹介し、平江城関方言と比較対照する。

崽[tsai240] 13と唧[ti440]の使用範囲と使い方

A 一般名詞の後に、「崽」がつけられる。「唧」は直接名詞につかない。しかしすでに「崽」がつい た語につけられ、小さいまたは少ない、親しみまたは好きだという意味を表わす。「崽唧」が一緒 につくと、指小と愛称の修辞用法が更に強くなる。

13 下付きの数字「0」は変調の調値「軽声」である。軽声は一般に調値を書かないが、ここでは軽声に変 調することがある時だけ「0」で表わす。

(18)

B 人名、人称または親族呼称の後には一般に「崽」をつける。「唧」をつけるのはごく一部に限り、

「崽唧」を同時につけるのは更に少ない。主に愛称として使われている。

子供だけ名前の後に「崽」がつけられる。この場合、性別を示すために、性別を表わす言葉の「伢」

(男の子)と「妹」(女の子)を入れるが、必ずしも実際の性別と合わなくてもいい。

C 形容詞に「唧」がつけられ、好き又は程度を強める意味を表わす。「崽」はつけられない。

D 数量詞、類別詞の後に「唧」がついてもいい(一部は「崽」がつけられる)。主に小さめまたは大 体の数のことを表わす。9種類に分けられる。

E 形容詞、動詞に付いている「唧」は語気助詞である。

夏剑钦(1998: 218)のまとめ

浏阳方言では「崽」より「唧」のほうがそれぞれの品詞との結合能力は強い。使用範囲も広い。「崽」

は名詞にしか接続できないが、「唧」は名詞、形容詞、数量詞、動詞などに接続でき、原語の品詞性 と意味を変えることはできないが、ある程度の文法機能と修辞機能を表わすことができる。

夏剑钦(1998: 218) 以下に“崽”と“唧”の区別を表 96にまとめる。“唧”または“崽”が現れる所では平 江城関方言の場合はそのまま“啧”になる。瀏陽方言のもので、記述がない物については

「?」で示す。許容されない用法を「×」で示す。

表 96 瀏陽方言との指小辞対照

瀏陽方言 平 江 城 関 方言

-崽 -唧 -崽唧 -啧

a 単音節名詞 鸡崽「とり」 × 鸡崽唧 鸡啧

b 複合名詞 书包崽「かばん」 × 书包崽唧 书包啧

c 「子」接辞名詞 帽子崽「帽子」 × 帽子崽唧 帽子啧

A

d 前に修飾語がある名詞 红帽子崽

「赤い帽子」

× 红帽子

崽唧

红帽子啧

a名前が1字+姓(若者に限る) 刘贵崽 少ない 少ない × 人間を表わす普通名詞 秋莲崽 少ない 少ない ×

c 一般呼称 幼い子 年長者 幼い子 幼い子

B

d 親族呼称 叔唧(おじちゃん) ? 年下に限る a 比喩のような意味を持つ双

音詞または多音節形容詞

× 冰冷唧

(とても冷たい)

× 冰冷啧

b 形容詞

程度が強くなり、親しみを表 わす

× 蛮大唧

(大きい)

× 蛮大啧

C

c 単音節重複形容詞 婉曲の修飾を表わす

× 大大唧

(とても大きい)

× 大大啧

(19)

用言修飾の形容詞に × 慢慢唧 (ゆっくり)

× 慢慢啧

AABB形容詞- 語気が緩やかになる。

× 轻轻松松唧

(楽々に)

× 轻 轻 松 松 a 数+量+唧(崽) 三斤崽鱼

(3斤の魚)

一担唧谷 (50キロの穀物)

× 一担啧谷

b 数+ 数+量+唧(崽) 两三斤崽肉 (二、三斤の肉)

两三斤唧魚 × 两 三 斤 啧

c 量+把+唧(崽) 斤把崽肉

(肉一斤)

斤把唧油(油一斤) × 斤把啧肉

d 量+量+唧

(後ろ否定と接続しない)

× 个个唧要得

(どれもいい)

× 个 个 啧 要

e 数+(動)量14+唧 × 三回唧(3回だけ) × 三回啧

f 数+数+(動)量+唧 × 三四回唧 × 三四回啧

g (動)量+把+唧 × 次把唧(一回だけ) 次把啧

h 一+量+量+唧 × 一滴滴唧吃 (一滴ずつ飲む)

× 滴滴啧吃 D

その他 「滴唧」(少し) × 慢滴唧

(すこしおそい)

× 慢丫啧

a 幾(どんなに)+形容詞+唧 × 几好唧(どんなに いいだろう)

× 几好啧?

E

b 連用修飾語+動詞+唧 × 几想唧(どんなに

恋しいだろう)

× 几想啧?

このように、平江城関方言における“啧”[]は瀏陽方言における“崽”[]と“唧”

[]の両方を合わせた用法とほぼ対応するが、瀏陽方言では「名前の一字+姓」“刘贵崽”

(刘贵ちゃん)のような使い方が可能であるが、平江城関方言の“啧”はこのような使い方 は見られない。

8.1.2.2.性別接尾辞(Gender suffixes)

性別を表わす接尾辞とは名詞の後ろに付いて、その名詞が雄性または雌性であることを 表わすものである。一般に使える名詞は人間名詞または動物名詞である。

8.1.2.2.1.雄性接尾辞

8.1.2.2.1.1.贛・客家語

刘纶鑫(1999: 680-681)によると、贛・客家語には、雄性を表わす接尾辞には下記のよう

14 動量詞を指す。「一回行く」の「回」のような動詞と一緒に使う量詞のことを動量詞という。

(20)

なものがある。下線にしているものは平江城関方言にも見られるものである。

陰平は贛・客家語の特有の名詞接尾辞で、人間と一部の動物名称の後に付け、雄或いは大き いものを表わす。分布範囲は広い。

丈人公(妻の父親) 亲家公(結婚した夫婦の父親同士) 牛公(雄牛) 狗公(雄狗) 鸡公(雄鶏) 手指公(指)

牯/上声/

“公”に相当する。一部の名詞に付け、当該ものが雌ではなく、雄であることを示す。客家語は3 つの地域、贛語は5つの地域に見られる。一般名詞の後に付けるときは特別な意味を表わさない。

拥军牯(擁軍さん) 加兴牯(加興さん)

马牯(雄馬) 牛牯(雄牛) 猪牯(雄豚) 鸡牯(雄鶏)

マイナスの意味を持つときもある。

矮牯子(背が低い人) 贼牯子(泥棒)

佬/ 上声/

“公、牯”に相当する。名詞、形容詞、動詞その他のものにつけ、名詞を構成する。

“佬”は成人男性を表わす。性別を区別する働きを持っている。

男子佬(男性) 乡巴佬(田舎者) 广东佬(広東の人) 单身佬(独身者)

親しみ或いは賤しみを表わす。

同年佬(同じ年の生まれの人) 哥佬(お兄様) 死佬(死体或いは死人同然の人) 刘纶鑫(1999: 680-681)のまとめ、下線は筆者による

8.1.2.2.1.2.平江城関方言

上述のもので、下線のものはすべて平江城関方言で見られるものである。以下、平江城 関方言に見られる用例をあげる。

 公

单身公  单身汉 独身の男

亲来公  亲家公 嫁または婿の父親

舅公  舅爷? 夫の側から見る嫁の兄弟

野老公  情人 男の愛人

狗公  狗 犬

叫鸡公  公鸡 雄鶏

次のようなものは“公”の声調が異なっているが、贛語の先行研究の記述に倣い、“公”

とする。

(21)

码(头)公 () 石头 石ころ

膝头公  膝盖 膝

额头公  额头 額

鼻公  鼻子 鼻

 牯は「牛、羊」のみにつけることができる

牛牯  牛 牛

羊牯  羊 羊

 “佬”は軽蔑の意味を持つ場合のみであり、性別を区別する働きは見られない

湖北佬  湖北人 湖北の人

乡巴佬  乡下人 田舎者

8.1.2.2.2.雌性接尾辞

8.1.2.2.2.1.贛・客家語

刘纶鑫(1999: 680-681)によると、贛・客家語に、雌性を表わす接尾辞として下記のよう

なものがある。下線を附したものは平江城関方言にも見られるものである。

“婆”は贛・客家語の名詞接尾辞で、一部の形態素に付き、当該名詞の性別が雌性であることを 示す。雄性を表わす“公、牯、佬”に対応する。主に贛語の南昌、宜春、吉安の三地域と客家語の 贛南に分布する。

丈人婆(妻の母親) 聋婆(目の見えない女性) 麻风婆(ハンセン病の女性)

狗婆(メス犬) 鸡婆(雌鶏) 鸭婆(雌鴨) 虱婆(虱) 官婆(南京虫)

{麻/女}/mo陽平/

贛語の名詞接尾辞で“婆”に相当する。主に贛語の波陽、臨川にみられる。

鸡{麻/女}(雌鶏) 鸭{麻/女}(雌鴨) 狗{麻/女}(メス犬)

女麻

性別を区分ける働きがある。人称に用いると、感情的なニュアンスが表れる。

鸡女麻 (雌鶏) 牛女麻 (牝牛) 马女麻 (メス馬) 乡下女麻 (田舎者の女性) 仙女麻(シャーマン) 扣女麻 (ボタン)

上述の性別を表わすもののうち、“公,牯,佬”など雄性を示すものは各地で何個も持つことがあ る。人、物の別で“公”や“佬”を用いる。逆に、雌性を示すものは人でも物でもそのうちの 1 しか用いず、2つを併用する場合はきわめて少なく、3つを用いるという状況は見られない。

刘纶鑫(1999: 681-682)のまとめ(下線は筆者による)

(22)

8.1.2.2.2.2.平江城関方言

平江城関方言で見られる雌系接尾辞は“婆”のみである。上述の例のうち、下線付きの ものはすべて使える。徐慧(2001)によると、湖南省の益陽方言にも似たような表現“婆子”

が使用される(徐慧2001: 62)。

上述のもの以外に、贛・客家語では更に以下の接尾辞が見られるが、平江城関方言では あまり見られない。ただし、平江のその他の下位方言では見られるものもある。例えば、

虹橋方言では“哩”が多用される。その他の下位方言における状況ついては今後の調査を 要する。

头/陽平/

名詞、動詞、形容詞及び時間詞、方位詞の後に付き、名詞、時間詞、方位詞を構成する。

普通話と共通するもの

石头(石ころ) 木头(木材) 斧头(斧) 想头(考え)

普通話では用いないが、贛・客家語では用いるもの

日头(日) 云头(雲) 地头(土地) 牙头(歯)

哩//

“哩”は贛・客家語特有の名詞接尾辞である。“里、俚、仂、立、嘞、乐”などと書かれ、分布範 囲が広い。

桃哩(桃) 李哩(スモモ) 牛崽哩(子牛) 姑哩(おば) 公哩(おじいちゃん) 崽哩(子供)



贛・客家語の“儿”は普通話の“儿”に相当するが、発音が異なる。分布範囲もそれほど広くな い。

桃儿(桃) 梨儿(梨) 茄儿(茄子) 双生儿(双子)

刘纶鑫(1999: 682-683)のまとめ

8.1.2.3.尊称接尾辞(Honorific suffix)

前述の性別にかかわるものと異なり、平江城関方言では名前につけて尊敬を表わす“佬”

//がある。これは日本語の「~さん」に当たるが、苗字につけるのではなく、名前

の最初の一字につける。この尊称を表わす“佬”を初めて記述したのは彭以达(2005)であ る。

特殊的表敬副词“老”

特殊な尊敬を表わす副詞“老”

平江人互相交往中,叫人或打招呼都称某老。如张三就叫“三老”,李四就喊“四老”,即使是喊 报在怀中的小孩,也总是说“毛老好乖”,通常情况下是绝不轻名道姓的,表现了谦恭待人的社会习俗。

表  92  平江城関方言における“おば”の言い方    贛語系  湘語系  客家語 顺序 词例  城関  虹橋  龍門  南江  三聯  伍市  岑川  塘坊  舅母  妗的  舅母  舅母  舅妈  舅娘  舅娘  舅娘  舅母  4036                 姑妈  姑姐  姑姑

参照

関連したドキュメント

地蔵の名字、という名称は、明治以前の文献に存在する'が、学術用語と

地図 9 “ソラマメ”の語形 語形と分類 徽州で“ソラマメ”を表す語形は二つある。それぞれ「碧豆」[pɵ thiu], 「蚕豆」[tsh thiu]である。

試験区分 国語 地歴 公民 数学 理科 外国語 小論文 筆記試験 口述試験 実技試験 出願書類 高大接続プロ グラム課題等 配点合計. 共通テスト 100

語基の種類、標準語語幹 a語幹 o語幹 u語幹 si語幹 独立語基(基本形,推量形1) ex ・1 ▼▲ ・1 ▽△

凧(たこ) ikanobori類 takO ikanobori類 父親の呼称 tjaN類 otottsaN 類 tjaN類 母親の呼称 kakaN類 okaN類 kakaN類

今回の調査に限って言うと、日本手話、手話言語学基礎・専門、手話言語条例、手話 通訳士 養成プ ログ ラム 、合理 的配慮 とし ての 手話通 訳、こ れら

 さて,日本語として定着しつつある「ポスト真実」の原語は,英語の 'post- truth' である。この語が英語で市民権を得ることになったのは,2016年

第 4 章では、語用論の観点から、I mean