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世 界 正 義 論 に 向 け て

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(1)

︿論

説﹀

世 界 正 義 論 に 向 け て

井 上 達 夫

︱ ︱

︱ ︱

(2)

は じ め に 法哲 学が

、現 代世 界の 挑戦 に応 えう る学 とし て今 後さ らに 発展 する ため に、 その エネ ルギ ーと 知的 資源 をこ れま で以 上に 投入 すべ き課 題は 種々 ある

。そ の中 でも 特に 重要 な課 題は

、グ ロー バル 化の 著し い進 展が もた らす 諸問 題 に的 確に 対処 する ため に、 国内 法中 心に 組み 立て られ てき た法 理念 や法 思考 の枠 組を

、国 境を 越え た射 程を もつ も のへ と拡 大再 編す るこ とで ある

。 田中 耕太 郎の

﹁世 界法 の理 論﹂ はそ の先 駆的 試み では ある が、 通商 をは じめ とす る国 境を 越え た人 間活 動の 拡大 の事 実に 伴う グロ ーバ ルな 秩序 形成 の動 向が

、世 界法 の発 展の 契機 を内 包す るこ とを 楽観 的に 記述 する もの であ っ た。 それ は、 経済 的格 差の 拡大 再生 産、 地球 環境 問題

、平 和・ 民主 主義

・人 権の 国際 的保 障の 美名 の下 に大 国の 地 政学 的権 益擁 護の ため に行 われ る覇 権的 干渉 など

、現 在の 我々 が目 にし てい るグ ロー バル 化の 負の 側面 を十 分自 覚 した もの とは 言え ない

1 97 2 20 09 :

1932-34 11 0-111

いま 法哲 学が 担う べき 課題 は、 グロ ーバ ル化 の暗 黒面 を直 視し て、 グロ ーバ ルな 秩序 形成 の現 実を 批判 し、 その 変革 の指 針を 提示 しう る学 とし て自 己を 発展 させ るこ とで ある

。そ のた めに は、 近年 活発 に展 開し てき た﹁ 世界 正 義 gl ob al ju st ic e

﹂を めぐ る論 議に

、法 哲学 者も 積極 的に 参加 し貢 献す る必 要が ある

。 筆者 はこ の一

〇年 あま りの 間、 世界 正義 の諸 問題 に関 して

、種 々の 論考 を間 歇的 に内 外で 公表 して きた

。小 林公 教授 退職 記念 論集 に寄 稿す る栄 誉を 得た この 機会 に、 小林 教授 の学 恩に 僅か なり とも 報い るた めに

、法 哲学 の最 前 線に 位置 する と同 時に その 根幹 の再 考も 迫る この 主題 につ いて

、自 己の これ まで の探 究を さら に一 歩進 める 考察 を 試み たい

(3)

一 問題 の構 図

世界 正義 の問 題系 への 複眼 的・ 包括 的接 近 世界 正義 を論 じる 者た ちの 哲学 的立 場や 方法 論は 種々 多様 であ り、 かつ 先鋭 に対 立競 合し てい る。 世界 正義 の可 能性 を根 本的 に否 定す るリ アリ ズム とい う一 方の 極と

、同 じ正 義の 原理

、し かも 平等 主義 的な 原理 が国 境の 内外 を 問わ ず妥 当す ると する 平等 主義 的コ スモ ポリ タニ ズム とい う他 方の 極の 間に

、国 民的 なア イデ ンテ ィテ ィと 連帯 の 優先 的保 護や 国民 的自 己責 任と 両立 する 限り で世 界正 義へ の配 慮の 要請 を受 け入 れる ナシ ョナ リズ ム基 底的 な立 場 や、 市場 原理 主義 的リ バタ リア ニズ ム、 左翼 リバ タリ アニ ズム

、あ るい は功 利主 義等 の立 場か らの 世界 正義 の諸 理 論な ど種 々の 立場 がス ペク トラ ムを なし て存 在し てい る。 した がっ て、 世界 正義 論が いか なる 論議 領域 であ るか は、 それ が﹁ いか に ho w

﹂論 じて いる か、 すな わち

、い かな る哲 学的

・方 法論 的な 特質 をも つか によ って では なく

、そ れが

﹁何 を wh at

を論 じて いる か、 すな わち

、い かな る問 題を 考察 して いる かに よっ て、 より 良く 理 解で きる

。世 界正 義論 の主 題は

﹁国 境を 越え た正 義 ju st ic eb ey on db or de rs

の探 究で ある が、 この 主題 は単 一の 問題 では なく

、﹁ 問題 複合

p ro bl em co mp le x

﹂と いう べき もの であ り、 別稿 で俯 瞰し たよ うに

、次 の五 つの 問題 系 に整 理で

( )

きる

1

①メ タ世 界正 義論

正義 理念 は、 国境 を越 えた 普遍 的妥 当性 を、 いか にし て、 ある いは

、そ もそ も、 有し うる のか

②国 内体 制の 国際 的正 統性

国家 とそ の政 府が

、そ の支 配領 域に 対す る正 統な 統治 権限 を国 際的 に承 認さ れう るた めの 条件 は何 か。 その 条件 は国 家の 主権 行使 に対 しい かな る規 範的 制約 を課 しう るの か。

(4)

③世 界匡 正正 義

諸国 家ま たは 非国 家的 諸主 体に よる 不正 を是 正し

、そ の被 害者 を救 済す るた めに

、国 際社 会 はい かな る責 務を 負い

、い かな る強 制措 置・ 介入 措置 をい かな る条 件の 下で 発動 しう るの か。

④世 界分 配正 義

諸国 家間 にお ける 資源 や富 の公 正な 分配 の原 理は 何か

、ま たそ の実 現の ため にい かな る方 途 が可 能か つ必 要か

。特 に、 貧し い途 上国 にお いて 絶対 的窮 乏に あえ ぐ人 々の 救済 のた めに

、国 際社 会、 特に 豊 かな 先進 諸国 は、 いか なる 責任 を、 いか なる 条件 の下 で、 いか なる 程度 まで 負う のか

⑤世 界統 治構 造

世界 正義 の規 範的 要請 を実 効的 かつ 公正 な仕 方で 実現 する ため に、 世界 の統 治機 構は どの よ うに 編成 さる べき か。 特に

、国 家、 超国 家組 織、 脱国 家組 織な ど、 グロ ーバ ルな 秩序 形成 に参 与す る様 々な 主 体の 間で

、権 力と 責任 の集 中と 分散 はい かに 図ら れる べき か。 この

五つ の問 題系 はそ れぞ れ固 有の 考慮 を必 要と する と同 時に

、相 互に 密接 に連 関し てい る。 これ は次 のこ とを 意味 する

。あ る問 題系 への 一定 の解 答か ら他 の問 題系 への 一定 の解 答を 自動 的・ 機械 的に 導出 する こと も、 一つ の 問題 系を 他か ら孤 立さ せて

、あ るい は他 を無 視し て考 察す るこ とも

、と もに 不適 切・ 不十 分で ある

。異 なっ た問 題 系に その 固有 性を 踏ま えた 異な った 解答 を与 える 複眼 性を もつ と同 時に

、異 なっ た問 題系 への 異な った 解答 を論 理 的・ 機能 的に 整合 化さ せ、 かつ それ らを 相補 的に 一体 化し てグ ロー バル な秩 序形 成の 公正 化を 全般 的に 促進 しう る 包括 性を もつ こと が、 世界 正義 の理 論が 適格 性を もつ ため の必 要条 件︱

︱十 分条 件で はな いが

︱︱ をな す。 複眼 性欠 損の 問題 は様 々な 形で 現れ てい る。 例え ば、

②に つい て、 市民 的政 治的 人権 の保 障が 国内 体制 の国 際的 正統 性承 認の 条件 をな すと する 解答 から

、直 ちに

③に つい て、 市民 的政 治的 人権 侵害 を理 由に 国際 的な 強制 的介 入 が常 に正 当化 され ると いう 解答 を引 き出 す﹁ ネオ

・コ ン﹂ のよ うな 立場 は、 欧米 諸国 によ る介 入の ご都 合主 義的 選 択性 や介 入意 図の 不純 性と いう それ だけ でも 重大 な問 題を 別と して も、 市民 的政 治的 人権 と結 合し た民 主主 義が 前

(5)

提す る人 民の 政治 的自 律の 理念

、す なわ ち、 正統 性な き体 制を 変革 する 第一 次的 な権 限と 責任 はそ の体 制下 に生 き る人 民自 身に ある とい う原 理を 無視 する もの で、 自壊 的で ある

。逆 に、 後期 ロー ルズ の﹁ 諸人 民の 法﹂ の理 論

R aw ls 19 99

の よう に、

③に つい て、 強制 的介 入の 自制 を要 請す るた めに

、② につ いて

、市 民的 政治 的人 権を 国内 体制 の国 際的 正統 性条 件か ら外 し、

﹁節 度あ る階 層国 家 de ce nt hi er ar ch ie s

﹂の 国際 的正 統性 を承 認す る立 場も

②と

③を 短絡 させ る点 で、 ネオ

・コ ンと 同じ 誤謬 を逆 方向 に犯 して いる

。い ずれ の立 場も

、国 際社 会が

、市 民的 政 治的 人権 を構 造的 に侵 害す る国 家体 制の 正統 性を 否認 しな がら

、そ の体 制下 の人 民の 政治 的自 律を 尊重 し、 政府 が 反対 勢力 や反 抗的 少数 民族 の大 量集 団虐 殺の よう な暴 挙に 出な い限 り強 制的 介入 を自 制し て、 人民 自身 によ る体 制 改革 を間 接的

・側 面的 に支 援す る可 能性 を無 視し てい る

2008b: 71- 73 ,7 6- 77

さら に例 を挙 げれ ば、

④に つい て、 現在 の諸 国家 間に おけ る領 土・ 資源

・富 の分 配を 不公 正と して

、そ の是 正の ため に国 際的 再分 配を 要請 し、 そこ から

⑤に つい て、 かか る再 分配 を実 行す るに は豊 かな 先進 諸国 の抵 抗を 撥ね 退 けう る強 力な 世界 政府 が必 要だ とす る立 場も

、世 界政 府が 既存 国家 以上 に専 制化 する 危険 性や 強大 国の 覇権 の道 具 にさ れる 危険 を見 ない 点で

、複 眼性 が欠 損し てい る

逆に

Inoue 200 9: 28 -31

また

、世 界政 府の 不在 の事 実や その 危険 性を 理由 に分 配的 正義 理念 のグ ロー バル な適 用の 不可 能性 を主 張す る立 場

N ag el 20 05

、⑤ に関 する 一定 の認 識と

④へ の解 答と を短 絡的 に結 合さ せる 点で

、同 じ問 題を 孕む

。⑤ につ いて

、世 界政 府が 存在 しな い現 在の 世界 秩序 を不 可避 的現 実と みよ うと

、ま た世 界政 府と は異 なる 代替 的世 界 統治 構造 を提 唱し よう と、 現実 的な いし 代替 的世 界統 治構 造の 下で 生み 出さ れる 資源 分配 の公 正さ を批 判的 に吟 味 する 指針 とし て、

④が 問う 世界 分配 正義 の理 念は 独立 した 存在 理由 をも つ。 他方 また

、⑤ の世 界統 治構 造問 題も

④へ の解 答に 還元 され ない 固有 性を もち

、複 眼的 思考 を要 請す るが

、こ れは

⑤が

④だ けで なく

①、

②、

③の 諸問 題 への 考察 にも 依存 し、 それ 自体

、包 括的 考察 を要 請す るか らで もあ る。

(6)

包括 性欠 損の 問題 の顕 著な 例証 は現 実が 提供 して いる

。世 界正 義の

﹁裁 判官

﹂に して

﹁執 行官

﹂を 自任 する 米国 は、 自己 の世 界匡 正正 義の 解釈 に基 づく 不正 な体 制へ の懲 罰に は極 めて 積極 的で

、二

〇〇 三年 のイ ラク 侵攻 以来

、 先に 侵攻 した アフ ガニ スタ ンと あわ せて

、通 常防 衛支 出と は別 に、 控え めな 算定 でも 三兆 ドル を超 える 軍事 費を 支 出し てお り、 イラ クか らの 最近 の大 規模 撤退 以前 は、 月間 運転 資金 は一 六〇 億ド ル、 一〇 日間 のイ ラク 戦費 だけ で も五

〇億 ドル に達 した

St ig li tz an dB il me s2 00 9

。し かし

、毎 年一 八〇

〇万 人が 強い られ てい る貧 困死

の 解消 とい う世 界分 配正 義の 最小 限に して 緊急 の課 題に 関し ては

、ほ とん ど無 関心 に近 い消 極性 を示 して いる

。例 えば

、米 国政 府は 一九 九六 年ロ ーマ で開 催さ れた 世界 食糧 サミ ット の宣 言に 同意 した が、 そこ で宣 明さ れた

﹁飢 餓か らの 自由 への 基本 権 fu nd am en ta lr ig ht to be fr ee fr om hu ng er

﹂ の保 障に つい て、 これ は漸 進的 努力 目標 に過 ぎず 国際 的責 務を 課す もの では ない と限 定解 釈す る立 場を とる こと を宣 告し た。 しか も、 国連 食糧 農業 機構

が 栄養 不良 者を 二〇 一五 年ま でに 半減 させ るた めに 先進 諸国 に要 請し た年 間総 額 六〇 億ド ルの 寄金 につ いて

、半 減さ せる には 二六 億ド ルで 十分 であ ると 反論 して いる

Pogge 2008: 11-12

Pogge 200 1

放置 すれ ば貧 困死 に追 いや られ る栄 養不 良者 をた だち にゼ ロに する ので はな く、 二〇 年近 い時 間を かけ て﹁ 半 減﹂ させ ると いう

、ま こと に﹁ 控え め﹂ な目 標に つい てす ら、 その 義務 的拘 束力 を否 定す るだ けで なく

、負 担額 を FA Oの 要請 の半 額以 下に 値切 ろう とす る米 国の 世界 分配 正義 への 国際 協力 に対 する 冷淡 な姿 勢に は驚 くべ きも の があ る。 しか し、 さら に驚 くべ きこ とは

、こ の﹁ 消極 性﹂ と、 自ら が一 方的 に遂 行す る﹁ 世界 匤正 正義 の執 行﹂ に 対す る米 国の

﹁積 極性

﹂と の極 端な 非対 称性 であ る。 もし

、米 国が 値切 って 査定 した 通り

、先 進諸 国が 年間 二六 億 ドル 拠出 する だけ で栄 養不 良者 を半 減さ せう るな ら、 米国 がイ ラク で支 出し てき た巨 額の 軍事 費の 僅か 一〇 日分 に あた る五

〇億 ドル をF AO に毎 年提 供す るだ けで

、栄 養不 良者 をほ とん どゼ ロに でき るは ずで ある

。同 じ五

〇億 ド

(7)

ルが

、何 百万 もの 生命 を救 済す るの に使 える 一方 で、 多数 の民 間人 の生 命を

﹁付 随的 被害

c ol la te ra ld am ag e

﹂と して 奪う 他国 領土 への 軍事 攻撃 の一

〇日 分の 経費 に充 てる こと もで きる

。米 国は 迷わ ず後 者の 使途 を優 先し た。 イ ラク 侵攻 にお いて 米国 が掲 げた 大義 は正 義の 観点 から は正 当化 不可 能で

( )

ある が、 仮に この 点を 不問 に付 した とし て

2

も、 世界 正義 の様 々な 次元 の要 請を 視野 に入 れて その 全般 的促 進の ため の最 適資 源配 分を 図る とい う包 括的 アプ ロ ーチ が、

﹁米 国的 正義 のた めの 世界 戦略

﹂に は全 く欠 けて いる こと

、そ して それ が破 壊的 帰結 をも たら して いる こ とが 指摘 され なけ れば なら ない

200 9: 113-11 5

トー マス

・ポ ッゲ の問 題提 起 世界 正義 の諸 問題 を複 眼的

・包 括的 に考 察す る視 座を 発展 させ る上 で、 重要 な示 唆を 含む もの とし て注 目に 値す るの は、 現在 の世 界正 義論 議に おけ る指 導的 論客 の一 人で ある トー マス

・ポ ッゲ の理 論で ある

Po gg e2 00 8 Po gg e2 01 0a

彼は

、大 量の 貧困 死が 象徴 する 深刻 な世 界貧 困問 題の 解決 策 とし て、 従来 の世 界分 配正 義論 の主 流を 占め てい た先 進諸 国の 積極 的支 援義 務を 主張 する 議論 とは 異な り、 先進 諸 国が 貧し い途 上国 に押 し付 けて いる グロ ーバ ルな 政治 経済 秩序

︱︱ 途上 国の 自立 的経 済発 展に 不利 な条 件を 課す W TO

・I MF

・世 界銀 行等 の国 際通 商金 融体 制や

、途 上国 が競 争優 位に ある 産品 に高 い関 税障 壁を 課す 一方

、自 国 産業 に膨 大な 輸出 補助 金を 与え る先 進諸 国の 不公 正な 貿易 政策 だけ でな く、 国民 を窮 乏化 させ て専 制的 に支 配す る 途上 国政 府を 自己 の権 益保 護の ため に利 用す る先 進諸 国の 政治 的実 践も 含む

︱︱ が世 界貧 困問 題を 深刻 化さ せて い る構 造的 要因 であ ると する 視点 から

、途 上国 貧民 に対 する 不正 な制 度的 加害 を是 正す る先 進諸 国の 責務 とし て、 先 進諸 国が 世界 貧困 問題 に対 して 負う 責任 を捉 える 議論

︱︱ 以下

、制 度的 加害 是正 責任 論と 呼ぶ

︱︱ を展 開し て

( )

いる

。彼 のこ の理 論は

、世 界正 義へ の複 眼的

・包 括的 接近 の必 要性 と可 能性 に関 わる 重要 な諸 問題 を提 起し てい

3

(8)

る。 ここ では 特に 次の 二点 を指 摘し てお きた い。 第一 に、 ポッ ゲの 制度 的加 害是 正論 は、 先進 諸国 が自 らの 不正 な制 度的 加害 の被 害者 たる 途上 国貧 民に 対し て負 う賠 償責 任と 加害 原因 除去 責任

と いう 世界 匤正 正義 の責 任の 問題 とし て世 界貧 困問 題を 捉え るも ので あり

、正 戦論 や人 道的 介入 に焦 点を 置い てき た従 来の 世界 匡正 正義 論議 の 射程 を拡 張す るも ので ある

。し かし

、そ の拡 張が

、こ れま で世 界分 配正 義の 課題 とさ れて きた 世界 貧困 問題 の領 域 に及 ぶも ので ある ため

、こ の問 題領 域に 対す る世 界匤 正正 義的 接近 と世 界分 配正 義的 接近 との 関係 につ いて

、以 下 のよ うな 一群 の論 争的 な諸 問題 が浮 上し てい る。 すな わち

、匡 正正 義的 接近 たる 制度 的加 害是 正論 は、 他者 に対 する 自己 の加 害の 是正 とい う﹁ 消極 義務

n eg a- ti ve du ti es

の一 種と して 先進 諸国 の途 上国 貧民 に対 する 責任 を捉 える 点で

、加 害責 任を 前提 しな い﹁ 積極 義務

p os it iv ed ut ie s

﹂の 一種 とし て先 進諸 国の 途上 国貧 民救 済義 務を 捉え る世 界分 配正 義論 の主 流的 立場 と異 なる

。し かし

、消 極義 務論 とし ての 制度 的加 害是 正論 はそ の正 当化 根拠 にお いて

、積 極的 支援 義務 論か ら真 に理 論的 独立 性 を有 して いる のか

。独 立性 を有 して いる とし て、 いず れが 哲学 的に 妥当 なの か。 また

、世 界貧 困問 題を 解決 する 戦 略と して いず れが 実践 的に 有効 なの か。 ある いは

、両 者は 相互 排除 的な 関係 には なく

、相 補的 な立 場と して 捉え ら れる べき なの か。 第二 に、 制度 的加 害是 正論 に対 して は、 途上 国の 間で も経 済発 展に 成功 しえ た諸 国が ある から グロ ーバ ルな 政治 経済 秩序 は途 上国 の発 展の 障害 にな らな いと し、 さら に発 展で きな い諸 国に つい ては

、ク ーデ タ・ 内乱 の頻 発で 経 済発 展の ため に必 要な 政治 的安 定性 を欠 いた り、 資本 蓄積 や人 口管 理を 等閑 にし たり して きた とい うそ れら の国 自 身の 過誤

・欠 陥が 構造 的貧 困の 原因 だと する 途上 国自 己責 任論 から の批 判が ある

。ポ ッゲ は、 途上 国の 国内 的要 因 が経 済発 展に 影響 を与 える とい う事 実か ら、 グロ ーバ ルな 政治 経済 秩序 が途 上国 に対 して もつ 不利 な影 響力 を全 面

(9)

否定 する 論法 を﹁ 説明 的ナ ショ ナリ ズム

e xp la na to ry na ti on al is m

﹂と 呼ん で、 それ が論 理的 飛躍 の誤 謬を 犯し て いる こと を一 般的 に指 摘し た上 で

さら に、 経済 的失 敗の 原

Pogge 2008: 17 -1 8, 11 8-122 ,14 5-1 51 et passim

因た る途 上国 の政 治的 失敗 の更 なる 深層 の原 因と して

、途 上国 の軍 事政 権を 支援 した り、 その 正統 性を 承認 する 先 進諸 国の 実践 と、 それ を可 能に して いる 国際 法秩 序が ある と再 反論 して いる

。 すな わち

、ポ ッゲ によ れば

、先 進諸 国は

、軍 事的 暴力 によ って 実効 的支 配を 樹立 した 政治 勢力 を途 上国 の正 統な 政府 とし て承 認し

、か かる 支配 者に

、当 該国 の資 源を 海外 に売 却処 分し て受 益す る﹁ 国際 資源 特権

i nt er na ti on al re so ur ce pr iv il eg e

﹂や

、国 民に 付け を回 して 外国 政府 や国 際金 融資 本か ら借 金す る﹁ 国際 借款 特権

i nt er na ti on al bo rr ow in gp ri vi le ge

﹂ を供 与す るこ とに より

、先 進諸 国自 身の 経済 的利 益や 地政 学的 権益 を確 保す る一 方、 途上 国 軍事 政権 に民 主化 勢力 を弾 圧し て私 腹を 肥や すた めの 資源 を提 供し て、 軍事 的暴 力に よる 権力 奪取 のイ ンセ ンテ ィ ヴを 与え 続け てき たの みな らず

、途 上国 で軍 事政 権に 代わ る民 主的 政権 が誕 生し た場 合に も、 前軍 事政 権の 借款 の 付け を民 主的 政権 に負 わせ て、 ただ でさ え弱 いそ の財 政基 盤を さら に弱 体化 させ

、新 たな 軍事 クー デタ に対 して 民 主政 権を 脆弱 化さ せて きた

Pogge 2008: 15 2-1 73 et passim

ポッ ゲの この 議論 は、 制度 的加 害に 注目 する なら ば、 世界 貧困 問題 の解 決と いう 世界 分配 正義 論の 課題 が、 世界 匤正 正義 の問 題と 結合 され るだ けで なく

、国 内体 制の 正統 性の 国際 的承 認条 件の 問題 や、 途上 国に 不利 な国 際政 治 経済 秩序 を是 正す るた めの 制度 改革 構想 の検 討と いう 世界 統治 構造 の問 題と も連 結さ れる こと を示 して いる

。先 進 諸国 によ る制 度的 加害 の事 実を 否定 し、 先進 諸国 の途 上国 貧民 支援 義務 を匡 正正 義上 の責 務と して では なく

、加 害 責任 から 独立 した 分配 正義 上の 責務 とし て、 ある いは 正義 の要 請で はな い単 なる

﹁人 道的 責務

h um an it ar ia n ob li ga ti on

︱︱ 履行 しな い主 体は

﹁不 親切

u nk in d

﹂と みな され ても

﹁不 正︵ un ju st

︶﹂ とは 非難 され ない 責務

︱︱ とみ なす 者も

、国 内体 制の 国際 的正 統性 承認 や世 界統 治構 造の 従来 の在 り方 が、 世界 貧困 問題 に対 して ポッ ゲ

(10)

が指 摘す るよ うな 因果 的寄 与を して いな いこ とを 示す か、 ある いは 因果 的寄 与を して いる にし ても

、そ の寄 与は 匡 正正 義上 の責 務を 先進 諸国 に負 わせ るも ので はな いこ とを 示す 必要 があ る。 いず れに せよ

、上 記の 世界 正義 の問 題 系の

④の 課題 たる 世界 貧困 問題 を②

、③

、⑤ とも 関係 付け て再 検討 する こと が要 請さ れて いる

。 以上

、世 界貧 困問 題に 対す るポ ッゲ の匡 正正 義的 接近 が、 従来 の世 界正 義論 の論 議枠 組に 対し て提 起し てい る二 つの 問題 群を 見た

。彼 の理 論は 活発 な論 議を 喚起 して おり

、彼 に対 する 批判 の多 くは

、先 進諸 国に よる 途上 国貧 民 に対 する 制度 的加 害と いう その

﹁事 実認 定﹂ に向 けら れて いる が、 その 規範 的枠 組自 体に 向け られ た批 判も 少な く ない

。こ こで 触れ た二 つの 問題 群の うち

、第 一の 問題 群は 基本 的に 規範 的枠 組に 関わ り、 第二 の問 題群 は主 とし て 事実 認定 に関 わる

。以 下で は、 規範 的枠 組に 関わ る世 界分 配正 義上 の積 極義 務と 世界 匤正 正義 上の 消極 義務 との 関 係の 問題 をま ず再 考し

、次 いで 事実 認定 に関 わる 制度 的加 害責 任と 国民 的自 己責 任の 関係 の問 題の 再検 討を 試み た い。

二 世界 分配 正義 と世 界匤 正正 義の 交錯

︱ ︱

積極 義務 から 消極 義務 への 重心 移動 の理 論的

・実 践的 意義 ポッ ゲは

、原 理論 とし ては

、ロ ール ズが 国内 的文 脈に 適用 を限 定し た﹁ 公正 とし ての 正義

﹂の 構想 が、 最下 層の 境遇 の最 善化 を求 める 格差 原理

t he di ff er en ce pr in ci pl e も含 めて

、政 治経 済的 相互 依存 が緊 密化 した 現代 世界 全 体に 対し て妥 当す ると いう 基本 的立 場に 立つ が、 この 原理 論的 立場 を共 有し ない 人々 をも 説得 する ため の理 論戦 略 をも 同時 に構 想す るの が彼 の特 色で ある

。以 前は

、世 界総 生産 額の 一パ ーセ ント を暫 定的 な総 税収 目標 とし て、 各 国民 の財

・サ ーヴ ィス の消 費に 対し てそ の資 源消 尽量 に比 例し て国 際的 に課 税し

、税 収を 途上 国貧 窮民

︱ ︱

以下

﹁世 界貧 民 th ew or ld ʼs po or

とい う慣 行的 表現 で略 記す る

の 救済 に充 当す る﹁ 世界 資源 税 Gl ob al Re so ur ce

(11)

Ta x

﹂の 構想 を、 彼が 批判 する 後期 ロー ルズ の﹁ 諸人 民の 法﹂ の理 論の 国際 的社 会契 約モ デル を仮 に前 提に した とし ても なお 正当 化可 能な

、ロ ール ズの 諸人 民の 法よ り平 等主 義的 色彩 の一 層強 い世 界分 配正 義の 具体 化基 準と し て提 唱し てい た Po gg e1 99 4

。 この 時点 で既 に、 この 国際 資源 税構 想は

、リ バタ リア ンの 中で も一 方的 資源 専有 に対 する

﹁ロ ック 的但 し書 き

L oc ke an Pr ov is o

﹂の 制約

︱︱ 浪費 禁止 と﹁ 他者 のた めに 同種 のも のが 十分 残さ れて いる

﹂と いう 条件

︱︱ を現 代 的に 適用 する 立場 によ って も支 持可 能で ある とし てい たが

、そ の後

、リ バタ リア ンを も取 り込 む理 論戦 略を さら に 徹底 させ て、 前述 のよ うな 制度 的加 害是 正論 を提 唱す るに 至っ た。 自己 の他 者に 対す る加 害を 是正 する 匡正 正義 上 の責 務は

、他 者に 対す る責 務を

、他 者の 権利 を侵 害し ない とい う消 極義 務に 限定 する リバ タリ アン も当 然承 認す べ きで あり

、し かも

、ロ ック 的但 し書 きの よう なリ バタ リア ニズ ムの

﹁制 限条 項﹂ では なく

、そ の﹁ 核心 的教 理﹂ が 課す 責務 とし て承 認す べき であ ると いう 判断 が基 底に ある

。 ただ し、 制度 的加 害是 正論 への ポッ ゲの 理論 的発 展は

、単 に哲 学的 支持 層拡 大の 狙い だけ でな く、 先進 諸国 に対 する 世界 貧民 救済 義務 の拘 束力 を強 化す る狙 いに よっ ても 推進 され てい る。 先進 諸国 自ら が加 担す る制 度的 加害 の 被害 者と して の世 界貧 民に 対す る加 害是 正責 任は 消極 義務 であ るが

、そ の発 生・ 存続 に先 進諸 国自 身は 関与 しな い 苦境 から 他者 を救 済す る積 極的 支援 義務 より も、 先進 諸国 にと って の規 範的 比重 は大 きく

、減 免可 能性 は小 さい か らで ある

。積 極的 支援 義務 論に 立て ば、 先進 諸国 は﹁ 世界 貧困 は我 々の せい では ない

﹂と して その

﹁良 心の 呵責

﹂ を軽 減で き、 さら に﹁ 我々 にと って 不当 な重 荷 un du eb ur de n にな らな い限 りで 支援 すれ ばよ い﹂ とし てそ の

﹁財 布の 負担

﹂も 軽減 でき るが

、ま さに それ ゆえ に、 先進 諸国 は世 界貧 民救 済の 大義 に対 し﹁ 口は 軽く 腰は 重い

﹂ とい う姿 勢を とり 続け うる こと にな る。 しか し、 制度 的加 害是 正論 は先 進諸 国に 対し

、世 界貧 民救 済義 務は 自ら の 加害 を是 正す る責 任で ある とし て厳 しい 自己 批判 を迫 ると 同時 に、 責任 履行 のた めの 十全 なコ スト 負担 を厳 格に 要

(12)

求す る

。 他者 に対 する 責務 の承 認の 範囲 に関 して

Pogge 2008: 58 -9 6 Pogge 20 10 a: 1- 56 2008b: 80 -8 1

は、 積極 義務 論の 方が 消極 義務 論よ り﹁ 積極 的﹂ であ るが

、責 務の 規範 的比 重と 責務 遂行 負担 に関 して は消 極義 務 論の 方が 積極 義務 論よ りも

﹁厳 しい 要求 を課 す de ma nd in g

﹂の であ る。 実の とこ ろ、 制度 的加 害是 正論 への 展開 は、 ポッ ゲ理 論の 支持 者を 拡大 する と同 程度 か、 ある いは むし ろそ れ以 上に

、批 判的 反響 をも 高め てい る。 たし かに

、そ の理 論の 規 は、 積極 的支 援義 務を 否定 する リバ タリ アン も受 容可 能な 消極 義務 侵犯 是正 に限 定さ れて いる

。し かし

、規 範的 根拠 につ いて も後 述す るよ うに

、積 極的 支援 義 務論 者か らの 批判 を招 いて いる だけ でな く、 規範 的根 拠の 限定 と引 き換 えに

、先 進諸 国に よる 制度 的加 害を 世界 貧 困の 原因 とみ なす とい う先 進諸 国か らの 反発 の大 きい 主張 をす るこ とに より

、理 論の 事 の論 争化 とい う対 価を 払っ てい る。 それ にも 拘わ らず ポッ ゲが あえ て制 度的 加害 是正 論を 唱え るの は、 支持 範囲 拡大 の狙 いよ りも

、 先進 諸国 に対 する 世界 貧民 救済 義務 の規 範的 拘束 力を 強化 する とい う狙 いの 方が

、彼 のよ り強 い実 践的 動機 をな し てい るか らだ と言 える だろ う。 制度 的加 害是 正論 への 展開 は、 ポッ ゲに おい て、

﹁リ バタ リア ンに も同 意さ せる

﹂ とい う理 論戦 略的 意図 によ る以 上に

、﹁ リバ タリ アン では ない 先進 諸国 民に も、 世界 貧民 救済 義務 をよ り真 剣に 引 き受 けさ せる

﹂と いう 倫理 的意 図に 根差 して いる

。制 度的 加害 是正 論の 主た る名 宛人 はリ バタ リア ンよ りも むし ろ、 リバ タリ アニ ズム を斥 け積 極的 支援 義務 を承 認す るが

、積 極的 支援 義務 より も規 範的 比重 と負 担が 一層 重い 加 害是 正責 任と いう 消極 義務 の問 題と して 世界 貧民 救済 義務 を捉 える こと を拒 否す る先 進諸 国の 人々 であ る。 この よう な消 極義 務を 重視 する ポッ ゲの 立場 に対 して は、 積極 義務 を重 視す る立 場か ら様 々な 批判 がな され てい る。 制度 的加 害の 事実 の立 証を めぐ る批 判は 次節 で扱 い、 ここ では 規範 理論 的批 判を 検討 する

。こ れに は大 きく 言 って 次の 二つ のタ イプ があ る。 第一 の批 判類 型は

、先 進諸 国に よる 制度 的加 害と いう 事実 の立 証困 難性 は別 とし て も、 消極 的義 務論 は、 制度 的加 害の 事実 がな けれ ば先 進諸 国は 世界 貧民 を救 済す る責 務を 負わ ない とい う含 意を も

(13)

つ点 で、 加害 事実 の有 無に 関わ りな く世 界貧 民救 済義 務を 先進 諸国 に課 す積 極義 務論 より も、 世界 貧民 の窮 状に 対 する 道徳 的配 慮が 不足 して いる とす る。 簡単 に、 不足 説と 呼ん でお こう

C am pb el l2 00 7 C ha nd ho ke 20 10

。第 二の 批判 類型 は、 制 度的 加害 の概 念に 依拠 する 消極 義務 論は 積極 義務 を前 提せ ずに は成 立し えず

、積 極義 務論 から 真に 独立 した 議論 で はあ りえ ない と主 張す る。 これ を依 存説 と呼 んで おこ う

Ta n2 01 0

。以 下、 この 二つ の批 判 類型 を検 討し たい

消極 義務 論は 世界 貧民 への 道徳 的配 慮に 消極 的か

道徳 的最 小限 主義 が包 含す る道 徳的 最大 限 不足 説は 二つ の問 題を 孕む

。第 一は

、道 徳的 最小 限主 義 mo ra lm in im al is m と呼 ぶべ きポ ッゲ の理 論戦 略に つ いて の誤 解で ある

。世 界貧 民救 済義 務の 道徳 的前 提を

﹁最 小限 化﹂ して

、哲 学的 支持 範囲 を拡 大す るた めに

、制 度 的加 害是 正論 を説 くポ ッゲ のよ うな 立場 を公 正に 評価 する には

、道 徳的 最小 限主 義の 二つ の形 態を 峻別 する 必要 が ある

。一 つは

﹁消 極義 務し ない

W eh av eo nl yn eg at iv ed ut ie s.

と する 排除 的最 小限 主義

e xc lu si ve mi ni ma li sm

であ り、 もう 一つ は﹁ 少 消極 義務 はあ る We ha ve at le as tn eg at iv ed ut ie s.

とす る開 放的 最小 限主 義

o pe nm in im al is m

( )

ある

。消 極義 務に つい ての 排除 的最 小限 主義 はリ バタ リア ニズ ムの 立場 から しか 承認 でき な

4

いが

、開 放的 最小 限主 義は 積極 義務 論者 もリ バタ リア ンも とも に承 認で きる し、 すべ きで ある

。積 極義 務論 者も

、 他者 を加 害し ない とい う消 極義 務を 我々 が負 うこ とを 否定 でき ず、 それ に反 した 場合 は加 害是 正責 任を 積極 義務 に 負う こと を承 認し なけ れば なら ない

。ポ ッゲ は自 己の 議論 の哲 学的 支持 範囲 をリ バタ リア ンに 限 する ため では なく

、リ バタ リア ンに も拡 する ため に、 世界 貧民 救済 責務 が消 極義 務の 要請 とし ても 正当 化可 能で ある こと

(14)

を主 張し てい るわ けだ から

、彼 は開 放的 最小 限主 義に 立つ と解 すべ きで ある し、 また

、彼 自身

、消 極義 務だ けで な く積 極義 務を 先進 諸国 が世 界貧 民救 済に 関し て負 うこ とを 明言 して いる

Pogge 2007 Pogge 20 10b: 19 6, 200

不足 説の 批判 は排 除的 最小 限主 義に は妥 当し たと して も、 ポッ ゲの よう な開 放的 最小 限主 義に は妥 当し ない

。 ただ し、 ポッ ゲは

、積 極義 務の 執行 可能 性を 消極 義務 の場 合よ り弱 めて いる

。彼 によ れば

、制 度的 加害 は人 権侵 害で ある のに 対し

、積 極義 務は

﹁人 権が 含 厳格 な道 徳的 義務

s tr in ge nt mo ra ld ut ie s, en ta il ed by hu ma n ri gh ts

﹂ では あっ ても

、そ の不 履行 がそ のま ま人 権侵 害と なる

﹁人 権に 相

c or re la ti ve to th eh um an ri gh t 義 務﹂ では ない

。こ の区 別は

、﹁ いか なる 人権 侵害 も原

、実 力に よっ て防 止し てよ い an yh um an ri gh ts vi ol at io n ma yi np ri nc ip le be pr ev en te db yf or ce

﹂ とい う前 提に 依存 して いる

。こ の前 提の 下で

、さ らに

、消 極義 務侵 犯は 侵 犯者 自身 によ る他 者へ の加 害で ある ため 実力 によ って 防止 され てよ いが

、積 極義 務は 加害 者で はな くて も負 う他 者 救済 義務 であ るた め実 力的 履行 強制 はで きな いと いう 一般 的信 念に 従う なら

、積 極義 務不 履行 は人 権侵 害で はな い こと にな る

調

Pogge 2007: 19-2 0

積極 義務 の実 力的 執行 可能 性を 承認 する 立場

︱︱ ポッ ゲは 貧者 救済 のた めに 富者 から の窃 盗を 是認 する ピー タ ー・ アン ガー の議 論を 例と して 挙げ てい る Lo c. ci t.

︱か らす れば

、ポ ッゲ の立 場は 積極 義務 を否 認し ない に して も希 薄化 させ るも のと して 批判 対象 とな るだ ろう

。も っと も積 極義 務の 実力 的執 行可 能性 につ いて は異 論も 多 く、 この 点で はポ ッゲ の立 場を 支持 する 者の 方が 多い かも しれ ない

。し かし

、こ の点 は別 とし ても

、積 極義 務の 不 履行 は人 権侵 害で はな いと いう 彼の 主張 は﹁ 人権 侵害

﹂の 概念 を不 必要 に狭 隘化 させ

、結 果的 に、 積極 義務 も﹁ 人 権が 含意 する 厳格 な道 徳的 義務

﹂で ある とい う彼 の主 張は

、積 極義 務に リッ プ・ サー ヴィ ス以 上の もの を払 って い ない とい う印 象を 生ん でし まう

。 問題 は、 人権 侵害 は実 力に よる 阻止 可能 性を 含意 する とい う彼 の前 提に ある

。実 力 fo rc e の概 念が 多義 的で あ

(15)

るた め、 この 前提 は一 般的 には 否定 も肯 定も し難 いが

、実 力が 武力 行使 など 暴力 的手 段を 意味 する なら

、こ れは

﹁あ らゆ る人 権侵 害に 対し て原 理上 許さ れる

﹂と いう より

、﹁ 他に 手段 がな く、 かつ 実効 性・ 比例 性・ 公正 性が 確保 され る例 外的 な場 合に のみ 許容 され る﹂ と言 うべ きで あろ う。 さら に、 ポッ ゲが 問題 にす る制 度的 加害 につ いて も、

﹁加 害者

﹂た る先 進諸 国に 対し て暴 力的 手段 によ る加 害是 正強 制が 許さ れる とま では ポッ ゲも 主張 して いな い こと を考 える なら

、こ の前 提に 言う 実力 をこ のよ うに 強く 解す る場 合に は、 制度 的加 害す ら人 権侵 害と は言 えな い こと にな って しま いそ うで ある

。他 方、 実力 行使 が、 先進 諸国 政府 に対 する 抗議

・要 請の ため の市 民の 示威 行動

、 対途 上国 人権 レコ ード が特 に悪 い先 進国 政府 に対 する 他の 政府 の経 済的 利便 提供 拒否 や懲 罰的 関税 など の比 較的 穏 便な 対抗 措置 を意 味す るな ら、 この よう な実 力行 使は 制度 的加 害に 対し てだ けで なく

、積 極義 務不 履行 に対 して も 適用 可能 と考 えう るか ら、 積極 義務 不履 行を 人権 侵害 でな いと 主張 する 理由 はな くな るだ ろう

。い ずれ にせ よ、 人 権侵 害の 存否 の問 題と

、人 権侵 害是 正の ため の適 切な 手段 の問 題と は区 別さ るべ きで あり

、実 力的 手段 によ る履 行 強制 の不 適切 性を 理由 に積 極義 務不 履行 の人 権侵 害性 を否 定す るこ とは でき ない

。ポ ッゲ の主 張の この 部分 は議 論 の無 用の 混乱 を招 くも のと して

、ま た彼 の立 場を 擁護 する 上で 不要 な夾 雑物 とし て除 去さ れる べき であ る。

積極 義務 論の 実質 的消 極性 不足 説の 第二 の問 題は

、積 極義 務論 が、 世界 貧民 に対 する 道徳 的配 慮を 先進 諸国 によ る加 害の 事実 に依 存さ せな いと いう まさ にそ のこ とに よっ て、 先進 諸国 にと って の世 界貧 民救 済責 務の 規範 的な 比重 と負 荷を 軽減 させ てい る から こそ

、そ れを 強化 する ため にポ ッゲ が消 極義 務論 を展 開す るに 至っ たと いう 上述 の事 情を 無視 ない し軽 視し て いる こと であ る。 積極 義務 論は 頻々 と説 かれ なが ら、 世界 貧困 問題 の解 決に 先進 諸国 民を 真剣 に向 かわ せる こと に 成功 しな かっ たが

、こ れは

、積 極義 務論 の規 範的 主張 が﹁ 現実

﹂に よっ て無 視さ れた こと によ るだ けで なく

、そ れ

参照

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