欺瞞 の罠 かか る制 度的 加害 事実 に関 する 実質 的議 論に おい て警 戒す る必 要の ある 点が 一つ ある
。我 々が どの 立場 に立 つに
せよ
、自 己の 想定 に異 議を 唱え る人 々に 立証 責任 を転 嫁し たり
、あ るい は我 々自 身の 立証 責任 を軽 減し なが ら我 々 の批 判者 のそ れを 加重 した りす るこ とに よっ て、 自己 の想 定を 固守 しよ うと する 誘惑 に我 々は 抗す べき であ る。 こ れは 道徳 的か つ知 的な 廉直 性︵ in te gr it y︶ の要 請で ある
。我 々の 想定 が、 我々 が受 益す る立 場に ある 現状 を擁 護し てい るか
、か かる 現状 変更 の必 要を 最小 化し てい ると きに は、 特に そう であ る。 知識 人も 含め て富 裕諸 国の 人々 は、 世界 正義 に関 する 論議 にお いて この よう な誘 惑に 乗り やす いこ とを 自覚 しな けれ ばな らな い。 この 関連 で、 現在 の制 度的 加害 と並 んで 重要 な過 去の 制度 的加 害の 問題 たる 植民 地主 義の 遺産 に関 する ミラ ーの 次の 言明 は、 反面 教師 的言 説と して 注目 に値 する
。﹁ 植民 地主 義に 関し て言 えば
、そ れが 植民 地化 され た人 民に 様々 な仕 方で 不正 な害 を加 えた とい うこ とだ けで なく
、植 民地 だっ た社 会の 発展 に対 する その 全般 的効 果が マイ ナ スで あっ たこ とを 示﹅ す﹅ 必﹅ 要﹅ が﹅ あ﹅ る﹅ だろ う。 多く の旧 植民 地社 会が 経済 的成 功列 伝に 含ま れる こと を考 えれ ば、
﹇中 略﹈ これ は達 成す るの が困 難な 課題 だろ う﹂
︵
、強 調は 引用 者に よる
︶。 ここ で示 唆さ れた あか らさ ま
Mill er 2007: 25 1
な植 民地 主義 的パ ター ナリ ズム が、 ミラ ーが 擁護 する ナシ ョナ リズ ムの 精神 とい かに して 両立 しう るの かを まず 問 い質 した いと ころ だが
、こ の問 題に つい ては 一切 触れ ない とし ても
、こ の言 明は 次の 諸点 で重 大な 問題 を孕 む。 第一 に、 立証 責任 が、 植民 地支 配は 植民 地化 され た社 会に とっ て全 般的 に有 益だ った と主 張す る植 民地 主義 者か ら、 植民 地支 配と その 遺産 を害 悪と して 批判 する 反植 民地 主義 者に 転嫁 され てい る。 植民 地支 配は
、十 分な 反証 が 提供 され えな い限 り、 植民 地化 され た社 会に 全般 的に 有益 であ った と推﹅ 定﹅ さ﹅ れ﹅ る﹅ べき こと をミ ラー は要 請し てい る。 植民 地支 配の 是非 につ いて 議論 があ りう るこ とを 仮﹅ に﹅ 認め たと して も、 植民 地支 配の 有益 性が 推定 さる べき で、 批判 者の 側に 反証 責任 があ ると する 見解 の不 当性 は議 論の 余地 がな い。 第二 に、 反植 民地 主義 者の 立証 責任 が、 植民 地支 配の 害悪 を証 明す るだ けで なく
、そ の害 悪を 相殺 し、 かつ それ を上 回る だけ の便 益が 存﹅ 在﹅ し﹅ な﹅ い﹅ こと を証 明し なけ れば なら ない とい う程 度に まで 加重 され てい る。 要求 され た立
証は
﹁困 難な 課題 だろ う﹂ とミ ラー はす まし て言 うが
、こ れは 単に
﹁困 難な 課題
﹂で ある だけ でな く、 不﹅ 可﹅ 能﹅ な﹅ 課 題で ある
。な ぜな ら、 何か の不 存在 を立 証す るの は、 論理 的に 不可 能な
﹁悪 魔の 証明
︵p ro ba ti od ia bo li ca
﹂︶ だか ら であ る。 第三 に、 要求 され た立 証の 道徳 的前 提が 不当 であ る。 植民 地支 配が
﹁植 民地 化さ れた 人々 に様 々な 仕方 で不 正な 害を 与え た﹂ こと を認 める なら
、そ れだ けで
、制 度的 加害 責任 は発 生し てお り、 仮に それ が、 ミラ ーが 主張 する よ うに
、同 時に 植民 地化 され た国 民に 利益 も与 えた とし ても
、そ の国 民の 意に 反し た支 配が 随伴 した 利益 によ って か かる 不正 な支 配の 加害 責任 を帳 消し にで きる わけ では ない
。さ らに
、か かる 随伴 利益 を実 現し た旧 植民 地が 多く 存 在す ると いう 推定 から
、か かる 利益 を実 現で きず に貧 困状 態に 留ま る旧 植民 地に つい ても
、そ の現 在の 不遇 をも っ ぱら 後者 の自 己責 任と みな し、 植民 地支 配の 加害 責任 が相 殺で きる とミ ラー は想 定し てい るよ うだ が、 この 想定 は さら に不 当で ある
。 以上 のこ とは 次の 類比 によ り明 らか にな るだ ろう
。A がB を強 制的 に自 己の 奴隷 にし
、A のた めに Bを 労働 させ 搾取 した が、 Bが この 強制 労働 を通 じて 一定 の技 能を 身に つけ
、A の支 配か ら脱 出し てそ の技 能を B自 身の 利益 の ため に行 使で きた とし ても
、そ れを 理由 にA のB に対 する 加害 責任 が帳 消し にで きる わけ では ない
。こ の加 害責 任 を償 うに は、 奴隷 化が 随伴 する 利益 とは 別途 の賠 償を Aは Bに 対し て行 う必 要が ある
。さ らに
、A がB だけ でな く、 Cも 同様 に奴 隷化 し、 同様 な強 制労 働を 課し たが
、C がB ほど には 技能 習得 でき ず、 むし ろ奴 隷的 収奪 によ る 疲弊 のた めに
、奴 隷状 態脱 出後 も、 Bの よう に自 己の 境遇 を改 善で きな かっ た場 合、 Bが 奴隷 状態 で習 得し た技 能 によ り脱 奴隷 化後 自己 の境 遇を 改善 でき たこ とを 理由 に、 Cが 脱奴 隷化 後自 己の 境遇 を改 善で きな かっ たの はC の 自己 責任 だと して
、A の加 害責 任を 否定 する こと もで きな い。 奴隷 に能 力向 上機 会を 与え さえ すれ ば、 奴隷 に加 え られ た害 悪に 対す る奴 隷主 の加 害責 任は 相殺 され ると いう 主張 が道 徳的 に不 当な ら、 植民 地化 され た国 民に 経済 発
展能 力向 上機 会を 与え さえ すれ ば、 植民 地化 によ り彼 らに 加え た害 悪に 対す る宗 主国 の加 害責 任が 相殺 され ると い う主 張も 道徳 的に 不当 であ る。 第四 に、 富裕 諸国 によ る過 去の 植民 地支 配が 旧植 民地 の経 済発 展に 与え た有 利な 影響 を喜 んで 強調 する ミラ ーの 姿勢 は、 富裕 諸国 が貧 窮諸 国に 押し 付け てい る現 在の 世界 秩序 が貧 窮諸 国に 与え てい る不 利な 影響 を重 視す るこ と には 消極 的な 彼の 姿勢 と、 困惑 させ るほ ど著 しい 対照 を示 して いる
。例 えば
、彼 の言 う﹁ 経済 的成 功伝
﹂の 一つ
、 現在 のイ ンド につ いて
、そ の近 年の 著し い経 済発 展が 英国 の植 民地 支配 のお かげ であ ると いう 主張 には 躊躇 なく 賛 同し なが ら、 独立 後長 く続 いた イン ドの 貧窮 と、 経済 発展 が進 む現 在も 取り 残さ れて いる 膨大 な数 のイ ンド 貧困 層 の悲 惨な 境遇 に対 して
、英 国の 植民 地支 配の 負の 遺産 に加 えて 現在 のグ ロー バル な政 治経 済制 度が 加害 的影 響を 与 えて いる とい う主 張に は懐 疑的 距離 をと ると いう
、非 対称 な﹁ 事実 認識
﹂に ミラ ーが コミ ット して いる こと を彼 の 上記 言明 は示 唆し てい るが
、こ れは 英国 を含 む先 進諸 国の 自己 正当 化欲 求に よる 不公 正な 認知 的偏 向で ある と言 わ ざる をえ ない
。世 界貧 民に 対す る世 界秩 序の 加害 的影 響に 関す る事 実的 主張 が論 争的 だと した ら、 旧植 民地 社会 の 現在 の経 済発 展に 対す る植 民地 支配 の遺 産の 有利 な影 響に 関す る事 実的 主張 も、 少な くと も同 程度 に論 争的 であ り、 前者 を確 証さ れて いな いと して 斥け なが ら、 後者 をあ たか も確 証さ れた かの よう に断 定す るこ とは でき ない
。
﹁陽 の沈 む所 なき 大英 帝国
﹂と して
、か つて 世界 の広 大な 地域 を植 民地 化し た英 国の 知的 中心 たる オッ クス フォ ード 大学 の教 授で ある ミラ ーが
、現 在、 ここ に見 たよ うな 露骨 に不 公正 な立 証責 任の 操作 によ って 植民 地主 義の 全 般的 有益 性を 推断 する 言明 を平 然と なし うる とい う事 実は
、世 界正 義の 問題 に関 して 先進 諸国 知識 人が 陥り やす い 自己 欺瞞 を象 徴す るも のと して 銘記 され てよ い。